和名類聚抄巻第一
天地部第一 人倫部第二
天地部第一
景宿類一 風雨類二 神霊類三〈天神、地神有り、故、此の部に取る〉 水土類四 山石類五 田野類六
景宿類一〈宿、音は秀、夜宿の処、息逐反〉
日 造天地経に云はく、仏は宝応菩薩をして日を造らしむといふ。
陽烏 歴天記に云はく、日の中に三足の烏有りて赤色なりといふ。〈今案ふるに文選に之れを陽烏と謂ひ、日本紀に之れを頭八咫烏なりと謂ひ、田氏私記に夜太加良須(やたがらす)と云ふ〉
月 造天地経に云はく、仏は吉祥菩薩をして月を造らしむといふ。
弦月 劉煕釈名に云はく、弦〈此の間に由美波理(ゆみはり)と云ふ。上弦、下弦有り〉は月の半の名なり。其の形、一(ある)旁(かたはら)は曲り、一旁は直(ただ)して、弓を張るが若きなるを言へり。
望月 釈名に云はく、望〈此の間に望月は毛知豆岐(もちづき)と云ふ〉は月の大きなるは十六日、小さきなるは十五日、日は東に在りて月は西に在り、遥かに相望(み)つるなりといふ。
暈 郭知玄切韻に云はく、暈〈音は運、此の間に日月の暈は加佐(かさ)と云ひ、弁色立成に月院と云ふ〉は気の日月を繞れるなりといふ。
蝕 釈名に云はく、日月の虧くるを蝕〈音は食〉と曰ひ、稍(やや)小しく浸(こ)み虧くるは虫の草木の葉を食ふが如し、故、字は虫と食とに従ふなりといふ。
星 説文に云はく、星〈桑経反、保之(ほし)〉は万物の精、上(あが)りて生(あ)れるなりといふ。
明星 兼名苑に云はく、歳星は一名(あるな)に明星といふ。〈此の間に一名を阿賀保之(あかぼし)と云ふ〉
長庚 兼名苑に云はく、大白星、一名に長庚といふ〈此の間に由布都々(ゆふづゝ)と云ふ〉。暮に西方に見ゆるを長庚と為(す)るのみ。
牽牛 爾雅に云はく、牽牛は一名に阿皷といふ。〈和名は比古保之(ひこぼし)、一に以奴賀比保之(いぬかひぼし)と云ふ〉
織女 兼名苑注に云はく、織女〈和名は多奈波太豆女(たなばたつめ)〉は牽牛の匹(つれあひ)なりといふ。
流星 兼名苑注に云はく、流星は一名に奔星といふ。〈和名は与波比保之(よばひぼし)〉
彗星 兼名苑に彗星〈彗の音は遂、一音に歳、和名は波々岐保之(はゝきぼし)〉と云ふ。其の形、箒篲の如きなるに言へり。
昴星 宿耀経に云はく、昴〈音は卯と同じ、和名は須波流(すばる)〉は六星の火の神なりといふ。
天河 兼名苑に云はく、天河は一名に天漢といふ。〈今案ふるに、又、一名に漢河、又、一名に銀河なり。和名は阿麻乃加波(あまのがは)〉
風雨類二
風 春秋元命苞に云はく、陰陽怒(いか)りて風と為るといふ。
飈 文選詩に云はく、廻飈、高樹を巻くといふ〈飈の音は炎、和名は豆無之加世(つむじかぜ)〉。兼名苑注に云はく、飈は暴風の下(しも)よりして上(のぼ)るなりといふ。
嵐 孫愐切韻に云はく、嵐〈盧含反、和名は阿良之(あらし)〉は山の下に出づる風なりといふ。
暴風 史記に暴風雷雨と云ふ。〈漢語抄に云はく、暴風は波夜知(はやち)、又、能和岐乃加勢(のわきのかぜ)といふ〉
大風 漢書に云はく、大風吹きて雲飛揚すといふ。〈大風は此の間に於保賀勢(おほかぜ)と云ふ〉
微風 崔豹古今注に云はく、柳は微風に大きに揺るといふ。〈微風は此の間に古賀世(こかぜ)と云ふ〉
雲 説文に云はく、雲〈王分反、和名は久毛(くも)〉は山川の出づる気なりといふ。
霞 唐韻に云はく、霞〈胡加反、和名は加須美(かすみ)〉は赤き気の雲なりといふ。
霧 爾雅に云はく、地の気、天に上るを霧と曰ふといふ〈亡遇反、務と同じ、和名は岐利(きり)。今案ふるに、又、水の気なり。老子経に、天に在りて霧と為り、地に在りて泉源と為ると云ふは是なり〉。兼名苑に云はく、一名に雺〈音は蒙〉、一名に雰〈音は分〉、水の気の樹木に着くを雰と為るなりといふ。
虹 毛詩注に云はく、螮蝀〈帝董の二音、螮は亦、蝃に作る。和名は邇之(にじ)〉は虹なりといふ。兼名苑に云はく、虹は一名に蜺〈五稽反、鯢と同じ。今案ふるに雄を虹と曰ひ、雌を蜺と曰ふなり〉といふ。
雨 説文に云はく、雨〈音は禹、阿女(あめ)〉は水の雲の中より下るなりといふ。
霡霂 兼名苑に云はく、細雨、一名に霡霂といふ。〈小雨なり、麦木の二音〈已上は本註〉。和名は古散女(こさめ)〉
霖 兼名苑に云はく、霖〈音は林、和名は奈加阿女(ながあめ)。今案ふるに一名に連雨、一名に苦雨〉は、三日以上の雨なりといふ。爾雅注に云はく、霖は一名に𩆍〈音は淫〉、久しき雨なりといふ。
霈 文字集略に云はく、霈〈音は沛〉は大雨なりといふ。日本紀私記に云はく、大雨〈比佐女(ひさめ)〉は雨氷〈上に同じ。今案ふるに俗に比布留(ひふる)と云ふ〉といふ。
暴雨 楊氏漢語抄に云はく、白雨〈和名は無良佐女(むらさめ)、弁色立成の説に同じ〉は暴雨の一種なりといふ。
霤〈潦等付〉 説文に云はく、霤〈音は溜と同じ、和名は阿末之太利(あましだり)〉は屋の簷前(のきさき)の雨水、流れ下るなりといふ。唐韻に云はく、潦〈音は老、和名は爾波太豆美(にはたづみ)〉は雨水なりといふ。淮南子注に云はく、沫雨〈和名は宇太賀太(うたかた)〉は潦の上に雨ふり沫起りて盆を覆すが若きなりといふ。
𩅧雨 孫愐に曰はく、𩅧雨〈音は終と同じ。漢語抄に之久礼(しぐれ)と云ふ〉は小雨なりといふ。
霜〈𩅀付〉 陸詞に曰はく、霜〈音は蒼、和名は之毛(しも)〉は凝る露なりといふ。説文に云はく、𩅀〈丁念反、和名は波豆之毛(はつしも)〉は早霜なりといふ。
雪 陸詞に曰はく、雪〈音は切、字は亦、䨮に作る、和名は由岐(ゆき)。日本紀私記に沫雪なりと云ふは阿和由岐(あわゆき)、其れ弱く水の沫の如し、故、之れを謂ふ〉は冬の雨なりといふ。五経通義に云はく、陽(あたたか)なるときは則ち散じて雨水と為り、寒きときは則ち凝りて霜雪と為る、皆、地よりして昇る者なりといふ。
雹 陸詞に云はく、雹〈蒲角反、和名は阿良礼(あられ)〉は雨氷なりといふ。
霰 爾雅注に云はく、霰〈七見反、字は亦、𩆵に作る。和名は美曽礼(みぞれ)〉は氷雪の雑りて下るなりといふ。
露〈甘露付〉 三礼義宗に云はく、白露は八月の節、寒露は九月の節といふ〈露の音は路、和名は豆由(つゆ)〉。白虎通に云はく、甘露は美(うるは)しき露なり、降(くだ)らば則ち物として美しき盛りならざること無しといふ。
神霊類三
天神 周易に云はく、天神は神〈食隣反、和名は賀美(かみ)。日本紀私記に安末豆夜之路(あまつやしろ)と云ふ〉と曰ふといふ。
地神 周易に云はく、地神は祗〈巨支反、日本紀私記に久邇豆夜之路(くにつやしろ)と云ふ〉と曰ふといふ。
人神 周易に云はく、人神は鬼と曰ふといふ〈居偉反、於邇(おに)。或説に、和名の於邇(おに)は隠奇の訛れるなり、鬼物は隠れて形を顕すことを欲せず、故、以て称するなりと云ふ〉。唐韻に云はく、呉人は鬼と曰ひ、越人は𩴆〈音は蟻、一音に祈〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、鬼は人の死にし神魂なりといふ。
霊 四声字苑に云はく、霊〈郎丁反、日本紀私記に美太万(みたま)と云ひ、一に美加介(みかげ)と云ふ。又、魂魄の二字を用ゐる〉は神と通ふなりといふ。
天一神 百忌経に云はく、天一神〈和名は奈加々美(なかがみ)〉は天女の化身なりといふ。
太白神 新撰陰陽書に太白神〈和名は比度比米久利(ひとひめぐり)〉と云ふ。
雷公〈霹靂電付〉 兼名苑に云はく、雷公は一名に雷師といふ〈雷の音は力廻反、和名は奈流加美(なるかみ)。一に以加豆知(いかづち)と云ふ〉。釈名に云はく、霹靂〈辟歴の二音、和名は加美度岐(かみとき)〉は霹析なり、靂は歴なり、歴とする所は皆破り析(さ)くなりといふ。玉篇に云はく、電〈音は甸、和名は以奈比加利(いなびかり)。一に以奈豆流比(いなつるび)と云ひ、又、以奈豆末(いなづま)と云ふ〉は雷の光なりといふ。
山神 内典に山神〈和名は山乃賀美(やまのかみ)〉と云ふ。日本紀私記に山祇〈師説に夜万豆美(やまつみ)〉と云ふ。
海神 文選海賦に云はく、海童は是に於て宴語すといふ〈海童は即ち海神なり〉。日本紀私記に海神〈和名は和太豆美(わたつみ)〉と云ふ。
河伯神 兼名苑に云はく、河伯は一名に水伯といふ。〈河の神なり〈已上は本注〉、和名は加波乃賀美(かはのかみ)〉
土公 董仲舒書に云はく、土公は春の三月は竈に在り、夏の三月は門に在り、秋の三月は井に在り、冬の三月は庭に在りといふ。
産霊 日本紀私記に産霊〈無須比乃加美(むすひのかみ)〉云ふ。
道祖 風俗通に云はく、共工氏の子、遠遊を好む。故に其の死後祀りて以て祖神と為といふ。〈漢語抄に道祖は佐閉乃賀美(さへのかみ)と云ふ〉
岐神 日本紀私記に岐神〈布奈斗乃賀美(ふなとのかみ)〉と云ふ。
道神 唐韻に云はく、禓〈音は楊、一音に傷、漢語抄に多無介乃賀美(たむけのかみ)と云ふ〉は道上の祭といふ。一に道の神なりと曰ふ。
保食神 日本紀私記に云はく、保食神〈宇介毛知乃賀美(うけもちのかみ)〉は、師説に保は猶ほ保持のごときなり、宇気は食の義なりといふ。是れ食物を保持するの神なるを言へり。
稲魂 同私記に稲魂〈宇介乃美太万(うけのみたま)、俗に宇加乃美多麻(うかのみたま)と云ふ〉と云ふ。
幸魂 同私記に幸魂〈佐枳美太万(さきみたま)、俗に佐岐太万(さきたま)と云ふ〉と云ふ。
現人神 同私記に現人神〈阿良比度加美(あらひとがみ)〉と云ふ。
邪鬼 同私記に邪鬼〈阿之岐毛乃(あしきもの)〉と云ふ。
窮鬼 遊仙窟に窮鬼〈師説に伊岐須多麻(いきすだま)〉と云ふ。
魔鬼 内典に邪魔外道〈魔の音は磨、此の間に音は麻〉と云ふ。
瘧鬼 蔡邕独断に云はく、昔、顓頊に三子有り、亡き去りて疫鬼と為り、其の一(ひとり)は江水に居り、是れを瘧鬼〈和名は衣夜美乃於邇(えやみのおに)〉と為といふ。
樹神 内典に、樹神〈和名は古太万(こだま)〉と云ふ。文選蕪城賦に云はく、木魅は山鬼といふ。〈魅は下文に見ゆ。今案ふるに木魅は即ち樹神なり〉
水神 左伝注に云はく、魍魎〈罔両の二音。日本紀私記に水神は美豆波(みつは)と云ふ〉は水の神なりといふ。
魑魅 山海経注に云はく、魑〈音は知、和名は須多麻(すだま)〉は鬼の類なりといふ。唐韻に云はく、魑魅なりといふ。玉篇に云はく、魅〈音は未〉は老物の精なりといふ。
醜女 日本紀私記に云はく、醜女〈志古米(しこめ)〉は或説に黄泉の鬼なりといふ。今、世の人、恐(かしこ)みて小児の称(たたへ)〈許々女(こゞめ)〉と為るは此の語の訛れるなり。
天探女 同私記に天探女〈阿万乃佐久米(あまのさぐめ)、俗に阿万佐久女(あまさぐめ)と云ふは訛れるなり〉と云ふ。
水土類四
水波 釈名に云はく、風、水を吹きて波の文を成すを漣〈音は連、和名は奈美(なみ)。又、波、浪、濤、瀾、漪等の字を用ゐる〉と曰ひ、波体は転びて相連なり及(し)くなりといふ。
泊湘 唐韻に云はく、泊湘〈白相の二音、文選師説に佐々良奈美(ささらなみ)〉は浅き水の貌(かたち)なりといふ。
氷 四声字苑に云はく、氷〈筆凌反、和名は比(ひ)。一に古保利(こほり)と云ふ〉は水寒くして凍り結(むすぼほ)るなり、凍〈音は東、又、去声〉るは寒き水の氷に結るなりといふ。
潮 四声字苑に云はく、潮〈直遥反、字は亦、淖に作る、和名は宇之保(うしほ)〉は海の水、朝夕に来り去りて波の涌くなりといふ。
江 唐韻に云はく、江〈古双反、和名は衣(え)〉は江海なりといふ。
海 四声字苑に云はく、海〈音は改、和名は宇美(うみ)〉は百川の帰(よ)する所なりといふ。日本紀私記に云はく、溟渤〈冥勃の二音、於保岐宇美(おほきうみ)〉、滄溟〈滄の音は蒼、阿乎宇美波良(あをうみはら)〉といふ。
湖 広雅に云はく、湖〈音は胡、和名は美豆宇美(みづうみ)〉は大池なりといふ。
池〈楲付〉 玉篇に云はく、池〈直離反、和名は以介(いけ)〉は水を蓄ふるなりといふ。淮南子に云はく、塘(つつみ)を决(さく)りて楲〈音は威、和名は伊比(いひ)〉を発(ひら)くといふ。許慎曰はく、楲は陂の竇(あな)を通す所以なりといふ。
沼 唐韻に云はく、沼〈之少反、和名は奴(ぬ)〉は池沼なりといふ。
陂堤 礼記注に云はく、水を蓄ふるを陂〈音は碑、和名は豆々美(つつみ)、下(しも)同じ〉と曰ふといふ。纂要に云はく、土を築き水を遏(と)むるを塘〈音は唐〉と曰ひ、亦、之れを堤〈音は低、字は亦、隄に作る〉と謂ふといふ。
堰埭 唐韻に云はく、堰〈音は偃、和名は井世岐(ゐせき)〉は水を壅ぐなり、埭〈徒耐反、代と同じ〉は土を以て水を遏むるなりといふ。
川 爾雅に云はく、衆流の海に注ぐを川〈昌縁反、和名は加波(かは)、又、河の字を用ゐる〉と曰ふといふ。
潭 唐韻に云はく、潭〈徒含反、和名は布知(ふち)、亦、渕の字を用ゐる〉は深き水なりといふ。
瀬 唐韻に云はく、湍〈他端反、一音に専、和名は世(せ)〉は急瀬なりといふ。説文に云はく、瀬〈音は頼〉は水の砂上に流るるなりといふ。
瀧 唐韻に云はく、南人、湍を名けて瀧〈呂江反、和名は太岐(たき)〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、飛泉は一名に飛湍といふ〈曝布なり〉。遊名山志に云はく、城門山は両巌の間に水有り、形は曝布の如しといふ。
温泉〈流黄付〉 宜都山川記に云はく、佷山県に温泉〈一に湯泉と云ふ。和名は由(ゆ)〉有り、百疾、久疾、此の水に入らば多く愈ゆといふ。本草疏に云はく、石流黄〈和名は由乃阿和(ゆのあわ)、俗に由王(ゆわう)と云ふ〉は礬石液なりといふ。又、石流黄は蓋し流黄の類なりと有り。
井〈桔槹付〉 四声字苑に云はく、井〈子郢反、和名は為(ゐ)〉は地を鑿(ほ)りて泉を取るなりといふ。弁色立成に云はく、桔槹〈加奈豆奈為(かなづなゐ)、吉高の二音〉は鉄索の井なりといふ。
妙美井 日本紀私記に妙美井〈之美豆(しみづ)〉と云ふ。
溝 釈名に云はく、田の間の水を溝〈古候反、和名は美曽(みぞ)、又、渠の字を用ゐる〉と曰ひ、縦横に相交(か)ひ構ふるなりといふ。
壍 四声字苑に云はく、壍〈七贍反、和名は保利岐(ほりき)〉は城を遶る長き水の坑なりといふ。
谿谷〈澗付〉 爾雅注に云はく、水、山より出で川に入るを谿〈古奚反、字は亦、溪に作る。和名は太邇(たに)、下に同じ〉と曰ひ、水、谿と相属へるを谷〈音は穀、一音に欲、唐韻に見ゆ〉と曰ふといふ。野王案に、壑〈呼各反〉は猶ほ谿谷のごときなりとす。釈名に云はく、澗〈古晏反〉は両つの山の間に在るを言ふなりといふ。
涯岸 爾雅集注に云はく、水辺は涯〈五佳反、和名は岐之(きし)、下も同じ〉と曰ひ、涯の陗(さが)しくて高きを岸と曰ふといふ。
浦 四声字苑に云はく、浦〈傍古反、和名は宇良(うら)〉は大川の旁(ほとり)の曲れる渚にして、船の風より隠るる処なりといふ。
渚 韓詩注に云はく、一たびは溢れ一たびは否(しか)らざるを渚〈昌与反、和名は奈岐散(なぎさ)〉と曰ふといふ。
浜 唐韻に云はく、浜〈音は賓、和名は波万(はま)〉は水際なりといふ。
洲 爾雅に云はく、水の中に居(を)るべき者を洲〈音は州、和名は須(す)〉と曰ふといふ。李巡に云はく、四方に皆、水有るなりといふ。
汀 唐韻に云はく、汀〈他丁反、和名は美岐八(みぎは)〉は水際の平らなる沙なりといふ。
潟 文選海賦に云はく、海浜は広潟といふ。〈思積反、昔と同じ、師説に加太(かた)〉
湊 説文に云はく、湊〈音は奏、和名は美奈度(みなと)〉は水上の人の会ふ所なりといふ。
土塊 説文に云はく、塊〈音は会、和名は豆知久礼(つちくれ)〉は土片なりといふ。
埴 釈名に云はく、土の黄にして細密なるを埴〈常職反、和名は波邇(はに)〉と曰ふといふ。
堊 唐韻に云はく、堊〈音は悪、和名は之良豆知(しらつち)〉は白土なりといふ。
壚 釈名に云はく、土の色の黒きを壚〈音は盧、和名は久路豆知(くろつち)〉と曰ふといふ。
涅 唐韻に云はく、涅〈奴結反、和名は久利(くり)〉は水中の黒土なりといふ。
泥 孫愐に云はく、泥〈奴低反、和名は比知利古(ひぢりこ)。一に古比知(こひぢ)と云ふ〉は土の水に和ふるなりといふ。
塵埃 兼名苑に云はく、塳〓〔土偏に思〕〈逢思の二音〉は塵埃なりといふ。孫愐に云はく、塵埃〈陳哀の二音、和名は知利(ちり)〉は土を揚ぐるなりといふ。
糞堆 弁色立成に糞堆〈阿久太布(あくたふ)、上は付問反、下は都回反〉と云ふ。
山石類五
山嶽 蒋魴に曰はく、嶽〈五角反、字は亦、岳に作る。訓は丘と同じ、未だ詳(つばひら)かならず。漢語抄に美多介(みたけ)と云ふ〉は高き山の名なりといふ。
丘 周礼注に云はく、高きを丘〈音は鳩、和名は乎加(をか)、又、岡の字を用ゐる、正しくは崗に作る〉と曰ふといふ。
峯 祝尚丘に曰はく、峯〈敷容反、和名は美禰(みね)、又、岑嶺の二字を用ゐる。岑の音は尋、嶺の音は領〉は山の尖り高き処なりといふ。
巔 孫愐に曰はく、巔〈都年反、和名は以太々岐(いただき)〉は山の頂なりといふ。
峡 考声切韻に云はく、峡〈咸夾反、俗に山乃加比(やまのかひ)と云ふ〉は山の間の陜(せば)き処なりといふ。
岫 陸詞に曰はく、岫〈似祐反、和名は久岐(くき)〉は山の穴の袖に似たるなりといふ。
洞 説文に云はく、洞〈徒貢反、和名は保良(ほら)〉は深𨗉の貌なりといふ。
坂嶝 唐韻に云はく、坂〈音は反、和名は佐賀(さか)〉は地の険しきなり、嶝〈都鄧反〉は小さき坂なりといふ。
麓 説文に云はく、麓〈音は禄、和名は布毛度(ふもと)〉は山の足なりといふ。
嶋嶼 説文に云はく、嶋〈都皓反、一音に鳥、和名は之万(しま)〉は海中の山の依り止るべきなりといふ。唐韻に云はく、嶼〈徐呂反、上声の重、序と同じ、上に同じ〉は海中の洲なりといふ。
岬 唐韻に云はく、岬〈古狎反、日本紀私記に美佐岐(みさき)と云ふ〉は山の側(かたはら)なりといふ。
杣 功程式に云はく、甲賀杣、田上杣といふ。〈杣は曽万(そま)と謂ふ、出づる所未だ詳かならず。但し、功程式は修理笄師山田福吉等、弘仁十四年に撰上するなりとす〉
巌 唐韻に云はく、巌〈五銜反、字は亦、礹に作る、和名は伊波保(いはほ)〉は峯なり、険なりといふ。
磐 陸詞に曰はく、磐〈音は盤、和名は以波(いは)〉は大(とほしろ)き石なりといふ。日本紀私記に、千人所引磐石〈知比岐乃以之(ちびきのいし)〉と云ふ。
石〈鍾乳付〉 陸詞に曰はく、石〈常尺反、和名は以之(いし)〉は凝土なりといふ。新抄本草に石鍾乳〈備中国英賀郡に出づ、和名は以之乃知(いしのち)〉と云ふ。
消石〈朴消付〉 丹口决に云はく、消石は一名に芒消といふ。薬决に云はく、朴消は一名に消石朴といふ。〈今案ふるに消石、朴消は是れ一つの物なり。要方に云はく、朴消は芒消の大きなる者なり、消石は芒消の根の盤(むらが)る者、之れを練りて芒消と成すといふは是れなり〉
礜石 唐韻に礜〈音は誉、本草に一名は沢乳と云ふ〉と云ふ。礜石は薬石の名なり、蚕を食ふ肥うる鼠は之れを食ひて死ぬ。〈今案ふるに、又、特生礜石有り。呉氏本草に見ゆ〉
礬石 蘇敬に曰はく、礬石〈礬の音は繁、此の間に悶尺(もんじゃく)と云ふ〉は青礬、白礬、黒礬、絳礬、黄礬の五種有りといふ。
滑石 本草に、滑石は一名に脆石と云ふ。〈蘇敬に曰はく、極めて軟滑なる故に以て之れを名くといふ〉
陽起石 本草に、陽起石は一名に羊起石と云ふ。
凝水石 本草に云はく、凝水石は一名に寒水石、此の石の末を水中に置かば、夏月は能く氷を為(つく)るといふ。或に云はく、縦理(たたさまにあやなる)は寒水を為り、横理(よこさまにあやなる)は凝水を為るといふ。
慈石 本草に云はく、慈石は吸針といふ。〈慈石は此の間に之虵久(しじゃく)と云ふ。慈は正しくは石に従ひ礠に作る、唐韻に見ゆ〉
玄石 本草に云はく、玄石は一名に玄水石といふ。〈今案ふるに慈石に又、玄石の名有り〉
理石 本草に云はく、理石は一名に立制石といふ。〈今案ふるに礜石に又、立制の名有り〉
長石 本草に云はく、長石は一名に方石といふ。
桃花石 本草に云はく、桃花石〈此の間に音は道卦尺(だうけしゃく)〉は色、桃花の如き故に以て之れを名くといふ。
方解石 本草に云はく、方解石は一名に黄石といふ。
浮石 文州記に云はく、浮石は体、虚ろにして軽しといふ。〈和名は加留以之(かるいし)〉
細石 説文に云はく、礫〈音は歴、和名は佐々礼以之(さざれいし)〉は水中の細かき石なりといふ。
砂〈纎砂付〉 声類に云はく、砂〈所加反、和名は以佐古(いさご)、一に須奈古(すなご)と云ふ〉は水中の細かき礫なりといふ。日本紀私記に纎砂〈万奈古(まなご)は纎細なり〉と云ふ。
田野類六
田 釈名に云はく、土の已に耕す者を田〈徒年反、和名は多(た)、漢語抄に水田は古奈太(こなた)と云ふ〉と為(す)といふ。田は填なり。五穀は其の中に填満(み)つるなり。
佃 唐韻に云はく、佃〈音は田と同じ、和名は豆久利太(つくりた)〉は作り田なりといふ。
火田 唐韻に云はく、疁〈力求反、漢語抄に夜岐波太(やきはた)と云ふ。今案ふるに、野老伝に云はく、横に山を截り畠を作るは之れを截幡と謂ひ、其の田、先に焼き後に耕すは之れを焼幡と謂ひ、田疇、何ぞ耕さずして作ると既に謂へりといふ。漢語抄の説、唐韻の義、頗る相違ふと為るのみ〉は田を耕さずして火を種(う)うるなりといふ。
畠 続捜神記に云はく、江南の畠は豆を種うといふ。〈畠は一に陸田と云ふ。和名は波太介(はたけ)〉
粟田 日本紀私記に粟田〈阿波布(あはふ)〉と云ふ。
豆田 同私記に豆田〈末米布(まめふ)〉と云ふ。
町 蒼頡篇に云はく、町〈他丁反、和名は末知(まち)〉は田区なりといふ。
畔 陸詞に曰はく、畔〈音は半、和名は久路(くろ)、一に阿(あ)と云ふ〉は田の界なりといふ。唐韻に云はく、塍〈食陵反、字は亦、塖に作る。和名は上に同じ〉は稲田の畦なりといふ。畦〈音は携〉は菜の畔なり。
畝 陸詞に曰はく、畝〈音は牡、和名は宇禰(うね)〉は田の数なりといふ。唐令に云はく、諸田の広さ一歩、長さ二百四十歩を畝と為(し)、畝百を頃〈去頴反、今案ふるに頃は今の法の六町六段二百四十歩なり〉と為(す)といふ。
畷 四声字苑に云はく、畷〈昌雪反、漢語抄に奈波天(なはて)と云ふ〉は田の間の道なりといふ。
培塿 風俗通に云はく、培塿〈上の音は部、下は力㺃反、漢語抄に豆無礼(つむれ)と云ふ〉は田中の小高き者なりといふ。
畎 陸詞に曰はく、畎〈音は犬、和名は太美曽(たみぞ)〉は田中の渠なりといふ。
園圃 四声字苑に云はく、園圃〈猨浦の二音、和名は曽乃(その)、一に曽乃布(そのふ)と云ふ〉は蔬菜を種うる所以なりといふ。
苑囿 周礼注に云はく、囿は今の苑〈苑囿の二音、音は遠宥、囿は又、音は育、和名は上に同じ名なり〉、禽獣を城(かきがこ)ひて養ふ所以なりといふ。
野〈曠野付〉 四声字苑に云はく、野〈以者反、字は亦、墅に作る。和名は能(の)〉は郊牧の外地なりといふ。日本紀私記に曠野〈阿良能良(あらのら)〉と云ふ。
林 説文に云はく、地に藂(む)るる木有るを林〈力尋反、和名は波夜之(はやし)〉と曰ふといふ。
薮 呂氏春秋に云はく、沢の水無きを薮〈蘇后反、和名は夜布(やぶ)〉と曰ふといふ。
沢 風土記に云はく、水草の交はるを沢〈音は宅、和名は佐波(さは)〉と曰ふといふ。
原 毛詩注に云はく、高く平らかなるを原〈音は源、和名は波良(はら)〉と曰ふといふ。
塞 野王案に、塞〈先代反、和名は曽古(そこ)〉は険しき要(ぬみ)の処、内外を隔てる所以なりとす。
牧 尚書に云はく、莱夷は牧〈音は目、和名は無万岐(むまき)〉に為るといふ。孔安国に云はく、莱夷は地の名にして以て牧を放つべしといふ。
人倫部第二
男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 婚姻類十一 夫妻類十二
男女類七
人 白虎通に云はく、人は男女の惣名なりといふ。
男子 説文に云はく、男〈音は南、和名は乎乃古(をのこ)〉は丈夫なりといふ。白虎通に云はく、男は之れを士〈音は四〉と謂ふといふ。孝経注に子は男子の通称なりとす。
丈夫 公羊伝注に丈夫〈上は直両反、下の音は扶、万葉集に末須良乎(ますらを)と云ふ。日本紀私記に大人の称なりと云ふ〉と云ふ。
壮士 日本紀私記に壮士〈太計岐比度(たけきひと)〉と云ふ。
婦人 同私記に云はく、手弱女人〈多乎夜米(たをやめ)〉は婦人〈上に同じ〉といふ。
娘 説文に云はく、娘〈女良反、和名は無須女(むすめ)〉は少女の称なりといふ。
少女 日本紀私記に云はく、少女〈乎度米(をとめ)〉は童女〈上に同じ〉といふ。
姫 文字集略に云はく、姫〈音は基、和名は比女(ひめ)〉は衆妾の称なりといふ。
半月 内典に云はく、五種の男ならざる、其の五を半月と曰ふといふ。〈俗に訛りて波邇和利(はにわり)と云ふ。或説に、一月三十日、其の十五日男と為り、十五日、女と為ることの義なりと云ふ〉
嬰児 唐韻に云はく、孩〈戸来反、弁色立成に、嬰児は美都利古(みどりこ)と云ふ〉は始生の小児なりといふ。顔氏家訓に嬰孩〈師説に阿岐度布(あぎとふ)〉と云ふ。
童〈侲子付〉 礼記注に云はく、童〈徒紅反、和名は和良波(わらは)〉は未だ冠せざる称なりといふ。文選東京賦注に云はく、侲子〈侲の音は之忍反、師説に和良波閉(わらはべ)〉は童男、童女なりといふ。
髫髪 後漢書注に云はく、髫髪〈上の音は迢、字は亦、〓〔髟冠に𠮦〕に作る。和名は宇奈井(うなゐ)、俗に垂髪の二字を用ゐる〉は童子の垂髪を謂ふなりといふ。
総角 毛詩注に云はく、総角〈弁色立成に阿介万岐(あげまき)と云ふ〉は結髪なりといふ。
鱞夫 釈名に云はく、妻無きを鱞〈古頑反、和名は夜毛乎(やもを)〉と曰ふといふ。
寡婦 釈名に云はく、夫無きを寡〈寡婦、和名は夜毛米(やもめ)〉と曰ふといふ。玉篋に云はく、寡婦は或に孀妻と曰ひ、或に𡠉婦と曰ふといふ〈孀の音は相、𡠉の音は狸〉。
孤子 四声字苑に云はく、孤〈古胡反、和名は美奈之古(みなしご)〉は少(をさな)くして父母無きなりといふ。
叟 唐韻に云はく、叟〈蘓后反、上声、和名は於岐奈(おきな)、又、翁の字を用ゐる〉は老人の称なりといふ。日本紀私記に云はく、老公〈和名は上に同じ〉は耆宿〈布流於岐奈(ふるおきな)〉といふ。
嫗 説文に云はく、嫗〈於屢反、和名は於無奈(おむな)〉は老女の称なりといふ。
負 劉向列女伝に云はく、古語に老母を謂ひて負〈今案ふるに和名は度之(とじ)、俗に刀自の二字を用うるは訛れるなり〉と為(す)といふ。
専 日本紀私記に専領〈多宇米乎佐女(たうめをさめ)、今案ふるに俗に老女を呼びて専と為、故に負に継ぐのみ〉と云ふ。
孕婦 尚書に孕婦〈孕の音は用、和名は波良女(はらめ)〉と云ふ。
産婦 食療経に云はく、産婦は梨子を食ふべからずといふ。〈産婦の和名は宇布女(うぶめ)〉
乳母 文字集略に云はく、嬭〈乃礼反、字は亦、妳に作る。弁色立成に、嬭母は知於毛(ちおも)と云ふ〉は人に乳する母なりといふ。唐式に云はく、皇子乳母、皇孫乳母といふ。〈和名は女乃度(めのと)〉
君 文字集略に云はく、君〈音は軍、和名は岐美(きみ)〉は上に在ることの称なりといふ。
臣僕 文字集略に云はく、臣〈音は辰、日夲紀私記に夜豆加礼(やつかれ)と云ふ〉は下に在ることの称なりといふ。唐韻に云はく、僕〈蒲木反、和名は上に同じ〉は侍従の人なりといふ。
人民 日本紀私記に云はく、人民〈比度久佐(ひとくさ)、或説に於保無太賀良(おほむたから)と云ふ〉といふ。
師 徐広雑記に云はく、人に三尊有り、父非ざれば生れず、師非ざれば学べず、君非ざれば仕へられず、故、三尊と曰ふなりといふ。
弟子 孝経序に門徒は三千人と云ふ。又、貫首の弟子(ていし)と云ふ。
賓客 玉篋に云はく、大に賓と曰ひ、小に客と曰ふといふ〈浜各の二音、和名は末良比度(まらひと)〉。左伝注に云はく、客は一座の尊ぶ所なりといふ。野王案に、羈旅して他国に寄す、亦、之れを客と謂ふとす。〈旅客の和名は太比々度(たびびと)〉
朋友 論語注に云はく、門を同じくするを朋〈歩崩反〉と曰ふといふ。尚書注に云はく、志を同じくするを友〈云久反、上声の重、和名は度毛太知(ともだち)〉と曰ふといふ。文場秀句に云はく、知音とも得意ともいふ。〈朋友篇に事対(そろ)ふなり、故に付け出す〉
故人 史記に云はく、寧ぞ悪賓に逢ふも故人に逢はざらんといふ。
毉 説文に云はく、毉〈音は伊、字は亦、医に作る。和名は久須之(くすし)〉は病を治す工(たくみ)なりといふ。
巫覡〈祝付〉 説文に云はく、巫〈音は無、和名は加美奈岐(かみなき)〉は祝女なりといふ。文字集略に云はく、覡〈下激反〉は男祝なり、祝〈之育反、和名は波布利(はふり)〉は祭主にして詞を読むといふ。
獵師〈列卒付〉 内典に云はく、譬へば群鹿の獵師〈和名は加利比度(かりひと)〉を畏怖するが如しといふ。文選に云はく、列卒のかりこ山に満つといふ〈列卒は師説に加利古(かりこ)と読む〉。
白水郎 日本紀私記に漁人〈阿末(あま)〉と云ふ。弁色立成に白水郎〈和名は上に同じ、楊氏漢語抄の説も又同じ〉と云ふ。万葉集に海人と云ふ。
渡子 日本紀私記に渡子〈和太利毛利(わたりもり)。今案ふるに俗に和太之毛利(わたしもり)と云ふ〉と云ふ。
水手 同私記に水手〈加古(かこ)。今案ふるに加古は鹿子の義、本書の注に見ゆ〉と云ふ。
挟杪 唐令に挟杪〈和名は加知度利(かぢとり)〉と云ふ。文選呉都賦に㰏工のさをたくみ、檝師のかぢこと云ふ〈㰏の字と檝の字は舟具〉。
市人 楊氏漢語抄に市郭児〈和名は伊知比度(いちびと)〉と云ふ。
商賈 文選西京賦に云はく、商賈〈賈の音は古、師説に阿岐此度(あきびと)〉、裨販、百族〈師説に裨販は比佐岐比度(ひさぎびと)、百族は毛々夜賀良(ももやから)〉といふ。
田舎人 楊氏漢語抄に田舎児〈偉那加比度(いなかびと)〉と云ふ。
辺鄙 文選に云はく、辺鄙を蚩眩すといふ〈師説に辺鄙は阿豆末豆(あづまつ)、蚩眩は阿佐無岐加々夜賀須(あざむきかがやかす)とす〉。世説注に云はく、東野の鄙語なりといふ。〈今案ふるに俗に東人の二字を用ゐる。其の義近し〉
蕩子 文選詩に蕩子行きて帰らずとあり。〈漢語抄に蕩子は太和礼乎(たわれを)と云ふ〉
遊女〈夜発付〉 楊氏漢語抄に遊行女児〈宇加礼女(うかれめ)〈已上は本注〉、一に阿曽比(あそび)、今案ふるに、又、夜発の名有り、俗に也保知(やほち)と云ふ。本文は未だ詳かならず。但し或説に、白昼遊行するは之れを遊女と謂ひ、夜を待ちて其の淫奔を発すは之れを夜発と謂ふなりとす〉と云ふ。
閽人 文字集略に云はく、閽〈音は昏、閽人の和名は美加度毛利(みかどもり)〉は門を守る者なりといふ。
圉人 文字集略に云はく、圉〈音は語、圉は無末加比(むまかひ)。日本紀私記に典馬と云ひ、弁色立成に馬子と云ふ。並びに上に同じ〉は馬を養ふ者なりといふ。
龓人 唐韻に云はく、龓〈盧紅反、楊氏漢語抄に龓馬人は久知度利(くちとり)と云ふ〉は馬に乗る、又、牽くなりといふ。
奴 唐韻に云はく、奴〈乃都反、豆布禰(つぶね)〉は人の下なりといふ。
婢 説文に云はく、婢〈便卑反、上声の重、夜豆古(やつこ)〉は女の卑しきものの称なりといふ。
客作児 楊氏漢語に客作児〈都久乃比々度(つぐのひびと)〉と云ふ。
屠児 楊氏漢語抄に云はく、屠児〈屠の音は徒、和名は恵度利(ゑとり)〉は生くるを殺し、及(また)、牛馬の肉を屠り販ぎ売る者なりといふ。
乞児 列子に云はく、斉に貧者有り、常に城市に乞ふに、乞児曰はく、天下の辱は乞に過ぎたるは莫しといふといふ。〈楊氏漢語抄に乞索児は保賀比々度(ほかひびと)と云ふ。今案ふるに乞索児は即ち乞児なり、和名は賀多井(かたゐ)〉
偸児 楊氏漢語抄に偸児〈沼須比止(ぬすびと)、上は他侯反〉と云ふ。弁色立成に良からざる人と云ふ。
群盗 漢書に云はく、群盗、山に満つといふ。
海賊 後漢書に云はく、海賊の張伯路、縁海の九郡を寇略すといふ。
囚人 東宮切韻に云はく、囚〈似由反、和名は度良閉比止(とらへびと)〉は罪人を繋ぎ禁(いまし)むるなりといふ。又、一に云はく、人の獄に固め在るなりといふ。
父母類八
高祖父 爾雅に云はく、曽祖父の考(かぞ)を高祖父と為(す)といふ〈日本紀私記に上祖は止保豆於夜(とほつおや)と云ふ〉。文字集略に五世の祖なりと云ふ。
高祖母 爾雅に云はく、曽祖父の妣を高祖母と為といふ。
高祖姑 爾雅に云はく、高祖父の姉妹を高祖姑と為といふ。
曽祖父 爾雅に云はく、祖父の父を曽祖父〈和名は於保於保知(おほおほぢ)〉と為といふ。文字集略に云はく、曽は重ぬなり、四世の祖なりといふ。
曽祖母 爾雅に云はく、祖父の母を曽祖母〈和名は於保於波(おほおば)〉と為といふ。
曽祖姑 爾雅に云はく、曽祖父の姉妹を曽祖姑と為といふ。
族父 爾雅に云はく、父の従祖昆弟を族父〈和名は於保於保知乎遅(おほおほぢをぢ)〉と為といふ。
族昆弟 爾雅に云はく、族父の子を相謂ひて族昆弟といふといふ。
祖父 爾雅に云はく、父の考を王父と為といふ。〈九族図に祖父の和名は於保知(おほぢ)と云ふ〉
祖母 爾雅に云はく、父の妣を王母と為といふ〈九族図に祖母の和名は於波(おば)と云ふ〉。孫炎に曰はく、人の尊祖は天王の若しといふ。故、王父、王母と曰ふなり。
祖姑 爾雅に云はく、王父の姉妹を王姑と為といふ。〈九族図に祖姑の和名は於保乎波(おほをば)と云ふ〉
従祖父 爾雅に云はく、父の世父の叔父を従祖父〈和名は於保知乎遅(おほちをぢ)〉と為といふ。
従祖母 爾雅に云はく、父の世母の叔母を従祖母〈和名は於保乎波(おほをば)〉と為といふ。
伯父 釈名に云はく、父の兄を世父と曰ひ、又、伯父と曰ふといふ。〈弁色立成に云はく、阿伯は父の兄なり、睿乎遅(えをぢ)といふ〉
仲父 釈名に云はく、父の弟を仲父〈漢語抄に奈賀豆乎遅(なかつをぢ)と云ふ〉と曰ふといふ。
叔父 釈名に云はく、仲父の弟を叔父と曰ひ、叔父の弟を季父と曰ふといふ。〈弁色立成に云はく、阿叔は父の弟なり、於度乎遅(おとをぢ)といふ〉
伯母 九族図に伯母と云ふ。〈和名は乎波(をば)。今案ふるに父の姉なり〉
叔母 九族図に叔母と云ふ〈和名は伯母と同じ。今案ふるに父の妹なり〉。爾雅に云はく、父の姉妹を姑と為といふ。〈弁色立成に云はく、阿叔母は上に同じといふ。今案ふるに伯叔母の惣名なり〉
父 爾雅に云はく、父を考〈和名は日本紀私記に加曽(かそ)と云ふ〉と為といふ。楊氏漢語抄に阿耶〈和名は上に同じ〉と云ふ。
母 爾雅に云はく、母を妣〈卑履反、又、去声、和名は波々(はは)。日本紀私記に母は以路波(いろは)と云ふ〉と為といふ。舎人曰はく、生けるを父母と称ひ、死するを考妣と称ふといふ。郭璞に曰はく、公羊伝の恵公は隠公の考なり、仲子は桓公の母なりといふ。死生の異称に非ざること明らけし。楊氏漢語抄に阿嬢〈嬢の音は如羊反、上に同じ〉と云ふ。
外祖父 爾雅に云はく、母の父を外王父〈和名は毋方乃於保知(ははかたのおほぢ)〉と為といふ。九族図に外祖父と云ふ。
外祖母 爾雅に云はく、母の妣を外王母〈和名は母方乃於波(ははかたのおば)〉と為といふ。九族図に外祖母と云ふ。
舅 爾雅に云はく、母の昆弟を舅〈刄九反、上声の重、和名は母方乃乎知(ははかたのをぢ)〉と為といふ。楊氏漢語抄に云はく、大舅〈母の兄なり〉、少舅〈母の弟なり〉といふ。
従母 爾雅に云はく、母の姉妹を従母〈和名は母方乃乎波(ははかたのをば)〉と曰ふといふ。
従舅 爾雅に云はく、母の従父の昆弟を従舅〈和名は母方乃於保乎遅(ははかたのおほをぢ)〉と為といふ。
兄弟類九
兄 爾雅に云はく、男子の先に生れしを兄〈許栄反、一に昆と云ふ。和名は古能加美(このかみ)。日本紀私記に以呂祢(いろね)と云ふ〉と為といふ。
弟 爾雅に云はく、男子の後に生れしを弟〈特計反、和名は於止宇度(おとうと)〉と為といふ。
姉 爾雅に云はく、女子の先に生れしを姉〈音は止、一に女兄と云ふ。和名は阿禰(あね)。日本紀に兄と同じに読む〉と為といふ。
妹 爾雅に云はく、女子の後に生れしを妹〈音は昧、和名は伊毛宇止(いもうと)。日本紀私記に以呂止(いろど)と云ふ〉と為といふ。
母兄 文選注に云はく、母兄は同母兄なりといふ。
母弟 尚書注に云はく、母弟は同母弟なりといふ。
甥 爾雅に云はく、兄弟の子を甥〈音は生、乎比(をひ)、今案ふるに、又、姪の字を用ゐる。爾雅に所謂昆弟の子を姪とするは是〉と為といふ。
姪 釈名に云はく、兄弟の女を姪〈徒結反、和名は米飛(めひ)〉と為といふ。
外姪 釈名に云はく、姉妹の子を出〈楊氏漢語抄に外姪と云ふ〉と為といふ。出でて異姓に嫁ぎて生まるる所なり。
従父兄弟 爾雅に云はく、兄の子、弟の子、相謂ひて従父昆弟姉妹〈和名は以止古(いとこ)。但し兄の子の男を従父兄と為(し)、女を従父姉と為、弟の子の男を従父弟と為、女を従父妹と為るなり〉といふといふ。
再従兄弟 九族図に再従兄弟〈和名は以夜以止古(いやいとこ)〉と云ふ。
三従兄弟 同図に三従兄弟〈和名は万太以度古(またいとこ)〉と云ふ。
従母兄弟 爾雅に云はく、従母の男子を従母昆弟と為、女子を従母姉妹と為といふ。〈和名は内戚と同じ〉
子孫類十
子 孫愐に云はく、子〈即里反〉は息なりといふ。高祖本紀に云はく、呂公曰はく、臣に息ふく女(むすめ)有り、願はくは箕箒の妾と為さめといふといふ。
孫 爾雅に云はく、子の子を孫〈音は尊、和名は無麻古(むまご)〉と為といふ。
曽孫 爾雅に云はく、孫の子を曽孫〈曽は疎なり、和名は比々古(ひひこ)〉と為といふ。
玄孫 爾雅に云はく、曽孫の子を玄孫〈玄は遠なり、益(ますます)疎遠なるを言ふ。和名は夜之波古(やしはご)〉と為といふ。
来孫 爾雅に云はく、玄孫の子を来孫〈只だ往来の親有るのみを言ふ。今案ふるに五代の孫なり〉と為といふ。
昆孫 爾雅に云はく、来孫の子を昆孫〈昆は後なり、今案ふるに六代の孫なりとす〉と為といふ。
仍孫 爾雅に云はく、昆孫の子を仍孫〈仍は重なり、今案ふるに七代の孫なり〉と為といふ。漢書注に耳孫と云ふ。仍と耳の声、相近し、蓋し一号なり。
雲孫 爾雅に云はく、仍孫の子を雲孫〈軽遠にして浮雲の如きなるを言ふ。今案ふるに八代の孫なり〉と為といふ。
外孫 爾雅に云はく、女子の子を外孫と為といふ。
離孫 釈名に云はく、出の子を離孫〈和名は男を無末古乎比(むまごをひ)と云ひ、女を無末古米比(むまごめひ)と云ふ〉と為といふ。離れて已に遠きなるを言ふ。
帰孫 釈名に云はく、姪の子を帰孫〈和名は離孫と同じ〉と為といふ。婦人は嫁を謂ひて帰と為。姪の子の列は故に其の生まるる所を帰と曰ふなり。
婚姻類十一
婚姻 爾雅に云はく、聟の父を姻〈音は因〉と為、婦の父を婚〈音は昏〉と為、婦の父母、聟の父母、相謂ひて婚姻と為といふ。
婚兄弟 爾雅に云はく、婦の党を婚兄弟と為といふ。
姻兄弟 爾雅に云はく、聟の党を姻兄弟と為といふ。
婿 爾雅に云はく、子の夫を婿〈音は細、字は亦、聟に作る。和名は無古(むこ)〉と為といふ。
婭 釈名に云はく、両聟は相謂ひて婭〈音は亞、和名は阿比無古(あひむこ)〉といふ。一人は姉を取り、一人は妹を取り、相亜(つ)ぎ次くなるを言ふ。又曰はく、友聟は相親しみ友とするを言ふなりといふ。
私 爾雅に云はく、女子は姉妹の夫を謂ひて私と為といふ〈今案ふるに公私の私の字なり。和名は聟と同じ〉。孫炎曰はく、正親無きを謂ふなりといふ。
婦 爾雅に云はく、子の妻を婦〈和名は与女(よめ)、又、夫の婦なり〉と為といふ。
娣婦 爾雅に云はく、長婦は幼婦を謂ひて娣婦と為といふ。〈娣の音は弟、和名は於止与米(おとよめ)〉
姒婦 爾雅に云はく、稚婦は長婦を謂ひて姒婦と為といふ。〈姒の音は似、和名は於保与女(おほよめ)〉
嫂婦 爾雅に云はく、女子は兄の妻を謂ひて嫂〈音は早、字は亦、㛐に作る〉と為、弟の妻を謂ひて婦〈和名は並びに与女(よめ)、父母の子の妻を呼ぶに同じ〉と為といふ。
妯娌 爾雅注に云はく、関西に兄弟の妻を相呼びて妯娌〈逐理の二音、和名は阿比与女(あひよめ)〉と為といふ。
夫妻類十二
夫 白虎通に云はく、夫は猶ほ扶のごときなり、道を以て扶け接(まじ)はるなりといふ。
舅 爾雅に云はく、夫の父を舅〈弁色立成に阿翁は之宇止(しうと)と云ふ〉と曰ひ、在りては則ち君舅と曰ひ、没(し)にては則ち先舅と曰ふといふ。
姑 爾雅に云はく、夫の母を姑〈和名は之宇止女(しうとめ)〉と曰ひ、在りては則ち君姑と曰ひ、没にては則ち先姑と曰ふといふ。
兄公 爾雅に云はく、夫の兄を兄公〈和名は古之宇止(こじうと)〉と曰ふといふ。
叔 爾雅に云はく、夫の弟を叔〈和名は兄公と同じ〉と曰ふといふ。
女公 爾雅に云はく、夫の姉を女公〈和名は古之宇止女(こじうとめ)〉と曰ふといふ。
女妹 爾雅に云はく、夫の女弟を女妹〈和名は女公と同じ。又、姉妹の女、上文に見ゆ〉と曰ふといふ。
妻 白虎通に云はく、妻は斉なり、夫と体を斉(ひと)しくすればなりといふ。
妾 文字集略に妾〈音は接、和名は乎無奈米(をむなめ)。今案ふるに、又、枉嫡の名有り。本文は未だ詳かならず。但し或説に言はく、正嫡に非ざる故に枉を以て称と為なり、小妻なりといふ〉と云ふ。
前後妻 顔氏家訓に云はく、後妻は多く前妻の子を悪むといふ。〈和名は前妻を古奈美(こなみ)、後妻を宇波奈利(うはなり)、前妻の子を後妻の称ふ所、前夫の子を後夫の称ふ所、並びに麻々古(ままこ)、世に後子と称ふ。本文は未だ詳かならず〉
外舅 爾雅に云はく、妻の父を外舅と曰ふといふ。〈弁色立成に婦翁と云ふ〉
外姑 爾雅に云はく、妻の母を外姑〈弁色立成に婦母と云ふ。今、俗人の称へる外舅姑は舅姑と同じ〉と曰ふといふ。孫炎に曰はく、夫の敬ふ妻の父母は妻の尊び敬ふ舅姑の如し、故、其の名を同じくし、外の字を加ふるなりといふ。
婦兄弟 弁色立成に婦兄〈婦の兄〉、婦弟〈婦の弟なり、並びに兄公と同じ〉と云ふ。
姨 尒雅に云はく、妻の姉妹を姨〈音は夷、女公と同じ。一に以毛之宇止女(いもしうとめ)と云ふ〉と曰ふといふ。
甥 爾雅に云はく、妻の昆弟を甥〈音は生、和名は古之宇斗(こじうと)〉と曰ふといふ。
和名類聚抄巻第一
和名類聚抄巻第二
形体部第三 疾病部第四 術芸部第五
形躰部第三
頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髪類十六 身体類十七 蔵府類十八 手足類十九 茎垂類二十
頭面類十三
首頭 釈名に曰く、首〈賀宇倍(かうべ)〉は始(はじめ)なり、頭〈度侯反、訓は上に同じ、一に賀之良(かしら)と云ふ〉は独なりといふ。体にある処にして独り貴(たか)きなるを言ふ。
顱〈髑髏付〉 文字集略に云はく、顱〈落胡反、字は亦、髗に作る、加之良乃加波良(かしらのかはら)〉は脳の蓋なりといふ。玉篇に云はく、髑髏〈独婁の二音、俗に比度加之良(ひとがしら)と云ふ〉は頭骨なりといふ。
脳 説文に云はく、脳〈奴道反、字は亦、𦠊に作る、和名は奈都岐(なづき)〉は頭中の髄なりといふ。
顖会 針灸経に云はく、顖会は一名に天窓といふ〈顖の音は信、字は亦、囱に作る。和名は阿太万(あたま)〉。楊氏漢語抄に䫜〈訓は上に同じ、音は於交反〉と云ふ。
頂𩕳 陸詞に曰く、顚〈音は天、訓は以太々岐(いただき)〉は頂なり、頂𩕳〈丁寧の上声〉は頭の上(かみ)なりといふ。
䫦 文字集略に云はく、䫦〈古盍反、加波知(かばち)〉は䫦車なりといふ。
蟀谷〈髪際付〉 針灸経に云はく、耳以上の髪際に入ること一寸半に二穴有り、嚼むに応へて動くは之れを蟀谷〈和名は古米加美(こめかみ)、髪際は加美岐波(かみぎは)〉と謂ふといふ。
雲脂 墨子五行記に云はく、頭垢は之れを雲脂〈和名は頭乃阿加(かしらのあか)、一に以路古(いろこ)と云ふ〉と謂ふといふ。
顔面 四声字苑に云はく、顔〈五姦反、訓は面と同じ〉は眉目の間なりといふ。遊仙窟に面子〈師説に加保波世(かほばせ)、一に保々豆岐(ほほづき)と云ふ〉と云ふ。
額 楊雄方言に云はく、額〈五陌反、比太非(ひたひ)〉は東斉に之れを顙〈蘇朗反〉と謂ひ、幽州に之れを顎〈五各反〉と謂ふといふ。
頬〈頬骨付〉 野王案に云はく、頬〈音は狭、豆良(つら)、一に保々(ほほ)と云ふ〉は面の旁(かたはら)、目の下なりといふ。師古漢書注に云はく、頬骨を胲〈音は改〉と曰ふといふ。玉篇に云はく、顴〈音は権、今案ふるに字は或に通ひ用ゐる。豆良保禰(つらぼね)〉は頬骨なりといふ。或に輔車と曰ふ。
靨 淮南子注に云はく、靨〈音は葉、恵久保(ゑくぼ)〉は面の小し下(ひく)きところなりといふ。
頷〈頷骨付〉 方言に云はく、頥〈音は怡〉は之れを頷〈胡感反、上声の重、字は亦、顄に作る。於度加比(おとがひ)〉と謂ふといふ。野王案に顄車〈岐保禰(きぼね)〉は頷骨なりとす。
頸 陸詞切韻に云はく、領〈音は冷〉は頸なり、頸〈居井反、久比(くび)〉は頭の茎なりといふ。
胡 釈名に云はく、咽の下に垂るるを胡〈之太久比(したくび)〉と曰ふといふ。
項 陸詞切韻に云はく、項〈胡講反、上声の重、宇奈之(うなじ)〉は頸の後なりといふ。公羊伝注に云はく、斉人、項は之れを脰〈田侯反〉と謂ふといふ。
耳目類十四
耳 孫愐切韻に云はく、耳〈美々(みみ)〉は声を聴く者なりといふ。
耳埵 弁色立成に耳埵〈美々太比(みみたび)、下は丁果反〉と云ふ。
完骨 針灸経に云はく、完骨〈美々世々乃保禰(みみせせのほね)〉は耳の後の大きな骨なりといふ。
目 釈名に云はく、目は黙して内に識(しろしめ)すといふ。
眼〈眼皮付〉 広雅に云はく、眼〈吾簡反、万奈古(まなこ)〉は目の子なりといふ。唐韻に云はく、瞳〈音は童、訓は上に同じ〉は目なりといふ。遊仙窟に眼皮〈師説に万比岐(まびき)、又、末奈古井(まなこゐ)〉と云ふ。
矊 文字集略に云はく、矊〈音は綿、久路万奈古(くろまなこ)〉は瞳子の黒きなりといふ。
眸 広雅に云はく、眸〈莫侯反、比度美(ひとみ)、一に訓は眼と同じ〉は目の珠子なりといふ。
瞼 唐韻に云はく、瞼〈巨険反、居儼反、末奈布太(まなぶた)〉は目の瞼なりといふ。
眶 唐韻に云はく、眶〈音は匡、万奈賀不良(まなかぶら)〉は目の眶なりといふ。
眦 広雅に云はく、眦〈在詣反、又、才賜反、末奈之利(まなじり)〉は目の裂なりといふ。遊仙窟に眼尾〈師説に訓は上に同じ〉と云ふ。
眵 唐韻に云はく、眵〈音は支、米久曽(めくそ)〉は目の汁の凝るなりといふ。
涕涙〈承泣付〉 説文に云はく、涕涙〈体類の二音、奈美太(なみだ)〉は目の汁なりといふ。黄帝内経に云はく、目の下、之れを承泣〈音は急、奈美多々利(なみだたり)〉と謂ふといふ。
鼻口類十五
鼻〈嚏付〉 陸詞切韻に云はく、鼻〈音は必、波奈(はな)〉は面中の岳なりといふ。漢書注に云はく、高祖は為人(ひととなり)隆凖〈音は准〉なりとは、応劭は隆は高なりと曰ひ、李斐は凖は鼻なりと曰ふといふ。玉篇に嚏〈丁計反、波奈比流(はなひる)〉と云ふ。
齃 説文に云はく、齃〈烏曷反、字は亦、頞に作る。波奈久岐(はなぐき)〉は鼻の茎なりといふ。
鼻柱 黄帝内経に云はく、水溝は鼻柱の下に在りといふ。〈鼻柱は波奈波之良(はなばしら)〉
衄 説文に云はく、衄〈女菊反、波奈知(はなぢ)〉は鼻より出づる血なりといふ。
洟〈挮字付〉 字書に云はく、洟〈音は夷、須々波奈(すすはな)〉は鼻の液なりといふ。文字集略に云はく、挮〈他礼反、又、他細反、俗に波奈加无(はなかむ)と云ふ〉は手を以て鼻の洟(しる)を去るなりといふ。
口 野王案に口〈苦后反〉は言ひ食ふ所以なりとす。
舌 四声字苑に云はく、舌〈音は切、之多(した)〉といふ。
人中 黄帝内経に云はく、水溝は即ち人中なりといふ。
脣吻 説文に脣吻〈上の音は旬、久知比留(くちびる)、下の音は粉、久知佐岐良(くちさきら)〉と云ふ。
縦理 史記に縦理〈字の如し、縦理の入る口は餓死の相なり〉と云ふ。
歯〈齔字付〉 説文に云はく、歯〈音は始、波(は)〉は口の中の骨を齗(かみあ)はす者なり、齔〈初覲反、去声、訓は波賀久(はかく)〉は歯を毀(そこな)ふなりといふ。
板歯 弁色立成に板歯〈奴可波(ぬかば)、楊氏の説に同じ〉と云ふ。
牙 広雅に云はく、機は之れを牙〈魚加反、岐波(きば)〉と謂ふといふ。野王案に、牙は歯の後に在り最も輔車に近き者なりとす。
齨 説文に云はく、齨〈音は舅、上声の重、宇須波(うすば)〉は老人の歯の臼の如きなりといふ。
齗 玉篇に云はく、齗〈音は銀、波之々(はじし)〉は歯の肉なりといふ。
腭 唐韻に云はく、腭〈音は萼、字は亦、咢に作る、阿岐(あぎ)〉は口の中の上腭なりといふ。
咽喉 説文に云はく、咽〈於前反、哽みし処、音は悦〉は之れを嗌〈音は益〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、喉〈音は侯〉は之れを嚨〈音は籠、乃无止(のむど)〉と謂ふといふ。
吭 史記に云はく、亢を絶ちて死ぬといふ。〈亢の音は胡郎反、又、去声。唐韻に口に従ひ吭に作る、訓は上に同じ。俗に能无度布江(のむどぶえ)と云ふ〉
唾 考声切韻に云はく、唾〈湯臥反、豆波岐(つばき)〉は口の中の津なりといふ。
毛髪類十六
毫毛 陸詞に曰く、毛〈音は旄〉は膚の毫(け)なり、毫〈胡高反〉は長き毛なりといふ。
鬢髪〈髪根付〉 説文に云はく、鬢〈卑吝反〉は頬の髪なりといふ。野王案に髪〈音は発、加美(かみ)〉は首の上の長き毛なりとす。蘇敬本草注に云はく、髲〈仁諝音義に音は被と云ひ、楊玄操は採髣〈走孔反、又、私国反〉に作る。和名は加美乃禰(かみのね)。今案ふるに楊説は是きなり。髲は頭髲なり、容飾具に見ゆ〉は髪の根なりといふ。
䭮 唐韻に云はく、䭮〈音は柫、沼加々美(ぬかがみ)〉は額の前の髪なりといふ。
髻〈鬟付〉 唐韻に云はく、髻〈音は計、毛度々理(もとどり)〉は鬟なりといふ。四声字苑に云はく、鬟〈音は還、和名は美豆良(みづら)、一に訓は上に同じ〉は屈(まが)れる髪なりといふ。
鬌 文字集略に云はく、鬌〈丁果反、須々之路(すずしろ)〉は小児の髪の剪り余る所なりといふ。
髭鬚 説文に云はく、髭〈子移反、賀美豆比介(かみつひげ)〉は口の上の鬚なり、鬚髯〈上の音は須、下は如廉反、之毛豆比介(しもつひげ)〉は頤(おとがひ)の下の毛なりといふ。
眉 説文に云はく、眉〈音は麋、万由(まゆ)〉は目の上の毛なりといふ。
睫 四声字苑に云はく、睫〈音は接、字は亦、䀹に作る、麻都介(まつげ)〉は目の瞼の毛なりといふ。
䀹 玉篇に云はく、䀹〈子葉反、目の旁なり〉といふ。
身体類十七
身 唐韻に云はく、身〈式神反〉、躬〈音は弓、又、躳に作る。躯の音は区、訓は身と同じ〉といふ。
肢躰 野王案に肢〈章移反、字は亦、𨈛に作る、衣太(えだ)〉は四躰なり、體〈他礼反、字は亦、躰に作る〉は猶ほ形のごときなり、有形の惣称なりとす。
𩩲𩨗 広雅に𩩲𩨗〈二音で曷亐。針灸経に欠盆骨は肩骨なりと云ふ。加太乃保禰(かたのほね)〉と云ふ。
肩 陸詞に曰く、肩〈音は堅、加太(かた)〉は髆なり、髆〈音は博、字は亦、膊に作る〉は肩なりといふ。
胛 四声字苑に云はく、胛〈音は鴨、賀以加禰(かいがね)〉は肩の下なりといふ。
腋 唐韻に云はく、腋〈音は液、和岐(わき)〉は肘の腋なりといふ。四声字苑に云はく、脇〈虚業反、字は或に胠に作る、又、脅と同じ〉は腋の下なりといふ。
背 玉篇に云はく、脊〈音は跡、世奈賀(せなか)〉は背なりといふ。
胸臆 唐韻に胸〈許容反〉、膺〈於陵反〉、臆〈於力反、無祢(むね)〉なりと云ふ。
乳 考声切韻に云はく、乳〈而主反、上声の重、智(ち)〉は母の子に飲ましむる所以の汁なりといふ。
腹 野王案に腹〈音は複、波良(はら)〉は五臓を容れ裹む所以の者なりとす。
膍𦜝 四声字苑に云はく、膍𦜝〈鼙斉の二音、保曽(ほぞ)、俗に倍曽(へそ)と云ふ〉は腹の孔なりといふ。
水腹 釈名に云はく、臍より以下は之れを水腹と謂ひ、或に小腹〈古能加美(このかみ)〉と曰ふといふ。
脅肋 四声字苑に云はく、脅〈虚業反、加太波良保禰(かたはらほね)〉は身の傍の脅肋の間なりといふ。文字集略に云はく、肋〈音は勒、太須介乃保祢(たすけのほね)〉は幹骨なりといふ。
𦝫〈支付〉 説文に云はく、𦝫〈於𫕟反、字は或に腰に作る、古之(こし)〉は身の中なりといふ。遊仙窟に細々(たをやか)なる腰支〈師説に古之波勢(こしばせ)〉と云ふ。
膁 唐韻に云はく、膁〈苦簟反、上声、於比之波利(おびしばり)〉は腰の左右の虚しき肉の処なりといふ。
胯 唐韻に云はく、胯〈音は袴、万太(また)〉は両股の間なりといふ。
腿 宿耀経に左右の腿股と云ふ。〈腿の音は退、宇知阿波勢(うちあはせ)〉
臋〈𡰪片付〉 唐韻に云はく、尻〈苦刀反、之利(しり)〉は臋なり〈音は屯、俗に井佐良比(ゐざらひ)と云ふ〉、坐る処なり、𡱰〈音は竺、字は亦、𡰪に作る。弁色立成に𡰪片は之利太無良(しりたむら)と云ふ。今案ふるに鳥獣の尻なり〉は尾の下の孔なりといふ。
骨 野王案に、骨〈音は忽、保祢(ほね)〉は肉の核(さね)なりとす。針灸経注に云はく、欠盆骨は肩の骨なり、鳩尾骨は臆(むね)の前の骨なりといふ。
髄 野王案に髄〈先累反、須禰(すね)〉は骨の中の脂なりとす。
筋力 陸詞に曰く、筋〈音は斤、須知(すぢ)〉は骨の筋、字は𥭊力に従ふなりといふ。周礼注に云はく、力〈呂職反〉は筋骸の強き者なりといふ。
肉〈腠理付〉 玉篇に云はく、肉〈如六反、字は亦、宍に作る、之々(しし)〉は肌膚の肉なりといふ。淮南子に云はく、肉を解(わ)けば必ず腠〈音は蒼奏反、之々和岐(ししわき)〉に中(あた)るといふ。
脂膏 唐韻に膏〈音は高〉、肪〈音は方〉、脂〈之夷反、阿布良(あぶら)〉と云ふ。
血脈 野王案に血〈音は決、知(ち)〉は肉の中の赤汁なり、脈〈音は麦、知乃美知(ちのみち)〉は肉の中の血理なりとす。
孔竅 唐韻に云はく、竅〈苦吊反、去声、孔、竅は並びに阿奈(あな)〉は穴なりといふ。
皮〈皴付〉 釈名に云はく、皮〈音は疲、加波(かは)〉は体を被ふなりといふ。唐韻に云はく、皴〈音は夋、之和(しわ)〉は皮の細く起るなりといふ。
肌膚 陸詞切韻に云はく、膚〈音は府隅反、字は亦、肤に作る、波太倍(はだへ)〉は体の肌なり、肌〈居夷反、賀波倍(かはへ)〉は膚の肉なりといふ。
汗 蒋魴切韻に云はく、汗〈音は翰、阿勢(あせ)〉は人身の上の熱汁なりといふ。
蔵府類十八
五蔵 中黄子に云はく、五蔵〈去声〉は肝、心、脾、肺、腎なりといふ。
肝 白虎通に云はく、肝〈音は干、岐毛(きも)〉は木の精なり、色は青といふ。
心 白虎通に云はく、心〈息林反〉は火の精なり、色は赤といふ。
脾 白虎通に云はく、脾〈俾移反、与古之(よこし)〉は土の精なり、色は黄といふ。
肺 白虎通に云はく、肺〈音は廃、布久布久之(ふくぶくし)〉は金の精なり、色は白といふ。
腎 白虎通に云はく、腎〈時忍反、上声の重、無良度(むらと)〉は水の精なり、色は黒といふ。
六府 中黄子に云はく、六府は大腸、小腸、胆、胃、三膲、膀胱なりといふ。
大腸 中黄子に云はく、大腸〈音は直良反、波良和太(はらわた))〉は伝送の府為(た)りといふ。
小腸 中黄子に云はく、小腸〈楊氏漢語抄に保曽和太(ほそわた)と云ふ〉は受盛の府為りといふ。
胆 中黄子に云はく、胆〈都敢反、以(い)〉は中精の府為りといふ。
胃 中黄子に云はく、胃〈音は渭、久曽布久呂(くそぶくろ)〉は五穀の府為りといふ。
三膲 中黄子に云はく、三膲〈膲の音は焦、楊氏漢語抄に美能和太(みのわた)と云ふ〉は孤立して中涜の府為りといふ。野王案に、上中下、之れを三膲と謂ふなりとす。
膀胱 広雅に云はく、膀胱〈膀の音は旁、胱の音は光、楊氏漢語抄に由波利布久路(ゆばりぶくろ)と云ふ〉は脬なりといふ。唐韻に云はく、脬〈音は胞〉は腹の中の水府なりといふ。
魂神 淮南子に云はく、天の気は魂〈多末之比(たましひ)〉と為るといふ。許愼曰く、魄は陰神なり、魂は陽神なりといふ。
手足類十九
手子 遊仙窟に手子〈師説に太奈須恵(たなすゑ)〉と云ふ。
掌 四声字苑に云はく、掌〈音は賞、和名は太那古々路(たなごころ)。日本紀私記に手掌は太奈曽古(たなぞこ)と云ふ〉は手の心なりといふ。
拳 唐韻に云はく、拳〈渠員反、古布之(こぶし)〉は屈手なりといふ。
指 唐韻に云はく、指〈諸視反、由比(ゆび)。俗に於与比(および)と云ふ〉は手の指なり、指扐〈音は勒、於与比乃万太(およびのまた)〉は指の間なりといふ。
腡 四声字苑に云はく、腡〈落戈反、和名は天乃阿夜(てのあや)〉は手の指の文なりといふ。
拇 国語注に云はく、拇〈音は母、於保於与比(おほおよび)〉は大指なりといふ。
食指 左伝に食指〈楊氏漢語抄に頭指を比斗佐之乃於与比(ひとさしのおよび)と云ふ〉と云ふ。野王案に第二の指なりとす。
中指 儀礼に中指〈奈賀乃於与比(なかのおよび)〉と云ふ。野王案に第三の指なりとす。
無名指 孟子に無名指〈奈々之乃於与比(ななしのおよび)〉と云ふ。野王案に第四の指なりとす。
季指 儀礼に季指〈古於与比(こおよび)〉と云ふ。野王案に小指は第五の指なりとす。
腕 陸詞切韻に云はく、腕〈烏段反、太々無岐(ただむき)、俗に宇天(うで)と云ふ〉は手の腕なりといふ。
臂 広雅に云はく、臂〈音は秘〉は之れを肱〈古弘反〉と謂ふといふ。四声字苑に云はく、肘〈陟柳反、或に䏔に作る、比知(ひぢ)〉は臂の節なりといふ。
股 唐韻に云はく、髀〈傍礼反、上声の重、䯗と同じ。弁色立成に囲髀は毛々(もも)と云ふ〉は股なり、𦙶〈公戸反、上声〉は古文に股の字なりといふ。
膝 野王案に、膝〈音は悉、比佐(ひざ)〉は脛の頭なりとす。
膝䯊 宿曜経に云はく、膝珂〈師説に比佐乃加波良(ひざのかはら)。今案ふるに珂は宜しく䯊に作るべし。音は苦何反。唐韻に見ゆ〉といふ。野王案に、髕〈蒲忍反、上声の重、字は亦、臏に作る。阿波太古(あはたこ)、俗に阿波太(あはた)、今案ふるに𩪯は膝珂と名を異にし実は同じ〉は膝の骨なりとす。
膕 太素経注に云はく、膕〈戈麦反、与保路(よほろ)〉は曲る脚の中なりといふ。
腓 陸詞に云はく、腓〈音は肥、古無良(こむら)。周易に見ゆ〉は脚腓なりといふ。
胻 説文に云はく、胻〈胡良反、波岐(はぎ)〉は脛なりといふ。釈名に云はく、脛〈胡定反〉は茎なり、物の茎に似るなりといふ。
脚足 釈名に云はく、脚〈居灼反〉は坐る時、却りて後(しりへ)に在るを言ふなり、足〈即玉反〉は踵に続くを言ふなり、趾〈音は止、訓は並びに阿之(あし)〉は行くこと一進一止するを言ふなりといふ。
踝 唐韻に云はく、踝〈𦛋瓦反、上声の重、豆不奈岐(つぶなき)、俗に豆不々之(つぶふし)と云ふ〉は足の骨なりといふ。
踵 唐韻に云はく、跟〈音は根、久比須(くびす)、俗に岐比須(きびす)と云ふ〉は足の踵なり、踵〈音は腫〉は足の後なりといふ。
跗 儀礼注に云はく、趺〈方倶反、字は亦、跗に作る、阿奈比良(あなびら)〉は足の上なりといふ。
蹠 説文に云はく、跖〈音は尺、字は亦、踱に作る、阿奈宇良(あなうら)〉は足の下なりといふ。
爪甲 四声字苑に云はく、爪〈音は早、豆米(つめ)〉は手足の指の上の甲なりといふ。
茎垂類二十
陰 釈名に云はく、陰〈今案ふるに玉茎、玉門等の通称なり〉は蔭なりといふ。其の蔭翳に在る所なれば言ふなり。
玉茎 房内経に玉茎〈男陰の名なり〉と云ふ。楊氏漢語抄に𡱼〈破前、一に麻良(まら)と云ふ。今案ふるに玉篇等に云々いへりて臋(ししむら)の骨なり、音は課、玉茎と為べき義見えず〉と云ふ。日本霊異記に云はく、紀伊国伊都郡に一の凶人有り、三宝を信じず、死(い)にし時、蟻、其の𨳯〈今案ふるに是れは閉の字なり。俗に云はく、或に此の字を以て男陰と為、開の字を以て女陰と為といふ。其の説は未だ詳(つばひら)かならず〉に著くといふ。
陰囊 針灸経に陰囊〈俗に布久利(ふぐり)と云ふ。其の義は疾病部の陰頽下に見ゆ〉と云ふ。
陰頽 太素経に云はく、天に十日有り、人の手に十指有り、辰(とき)に十二有り、足に十指有り、茎垂の二は以て之れに応へ〈今案ふるに茎は玉茎、垂は陰囊なり〉、女子に陰有りて二節足らず、故、子を懐くを得るなりといふ。
陰核 食療経に云はく、蓼及び生魚を食ふとき或は陰核をして疼(いた)め令むといふ〈陰核は俗に篇乃古(へのこ)と云ふ〉。刑徳教に云はく、丈夫淫乱は其の勢(へのこ)〈勢は則ち陰核なり〉を割くといふ。
玉門 房内経に玉門と云ふ〈女陰の名なり〉。楊氏漢語抄に𡱖〈通鼻(つび)、今案ふるに俗人は或に朱門と曰ふ。並びに未だ詳かならず〉と云ふ。
吉舌 楊氏漢語抄に吉舌と云ふ。〈比奈佐岐(ひなさき)〉
月水 針灸経に云はく、月水通らざれば則ち気穴に灸すといふ。〈月水は俗に佐波利(さはり)と云ふ〉
精液 房内経に云はく、交接の時、精液流れ𣻌(ただよ)ふといふ。
尿 説文に云はく、尿〈奴吊反、由波利(ゆばり)〉は小便なりといふ。
屁 四声字苑に云はく、屁䊧𥥓〈匹鼻反、三字通ふなり。楊氏漢語抄に云はく、放屁は倍比流(へひる)といふ〉は、下部より気を出すなりといふ。
屎 野王案に、糞〈府悶反、久曽(くそ)、又、糞土は塵土類に見ゆ〉は屎なりとす。説文に云はく、屎〈音は矢、字は亦、𡱁に作る。今案ふるに俗人、牛馬犬等の糞を弓矢の矢の如しと呼ぶは、是れ𡱁の訛れるなり〉は大便なりといふ。
疾病部第四
病類二十一 瘡類二十二
病類二十一
頭風 魏志に云はく、大祖は頭風を苦しむといふ。
聾 四声字苑に云はく、聾〈音は力東反、美々之比(みみしひ)〉は耳の声を聞かざるなりといふ。
聤耳 病源論に云はく、聤耳〈上の音は亭、美々太利(みみだり)〉は風熱にて耳に膿〈汁なり〉を生ずるといふ。
盲 唐韻に云はく、盲〈莫耕反、米之比(めしひ)〉は目に眸子無きなりといふ。
清盲 七巻食経に云はく、凡そ麋、梅李を并せて之れを食ひて任身(みごも)れば子をして清盲〈俗に阿岐之比(あきしひ)と云ふ〉なら使むといふ。
近目 食療経に云はく、婦人、任身りて驢馬の肉を食ふこと勿れ、子をして近目〈俗に智賀米(ちかめ)と云ふ〉なら令むといふ。
眇 周易に云はく、眇にして能く視、蹇(あしなへ)にして能く行くといふ。〈師説に眇は須加女(すがめ)と読む。蹇は下文に見ゆるなり〉
䁾 文選風賦に云はく、目に得るときは䁾〈亡結反、師説に多々良女(ただらめ)〉を為すといふ。
目翳 病源論に云はく、目翳〈於麗反、俗に比(ひ)と云ふ〉は目膚眼精の上に物有り、蠅の翅の如きは是れなりといふ。
萑盲 病源論に曰はく、人暮れに至りて物見えざるは世に之れを萑盲〈俗に度利女(とりめ)と云ふ〉と謂ひ、鳥萑の暝(くら)くならば則ち見る所無きが如きを謂ふなりといふ。
眩 釈名に云はく、眩〈音は懸、女久流米久夜万比(めくるめくやまひ)〉は懸なり、目の視る所、動き乱るること物を懸くるが如く揺揺然として定まらざるなりといふ。
塞鼻 釈名に云はく、齆〈音は一共反、波奈比世(はなびせ)〉は、洟(はなじる)久しく通らずして遂に室塞に至るなりといふ。
瘖瘂 説文に云はく、瘖瘂〈音鵶の二音、於布之(おふし)〉は言ふこと能はざるなりといふ。
吃 声類に云はく、吃〈居乞反、俗に古度々毛利(ことどもり)と云ふ〉は重言なりといふ。説文に云はく、言語の難きなりといふ。
兎缺 続晋陽秋に云はく、魏詠之は生れながらにして兎缺といふ〈俗に宇久知(うぐち)と云ふ〉。弁色立成に脣を欠くなりと云ふ。
喎僻 説文に云はく、咼〈口蛙反、或に喎に作る。久知由賀無(くちゆがむ)〉は口戻(もと)るなりといふ。病源論に云はく、喎僻するときは則ち言語の正しからざるなりといふ。
失声〈嘶咽付〉 食療経に云はく、熱膩の物を食ひて酢漿を飲むこと勿れ、声を失ひ嘶咽すといふ〈師説に失声は比古恵(ひごゑ)、嘶咽は古路々久(ころろく)〉。
噦噎 唐韻に云はく、噦噎〈上は於越反、下は乙芴反、楊氏漢語抄に噦噎は佐久利(さくり)と云ふ〉は逆気なりといふ。
喘息 唐韻に云はく、歂〈昌苑反、字は亦、喘に作る、阿倍岐(あへぎ)〉は口の気引く貌なりといふ。
欬𠲿 病源論に云はく、欬欶〈亥束の二音、字は亦、咳𠲿に作る、之波不岐(しはぶき)〉は肺寒からば則ち成るなりといふ。
欧吐 病源論に云はく、胃の気、逆らば則ち欧吐〈上は於后反、字は亦、嘔に作る、都久(つく)、又、太万比(たまひ)〉すといふ。
唾血 極要方に云はく、唾血〈知波久(ちはく)、唾は已に上文に見ゆ〉は一は内傷に縁り、一は熱積に縁りて此の病有りといふ。
哽咽 唐韻に云はく、哽噎〈綆悦の二音、噎は亦、咽に作る、無須(むす)〉は食ふとき塞がるなりといふ。
津頥 病源論に云はく、津頥〈与多利(よだり)〉は小児、涎唾を多くして頤下に流れ出づるなりといふ。
哯吐 病源論に云はく、哯吐〈上の音は見、豆太美(つだみ)〉は小児の哺乳、冷熱の調はざるに由りて致す所なりといふ。
喉痺 病源論に云はく、喉痺〈侯婢の二音、俗に訛りて古比(こひ)と云ふ〉は喉の裏腫れ塞がり、痺痛して水漿すら入ること得ざるは是れなりといふ。
齞脣 説文に云はく、齞〈牛善反、文選に齞脣を師説に阿以久知(あいくち)と云ふ〉は口張りて歯見(あらは)るなりといふ。
重舌 病源論に云はく、舌の本の血脈、脹然と変り生え舌の状(かたち)の如くなるは之れを重舌と謂ふなりといふ。
𦧴𦧝 張揖に曰はく、𦧴𦧝〈灘天の二音、之多都岐(したつき)〉は舌の正しからざるなりといふ。
齵歯 蒼頡篇に云はく、齵〈五溝反、又、音は隅、齵歯は於曽波(おそは)〉は歯の重ねて生ゆるなりといふ。
歴歯 文選好色賦に歴歯〈師説に波和賀礼(はわかれ)〉と云ふ。
齲歯 釈名に云はく、齲〈倶禹反、齲歯は無之加女波(むしかめは)〉は虫齧みし歯の欠け朽つるなりといふ。
齘歯 録験方に云はく、齘歯〈上は胡介反、波賀美(はがみ)〉は睡眠して歯相切(くひしば)りて声有るなりといふ。人をして其の席の下の土を取りて口の中に内(い)れしめば知らしむること勿くして則ち止む。
齭 説文に云はく、齭〈音は所、此の間に波井留(はゐる)と云ふ〉は歯、酢に傷むなりといふ。
胡臰 病源論に云はく、胡臰〈和岐久曽(わきくそ)〉は人の掖の下の臰(くさ)きこと葱豉の気の如きなり、亦、之れを狐臰と謂ひ、狐狸の気の如きなりといふ。
脚気 医家書に脚気論有り。〈脚気は一に脚の病と云ひ、俗に阿之乃介(あしのけ)と云ふ〉
痿痺 蒼頡篇に云はく、痿痺〈萎俾の二音、俗に比留無夜末比(ひるむやまひ)と云ふ〉は行くこと能はざるなりといふ。
転筋 脚気論に云はく、転筋〈俗に古無良加倍利(こむらがへり)と云ひ、一に加良須奈米理(からすなめり)と云ふ〉は脚の弱きに由りて生(な)る所なりといふ。
𡰁 毛詩注に云はく、腫足〈唐韻に時種反、足の病なり。亦、弁色立成に於売阿志(おめあし)と云ひ、此の間に古比(こひ)と云ふ〉は𡰁と曰ふといふ。又、卑湿の地に其の人、𡰁多しと云ふ。
蹇 説文に云はく、蹇〈音は犬、訓は阿之奈閉(あしなへ)、此の間に那閉久(なへぐ)と云ふ〉は行くこと正しからざるなりといふ。
駢拇 荘子に駢拇枝指と云ふ。〈駢の音は薄堅反、駢拇は此の間に無豆於与非(むつおよび)と云ふ〉
癥瘕 蒼頡篇に云はく、癥瘕〈徴嫁の二音、今案ふるに医家書に魚瘕、蛇瘕等有り、師伝に加女波良(かめはら)と云ふは此の類なり〉は腹の中の病なりといふ。
痞 録験方に云はく、痞〈符鄙反、上声の重、衣賀波良(えがはら)〉は小児の腹の病なりといふ。唐韻に云はく、腹の中の結ぶ病なりといふ。
疝 釈名に云はく、疝〈音は山、阿太波良(あたばら)、一に之良太美(しらたみ)と云ふ〉は腹の急に痛むなりといふ。
蚘虫 唐韻に云はく、蚘〈音は回、蛸、蛔は並びに同じ〉は人の腹の中の長き虫なりといふ。病源論に云はく、蚘虫〈今案ふるに一名に寸白、俗に加以(かい)と云ひ、又、阿久太(あくた)と云ふ〉は白酒を飲み、生栗等を食ひて成る所なりといふ。
痮 字書に云はく、痮〈音は悵、字は亦、脹に作る、波良不久流(はらふくる)〉は腹の満つるなりといふ。
痔 説文に云はく、痔〈治里反、上声の重、智乃夜万比(ぢのやまひ)〉は後(しりへ)の病なりといふ。四声字苑に云はく、痔〈今案ふるに俗に之利乃夜万比(しりのやまひ)と云ふ〉は虫の下部を食ふ病なりといふ。
脱疘 病源論に云はく、脱疘〈疘は古経反、字は亦、肛に作るなり。之利以豆流夜万比(しりいづるやまひ)〉は肛門の脱け出づるなりといふ。久しく痢(はらくだ)らば則ち大腸虚冷の為す所なりといふ。
痢 釈名に云はく、痢〈音は利、久曽比理乃夜万比(くそひりのやまひ)〉は出で漏るるの利なるを言ふといふ。
㿃 釈名に云はく、痢の赤白を㿃〈音は帯、赤痢は知久曽(ちくそ)、白痢は奈女(なめ)〉と曰ふといふ。滞りて出で難きなるを言ふ。葛氏方に云はく、重下〈俗に之利於毛(しりおも)と云ふ〉は今の所謂、赤白痢なりといふ。下部をして疼き重からしむ故に以て之れを名づくと言ふ。
淋病 声類に云はく、淋〈音は林、字は亦、痳に作る、之波由波利(しばゆばり)〉は小便、数(しばしば)するなりといふ。
臨瀝 病源論に云はく、臨瀝〈音は歴、之太天由波利(したでゆばり)〉は小便の滴瀝(しただ)るなりといふ。
長血 小品方に、婦人の長血と云ふ。〈奈賀知(ながち)、又、白血有り〉
産後腹 新撰要方に云はく、婦人の産後の腹痛〈俗に之利波良(しりばら)と云ふ〉は大豆二七枚を取りて之れに呑めといふ。
陰頽 針灸経に云はく、陰頽を治する方〈頽の音は杜回反、一名は下重、俗に曽比(そび)と云ふ〉は茎頭をして下(くだ)して陰囊に向はしめ、当頭の着ける処を縫ひ、其の縫へる上灸すること七たび、即ち験有らむといふ。
疫 説文に云はく、疫〈音は役、衣夜美(えやみ)、一に度岐乃介(ときのけ)と云ふ〉は民、皆病なりといふ。
癘 説文に云はく、癘〈音は例、阿之岐夜万比(あしきやまひ)〉は悪疾なりといふ。
癲狂 唐令に云はく、癲狂、酗酒は皆、侍衛の官に居ることを得ずといふ〈癲の音は天、狂の訓は太布流(たふる)、俗に毛乃久流比(ものぐるひ)と云ふ〉。本朝令義解に云はく、癲は発する時、地に仆れ涎沬を吐き、覚ゆる所無きなり、狂は或に自ら走らむと欲(し)、或に自ら高(おご)りて聖賢なる者なりと称すといふ。
失意 日本紀私記に失意〈古々路万都比(こころまどひ)〉と云ふ。
酗酒 唐韻に云はく、酗〈香句反、一に酒狂と云ひ、俗に佐加々理(さかかり)と云ふ〉は酔ひ怒るなりといふ。
痟𤸎 病源論に云はく、消渇〈今案ふるに四声字苑に痟𤸎の音は消渇と同じと云ひ、俗に加知乃夜万比(かちのやまひ)と云ふ〉は渇きて小便せざるなりといふ。
黄疸 病源論に云はく、黄疸〈音は旦、一に黄病は岐波無夜万比(きばむやまひ)と云ふ〉は身体、面目、爪甲、及び小便、尽く黄なる病なりといふ。
癨乱 漢書に云はく、南越に癨乱の病多しといふ。〈癨乱は俗に之利与理久智与理古久夜万比(しりよりくちよりこくやまひ)と云ふ〉
瘧 説文に云はく、瘧〈音は虐、俗に衣夜美(えやみ)と云ひ、一に和良波夜美(わらはやみ)と云ふ〉は熱寒、並(あは)せて作(おこ)り、二日に一発するの病なりといふ。
苦船 弁色立成に苦船〈布奈夜毛非(ふなやもひ)〉と云ふ。
瘼臥 日本紀私記に瘼臥〈乎江不世理(をえふせり)、瘼の音は莫〉と云ふ。
択食 弁色立成に択食〈豆波利(つはり)、又、楊氏の説に同じ〉と云ふ。
瘡類二十二
瘡 唐韻に云はく、瘡〈音は倉、加佐(かさ)〉は痍なり、痍〈音は夷、岐須(きず)〉は瘡なり、瘢〈音は般、加佐度古路(かさどころ)〉は瘡の痕なりといふ。四声字苑に云はく、痕〈戸恩反、訓は上は同じ、一訓に岐波(きは)〉は故(ふる)瘡の処なりといふ。広雅に云はく、痂〈音は家、加佐布太(かさぶた)〉は瘡の上の甲なりといふ。
瘡 千金方に云はく、丁瘡を治す方を丁と云ふといふ。〈或本に丁は疔に作る、未だ詳かならず〉
丹毒瘡 掌中要方に云はく、丹〈或本に𤴿に作る、未だ詳かならず〉は悪毒の気、其の色は常無きなりといふ。
疽 説文に云はく、疽〈七余反、俗に去声、一名に発背と云ふ〉は久しき㿈なりといふ。
癰 釈名に云はく、癰〈於容反、俗に去声と云ふ〉は気の壅(ふさ)がり結びて潰せざるなりといふ。
瘭疽 集験方に云はく、瘭疽〈瘭の音は摽、俗に倍宇曽(へうそ)と云ふ〉は血気の否渋して生ずる所なりといふ。
乳癰 四声字苑に云はく、𤴱〈竹故反、妬と同じ、俗に知布(ちぶ)と云ふ〉は婦人の乳の腫るるなりといふ。釈名に云はく、乳癰を妬〈今案ふるに妬は宜しく𤴱に作るべし、上文に見ゆ〉と曰ひ、妬は貯なり、積みて通らざるなりといふ。気の貯へ積みて通らざるを言ふ。
痤 唐韻に云はく、痤〈昨禾反、邇岐美(にきみ)〉は小さき癤なりといふ。
癤 病源論に云はく、癰癤〈音は子結反、字は亦、𤻛に作る、賀太禰(かたね)〉は血の結び聚まりて生るる所なりといふ。
浸淫瘡 病源論に云はく、浸淫瘡〈俗に心美佐宇(しんみさう)と云ふ〉は風熱、肌膚に発るなりといふ。
皰瘡 唐韻に云はく、皰〈防教反〉は面瘡なりといふ。類聚国史に云はく、仁寿二年に皰瘡流行り人民疫(えやみ)に死ぬといふ。〈皰瘡は此の間に毛加佐(もがさ)と云ふ〉
癭瘻 説文に云はく、癭瘻〈郢漏の二音、俗に路(ろ)と云ふ〉は頸の腫るるなりといふ。
瘤 病源論に云はく、瘤〈力求反、之比祢(しひね)〉は皮の肉、急に腫れ起ること、初め梅李の如し、漸く長大にして癢(かゆ)からず、痛からず、又、堅強ならざる者なりといふ。
瘜肉 説文に云はく、瘜〈音は息、又、𦞜肉に作る、阿末之々(あまじし)、又、古久美(こくみ)〉は寄肉なりといふ。
附贅 荘子に付贅懸疣(ふぜいけんゆう)〈贅の音は制、俗に布須倍(ふすべ)と云ふ〉と云ふ。
懸疣 釈名に云はく、疣〈音は尤、又、音は宥、懸疣は佐賀利布須倍(さがりふすべ)〉は丘なり、皮の上に出でて聚り高きこと地の丘有るが如きなりといふ。
肬目 病源論に云はく、肬目〈今案ふるに肬は即ち疣の字なりとかむがふ。以比保(いひぼ)、又、以乎女(いをめ)〉は手足の辺に忽ちに生じ、豆の麁きが如く肉より強き者なりといふ。
耵聹 孫愐に云はく、耵聹〈丁寧の二音、美々久曽(みみくそ)〉は耳垢なりといふ。
疥癩 内典に疥癩〈介頼の二音、波太介(はたけ)〉と云ふ。
癬 説文に云はく、癬〈音は浅、俗に銭加佐(ぜにがさ)と云ふ〉は乾瘍なりといふ。
瘍〈禿付〉 説文に云はく、瘍〈音は楊、賀之良加佐(かしらがさ)〉は頭の瘡なりといふ。周礼注に云はく、禿〈土木反、加不路(かぶろ)〉は頭の瘡なりといふ。野王案に髪無きなりとす。
鬼舐頭 病源論に云はく、鬼舐頭〈師説に天狗の下りて食ふに舐むる所が為(ため)と云ふ〉は人の頭に或は銭の大きさの如く、或は指の大きさの如く、髪の生えざるなりといふ。
皯 玉篇に云はく、皯〈古但反、俗に久路久佐(くろくさ)と云ふ〉は面の黒き気なりといふ。
䵴 唐韻に云はく、䵴〈音は孕、於毛波々久曽(をもははくそ)〉は面の黒子なりといふ。
漆瘡 病源論に云はく、漆瘡〈宇流之加不礼(うるしかぶれ)〉は人、漆を見て其の毒に中(あた)りて腫るるは是れなりといふ。
熱沸瘡 四声字苑に云はく、疿〈音は佛〉は熱き時の細(こまか)き瘡なりといふ。新録方に云はく、夏月の熱沸瘡〈和名は阿世毛(あせも)、今案ふるに沸の字は宜しく疿に作るべきか〉を治すといふ。
飼面 病源論に云はく、飼面〈加須毛(かすも)〉は面皮の上に滓有りといふ。
皶鼻 野王案に、皶〈音は砂、邇岐美波奈(にきみはな)〉は鼻の上の皰なりといふ。
胗 唐韻に云はく、胗〈音は軫、久智比々(くちひび)〉は脣の瘡なりといふ。
白癜 病源論に云はく、白癜〈一に白電と云ふ、之良波太(しらはだ)〉は人の面、及び身の頸の皮肉、色変りて白くして、亦、痛癢せざる者なりといふ。
歴易 病源論に云はく、歴易〈奈末豆波太(なまづはだ)〉は人の頸、及び胸の前、掖の下に自然に斑点相連なりて痛からず、癢からざる者なりといふ。
疵 晋書に云はく、趙孟は面に二つの疵〈音は疾移反、師説に阿佐(あざ)〉有りといふ。
黒子 漢書注に云はく、黒子〈波々久曽(ははくそ)〉は今、中国に黶子〈黶の音は烏添反〉と呼び、呉楚に俗に之れを誌〈音は志〉と謂ひ、誌は記すことなりといふ。
代指 集験方に云はく、代指〈豆万波良米(つまはらめ)〉は毒の筋骨の中に由ること無く、熱の盛りに生るる所なりといふ。
瘃 漢書音義に云はく、瘃〈陟玉反、比美(ひみ)、弁色立成に之毛久知(しもくち)と云ふ〉は手足の寒きに中りて瘡と作(な)るなりといふ。
皹 漢書注に云はく、皹〈音は軍、阿加々利(あかがり)〉は手足の坼け裂くるなりといふ。
肉刺 病源論に云はく、肉刺〈乃以須美(のいずみ)〉は脚の指の間に生(な)る肉、刺の如し、靴の小さきを着けて相揩(こす)るに由りて生る所なりといふ。
癮胗 四声字苑に云はく、癮胗〈隠軫の二音、知々保無(ちちほむ)、一に知々波久留(ちちはくる)と云ふ〉は皮の外に小(すこ)し起るなりといふ。
風癮胗 病源論に云はく、風癮胗〈加佐保路之(かさほろし)〉は人の皮膚の虚にして風の寒きが為に折られば則ち起るなりといふ。
㿺 声類に云はく、㿺〈北角反、布久流(ふくる)〉は肉の憤(いき)り起るなりといふ。
腫 山海経に云はく、㾈〈音は符、一音に府、今案ふるに俗人の所謂、乳腫、歯腫、宜しく此の字を用ゐるべし〉は腫なりといふ。野王案に、𤺄〈之勇反、字は亦、腫に作る、波留(はる)〉は身体の㿺(ふくれ)起きて虚しく満つるなりとす。
膿 四声字苑に云はく、膿〈音は農、俗に宇美古(うみこ)と云ひ、又、宇美之留(うみじる)と云ふ〉は瘡の汁なりといふ。説文に云はく、膿は腫の血なりといふ。
疻 漢書音義に云はく、疻〈音は脂、訓は宇流無(うるむ)〉は杖を以て人を撃ちて其の膚の皮に青黒を起すなりといふ。
疼 説文に云はく、疼〈徒冬反、訓は比々良久(ひひらく)〉は動き痛むなりといふ。
痂 広雅に云はく、痂〈古牙反、訓は加佐不太(かさぶた)〉は瘡の上の甲なりといふ。
痕 四声字苑に痕〈戸恩反、加佐度古呂(かさどころ)、一説に痍と同じ、一訓に岐波(きば)なり、浪痕、涙痕等は是れなり〉と云ふ。
痛 釈名に云はく、痛〈音は洞、訓は伊太之(いたし)〉は通なり、通ひて膚脈の中に在るなりといふ。
癢 釈名に云はく、癢〈余両反、養と同じ、加由之(かゆし)〉は揚なり、其の気は皮の中に在りて、揚を発さむと欲して人をして搔発して揚出せしめんとするなりといふ。
術芸部第五〈文字集略に術芸部は術法なり、芸能なりと云ふ〉
射芸類二十三 射芸具二十四 雑芸類二十五 雑芸具二十六
射芸類二十三〈射の音は謝、又、䠶に作る、訓は由美以留(ゆみいる)、又、弓弩は身より発ちて遠きに中る故に字は即ち身矢に従ふと云ふは是なり〉
騎射 漢書に云はく、甘延寿、良家の子(し)を以て騎射を善くするなりといふ。楊氏漢語抄に馬射〈宇末由美(うまゆみ)、今案ふるに馬射は即ち騎射なり〉と云ふ。
歩射 李太尉歩射法に云はく、夫れ歩射は目を以て先づ其の特心を領(をさ)め之れを射るといふ。〈歩射は加知由美(かちゆみ)、今案ふるに特心は的の異名か〉
細射 唐鹵簿令に云はく、細射は弓箭といふ。〈今案ふるに此の間に末々岐由美(ままきゆみ)と云ふは是れなり〉
遠射 淮南子に云はく、越人は遠射を学び天に参りて発つといふ。楊氏漢語抄に射遠〈土保奈計(とほなげ)、今案ふるに遠射は即ち射遠なり〉と云ふ。
六射 諸葛亮六射教に云はく、射は或に山林樹木、皆以て的なりといふ。〈今案ふるに本朝式に五月五日の左右近衛府の射の六的と云ふは是れなり〉
馳射 後漢書に馳射〈今案ふるに俗に於無毛能以流(おむものいる)と云ふ〉と云ふ。
弋射 唐韻に弋〈与職反、以豆留(いづる)〉射なりと云ふ。四声字苑に云はく、矰〈音は曽〉は射る矢なり、繳〈之若反〉は矰繳して飛ぶ鳥に加する所以なりといふ。
照射〈蹤血付〉 続搜神記に云はく、聶友は少(をさな)き時に家貧しく常に照射(とも)し、一つの白き鹿を見て之れを射中(あ)て、明くる晨(あした)に蹤血を尋ぬといふ。〈今案ふるに俗に照射は土毛之(ともし)、蹤血は波加利(はかり)〉
戯射 郭璞方言注に云はく、平題は今の戯射の箭なりといふ。〈今案ふるに戯射は此の間に佐以多天(さいだて)と云ふは是なり、平題は征戦の具に見ゆるなり〉
射芸具二十四
射韝 説文に云はく、韝〈古侯反、多末岐(たまき)、一に小手なりと云ふ。又、鷹具に見ゆ〉は射臂の㳫なりといふ。
弽 毛詩注に云はく、弽〈戸渉反、訓は由美加介(ゆみかけ)〉は抉なり、能く射を馭(をさ)むれば則ち之れを佩(お)ぶなりといふ。周礼注に云はく、抉〈音は决〉は矢を挟む時、弦の飾りを持つ所以なりといふ。
𤿧 蒋魴切韻に云はく、𤿧〈音は旱、土毛(とも)、楊氏漢語抄、日本紀等に鞆の字を用ゐ、俗に亦、之れを用う。本文は未だ詳かならず〉は臂に在りて弦を避くる具なりといふ。毛詩注に云はく、拾〈今案ふるに即ち裙拾の拾なり、玉篇に見ゆ〉は禭なりといふ。礼と弓矢図に云はく、禭〈音は遂〉は臂の𤿧、朱の韋を以て之れを為るといふ。
馬垺 四声字苑に云はく、垺〈力輟反、劣と同じ、此の間に良知(らち)と云ふ〉は戯馬の道なりといふ。
射垛 唐韻に云はく、垛〈他果反、字は亦、垜に作る。楊氏漢語抄に云はく、射垛は以久波土古路(いくはどころ)といふ。此の間に阿無豆知(あむつち)と云ふ。今案ふるに、又、堋の字を用ゐ、音は朋〉は射垛なりといふ。四声字苑に云はく、垜は埾なりといふ。
的 説文に云はく、臬〈魚列反、万斗(まと)、俗に的の字を用ゐ、音は都歴反〉は射る的なりといふ。纂要に云はく、古は射る的を謂ひて侯〈或に堠に作り、音は侯と同じ〉と為(し)、皮を以て的を為(つく)り、鵠〈今案ふるに鴻鵠の鵠は射る処なり、古沃反、唐韻に見ゆ〉を為るといふ。
皮〈山形付〉 周礼に云はく、郷射の礼に五物あり、其の三を皮と曰ふなりといふ。本朝式に云はく、山形〈夜万賀太(やまがた)〉は侯の後(しりへ)四許丈に紺の布を張り矢を禦ぐ者なりといふ。
射乏〈司旍付〉 文選東京賦注に云はく、乏〈今案ふるに即ち乏少の乏なり。但し射乏の和名は夜布世岐(やふせぎ)〉は革を以て之れを為り、護執旍者は之れにて矢を禦ぐなり、司旍〈此の間に末止万宇之(まとまうし)と云ふ〉は旍(はた)と文(ふみ)を執りて射を司り、中るとき当に之れを挙ぐべしといふ。
射翳 文選射雉賦注に云はく、射翳〈於計反、隠なり、障なり、師説に末布之(まぶし)〉は隠れ射る所以の者なりといふ。
雑芸類二十五
投壺 投壺経に云はく、投壺〈内典に豆保宇智(つぼうち)と云ふ、一に都保奈計(つぼなげ)と云ふ〉は古礼なり、壺の長さ一尺二寸二分、籌の長さ一尺二寸といふ〈籌は即ち投壺の矢の名なり、同経に見ゆ〉。
蔵鈎 三秦記に云はく、昭帝の母の釣弋夫人の手、拳(かが)まりて国の色なるは先帝の之れを寵すればなりといふ。世の人、蔵鈎の法と為(す)るは是なり。
打毬 唐韻に云はく、毬〈音は求、打毬は内典に或に之れを拍毱と謂ひ、師説に末利宇知(まりうち)と云ふ〉は毛を丸めて打つ者なりといふ。劉向別録に云はく、打毬は昔、黄帝の造る所なり、本、兵勢に因りて之れを為るといふ。
蹴鞠 伝玄弾棊賦序に云はく、漢の成帝、之れを好むなりといふ。〈此の間に末利古由(まりこゆ)と云ふ。蹴の音は千陸反、字は亦、蹵に作る。公羊伝注に云はく、蹴鞠は足を以て逆(さかしま)に蹈むなりといふ〉
競渡 金谷園記に云はく、今の競渡〈布奈久良倍(ふなくらべ)〉は楚国の風なりといふ。
競馬〈標付〉 本朝式に云はく、五月五日の競馬〈久良閉無麻(くらべむま)〉は標〈標は師米(しめ)と読む〉を立つといふ。
鞦韆 古今芸術図に云はく、鞦韆〈秋遷の二音、由佐波利(ゆさはり)〉は綵縄を以て空中に懸けて以て戯れを為すなりといふ。
囲碁 博物志に云はく、堯、囲碁〈音は期、字は亦、棊に作る、此の間に五と云ふ〉を造るといふ。一に云はく、舜の造る所なりといふ。晋中興書に云はく、囲碁は堯舜の以て愚かなる子に教ふるなりといふ。
弾碁 世説に云はく、弾碁は魏宮の文帝のとき彼此(そこかしこ)より始まり、亦、好むといふ。
樗蒲 兼名苑に云はく、樗蒲は一名に九采といふ。〈内典に樗蒲は賀利宇智(かりうち)と云ふ〉
八道行成 内典に云はく、拍毱(まりうち)、擲石(いしなげ)、投壺(つぼうち)、牽道(みちくらべ)、八道行成の一切の戯笑、悉(ことごとく)観も作(し)もせずといふ。〈八道行成は夜佐須賀利(やさすがり)と読む〉
双六 兼名苑に云はく、双六は一名に六采といふ。〈今案ふるに簿奕は是なり。簿の音は博、俗に須久呂久(すぐろく)と云ふ〉
意銭 後漢書注に云はく、意銭〈此の間に世邇宇知(ぜにうち)と云ふ〉は今の攤銭なりといふ。桂苑珠藂抄に云はく、手を以て搓(も)む所有り、之れを攤〈唐韻に、挪は諾何反、搓は挪なり、字は亦、攤に作ると云ふ。此の間に駄、搓の音は七何反、手にて銭を攤(も)むなり、訓は毛無(もむ)と云ふ〉と謂ふといふ。
弄槍 楊氏漢語抄に弄槍〈保古斗利(ほことり)〈已上は本注〉、槍の音は倉、征戦の具に見ゆ〉と云ふ。
弄丸 梁武帝千字文注に云はく、宜遼は楚の人なり、弄丸〈此の間に多末斗利(たまとり)と云ふ〉を能くし、八つ空中に在り、一つ手中に在るといふ。今の人の弄鈴は是なり〈楊氏漢語抄に弄鈴は須々土利(すずとり)と云ふ〉。
相撲 漢武故事に云はく、角觝〈丁礼反、訓は突と同じ〉は今の相撲といふ。王隠晋書に云はく、相撲〈撲の音は蒲角反、須末比(すまひ)。本朝相撲記に占手、垂髪、総角、最手等の名の別有り、亦、立合なる相撲の長有るなり〉は下伎なりといふ。
相搋 唐韻に云はく、搋〈勅皆反、皆韻に在り。内典に相搋は古布之宇知(こぶしうち)と云ふ〉は拳を以て物に加ふるなりといふ。
相扠 唐韻に云はく、扠〈丑佳反、佳韻に在り。内典に相扠は多加閉之(たがへし)と云ふ〉は拳を以て人に加ふるなりといふ。楊氏漢語抄に拗腕〈拗の音は於絞反、訓は上に同じなり〉と云ふ。
牽道 内典に拍毱、擲石、投壺、牽道〈内典に牽道は美知久良閉(みちくらべ)と云ふ〉と云ふ。
擲倒 楊氏漢語抄に擲倒〈賀倍利宇都(かへりうつ)〉と云ふ。
闘鶏 玉燭宝典に云はく、寒食の節、城市に尤も多く闘鶏の戯れを為すといふ。〈闘鶏は此の間に土利阿波世(とりあはせ)と云ふ〉
闘草 荊楚歳時記に云はく、五月五日の節に百草を闘はしむるの戯れ有りといふ。〈闘草は此の間に久佐阿波世(くさあはせ)と云ふ。今案ふるに闘は宜しく斣に作るべきは何とは、唐韻に闘、斣は並びに都豆反、闘は競ふなり、斣は斠なり〉
拍浮 文選注に拍は浮と云ふ。〈拍は打つなり、普伯反、今案ふるに俗に於布須(おふす)と云ふは是なり〉
雑芸具二十六
碁子 芸経に云はく、白黒碁子、各一百七十枚といふ。
碁局 唐韻に枰〈皮命反、一に音は平〉と云ふ。按ふるに簿局なり。陸詞に云はく、局〈渠玉反、棊局は俗に五半と云ふ〉は棊板の枰なりといふ。
樗蒲采 陸詞に云はく、𢳚〈音は軒、加利(かり)〉は𢳚子、樗蒲の采の名なりといふ。
双六采 楊氏漢語抄に頭子〈双六乃佐以(すぐろくのさい)、今案ふるに雑題双六詩に見ゆ〉と云ふ。
鞠 考声切韻に云はく、鞠〈音は菊、字は亦、毱に作る、万利(まり)〉は韋囊を以て糠を盛りて之れを蹴(く)うといふ。孫愐に云はく、今、通ひて之れを毬子と謂ふといふ。
毬杖 弁色立成に云はく、骨撾〈竹花反、打つなり〉は打毬の曲杖なりといふ。
紙老鴟 弁色立成に云はく、紙老鴟〈此の間に師労之(しらうし)と云ふ〉は紙を以て鴟の形に為り、風に乗せて能く飛ばしむといふ。一に紙鳶と云ふ。
酒胡子 諸葛相如酒胡子賦に云はく、木に因りて形を成し人に象り質に立て、掌握に在りて玩ぶべし、盃盤に遇はば則ち出すといふ。
傀儡子 唐韻に云はく、傀儡〈賄礧の二音、久々豆(くぐつ)〉は楽人の弄ぶ所なりといふ。顔氏家訓に云はく、俗に傀儡子を名づけて郭禿と為といふ。
独楽 弁色立成に云はく、独楽〈古末都玖利(こまつくり)〉は孔有る者なりといふ。
輪鼓 本朝相撲記に輪鼓二人と云ふ。〈雑芸の中、輪鼓を弄びし者二人なりと謂ふ。今案ふるに此の物の出づる所、未だ詳かならず。但し其の形、細腰鼓の如くして、糸上に輪転する故に以て義とするなり〉
挿頭花 楊氏漢語抄に頭花〈加佐之(かざし)、俗に挿頭花を用ゐる〉と云ふ。
和名類聚抄巻第二
和名類聚抄巻第三
居処部第六 舟車部第七 珍宝部第八 布帛部第九
居処部第六
屋宅類廿七 屋宅具廿八 墻壁具廿九 墻壁具三十 門戸類三十一 門戸具三十二 道路類三十三 道路具三十四〈関、橋、駅等、此の内に見ゆ〉
屋宅類二十七
屋舎 陸詞切韻に云はく、屋〈烏谷反、夜(や)〉は舎なりといふ。周礼注に云はく、舎〈音は謝、和名は上に同じ〉は休み沐む処なりといふ。
四阿 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿といふ。〈弁色立成に四阿は安都末夜(あづまや)と云ふ〉
両下 唐令に云はく、庶人の門舎は一つ門、両下〈弁色立成に両下は麻夜(まや)と云ふ〉に過ぐること得じといふ。
殿 唐韻に云はく、殿〈音は電、度能(との)〉は宮殿なりといふ。
寝殿 四声字苑に云はく、寝〈七稔反、禰夜(ねや)〉は寝室なりといふ。一に寝殿と曰ふ。
堂 釈名に云はく、堂〈徒郎反〉は猶ほ堂々と高く顕るるがごとき貌なりといふ。
櫓 唐韻に云はく、櫓〈音は魯、内典に却敵の楼櫓は夜久良(やぐら)と云ふ。舟具に艫に作る〉は城の上に守り禦ぐ楼なりといふ。
楼閣 四声字苑に云はく、今、台の上に屋を構へて楼〈音は婁、弁色立成に太賀度能(たかどの)と云ふ〉と為と謂ふといふ。野王案に閣〈音は各、今案ふるに俗に朱雀門を謂ひて重閣と為るは是なり〉は重門にして複道なりとす。
観 釈名に云はく、観〈音は貫、嵯峨に栖霞観有り〉は上にて観望むなりといふ。
台 爾雅注に云はく、台〈徒来反、宇天奈(うてな)〉は土を積みて之れを為り観望む所以なりといふ。尚書注に云はく、土の高きを台と曰ひ、樹有るを榭〈和名は宇天奈(うてな)〉と曰ふといふ。
廊 唐韻に云はく、廊〈音は郎、漢語抄に保曽度能(ほそどの)と云ふ〉は殿下の外屋なりといふ。
行宮 日本紀私記に行宮〈賀利美夜(かりみや)、今案ふるに俗に頓宮と云ふ〉と云ふ。
仮床 類聚国史に仮床〈此の間に佐受枳(さずき)と云ふ、今案ふるに仮構への屋内の床の名なり〉と云ふ。
房 釈名に云はく、房〈音は防、俗に音は望と云ふ〉は旁なり、室の両方に在るなりといふ。
坊〈村付〉 声類に云はく、坊〈音は方、又、音は房、末智(まち)〉は別屋なり、又、村坊なりといふ。四声字苑に云はく、村〈音は尊、無良(むら)〉は野外に聚り居うるなりといふ。
助鋪 弁色立成に云はく、助鋪〈和名は古夜(こや)、一に比多岐夜(ひたきや)と云ふ〉は衛士の屋の如きなりといふ。
室〈無戸室付〉 白虎通に云はく、黄帝、室〈音は七、無路(むろ)〉を作り、以て寒暑を避くといふ。日本紀私記に無戸室〈宇都無路(うつむろ)〉と云ふ。
舘 唐韻に云はく、館〈音は官、字は亦、館に作る、太智(たち)。日本紀私記に無路都美(むろつみ)と云ふ〉は客舎なりといふ。
亭 釈名に云はく、亭〈音は停、弁色立成に云はく、客亭は阿波良夜(あばらや)、遊子の息ふ処の小屋なりといふ。〉は人の停り集ふ所なりといふ。
庁 四声字苑に云はく、庁〈音は汀、俗に音は長、日本紀私記に万都利古度々乃(まつりごとどの)と云ふ〉は賓を延(まね)く屋、亦、衙庁なりといふ。
院 蒋魴切韻に云はく、院〈千変反、俗に音は筠〉は別宅なりといふ。
家〈第宅付〉 四声字苑に云はく、家〈音は嘉、宅と同じ〉は人の居る所の処といふ。漢書音義に云はく、宅に甲乙の次第有り、故、第宅と曰ふなりといふ。
宇 唐韻に云はく、宇〈音は羽、訓は夜賀須(やかず)〉は宁なり、宁〈直呂反、上声の重〉は門屏の間なりといふ。
営 唐韻に云はく、営〈余傾反、日本紀私記に以保利(いほり)と云ふ〉は軍営なりといふ。
倉廪 兼名苑に云はく、囷〈唐韻に去倫反、又、渠隕反、上声の重、倉の円きを囷と曰ふと云ふ〉、一名に廪〈唐韻に力稔反、倉に屋有るを廪と曰ふと云ふ〉は倉なりといふ。釈名に云はく、倉〈七岡反、久良(くら)〉は蔵なり、物を蔵むるなりといふ。
窖 四声字苑に云はく、窖〈音は教、漢語抄に都知久良(つちくら)と云ふ〉は倉窖、土の中に穀を蔵むるなりといふ。
庫〈棚閣付〉 唐令に云はく、諸の軍器は庫〈音は袴、漢語抄に豆波毛能久良(つはものくら)と云ふ〉に在らせ、皆、棚閣〈朋各の二音、太奈(たな)〉に造り別異(ことごと)に安置せよといふ。
厨 説文に云はく、厨〈直誅反、厨家は久利夜(くりや)〉は庖屋なり、庖〈薄交反〉は食厨なりといふ。
厩 四声字苑に云はく、厩〈音は救、上声の重、無万夜(むまや)〉は牛馬の舎なりといふ。
廥 四声字苑に云はく、廥〈音は膾、漢語抄に久散夜(くさや)と云ふ〉は蒭藁の蔵なりといふ。
肆 唐令に云はく、諸市は肆〈伊知久良(いちくら)〉毎に標題を立てよといふ。説文に云はく、市〈時止反、上声の重、以知(いち)〉は売買する所なりといふ。
邸家 弁色立成に云はく、邸家〈邸は丁礼反、今案ふるに俗に津屋と云ふは此の類なり〉は物を売るを停めて賃を取る処なりといふ。
店家 四声字苑に云はく、店〈都念反、今案ふるに俗に町を云ふは此の類なり〉は坐売の舎なりといふ。
窟 説文に云はく、窟〈音は骨、以波夜(いはや)〉は土屋なりといふ。野王案に地を堀りて窟を為るなりとす。
窨 弁色立成に云はく、窨〈於禁反、和名は宇流之無路(うるしむろ)〉は地室なりといふ。一に漆屋と云ふ。
窯 唐韻に云はく、窯〈音は遥、楊氏漢語抄に賀波良夜(かはらや)と云ふ〉は瓦を焼く竃なりといふ。
庵室 唐韻に云はく、庵〈烏含反、庵室は俗に阿無之知(あむしち)と云ふ〉は小さき草舎なりといふ。
廬 毛詩注に云はく、農人、廬〈力魚反、伊奉(いほ)〉を作り以て田事に便りとすといふ。
庇 唐韻に云はく、庇〈必至反、比佐之(ひさし)〉は廕〈於禁反〉なりといふ。弁色立成に云はく、庇、簷〈和名は上に同じ〉に接すといふ。
廁 唐韻に云はく、圂〈胡困反、字は亦、溷に作る〉は廁なりといふ。釈名に云はく、廁〈音は四、賀波夜(かはや)〉は或に之れを圊〈音は清〉と謂ふといふ。至穢の処を宜しく常に修治して潔清ならしむるべきなりを言ふ。
屋宅具二十八
甍 釈名に云はく、屋脊を甍〈音は萌、伊良加(いらか)〉と曰ひ、上に在りて屋を覆蒙ふなりといふ。兼名苑に云はく、甍は一名に棟〈多貢反、訓は異なる故に別に置く〉といふ。
棟 爾雅に云はく、棟は之れを桴〈音は敷、一音に浮、無祢(むね)〉と謂ふといふ。唐韻に云はく、〓〔木偏に㥯〕〈隠の音、去声〉は棟なりといふ。
瓦 蒋魴切韻に云はく、瓦〈五寡反、加波良(かはら)〉は泥を焼きて之れを為り、屋宇の上を蓋ふといふ。蓬莱子が造る所なり。
䟽瓦 弁色立成に䟽瓦〈都々美加波良(つつみがはら)〉と云ふ。
花瓦 弁色立成に花瓦〈鐙瓦なり、阿布美加波良(あぶみがはら)〉と云ふ。
牝瓦 唐韻に云はく、瓪〈音は板、女加波良(めがはら)〉は屋の牝瓦なりといふ。
牡瓦 唐韻に云はく、𤭧〈音は皆、乎加波良(をがはら)〉は屋の牡瓦なりといふ。
桟 楊氏漢語抄に桟〈初限反、瓦乃衣都利(かはらのえつり)〉と云ふ。日本紀私記に蘆雚〈和名は上に同じ、今案ふるに唐韻に雚は胡官反、葦なり、然るも則ち蘆葦を以て桟を為るには非ざるなり〉と云ふ。
鴟尾 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿に鴟尾〈弁色立成に久都賀太(くつがた)と云ふ〉を施せといふ。
檐 唐韻に云はく、檐〈余廉反、字は亦、簷に作る、能岐(のき)〉は屋檐なりといふ。
飛檐 文選注に云はく、飛檐〈此の間に音は比衣無(ひえむ)〉は棟頭、鳥の翅(つばさ)の舒ぶるに似て将に飛ばむとする状なりといふ。
棉梠 文選に鏤檻文㮰〈音は琵、一音に篦、師説に文㮰は賀佐礼留乃岐須介(かざれるのきすけ)〉と云ふ。楊氏漢語抄に棉梠〈綿呂の二音、和名は上に同じ〉と云ひ、一に雀梠と云ふ。
懸魚 顔之推詩に云はく、懸魚は金扇を掩ふといふ。〈弁色立成に云はく、屋脊の桁端の懸板の名なりといふ。凡そ桁の端に之れ有り〉
槫風 弁色立成に槫風板〈比宜(ひぎ)、上の音は布悪反、楊氏漢語抄に同じ〉と云ふ。
桁 考声切韻に云はく、桁〈音は行、又、去声、計太(けた)〉は屋の檁なり、檁〈林朕反〉は屋の桁なりといふ。
梁 唐韻に云はく、梁〈音は良、宇都波利(うつはり)〉は棟梁なりといふ。爾雅注に云はく、杗廇〈亡霤の二音〉は大梁なりといふ。
長押 功程式に長押〈奈計之(なげし)〉と云ふ。
榱 釈名に云はく、榱〈音は衰、太流岐(たるき)、楊氏に波閉岐(はへき)と云ふ〉は檼の旁の下に在りて垂るるなりといふ。兼名苑に云はく、一名に橑〈音は老〉、一名に椽〈音は伝〉といふ。間朲〈唐韻に音は人と云ひ、漢語抄に間朲は太留木(たるき)と云ふ〉なり。
璫 文選に云はく、金璧を裁(たちき)りて以て璫〈音は当、師説に古之利(こじり)、又、耳璫、服玩具に見ゆ〉を飾るといふ。劉良に曰はく、金璧を以て椽端を飾るなるを言ふといふ。
桷 爾雅注に云はく、桷〈音は角、須美岐(すみき)〉は屋の四阿の大榱なりといふ。
天井 風俗通に云はく、殿舎に天井を作るに菱藻ら水中の物を以ゐるは火災を厭ふてなりといふ。
𥴩子 通俗文に云はく、𥴩子〈𥴩の音は隔、字は亦、䈷に作る〉は竹障の名なりといふ。
蔀 周礼注に云はく、蔀〈音は部、字は亦、篰に作る、之度美(しとみ)〉は暖を覆(つつ)み光を障ふるなりといふ。
柱〈束柱付〉 説文に云はく、柱〈音は注、波之良(はしら)、功程式に束柱は豆賀波師良(つかばしら)と云ふ〉は楹なりといふ。唐韻に云はく、楹〈音は盈〉は柱なりといふ。
欄額 弁色立成に云はく、欄額〈波之良沼岐(はしらぬき)〉は柱貫なりといふ。
枓 唐韻に云はく、枓〈音は斗、度賀多(とがた)〉は柱の上の方木なりといふ。
枅 唐韻に云はく、枅〈音は鶏、漢語抄に比知岐(ひぢき)と云ひ、功程式に肱木と云ふ〉は衡を承くる木なりといふ。
栭 爾雅注に云はく、梁の上は之れを栭〈音は而、文選の師説に多々利加太(たたりがた)〉と謂ひ、欂櫨なりといふ。説文に云はく、欂櫨〈薄盧の二音〉は柱の上の枅なりといふ。
梲 爾雅に云はく、梁の上の柱は之れを謂ひて梲〈音は拙、宇太知(うだち)、楊氏に蜀柱と云ふ〉といふ。孫炎に曰はく、梁の上の柱は侏儒なりといふ。
鴨柄 功程式に鴨柄〈賀毛江(かもえ)、今案ふるに本文は未だ詳(つばひら)かならず〉と云ふ。
杈首 楊氏漢語抄に杈首〈佐須(さす)、杈は初牙反〉と云ふ。
軒檻 漢書注に云はく、軒〈虚言反〉檻は上板なり、檻〈音は監、文選に檻を師説に於保之万(おほしま)と読む〉は殿上の欄なりといふ。唐韻に云はく、欄〈音は蘭、漢語抄に欄檻と云ふ〉は階陛の木の勾れる欄も亦なりといふ〈本の如し〉。
簀〈板敷付〉 蒋魴切韻に云はく、簀〈音は責、功程式に板敷は云々いふ、簀子は云々いふ、須乃古(すのこ)〉は床上に竹を藉(し)く名なりといふ。
柱礎 唐韻に云はく、磌〈徒年反、都美以之(つみいし)、一に以之須恵(いしずゑ)と云ふ〉は柱の礎なり、礎〈音は楚〉は柱の下石なりといふ。
壇 考声切韻に云はく、壇〈達丹反、俗に本の音の濁と云ふ〉は土を四方に封(も)りて高きなりといふ。
堦 考声切韻に云はく、堦〈音は皆、俗に階の字を波之(はし)、一訓に之奈(しな)と為(す)〉は堂に登る級なりといふ。兼名苑に云はく、砌は一名に階〈砌の音は細、訓は美岐利(みぎり)〉といふ。
庭 考声切韻に云はく、庭〈定丁反、邇波(には)〉は屋前なりといふ。
墻壁類二十九
垣墻 爾雅に云はく、墻〈音は常〉は之れを墉〈音は庸〉と謂ふといふ。李巡に曰はく、垣〈音は園、賀岐(かき)〉と謂ふといふ。
築墻 淮南子に云はく、舜、築墻〈都以加岐(ついがき)、一に豆以比知(ついひぢ)と云ふ〉を作るといふ。
女墻 兼名苑に云はく、女墻、一名に堞〈音は牒〉は城上の小さき垣なりといふ。釈名に云はく、城上の垣を埤堄〈裨詣の二音、字は亦、陴𨺙に作る〉と曰ひ、或に女墻と曰ふ、其の卑小なるは之れを城に比ぶるに女子の丈夫に於けるが若くなるを言ふ。
屏 唐韻に云はく、罘罳〈浮思の二音〉は屏なりといふ。爾雅注に云はく、屏〈音は餅〉は小墻、当に門に中るべきなりといふ。
柵 説文に云はく、柵〈音は索〉は竪木を編むなりといふ。
籬〈栫字付〉 釈名に云はく、籬〈音は離、字は亦、㰚に作る、末加岐(まがき)、一に末世(ませ)と云ふ〉は柴を以て之れを作り、踈(まばら)にして離々なるを言ふといふ。説文に云はく、栫〈七見反、加久布(かくふ)〉は柴を以て之れを壅ぐといふ。
壁〈隙付〉 野王案に壁〈音は辟、加閉(かべ)〉は室の屏蔽なりといふ。四声字苑に云はく、隙〈綺戟反、比末(ひま)〉は壁際の孔なりといふ。
墻壁具三十
助枝 楊氏漢語抄に助枝〈之太知(したぢ)、功程式に志達と云ふ〉と云ふ。
牏 野王案に牏〈音は偸、又、音は頭、豆以比知伊太(ついひぢいた)〉は築垣の短き板なりといふ。
壁帯 漢書音義に云はく、壁帯〈今案ふるに末和多之(まわたし)、功程式に間度と云ふ〉は壁中の横帯を謂ふなりといふ。
櫺子 四声字苑に云はく、櫺〈郎丁反、字は亦、欞に作る、礼邇之(れにし)〉は窓櫺子なりといふ。考声切韻に云はく、欄檻は窓間子に及ぶなりと云ふ。
牖 説文に云はく、牖〈与久反、字は片戸甫に従ふなり、末度(まど)〉は壁を穿ちて木を以て交へを為す窓なりといふ。
石灰 兼名苑に云はく、石灰は一名に堊灰といふ〈以之波比(いしばひ)〉。青白石を焼きて熟れ成し、冷し竟り澆(あはた)て、砕きて灰と成すなり。
白土 兼名苑に云はく、白土は一名に堊といふ。〈已に地部水土類に見ゆ〉
門戸類三十一
門〈門舎付〉 四声字苑に云はく、門〈加度(かど)〉は出入りに通る所以なりといふ。唐令に云はく、門舎〈加度夜(かどや〉は三品以上に五架三門、五品以上に三門両下、六品以下及び庶人は一門両下を過ぐること得ずといふ。
閭𨵻 説文に云はく、閭𨵻〈廬塩の二音、文選の師説に佐度乃加東(さとのかど)〉は里中の門なりといふ。
坊門 唐令に云はく、両京城及び州県郭下は坊別に正一人を置き、坊門の管鑰を掌り、姧非を督察せよといふ。
鶏栖 考声切韻に云はく、𣔺〈毛報反〉は今の門の鶏栖なりといふ。弁色立成に鶏栖〈鳥居なり、楊氏説に同じ〉と云ふ。
戸 野王案に、城郭に在るを門と曰ひ、屋堂に在るを戸と曰ふとす。
窓 説文に云はく、屋に在るを窓〈楚江反、字は亦、牎に作る、末度(まど)〉と曰ひ、墻に在るを牖〈已に墻壁具に見ゆ〉と曰ふといふ。兼名苑に一名に櫳〈音は籠〉と云ふ。
水門 後漢書に云はく、水門の故処は皆、河中に在りといふ。〈日本紀私記に水門は美度(みと)と云ふ〉
門戸具三十二
扉 説文に云はく、扇〈式戦反、度比良(とびら)〉は扉〈音は非〉、門扉なりといふ。
枢 爾雅に云はく、枢〈音は朱〉は之れを椳〈音は隈、度保曽(とぼそ)、俗に度万良(とまら)と云ふ〉と謂ふといふ。孫炎に曰はく、門戸の枢なりといふ。
楣 爾雅に曰はく、楣〈音は眉、万久佐(まぐさ)〉は門戸の上の横梁なりといふ。
𣔺 四声字苑に云はく、𣔺〈莫到反、又、莫代反、漢語抄に度加美(とがみ)と云ふ。功程式に鼠走と云ふ〉は門枢の横梁なりといふ。
青瑣 四声字苑に云はく、青瑣〈蘇果反、字は亦、璅に作る〉は木を刻み羅の文を青く為て、之れを戸上に施すなりといふ。
扃 野王案に、扃〈音は経、度佐之(とさし)〉は戸扇の鉄鈕、内に用ゐ以て門を関く所なりといふ。
鎹 功程式に挙鎹〈阿介賀須加比(あげかすがひ)、今案ふるに鎹の字は本文未だ詳かならず〉と云ふ。
鐶鈕 弁色立成に云はく、鐶鈕〈斗乃比岐天(とのひきて)、楊氏の説に同じ〉は門の鈎なりといふ。
戸鍱 唐韻に云はく、鍱〈式渉反、葉と同じ、楊氏に戸乃帖木(とのてふき)と云ふ〉は銅鍱なりといふ。
関木 説文に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る、俗に貫乃木(かんのき)と云ふ〉は横木を以て門を持(たす)くといふ。関は閉づる所以なりと曰ふ。
鑰 四声字苑に云はく、鑰〈音は薬、字は亦、𨷲に作る。今案ふるに俗人、印鑰の処に鎰の字を用ゐるは非ざるなり。鎰の音は溢、唐韻に見ゆ〉は関具なりといふ。楊氏漢語抄に鑰匙〈門乃加岐(もんのかぎ)〉と云ふ。
鈎匙 楊氏漢語抄に鈎匙〈戸乃加岐(とのかぎ)、一に加良加岐(からかぎ)と云ふ、鈎の音は古侯反〉と云ふ。
鏁子 唐韻に云はく、鎖〈蘇果反、俗に鏁子に作る〉は鉄鎖なりといふ。楊氏漢語抄に鏁子〈蔵乃賀岐(くらのかぎ)、弁色立成に蔵鑰と云ふ〉と云ふ。
棖 爾雅注に云はく、棖〈音は唐、和名は保古多知(ほこたち)。弁色立成に戸の類と云ふ〉は門の両旁の木なりといふ。
橛 唐韻に云はく、橛〈音は厥、俗に巾子形と云ふ〉は扇を止むる所以なりといふ。爾雅に云はく、橛は之れを闑〈音は蘖〉と謂ふといふ。孫炎に曰はく、門中の央杙なりといふ。
閾 爾雅注に云はく、閾〈音は域〉は門限なりといふ。兼名苑に云はく、閾は一名に閫〈苦本反、之岐美(しきみ)、俗に度之岐美(とじきみ)と云ふ〉といふ。
道路類三十三
馳道 漢書注に云はく、馳道は天子の行く所の道なりといふ。
馬道 弁色立成に云はく、馬道〈俗の音は米多宇(めたう)〉は堂に向へる道なりといふ。
徼道 唐韻に云はく、徼道〈音は呌、古美知(こみち)〉は小道なりといふ。
間道 日本紀私記に間道〈賀久礼美知(かくれみち)〉と云ふ。
径路 唐韻に云はく、径〈音は敬、逕と同じ、多々知(ただち)、逕は近きなり、字は或に下に見ゆるに通ふ〉は歩道なりといふ。四声字苑に云はく、径道〈径の音は古定反〉は牛馬を容るる道といふ。一に歩道なりと云ふ。
大路 唐韻に云はく、道路〈音は露、毛詩に遵大路篇有り、大路の和名は於保美知(おほみち)〉は南北を阡〈音は千、日本紀私記に多知之乃美知(たちしのみち)と云ふ〉と曰ひ、東西を陌〈音は百、同私記に与古之乃美知(よこしのみち)と云ふ〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、路は阡陌の惣名なりといふ。
巷 唐韻に云はく、巷〈胡絳反、知末太(ちまた)〉は里中の道なりといふ。
十字 呉均行路難に云はく、縦横十字に阡陌を成すといふ。〈今案ふるに十字は東西南北相分つの道、其の中央は十字に似るなり、俗に辻の字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉
地道 日本紀私記に地道〈志太都美遅(したつみち)〉と云ふ。
碊道 文字集略に云はく、碊道〈士輦反、上声の重、漢語抄に夜末乃加介知(やまのかけち)と云ふ〉は山路の閣道なりといふ。
津 四声字苑に云はく、津〈将隣反、豆(つ)〉は水を渡る処なりといふ。唐令に云はく、諸の関、津を渡り、及び船筏に乗り上り下りして津を経る者は皆、当に過所有るべしといふ。
済 爾雅注に云はく、済〈子礼反、和太利(わたり)〉は渡る処なりといふ。
泊 唐韻に云はく、泊〈傍各反、度末利(とまり)〉は止りなりといふ。坤元録に云はく、雍州に百頃の泊有り、岐州に荷池の泊有りといふ。〈今案ふるに播磨国の大輪田の泊は此の類なり〉
道路具三十四
關 蔡邕月令章句に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る。日本紀私記に關門は世岐度(せきと)と云ふ〉は境に在りて出づるを察(み)、入るを禦ぐ所以なりといふ。
橋〈葱台付〉 説文に云はく、橋〈音は喬、波之(はし)〉は水の上に木を横(よこた)へて渡る所以なりといふ。爾雅注に云はく、梁〈音は良〉は即ち水橋なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、葱台〈比良岐波之良(ひらきばしら)〉は橋を両端に竪めし柱、其の頭の葱花に似る故に云ふといふ。
石橋 爾雅注に云はく、矼〈音は江、以之波之(いしばし)〉は石橋なりといふ。
浮橋 魏略五行志に洛水の浮橋〈宇岐波之(うきばし)〉と云ふ。
土橋 唐韻に云はく、圮〈音は怡、豆知波之(つちばし)〉は土橋なりといふ。
独梁 淮南子に云はく、独梁〈比度豆波之(ひとつばし)、今案ふるに又、一名に独木橋、翰苑等に見ゆ〉は徒(ただ)横に一木の梁なりといふ。
梯 郭知玄に曰はく、梯〈音は低、加介波之(かけはし)〉は木の堦にして高きに登る所以なりといふ。唐韻に云はく、桟〈音は算、一音に賤、訓は上に同じ〉は板木を険しきに構へて道と為るなりといふ。
遉邏 唐韻に遉邏〈上は丑鄭反〉と云ひ、漢語抄に遉邏〈知毛利(ちもり)〉と云ふ。
雁歯 白氏文集に云はく、鴨頭の新縁水、雁歯の小紅橋といふ。
駅 唐令に云はく、諸道に須く駅を置くべきは、三十里毎に一駅〈音は繹、無末夜(むまや)〉を置け、若し地勢、険(さが)し阻(へだた)り、及び水草無き処は縁(たより)に随ひ之れを置けといふ。
舟車部第七
舟類三十五 舟具三十六 車類三十七 車類三十八
舟類三十五
舟船〈艘付〉 方言に云はく、関東に之れを舟〈音は周〉と謂ひ、関西に之れを船〈音は旋、布禰(ふね)〉と謂ふといふ。説文に云はく、艘〈蘇遭反〉は船数なりといふ。
舶 唐韻に云はく、舶〈傍陌反、楊氏漢語抄に豆具能布禰(つくのふね)と云ふ〉は海中の大船なりといふ。
艇〈游艇付〉 唐韻に云はく、艇〈徒鼎反、上声の重、楊氏漢語抄に艇は乎夫禰(をぶね)、游艇は波師不禰(はしぶね)と云ふ〉は小船なりといふ。釈名に云はく、二人して乗る所なりといふ。
舴艋 唐韻に云はく、舴艋〈嘖猛の二音、舴艋は豆利夫禰(つりぶね)〉は小さき漁舟なりといふ。
舼 釈名に云はく、艇の小さくして深き者を舼〈渠容反、字は亦、𦨰に作る。今案ふるに太和加世(たわかせ)、俗に高瀬舟を用ゐる〉と曰ふといふ。
艜 釈名に云はく、艇は薄くして長き者を艜〈当蓋反、帯と同じ。今案ふるに比良太(ひらた)、俗に平田舟を用ゐる〉と曰ふといふ。
舸 四声字苑に云はく、舸〈古我反、楊氏に波夜布禰(はまふね)と云ふ〉は高尾舟といふ。一に云はく、戦士の乗るべき軽き舟なりといふ。
艨艟 四声字苑に云はく、艨艟〈蒙衝の二音、又、並びに去声、漢語抄に以久佐不禰(いくさぶね)と云ふ〉は戦船なりといふ。
水脈船 楊氏漢語抄に水脈船〈美乎比岐能布禰(みをひきのふね)〉と云ふ。
桴筏 論語注に云はく、桴は竹木を編みて大なるを筏〈音は伐、字は亦、𦪑に作る〉と曰ひ、小なるを桴〈音は浮、玉篇に字は亦、艀に作る、舟部に在り、以賀多(いかだ)〉と曰ふといふ。
査 唐韻に云はく、楂〈鋤加反、字は亦、査、槎に作る。宇岐々(うきき)〉は水中の浮木なりといふ。
舟事類
艐 説文に云はく、艐〈子紅反、俗に為流(ゐる)と云ふ〉は船、沙に着きて行かざるなりといふ。
艤 唐韻に云はく、艤〈魚綺反、訓は不奈与曽比(ふなよそひ)〉は舟を整へ岸に向ふなりといふ。
𦨖 唐韻に云はく、𦨖〈初教反、訓は加比路久(かひろぐ)〉は船の安(しづ)かならざるなりといふ。
舟具三十六
舳 兼名苑注に云はく、船の前頭は之れを舳〈音は逐、楊氏漢語抄に舟の頭は水を制(おさ)ふる処と云ふ。和名は閉(へ)〉と謂ふといふ。
艫 兼名苑注に云はく、船の後頭は之れを艫〈音は盧、楊氏に舟の後は櫂を刺す処と曰ふ。和語に度毛(とも)と曰ふ〉と謂ふといふ。
帆 四声字苑に云はく、帆〈音は凡、一音に泛、保(ほ)〉は風衣なりといふ。一に云はく、船の上、檣に上に掛けて風を取り船を進むる幔なりといふ。釈名に云はく、帆は或に席を以て之れを為る故に帆席と曰ふなりといふ。
帆竿 楊氏漢語抄に帆竿〈保偈多(ほげた)、下は古寒反〉と云ふ。
帆柱 文選注に云はく、槳〈即両反、保波之良(ほばしら)〉は帆柱なりといふ。又云はく、帆檣〈諸墻反〉は長き木を以て之れを為り、帆を挂くる所以なりといふ。
帆綱 文選注に云はく、長梢〈所交反、師説に保豆奈(ほづな)〉は今の帆綱なりといふ。
舟笭 釈名に云はく、舟中の床に物を席(し)く所以に笭〈力丁反、布奈度古(ふなどこ)〉と曰ふといふ。但(ただ)簀有りて笭床の如きなるを言ふ。
苫 爾雅注に云はく、苫〈士廉反、止万(とま)〉は菅茅を編みて以て屋を覆ふなりといふ。
篷庳 唐韻に云はく、篷庳〈蓬婢の二音、布奈夜賀太(ふなやかた)〉は船の上の屋なりといふ。釈名に云はく、舟上の屋は之れを謂ひて廬〈力居反〉といふ。廬舎に象るなるを言ふ。
枻 野王案に、枻〈音は曳、字は亦、栧に作る、不奈太那(ふなだな)〉は大船の旁の板なりといふ。
棹 釈名に云はく、旁に在りて水を撥ぬるを櫂〈直教反、字は亦、棹に作る。楊氏漢語抄に加伊(かい)と云ふ〉と曰ひ、水中に櫂し、且(また)櫂を進むなりといふ。
檝 釈名に云はく、檝〈音は接、一音に集、賀遅(かぢ)〉は舟をして捷疾ならしむといふ。兼名苑に云はく、檝は一名に橈〈奴効反、一音に饒〉といふ。
㰏 唐韻に云はく、㰏〈音は高、字は亦、篙に作る、佐乎(さを)〉は棹竿なりといふ。方言に云はく、船を刺す竹なりといふ。
艣 唐韻に云はく、艣〈郎古反、魯と同じ〉は船を進むる所以なりといふ。
舵 唐韻に云はく、舵〈徒可反、上声の重、字は亦、䑨に作る〉は船を正す木なりといふ。漢語抄に柁〈船尾なり、或に柂に作る、和語に太以之(たいし)と云ふ。今案ふるに舟人の挟杪を呼びて舵師と為すは是れ〉と云ふ。
纜 考声切韻に云はく、纜〈藍淡反、又の音に濫、和名は度毛豆奈(ともづな)〉は舟を維(つな)く索(なは)なりといふ。
牽𥾣 唐韻に云はく、牽𥾣〈音は支、訓は豆奈天(つなて)〉は船を挽く縄なりといふ。
牫牱 唐韻に云はく、牫牱〈臧柯の二音、楊氏漢語抄に加之(かし)と云ふ〉は舟を繋ぐ所以なりといふ。
碇 字苑に云はく、海中に石を以て舟を駐むるを碇〈丁定反、字は亦、矴に作る。和名は伊加利(いかり)〉と曰ふといふ。
𦀌 周易注に云はく、衣𦀌〈女余反、又、奴下反、字は亦、袽に作る。和名は夫禰乃能米(ふねののめ)〉は舟の漏るるを塞ぐ所以なりといふ。
戽〈浛付〉 切韻に云はく、戽〈音は故、和名は由止利(ゆとり)〉は舟中の水を洩(さら)ふ斗なりといふ。唐韻に云はく、浛〈故紺反、楊氏漢語抄に布奈由(ふなゆ)と云ひ、一に容水と云ふ〉は水の物に和ふるなりといふ。
𠢧 楊氏漢語抄に𠢧〈書証反、布奈邇(ふなに)〉と云ふ。
車類三十七
車駕 古史考に云はく、黄帝、車〈尺遮反、一音に居、久留万(くるま)〉を作るといふ。字苑に云はく、駕〈音は賀〉は牛馬、轅軛の中に入るなりといふ。
轝 字苑に云はく、轝〈音は余、字は或に輿に作る、古之(こし)〉は車に輪無きなりといふ。
腰輿 唐令に云はく、行障六具、左右に分れ、車を夾み、其の次に腰輿〈太古之(たごし)〉といふ。
籃轝 晋書に云はく、陶元亮の乗る所、乃ち是れを籃轝〈音は藍、竹車なるを言ふ〉といふ。
輦 周礼注に云はく、后、宮中に居りて縦容(ほしきまま)に乗る所は之れを輦〈力展反、天久留万(てぐるま)〉と謂ひ、軽輪に為りて人挽きて行く所なりといふ。
青蓋車 続漢書輿服志に云はく、皇太子、皇子は皆、朱輪青蓋、故、青蓋車と曰ふといふ。
長簷車 顔氏家訓に云はく、長簷車〈今案ふるに俗に庇刺しの車と云ふは是か〉に乗るといふ。
四馬車 論語注に云はく、小車は四馬の車なりといふ。
副車 漢書注に云はく、副車〈曽閉久流万(そへぐるま)、俗に比度太万比(ひとたまひ)と云ふ〉は後乗りなりといふ。
飛車 兼名苑注に云はく、奇肱国人〈今案ふるに国人に右臂無し、故、之れを名く〉は能く飛車を作り、風に従ひ飛び行く、故、飛車と曰ふといふ。
指南車 鬼谷子注に云はく、周の成王の時、粛慎氏、白雉を献る、還るとき惑はむことを恐れて周公、指南車を作りて以て之れを送るといふ。
車具三十八
車蓋〈轑付〉 大戴礼に云はく、車蓋〈俗に車の屋形、夜賀太(やかた)〉二十八轑は以て列星に象るなりといふ。野王案に轑〈音は老〉は車蓋の上椽なりとす。
輫 唐韻に云はく、輫〈音は俳〉は車箱なりといふ。楊氏漢語抄に車箱〈車乃度古(くるまのとこ)、一に車輿と云ふ〉と云ふ。
軾〈𨋏付〉 説文に云はく、軾〈音は式、車乃止之岐美(くるまのとじきみ)〉は車の前なりといふ。字苑に云はく、𨋏〈之忍反〉は車の後の横木なりといふ。
轅 唐韻に云はく、輈〈張流反〉は車の轅なり、轅〈音は園、奈加江(ながえ)、俗に前に在るは之れを轅と謂ひ、後に在るは之れを鴟尾と謂ふ。或に小轅と云ふ〉は車の轅なりといふ。
軛 釈名に云はく、軛〈音は厄、久比岐(くびき)〉は牛の領に扼(おさ)ふる所以なりといふ。
軸 説文に云はく、軸〈直六反、与古賀美(よこがみ)〉は輪を持つ者なりといふ。
𩌏 唐韻に云はく、𩌏〈音は博〉は車の下の索なりといふ。釈名に云はく、𩌏〈今案ふるに度古之波利(とこしばり)〉は車の下に在りて輿と相連ね縛る者なりといふ。
輪〈輞付〉 野王案に輪〈音は倫、和(わ)〉は車の脚の転(まろ)び進む所以なりとす。字苑に云はく、輞〈文両反、楊氏漢語抄に於保和(おほわ)と云ふ。一に輪牙と云ふ〉は車輪の郭の曲木なりといふ。
轂 説文に云はく、轂〈古禄反、楊氏漢語抄に車乃古之岐(くるまのこしき)と云ひ、俗に筒と云ふ〉は輻の湊(あつ)まる所なりといふ。
輻 老子経に云はく、古車に三十輻〈音は福、夜(や)〉有り、月に象るを以ての数なりといふ。
轄 野王案に轄〈音は割、久佐比(くさび)〉は軸端の鉄なりとす。
釭 説文に云はく、釭〈古紅反、又、古双反、車乃加利毛(くるまのかりも)〉は轂口の鉄なりといふ。
輠 唐韻に云はく、輠〈胡果反、上声の重、又、音は果、漢語抄に車乃阿不良豆乃(くるまのあぶらのつの)と云ふ〉は車の脂角なりといふ。
乗泥 楊氏漢語抄に乗泥〈車乃豆知波良非(くるまのつちはらひ)〉と云ふ。
罿 唐韻に云はく、罿〈音は童、一音に衝、車乃阿美(くるまのあみ)〉は車の上の網なりといふ。
車簾 唐韻に云はく、㡙㡘〈篦廉の二音、俗に車簾と云ふ〉は車の帷なりといふ。
鞇 釈名に云はく、車の中の坐る所の者を文鞇〈音は茵と同じ、車乃之度禰(くるまのしとね)〉と曰ひ、虎皮を用ゐ、文綵有り、輿に因りて相連ね著くるなりといふ。
榻 唐韻に云はく、榻〈吐盍反、之知(しぢ)〉は床なりといふ。
鞦 字苑に云はく、鞦〈音は秋、字は亦、鞧に作る、之利加岐(しりがき)〉は車鞦、牛の後を制ふる所以なりといふ。
鞅 毛詩注に云はく、靷〈音は引〉は車を引く所以なりといふ。字苑に云はく、鞅〈於両反、漢語抄に無奈加岐(むなかき)と云ふ〉は軛の下にて頸に絆(まと)ふ縄なりといふ。
㡔䘰 唐韻に云はく、㡔䘰〈務延の二音、俗に久飛於保比(くびおほひ)と云ふ〉は牛の領の上衣なりといふ。
牛縻 蒼頡篇に云はく、縻〈音は糜と同じ、波奈豆良(はなづら)〉は牛の韁なりといふ。字書に云はく、桊〈音は眷、楊氏漢語抄に桊は牛乃波奈岐(うしのはなぎ)と云ふ〉は牛の鼻環なりといふ。
珍宝部第八
金銀類三十九 玉石類四十
金銀類三十九
金 爾雅に云はく、黄金を璗〈徒党反〉と曰ひ、其の美なる者は之れを鏐〈力幽反〉と謂ひ、即ち紫磨金なりといふ。説文に云はく、銑〈蘇典反、古加禰(こがね)〉は金の最も光沢有るなりといふ。
金屑 陶隠居に曰はく、金屑は一名に生金といふ。〈古加禰乃須利久豆(こがねのすりくず)〉
銀 爾雅に云はく、白金は銀〈宜珍反〉と曰ひ、其の美なる者は之れを鐐〈力凋、力弔の二反、之路加禰(しろかね)〉と謂ふといふ。
銀屑 陶隠居に曰はく、銀屑は一名に銀蘇といふ。〈銀乃須利久豆(しろかねのすりくず)〉
銅 説文に云はく、銅〈音は同、阿加々禰(あかがね)〉は赤金なりといふ。
半熟 唐韻に云はく、鎚〈直類反〉は好き銅の半熟なりといふ。
鉄〈鑌付〉 説文に云はく、鉄〈他結反、久路加禰(くろがね)、此の間に一訓に禰利(ねり)〉は黒金なりといふ。唐韻に云はく、鑌〈音は賓〉鉄は刀と為て甚だ利しといふ。
鉄落 本草に云はく、鉄落は一名に鉄液といふ〈鉄乃波太(くろがねのはだ)、一に加奈久曽(かなくそ)と訓む〉。蘇敬に曰はく、是れ鍜家の鉄を焼きて赤く沸き、砧上に之れを鍜へば皮甲落つるなりといふ。
鉄精 陶隠居に曰はく、鉄精は一名に鉄漿〈加禰乃佐比(かねのさひ〉、鍜竃の中の塵の如きなりといふ。
鉛 説文に云はく、鉛〈音は延、奈万利(なまり)〉は青金なりといふ。
鍚 唐韻に云はく、鍚〈先撃反〉は鉛鍚といふ。爾雅に云はく、鍚は之れを鈏〈常吝反〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名に白鑞〈盧盍反、之路奈万利(しろなまり)〉といふ。
水銀 蒋魴切韻に云はく、汞〈胡孔反、上声の重、美豆加禰(みづかね)〉は水銀の別名なりといふ。唐韻に云はく、澒〈今案ふるに汞、澒、或に通ふ〉は水銀の滓なりといふ。
汞粉 陶隠居に曰はく、汞粉〈美豆加禰乃賀須(みづかねのかす)〉は焼く時、飛びて釡の上に著くものの名なり、俗に之を名けて水銀灰といふ。
鎮粉 小品方に云はく、鎮粉〈美豆賀禰乃介布利(みづかねのけぶり)〉は朱砂を焼き水銀を為るとき、其の上の黒煙の名なりといふ。
銭 唐韻に云はく、鎈〈初牙反、差と同じ〉は銭の異名なりといふ。漢書志に云はく、鏹〈居両反、訓は世邇豆良(ぜにづら)〉は銭貫なりといふ。音義に云はく、鎔〈音は容、世邇乃波太毛能(ぜにのはたもの)〉は銭模なりといふ。
玉石類四十
珠 白虎通に云はく、海より明珠〈日本紀私記に真珠は之良太万(しらたま)と云ふ〉出づといふ。
玉 四声字苑に云はく、玉〈語欲反、白玉の和名は上に同じ〉は宝石なりといふ。兼名苑に云はく、球琳〈求林の二音〉、琅玕〈郎干の二音〉、琨瑤〈昆遥の二音〉、琬琰〈遠掩の二音〉は皆、美しき玉の名なりといふ。
璞 野王案に、璞〈普角反、阿良太万(あらたま)〉は玉の未だ理(みが)かざるなりといふ。
水精 兼名苑に云はく、水玉、一名に月珠〈美豆止留太万(みづとるたま)〉は水精なりといふ。
火精 兼名苑に云はく、火珠、一名に瑒璲〈陽燧の二音、比止留太万(ひとるたま)〉は火精なりといふ。
瑠璃 野王案に、瑠璃〈流離の二音、俗に留利(るり)と云ふ〉は青色にして玉の如き者なりとす。
雲母 本草に云はく、雲母〈岐良々(きらら)〉、多く赤きは之れを雲珠と謂ひ、五色具ふるは之れを雲華と謂ひ、多く青きは之れを雲英と謂ひ、多く白きは之れを雲液と謂ひ、多く黄なるは之れを雲沙と謂ふといふ。
玫瑰 唐韻に云はく、玫瑰〈枚廻の二音、今案ふるに和名は雲母と同じ、干を見るは、文選に翡翠火斉の処を読めばなり〉は火斉珠なりといふ。
珊瑚 説文に云はく、珊瑚〈𦙱胡の二音〉は色赤き玉、海底の山中より出づるなりといふ。
琥珀 兼名苑に云はく、琥珀〈虎伯の二音、俗の音は久波久(くはく)〉は一名に江珠といふ。
硨磲 広雅に云はく、車渠〈陸詞に並びに石に従ひ作硨磲に作るなり、俗の音は謝古〉は石の玉に次ぐなりといふ。
馬脳 広雅に云はく、馬脳〈俗の音は女奈宇(めなう)〉は石の玉に似るなりといふ。
鍮石 考声切韻に云はく、鍮〈他侯反、字は亦、鋀に作る、鍮石の二音は俗に中尺と云ふ〉石は金に似るといふ。西域に銅鉄を以て薬に雑ぜて之れを為ら令む。
布帛部第九〈部類書に此の部有り、蓋し綾、羅、錦、綺、絹布等の惣名なり〉
錦綺類四十一 絹布類四十二
錦綺類四十一
錦 釈名に云はく、錦〈居飲反、邇之岐(にしき)、本朝式に暈繝錦、高麗錦、軟錦、両面錦等の名有り、繝の字は出づる所未だ詳かならず〉は金なり、之れを作るに用ゐる功の重くして其の価は金の如し、故に其の字を製るに帛に金を与ふなりといふ。
綺 蒋魴切韻に云はく、綺〈虚彼反、岐(き)、一に於利毛能(おりもの)と云ひ、又、一に加無波太(かむはた)と訓む〉は錦に似て薄き者なりといふ。釈名に云はく、綺は棊なりといふ。方丈の棊の如きなるを謂ふ。
兎褐 蒋魴切韻に云はく、兎褐〈戸葛反、此の間に止加千(とかち)と云ふ〉は繒衣、兎毛を以て和へ織るなりといふ。
夾纈 東宮切韻に云はく、纈〈胡結反、夾纈は此の間に加宇介知(かうけち)と云ふ〉は帛を結ひて文綵を為るなりといふ。孫愐に曰はく、繒の夾花有るなりといふ。
繡 蒋魴切韻に云はく、繡〈息又反、訓は沼無毛乃(ぬむもの)〉は五色の糸を以て万物の形状を刺すなりといふ。
綾〈紋付〉 野王案に曰はく、綾〈音は陵、阿夜(あや)、熟線綾、長連綾、二足綾、花文綾、平綾等の名有り〉は綺に似て細き者なりといふ。考声切韻に云はく、紋〈音は文〉は呉越に小綾を謂ふなりといふ。
羅 唐韻に云はく、羅〈魯何反、此の間に良(ら)と云ひ、一に蝉翼と云ふ〉は綺羅、亦、網羅なりといふ。
縠〈縬付〉 釈名に云はく、縠〈胡谷反、古女(こめ)〉は其の形、縬々として之れを視れば粟の如きなりといふ。唐韻に云はく、縬〈子六反、叔と同じ、此の間に之々良岐(ししらぎ)と云ふ〉は繒文の貌なりといふ。
縑 毛詩注に云はく、綃〈所交反、又、音は消、加止利(かとり)〉は縑なりといふ。釈名に云はく、縑〈音は兼〉は其の糸、細緻にして数(しばしば)絹に兼ぬるなりといふ。漢書に云はく、灌嬰は繒〈疾陵反、師説に上は読むに同じ。今案ふるに又、布帛の惣名なり、説文に見ゆ〉を販ぐといふ。
絹布類四十二
絹〈幅字付〉 陸詞切韻に云はく、絹〈吉椽反、岐沼(きぬ)〉は繒帛なりといふ。四声字苑に云はく、幅〈音は福、俗に訓は能(の)〉は布絹の類の闊狭なりといふ。
練 蒋魴切韻に云はく、練〈郎甸反、禰利岐沼(ねりぎぬ)〉は熟絹なりといふ。
絁〈紕字付〉 唐韻に云はく、絁〈式支反、施と同じ、阿之岐沼(あしぎぬ)〉繒は布に似るなり、紕〈匹毗反、漢語抄に万与布(まよふ)と云ふ。一に与流(よる)と云ふ〉は繒の壊れむと欲(す)るなりといふ。
帛 説文に云はく、帛〈蒲角反、俗に波久乃岐奴(はくのきぬ)と云ふ〉は薄き繒なりといふ。
紗 四声字苑に云はく、紗〈所加反、俗に射と云ふ〉は絹に似て太だ軽く薄きものなりといふ。
布 四声字苑に云はく、布〈博故反、沼能(ぬの)〉は麻、及び紵を織りて帛と為しものなりといふ。
白糸布 唐式に白糸布〈今案ふるに俗に手作布の三字を用ゐ天豆久利乃沼乃(てづくりのぬの)と云ふは是か〉と云ふ。
紵布 唐式に紵布三端〈今案ふるに紵は麻紵の紵、俗に麻布の二字を用ゐ阿佐沼乃(あさぬの)と云ふは是か〉と云ふ。
調布 唐式に楊州の庸調布〈今案ふるに本朝式に庸調布有り、豆岐乃沼乃(つきのぬの)と読む。又、信濃に望陀等の名有り、望陀は上総国の郡の名なり、其の体、他国の調布と別異(ことな)る、故に出づる所の国郡の名を以て名と為るなり〉と云ふ。
貲布 唐韻に云はく、㠿〈音は貲と同じ〉は布の名なりといふ。唐式に貲布〈楊氏漢語抄に佐与美乃沼能(さよみのぬの)と云ふ。今案ふるに貲布は宜しく㠿布に作るべきか〉と云ふ。
商布 本朝式に商布〈多邇(たに)〉と云ふ。
綿絮〈屯字付〉 唐韻に云はく、綿〈武連反、和太(わた)は〉は絮なりといふ。四声字苑に云はく、絮〈息慮反〉は綿に似て麁く悪しきなりといふ。唐令に云はく、綿六両を屯〈屯は聚むなり、俗に一屯を飛止毛遅(ひともぢ)と読む〉と為といふ。
和名類聚抄巻第三
和名類聚抄巻第四
装束部第十 飲食部第十一 器皿部第十二 灯火部第十三
装束部第十
冠帽類四十三 冠帽具四十四 衣服類四十五 衣服具四十六 腰帯類四十七 腰帯具四十八 履襪類四十九 履襪具五十
冠帽類四十三
冠〈幞頭付〉 兼名苑注に云はく、冠〈音は官〉は黄帝の造るなりといふ。弁色立成に幞頭〈賀宇布利(かうぶり)、幞の音は僕、今案ふるに楊氏漢語抄の説に同じ。唐令等に亦、之れを用ゐる〉と云ふ。
冕 続漢書輿服志に云はく、冕〈音は免、玉乃冠(たまのかうぶり)〉は冠の前後に旒を垂るる者なりといふ。
雲冠 唐令に云はく、景雲儛八人、五色の雲冠といふ。〈俗に万比乃加之良(まひのかしら)と云ふ〉
天冠 内典に環釧釵璫、天冠臂印〈涅槃経文に天冠は俗に訛りて天和(てわ)と云ふ〉と云ふ。
帞額 方言に云はく、額巾は或に之れを帞額〈帞の音は陌〉と謂ひ、或に之れを絡頭〈絡の音は落〉と謂ふといふ。唐令に高昌伎一部の舞は二人、紅朱の額と云ふ。
烏帽〈帽子付〉 兼名苑に云はく、帽は一名に頭衣といふ〈帽の音は耄、烏帽子、俗に烏を訛りて焉とす。今案ふるに烏、焉は或に通ふ、文選注、玉篇等に見ゆ〉。唐式に云はく、庶人の帽子は皆、寛大にして面を露にして掩ひ蔽すこと有ること得ずといふ。
頭巾 唐令に云はく、諸そ時服に冬は則ち頭巾一枚を給せといふ。
幗 釈名に云はく、幗〈古誨反、去声、又、古獲反、知岐利加宇不利(ちきりかうぶり)、今、老嫗、之れを戴す〉は髻の上を覆ふ者なりといふ。唐韻に云はく、幗は婦人の喪の冠なりといふ。
冠帽具四十四
簪 四声字苑に云はく、簪〈作含反、又、則岑反、加無左之(かむさし)〉は冠に挿す釘なりといふ。蒼頡篇に云はく、簪は笄なりといふ。釈名に云はく、笄〈音は鶏、此の間に笄子と云ふ〉は係るなり、冠に抅りて墜ちざらしむる所以なりといふ。
巾子 弁色立成に云はく、巾子〈此の間に巾の音は渾の如し〉の幞頭の具にして髻に挿す所以の者なりといふ。
纓 唐韻に云はく、纓〈於盈反、俗に燕尾と云ふ〉は冠の纓なりといふ。礼記に云はく、玄纓、紫緌は魯の桓公より始まれりといふ。
緌 兼名苑に云はく、緌〈儒誰反、蕤と同じ〉は一名に老繋といふ。〈和名は冠乃乎(かうぶりのを)、一に保己須介(ほこすけ)と云ひ、又、於以加計(おいかけ)と云ふ。或説に云はく、老人は髻落ち、此れを以て冠を繋げて墜ちざらしむる故に老繋と名づくるなりといふ。今、老い少きを論はず、武官は皆、之れを用ゐる〉
擽鬢刷 文選に云はく、勁刷につよきくしはらひ理鬢〈李善に曰はく、通俗文に鬢を理むる所以に之れを刷(かきつくろ)ふと謂ふなりといふ。音は雪〉にかみををさむといふ。釈名に云はく、纛〈音は盗〉は導なり、鬢髪を導き擽く所以なりといふ。或に鬢を擽く〈擽の音は暦、加美加岐(かみかき)〉とす。
衣服類四十五〈野王案に、上に在るを衣と曰ひ、下に在るを裳と曰ひ、惣(すべ)ては之れを服と謂ふなりとす〉
袍 楊氏漢語抄に云はく、袍〈薄交反、宇倍乃岐沼(うへのきぬ)、一に朝服と云ふ〉は襴に着る袷衣なりといふ。
縫掖 考声切韻に云はく、䘸〈盈迹反、縫掖は万都波之乃宇倍乃岐奴(まつはしのうへのきぬ)〉は縫掖の衣の名なりといふ。
欠掖 楊氏漢語抄に蜀衫〈和岐阿介乃古路毛(わきあけのころも)〉と云ふ。本朝式に欠掖〈一に開掖と云ふ〉と云ふ。
半臂 蒋魴切韻に云はく、半臂〈此の間に名は字の如し、但し下の音は比〉は衣の名なりといふ。
汗衫 唐令に云はく、諸そ給する時服、夏は則ち汗衫一領といふ。〈衫の音は所銜反、衣の名なり〉
襴衫 楊氏漢語抄に襴衫〈須曽豆介乃古路毛(すそづけのころも)、一に奈倍之能古路毛(なへしのころも)と云ふ〉と云ふ。
襖子 唐令に云はく、諸給時に冬は則ち白襖子一領〈襖の音は烏老反、襖子は阿乎之(あをし)〉を服せといふ。
裲襠 唐韻に云はく、襠〈音は当〉は両襠、衣の名なりといふ。釈名に云はく、両襠〈今案ふるに両は或に裲に作る、宇知加介(うちかけ)〉は其の一を胸に当て、其の一を背に当つるなりといふ。唐令に云はく、慶善楽の舞する四人、碧綾𧛾襠〈上の音は苦盍反〉なりといふ。
背子〈領巾付〉 弁色立成に云はく、背子〈賀良岐沼(からぎぬ)〉の形は半臂の如し、腰の襴無き袷衣なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、背子は婦人の表衣、錦を以て之れを為るといふ。領巾〈日本紀私記に比礼(ひれ)と云ふ〉は婦人の項の上の飾りなりといふ。
裙裳〈裙帯付〉 釈名に云はく、上は裙〈唐韻に音は群と同じ、字は亦、裠に作ると云ふ〉と曰ひ、下は裳〈音は常、毛(も)〉と曰ふといふ。白氏文集に云はく、青羅の裙帯〈裙帯は此の間に字の如しと云ふ〉といふ。
衵 唐韻に云はく、衵〈人質反、又、尼質反、漢語抄に阿古女岐沼(あこめぎぬ)と云ふ〉は女人の身に近き衣なりといふ。
袿 漢書音義に云はく、諸于〈今案ふるに于は宜しく衧に作るべし、玉篇に見ゆ〉は大䘸衣、婦人の袿衣なりといふ。釈名に云はく、袿〈音は圭、漢語抄に褂に作り、宇知岐(うちぎ)と云ふ〉は婦人の上衣なりといふ。
衾 説文に云はく、衾〈音は金、布須万(ふすま)〉は大被なりといふ。四声字苑に云はく、衾は被の別名なりといふ。
裘 説文に云はく、裘〈音は求、加波古路毛(かはごろも)、俗に加波岐沼(かはきぬ)と云ふ〉は皮衣なりといふ。
単衣 釈名に云はく、衣の裏無きを単〈単衣は比止閉岐沼(ひとへぎぬ)、衣を謂ふに則ち袴たること、之れを知るべし〉と曰ふといふ。
袷衣 文選秋興賦に云はく、袷衣〈袷の音は古洽反、袷衣は阿波世乃岐沼(あはせのきぬ)〉を御すといふ。李善に曰はく、袷衣は絮(わた)無きなりといふ。
袴 蒋魴切韻に云はく、袴〈音は故、八賀万(はかま)〉は脛の上の衣の名なりといふ。釈名に云はく、褶〈音は邑、宇波美(うはみ)、本朝令に見ゆ〉は襲なり、袴の上を覆ふ衣なりといふ。
大口袴 唐令に云はく、慶善楽の舞する四人は白糸布の大口袴〈於保久知乃八賀万(おほぐちのはかま)、一に表袴と云ふ〉といふ。
袴奴 楊氏漢語抄に袴奴〈佐師奴岐乃波賀万(さしぬきのはかま)、或は俗語抄に絹狩袴と云ひ、或に岐奴乃加利八可万(きぬのかりばかま)と云ふ〉と云ふ。
布衣袴 文選に云はく、布衣〈此の間に獦衣は加利岐沼(かりぎぬ)と云ふ、衣を謂ふに則ち袴たること、之れを知るべし〉を振るといふ。世説に云はく、青布袴を著くなりといふ。
褌 方言注に云はく、袴にして跨(また)無きは之れを褌〈音は昆、須万之毛乃(すましもの)、一に知比佐岐毛能(ちひさきもの)と云ふ〉と謂ふといふ。史記に云はく、司馬相如、犢鼻褌を著くといふ。韋昭に曰はく、今、三尺の布にて之れを作り、形は牛の鼻の如き者なりといふ。唐韻に云はく、衳〈職容反、鍾と同じ、楊氏漢語抄に衳子は毛乃之太乃太不佐岐(ものしたのたふさぎ)と云ひ、一に水子と云ふ〉は小褌なりといふ。
襁褓 孫愐に曰はく、襁褓〈響保の二音、無豆岐(むつき)〉は小児の被なりといふ。
衣服具四十六
衿 釈名に云はく、衿〈音は領、古呂毛乃久比(ころものくび)〉は頸なり、頸を擁く所以なり、襟〈音は金〉は禁なり、前に交へて風寒きを禁(と)め禦(ふせ)く所以なりといふ。
紐子 説文に云はく、紐〈女久反、楊氏漢語抄に紐子は比毛(ひも)と云ふ〉は結びて解くべき者なりといふ。
袵 四声字苑に云はく、袵〈如甚反、於保久比(おほくび)〉は衣の前襟なりといふ。
袖 釈名に云はく、袖〈音は岫、曽天(そで)、下の二字は同じ〉は手を受くる所以なり、袂〈音は弊〉は開き張りて以て臂を受け屈げ伸すなり、袪〈音は居〉は其の中の虚(うろ)なりといふ。
䘸 方言注に云はく、䘸〈音は掖と同じ、古呂毛乃和岐(ころものわき)〉は衣の掖なりといふ。
襴 唐韻に云はく、襴〈音は蘭、俗に字の如く云ふ〉は衫なりといふ。
裾 陸詞に曰はく、裾〈音は居、古呂毛乃須曽(ころものすそ)、一に岐沼乃之利(きぬのしり)と云ふ〉は衣の下(しも)なりといふ。
表裏 説文に云はく、表〈碑矯反、宇閉(うへ)〉は衣の外なり、裏〈音は里、宇良(うら)〉は衣の内なりといふ。
襲 史記音義に云はく、衣の単複、相具ふるは之れを襲〈辞立反、加左禰(かさね)〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、襲は猶ほ重ねのごときなりといふ。
襞襀 周礼注に云はく、祭服、朝服は襞襀無数といふ〈辟積の二音、訓は比多米(ひだめ)、文選に見ゆ〉。
襷襅 続齊諧記に云はく、織りて襷〈本朝式に此の字を用ゐ、多須岐(たすき)と云ふ。今案ふるに出づる所、音義とも未だ詳(つばひら)かならず〉と成すといふ。日本紀私記に手繦〈訓は上に同じ、繦の音は響〉と云ふ。本朝式に襷襅各一条〈襅は知波夜(ちはや)と読む、今案ふるに未だ詳かならず〉と云ふ。
腰帯類四十七
紳 論語注に云はく、紳〈音は申〉は大帯なりといふ。唐令私記に云はく、大帯〈今案ふるに一名に博帯、礼服の時に著くる帯なり〉は繒を以て之れを為るといふ。
革帯 唐衣服令に云はく、革帯に玉鈎〈今案ふるに革帯は其の付くる所、金玉、石角等を以て名と為(し)、故に白玉帯、隠文帯、馬脳帯、波斯馬脳帯、紀伊石帯、出雲石帯、越石帯、斑犀帯、烏犀帯、散豆帯等の名有り、其の体に、純方、丸鞆、櫛上等の名有り、革帯は是れ其の惣名なり〉つけよといふ。
金隠起帯 唐鹵簿令に云はく、左右の金吾大将軍は各一人、紫の裲襠に金隠起帯つけよといふ。
金銅帯 唐楽令に云はく、宴楽伎一部儛の二十人は金銅腰帯に烏皮靴つけよといふ。
白犀帯 白氏詩に云はく、通天白犀の帯しめ、紫麟の袍きて地を照らすといふ。
䌟帯 唐韻に云はく、䌟〈蒲革反、欂と同じ。今案ふるに加良久美(からくみ)〉は糸を織りて帯と為るなりといふ。
接靿 唐楽令に云はく、承天楽舞の四人は紫の綾の袷袍に紫の接靿〈唐韻に於教反、此の間に接腰と云ふ〉つけよといふ。
白布帯 本朝式に白き布帯〈沼能於比(ぬのおび)〉と云ふ。
衿帯帶 陸詞に曰はく、衿〈音は襟と同じ、比岐於比(ひきおび)〉は小帯なりといふ。釈名に云はく、衿は禁なり、禁めて開き散(あか)つこと得ざるなりといふ。
勒肚巾 楊氏漢語抄に勒肚巾〈波良万岐(はらまき)、一に腹帯と云ふ〉と云ふ。
腰帯具四十八
䩠 唐韻に云はく、䩠〈他丁反、字は亦、鞓に作る、於比加波(おひかは)〉は皮帯䩠なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、腰帯の革の未だ鉸具を著けざるを䩠と為るなりといふ。
鉸具 楊氏漢語抄に云はく、鉸具〈上の音は古巧反、一音に教、鉸具は此の間に賀古(かこ)と云ふ。今案ふるに唐令に所謂る玉鈎は是なり、已上は上文に見ゆ〉は腰帯、及び鞍具の銅を以て革を属(つな)ぐなりといふ。
鉉子 楊氏漢語抄に云はく、鉉子〈上の音は胡犬反、上声の重〉は鞋銭を著くるなりといふ。
瑇瑁 曹憲に曰はく、瑇瑁〈代昧の二音、又、毒冒。今案ふるに以て帯具と為、故に付き出す〉は亀の如し、大海より出でて大きなる者は籧篨の如し、背の上に鱗有りて鱗の大きさ扇の如し、文章(あや)有りて将に器に作らむとせば則ち其の鱗を煮るに柔皮の如し、任意(ほしきまま)に之れを用ゐるといふ。
魚袋 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代〉は囊の名、又、金銀魚袋といふ。唐令に云はく、諸そ百官は魚袋もてといふ。並びに中尚をして預め造り進ら令むるなり〈以上は注なり〉。
履襪類四十九
履 唐韻に云はく、草を屝〈音は翡〉と曰ひ、麻を屨〈音は句〉と曰ひ、革を履〈音は李、久豆(くつ)、鞜の字を用ゐる、音は沓〉と曰ふといふ。黄帝の臣、於、則ち造るなり。
襪 説文に云はく、襪〈音は末、字は亦、韈に作る、之太久豆(したぐつ)〉は足の衣なりといふ。
靴 唐令に烏皮靴、赤皮靴〈音は戈、字は亦、鞾に作る、化乃久豆(けのくつ)〉と云ふ。
深頭履 釈名に云はく、韋履の深頭を靸〈先立反、又、靸鞋は下文に見ゆ。今案ふるに此の間に深履と云ひ、其の頭の短き者は之れを半靴と謂ふ〉と曰ふといふ。其の深く襲ひ足を覆ふなるを言ふ。
単皮履 唐令に云はく、諸そ舄履、並びに烏色舄は重皮底、履は単皮底といふ〈舄の音は思積反、字は亦、𩍆に作る、和名は履と同じ。今案ふるに野人は鹿の皮を以て半靴を為り名けて多鼻(たび)と曰ふ、宜しく此れ単皮の二字を用ゐるべきか〉。
鼻高履 楊氏漢語抄に突子〈突の音は他骨反、已上は本の注〉と云ふ。今、僧侶の著く所の鼻広履は是か。〈今案ふるに鼻高履なり〉
線鞋 弁色立成に云はく、線鞋〈上は仙戦反、字は亦、綫に作る、下は戸佳反、又、戸皆反。楊氏漢語抄に千開乃久都(せんかいのくつ)と云ふ〉と絁綫は兼ねて用ゐ、男女を通して著くといふ。
糸鞋 弁色立成に糸鞋〈伊止乃久都(いとのくつ)〈已上本注〉、今案ふるに俗に之賀伊(しかい)と云ふ〉と云ふ。
麻鞋 顔氏家訓に麻鞋一屋と云ふ。〈麻鞋は乎久豆(おぐつ)、弁色立成に麻鞋は麻を以て之れを為ると云ふ〉
錦鞋 弁色立成に云はく、錦鞋〈此の間に音は今開〉は綵を以て之れを為り、形は皮履の如しといふ〈綵の音は采、綾采なり〉。
靸鞋 唐韻に云はく、靸〈蘇合反、字は亦、𩎕に作り、靸鞋は俗に𢮿の字と為。未だ詳かならず〉は小児の履なりといふ。
木履 続漢書に云はく、袁宏、木履〈楊氏漢語抄に木履は紀具都(きぐつ)と云ふ〉を著くといふ。
屐 兼名苑に云はく、屐〈音は奇逆反、阿師太(あしだ)〉は一名に足下といふ。
屣屐 史記注に云はく、屣〈所綺反、徒と同じ。漢語抄に屐屣は久都々計乃阿之太(くつつけのあしだ)と云ひ、一に屐子と云ふ〉は履の属なりといふ。
屩 同注に云はく、屩〈居灼反、脚と同じ、字は亦、〓〔尸+彳+甘+冂+半〕に作る、和良久豆(わらぐつ)〉は草屝なりといふ。
草履 楊氏漢語抄に草履〈和名は屩と同じ、俗に佐宇利(ざうり)と云ふ〉と云ふ。
履襪具五十
履楦 唐韻に云はく、楥〈虚願反、一音に運、字は亦、楦に作る。今案ふるに此の間に久都加太(くつがた)と云ふは是か〉は靴履の楦(きがた)、又、法(のり)なりといふ。
履屧 野王案に曰はく、屧〈思協反、久都和良(くつわら)、一に久都乃之岐(くつのしき)と云ふ〉は履の中の薦なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、履屧は一名に履苴〈七余反、又、苞苴の苴、厨膳具に見ゆ〉といふ。
靴氈 唐令に、諸(およ)そ給する時服、春秋に各、給する靴一両并びに氈〈諸延反、楊氏漢語抄に靴氊、靴裏氈なりと云ふ〉と云ふ。
靴帯 楊氏漢語抄に云はく、靴条〈吐刀反、韜と同じ〉は靴の跟(くびす)に繋くる所以なりといふ。或に革を以て之れを為り、喚びて靴帯と云ふ。
屐系〈鼻縄付〉 風俗通に云はく、延喜年中に京師の長者は皆、屐を著く、婦女の始めて嫁ぐに至り、漆画の五綵を系〈今案ふるに唐韻に胡計反、緒なり、然れば則ち屐の系は阿之太乎(あしだを)なり〉に為るといふ。本草に屐の鼻縄の灰と云ふ。
屩耳 唐令に青耳屩〈今案ふるに屩耳は俗人に云ふ屩之乳(わらぐつのち)か〉と云ふ。
屩靪 唐韻に云はく、靪〈音は丁、今案ふるに下賤の人、牛皮を以て屩の下に補ひ著くるを太知波女(たちはめ)と云ふ。宜しく此の字を用ゐるべきか〉は履の下を補ふなりといふ。
飲食類第十一
薬酒類五十一 水漿類五十二 飯餅類五十三 麴糵類五十四〈粮付け出し〉 酥蜜類五十五 果菜類五十六 魚鳥類五十七 塩梅類五十八〈薑、椒、橘皮等付け出し〉
薬酒類五十一
薬 食療経に云はく、飢を充すは則ち之れを食と謂ひ、疾を療すは則ち之れを薬〈以灼反、久須利(くすり)〉と謂ふといふ。
煎 考声切韻に云はく、煎〈音は箭、又、字の如し〉は薬を煮て汁を調は令むるなりといふ。
酒 食療経に云はく、酒〈佐介(さけ)〉は五穀の華にして味の至なり、故に能く人を益(たす)け、亦、能く人を損ふといふ。
醴 四声字苑に云はく、醴〈音は礼、古佐計(こさけ)〉は一日一宿の酒なりといふ。
醪 玉篇に云はく、醪〈力刀反、漢語抄に濁醪は毛呂美(もろみ)と云ふ〉は汁滓の酒なりといふ。
醅〈釃字付〉 説文に云はく、醅〈音は盃と同じ、漢語抄に加須古女(かすごめ)と云ひ、俗に糟米と云ふ〉は醇の未だ釃(した)まざるなりといふ。唐韻に云はく、釃〈所宜反、又、上声、釃酒は佐介之多無(さけしたむ)、俗に阿久(あく)と云ふ〉は下酒なりといふ。
醇酒 唐韻に云はく、醇〈音は淳、日本紀私記に醇酒は加太佐介(かたさけ)と云ふ〉は厚酒なりといふ。
酎酒 説文に云はく、酎〈直祐反、漢語抄に豆久利加倍世流佐介(つくりかへせるさけ)と云ふ〉は三重に醸す酒なりといふ。西京雑記に云はく、正旦に酒を作り八月に成る、名けて酎酒と曰ひ、一名に九醞〈於運反、通俗文に国家に於て醞酘酒なりと云ふ。蒋魴切韻に云はく、酘は於厨反、酒に再び麹を下すなりといふ。俗語に曽比(そひ)と云ふ〉といふ。
𨣌酒 陸詞に曰はく、𨣌〈音は覃、一音に湛。日本紀私記に甜酒は多無佐介(たむさけ)と云ふ。今案ふるに此の字を用ゐるべし〉の酒は味、長なりといふ。
酵 楊氏漢語抄に云はく、酵〈音は教、之良賀須(しらかす)〉は白酒の甘きなりといふ。
醨 唐韻に云はく、醨〈音は離、之流(しる)、一に毛曽呂(もそろ)と云ふ〉は酒、薄きなりといふ。
糟 説文に云はく、糟〈子労反、賀須(かす)〉は酒の滓なりといふ。
酒蟣 文選注に云はく、浮蟣〈師説に佐加岐佐々(さかきささ)と云ふ〉は酒蟣、上に在りて汎々然として萍(うきくさ)の如き者なりといふ。
酒膏 同注に云はく、醪敷〈佐加阿布良(さかあぶら)〉は酒膏なりといふ。
肴 野王案に凡そ穀に非ずして食ふは之れを肴〈胡交反、字は亦、餚に作る、佐加奈(さかな)、一に布久之毛乃(ふくしもの)と云ひ、本朝令に見ゆ〉と謂ふとす。
水漿類五十二
漿 四時食制経に云はく、春は宜しく漿甘水〈漿の音は即良反、豆久利美豆(つくりみづ)、俗に邇於毛比(におもひ)と云ふ〉を食ふべしといふ。食療経に云はく、凡そ熱膩物を食ひて冷酢漿〈師説に冷酢は比伊須由礼流(ひいすゆれる)と読む〉を飲むこと勿れといふ。
氷漿 四声字苑に云はく、氷〈筆綾反、比(ひ)〉は水寒く凍り結ぶなりといふ。膳夫経に云はく、立秋の後、氷漿を飲むこと得ずといふ。
白飲 四時食制経に云はく、冬は宜しく白飲〈古美豆(こみづ)、今案ふるに濃漿の名なり〉を食ふべしといふ。
糄𥻨 唐韻に云はく、糄𥻨〈褊索の二音、比女(ひめ)、或説に非米は非粥の義なりと云ふ〉は米を煮て水を多くする者なりといふ。
粥 唐韻に云はく、饘〈諸延反、加太賀由(かたがゆ)〉は厚粥なりといふ。四声字苑に云はく、粥は周人の呼ぶ粥なり〈之叔反、之留加由(しるがゆ)〉、薄き糜なりといふ。
署預粥 崔禹食経に云はく、千歳虆の汁の状、薄蜜の甘美なるが如し、署預を以て粉と為(し)、汁に和へて粥を作り之れを食はば五臓を補ふといふ。〈署預粥は以毛賀由(いもがゆ)〉
茶茗 爾雅集注に云はく、茶〈宅加反、字は亦、𣗪に作る〉は小さき樹にして支子に似、其の葉、煮て飲と為べし、今、早採を呼びて茶と為、晩採を茗〈音は酩〉と為、茗は一名に荈〈音は喘〉といふ。風土記に云はく、荈は茗の老葉の名なりといふ。
飯餅類五十三
𩝶饙 四声字苑に云はく、𩝶饙〈修紛の二音、漢語抄に加太加之岐乃以比(かたかしきのいひ)と云ふ〉は半熟の飯なりといふ。
強飯 史記に云はく、廉頗は強飯、斗酒に宍十斤〈飯の音は符万反、亦、飰𩚳に作る、強飯は古八伊比(こはいひ)〉を食ふといふ。
𩚖飯 唐韻に云はく、𩚖〈女救反、字は亦、糅に作る、加之岐可天(かしきかて)〉は雑飯なりといふ。
油飯 楊氏漢語抄に云はく、膏味〈阿不良以比(あぶらいひ)〉は麻油の炊飯なりといふ。一に玄熟と云ふ。
糒 野王案に糒〈孚秘反、備と同じ、保之以比(ほしいひ)〉は乾飯なりとす。
餉 四声字苑に云はく、餉〈式𠅙反、訓は加礼比於久留(かれひおくる)、俗に加礼比(かれひ)と云ふ〉は食(いひ)を以て人に遺るなりといふ。
餅〈殕字付〉 釈名に云はく、餅〈音は屏、毛知比(もちひ)〉は糯麺を合并(あは)せ令むるなりといふ。胡餅は胡麻を以て之れに著く〈今案ふるに麺麦粉なり、此の間に餅粉を阿礼(あれ)といふは是なり〉。四声字苑に云はく、殕〈孚乳反、撫と同じ、今案ふるに訓は賀布(かぶ)〉は食の上に生(あ)れし白き者なりといふ。
餅腅 楊氏漢語抄に云はく、裹む餅の中に鵝鴨等の子、并びに雑菜を納れ煮合せて方(けだ)に截るもの、一名に餅腅〈玉篇に腅は達監反、肴なり〉といふ。
糉 風土記に云はく、糉〈作弄反、字は亦、粽に作る、知末岐(ちまき)〉は菰の葉を以て米を裹み、灰汁を以て之れを煮て爛熟せ令しめ、五月五日に之れを啖(くら)ふといふ。
餻 考声切韻に云はく、餻〈古労反、字は亦、𩝝に作る、久佐毛知比(くさもちひ)〉は米屑を蒸して之れを為るといふ。文徳実録に云はく、嘉祥三年の訛言に、今玆(ことし)三日に餻を造るべからず、母子無きを以てなりと曰ふといふ。
餢飳 蒋魴切韻に云はく、餢飳〈部斗の二音、亦、䴺𪌘に作る、布止(ぶと)、俗に伏兎と云ふ〉は油煎餅の名なりといふ。
糫餅 文選に云はく、膏糫は粔籹といふ〈糫の音は還、粔籹は下文に見ゆ〉。楊氏漢語抄に糫餅〈形は藤葛の如き者なり、万加利(まがり)〉と云ふ。
結果 楊氏漢語抄に結果〈形は緒を結ぶ如し、此の間に亦、之れ有り、今案ふるに加久乃阿和(かくのあわ)〉と云ふ。
捻頭 楊氏漢語抄に捻頭〈無岐加太(むぎかた)、捻の音は奴協反、一に麦子と云ふ〉と云ふ。
索餅 釈名に云はく、蝎餅、䯝餅、金餅、索餅〈無岐奈波(むぎなは)、大膳式に手束索餅は多都賀(たつか)と云ふ〉は皆、形に随ひて之れを名くといふ。
粉熟 弁色立成に粉粥〈米粥を以て之れを為る、今案ふるに粉粥は即ち粉熟なり〉と云ふ。
餛飩 四声字苑に云はく、餛飩〈渾屯の二音、上の字は亦、餫に作る、唐韻に見ゆ〉は、餅を肉として剉みて麺とし之れを裹み煮るといふ。
餺飥〈衦字付〉 楊氏漢語抄に云はく、餺飥〈博託の二音、字は亦、𪍡𪌂に作る、玉篇に見ゆ〉は衦麺、方に切る名なりといふ。四声字苑に云はく、衦〈古旱反、上声の重〉は摩り展ぶるための衣なりといふ。
煎餅 楊氏漢語抄に云はく、煎餅〈此の間に字の如しと云ふ〉は油を以て熬る小麦の麺の名なりといふ。
餲餅 四声字苑に云はく、餲〈音は蝎と同じ、俗に餲餬と云ふ。今案ふるに餬は食に寄するなり、餅の名と為るは未だ詳かならず〉は餅の名、麺を煎りて蝎虫の形に作るなりといふ。
黏臍 弁色立成に黏臍〈油餅の名なり、黏り作り人の膍臍に似するなり、上の音は女廉反、下の音は斉〉と云ふ。
饆饠 唐韻に云はく、饆饠〈畢羅の二音、字は亦、〓〔麥偏に必〕𪎆に作る。俗に比知良(ひちら)と云ふ〉は餌の名なりといふ。
䭔子 唐韻に云はく、䭔〈都回反、又、音は堆と同じ、此の間に音は都以之(ついし)〉は䭔子なりといふ。
歓喜団 楊氏漢語抄に歓喜団と云ふ。〈品(しなじな)の甘物を以て之れと為。或説に一名を団喜と云ふ。今案ふるに俗説に梅枝、桃枝、餲餬、桂心、黏臍、饆饠、䭔子、団喜は之れを八種の唐菓子と謂ふ。其の見ゆる有るは、已に上文に挙ぐ〉
麴糵類五十四
麹 釈名に云はく、麹〈音は菊、加無太知(かむたち)〉は朽なりといふ。之れを鬱(む)して衣を生み朽ち敗れ使むるなりといふ。
糵 説文に云はく、糵〈魚列反、与禰乃毛夜之(よねのもやし)〉は牙米なりといふ。本草に云はく、糵米、味は苦、毒無し、又、麦の糵有りといふ。
粉 唐式に云はく、并州は毎年、粉五十石を造り、官驢を以て駄し所司に運び送れといふ。〈粉は方吻反、古(こ)〉
麺 説文に云はく、麺〈莫甸反、去声の軽、無岐乃古(むぎのこ)〉は麦粉なりといふ。粖〈音は末〉は米麦の細かき屑なりといふ。
大豆麨 食療経に云はく、麨〈尺紹反、字は亦、𪍑に作る、末女豆岐(まめつき)〉は一歳已上、十歳已下の小児に与ふること勿れ、之れを食はば気壅りて死ぬといふ。
糄米 唐韻に云はく、糄〈音は篇、夜岐古女(やきごめ)、𥻨の処は上声〉は稲を焼きて米を為るなりといふ。
粔籹 文選注に云はく、粔籹〈巨女の二音、於古之古女(おこしごめ)〉は蜜を以て米に和へ煎り作るなりといふ。
粮 考声切韻に云はく、糧〈音は涼、字は亦、粮に作る、賀天(かて)〉は行く所に齎(もたら)す米なりといふ。又、食を儲くなりといふ。
酥蜜類五十五
醍醐 蘇敬に曰はく、醍醐〈啼胡の二音、此の間に音は内五、醐の字は或に𩚩に作る。餬は唐韻に見ゆ〉は是れ酥の精なる液なりといふ。陶隠居に曰はく、一名に解酥といふ。𥡱一斛の中より四升を得るなるを言ふ。
酥 陶隠居に曰はく、酥〈音は蘇と同じ、俗に音は曽〉は牛羊の乳の所為なりといふ。
酪 通俗文に云はく、牛羊の乳を温むるを酪〈盧各反、乳酪は邇宇能可遊(にうのかゆ)〉と曰ふといふ。
乳䴵 陶隠居に云はく、乳を酪と成し、酪を酥と成し、酥を醍醐と成す、色、黄白にして䴵を作らば甚だ甘肥といふ。〈今案ふるに䴵は即ち餅の字なり。乳䴵、此の間に乳脯とするは是〉
飴 説文に云はく、飴〈音は怡、阿女(あめ)〉は米の糵、之れを為るといふ。
蜜 説文に云はく、蜜〈音は密、此の間に美知(みち)と云ふ〉は甘き飴なりといふ。野王案に蜂は百花を採り醞醸して成す所なりといふ。
千歳虆汁 本草に云はく、千歳虆汁、味は甘、平にして毒無し、筋骨に続き、肌肉を長くす、一名に虆蕪〈纍無の二音〉といふ。蘇敬に曰はく、即ち今の蘡薁、藤汁は是なりといふ。〈嬰奥の二音、嬰育は和名に阿末都良(あまづら)、本朝式に甘葛煎と云ふ〉
菓菜類五十六
笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈(たかむな)〉は竹の初めて生ゆるなりといふ。本草に云はく、竹筍、味は甘、平にして毒無く、焼きて之れを服すといふ。
長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈之乃女(しのめ)〉は笋の青く、最も晩く生え味は大苦といふ。
生菜 食療経に云はく、生菜は蟹足と食ひ合はすべからずといふ。
烝 礼記注に云はく、㵩〈私列反、師説に無之毛乃(むしもの)〉は烝なりといふ。野王案に烝〈之縄反〉は火気(ほけ)の上り行くなりとす。
茹 文選伝玄詩に云はく、厨人には藿茹を進められ、酒有るも坏に盈たされずといふ。〈茹の音は人恕反、由天毛乃(ゆでもの)、藿の音は霍、葵藿(ふゆあふひ)なり〉
𦵔 説文に云はく、𦵔〈側魚反、邇良岐(にらき)。楊氏漢語抄に楡末(にれのこな)の菜なりと云ふ〉は菜の鮓なりといふ。
黄菜 崔禹食経に云はく、温菘、味は辛、是れ人の黄菜を作りて常に噉ふ者なりといふ。〈黄菜は此の間に王佐以(わうさい)と云ひ、一に佐波夜介(さはやけ)と云ふ〉
蘴 唐韻に云はく、蘴〈音は豊、久々太知(くくたち)、俗に茎立の二字を用ゐる〉は蔓菁の苗なりといふ。
菌茸 崔禹食経に云はく、菌茸〈而容反、上は渠殞反、上声の重。爾雅注に菌に木菌、土菌有り、皆、多介(たけ)と云ふ〉は之れを食ふに温、小毒有り、状は人の笠を著るが如き者なりといふ。
羹 楚辞注に云はく、菜有るを羹〈音は庚、阿豆毛乃(あつもの)〉と曰ひ、菜無きを臛〈呼各反、和名は上に同じ。今案ふるに是れは魚鳥の肉を以て羹と為るなり〉と曰ふといふ。
魚鳥類五十七
鱠 唐韻に云はく、鱠〈音は会、奈万須(なます)〉は細切の宍なりといふ。
鮨 爾雅注云鮨〈渠脂反、耆と同じ、須之(すし)〉は鮓の属なりといふ。野王案に大魚を𩺃〈側下反、今に即ち鮓の字なり〉と曰ひ、小魚を𩷒〈音は侵、一音に蹔〉と曰ふといふ。
䐿 四声字苑に云はく、䐿〈烏到反、今案ふるに俗に加須毛美(かすもみ)と云ふ〉は糟に蔵むる肉なりといふ。
䐹 礼記注に云はく、䐹〈音は周、保之以乎(ほしいを)、本朝令に見ゆ〉は乾魚なりといふ。
魚条 遊仙窟に東海の鯔条〈魚条は須波夜利(すはやり)と読む、本朝式に楚割と云ふ〉と云ふ。
魥 唐韻に云はく、魥〈音は怯、今案ふるに乎佐之(をざし)、一に与知乎佐之(よちをざし)と云ふ〉は竹を以て魚を貫く、復州の界より出づるなりといふ。
炒㷶 唐韻に云はく、炒㷶〈早備の二音、漢語抄に炒㷶魚は比保之乃以乎(ひぼしのいを)と云ひ、俗に火干と云ふ〉は火乾なりといふ。
炙 唐韻に云はく、炙〈之夜反、又、之石反、阿布利毛乃(あぶりもの)〉は炙宍といふ。説文に字は月火に従ふ。
炰 礼記注に云はく、炰〈薄交反、豆豆美夜岐(つつみやき)〉は裹焼なりといふ。
臛 楚辞に、𩺀(ふな)を煎り雀を臛にすと云ふ。〈臛の音は呼各反、訓は羹と同じ、已に上文に見ゆ〉
臇 玉篇に云はく、臇〈音は雖、一音に浅、以利毛乃(いりもの)〉は少なき汁の臛なりといふ。
寒 文選に鶬を寒し、麑を蒸すと云ふ。〈師説に寒を古与之毛乃(こよしもの)と読む、此の間に邇古与春(にこよす)と云ふ〉
魚頭 食療経に云はく、婦人、身任りて魚頭を得(え)食らはじ、胎を損ふといふ。〈今案ふるに鯉の魚頭を煮るは之れを魚頭と謂ふ、故に別に挙ぐ〉
氷頭〈背腸付〉 本朝式に、年魚、氷頭、背腸と云ふ〈年魚は鮭魚なり、氷頭は比豆(ひづ)なり、背腸は美奈和太(みなわた)なり。或説に背を皆と為るは訛りなりと謂ふ〉。
雉脯 遊仙窟に西山の鳳脯〈音は甫、師説に保之止利(ほしどり)、俗に干鳥の二字を用ゐる〉と云ふ。
腊 唐韻に曰はく、腒腊〈居昔の二音、岐太比(きたひ)〉は乾肉なりといふ。方言に云はく、鳥腊を膴〈音は無、又、武〉と曰ふといふ。
鹿脯 説文に云はく、脯〈音は甫、保師々之(ほしじし)〉は乾肉なりといふ。礼記に、牛脩、鹿脯と云ふ〈脩は亦、脯なり、音は秋〉。
醢 爾雅注に云はく、醢〈乎改反、海と同じ、之々比之保(ししびしほ)〉は宍醬なりといふ。陶隠居に曰はく、肉醬、魚醬は皆、呼びて醢と為、薬に入れて用ゐずといふ。
〓〔月偏に簫〕 唐韻に云はく、〓〔月偏に簫〕〈蘇弔反、嘯と同じ。今案ふるに鹿〓〔月偏に簫〕は俗に阿閉豆久利(あへづくり)と云ふは是なり〉は宍を切りて合せ糅むなりといふ。
頭脳 崔禹食経に云はく、鹿頭脳は内熱を治すといふ。〈今案ふるに煮鹿頭の名は之れを頭脳と謂ふ、故に別に置く〉
餗 周易注に云はく、餗〈音は束、訓は古奈加岐(こなかき)〉は鼎の実なりといふ。
塩梅類五十八〈尚書注に云はく、塩は鹹なり、梅酢なりといふ。四声字苑に云はく、韲〈即黎反、訓は安不(あふ)〉は薑蒜を擣き醋を以て之れを和ふるをいふ。〉
塩 陶隠居に曰はく、塩に九種有り、白塩は人の常に食へるなりといふ。崔禹食経に云はく、石塩は一名に白塩、又、黒塩〈余廉反、之保(しほ)。日本紀私記に堅塩は岐多之(きたし)と云ふ〉有りといふ。
酢 本草に云はく、酢酒、味は酸、温にして毒無しといふ〈酢は倉故反、字は亦、醋に作る、須く酸くべし、音は素官反〉。陶隠居に曰はく、俗に呼びて苦酒〈今案ふるに鄙語に酢を謂ひて加良佐介(からさけ)と為、此の類なり〉と為といふ。
醬 四声字苑に云はく、醬〈即亮反、比之保(ひしほ)。別に唐醬有り〉は豆醢なりといふ。
煎汁 本朝式に堅魚の煎汁〈加豆乎以路利(かつをいろり)〉と云ふ。
末醤 楊氏漢語抄に高麗醤と云ふ。〈美蘇(みそ)、今案ふるに弁色立成の説に同じ。但し本義は未だ詳かならず。俗に味醤の二字を用ゐる。味は宜しく末に作るべし。何となれば則ち通俗文の末は楡楊なるの義なり。而して末は訛りて未と為り、未は転じて味と為る。又、志賀末醤、飛騨末醤有り。志賀夷醤未は搗末の義なり。志賀は近江国の郡の名、各、其の出づる所の国、郡を以て名と為るなり〉
豉 釈名に云はく、豉〈是義反、久岐(くき)〉は五味の調ひ和ふる者なりといふ。
搗蒜 食療経に搗蒜韲〈比流都岐(ひるつき)〉と云ふ。
薑〈乾薑付〉 膳夫経に云はく、空腹に生薑〈居良反、久礼乃波之加美(くれのはじかみ)、俗に阿奈波之加美(あなはじかみ)と云ふ〉を食ふこと勿れといふ。養性要集に云はく、乾薑は一名に定薑といふ〈保之波之加美(ほしはじかみ)〉。
蜀椒 蘇敬本草注に云はく、蜀椒〈音は蕭、奈留波之加美(なるはじかみ)、一に不佐波之加美(ふさはじかみ)と云ふ〉は蜀郡に生る、故、以て名くといふ。
辛夷 崔禹食経に云はく、辛夷〈夜万阿良々岐(やまあららぎ)、一に古不之波之加美(こぶしはじかみ)と云ふ〉は其の子は之れを噉ふべしといふ。
山葵 養生秘要に云はく、山葵〈和佐比(わさび)。漢語抄に山薑と云ふ〉は補益の食なりといふ。
蘭蒚 養生秘要に蘭蒚〈蒚の音は隔、阿良々岐(あららぎ)〉と云ふ。
薄𦺞 養生秘要に薄𦺞〈波加(はか)、今案ふるに𦺞の字、出づる所未だ詳かならず〉と云ふ。
胡荽 崔禹食経に云はく、胡荽〈息遺反、古邇之(こにし)〉、味は辛、臭、一名に香荽、魚鳥の膾に最も要と為といふ。博物志に云はく、張鶱、西域に入りて之れを得、故に胡荽と曰ふなりといふ。
芥 本草に云はく、芥、味は辛、鼻に帰るらしといふ。〈芥の音は介、賀良之(からし)〉
蓼 崔禹食経に云はく、青蓼〈力鳥反、多天(たで)〉は人家恒に之れを食ふといふ。又、紫蓼有り。
胡桃 七巻食経に云はく、胡桃、味は甘、温、之れを食へば油有りて甚だ美しといふ〈久留美(くるみ)〉。博物志に云はく、張騫、西域に使ひして還る時に之れを得といふ。
韲 四声字苑に云はく、韲〈即嵆反、訓は安不(あふ)、一に阿倍毛乃(あへもの)と云ふ〉は薑蒜を擣き醋を以て之れを和ふといふ。
橘皮 本草注に云はく、橘皮は一名に甘皮といふ〈太知波奈乃加波(たちばなのかは)、一に岐賀波(きがは)と云ふ〉。
器皿部第十二〈四声字苑に云はく、皿は武永反、器の惣名なり。柄の音は筆病反、器物の茎柯なり、衣(え)、一に賀良(から)と云ふ〉
金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三
金器五十九
鼎 説文に云はく、鼎〈都梃反、頂と同じ、阿之加奈倍(あしかなへ)〉は三足に両耳あり、五味を和(ととの)ふる宝器なりといふ。
釡 古史考に云はく、釡〈扶雨反、上声の重、輔と同じ、賀奈倍(かなへ)〉は黄帝、造るなりといふ。
鍑 四声字苑に云はく、鍑〈音は富、漢語抄に佐加利(さがり)と云ひ、俗に懸釡の二字を用ゐる〉は釡にして大口なるをいふ。一に小釡なりと云ふ。
銚 四声字苑に云はく、銚〈徒弔反、弁色立成に銚子は佐之奈閉(さしなべ)と云ひ、俗に佐須奈閉(さすなべ)と云ふ〉は焼く器にして鎢錥に似て上に鐶有るなりといふ。唐韻に云はく、鎢錥〈烏育の二音〉は温むる器なりといふ。
鑊子 周礼注に云はく、鑊〈音は獲、此の間に鑊子と云ふ。煖め頂く器と以為(おも)ふ〉は肉を煮る器なりといふ。
鎗 唐韻に云はく、鎗〈音は楚庚反、字は亦、鐺に作る、阿之奈倍(あしなべ)、或説に云はく、俗に甑非ざりて炊ける飯、之れを鐺飯と謂ふは音の訛りなりと云ふといふ〉は小鼎なり、鐎〈即遥反〉は温むる器の三足にして柄有るなりといふ。
鍋 唐式に、鉄鍋、食単、各(おのおの)一つと云ふ。〈鍋の音は古禾反、鉄鍋は加奈々倍(かななべ)〉
鏊 四声字苑に云はく、鏊〈五到反、今案ふるに此の間に煎餅盤と云ふは是なり〉は餅を炒る鉄盤なりといふ。
鈔鑼 唐韻に鈔鑼〈沙羅の二音、俗に沙不良(さふら)と云ふ。今案ふるに、或説に新羅の金椀、新羅国より出づ。後の人、新を訛りて雑と為。故に雑羅と云ふ。是の説、未だ詳かならず〉と云ふ。
鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、字は亦、盋に作る、唐韻に見ゆ。俗に波知(はち)と云ふ〉は仏道を学ぶ者の食器なり、胡人は之れを盂と謂ふなりといふ。
鋺 日本霊異記に云はく、其の器は皆、鋺といふ。〈俗に加奈万利(かなまり)と云ふ。今案ふるに鋺の字、未だ詳かならず。古語に椀を末利(まり)と為。宜しく金椀の二字を用ゐるべし〉
漆器六十
樽〈酒海付〉 弁色立成に云はく、樽〈音は尊、此の間に去声と云ふ。字は亦、罇に作る、説文に見ゆ〉は酒樽に脚有る酒器なりといふ。蒋魴切韻に云はく、樽は酒海なりといふ〈今案ふるに此の間に樽有る所と酒海と、各異なる、故に以て付け出す〉。
壺 周礼注に云はく、壺〈音は胡、都保(つぼ)〉は飲を盛る所以なりといふ。兼名苑に云はく、壺は一名に𢀿なりといふ〈唐韻に𢀿の音は謹、瓢を以て酒器と為るなり〉。
酒台〈台子付〉 東宮旧事に漆の酒台と云ふ。弁色立成に台子〈志利佐良(しりざら)〉と云ふ。
大槃木 唐式に大槃と云ふ。〈本朝式に朱漆の台盤、黒漆の台盤と云ふ〉
櫑子 唐韻に云はく、櫑〈音は雷、字は亦、罍に作る。本朝式に櫑子と云ふ〉は酒器なりといふ。
畳子 唐式に、飯椀、羹畳子、各一つと云ふ。〈楊氏漢語抄に畳子は宇流之沼利乃佐良(うるしぬりのさら)と云ふ〉
合子 同式に云はく、尚食局、漆器は三年に一たび換へ供ふ、換ふ毎に節料、朱合等は五年に一たび換ふといふ〈今案ふるに朱合は此の間に朱漆の合子なりと云ふ〉。
匜 説文に云はく、匜〈初爾反、一音に移、俗に楾の字を用ゐるも未だ詳かならず〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべき器なりといふ。
盥 説文に云はく、盥〈古満反、管と同じ、俗に手洗の二字を用ゐる。已上の二物具は下の澡浴具に見ゆ〉は手を澡(あら)ふなりといふ。
木器六十一
厨子 弁色立成に云はく、竪櫃〈竪は立なり、臣庚反、上声の重〉は厨子の別名なりといふ。
櫃 蒋魴切韻に云はく、櫃〈音は貴、比豆(ひつ)、俗に長櫃、韓櫃、明櫃、折櫃、此等の名有り〉は厨に似て上を向きて開き闔る器なりといふ。
檈 四声字苑に云はく、檈〈似泉反、旋と同じ、今案ふるに俗に台と云ふは是〉は円き案なりといふ。
机〈牙脚付〉 唐韻に云はく、机〈音は几〉は案の属なりといふ。史記に云はく、案を持ちて進食(みを)すといふ〈案の音は按、都古恵(つくゑ)〉。唐式に行床の牙脚と云ふ〈今案ふるに牙脚は此の間に牙象脚なりと云ふ〉。
𣝑 唐韻に云はく、𣝑〈音は予、今案ふるに俗に中取(なかどる)と云ふは是なり〉は食を舁(にな)ふ器なりといふ。
臼〈杵付〉 四声字苑に云はく、臼〈巨久反、上声の重、宇須(うす)〉は穀を舂(うすづ)く器なり、杵〈昌与反、岐禰(きね)〉は舂く槌なりといふ。
碓 祝尚丘に曰はく、碓〈音は対、字は亦、磓に作る、賀良宇須(からうす)〉は踏み舂く具なりといふ。兼名苑に云はく、碓は一名に𥕐〈音は的〉、魯般が造るなりといふ。
磑 兼名苑に云はく、磑〈五対反〉は一名に䃀〈音は砌〉、磨礱なりといふ。唐韻に云はく、磨礱〈麻籠の二音、又、並びに去声、須利宇須(すりうす)〉は磑なりといふ。
甑〈甑帯付〉 蒋魴切韻に云はく、甑〈音は勝、古之岐(こしき)〉は飯を炊ぐ器なりといふ。本草に甑帯灰〈古之幾和良乃波飛(こしきわらのはひ)〉と云ふ。弁色立成に炊単なりと云ふ。
酒槽 文選酒徳頌注に云はく、槽〈音は曹、佐加布禰(さかふね)〉は今の酒槽なりといふ。
桶 蒋魴切韻に云はく、桶〈徒惣反、上声の重、又、他孔反、乎介(をけ)〉は水を井に汲む器なりといふ。
杓〈瓢付〉 唐韻に云はく、杓〈音は酌、比佐古(ひさご)〉は水を斟む器なりといふ。瓢〈符霄反、奈利比佐古(なりひさご)〉は瓠なり、瓠〈音は護〉は匏なり、匏〈薄交反〉は飲む器に為べき者なりといふ。
棬 陸詞切韻に云はく、棬〈音は拳、漢語抄に佐須江(さすえ)と云ふ〉は器にして斗の属に似て木を屈めて之れを為るといふ。考声切韻に盃の類なりと云ふ。
笥 礼記注に云はく、笥〈思吏反、介(け)〉は食を盛る器なりといふ。
衦麺杖 弁色立成に、衦麺杖〈牟岐於須紀(むぎおすき)、上の音は各旱反〉と云ふ。
茶研 章孝標集に黄楊木茶碾子詩有り〈碾の音は展、訓は岐之流(きしる)〉。
瓦器六十二〈瓦器は一に陶器と云ふ。陶の訓は須恵毛乃(すゑもの)〉
大甕 弁色立色に大甕〈美賀(みか)〉と云ふ。本朝式に𤭖〈和名は上に同じ、音は長、一音に仗、唐韻に見ゆるなり〉と云ふ。
浅甕 日本紀私記に浅甕〈佐良介(さらけ)〉と云ふ。本朝式に瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉と云ふ。
甕 方言に云はく、関より東に甖〈烏茎反、字は亦、罌に作る〉は之れを甕〈烏貢反、字は亦、瓮に作る、毛太比(もたひ)〉と謂ふといふ。
坩 楊氏漢語抄に云はく、坩〈古甘反、都保(つぼ)。今案ふるに木は之れを壺と謂ひ瓦は之れを坩と謂ふ〉は壺なりといふ。或に甒甖〈武鸎の二音〉と曰ふ。垂拱留司格に瓷坩二十口は一斗以下五升以上と云ふ。故に坩は壺なりと知れり。
瓶子 楊氏漢語抄に瓶子〈賀米(かめ)、上は薄経反〉と云ふ。
游堈 唐韻に云はく、堈〈音は剛、楊氏抄に游堈は由賀(ゆか)と云ふ〉は甕なりといふ〈今案ふるに俗人の大桶を呼びて由加乎介(ゆかをけ)と為るは是。弁色立成に於保美加(おほみか)と云ふ〉。
盆 唐韻に云はく、盆〈蒲奔反、字は亦、瓫に作る。弁色立成に比良賀(ひらか)と云ふ〉は瓦器なりといふ。爾雅に云はく、瓫は之れを缶〈音は不、訓は保度岐(ほとき)〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、盆は一名に盂〈音は于〉といふ。
缶 唐韻に云はく、缶〈音は貫、楊氏抄に都流閉(つるべ)と云ふ〉は水を汲む器なりといふ。
堝 弁色立成に堝〈奈閉(なべ)、古禾反、今案ふるに金なるは之れを鍋と謂ひ、瓦なるは之れを堝と謂ひ、字は或に相通ふ〉と云ふ。
瓷 唐韻に云はく、瓷〈疾資反〉は瓦器なりといふ。
盌 説文に云はく、盌〈烏管反、字は椀に作る。弁色立成に末利(まり)と云ふ。俗に毛比(もひ)と云ふ〉は小さき盂といふ。
盤 唐韻に云はく、盤〈薄官反、佐良(さら)〉は器の名なりといふ。
盃盞 兼名苑に云はく、盃〈字は亦、坏に作る〉は一名に巵〈音は支、佐賀都岐(さかづき)〉といふ。方言注に云はく、盞〈音は産〉は盃の最も小さき者なりといふ。
竹器六十三
箱筐 楊氏漢語抄に、箱〈音は相〉、篋〈苦協反〉、筥〈居許反、筥篋〉、筐〈音は匡〉、篚〈音は匪、已上は皆、波古(はこ)〉と云ふ。唐韻に云はく、竹器の方なるを筐と曰ひ、円なるを篚と曰ふなりといふ。
簏 考声切韻に云はく、簏〈音は禄、須利(すり)〉は箱の類なりといふ。
籠 唐韻に云はく、籠〈盧紅反、一音に竜、又、力董反、古(こ)〉は竹器なりといふ。
笭箐 四声字苑に云はく、笭箐〈零青の二音、漢語抄に加太美(かたみ)と云ふ〉は小さき籠なりといふ。
籮 考声切韻に云はく、江南の人、筐の底の方(けだ)にして上の円(まろ)かなる者を謂ひて籮〈音は羅、之太美(したみ)〉と為といふ。
䈪 方言注に云はく、䈪は形小さくて高し、江東に呼びて䈪〈呼撃反、漢語抄に阿自賀(あじか)。今案ふるに又、簣の字を用ゐる、史記に見ゆ〉と為といふ。
箄 四声字苑に云はく、箄〈博継反、漢語抄に飯箄を以比之太美(いひじたみ)と云ふ〉は甑の底を蔽ふ竹の筐なりといふ。
篝 説文に云はく、篝〈古侯反、加々利(かがり)〉は竹器なりといふ。
篩 説文に云はく、篩〈音は師、字は亦、簛に作る、布流比(ふるひ)〉は麁きを除き細かきを去る竹器なりといふ。
笟籬 弁色立成に云はく、笟籬〈楊氏抄に無岐須久比(むぎすくひ)と云ふ。唐韻に上は側教反、去声の軽、下の音は離〉は麦索を煮る籠なりといふ。竹を以て編み之れを為る。
箕〈箒付〉 説文に云はく、箕〈音は姫、美(み)〉は糞を除き米を簸(ひ)る器なりといふ。兼名苑に云はく、箒〈音は酒〉は一名に篲〈祥歳反、波々岐(ははき)〉といふ。
灯火部第十三
灯火類六十四 灯火具六十五 灯火器六十六
灯火類六十四
灯燭 四声字苑に云はく、器照を灯〈音は登〉と曰ひ、竪焼を燭〈音は属、和名は並びに度毛師比(ともしび)〉と曰ふといふ。野王案に灯燭、蘭膏は燃ゆる所の火なりとす。
蠟燭 唐式に、少府監、年毎に蠟燭七十挺を供すと云ふ。
紙燭 雑題に紙燭詩〈紙燭は俗に音は之曽久(しそく)〉有り。
炬火 唐韻に云はく、爝〈即略反、雀と同じ〉は炬火なりといふ。字書に云はく、炬火〈其呂反、上声の重、訓は灯と同じ、俗に太天阿加之(たてあかし)と云ふ〉は薪を束ねて之れを灼くをいふ。
庭燎 四声字苑に云はく、燎〈力照反、和名は邇波比(にはび)。毛詩に庭燎篇有り〉は庭火なりといふ。
𤇺燧〈火橛付〉 説文に云はく、𤇺燧〈峯遂の二音、度布比(とぶひ)〉は辺に警め有るときは則ち之れを挙ぐといふ。唐式に云はく、諸そ燧を置く処に火の台を置き、台の上に橛〈音は厥、俗に保久之(ほぐし)と云ふ〉を挿せといふ。
煻煨 唐韻に云はく、熾〈昌志反、漢語抄に於岐比(おきび)と云ふ〉は猛き火なり、又、盛りなりといふ。四声字苑に云はく、煻煨〈唐隈の二音、和名は上に同じ〉は熱灰に新まる火なりといふ。
燐火 文字集略に云はく、燐〈音は隣、一音に吝、於邇比(おにび)〉は鬼火なり、人及び牛馬兵の死ぬる者の血の化ける所なりといふ。
灯火具六十五
火鑚 内典に云はく、譬へば燧に因り鑚〈音は賛、比岐利(ひきり)〉に因りて火を生むを得るが如しといふ。〈涅槃経の文なり〉
燧 古史考に云はく、燧人氏、鑚燧〈音は遂、比宇知(ひうち)〉を造り、始めて火を出すといふ。
油〈擣押付〉 四声字苑に云はく、油〈以周反、阿布良(あぶら)〉は麻を迮(せ)めて脂を取るなり、迮〈側陌反、字は窄と通ふ〉は迫なり、狭なりといふ。内典に云はく、胡麻熟れ已り子を収めば熬りて擣き押す〈俗語に之路無(しろむ)と云ふ〉、然る後、乃ち油の出づるを得といふ〈涅槃経の文なり〉。
灯心 考声切韻に云はく、炷〈音は主、又、去声、和名は火度宇之美(ひとうしみ)、灯心の音の訛るなり〉は灯心なりといふ。
炭〈炭籠付〉 蒋魴切韻に云はく、炭〈他案反、須美(すみ)〉は樹木の火を以て之れを焼く、仙人の厳青が造るなりといふ。野王案に、𤈩〈乍下反、字は亦、𥰭に作る〉は炭籠なりとす。
松明 唐式に、城毎に油一斗、松明十斤〈今案ふるに松明は今の続松か〉と云ふ。
薪 纂要に云はく、火木を薪〈音は新、多岐々(たきぎ)〉と曰ふといふ。
燼 左伝注に云はく、燼〈音は晋、毛江久比(もえくひ)〉は火の余木なりといふ。
灰 陸詞切韻に云はく、灰〈呼恢反、波比(はひ)〉は火の燼滅なりといふ。
炲煤 唐韻に云はく、炲煤〈台梅の二音、須々(すす)〉は灰の屋に集むるなりといふ。
煙〈爩付〉 四声字苑に云はく、煙〈於賢反、字は亦、烟に作る、介不利(けぶり)〉は火の草木を焼く黒き気なりといふ。唐韻に云はく、爩〈音は鬱、俗語に介布太之(けぶたし)と云ふ〉は煙気なりといふ。
㸅 四声字苑に云はく、㸅〈子結反、保曽久豆(ほそくづ)〉は燭の余炭なりといふ。
灯火器六十六
灯籠 内典に灯炉〈涅槃経に見ゆ〉と云ふ。唐式に灯籠〈開元式に見ゆ〉と云ふ。本朝式に灯楼〈主殿寮式に見ゆ。今案ふるに三つ各皆、通称なり〉と云ふ。
灯械 楊氏漢語抄に云はく、灯械〈音は戒〉は灯盞を居うる所以なりといふ。
灯台 本朝式に、主殿寮に灯台と云ふ。
灯盞 唐式に、城毎に灯盞七枚〈灯盞は阿布良都岐(あぶらつき)〉と云ふ。
油瓶 内典に云はく、爾の時に復、諸沙門等有ち、手自ら食を作り、油瓶〈阿布良賀米(あぶらがめ)〉を執り持つといふ。
火炉 声類に云はく、炉〈音は盧、楊氏漢語抄に火炉は比多岐(ひたき)と云ふ〉は火炉、火を居うる所なりといふ。
火筯 弁色立成に火筯〈比波之(ひばし)、下は治拠反〉と云ふ。
竃〈𫁑付〉 四声字苑に云はく、竃〈則到反、躁と同じ、加万(かま)〉は炊㸑の処なりといふ。文字集略に云はく、𫁑〈七紅反、久度(くど)〉は竃の後の穿(あな)なりといふ。
和名類聚抄巻第四
和名類聚抄巻第五
調度類第十四
仏塔具六十七 伽藍具六十八 僧房具六十九 祭祀具七十 文書具七十一 図絵具七十二 征戦具七十三 弓剣具七十四 刑罰具七十五 鞍馬具七十六 鷹犬具七十七 畋猟具七十八 漁釣具七十九 農耕具八十 造作具八十一 木工具八十二 細工具八十三 鍛冶具八十四
仏塔具六十七
塔 孫愐切韻に云はく、斉楚に塔〈吐盍反、内典に多宝仏塔、石塔、沙塔、泥塔等有り〉と曰ひ、楊越に𪚕〈口含反、字は亦、龕に作る〉と曰ひ、一に塔の下の室なりと云ふといふ。
舎利 法華経に云はく、仏舎利を以て七宝塔を起すといふ。
檫 四声字苑に云はく、檫〈初轄反、俗に心乃波之良(しんのはしら)と云ふ〉は仏塔の中の心柱なりといふ。
層 梁簡文帝愛敬寺刹下銘序に云はく、普通三年二月に七層霊塔を建つといふ。〈唐韻に層の音は昨稜反、一音に曽、屋を重ぬるなり、塔乃古之(たふのこし)〉
露盤 梁孝元帝に霊夢寺露盤銘有り。
火珠 楊氏漢語抄に火珠〈塔乃比散久賀太(たふのひさくがた)〉と云ふ。
宝鐸 四声字苑に云はく、鐸〈徒落反〉は大鈴なりといふ。李徳林并州西山塔銘に云はく、宝鐸は音を交へ、梵声は韻を凝らすといふ。
箜篌 法華経に云はく、七宝塔を起し諸の幡蓋を懸くといふ。又云はく、簫笛、箜篌は種々の儛戯に、妙音の声歌、唄讚を以て頌ふといふ。〈箜篌の二音、俗に空古(くこ)と云ふ〉
伽藍具六十八
金堂 梁元帝入仏日殿礼拝詩に、玳瑁の金堂柱、檀欒の紺篠䕺と云ふ。楊氏に云はく、仏殿は金堂なり、礼堂は金堂の前(さき)の名なりといふ。
講堂 金光明経に、大講堂、衆会の中と云ふ。
食堂 内典に云はく、舎衛国の祗陀園の食堂、浴室備へ足らずといふこと無し。〈楊氏に云はく、食堂は僧の食する処なり、寺の炊爨する処は之れを大衆屋と謂ふといふ。本文は未だ詳(つばひら)かならず〉
経蔵 後周王褒に経蔵の願文有り。〈白氏文集に東林寺の経蔵と云ふ〉
宝蔵 内典に云はく、宝有る者は心に憂慼(うれひ)無しといふ〈涅槃経の文なり〉。
鐘樓 褚亮鐘楼銘に云はく、菴園の宝地、李苑の珠台、形は涌き出づるが如く、勢ひは飛び来るに似るといふ。
僧坊 法華経に云はく、塔寺を起し立て、及(また)僧坊〈他経に房等と云ひ、或に僧房と云ふ〉を造り、衆僧を供養するは、其の徳、最も勝れて無量無辺なりといふ。
浴室 内典に温室経有り。〈今案ふるに温室は即ち浴室なり。俗に由夜(ゆや)と云ふ〉
宝幢 華厳経の偈に云はく、宝幢の諸幡蓋といふ。〈訓は波多保古(はたほこ)〉
窣堵婆 倶舎論に云はく、窣堵婆を破壊(こは)すは是れ無間と同じ類といふ。〈窣の音は蘇骨反〉
幡 涅槃経に云はく、諸の香木の上に五色の幡を懸くといふ。〈波太(はた)、又、征戦具に見ゆ〉
蓋 同経に、幢幡に宝蓋と云ふ。〈岐沼加散(きぬがさ)、白蓋有り、高座の上の具なり〉
花鬘 同経に種々の花鬘と云ふ。
鐘 虞世南禅林寺鐘銘序に云はく、乃ち清信有縁の道俗四衆と共に洪鐘一口を造るといふ〈洪鐘は俗に於保加禰(おほがね)と云ふ〉。
磬 僧清閑題寺詩に云はく、五色雲中に玉磬を鳴し、千花台上に金仏を礼ぶといふ。〈苦定反、宇知奈良之(うちならし)、又、音楽門に見ゆ〉
金皷 最勝王経に云はく、妙幢菩薩、夜の夢の中に大金皷〈比良加禰(ひらがね)〉を見るといふ。
匳〈籢、匲、並びに同じ〉 唐韻に云はく、匳〈音は廉、俗に音は輪〉、香匳は香を盛る器なりといふ。
火舎 内典に火舎〈俗に音は化赭〉といふ。
閼伽 内典に、閼伽〈上の音は遏〉は梵語なりと云ふ。漢に、鬱勃と雑香を烝煮し、其の汁を以て仏に供養するなりと言ふ。
燈明 大般若経に、上妙なる花鬘、乃至は灯明〈於保美阿賀之(おほみあかし)〉と云ふ。
高座 仁王経に、百の高座を建つと云ふ。
僧坊具六十九
香炉 小品経に云はく、白銀の香炉を以て黒き沈水(じむ)を焼き般若に供養すといふ。
鍚杖 錫杖経に云はく、鍚杖は亦、智杖と名く、聖智を彰顕(あらは)せばなり、亦、徳杖と名く、功を行ふは徳の本の故なりといふ。
如意 梁の劉孺に如意銘有り。
三鈷 大日経疏に独鈷、三鈷、五鈷と云ふ。〈音は古、俗に上声の軽と云ふ〉
金鎞 同疏に金鎞〈辺奚反〉と云ふ。
念珠 内典に念珠経有り。〈今案ふるに念珠は一に数珠と云ふ、千手経に見ゆ〉
跋折羅 千手経に云はく、若し一切の大魔神を降伏せむと為ば、当に跋折羅の手に於てすべしといふ。
白払 同経に云はく、若し身上の悪しき障難を除かんと為ば、当に白払の手に於てすべしといふ。〈白払は波閉波良飛(はへはらひ)なり〉
鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、俗に波智(はち)と云ふ〉は仏道を学ぶ者の食器なりといふ。
漉水嚢 涅槃経に、漉水嚢〈美豆布流比(みづふるひ)、漉の音は盧谷反、楊氏漢語抄に漉取は須久比度流(すくひとる)と云ふ〉と云ふ。
宝螺 千手経に云はく、若し一切の諸天の善神を召呼(よ)ばむと為ば、当に宝螺の手に於てすべしといふ。
水瓶 因果経に云はく、善慧仙人は鹿皮を被り、水瓶〈美豆賀米(みづかめ)〉を執るといふ。
三衣匣 金玉義林に云はく、僧に六物の其の一を三衣匣〈俗に佐無江乃波古(さむえのはこ)と云ふ〉と曰ふといふ。三衣は、一に僧伽梨(そうぎやり)を大衣と云ひ、二に鬱多羅層(うつたらそう)を中衣と云ひ、三に安陀会(あむだゑ)を下衣と云ふ。
剃刀 玄奘三蔵表に、鉄の剃刀一口〈剃の音は他計反、去声の軽、涕と同じ、剃刀は加美曽利(かみそり)〉と云ふ。
頭巾 内典に云はく、世尊、新たに頭髪を剃り衣を以て頭を覆ふといふ。頭巾の縁(ことのもと)、是れなり。
袈裟 東宮切韻釈氏に曰はく、袈裟〈加沙の二音、俗に介佐(けさ)と云ふ〉は天竺の語なりといふ。此れ無垢衣、又、功徳衣と云ふ。孫愐に曰はく、伝法衣は即ち沙門の服なりといふ。
横被 内典に云はく、昔、媱女有り、阿難の端正なるを見、欲想を発す、爾の時に、阿難、其の身を覆ひ蔵さむ為に始めて横被有りといふ。又、覆肩衣と名く。
衲 玄奘三蔵表に衲袈裟一領と云ふ。〈衲の音は奴答反、字は亦、納に作る。俗に能不(のふ)と云ふ。一に太比(たひ)と云ふ〉
裳 内典抄に云はく、一切衆生を慈悲すること慈母の如し、故に裳を服(け)すといふ。又、慈悲衣と名く。
座具 金玉義林に云はく、僧の六物の其の三を座具と曰ふといふ。
草座 因果経に云はく、是に菩薩は草を以て座を為るといふ。
鹿杖 漢語抄に鹿杖〈加勢都恵(かせづゑ)〉と云ふ。
祭祀具七十
木綿 本草経注に云はく、木綿〈由布(ゆふ)〉は之れを折れば白糸多き者なりといふ。
龍眼木 楊氏漢語抄に龍眼木〈佐賀岐(さかき)、今案ふるに龍眼木は其の子(み)の名なり、本草に見ゆ〉と云ふ。日本紀私記に云はく、坂樹は刺し立て以て祭神の木と為といふ。〈今案ふるに本朝式に賢木の二字を用ゐ、漢語抄に榊の字を用ゐる。並びに未だ詳かならず〉
蘿鬘 日本紀私記に云はく、鬘を為るに蘿〈比加介加都良(ひかげかづら)〉を以てすといふ。
幣帛 礼記注に云はく、幣〈音は弊、美天久良(みてぐら)〉は今、江東に幣帛と云ふといふ。
偶人 史記に、土偶人、木偶人〈偶の音は五㺃反、俗に比度加太(ひとがた)と云ふ〉と云ふ。野王案に、凡そ物を刻み削り人像を為るは皆、偶人と曰ふとす。
蒭霊 日本紀私記に蒭霊〈久散比度加太(くさひとがた)〉と云ふ。
紙銭 新楽府に云はく、神の来たるや風は飄々たり、紙銭動きて錦繖も揺るといふ。〈紙銭は俗に加美勢邇(かみぜに)と云ふ。一に勢邇賀太(ぜにがた)と云ふ〉
玉籤 日本紀に玉籤〈下の音は七廉反、多万久之(たまぐし)〉と云ふ。
神籬 日本紀私記に神籬〈俗に比保路岐(ひぼろき)と云ふ〉と云ふ。
葦索 蔡邕独断に云はく、葦索〈阿之乃奈波(あしのなは)〉を門戸に懸け、以て凶を禦ぐなりといふ。
注連 顔氏家訓に云はく、注連して章断すといふ〈師説に注連は之梨久倍奈波(しりくべなは)、章断は之度太智(しとだち)〉といふ。日本紀私記に端出之縄〈読みて注連と同じ也〉と云ふ。
葉椀 本朝式に云はく、十一月辰日の宴会には其の飯器、参議以上は朱漆椀、五位以上は葉椀〈久保天(くぼて)〉にせよといふ。
葉手 漢語抄に葉手〈比良天(ひらで)〉と云ふ。
粢餅 陸詞切韻に云はく、粢〈音は姿、又は疾脂反、漢語抄に粢餅は之度岐(しとぎ)と云ふ〉は祭餅なりといふ。
粿米 唐韻に云はく、粿〈音は果、漢語抄に粿米は加之与禰(かしよね)と云ふ〉は浄米なりといふ。
神酒 日本紀私記に神酒〈美和(みわ)〉と云ふ。
糈米 離騒経注に云はく、糈〈和呂反、久万之禰(くましね)〉は精米を神に享する所以なりといふ。
犠牲 礼記に云はく、祭祀に犧牲〈二音で羲生、論語注に牲生を餼と曰ふ。餼の音は気、訓は伊介邇倍(いけにへ)〉を供ふといふ。
宝倉 漢語抄に宝倉〈保久良(ほくら)、神殿を云ふ〉と云ふ。
瑞籬 日本紀私記に瑞籬〈俗に美豆加岐(みづかき)と云ふ。一に以賀岐(いがき)と云ふ〉と云ふ。
文書具七十一
筆 張華博物志に云はく、蒙恬が筆〈古文に笔に作る、布美天(ふみて)〉を造るといふ。
稾筆 郭知玄に云はく、古は稾を以て筆〈稾筆は和良不美天(わらふみて)〉を為る、書き訖りて刀を以て板に刻むといふ。
墨〈挺字付〉 蒋魴に曰はく、墨〈音は目、須美(すみ)〉は松栢の煙を以て膠に和へ合せ成すなりといふ。唐秘書省式に云はく、写書料は毎月、大墨一挺とせよといふ〈今案ふるに俗に廷の字を用ゐる、未だ詳かならず〉。
硯 書譜に云はく、硯を用ゐる法は、石を第一と為、瓦を第二と為。〈硯の音は五甸反、須美須利(すみすり)〉
水滴器 御覧等目録に水滴器〈今案ふるに須美須理賀米(すみすりがめ)〉と云ふ。
筆台 漢語鈔に筆台〈比知太伊(ひちだい)〉と云ふ。
紙 兼名苑注に云はく、紙〈古文に帋に作る、賀美(かみ)。紙に色紙、檀紙、穀紙、紙屋紙、松紙、河苔紙、斐紙、薄用紙等の名有り〉は後漢の和帝の時、蔡倫が造れるといふ。
反故 斉春秋に云はく、沈麟士、字(あざな)は雲揁、少(をさなき)より清貧にして紙無し、飜故を以て数千巻を書き写すといふ。
褾帋 唐式に、染麻紙二十五張、穀帋五十張、褾帋二十張と云ふ。〈褾の音は方小反、袖の端なり、唐韻に見ゆ〉
軸 要覧に云はく、二王の暮年の書は少(わかき)より勝れり、其の縑素書には珊瑚を以て軸と為、紙書には金を以て軸と為、次には瑇瑁栴檀を軸〈𥄂六反、車具に見ゆ〉と爲といふ。
帙 四声字苑に云はく、帙〈直質反、字は亦、袠に作る〉は書を裹む所以なりといふ。兼名苑に云はく、一名に書衣といふ。
籖 玉篇に云はく、籖〈曹廉反、俗人に去声と云ふ〉は人を験すなり、一に鋭貫なりと曰ふといふ。
笈 唐韻に云はく、笈〈音は挿、又、其輙反、不美波古(ふみはこ)、又、凾の字を用ゐる、音は咸〉は書箱を負ふなりといふ。風土記に云はく、学士の書を負ふ状(かたち)は冠箱の如くして卑(ひく)き所以といふ。
書櫃 白氏文集に云はく、栢を破りて書櫃〈布美比都(ふみひつ)〉に作るといふ。
書案 梁の簡文帝に書案銘有り。〈書案は俗に不美都久恵(ふみづくゑ)と云ふ〉
簡札 野王案に、簡〈古限反、不美太(ふみた)〉は書を写し事を記す所以の者なりとす。兼名苑に云はく、牘〈音は読〉、一名に札〈音は察〉は簡なりといふ。
牒〈帖付〉 説文に云はく、牒〈徒協反〉は札にして長さ一尺二寸なりといふ。文字集略に云はく、帖〈音は上に同じ〉は物を請ふ疏なりといふ。唐韻に云はく、疏〈去声〉は記疏なりといふ。
牓示 孫愐切韻に云はく、牓〈博朗反〉は題示なりといふ
戸籍 文字集略に云はく、籍〈音は席、和名は簡札と同じ〉は民戸の書、古は版を以て紙とす、今は黄帋なり。野王案に、凡そ簡札に書けるは皆、之れを籍と謂ふなりとす。
版位 唐儀制令に云はく、諸の版位〈俗に変為二音と云ふ〉は百官の一品以下は各(おのおの)方七寸、厚さ一寸半といふ。〈版の字は亦、板の字に作るなり。野王案に木を以て書籍を為るとするは是なり〉
笇 説文に云はく、筭〈蘇貫反、俗に音は残〉は長さ六寸、以て暦数を計るなりといふ。
暦 漢書律暦志に云はく、黄帝、暦〈音は暦、古与美(こよみ)〉を造るといふ。
図絵具七十二〈野王案に、図〈音は徒〉は物の像を画くなりとす。郭知玄に云はく、画〈音は卦〉は丹青にて図(えが)く所なりといふ。釈名に云はく、絵は五綵に会ふなりといふ〉
丹砂 考声切韻に云はく、丹砂〈丹、音は都寒反、邇(に)〉は朱砂に似て鮮明ならざる者なりといふ。
朱砂 本草に云はく、朱砂の最も上なる者は之れを光明沙と謂ふといふ。
燕支 西河旧事に云はく、焉支山に丹を出づといふ〈今案ふるに、出づる所の山の名を以て名と為るなり、焉支、煙支、燕支、燕脂、皆、之れを通ひ用ゐる〉。
漢語抄に青黛と云ふ。
空青 丹口决に云はく、空青は一名に曽青といふ。
本草稽疑に云はく、金青は空青の最も上なるなりといふ。
白青 蘇敬本草注に云はく、白青は一名に魚目、青くして形は魚の目に似る故に以て之れを名くといふ。
緑青 本草に云はく、縁青は一名に碧青といふ。〈緑青は俗に禄省と云ふ〉
雌黄 兼名苑に云はく、雌黄は一名に金液といふ〈雌黄は俗に之王と云ふ〉。山に金有り、其の精を熏さば則ち雌黄を生むのみ。
銅黄 漢語抄に同黄と云ふ。
胡粉 張華博物志に云はく、錫を焼きて胡粉と成すといふ。
征戦具七十三
幡〈旒付〉 考工記に云はく、幡〈音は翻、波太(はた)〉は旌旗〈精期の二音〉、幡の惣名なりといふ。唐韻に云はく、旒〈音は流、波太阿之(はたあし)〉は旌旗の末の垂るる者なりといふ。
甲 唐韻に云はく、鎧〈苦盖反、与路比(よろひ)〉は甲なりといふ。釈名に云はく、甲は物の鱗甲有るに似るなりといふ。
胄 説文に云はく、胄〈音は宙、賀布度(かぶと)〉は首鎧なりといふ。
楯 兼名苑に云はく、楯〈食尹反、上声の重、太天(たて)〉は一名に樐〈音は魯〉、蚩尤が造るなりといふ。
歩楯 釈名に云はく、狭くして長きを歩楯〈天太天(てだて)〉と曰ひ、歩兵の持つ所なりといふ。
弓 四声字苑に云はく、弓〈音は弓、由美(ゆみ)〉は箭を遣る所以の器なりといふ。釈名に云はく、弓の末は彇〈音は蕭、由美波数(ゆみはず)〉と曰ひ、中央は弣〈音は撫、由美都賀(ゆみつか)〉と曰ふといふ。
弩 兼名苑注に云はく、弩〈音は怒、於保由美(おほゆみ)〉は黄帝が造るなりといふ。
角弓 爾雅注に云はく、弭〈己耳反、都能由美(つのゆみ)〉は今の角弓なりといふ。
弾弓 唐韻に云はく、弾弓〈徒丹反、去声、俗の音は暖宮〉は丸を放つ弓なりといふ。文字集略に竹弦の弓と云ふ。
靫 釈名に云はく、歩人の帯ぶ所を靫〈初牙反、由岐(ゆぎ)〉と曰ひ、箭を以て其の中に叉すなりといふ。
箙 周礼注に云はく、箙〈音は服、夜奈久比(やなぐひ)、唐令に胡籙の二字を用ゐる〉は矢を盛る器なりといふ。唐韻に云はく、箶簏〈胡鹿の二音〉は箭の室なりといふ。
箭 釈名に云はく、笶〈音は矢、夜(や)〉は其の体を簳〈音は幹、夜賀良(やがら)〉と曰ひ、其の旁を羽〈去声〉と曰ひ、其の足を鏑〈的の音〉と曰ふといふ。或に之れを鏃〈子毒、楚角、才木の三反、訓は夜佐岐(やさき)、俗に夜之利(やじり)と云ふ〉と謂ふ。唐韻に云はく、筈〈古活反、夜波須(やはず)〉は箭の弦を受くる処なりといふ。
征箭 唐式に云はく、諸府の衛士は人別に弓一張、征箭三十隻といふ。〈征箭は曽夜(そや)〉
鳴箭 漢書音義に云はく、鳴鏑〈日本紀私記に八目鏑は夜豆女加布良(やつめかぶら)と云ふ〉は今の鳴箭の如きなりといふ
平題箭 楊雄方言云はく、鏃の鋭かざる者は之れを平題〈以太都岐(いたづき)〉と謂ふといふ。郭璞に曰はく、題は猶ほ頭のごときなり、今の戯射の箭なりといふ。
刀 四声字苑に云はく、剣に似て一つ刃なるを刀〈都窂反、太刀は太知(たち)、小刀は賀太奈(かたな)〉と曰ふといふ。
長刀 唐令に、銀装の長刀と云ひ、又、細刀と云ふ。〈之路加禰都久利乃奈加太知(しろかねづくりのながたち)、細刀は保曽太知(ほそだち)〉
短刀 兼名苑に云はく、刺刀〈能太知(のだち)〉は短刀なりといふ。
剣 四声字苑に云はく、刀に似て両刃なるを剣〈挙欠反、今案ふるに僧家の持つ所は是れなり〉と曰ふといふ。
属鏤 広雅に云はく、属鏤〈力朱反、文選に豆流岐(つるぎ)と読む〉は剣なりといふ。
鈇鉞 唐韻に云はく、干鏚〈音は戚〉は鈇鉞〈府越の二音、万佐賀利(まさかり)〉といふ。鈇は亦、斧に作る。
叉 六韜に云はく、叉〈初牙反、文選に叉簇を比之(ひし)と読む。今案ふるに簇は即ち鏃の字なり〉は両岐の鉄柄にして長さ六尺といふ。
戟 楊雄方言に云はく、戟〈几劇反、保古(ほこ)〉は或に之れを干と謂ひ、或に之れを戈〈古禾反〉と謂ふといふ。
矛 釈名に云はく、手戟は矛〈音は謀、字は亦、鉾に作る、天保古(てぼこ)〉と曰ひ、人の持つ所なりといふ。
旝 四声字苑に云はく、旝〈音は膾、以之波之岐(いしはじき)〉は大木を建て、石を其の上に置き、機を発きて以て敵に投ぐるなりといふ。
角 兼名苑注に云はく、角〈楊氏漢語抄に大角は波良乃布江(はらのふえ)、小角は久太乃布江(くだのふえ)と云ふ〉は本(もと)、胡中より出づといふ。或に呉越より出づと云ふ。以て竜吟に象るなり。
弓剣具七十四
檠〈楺字付〉 野王案に、㯳〈音は敬、又の音は鯨、由美多女(ゆみだめ)〉は弓弩を正す所以なりとす。四声字苑に云はく、楺〈人久反、字は亦、煣に作る。訓は太無(たむ)〉は火を以て木を屈め申(の)ぶるなりといふ。
弦 説文に云はく、弦〈音は与、絃に同じ、由美都流(ゆみづる)〉は弓弩の弦なりといふ。
弓袋 説文に云はく、韔〈音は帳、由美布久路(ゆみぶくろ)〉は或に弓袋と云ふといふ。
弦袋 唐式に云はく、諸府の衛士に弦袋〈由美都流布久路(ゆみづるぶくろ)〉といふ。
𣠽 唐韻に云はく、𣠽〈音は覇、太知乃都加(たちのつか)〉は剣の柄なりといふ。考工記に云はく、剣の茎〈今案ふるに即ち𣠽なり〉は人の握る所は鐔より上なりといふ。
鮫皮 仁諝本草音義に云はく、鮫魚皮〈鮫の音は交、佐女乃加波(さめのかは)〉は刀𣠽を装ふ者なりといふ。
鐔 唐韻に云はく、鐔〈音は尋、一音に潭、都美波(つみは)〉は剣の鼻なりといふ。
𩏪䪝 唐韻に云はく、𩏪䪝〈宅蒦の二音、下の音は又、濩、於比度利(おびとり)〉は刀を佩く把中皮なりといふ。
劔鞘 郭璞方言注に云はく、鞞〈音は卑〉は剣の鞘なりといふ。唐韻に云はく、鞘〈私妙反、佐夜(さや)〉は刀室なりといふ。
剣韜 説文に云はく、韜〈土刀反、太知不久路(たちぶくろ)〉は剣衣なりといふ。
刑罰具七十五
笞 唐令に云はく、笞〈音は知、之毛度(しもと)〉の大頭は二分、小頭は一分半といふ。
杖 同令に云はく、諸杖〈音は仗、都恵(つゑ)〉は皆節目を削り去り、長さは三尺五寸許といふ。
棒 蒋魴切韻に云はく、棒〈音は蚌、字は亦、㭋に作る、俗に音は方〉は杖の名なりといふ。
盤枷 唐令に云はく、若し鉗無くば盤枷〈音は加、日本紀私記に久比加之(くびかし)と云ふ〉を著けよといふ。
鉗 漢書注に云はく、鉗〈奇炎反、加奈岐(かなき)〉は鉄を以て頸を束ぬなりといふ。野王案に、釱〈徒盖反、和名は上に同じ〉は脰沓なりとす。
杻 玉篇に云はく、杻〈漢語抄に天加之(てかし)と云ふ。今案ふるに、又、木の名なり。音を以て分つ可し。杻械の杻は勅久反、杻橿は女久反〉は械なりといふ。説文に云はく、梏〈音は酷〉は手械なりといふ。
械 四声字苑に云はく、械〈胡界反、阿之賀之(あしかし)〉は木を穿ちて足に加(つけ)るなりといふ。説文に云はく、桎〈音は質〉は足械なりといふ。
鋜 蒋魴切韻に云はく、鋜〈士角反、加奈保太之(かなほだし)〉は足を鏁す具なりといふ。
鏁 唐韻に云はく、鏁〈蘇果反、日本紀私記に加奈都賀利(かなつがり)と云ふ〉は鉄鏁なりといふ。
箯輿 漢書注に云はく、箯輿〈上の音は鞭、阿美以太(あみいた)〉は竹木を編みて輿と為るなりといふ。
獄 四声字苑に云はく、獄〈語欲反、比度夜(ひとや)〉は罪人を窂する所なりといふ。唐韻に云はく、囹圄〈霊語の二音〉は獄の名なりといふ。
鞍馬具七十六
鞍〈鞁鞍付〉 説文に云はく、鞍〈音は安、字は或に鞌に作る、久良(くら)、俗に唐鞍、移鞍、結鞍等の名有りと云ふ〉は馬鞁なりといふ。蒋魴切韻に云はく、鞁〈音は被、楊氏漢語抄の鞁鞍は久良於久(くらおく)〉は鞍を以て馬に駕(の)るなり、卸〈司夜反、楊氏に卸鞍は久良於路須(くらおろす)と曰ふ〉は鞍を除くなりといふ。
鞍橋 楊氏漢語抄に云はく、鞍橋〈久良保禰(くらぼね)〉は一に鞍瓦と云ふといふ。
鞍褥 楊氏漢語抄に鞍褥〈久良之岐(くらじき)、俗に宇波之岐(うはじき)と云ふ〉と云ふ。
屟脊 蒋魴切韻に云はく、屟〈思協反、屟脊は奈女(なめ)〉は鞍下の屟脊なりといふ。
韉〈䪌付〉 唐韻に云はく、韉〈則前反、之太久良(したぐら)〉は鞍韉なり、䪌〈仕陥反、今案ふるに俗に駒韉と云ふか〉は韉の短きものなりといふ。
接鞦
鞖 考声切韻に云はく、鞖〈砕回反、之保天(しほで)〉は鞍橋の皮を穿つなりといふ。
鞦 唐式に云はく、諸蕃入朝の調度に、帳幕、鞍韉、鞦轡、事を量り供給せよといふ。鞦〈音は秋、之利賀岐(しりがき)〉
当胸 後漢書に云はく、佩刀を抜き、馬当胸〈楊氏漢語抄に班胸は無奈賀岐(むながき)と云ふ〉を截るといふ。
杏葉 弁色立成に杏葉〈和名は俾良(ひら)〈已上は本注なり〉、俗に行衣布(ぎやうえふ)と云ふ〉と云ふ。
𩍺 唐韻に云はく、𩍺〈音は吹〉は鞍鞘なりといふ。楊氏漢語抄に鞍鞘〈加礼比都気(かれひつけ)〉と云ふ。
雲珠 弁色立成に雲珠〈宇須(うず)、今案ふるに雲母、一名なる、馬の飾りの為か、未だ詳かならず〉と云ふ。
腹帯 唐韻に云はく、纕〈息良反、波良於比(はらおび)〉は馬の腹帯なりといふ。
鞶 周礼注に云はく、鞶〈音は盤、宇波波良於比(うははらおび)〉は馬の大帯なりといふ。
鐙 蒋魴切韻に云はく、鐙〈都㔁反、阿布美(あぶみ)〉は鞍の両辺に脚を承くる具なりといふ。
鐙靻 楊氏漢語抄に鎧靻〈美豆乎(みづを)、下の音は祖〉と云ふ。一に鐙靳〈音は斤、去声〉と云ふ。
逆靻 楊氏漢語抄に逆靻〈知賀良加波(ちからがは)〉と云ふ。一に逆靳と云ふ。
障泥 唐韻に云はく、𩌬〈音は章〉は障泥〈阿布利(あぶり)〉、鞍の飾りなりといふ。西京雑記に云はく、玫瑰鞍は緑地の錦を以て蔽泥〈今案ふるに即ち泥障〉を為り、後に稍く熊、羆の皮を以て之れと為るといふ。
鞍帊 楊氏漢語抄に鞍帊〈久良於保比(くらおほひ)、下は芳覇反〉と云ふ。
金〓〔馬偏に𡕢〕 蔡邕独断に云はく、金〓〔馬偏に𡕢〕〈下は亡犯反、字は亦、錽に作る。今案ふるに、俗に銀面の昌蒲の形を云ふは是〉は馬の冠なり、高さ広さ各五寸、上は三華の形の如き者なりといふ。
尾韜 考声切韻に云はく、紛〈音は分、俗に尾袋と云ふ〉は馬の尾を韜(つつ)む所以なりといふ。
鑣 説文に云はく、鑣〈音は飄、訓は久都波美(くつばみ)、俗に久々美(くくみ)と云ふ〉は馬銜なりといふ。兼名苑に云はく、鑣は一名に勒といふ。野王案に、勒〈盧則反〉は馬の口の中の鉄なりとす。
蒺䔧銜 弁色立成に蒺䔧銜〈宇波良具都和(うばらぐつわ)〉と云ふ。
轡 兼名苑云はく、轡〈音は秘、訓は久豆和都良(くつわづら)、俗に久都和(くつわ)と云ふ〉は一名に钀〈魚列反〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、韁鞚〈薑貢の二音、和名は上に同じ〉は一名に馬鞚といふ。
承鞚 弁色立成に承鞚〈美豆岐(みづき)、俗に三都々岐(みづつき)と云ふ〉と云ひ、一に七寸と云ふ。
䪊頭 唐韻に云はく、䪊〈音は籠、楊氏漢語抄に䪊頭は於毛都良(おもづら)と云ふ〉は頭なり、羈〈音は基〉は馬の絡頭なりといふ。〈今案ふるに絡頭は即ち䪊頭なり〉
楼額 弁色立成に楼額〈沼賀々既(ぬかがき)〉と云ふ。
鞗 唐韻に云はく、鞗〈音は迢、久佐利(くさり)、今案ふるに俗に鏈の字を用ゐる、未だ詳かならず。縺は鉛朴なり、音は連〉は革轡なりといふ。毛詩注に云はく、鞗は金を以て小環を為り、小環は往き往きて纒ひ搤(おさ)ふる者なりといふ。
馬衣 左伝注に云はく、馬褐〈無麻岐沼(むまぎぬ)〉は馬被なりといふ。
馬㕞 楊氏漢語抄に馬㕞〈于麻波太気(うまはたけ)、下は所劣反〉と云ふ。
抑 唐韻に云はく、抑〈吾浪反、与勢波之良(よせばしら)〉は馬を繋ぐ柱なりといふ。
櫪 唐韻に云はく、櫪〈音は歴、之岐以太(しきいた)〉は馬櫪なりといふ。
槽 唐韻に云はく、槽〈音は曹、馬舟なり〉は馬槽なりといふ。
剉薙 唐式に、剉薙一具と云ふ。〈漢語抄に久散岐利(くさきり)と云ふ。剉は麁臥反〉
蒭 説文に云はく、蒭〈音は雛、字は亦、芻に作る、加良久佐(からくさ)〉は乾草なりといふ。
秣 漢書注に云はく、秣〈音は末、万久佐(まぐさ)〉は粟米を以て飼ふを謂ふなりといふ。
鞭 野王案に、鞭〈音は篇、無知(むち)、俗に無遅(むぢ)と云ふ〉は馬の策なり、策〈馬冊、字は亦、筞に作る〉は馬の檛なり、檛〈音は花〉は箠(むちう)ちて遅きを駆る所以なりとす。
罥索 弁色立成に云はく、罥索〈加介奈波(かけなは)、上の音は古縣反〉は馬を取る縄なりといふ。
絆 釈名に云はく、絆〈音は半、保太之(ほだし)〉は半なり、拘りて半ば行かして自ら縦(ほしきまま)にすることを得ざる使むるなりといふ。
鷹犬具七十七
攣 唐韻に云はく、攣〈音は聯、今案ふるに一字に両つの訓、鷹に在りては阿之乎(あしを)、犬に在りては岐豆奈(きづな)〉は狗を綴攣(つな)ぐ所以なりといふ。
絛 唐韻に云はく、絛〈音は刀、於保乎(おほを)〉は糸縄なりといふ。章孝標飢鷹詩に云はく、縦令(たとひ)紅絛の結びを啄ひ断つとも、未だ君の呼ぶを得ざれば敢へて飛ばずといふ。
旋子 楊氏漢語抄に旋子〈毛度保利(もとほり)、上は似泉反〉と云ふ。
韛 文選西京賦に云はく、青骹(せいかう)のあをきたか、韛の下(もと)に摯るといふ〈韛の音は溝、訓は太加太沼岐(たかたぬき)、又、射芸具に見ゆ〉。薩琮に曰はく、韛は臂衣なりといふ。
䚨 唐韻に云はく、䚨〈音は発、漢語抄に閉麻岐(へまき)と云ふ〉は弋射をして繳を収むる具なりといふ。
紲 文選西京賦に云はく、韓獹のかりいぬ、紲の末に噬ふといふ〈紲の音は思列反、訓は岐都奈(きづな)〉。薩琮に曰はく、紲は攣なりといふ。
鋂 野王案に、鋂〈音は梅、久佐利(くさり)〉は犬の鏁なりとす。
犬枷 内典に云はく、譬へば犬を枷して之れを柱に繋ぎ、終日(ひねもす)柱を繞りて離るること得能はざるが如しといふ。〈涅槃経の文なり。枷は師説に久比都奈(くびづな)と読む〉
畋猟具七十八〈畋の音は田、唐韻に禽獣を取るなりと云ふ〉
罘網〈統閉紭付〉 纂要に云はく、獣網は罘〈音は浮〉と曰ひ、麋網は罠〈武巾反〉と曰ひ、兎網は罝〈子耶反、已上の訓は皆、阿美(あみ)〉と曰ふといふ。文選注に云はく、紭〈戸萌反、訓は呼(を)、又、綱と同じ〉は罘の綱なりといふ。
蹄 周易に云はく、蹄は兎を得る所以なり、故に兎を得て蹄を忘るといふ。〈師説に和奈(わな)。今案ふるに即ち牛蹄、馬蹄なり、玉篇に見ゆ〉
弶 四声字苑に云はく、弶〈其高反、漢語抄に久比知(くびち)と云ふ〉は獣を取る械なりといふ。
棝 唐韵に云はく、棝〈音は固、漢語抄に奈由美(なゆみ)と云ふ〉は鼠を射る斗なりといふ。
鼠弩 楊氏漢語抄に云はく、鼠弩〈於之(おし)〉は一に鼠弓と云ふなりといふ。
鳥羅 爾雅に云はく、罟を羅〈度利阿美(とりあみ)〉と曰ふ。
囮 唐韻に云はく、囮〈音は訛、漢語抄に天々礼(ててれ)と云ふ〉は網鳥なる者にして媒なりといふ。
鳥籠 説文に云はく、笯〈音は奴、一音に那、度利古(とりこ)〉は鳥籠なりといふ。
媒鳥 文選射雉賦注に云はく、少きより雉の子を養ひ、長るに至れば人に狎れ、能く野雉を招き引く、之れを媒〈師説に乎度利(をとり)〉と謂ふといふ。
黐〈擌付〉 唐韻に云はく、黐〈女知反、毛知(もち)〉は鳥を黏(ねえつ)く所以なり、黐擌〈所責反、漢語抄に波賀(はか)と云ふ〉は鳥を捕ふ所以なりといふ。
矪 唐韻に云はく、矪〈張留反、漢語抄に久流利(くるり)と云ふ〉は鳥を射る矢の名なりといふ。
餌 四声字苑に云はく、餌〈乃吏反、恵(ゑ)〉は食を以て魚鳥を誘ふなりといふ。
魚釣具七十九〈漁の音は魚、説文に魚を捕るなりといふ、訓は須奈都利(すなどり)〉
網罟 広雅に云はく、罟〈音は古、阿美(あみ)〉は魚網なりといふ。
纚 文選注に云はく、纚〈所買反、師説に佐天(さで)〉網は箕の形の如く後へを狭くし前を広くする者なりといふ。
魚梁 毛詩注に云はく、梁〈音は良、夜奈(やな)〉は魚梁なりといふ。唐韻に云はく、簎〈士角反、漢語抄に夜奈須(やなす)と云ふ〉は魚を取る箔(すだれ)なりといふ。
筌 野王案に、筌〈且沿反、宇倍(うへ)〉は魚を捕る竹笱なりとす〈古厚反〉。魚を取る竹器なり。
籞 唐韻に云はく、籞〈音は語、以介須(いけす)〉は池水の中に竹籬を編み魚を養ふなりといふ。
罧 爾雅に云はく、罧〈蘇蔭反、字は亦、椮に作る〉は之れを涔〈字廉反、又の音は岑、布之都介(ふしづけ)〉と謂ふといふ。郭璞に曰はく、柴を水中に積み、魚寒くして其の裏に入り、因りて簿を以て囲みて捕へ取るなりといふ。
籗 纂要に云はく、籗〈虎郭反、又は士角反、漢語抄に比之(ひし)と云ふ〉は鉄を以て棹頭に施し、因りて以て魚を取るなりといふ。
釣 声類に云はく、釣〈都叫反、都利(つり)〉は釣餌を設けて魚を取るなりといふ。
泛子 蒋魴切韻に云はく、泛子〈漢語抄に宇介(うけ)と云ふ。今案ふるに、網具に又、此の名有り、故に別ちて之れを置く〉は釣の別名なりといふ。
農耕具八十〈日本紀私記に農は奈利波比(なりはひ)と云ふ〉
犂 唐韻に云はく、犂〈音は黎、加良須岐(からすき)〉は田を墾く器なり、鐴〈必益反、閉良(へら)〉は犂の耳なりといふ。楊氏漢語抄に、耒底〈為佐利(ゐさり)、上の音は頼〉、耒骨〈為佐利乃江(ゐさりのえ)〉、耒𣓻〈等利久比(とりくび)、下の音は表〉、耒箭〈太々利賀太(たたりがた)〉、耒鑱〈佐岐(さき)、下の字は造作具に見ゆ〉と云ふ。
鋤 唐韻に云はく、鎡錤〈孜期の二音〉は鋤の別名なりといふ。釈名に云はく、鋤〈士魚反、須岐(すき)〉は穢を去り苗を助くなり、鍤〈音は挿、和名は上に同じ〉は地に挿して土を起すなりといふ。
鍫 兼名苑に云はく、鍫〈七遥反、字は亦、鐰に作る、久波(くは)〉は一名に鏵〈音は華〉といふ。説文に云はく、钁〈補各反、楊氏漢語抄に和名は上に同じと云ふ〉は大鋤なりといふ。
鎛 国語注に云はく、鎛〈音は博、漢語抄に佐比都恵(さひづゑ)と云ふ〉は鋤の属なりといふ。釈名に云はく、鎛は地を迫(せ)りて草を去るなりといふ。
䤨 麻果切韻に云はく、䤨〈普麦反、又は普狄反、漢語抄に加奈賀岐(かながき)と云ふ、一に久之路(くしろ)と云ふ〉は鈎䤨なりといふ。
馬杷 唐韻に云はく、杷〈白賀反、一音に琶、弁色立成に云はく、馬杷は宇麻久波(うまぐは)、一に馬歯と云ふ〉は田を作る具なりといふ。𨫒楱〈漏奏の二音、漢語抄に和名は上に同じと云ふ〉は鉄歯の杷の名なりといふ。
欋 楊雄方言に云はく、斉魯に四歯杷を謂ひて欋〈音は衢、漢語抄に佐良比(さらひ)と云ふ〉と為といふ。
朳〈音は八〉 郭璞方言注に云はく、江東に杷の歯無き者を朳〈音は拝、楊氏漢語抄に江布利(えぶり)と云ふ〉と為といふ。
杴 唐韻に云はく、杴〈虚厳反、漢語抄に古須岐(こすき)と云ふ〉は鍬の属なりといふ。
鎌 兼名苑に云はく、鎌〈音は廉〉は一名に鍥〈音は結、賀末(かま)〉といふ。方言に刈𠛎〈艾鉤の二音〉と云ふ。野王案に、柌〈音は祠、賀末都加(かまつか)〉は鎌柄なりとす。
連枷 陸詞切韻に云はく、連枷〈音は加、賀良佐乎(からさを)〉は穀を打つ具なりといふ。釈名に云はく、枷は加なり、柄頭に加へ、穂を檛〈陟瓜反、打つなり〉ち穀を出づる所以なりといふ。或に曰はく、枷三杖を羅(つら)ねて之れを用ゐるといふ。
口籠 蒋魴切韻に云はく、〓〔竹冠に兒〕〈音は鯢、久都古(くつこ)〉は牛馬の口の上の籠なりといふ。
造作具八十一
轆轤 四声字苑に云はく、轆轤〈鹿盧の二音、俗に六路と云ふ〉は円転の木機なりといふ。
鋋 楊氏漢語抄に云はく、鋋〈辞恋反、又、市連反、路久魯賀奈(ろくろがな)〉は轆轤の裁刀なりといふ。
釘 陸詞切韻に云はく、釘〈音は丁久岐〉は鉄の杙なりといふ。
鑚 唐韻に云はく、鑚〈作含反、岐利久岐(きりくぎ)〉は盖無き釘なりといふ。
鉜鏂 楊氏漢語抄に云はく、鉜鏂〈浮謳の二音、和名は乃之加太乃久木(のしがたのくぎ)〉は頭の高き大釘なりといふ。
栓 四声字苑に云はく、栓〈山員反、岐久岐(きくぎ)〉は木の釘なりといふ。
縄 兼名苑に云はく、縄〈食陵反〉は一名に索〈蘇各反、奈波(なは)〉といふ。
准縄 漢語抄に准縄〈美豆波賀利(みづはかり)〉と云ふ。
鑱 唐韻に云はく、鑱〈音は讒、一音に暫、漢語抄に加奈布久之(かなぶくし)と云ふ〉は犁鉄、又、土具なりといふ。
杙〈椓字付〉 文選に云はく、嶻㠔に椓(くひう)ちて杙〈餘織反、訓は久比(くひ)、椓の音は琢、訓は久比宇都(くひうつ)、今案ふるに俗に杬を以て杙と為るは非ざるなり。杬の音は元、木の名なり、唐韻に見ゆ〉と為といふ。
椓擊 纂文に云はく、斉人、大槌を以て椓擊〈漢語抄に阿比(あひ)と云ふ〉と為といふ。
泥鏝 爾雅に云はく、鏝〈音は蛮〉は之れを圬〈音は烏、字は亦、釫に作る〉と謂ふといふ。郭璞に曰はく、圬は泥鏝なりといふ。野王案に、鉄釫〈古天(こて)〉は土を塗る具なりとす。
榰柱 唐韻に云はく、榰〈音は支〉柱〈今案ふるに須介(すけ)〉は屋の攲(そばた)つを支ふるなりといふ。
麻柱 弁色立成に麻柱〈阿奈々比(あななひ)〉と云ふ。
檜楚 漢語抄に檜楚〈比曽(ひそ)、檜曽の二字を用ゐる。今案ふるに楚の字は是れなり〉と云ふ。
榑 説文に云はく、榑〈補各反、久礼(くれ)、功程式に檜榑、椙榑有り〉は壁柱なりといふ。
板 唐韻に云はく、板〈歩綰反、伊太(いた)、功程式に波多板・歩板有り〉は薄木なりといふ。
材木〈杮付〉 唐韻に云はく、材〈音は才〉は衆の木なりといふ。韓知十に曰はく、杮〈音は廃、古介良(こけら)〉は削朴なりといふ。削木の朴の出づる所の細片を杮と曰ふなりと謂ふ。
木工具八十二〈四声字苑に云はく、工は匠なり、匠者は工巧者の又なりといふ〉
鐇 唐韻に云はく、鐇〈音は繁、漢語抄に多都岐(たつぎ)と云ふ〉は広き刃の斧なりといふ。
斧〈柲付〉 兼名苑注に云はく、斧〈音は府、乎能(をの)、一に与岐(よき)と云ふ〉は神農が造るなりといふ。柲〈音は秘、一音に必、乎乃々江(をののえ)、一に布流(ふる)と云ふ〉は斧の柄の名なりといふ。
釿〈𣚚付〉 釈名に云はく、釿〈音は斤、天乎乃(てをの)〉は斧の迹を平(なら)し滅(け)す所以なりといふ。唐韻に云はく、𣃁𣚚〈並びに音は勅〉の上は釿なり、下は釿の柄の名なりといふ。
鐁 唐韻に云はく、鐁〈音は斯、加奈(かな)。弁色立成に曲刀の二字を用ゐる。新撰万葉集に銫の字を用ゐる。今案ふるに、銫の字、出づる所未だ詳かならず。但し、唐韻に鍦の字有り、視遮反、一音は夷、短き矛の名なり、工具と為(す)可し、其の義は未だ詳かならず〉は木を平す器なりといふ。釈名に云はく、釿に高下の跡有り、鐁は此れを以て上を平すなりといふ。
鋸 四声字苑に云はく、鋸〈音は拠、能保木利(のほぎり)〉は刀に似て歯有る者なりといふ。
鑿〈樈付〉 野王案に、鑿〈音は昨、能美(のみ)〉は木を穿つ所以の器なりとす。通俗文に云はく、樈〈音は刑〉は鑿の柄の名なりといふ。
錑 考声切韻に云はく、錑〈雷内反、又、音は戻、漢語抄に錑は毛遅(もぢ)と云ふ〉は鑚なりといふ。
鉄槌 広雅に云はく、䤶〈於却反、加奈都知(かなづち)〉は鉄槌なりといふ。
柊楑 纂文に云はく、方椎〈直追反、字は亦、槌に作る〉は之れを柊楑〈終葵の二音、漢語抄に散伊都遅(さいづち)と云ふ〉と謂ふといふ。
墨斗 楊氏漢語抄に墨斗〈須美都保(すみつぼ)〉と云ふ。
縄墨 内典に云はく、端直にして曲らず、喩へば縄墨〈涅槃経の文なり、縄墨は須美奈波(すみなは)〉の如しといふ。
墨芯 蒋魴切韻に云はく、𥯣を以て筆と為るを芯〈音は浸、須美佐之(すみさし)〉と曰ふといふ。周の赧王の時、史臣の公田檀が造るなり。時の人、竹の芯を以て文字を画く、今の工匠の墨芯は是。
曲尺 弁色立成に曲尺〈麻賀利賀禰(まがりがね)〉と云ふ。
細工具八十三
刀子 楊氏漢語抄に刀子〈賀太奈(かたな)、上は都牢反〉と云ふ。
錐 毛詩に云はく、童子は錐〈職追反、岐利(きり)〉を佩くといふ。
觽攜 唐韻に云はく、觽〈許規反、久之利(くじり)〉は角錐、童子は攜を佩くといふ。説文に云はく、角の端を鋭くして以て結びを解く可き者なりといふ。
𨧌 弁色立成に云はく、𨧌〈加布良恵利(かぶらゑり)、巨淹反〉は曲刀の鑿なりといふ。
膠 野王案に、膠〈音は交、邇賀波(にかは)〉は物を連ね綴ぢ相ひ黏り着かせ令むる所以の者なりとす。本草に云はく、牛皮を煮て之れを作る、東阿より出づる故に東阿膠と曰ふなりといふ。
漆 野王案に云はく、漆〈音は七、宇流之(うるし)〉は木の汁にして以て物を塗る可きなりといふ。
朱漆 荆州記に、金、銀、朱の漆の器と云ふ。
金漆 開元式に云はく、台州に金漆の樹有りといふ。〈金漆は古之阿布良(こしあぶら)〉
掃墨 功程式に云はく、掃墨一斗は酒二升、膠二両に合すといふ。〈波伊須美(はいずみ)〉
䰍筆 陸詞切韻に云はく、䰍〈音は次、漢語抄に䰍筆は波介(はけ)と云ふ〉は漆を以て物に塗るなりといふ。
錯子 唐韻に云はく、錯〈倉各反、漢語抄に錯子は古須利(こすり)と云ふ〉は鑪の別名、又、摩なりといふ。
木賊 弁色立成に木賊〈度久佐(とくさ)〉と云ふ。
椋葉 本草に椋葉〈無久乃波(むくのは)、具(つぶさ)に木類に見ゆ〉と云ふ。
金銀薄 外国志に云はく、長者は金薄、銀薄の承塵を作るといふ。
竹刀 日本紀私記に竹刀〈阿乎比衣(あをひえ)〉と云ふ。竹刀を以て金銀薄を剪るなりと言ふ。
韋 唐韻に云はく、韋〈音は闈、乎之賀波(をしかは)〉は柔皮なりといふ。
革 説文に云はく、革〈古核反、都久利加波(つくりがは)、今案ふるに、蘇枋皮、黄櫨革、紫革、褐革、緋纈革等の名有り。纈は由波太(ゆはた)と読む、即ち是れ夾纈の纈の字なり〉は獣皮の毛を去るなりといふ。
蝋 考声切韻に云はく、蝋〈藍盍反、字は亦、䗶に作る〉は蜜蜂の窠を銷(とか)して為る所以なりといふ。
鍛冶具八十四〈段野の二音、四声字苑に云はく、鍛は金鉄を打ち器を為る也、冶は鉄を焼き銷鑠(とか)す也といふ〉
鞴 唐韻に云はく、鞴〈蒲拝反、楊氏漢語抄に皮袋は布岐賀波(ふきがは)と云ふ〉は韋嚢にして火を吹くなりといふ。野王案に、鞴は冶火を吹きて熾(おこ)さ令むる所以の嚢なりとす。
蹈鞴 日本紀私記に蹈鞴〈太々良(たたら)、今案ふるに、漢語抄に錧の字を用ゐるは非ざるなり。唐韻に錧の音は貫、一音に管、車軸の頭の鉄なり〉と云ふ。
鎔 漢書注に云はく、鎔〈音は容、伊賀太(いがた)〉は鉄を鋳る形なりといふ。
炭鉤 陸詞切韻に云はく、鋊〈音は欲、須美賀岐(すみかぎ)〉は炭鉤なりといふ。
和炭 楊氏漢語抄に和炭〈邇古須美(にこすみ)、今案ふるに一に賀知須美(かぢすみ)といふ〉と云ふ。
鉄槌 広雅に云はく、䤶〈於却反、加奈都知(かなづち)〉は鉄槌なりといふ。四声字苑に云はく、鎚〈直追反、今案ふるに即ち鉄槌なり〉は鉄を打つ器なりといふ。
鉄鉗 楊氏漢語抄に鉄鉗〈加奈波之(かなばし)、下は奇炎反〉と云ふ。
鉄碪 同抄に鉄碪〈加奈之岐(かなしき)〉と云ふ。
鉸刀 同抄に云はく、鉸刀〈波佐美(はさみ)、上は古効反〉は銅鉄を切る所以なりといふ。
鏟 唐韻に云はく、鏟剗〈並びに初限反、弁色立成に鏟は奈良之(ならし)と云ひ、剗刀を鏟と云ふ〉、上は木を平す器なり、下は削るなりといふ。
鑢子 四声字苑に云はく、鑢〈音は慮、字は亦、鋁に作る。漢語抄に子夜須利(こやすり)と云ふ〉は鋸の歯を利(と)ぐ所以なりといふ。
鐟 陸詞切韻に云はく、鐟〈徐感反、上声の重、漢語抄に太加禰(たがね)と云ふ〉は鉄を剪る器なりといふ。
砥 兼名苑に云はく、砥〈音は旨〉、一名に䃤〈音は篠、末度(まと)〉は細かき礪石なりといふ。
磺 兼名苑に云はく、磑〈音は豈〉、一名に磺〈音は黄、阿良度(あらと)〉は麁(あら)き礪石なりといふ。四声字苑に云はく、礪〈力制反、今案ふるに惣名なり〉は鉄を磨く石なりといふ。
青礪 唐韻に云はく、礛䃴〈監諸の二音、阿乎度(あをと)〉は青き礪石なりといふ。
和名類聚抄巻第五
和名類聚抄巻第六
調度部下
音楽具八十五 服玩具八十六 称量具八十七 容飾具八十八 澡浴具八十九 厨膳具九十 薫香具九十一 裁縫具九十二 染色具九十三 機織具九十四 蚕糸具九十五 屏障具九十六 坐臥具九十七 行旅具九十八 葬送具九十九
音楽具八十五〈四声字苑に云はく、音声和するを楽は五角反と曰ひ、哀楽の楽は盧各反〉
鉦皷 後漢書に鉦皷の声〈鉦の音は征、俗に常古(とこ)と云ふ〉と云ふ。兼名苑に云はく、鉦、一名に鐃〈女交反〉は金皷なりといふ。越王の勾践が造るなり。
方磬 律書楽図に云はく、磬〈苦定反、俗に方磬と云ふ、磬の音は強〉は二十四を懸くといふ。唐令に云はく、玉磬、方響、各(おのおの)一架といふ。〈今案ふるに磬は方響と似て非なり〉
銅鈸子 律書楽図に云はく、銅鈸子〈今案ふるに鈸は即ち鉢の字なり〉は西域より出で、柄無く、皮を以て紐と為し、相撃ちて以て節に応ふといふ。今、夷楽に多く之れを用ゐる。
琴 唐韻に云はく、琴〈巨金反〉は楽器、神農が之れを作り、本(もと)は五絃、周の文王が二絃〈音は弦と同じ、古度乃乎(ことのを)、楽に絃有るは皆、之れを用ゐる〉を加ふといふ。
箏〈柱付〉 蒼頡篇に云はく、箏〈組耕反、俗に象乃古度(しゃうのこと)と云ふ〉は形、瑟に似て短く、十三絃有りといふ。阮瑀箏譜に云はく、柱の高さ三寸なるは天地人を謂ふなりといふ〈柱は古度遅(ことぢ)〉。
琵琶〈撥付〉 兼名苑に云はく、琵琶〈毘婆の二音〉は本、胡より出づるなり、馬上に之れを皷(たた)く、一に魏の武の造るなりと云ひ、今の用ゐる所は是といふ。蒋魴切韻に云はく、棙〈音は麗、俗に撥の字を用ゐる〉は琵琶の撥の名なりといふ。
阮咸 阮咸譜に云はく、清風調と琵琶風香調と同音といふ。今案ふるに琵琶の其の頸、曲らざるなり。
箜篌 兼名苑注に云はく、箜篌〈空侯の二音、楊氏漢語抄に箜篌は百済琴なりと云ふ〉は漢の武の時の人、琴に依りて之れを製るといふ。
𥰃篌 本朝格に𥰃篌師一人と云ふ。〈今案ふるに𥰃の字は未だ詳(つばひら)かならず〉
新羅琴 同格に新羅琴師一人と云ふ。〈新羅琴は之良岐古度(しらきごと)〉
日本琴 万葉集に日本琴と云ふ。〈俗に倭琴の二字を用ゐる。夜末度古度(やまとごと)〉
横笛 律書楽図に云はく、横笛〈音は歒、与古不江(よこぶえ)〉は本、羌より出づるなり、漢の張騫、西域に使ひして首(はじ)めて一曲を伝ふ、李延年、新声二十八曲を造るといふ。
長笛 同図に云はく、馬融の善く吹くは長笛と為といふ。
高麗笛 唐令に高麗伎の横笛〈高麗笛は俗に古末布江(こまぶえ)と云ふ〉と云ふ。
笙 釈名に云はく、笙〈音は生、俗に象乃布江(しゃうのふえ)と云ふ〉、竹の母を𠣻〈薄交反、俗に都保(つぼ)と云ふ〉と曰ひ、瓢を以て之れを為るといふ。竽は亦、是〈竽の音は于〉。其の中に簧〈音は黄、俗に之太(した)と云ふ〉を管頭に受け、其の中に横に施すなり。
篳篥 律書楽図に、大篳篥、小篳篥〈畢栗の二音、俗に比知利岐(ひちりき)と云ふ〉と云ふ。
簫 蔡邕月令章句に云はく、簫〈音は蕭、俗に去声と云ふ〉は竹を編みて之れを吹く、長きは則ち濁り短きは則ち清し、蜜蝋を以て其の底に実(みた)して増減し、則ち之れを知すといふ。
莫目 本朝格に莫牟師一人〈牟は或に目に作る、俗に万玖毛(まくも)といふ〉と云ふ。
尺八 律書楽図に云はく、尺八を短笛と為といふ。
中管 同図に云はく、長笛、短笛の間、之れを中管と謂ふといふ。
皷 蔡邕独断に云はく、皷〈公戸反、都々美(つづみ)〉は黄帝の臣、岐伯が作る所なりといふ。
大皷〈枹付〉 律書楽図に云はく、爾雅に大皷〈今案ふるに、俗に或は之れを四皷、又は小皷と謂ひ、一二三の名有り、皆、節の次第に応ふるを以て名を取るなり〉は之れを鼓賁〈音は憤〉と謂ひ、即ち皷を建つと云ふなりといふ。兼名苑に云はく、槌は一名に枹〈音は浮、字は亦、桴に作る、俗に豆々美乃波知(つづみのばち)と云ふ〉は大皷を撃つ所以なりといふ。
摺皷 律書楽図に摺皷〈摺は摩なり、俗に須利都々美(すりつづみ)と云ふ〉と云ふ。
鞨皷 同図に云はく、答臈皷は今の鞨侯、提皷〈鞨の音は曷、俗に掲の字を用ゐる、未だ詳かならず〉は即ち鞨皷なりといふ。
鼗皷 周礼注に云はく、鼗〈徒刀反、字は亦、鞉に作る、不利豆々美(ふりつづみ)〉は皷の如くして小は其の柄を持ち之れを揺らし、則ち旁耳が還りて自ら之れを擊つといふ。
腰皷 唐令に、高麗伎一部に横笛、腰皷、各一と云ふ〈腰皷は俗に三鼓と云ふ〉。本朝令に、腰皷師一人と云ふ。〈腰皷は久礼豆々美(くれつづみ)と読む。今、呉楽の用ゐる所は是〉
拍子 蒋魴切韻に云はく、拍〈普伯反〉は打つなり、板を拍つ楽器の名なりといふ。
服玩具八十六
笏 四声字苑に云はく、笏〈音は忽、俗に尺と云ふ〉は手板、長さ一尺六寸、闊さ三寸、厚さ五分なりといふ。〈唐笏品に天子は玉、諸侯は象、大夫は魚鬚、文士は竹木とす〉
玉珮 唐韻に云はく、珮〈音は佩と同じ、於無毛乃(おむもの)〉は玉珮なりといふ。古の君子は妼(こしもと)に玉を佩き、以て徳に比する佩帯なり。
瑱 唐韻に云はく、瑱〈音は鎮、美々不太岐(みみふたぎ)〉は玉の耳に充つるなりといふ。
璫 釈名に云はく、耳を穿ちて施すを璫〈音は当、美々久佐利(みみくさり)〉と曰ひ、本(もと)蛮より出づ、蛮夷の婦女、軽淫にして好みて走る故に此れを以て錘〈音は垂、権衡具に見ゆ〉と為、今に中国、之れに効ふといふ。
鐶 唐韻に云はく、鐶〈音は環と同じ、由比万岐(ゆびまき)〉は指鐶なり、環玉なりといふ。
釧 内典に云はく、指の上に在る者は之れを名けて鐶と曰ひ、臂の上に在る者は之れを名けて釧〈涅槃経の文なり、釧の音は食倫反、比知万岐(ひぢまき)〉と為といふ。
綬 礼記注に云はく、綬〈音は受、久美(くみ)、又、組の字を用ゐる、音は祖〉は珮玉を貫き相承受する所以なりといふ。四声字苑に云はく、緂〈吐敢反、俗に音は奴含反〉は青くして黄なるなりといふ。
総 蒋魴切韻に云はく、総〈作孔反、布散(ふさ)〉は糸を聚め束を成すなりといふ。
鈴 陸詞切韻に云はく、鈴〈音は霊、楊氏漢語抄に鈴の字は須々(すず)と云ふ〉は鐘に似て小なりといふ。三礼図に云はく、鐸〈音は沢〉は今の鈴、其れ銅を以て之れを為るといふ。
華盖 兼名苑注に云はく、華盖〈岐沼加散(きぬがさ)〉は黄帝の蚩尤を征(う)つ時、当に帝の頭上に五色雲有りて其の形に因りて造る所なりといふ。
翳 本朝式に、斎王の行具は翳二枚と云ふ。〈翳の音は於計反、波(は)〉
屏繖 唐令に、腰輿一、次に大繖四と云ふ。〈繖の音は散、本朝式に屏繖と云ふ〉
麈尾 三十国春秋に云はく、王夷甫は常に玉柄の麈尾を把るといふ。〈麈の音は主、俗の音は朱美〉
扇 四声字苑に云はく、扇〈式戦反、玉篇に𥰢に作る、竹部に在り。阿布岐(あふぎ)〉は風を取る所以なりといふ。兼名苑に云はく、扇は一名に箑〈音は接、字は亦、䈉に作る〉といふ。
蒲葵扇 晋書に蒲葵扇と云ふ。〈今案ふるに蒲葵は或に木の別名なり。今、蒲扇と称するは蒲を以て之れを作る〉
称量具八十七〈今案ふるに長短を知るは之れを度と謂ひ、軽重を知るは之れを称と謂ひ、多少を知るは之れを量と謂ふ。並びに算経に見ゆ〉
権衡 広雅に云はく、錘〈音は垂〉は之れを権〈波加利乃於毛之(はかりのおもし)〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、銓〈音は全〉は一名に衡〈楊氏漢語抄に権衡は加良波可利(からばかり)と云ふ〉称なりといふ。
龠 唐韻に云はく、龠〈音は薬〉は量器の名なりといふ。
合 唐韻に云はく、合〈侯閤反、又、閤と同じ〉は合同、又、器の名なりといふ。
升 陸詞切韻に云はく、升〈音は昇、麻須(ます)〉は十合器なりといふ。
斗〈概付〉 同切韻云はく、斗〈当口反、俗に音は度、字は亦、㪷に作る、唐韻に見ゆ〉は十升の器なりといふ。礼記注に云はく、概〈古礙反、斗は俗に度加岐(とかき)と云ふ〉は斗斛の米を平す者なりといふ。
半石 唐令私記に云はく、大倉署の函斛〈今案ふるに函は俗に半石と称する者は是。又案ふるに半は宜しく㪵に作るべし、四声字苑に見ゆ〉の函は五斗を受け、形は此の間の酒槽の如きのみといふ。
斛 漢書律暦志に云はく、龠、合、升、斗、斛〈胡谷反〉は多少を量る所以なりといふ。野王案に、説文に十斗を石と為、石は猶ほ斛のごとしと云ふなりとす。
容飾具八十八
鏡 孫愐切韻に云はく、鏡〈居命反、加々美(かがみ)〉は人の面を照らす者なりといふ。
鏡台 魏武疏に、純銀の参帯の鏡台〈弁色立成に加々美加介(かがみかけ)と云ふ〉と云ふ。
髲 釈名に云はく、髲〈音は被、加都良(かつら)、俗に鬘の字を用ゐるは非ざるなり、鬘は花鬘、花鬘は伽藍具に見ゆ〉は髪の少き者の其の髪を被(かがふ)り助く所以なりといふ。
仮髻 釈名に云はく、仮髻〈須恵(すゑ)〉は此れを以て髪の上を仮に覆ふなりといふ。
蔽髪 釈名に云はく、蔽髪〈比太飛(ひたひ)〉は髪の前を蔽ひ飾りと為るといふ。
鬠 孫愐切韻に云はく、鬠〈音は活、毛度由比(もとゆひ)〉は組むを以て髪を束ぬるなりといふ。
䞓粉 釈名に云はく、䞓粉〈今案ふるに䞓は即ち頳の字なり。䞓粉は閉邇(べに)〉の䞓は赤なり、染めて赤から使め頬に着くる所以なりといふ。
粉 文選好色賦に云はく、粉を着けば則ち大(はなは)だ白しといふ。〈粉は之路岐毛能(しろきもの)〉
白粉 開元式に白粉卅斤と云ふ。〈白粉は俗に波布邇(はふに)と云ふ〉
黛 説文に云はく、黛〈音は代、万由須美(まゆずみ)〉は眉を画く墨なりといふ。
沢 釈名に云はく、沢〈俗に脂綿の二字を用ゐる、阿布良和太(あぶらわた)〉は人の髪、恒に枯れ悴(やつ)る、此れを以て濡れ沢(うる)ほ令むるなりといふ。
黒歯 文選注に云はく、黒歯国は東海の中に在り、其の土俗(くにぶり)に草を以て歯を染む、故に黒歯といふ。〈俗に波久路女(はぐろめ)と云ふ。今の婦人に黒歯の具有り、故に之れを取る〉
鉸刀 楊氏漢語抄に鉸刀〈波佐美(はさみ)、上は古巧反、一音に効〉と云ふ。
鑷子 釈名に云はく、鑷〈尼輒反、楊氏漢語抄に波奈介沼岐(はなげぬき)と云ひ、俗に計沼岐(けぬき)と云ふ〉は摂なり、毛髪を抜き取るなりといふ。
櫛 説文に云はく、櫛〈阻瑟反、久之(くし)〉は梳枇の惣名なりといふ。
細櫛 唐韻に云はく、梳〈音は疎、一に介都留(けづる)と訓む〉は櫛なり、枇〈毘至反、保曽岐久之(ほそきくし)、一に刺櫛を佐之久之(さしぐし)と云ふ〉は細き櫛なりといふ。
厳器 魏武疏に、桼画の厳器〈俗に唐櫛匣の三字を用ゐ、賀良玖師介(からくしげ)と云ふ〉と云ふ。
澡浴具八十九〈澡の音は早、手を洒(すす)ぐなり、浴の音は欲、身を洗ふなり、洒と洗と古、字通ふ〉
澡豆 温室経に云はく、澡浴の法に七物を用ゐ、其の三を澡豆と曰ふといふ。
楊枝 同経に云はく、七物の其の六を楊枝と曰ふといふ。
手巾 修復山陵故事に、白紵の手巾廿枚〈手巾は太乃古比(たのごひ)〉と云ふ。
巾箱 雑題猪髪㕞子詩に云はく、巾箱の裏(うち)に質(し)を委(い)すといふ。〈巾箱は手巾を盛る器の名なり、俗に打乱匣と云ふ〉
匜 説文に云はく、匜〈移爾反、一音に移、波邇佐布(はにさふ)、俗に楾の字を用ゐる。出づる所、未だ詳かならず。但し、和名の波邇佐布(はにさふ)の義、或る説に柄有り半ば其の内に挿し、半ば其の外に在り、故に呼びて半挿と為るなりと云ふ〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべき器なりといふ。
盥 説文に云はく、盥〈音は管、一音に貫、楊氏漢語抄に手を澡ふを多良比(たらひ)と云ひ、俗に手洗の二字を用ゐる〉は手を澡ふなり、字は臼に水の皿に臨むに従ふなりといふ。
唾壺 外国伝に云はく、仏の唾壺の色、文石に似るといふ。
浴斛 楊氏漢語抄に浴斛〈由布禰(ゆぶね)、下は胡谷反〉と云ふ。
内衣 温室経に云はく、澡浴の法に七物を用ゐ、其の七を内衣〈由加太比良(ゆかたびら)〉と曰ふといふ。論語注に云はく、明衣は衣を以て沐浴の衣と為るなりといふ。
厨膳具九十
箸 唐韻に云はく、筯〈遅倨反、字は亦、箸に作る、波之(はし)〉は匙箸なりといふ。兼名苑に云はく、一名に梜提といふ。
匙 説文に云はく、𠤎〈卑履反、賀比(かひ)〉は飯を取る所以なりといふ。兼名苑に云はく、𠤎は一名に匙〈是支反、疵と同じ、又、音は提、唐韻に見ゆ〉といふ。
俎 史記に云はく、人を刀俎と為、我を魚肉と為〈俎の音は阻、末奈以太(まないた)〉。開元式に云はく、食刀、切机、各一〈今案ふるに切机は即ち俎なり〉。
炙函 東宮旧事に漆炙函〈今案ふるに宇流之奴利乃夜岐之留乃都奉(うるしぬりのやきじるのつぼ)〉と云ふ。
串𦠁 唐韻に云はく、串〈初限反、剗と同じ、夜伊久之(やいぐし)〉は完(しし)を炙る串なり、𦠁〈𦠁の音は束〉串は炙りの具なりといふ。
𥷪 唐韻に云はく、𥷪〈昨先反、前と同じ、太介乃久之(たけのくし)〉は細く削る竹なりといふ。
柈 風土記に云はく、越の俗に飲宴するとき皷柈を楽と為といふ。〈今案ふるに、柈は即ち槃の字なり。亦、盤に作る。俗に朱漆の皷柈、黒漆の皷柈と云ふは是なり。盃盤の柈は其の広尺にして五六寸なる者を取り抱きて以て腹に着け、右手の五指を以て之れを弾き、舞ふ者は節に応へて皷柈を舞ふ〉
油単 唐式に云はく、鴻臚蕃客等の器皿、油単及び雑物、並びに少府監の支をして造ら令むといふ。
食単 同式に云はく、鉄鍋、食単、各一。〈漢語抄に食単は須古毛(すごも)と云ふ〉
苞苴 唐韻に云はく、苞苴〈包書の二音、日本紀私記に於保邇保(おほにほ)と云ふ、俗に阿良万岐(あらまき)と云ふ〉は魚肉を裹むなりといふ。
薫香具九十一
香 楼炭経に云はく、凡そ雑香に四十二種有りといふ。
沈香 本草に云はく、沈香〈沈は俗に音は女林反〉は節堅くして水に沈む者なりといふ。兼名苑に云はく、一名に堅黒といふ。
浅香 南州異物志に云はく、沈香の其の次に心白の間に在り、甚だ堅からざる者、之れを水中に置けば浮ばず、沈まず、水と平らなる者、名けて浅香と曰ふといふ。
麝香 爾雅注に云はく、麝〈食夜反〉の脚は麞に似て香り有りといふ。
裛衣香 文字集略に云はく、裛〈於業反、於及反〉は裛衣香といふ。〈俗に衣比(えひ)と云ふ〉
丁子香 内典に、丁子、鬱金、婆律膏〈七言の偈なり、鬱金は下文に見ゆ〉と云ふ。
薫陸香 兼名苑注に云はく、薫陸香〈俗に音は君禄〉は中天竺より出づるなりといふ。
牛頭香 同注に云はく、牛頭香〈俗に音は五豆〉は大秦国より出で、気は麝香に似るといふ。
鶏舌香 南州異物志に云はく、鶏舌香は是れ草花の口に含む可き香なりといふ。
雀頭香 江表伝に云はく、魏の文帝、使を呉に遣して雀頭香を求むといふ。
龍脳香 蘇敬本草注に云はく、龍脳香は樹の根の中の乾きし脂なりといふ。
青木香 南州異物志に云はく、青木香〈俗に象目を用ゐる〉は天竺より出づ、是れ草の根の状にして甘草に似るといふ。
零陵香 南州異物志に云はく、零陵香は土人の謂ひて燕草と為といふ。
都梁香 荊州記に云はく、都梁県に小山有り、山上に水有りて清く浅し、其の中に蘭草生え、俗に蘭と謂ひて都梁香と為といふ。
兜納香 魏略に云はく、兜納香は大秦国より出づといふ。
兜末香 漢武故事に云はく、兜末香は西王母、之れを焼くといふ。本(もと)是れ兜渠国の献る所。
流黄香 呉時外国志に云はく、流黄香は都昆国より出づといふ。
艾納香 広雅に艾納香と云ふ。
迷迭香 魏略に云はく、迷迭香は大秦国より出づといふ。
詹糖香 本草に詹糖香〈詹糖の二音は占唐〉と云ふ。
白芷香 本草に云はく、白芷香〈芷の音は止〉、味は辛、河東に生ゆといふ。
蘇合香 唐志に云はく、蘇合香は蘇合国より出づといふ。〈今案ふるに一説に諸の香草の煎汁の名なり。本草疏に見ゆ〉
甲香 南州異物志に云はく、甲香〈俗に甲の音は合と云ふ〉は螺の属なり、衆香に合せ之れを焼くべし、皆、芳(かをり)を益さ使む、独り焼くときは則ち臭しといふ。
百和香 神仙伝に云はく、淮南王は錦繡の帳を張り、百和の香を燔くといふ。
芸香 礼記注に芸香〈音は雲、俗に久佐乃香(くさのかう)〉と云ふ。
薫爐 漢の劉向に薫炉銘〈薫炉は比度利(ひとり)〉有り。
薫籠 方言注に云はく、火籠〈多岐毛乃々古(たきもののこ)〉は今の薫籠なりといふ。
香囊 唐韻に云はく、幃〈音は囲、又、許帰反〉は香囊なりといふ。
裁縫具九十二
碓 祝尚丘に曰く、碓〈都隊反、対に同じ、加良宇須(からうす)〉は踏み舂く具なりといふ。
砧 唐韻に云はく、碪〈知林反、字は亦、砧に作る。岐沼伊太(きぬいた)〉は衣を擣つ石なりといふ。
擣衣杵 東宮旧事に擣衣杵〈昌与反、都智(つち)〉と云ふ。
硟 陸詞切韻に云はく、硟〈尺戦反、扇と同じ、漢語抄に岐奴以太(きぬいた)と云ふ〉は繒を展す石なりといふ。
模 唐韻に云はく、模〈莫胡反、俗語に加太岐(かたぎ)〉は法なり、形なりといふ。
剪刀 楊氏漢語抄に云はく、剪刀〈剪の音は即浅反、俗に毛能多知加太奈(ものたちがたな)と云ふ〉は衣裳を裁る所以なりといふ。
針 陸詞切韻に云はく、鍼〈職深反、字は亦、針に作る、波利(はり)〉は衣を縫ふ具なりといふ。
針管 魏武疏に針管一枚と云ふ。〈針管は波利都々(はりづつ)〉
錔 野王案に、錔〈他合反、踏と同じ、於与比奴木(およびぬき)〉は指の沓にして衣を縫ふ所の具なりとす。
熨斗 蒋魴切韻に云はく、熨〈音は尉、熨斗は乃之(のし)、今案ふるに一音は鬱、唐韻に見ゆ〉斗は衣裳を熨す所以なりといふ。
染色具九十三〈四声字苑に云はく、物を以て彩色を取るなりといふ。色は五綵の惣名なり〉
蘇枋 蘇敬本草注に云はく、蘇枋〈音は方、俗に音は須方〉は人の染色に用ゐるといふ。
黄櫨 文選注に云はく、櫨〈落胡反、波邇之(はにし)〉は今の黄櫨の木なりといふ。
檗 兼名苑に云はく、黄檗〈補麦反〉は一名に黄木といふ。〈岐波太(きはだ)〉
梔子 唐韻に云はく、梔〈音は支、今案ふるに、医家書等に支子の二字を用ゐる、久知奈之(くちなし)〉は梔子、木の実にして黄色に染む可き者なりといふ。
橡 唐韻に云はく、橡〈徐両反、上声の重、都流波美(つるばみ)〉は櫟の実なりといふ。
茜 兼名苑注に云はく、茜〈蘇見反、阿加禰(あかね)〉は以て緋に染むべき者なりといふ。
紫草 本草に紫草〈無良散岐(むらさき)〉と云ふ。兼名苑に云はく、一名に茈䓞〈紫戻の二音、今案ふるに玉篇に茈は即ち古紫の字なり〉といふ。
紅藍 弁色立成に云はく、紅藍〈久礼乃阿井(くれのあゐ)〉は呉藍〈上に同じ〉といふ。本朝式に云はく、紅花、俗に之れを用ゐるといふ。
藍〈澱付〉 唐韻に云はく、藍〈魯甘反、木は都波岐阿井(つばきあゐ)、菜は多天阿井(たであゐ)、本草に見ゆ〉は染草なり、澱〈音は殿、阿井之流(あゐじる)〉は藍澱なりといふ。本草に云はく、木藍は澱に作るに堪ふといふ。
黄草 弁色立成に黄草〈加伊奈(かいな)、本朝式に刈安草と云ふ〉と云ふ。
鴨頭草 楊氏漢語抄に鴨頭草〈都岐久佐(つきくさ)、弁色立成に押赤草と云ふ〉と云ふ。
赤莧 本草注に云はく、莧に又、赤莧〈阿加比由(あかひゆ)〉有り、茎葉は純紫にして之れを食ふに堪へずといふ。
黄灰 本草に云はく、冬灰は一名に藜灰といふ〈阿加佐乃波比(あかざのはひ)〉。陶隠居に曰く、此れ衣を浣ふ黄灰なり、諸の蒿藜を焼き、練りて之れを作るといふ。
柃灰 蘇敬に曰く、又、柃灰〈柃の音は霊、今案ふるに俗に所謂、椿の灰等、是〉有り、木葉を焼き之れを作り、並びに染に入れて用ゐるといふ。
灰汁 弁色立成に云はく、灰汁〈阿久(あく)〉は淋灰〈阿久太流(あくたる)、上の音は林〉といふ。
織機具九十四
機〈経緯付〉 国語注に云はく、経緯を設け機〈居衣反、楊氏漢語抄に云はく、高機は多加波太(たかはた)、今案ふるに、機巧の処は和加豆利(わかつり)〉を以て織り繒布を成すなりといふ。説文に云はく、緯〈音は尉、沼岐(ぬき)、之れを謂ふときは則ち経(たていと)を知る可し〉は横に織る糸なりといふ。
杼 通俗文に云はく、緯を受くるを䇡〈今案ふるに即ち杼の字なり、比(ひ)〉と曰ひ、亦、之れを梭〈蘓禾反、沙と同じ〉と謂ふといふ。説文に云はく、杼は機の緯を持つ者なりといふ。
筬 唐韻に云はく、筬〈音は成、楊氏漢語抄に乎佐(をさ)と云ふ〉は織具なりといふ。
榺 四声字苑に云はく、榺〈音は勝負の勝、楊氏漢語抄に知岐利(ちきり)と云ふ〉は織機の経を巻く木なりといふ。
綜 野王曰はく、綜〈蘇統反、閉(へ)〉は機縷、糸を持ち交へる者なりといふ。
臥機 楊氏漢語抄に臥機〈久豆比岐(くつひき)、弁色立成の説に同じ〉と云ふ。
機躡 弁色立成に機躡〈万禰岐(まねき)〈已上は本注〉、躡踏なり、尼輒反〉と云ふ。
繀車 説文に云はく、繀〈蘇対反、楊氏漢語抄に繀車は沼岐加不利(ぬきかぶり)と云ふ〉は糸を筟(くだ)に着けるなりといふ。
繀筟 説文に云はく、筟〈芳無反、敷と同じ、楊氏漢語抄に筟は久太(くだ)と云ふ〉は繀糸の管なりといふ。弁色立成に管子〈和名は上に同じ、新撰万葉集に亦、之れを用ゐる〉と云ふ。
織椱 孫愐に曰く、織椱〈音は服、漢語抄に井乃阿之(ゐのあし)と云ふ〉は機の繒を巻く者なりといふ。
麻苧 説文に云はく、麻〈音は磨、乎(を)、一に阿佐(あさ)と云ふ〉は枲の属なりといふ。爾雅注に云はく、枲〈司里反、介無之(けむし)〉は麻の子有る名なりといふ。周礼注に云はく、苧〈直呂反、上声の重、加良無之(からむし)〉は麻の属の白くして細き者なりといふ。
巻子 楊氏漢語抄に巻子〈閉蘇(へそ)、今案ふるに本文は未だ詳かならず、但し閭巷の所伝に、麻を続(う)みて円く巻く名なりといふ〉と云ふ。
蚕糸具九十五
蚕 説文に云はく、蚕〈昨含反、俗に𧌩の字に為る、加比古(かひこ)、一訓に古賀比須(こがひす)〉は虫の吐く糸なりといふ。
繭〈独繭付〉 説文に云はく、繭〈音は顕、万由(まゆ)〉は蚕の衣なりといふ。列子に云はく、詹何は釣りを善くする人なり、独繭糸を以て綸と為といふ〈独繭は比岐万由(ひきまゆ)〉。
桑蠒 唐韻に云はく、蟓〈音は象、久波万由(くはまゆ)〉は桑繭、即ち桑蚕なりといふ。
蚕沙 本草に云はく、蚕沙〈古久曽(こくそ)〉は蚕の矢(くそ)の名なりといふ。
蚕簿 兼名苑に云はく、簿〈音は薄、衣比良(えびら)〉は一名に筁〈音は曲〉、蚕を養ふ器なり、蚕を其の上に施し、繭を作ら令むる者なりといふ。
桑柘 礼記注に云はく、桑柘〈荘射の二音、和名は上は久波(くは)、下は都美(つみ)〉は蚕の食ふ所なりといふ。
糸 文字集略に云はく、糸〈音は司、伊度(いと)〉は蚕の吐く所なりといふ。説文に云はく、線〈思翦反、字は亦、綫に作る、訓は縷と同じ、以度須知(いとすぢ)と曰ふ〉は糸の縷なり、纇〈盧対反、伊度乃布之(いとのふし)〉は糸の節といふ。
絓絲 説文に云はく、絓〈口蝸反、漢語抄に絓糸は之介以度(しけいと)と云ふ〉は悪しき糸なりといふ。
籰 説文に云はく、籰〈王縳反、字は亦、篗に作る。俗に本音の重と云ふ〉は糸を収むる者なりといふ。唐韻に云はく、柅〈女履反、和久乃江(わくのえ)〉は籰の柄なりといふ。
反転 弁色立成に反転〈久流閉枳(くるべき)、楊氏漢語抄の説に同じ〉と云ふ。
縿車 唐韻に云はく、縿〈蘇遭反、又、所衡反、訓は久流(くる)。漢語抄に縿車は於保賀(おほが)と云ふ〉は繭を絡めて糸を取るなりといふ。
鍋〈紡続付〉 字書に云はく、鍋〈音は戈、字は亦、楇に作る。漢語抄に都美(つみ)と云ふ〉、紡車は糸を収むる者なりといふ。唐韻に云はく、紡〈芳両反、豆無久(つむぐ)〉は続むなりといふ。蒋魴切韻に云はく、績〈則歴反、宇無(うむ)〉は苧を続む名なりといふ。
絡垜 楊氏漢語抄に絡垜〈多々理(たたり)、下は他果反〉と云ふ。
屏障具九十六
帷 釈名に云はく、帷〈音は維、加太比良(かたびら)〉は囲むなり、以て自ら障へ囲むなりといふ。
幕 唐式に、衛尉寺に六幅幕、八幅幕〈音は莫、万久(まく)〉と云ふ。
帟 周礼注に云はく、平帳は帟〈羊盃反、比良波利(ひらばり)〉と曰ふといふ。
幄 四声字苑に云はく、幄〈於角反、阿計波利(あげはり)〉は大帳なりといふ。
幔 唐韻に云はく、幔〈莫半反、俗の名は字の如し、本朝式に斑は之れを万不[太]良万久(まぶ[だ]らまく)と読む〉は帷幔なりといふ。
幌 唐韻に云はく、幌〈胡広反、上声の重、止波利(とばり)〉は帷幔なりといふ。
帳〈几帳付〉 釈名に云はく、帳〈猪亮反、俗に音は長、今案ふるに、之の属に几帳の名有り、出づる所未だ詳かならず〉は張なり、床の上に施し張るなり、小帳を斗〈俗に斗帳と云ふ。一に屏風帳と云ふ〉と曰ひ、形は覆斗の如きなりといふ。
簾 野王曰はく、簾〈音は廉、須太礼(すだれ)〉は竹を編む帳なりといふ。
軟障 本朝式に軟障一条と云ふ。
行障 唐鹵簿令に行障六具と云ふ。
屏風 西京雑記に七尺の屏風〈屏の音は薄経反〉と云ふ。
承麈 釈名に云はく、承塵〈此の間に名は字の如し〉は上に施し塵土を承くるなりといふ。
伝壁 釈名に云はく、伝壁〈漢語抄に防壁は多都古毛(たつこも)と云ふ〉は席(むしろ)を以て壁に伝へ着くるなりといふ。
籧篨 説文に云はく、籚𥳊〈蘆㾱の二音〉は麁竹の席なりといふ。方言に曰はく、江東に之れを籧篨〈渠除の二音、阿無師路(あむしろ)〉と謂ふといふ。
障子 楊氏漢語抄に障子〈屏風の属なり〉と云ふ。
坐臥具九十七
衣架 爾雅注に云はく、箷〈音は移、字は亦、椸に作る、美曽加介(みそかけ)〉は御衣を懸けるなりといふ。
几〈脇息付〉 西京雑記に云はく、漢制に天子は玉几なり、公侯は皆、竹木を以て几〈居履反、於之万都岐(おしまづき)。今案ふるに、之の属は又、脇息の名有り。出づる所は未だ詳かならず〉を為るといふ。
牙床 遊仙窟に、六尺の象牙床と云ふ。〈楊氏漢語抄に牙床は久礼度古(くれどこ)と云ふ〉
倚子 本朝式に云はく、紫宸殿に黒柿の倚子を設くといふ。
床子 同式に云はく、行幸用の赤漆の床子といふ。
草墩 同式に云はく、清涼殿に草墩を設くといふ。
胡床 風俗通に云はく、霊帝は胡服を好み、京師は皆、胡床〈阿久良(あぐら)〉を作るといふ。
毯 蒋魴切韻に云はく、毯〈他敢反、此の間に名は字の如し〉は毛の席、五色の糸を以て之れを為るといふ。
氈 野王に曰く、氈〈諸延反、賀毛(かも)〉は毛の席、毛を撚りて席に為るなりといふ。
茵〈褥付〉 野王に曰く、茵〈音は因、之土禰(しとね)〉は茵褥、又、虎、豹の皮を以て之れを為るといふ。唐韻に云はく、褥〈而蜀反、辱と同じ、俗に音は邇久、今案ふるに毛の席の名なり〉は氊褥なりといふ。
簟 蒋魴切韻に云はく、簟〈徒玷反、上声の重〉は篾を織りて席に為り、暑月に之れを鋪(し)くといふ。
円座 孫愐に曰く、䕆〈徒口反、上声の重、俗に円座と云ひ、一に和良布太(わらふだ)と云ふ〉は円き草の褥なりといふ。
畳 本朝式に、掃部寮に長畳、短畳と云ふ。〈唐韻に徒協反、重畳なり、太々美(たたみ)〉
筵〈席付〉 説文に云はく、筵〈音は延、無之路(むしろ)〉は竹席なりといふ。遊仙窟に、五綵龍の鬢筵と云ふ〈今案ふるに俗に又、九蝶筵有り、文に依りて之れを名く〉。唐韻に云はく、席〈音は藉と同じ、訓は上に同じ〉は薦席なりといふ。
薦 唐韻に云はく、薦〈作甸反、古毛(こも)〉は席なりといふ。
鎮子 西京雑記に云はく、昭陽殿に緑羆の席有り、席の毛の長さ尺余り、坐れば則ち膝を没(しず)め、四玉鎮〈陟鄰反、鎮子は俗の音は陳之〉といふもの有りといふ。
枕 陸詞切韻に云はく、枕〈之稔反、万久良(まくら)、枕物の処、去声〉は頭を承くる木なりといふ。
楲㢏 説文に云はく、楲〈音は威、比(ひ)〉は㢏なりといふ。国語注に云はく、㢏〈音は投〉は清厠へ行くなりといふ。
褻器 周礼注に云はく、褻器〈褻の音は思烈反〉は清器にして虎子の属と謂ふなりといふ。〈今案ふるに、俗語に虎子は於保都保(おほつぼ)、清浄器は師乃波古(しのはこ)〉
行旅具九十八
簏 説文に云はく、簏〈音は鹿、楊氏漢語抄に簏子は須利(すり)と云ふ〉は竹の篋なりといふ。
篼 唐韻に云はく、篼〈当侯反、漢語抄に波太古(はたご)と云ふ。俗に旅籠の二字を用ゐる〉は馬を飼ふ籠といふ。
樏〈餉付〉 蒋魴切韻に云はく、樏〈力委反、楊氏漢語抄に樏子は加礼比計(かれひけ)と云ふ。今案ふるに、俗に所謂、破子は是。破子は和利古(わりこ)と読む〉は樏子、中に隔ての有る器なりといふ。四声字苑に云はく、餉〈式亮反、字は亦、𩜋に作る、訓は加礼比於久留(かれひおくる)〉は食を以て送るなりといふ。
蓑 説文に云はく、蓑〈蘇和反、美能(みの)〉は雨衣なりといふ。
笠 毛詩注に云はく、笠〈力執反、賀佐(かさ)〉は雨を禦ぐ所以なりといふ。
簦 史記音義に云はく、簦〈音は登、俗に大笠と云ふ。於保賀散(おほがさ)〉は笠に柄有るなりといふ。
雨衣 唐式に云はく、三品以上、若し雨に遇はば雨衣、氈帽を着て殿門の前に至るを聴(ゆる)すといふ。〈雨衣は阿万岐沼(あまぎぬ)、今案ふるに一に油衣と云ふ。隋書に、煬帝、雨に遇ひ、左右、油衣を進むと云ふは是〉
行縢 釈名に云はく、行縢〈音は騰と同じ、行縢は無加波岐(むかばき)〉は騰なりといふ。脚を裹み以て跳び騰るべき軽便なるを言ふ。
行纏〈莔付〉 唐式に云はく、諸府の衛士、人別(ごと)に行纏一具といふ〈纏の音は直連反〉。本朝式に脛巾〈俗に波々岐(はばき)と云ふ〉と云ふ。新抄本草に莔〈傾井反、以知比(いちひ)、今案ふるに俗に之れを編みて行纏に為るなり〉と云ふ。故に付け出す。
杖 四声字苑に云はく、杖〈直両反、上声の重、都恵(つゑ)〉は竹木を以て之れを為り、老人を輔くる所なりといふ。
横首杖 唐韻に云はく、𣈡〈他礼反、体と同じ。漢語抄に伽世都恵(かせづゑ)と云ふ。一に鹿杖と云ふ〉は横首杖なりといふ。
鉄杖 唐韻に云はく、䥯〈音は罷と同じ、加奈都恵(かなづゑ)〉は大鉄杖なりといふ。
朸 声類に云はく、朸〈音は力、阿布古(あふこ)〉は杖の名なりといふ。
帊幞 通俗文に云はく、帛三幅を帊〈普駕反、去声の重〉と曰ひ、帊衣を幞〈音は僕〉と曰ふといふ。楊氏漢語抄に衣幞〈古路毛都々美(ころもづつみ)〉と云ふ。
囊 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代、字は亦、帒に作る、布久路(ふくろ)〉は囊の名、又、魚帒といふ。
幐 唐韻に云はく、幐〈音は騰、於比不久路(おびぶくろ)〉は囊の帯ぶべきなりといふ。
葬送具九十九
棺 四声字苑に云はく、棺〈音は官、一音は貫、比度岐(ひとき)〉は屍を盛(い)るる所以なり、屍〈音は尸と同じ、訓は或に通ふ〉は死人の形体を屍と曰ふなりといふ。
槨 野王に曰はく、槨〈古博反、郭と同じ、於保止古(おほどこ)〉は棺に周らす者なりといふ。
琀 唐韻に云はく、琀〈胡紺反〉玉は終を送る口中の玉なりといふ。
香輿 喪礼図に香輿〈俗に香乃古之(かうのこし)と云ふ〉と云ふ。
火輿 同図に蝋燭輿〈今案ふるに俗に火輿と云ふは是〉と云ふ。
縗衣 唐韻に云はく、縗〈倉回反、催と同じ、不知古路毛(ふちごろも)〉は喪衣なりといふ。
歩障 喪礼図に云はく、白布帷は以て婦人を障るといふ。〈今案ふるに俗に歩障を用ゐるは是〉
門燎 周礼に云はく、喪に門燎〈力弔反、俗に門火と云ふ〉を設くといふ。顔氏家訓に云はく、喪出づるの日に門前に之れを燃(もや)すといふ。
山陵〈埴輪付〉 日本紀私記に山陵〈美佐々岐(みさざき)〉と云ふ。埴輪〈波迩和(はにわ)〉は山陵の縁辺に埴の人形を作り、車輪の如く立つる者なりといふ。
墳墓 周礼注に云はく、墓〈莫故反、暮と同じ、豆賀(つか)〉は塚塋の地なりといふ。広雅に云はく、塚塋〈寵営の二音〉は葬地なりといふ。方言に云はく、墳〈扶云反〉、壟〈力腫反〉は並びに塚の名なりといふ。
和名類聚抄巻第六
和名類聚抄巻第七
羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七
羽族部第十五〈文選注に羽族は鳥を謂ふなりと云ふ〉
鳥名百 鳥体百一
鳥名百
鳥 爾雅注に云はく、二足にして羽ある者を禽〈音は琴、和名は鳥と同じ〉と曰ふといふ。一説に飛ふを鳥と曰ひ、走るを獣と曰ひ、惣べて之れを禽獣〈訓は獣と同じ〉と謂ふ。毛詩注に云はく、鳥の雌雄〈熊斯の二音、和名は上に乎度利(をとり)、下に米度利(めとり)〉は分ち別かざるは、翼を以て之れを知る、右の左を掩ふを雄、左の右を掩ふを雌、陰陽相下の義、之れを謂ふなりといふ。
鳳凰 爾雅に云はく、雄を鳳と曰ひ雌を凰〈俸皇の二音〉と曰ひ、毛虫の長さなりといふ。
孔雀 兼名苑注に云はく、孔雀〈俗に音は宮尺と云ふ〉は毛の端の円一寸なるは之れを珠毛と謂ひ、毛の文は画の如し、此の鳥は或に音響を以て相接し、或に雄を見れば則ち子有りといふ。
鸚鵡 山海経に云はく、青き羽、赤き喙にして能く言(ものい)ふ、名けて鸚䳇〈桜母の二音〉と曰ふといふ。郭璞注に云はく、今の鸚鵡〈音は武〉は脚の指、前後に各、両(ふたまた)なる者なりといふ。
鶴 四声字苑に云はく、鶴〈何各反、都流(つる)〉は鵠に似て長き喙、高き脚なりといふ。唐韻に云はく、䴇〈音は零、楊氏抄漢語抄に太豆(たづ)と云ふ〉は䴇鳥、鸖の別名なりといふ。
鵰鷲 唐韻に云はく、鶚〈音は凋、和之(わし)〉は鶚鳥の別名なり、鶚〈音は咢〉は大鵰なりといふ。山海経注に云はく、鷲〈音は就〉は小鵰なりといふ。
角鷹 弁色立成に角鷹〈久万太加(くまたか)、今案ふるに角は毛角の義なり〉と云ふ。
鷙〈鴘字付〉 蒋魴切韻に云はく、鷙〈音は四、太賀(たか)〉は鷹鷂の惣名なりといふ。日本紀私記に倶知〈両字を急ぎ読みて屈、百済に俗に鷹を号けて倶知(くち)と曰ふなり〉と云ふ。唐韻に云はく、鴘〈方免反、又、府蹇反、俗に賀閉流波美(かへるはみ)と云ふ〉は鷹鷂の二年の色なりといふ。
鷹 広雅に云はく、一歳は之れを名けて黄鷹〈音は膺、和賀多加(わかたか)〉、二歳は之れを名けて撫鷹〈加太加閉利(かたかへり〉、三歳は之れを名けて青鷹、白鷹〈漢語抄に大鷹は於保太加(おほたか)、兄鷹は勢宇(せう)と云ふ。今案ふるに俗説に雄鷹は之れを光鷹と謂ひ、雌鷹は之れを火鷹と謂ふなり〉といふ。
鷂 兼名苑に云はく、鷣〈音は滛〉は一名に鸇〈諸延反〉、鷂なりといふ。野王案に、鷂〈音は遥、又は云はく、漢語抄に波之太加(はしたか)、兄鷂は古能里(このり)と云ふといふ〉は鷹に似て小さきなりとす。
鶙鵳〈鷸子付〉 広雅に云はく、鶙鵳〈帝肩の二音、漢語抄に能勢(のせ)と云ふ〉、鷸子〈鷸の音は聿、豆布利(つぶり)〉は皆、鷂の属なりといふ。
雀鷂 兼名苑に云はく、雀鷂〈漢語抄に須々美多加(すずみたか)と云ひ、一に都美(つみ)と云ふ〉は善く雀を提ぐる者なりといふ。唐韻に云はく、𪀚〈音は戎、漢語抄に雀𪀚は悦哉と云ふ〉は雀𪀚にして小さき鷹なりといふ。
鶻 斐務齊切韻に云はく、鶻〈音は骨、波夜布佐(はやぶさ)〉は鷹の属なり、隼〈音は笋、和名は上に同じ〉は鷙鳥なり、大名(たいめい)に祝鳩といふ。
鴡鳩 爾雅集注に云はく、鴡鳩〈上は七余反、美佐古(みさご)〉は鵰の属なり、江辺、山中に在るを好み、亦、魚を食ふ者なりといふ。日本紀私記に覚賀鳥〈賀久加乃止利(かくかのとり)、公望案に高橋氏文に水佐古(みさご)と云ふ〉と云ふ。
山鶏 七巻食経に云はく、山鶏は一名に鵕䴊といふ〈峻儀の二音、夜末止利(やまどり)、今案ふるに鵕䴊の種類は各(おのおの)異なる、漢書注に見ゆ〉。地理志に云はく、山鶏の形は家鶏の如しといふ。〈雄は斑にして雌は黒し〉
木兎 爾雅注に云はく、木兎〈都久(つく)〉は鴟に似て小さく兎頭の毛角の者なりといふ。
鴟 本草に云はく、鴟は一名に鳶といふ〈上の音は祗、下の音は鉛、字は亦、𪀝に作る、度比(とび)〉。爾雅に云はく、一名に𪀝鵟〈音は狂〉は喜びて鼠を食ひ目を大きくする者なりといふ。
梟 説文に云はく、梟〈古堯反、布久呂布(ふくろふ)、弁色立成に佐計(さけ)と云ふ。父母を食ふ不孝の鳥なり。爾雅注に鴟梟は大小を八別する名なりと云ふ〉は鴟といふ。
恠鴟 爾雅注に云はく、恠鴟〈与多賀(よたか)〉は昼に伏し夜に行き、鳴きては恠(あや)しと以為(おも)ふ者なりといふ。
烏 唐韻に云はく、烏〈哀都反、加良須(からす)〉は孝鳥なりといふ。爾雅に云はく、純(すべ)て黒くし反哺する者は之れを烏〈哺の音は簿故反、食は口に在るなり〉と謂ふといふ。兼名苑に、一名に鵶〈音は䃁、字は亦、鴉に作る、唐韻に見ゆ〉と云ふ。
鳩 野王案に曰はく、鳩〈音は丘、夜末波止(やまばと)〉、此の鳥は種類、甚だ多く、鳩は其の惣名なりといふ。
鴿 本草に云はく、鴿〈古沓反、頜と同じ、伊閉波止(いへばと)〉は頸短く灰色といふ。
鵤 崔禹食経に云はく、鵤〈胡岳反、以加流賀(いかるが)〉の貌は鴿に似て白き喙といふ。兼名苑に云はく、斑鳩〈日本紀私記に和名は上に同じと云ふ〉は觜大きく尾の短き者なりといふ。
鳹 陸詞に曰はく、鳹〈音は黔、又の音は琴、漢語抄に比米(ひめ)と云ふ〉は白き喙の鳥といふ。
鴲 孫愐に曰はく、鴲〈音は脂、漢語抄に之米(しめ)と云ふ〉は小き青雀なりといふ。
獦子鳥 楊氏漢語抄に獦子鳥と云ふ〈俗に阿止利(あとり)と云ふ〉。弁色立成に臈觜鳥と云ふ。〈和名は上に同じ、一に胡雀と云ふ。今案ずるに本文は未だ詳(つばひら)かならず。但し或説に此の鳥は列卒の山林に満つるが如く群れ飛ぶ故に獦子鳥と名くるなりと云ふ〉
鵯烏 崔禹食経に云はく、鵯〈音は卑、一音に疋、比衣止利(ひえどり)〉の貌は烏に似て色は蒼白きなりといふ。爾雅注に云はく、鸄〈音は激〉は一名に鵯鶋〈疋居の二音〉、一名に鸒𪆗〈誉斯の二音〉は飛びて多く群れ、腹の下の白き者、江東に呼びて鵯烏と為といふ。
鵐鳥 唐韻に云はく、鵐〈音は巫、漢語抄に巫鳥は之止々(しとど)と云ふ〉は鳥の名なりといふ。
鶇鳥 唐韻に云はく、鶇〈音は東、漢語抄に鶇鳥は都久美(つぐみ)と云ふ。弁色立成に見え馬鳥を云ふ〉は鳥の名なりといふ。
鵽鳥 陸詞に曰はく、鵽〈古活反、多止利(たどり)〉は小鳥にして雉に似るなりといふ。
胡鷰 兼名苑注に云はく、鷰に胡、越の二種有りといふ。〈楊氏漢語抄に胡鷰子は阿万止利(あまどり)と云ふ〉
𪇆𪄻 四声字苑に云はく、𪇆𪄻〈独舂の二音、漢語抄に独舂鳥は佐夜豆岐止利(さやつきどり)と云ふ〉鳥は黄色にして、声は舂く者の相杵うつに似るなりといふ。
喚子鳥 万葉集に喚子鳥〈其れを与布古止利(よぶこどり)と読む〉と云ふ。
稲負鳥 同集に稲負鳥〈其れを伊奈於保勢度利(いなおほせどり)と読む〉と云ふ。
鶪 兼名苑に云はく、鶪は一名に鷭〈上の音は覔、下の音は煩、漢語抄に伯労は毛受(もず)と云ひ、一に鶪と云ふ〉、伯労なりといふ。日本紀私記に百舌鳥と云ふ。
斵木 爾雅集注に云はく、斵木は一名に鴷〈音は列、天良豆々岐(てらつつき)〉、樹の中の蠹を好み食ふ者なりといふ。
布穀鳥 兼名苑に云はく、鸕𪆰は一名に鴶鵴〈盧、葛、吉、菊の四音、布々止利(ふふどり)〉、布穀なりといふ。
鵼 唐韻に云はく、鵼〈音は空、漢語抄に沼江(ぬえ)と云ふ〉は怪しき鳥なりといふ。
鵂鶹 張華博物志に云はく、鵂鶹鳥〈休留の二音、漢語抄に伊比止与(いひどよ)と云ふ〉は人、手足の爪を截りて地に棄つれば則ち其の家に入りて之れを拾ひ取るといふ。
鵁鶄 唐韻に云はく、鵁鶄〈交青の二音〉は鳥名なりといふ。弁色立成に云はく、鵁鶄〈伊微(いひ)〉は海辺に住み、其の鳴くこと極めて喧しき者なりといふ。
鸎 陸詞に曰はく、鸎〈烏茎反、漢語抄に春鳥子は宇久比須(うぐひす)と云ふ〉は春鳥なりといふ。
𪇖𪈜鳥 唐韻に云はく、𪇖𪈜〈藍縷の二音、保度々岐須(ほととぎす)〉は今の郭公なりといふ。
雉 広雅に云はく、雉〈音は智、上声の重、岐々須(きぎす)、一に岐之(きじ)と云ふ〉は野鷄なりといふ。
鶉 淮南子に云はく、蝦蟇は化けて鶉〈市倫反、宇豆良(うづら)〉と為るといふ。
鸗 玉篇に云はく、鸗〈音は籠、漢語抄に之岐(しぎ)と云ひ、一に田鳥と云ふ〉は野鳥なりといふ。
雲雀 崔禹食経に云はく、雲雀は雀に似て大(とほしろ)しといふ〈比波利(ひばり〉。楊氏漢語抄に鶬鶊〈倉庚の二音、訓は上に同じ〉と云ふ。
鸅鸆鳥 唐韻に、鸅鸆〈澤虞の二音、漢語抄に護田鳥、於須売止利(おすめどり)と云ふ〉と云ふ。爾雅集注に云はく、鴋〈音は紡〉は一名に沢虞、即ち護田鳥なり、常に沢中に在りて人を見ては輙ち鳴く、主守官に似たる有り、故に以て之れを名づくといふ。
鼃鳥 崔禹食経に云はく、鼃鳥〈久比奈(くひな)、漢語抄に水鷄と云ふ〉の貌は水鷄に似て能く鼃を食ふ、故に以て之れを名づくといふ。
鷰鳥 爾雅集注に云はく、鷰〈烏見反、豆波久良米(つばくらめ)〉は白き脰(うなじ)の小烏なりといふ。
雀〈連雀付〉 楊氏漢語抄に云はく、雀〈且略反、須々米(すずめ)〉、連雀〈唐雀なり、弁色立成の説に同じ〉といふ。
𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食経に云はく、𪃹〓〔令冠に鳥〕〈積霊の二音、字は或に鶺鴒に作る、邇波久奈布利(にはくなぶり)、日本紀私記に止都岐乎之倍止利(とつぎをしへどり)と云ふ〉の貌は鷰に似て高く飛び声を作すといふ。
巧婦 兼名苑注に云はく、巧婦〈太久美止利(たくみどり)〉は好く葦皮を割きて中の虫を食ふ、故に亦、蘆虎と名づくといふ。
鷦鷯 文選鷦鷯賦に云はく、鷦鷯〈焦遼の二音、佐々岐(さざき)〉は小鳥なり、蒿萊の間に生れ、藩籬の下(もと)に長(おとな)ぶといふ。
鷃 唐韻に云はく、鷃〈音は晏、加夜久岐(かやくき)〉は萑鷃、小鳥なりといふ。
鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注に云はく、大きなるを鴻と曰ひ、小きなるを鴈と曰ふといふ。〈洪岸の二音、加利(かり)〉
鴨 爾雅集注に云はく、鴨〈音は押〉は野にゐるは名を鳬〈音は扶〉と曰ひ、家にゐるは名を鶩〈音は木〉と曰ふ。楊氏漢語抄に鳬鷖〈加毛(かも)、下の字の音は烏嵆反〉と云ふ。
鴛鴦 崔豹古今注に云はく、鴛鴦〈𡨚鸎の二音、乎之(をし)、漢語抄に〓〔溪冠に鳥〕𪃠、其の音は渓勅と云ふ〉は雌雄、未だ嘗て相離れず、人の其の一を得ば、則ち一は思ひて死す、故に匹鳥と名づくなりといふ。
鸍 爾雅集注に云はく、鸍〈音は弥、一音に施、漢語抄に多加倍(たかべ)と云ふ〉は一名に沈鳬、貌は鴨に似て小さく、背の上に文有りといふ。
鵝 兼名苑注に云はく、鵝〈音は我〉の形は雁の如くして人家に畜はれるなりといふ。
鵠 野王案に曰はく、鵠〈胡篤反、漢語抄に古布(こふ)と云ひ、日本紀私記に久々比(くぐひ)と云ふ〉は大鳥なりといふ。
鸛 本草に云はく、鸛〈音は舘、於保止利(おほとり)〉は水鳥にして鵠に似て樹に巣(すく)ふ者なりといふ。
鷺 唐韻に云はく、𪅖〓〔鋤偏に鳥〕〈舂鋤の二音〉は白鷺なりといふ。崔禹食経に云はく、鷺〈音は路、佐岐(さぎ)〉の色は純て白くして其の声は人の呼ぶに似たる者なりといふ。
蒼鷺 崔禹食経に云はく、鷺に又、一種有り、相似て小さく色の蒼黒く、並びに水湖の間に在りといふ。〈漢語抄に蒼鷺は美止佐岐(みとさぎ)と云ふ〉
鵲 本草に云はく、鵲〈且略反、加佐々岐(かささぎ)〉の飛駮、馬泥は鵲の脳の名なりといふ。
鳭 玉篇に云はく、鳭〈音は嘲、都岐(つき)〉は赤き喙にして自ら呼ぶ鳥なりといふ。楊氏漢語抄に紅𩿷と云ふ。〈上に同じ、俗に鵇の字を用ゐる。今案ふるに出づる所未だ詳かならず。日本に桃花鳥と云ふ〉
鸕鷀 弁色立成に云はく、大きなるを鸕鷀〈盧兹の二音、日本紀私記に志麻都止利(しまつとり)と云ふ〉と曰ひ、小さきなるを鵜鶘〈啼胡の二音、俗に宇(う)と云ふ〉と曰ふといふ。爾雅注に云はく、鸕鷀は水鳥なり、觜頭は鈎の如くして好く魚を食ふなりといふ。
𩿢 唐韻に云はく、𩿢〈他口反、漢語抄に久呂止利(くろどり)と云ふ〉は黒色の水鳥の名なりといふ。
魚虎 爾雅集注に云はく、鴗〈音は立、曽比(そび)、日本紀私記に見ゆ〉は小鳥なり、色は青翠にして魚を食ひ、江東に呼びて水狗と為といふ。兼名苑に魚虎と云ふ。
鸊鶙 方言注に云はく、鸊鶙〈辟低の二音、弁色立色に邇保(にほ)と云ふ〉は野鳬にして小さくして好く水中に没むなりといふ。玉篇に云はく、鸊鶙、其の膏を以て刀剣を瑩くべしといふ。
鷗 唐韻に云はく、鷗〈烏侯反、加毛米(かもめ)〉は水鳥なりといふ。兼名苑に云はく、一名に江鷰といふ。
鶵 爾雅に云はく、鳥の子生れて須く其の母にして食ふべきは之れを鷇〈音は雊、一音に鴿と云ふ〉と謂ひ、鳥の子生れて能く食を噣(ついは)むは之れを雛〈音は蒭、字は亦、𪀫に作る、訓は並びに比奈(ひな)〉と謂ふといふ。
卵 陸詞に曰はく、卵〈音は嬾、加比古(かひご)〉は鳥の胎なりといふ。呂氏春秋に云はく、鶏卵は多く毈〈音は段、須毛里(すもり)〉すといふ。野王案に曰はく、毈卵は孵らざるなり、孵〈音は孚、俗に加閉流(かへる)と云ふ〉は卵の化るといふ。
鳥体百一
冠 野王案に云はく、〓〔溪冠に鳥〕𪃠の頭上に毛冠〈冠は佐賀(さか)と読む。文選羽毛射雉賦に冠の双つ立つは之れを毛角耳と謂ふ〉、鳥冠有りといふ。爾雅注に云はく、木兎は鴟に似て毛角ありといふ。〈今案ふるに名は上に同じ。但し独つ立つは之れを毛冠と謂ふ。此の間に双つ立つは之れを毛角耳と謂ふ〉
觜〈喙付〉 説文に云はく、觜〈音は斯、久知波之(くちばし)〉は鳥の喙なり、喙〈音は衛、久知佐岐良(くちさきら)、文選序に鷹の之れを礪ぐは是〉は鳥の口なりといふ。
毳 考声切韻に云はく、毳〈川芮反、爾古介(にこげ)〉は細く弱き毛なりといふ。
䙰𥛨 文選海賦に云はく、鳬(かもめ)の雛、䙰𥛨〈離徒の二音、師説に布久介(ふくげ)〉にすといふ。
淋渗 同賦に云はく、鶴子は淋渗〈林深の二音、師説に都々介(つつげ)〉にささげなくといふ。李善に曰はく、䙰𥛨、淋渗は皆、毛羽の始めて生ゆる貌なりといふ。
羽 唐韻に云はく、羽〈音は禹、波(は)〉は鳥の翅なりといふ。
翼 唐韻に云はく、翅〈施智反、去声の軽、豆波佐(つばさ)〉は鳥の翼なり、翼〈与職反〉は羽翼、又、助くなり、翎〈音は零、和名は並びに上に同じ〉は鳥の羽といふ。
翮 爾雅集注に云はく、羽の本を翮〈下革反、字は亦、𦑜に作る、波禰(はね)〉と曰ひ、一に羽根と云ふなりといふ。
翈 唐韻に云はく、翈〈胡甲反、匣と同じ、加佐岐利(かざきり)〉は翮の上の短き羽なりといふ。
倍羅縻 日本紀私記に倍羅縻〈師説に鳥乃和岐乃之多乃介(とりのわきのしたのけ)を倍羅縻と為るなり、縻は真実を謂ふなり、掖羽のごと掩ひ蔵し周らすなるを言ふ、案ふるに奥区なり、今、俗に保呂羽(ほろば)と謂ふは訛れるなり〉と云ふ。
翹 四声字苑に云はく、翹〈渠遥反、今案ふるに俗に翡翠と云ふは是〉は鳥の尾の上の長き毛なりといふ。
尾 野王案に云はく、尾〈漠鬼反、乎(を)〉は鳥獣の尻の長き毛なりといふ。
鞦 文選射雉賦に青き鞦〈音は秋、師説に乎布佐(をぶさ)〉と云ふ。李善に曰はく、鞦は尾の間に夾むなりといふ。
臎 遊仙窟に雉臎〈音は翠、師説に比多礼(ひたれ)〉と云ふ。説文に云はく、臎〈今案ふるに許慎の説の如きは俗に所謂る阿布良之利(あぶらしり)、是なり〉は鳥の尾の肉なりといふ。
吭 唐韻に云はく、吭〈胡郎反、又、去声、鳥乃布江(とりのふえ)〉は鳥の喉嚨なりといふ。
膍胵 本草に云はく、膍胵〈毘蚩の二音、鳥乃和多(とりのわた)〉は鳥の胃なりといふ。
肫 唐韻に云はく、肫〈章倫反、春と同じ、漢語抄に無々岐(むむき)と云ふ〉は鳥の蔵なりといふ。
膆 文選射雉賦注に云はく、膆〈音は素、師説に毛乃波美(ものはみ)〉は鳥の食(くひもの)を受くる処なりといふ。
𠷏 唐韻に𠷏〈音は委、又の音は毀、曽々呂(そそろ)〉と云ふ。説文に鷙鳥は食ひ已りて其の皮毛を吐けば丸(まり)の如きなり。
鴨通 本草に云はく、鴨通〈加毛乃久曽(かものくそ)〉は鴨の屎の名なりといふ。
蜀水草 本草に云はく、蜀水華〈宇乃久曽(うのくそ)〉は鸕鷀の矢(くそ)の名なりといふ。
蹼 爾雅集注に云はく、蹼〈音は卜、美豆加岐(みづかき)〉は鳬鴈の足の指の間に幕有りて相連なり著く者なりといふ。
距 蒋魴切韻に云はく、距〈音は巨、訓は阿古江(あごえ)〉は鶏雉の脛に岐有るなりといふ。
飛翥 唐韻に云はく、翥〈章は恕、字は亦、䬡に作る。文選射雉賦に軒翥を波布流(はふる)と云ひ、俗に波都々(はつつ)と云ふ〉は飛び挙ぐるなりといふ。
啄 四声字苑に云はく、啄〈丁角反、都伊波無(ついばむ)、又、噣の字を用ゐる、音は闘〉は鳥の口、取り食ふなりといふ。
嚇 唐韻に云はく、鳴〈音は名、奈久(なく)〉は鳥の啼くなり、囀〈音は転、佐閉都流(さへづる)〉は鳥の吟くなりといふ。文選蕪城賦に云はく、寒鴟のこひたるとり、嚇鶵とかかなくといふ。〈嚇の音は呼格反、師説に賀々奈久(かかなく)〉
㕞毛 四声字苑に云はく、㕞〈所劣反、文選に㕞は加以豆久路比須(かいつくろひす)と云ひ、漢語抄に阿布良比岐(あぶらびき)と云ふ〉は鳥の毛を理むるなりといふ。
孳尾 尚書に云はく、鳥獣は孳尾〈孳の音は疾置反、字と同じ〉すといふ。孔安国に曰はく、乳化を孳と曰ひ、交接を尾〈鳥の交接を俗人は豆流比須(つるびす)と云ふ〉と曰ふといふ。
巢 孫愐に曰はく、鳥の巣の穴に在るを窠と曰ひ、樹に在るを巣〈音は曹、訓は須(す)一に須久布(すくふ)と云ふ〉と曰ふといふ。
塒 毛詩に曰はく、鶏は塒に栖むといふ。注に曰はく、墻を鑿ちて棲むを塒〈音は時、訓は止久良(とぐら)〉と曰ふといふ。
毛群部第十六〈文選注に云はく、毛群を獣と謂ふといふ〉
獣名百二 獣体百三
獣名百二
獣 爾雅注に云はく、四足にして毛あるを獣〈音は狩、介毛乃(けもの)〉と曰ふといふ。野王案に、六畜〈音は宙、一音に救、介多毛乃(けだもの)〉は牛、馬、羊、犬、鶏、豕なりとす。説文に云はく、牝〈音は臏、米介毛能(めけもの)〉は畜母なり、牡〈音は母、乎介毛乃(をけもの)〉は畜父なりといふ。
師子 兼名苑に云はく、師子は一名に狻猊〈酸蜺の二音〉といふ。穆天子伝に云はく、狻猊は日に五百里行きて以て虎豹を粮と為といふ。
象 四声字苑に云はく、𤉢〈祥両反、上声の重、字は亦、象に作る、岐佐(きさ)〉は獣の名、水牛に似て大き耳、長き鼻、眼細く、牙長き者なりといふ。
犀〈雌犀付〉 爾雅集注に云はく、犀〈音は西、此の間に音は在〉の形は水牛に似て猪の頭、大き腹、三つの角有り、一は頂の上に在り、一は額の上に在り、一は鼻の上に在り、脚に三つの蹄有り、黒き色といふ。本草に云はく、雌犀は一名に兕犀といふ〈楊玄操に兕の音は似と曰ふ〉。
麒麟 瑞応図に云はく、麒麟〈其隣の二音、亦、騏驎に作る〉は仁獣なり、牡を〓〔其偏に鹿〕と曰ひ、牝を𫜏と曰ふなりといふ。
猩々 爾雅注に云はく、猩々〈音は星、此の間に象章と云ふ〉は能く言(ものい)ふ獣なりといふ。孫愐に曰はく、獣身にして人面、好みて酒を飲む者なりといふ。
虎 説文に云はく、虎〈乎古反、止良(とら)〉は山獣の君なりといふ。
豹 説文に云はく、豹〈補教反、日本紀私記に奈賀豆可美(なかつかみ)と云ふ〉は虎に似て円き文の者なりといふ。
熊 陸詞切韻に云はく、熊〈音は雄、久万(くま)〉は獣の羆に似て小さきなりといふ。
犲狼〈獥付〉 兼名苑に云はく、狼は一名に犲〈音は才〉といふ。説文に云はく、狼〈音は郎、於保加美(おほかみ)〉は犬に似て鋭き頭、白き頬の者なりといふ。爾雅に云はく、獥〈音は叫〉は狼の子なりといふ。
猫 野王案に、猫〈音は苗、禰古麻(ねこま)〉は虎に似て小さく、能く鼠を捕りて粮と為といふ。
葦鹿 本朝式に葦鹿皮と云ふ。〈阿之賀(あしか)、陸奥、出羽の交易雑物の中に見ゆ。本文は未だ詳かならず〉
獨犴 唐韻に云はく、犴〈俄寒反、又、音は岸。今案ふるに和名は未だ詳かならず。但し本朝式に葦鹿皮は独犴皮云々、犴の音は蕳の如しと云ふ。此の名の出づる所、亦、未だ詳かならず〉は胡地の野犬の名なりといふ。
水豹 文選西京賦に云はく、水豹〈阿左良之(あざらし)〉を搤(くび)るといふ。
獺 兼名苑に云はく、獺〈音は脱、乎曽(をそ)〉は水獣、恒に水中に居り魚を食ひて粮と為る者なりといふ。唐韻に云はく、獱〈音は頻〉は獺の別名なりといふ。
麋 四声字苑に云はく、麋〈音は眉、漢語抄に於保之可(おほじか)と云ふ〉は鹿に似て大きく毛は斑ならず、冬至を以て角を解く者なりといふ。
鹿 陸詞切韻に云はく、鹿〈音は禄、賀(か)〉は斑の獣なりといふ。爾雅集注に云はく、牡鹿を麚〈音は家、日本紀私記に牡鹿を佐乎之加(さをしか)と云ふ〉と曰ひ、牝鹿を麀〈音は憂、米賀(めか)〉と曰ひ、其の子を麑〈音は迷、字は亦、麛に作る、加呉(かこ)〉と曰ふといふ。
麞 唐韻に云はく、麏〈居筠反、字は亦、麕に作る〉は鹿の属なりといふ。本草音義に云はく、麞〈音は章〉は一名に麕といふ。〈久之加(くじか)〉
麢羊 爾雅注に云はく、麢羊〈力丁反、字は亦、𦏪に作る、和名は加万之師(かましし)〉は羊より大きく、大き角あるといふ。
玃 抱朴子に云はく、猨は寿、五百歳にして則ち変りて玃〈音は攫、漢語抄に夜末古(やまこ)と云ふ〉と為るといふ。
猱㹶 文選注に云はく、猱㹶〈上は乃交反、下の音は庭、漢語抄に麻多(また)と云ふ〉は猨の属なりといふ。
猨 風土記に云はく、猨〈音は園、字は亦、猿に作る、佐流(さる)〉は善く子を負ひ、危きに乗りて投ぐるに至り倒れては還る者なりといふ。兼名苑に一名は獼猴〈弥侯の二音〉と云ふ。文選に猿狖〈音は友〉と云ふ。唐韻に猴猻〈音は孫、漢語抄に猢猻は猴猻と云ふ〉と云ふ。
狐 考声切韻に云はく、狐〈音は胡、岐豆禰(きつね)〉は獣の名、射干なり、関中に呼びて野干と為るは語の訛れるなりといふ。孫愐に曰はく、狐は能く妖怪と為り、百歳に至りて化けて女と為る者なりといふ。
狢 説文に云はく、狢〈音は鶴、漢語抄に無之奈(むじな)と云ふ〉は狐に似て善く睡る者なりといふ。
野猪 本草に野猪〈久佐為奈岐(くさゐなぎ)〉と云ふ。
狸 兼名苑注に云はく、狸〈音は𨤲、多奴岐(たぬき)〉は鳥を摶(あつ)めて粮と為る者なりといふ。
猯 唐韻に云はく、猯〈音は端、又の音は旦、美(み)〉は豕に似て肥ゆる者なりといふ。本草に一名は獾㹠〈歓屯の二音〉と云ふ。
兎 四声字苑に云はく、兎〈音は度、宇佐岐(うさぎ)〉は小犬に似て長き耳、脣を欠く者なりといふ。
貂 同苑に云はく、貂〈音は凋、天(て)〉は鼠に似て黄色なりといふ。〈皮は裘を作るに堪ふ〉
黒貂 唐韻に云はく、貂に黄、黒貂有り、東北夷に出づといふ。〈黒貂は布流岐(ふるき)〉
鼠 四声字苑に云はく、鼠〈昌与反、禰須美(ねずみ)〉は穴に居る小さき獣、種類の多き者なりといふ。
火鼠 神異記に云はく、火鼠〈比禰須美(ひねずみ)〉は其の毛を取りて織りて布を為る、若し汚るれば火を以て之れを焼き、更び清潔なら令むといふ。
鼷鼠 説文に云はく、鼷鼠〈音は奚、阿末久知禰須美(あまくちねずみ)〉は小鼠なり、人及び鳥獣を食ひ、尽きるに至ると雖も痛まずといふ。今、之れを甘口鼠と謂ふ。
鼱鼩 文選注に云はく、鼱鼩〈精劬の二音、漢語抄に能良禰(のらね)と云ふ〉は小鼠なりといふ。
𪕭𪖂 玉篇に云はく、𪕭𪖂〈藹離の二音、豆良禰古(つらねこ)〉は小鼠の相銜みて行くなりといふ。
鼯鼠 本草に云はく、鼺鼠〈上の音は力水反、又の音は力追反〉は一名に鼯鼠〈上の音は吾、毛美(もみ)、俗に無佐々比(むささび)と云ふ〉といふ。兼名苑注に云はく、状は猨の如くして肉の翼、蝙蝠に似て能く高きより下り、下にありて上ること能はず、常に火煙を食ひ声は小児(わくご)の如き者なりといふ。
鼬鼠 爾雅集注に云はく、鼬鼠〈上の音は酉〉の状は鼠の如くして赤黄にして大きなる尾、能く鼠を食ふといふ。今、江東に呼びて鼪〈音は性、以太知(いたち)、漢語抄に鼠狼と云ふ〉と為といふ。
鼴鼠 本草に云はく、鼴鼠〈上の音は偃〉は一名に鼢鼠〈上は扶粉反、上声の重、字は亦、𪖅に作る、宇古路毛知(うごろもち)〉といふ。通俗文に云はく、糞鼠は一名に𤣘〈音は冥〉といふ。兼名苑注に云はく、恒に土中に在りて行く、若し三光を見ば即ち死ぬといふ。
猪〈猪子付〉 爾雅集注に云はく、猪〈徴居反〉は一名に彘〈音は弟、井(ゐ)〉といふ。兼名苑に一名は豕〈音は子〉と云ふ。方言注に云はく、豚〈徒昆反、字は亦、㹠に作る〉は豕子なりといふ。
羊〈羊子付〉 兼名苑に云はく、羝〈音は低〉は一名に䍽〈音は歴、比都之(ひつじ)〉は羊なり、羔〈音は高〉、一名に羜〈音は宁〉は羊の子なりといふ。
犬〈犬子付〉 兼名苑に云はく、犬は一名に尨〈莫江反〉といふ。爾雅集注に云はく、㺃〈音は苟、恵沼(ゑぬ)、又、犬と同じ〉は犬の子なりといふ。
㺜 唐韻に云はく、㺜〈奴刀反、無久介以沼(むくげいぬ)〉は深き毛の犬なりといふ。
獣体百三
牙 山海経に云はく、象牙の大なる者は長さ一丈といふ。
角〈觘付〉 野王案に、角〈古岳反、豆能(つの)〉は獣の頭上に出づる骨なり、枝有るを觡〈居額反〉と曰ひ、枝無きを角と曰ふといふ。唐韻に云はく、觘〈初教反、去声の軽、沼多波太(ぬたはだ)、又、皽の字を用ゐる、音は旨善反、上声〉は角の上の浪なりといふ。
䚡 説文に云はく、䚡〈先来反、本草に牛角䚡は古豆乃(こづの)と云ふ〉は角の中の骨なりといふ。
奴角 本草に云はく、奴角は一名に食角〈犀乃波奈都能(さいのはなづの)〉、犀の鼻の上の角の名なりといふ。
鹿茸 雑要决に云はく、鹿茸〈賀乃豆乃(かのつの)〉は鹿の角の初めて生えしなりといふ。
熊白 本草に云はく、熊脂は一名に熊白〈久万乃阿布良(くまのあぶら)〉、熊の背の上の膏なりといふ。
蹯 唐韻に云はく、蹯〈音は繁〉は熊の掌なりといふ。
猨嗛 爾雅注に云はく、猨嗛〈菅簟反、佐流保々(さるぼほ)〉は猿の頬の内に食を蔵むる処なりといふ。
豚卵 本草に云はく、豚卵は一名に豚顛といふ。〈為乃布久利(ゐのふぐり)〉
氄毛 尚書に云はく、中冬に鳥獣は氄毛〈上の音は如勇反、布由介(ふゆげ)〉おふといふ。孔安国に曰はく、鳥獣は皆、細き毛を生ひ自ら温るなりといふ。
蹄 毛詩注に云はく、蹢〈音は滴〉は蹄なりといふ。蒼頡篇に云はく、蹄〈音は啼、比都米(ひづめ)、又、筌蹄の蹄は畋猟具に見ゆ〉は畜の足の下なりといふ。
齝 爾雅集注に云はく、獣は蒭を呑み反り出るを噬みて嚼(かみくだ)くを牛に齝〈音は台、唐韻に笞詩の二音有り、字は亦、𪗪に作る〉と曰ひ、羊に齛〈音は泄〉と曰ひ、麋𪊍に齸〈音は益、已上の三字は邇介加無(にげかむ)、今案ふるに俗人の麋𪊍の屎を謂ひて味気と為るは是〉と曰ふといふ。
犬吣 唐韻に云はく、吣〈七鴆反、以奴乃太米比(いぬのためひ)〉は犬の吐くなりといふ。
嘷 玉篇に云はく、嘷〈胡刀反、豪と同じ〉は虎、狼の声なりといふ。唐韻に云はく、吼〈呼后反、字は亦、吽、呴に作る〉は牛の鳴くなり、吠〈符廃反、已上の三字の訓は並びに保由(ほゆ)〉は犬の鳴声なりといふ。
觝 説文に云はく、觝〈丁礼反、漢語抄に豆岐之良比(つきしらひ)と云ふ〉は角を以て物に触るるなりといふ。
鼿 説文に云はく、鼿〈五忽反、宇世流(うせる)〉は鼻を以て物を動かすなりといふ。
遊牝 礼記に云はく、野に遊牝〈遊牝は此の間に由比(ゆひ)と云ふ。日本紀私記に豆流比(つるび)と云ふ〉すといふ。唐厩牧令に云はく、諸の牧の馬、年毎に三月に遊牝せよといふ。
生益 春秋説題辞に云はく、馬は十二月にして生るといふ。淮南子に云はく、犬は三月にして生れ、豕は四月にして生れ、猨は五月にして生れ、鹿は六月にして生れ、虎は七月にして生るといふ。
牛馬部第十七
牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬体百六 牛馬病百七
牛馬類百四
牛〈犢付〉 四声字苑に云はく、牛〈語丘反、宇之(うし)〉は土畜なりといふ。爾雅注に云はく、犢〈音は読、古宇之(こうし)〉は牛の子なりといふ。
特牛〈犅〉 弁色立成に云はく、特牛〈俗語に古止比(ことひ)と云ふ〉は頭の大きな牛なりといふ。
乳牛 唐厩牧令に云はく、乳牛に犢十頭、丁一人を給ひ牧に飼へ。〈乳牛は牝の牛の子有るの名なり。知宇之(ちうし)〉
水牛 文選上林賦注に云はく、沈牛〈今案ふるに、又、一名に潜牛なり、南越志に見ゆ〉は即ち水牛なり、能く水の中に沈没(しず)む者なりといふ。唐韻に牨〈水牛なり、音は同じ〉と云ふ。
馬〈駒字付〉 四声字苑に云はく、馬〈麻の上声、無万(むま)〉は南の方の火畜なりといふ。爾雅注に云はく、牝馬は一名に騲馬〈上の音は草、米万(めま)〉、牡馬は一名に䭸馬〈上の音は父、乎末(をま)〉といふ。王仁煦に曰はく、駒〈音は倶、古万(こま)〉は馬の子なりといふ。
駿馬 穆天子伝に云はく、駿馬〈上の音は俊、漢語抄に止岐宇万(ときうま)と云ふ。日本紀私記に須久礼多流宇末(すぐれたるうま)と云ふ〉は馬の美(よみす)る称(みな)なりといふ。
駑馬〈駄付〉 唐韻に云はく、駘〈音は台〉は駑馬なりといふ。野王案に曰はく、駑〈音は奴、漢語抄に於曽岐馬(おそきむま)と云ふ〉は馬の最も下なりといふ。郭知玄に曰はく、駄〈唐佐反〉は物を負ふ者なりといふ。
駻馬 孫愐に曰はく、駻〈音は旱、今案ふるに此の間に波禰無末(はねむま)と云ふ〉は突(にはか)に悪しかる馬なりといふ。
驢騾 説文に云はく、驢〈力居反、閭と同じ、宇佐岐無末(うさぎむま)〉は馬に似て長き耳なり、騾〈音は螺〉は驢の父、馬の母の生む所なりといふ。
駱駞 本草に駱駞〈洛陁の二音、良久太乃宇末(らくだのうま)〉と云ふ。周書に云はく、𩧐駝〈駝は即ち駞の字なり、𩧐の音は卓、字は亦、駞に作る、即ち駱駞なり〉は肉の鞍有りて能く重きを負ひて遠くへ致す者なりといふ。
牛馬毛百五
黄牛 宜都記に云はく、黄牛灘に人有り、黄牛〈弁色立成に阿米宇之(あめうじ)と云ふ〉を牽くといふ。
烏牛 弁色立成に云はく、烏牛〈漢語抄は麻伊(まい)と云ふ〉は黒牛なりといふ。
𤘾牛 唐韻に云はく、𤘾〈普耕反、今案ふるに此の間に保之末多良(ほしまだら)と云ふ〉は牛の色の駮(ぶち)なること星の如きなりといふ。
驄馬 説文に云はく、驄〈音は聡、漢語抄に驄は青馬なり、黄驄馬は葦花毛の馬なりと云ふ。日本紀私記に驄馬は美多良乎乃宇末(みだらをのうま)と云ふ〉は青白雑る毛の馬なりといふ。
桃花馬 弁色立成に桃花馬〈葦花毛の馬の紅色の者なり〉と云ふ。
青驪馬 唐韻に云はく、駽〈火玄反、漢語抄に鉄驄馬は久呂美止利乃無万(くろみどりのむま)と云ふ〉は青驪馬、今の鉄驄馬なりといふ。
連鉄驄 爾雅注に云はく、色に深き浅き斑駮有るは之れを連鉄驄と謂ふといふ。〈漢語抄に連鉄驄は虎毛馬なりと云ふ。一に駼馬の駼の音は余と云ひ、又、薄漢馬と云ふ。今案ふるに俗に連銭葦毛と云ふは是〉
驃馬〈赤驃付〉 説文に云はく、驃〈毘召反、漢語抄に驃馬は白麾の馬なり、赤驃馬は赤き麻毛なり、黄馬も上に同じと云ふ〉は黄白き馬なりといふ。
騧馬 爾雅注に云はく、騧〈音は花、漢語抄に騧馬は麾馬なりと云ふ〉は浅黄色の馬なりといふ。
騮馬〈紫馬付〉 毛詩注に云はく、騮〈音は留、漢語抄に騮馬は麾なり、烏騮は黒麾なり、黄騮は赤栗毛なり、紫騮は黒栗毛なりと云ふ〉は赤身に黒き鬣の馬なりといふ。
騟馬 唐韻に云はく、騟〈羊朱反、弁色立成に紫馬は栗毛馬なりと云ふ〉は紫馬なりといふ。
驪馬 毛詩注に云はく、驪〈音は離、漢語抄に驪馬は黒毛馬なりと云ふ〉は純て黒き馬なりといふ。
騅 同注に云はく、騅〈音は錐、漢語抄に騅馬は鼠毛馬なりと云ふ〉は蒼白く毛の雑る馬なりといふ。爾雅注に云はく、菼騅〈今案ふるに菼は蘆の初めに生ゆるなり、吐敢反、俗に葦毛と云ふは是〉は青白く菼の色の如きなりといふ。
赭白馬 毛詩注に云はく、騢〈音は遐、漢語抄に赭白馬は鵇毛なり、赭黄馬は赤鵇毛なりと云ふ。今案ふるに鵇の字は未だ詳かならず〉は彤白して毛の雑る馬なりといふ。爾雅注に云はく、騢は今の赭白馬なりといふ。
駱馬 毛詩注に云はく、駱〈音は落、漢語抄に駱馬は川原毛、沙駱馬は黒川原毛の馬なりと云ふ〉は白馬にして黒き髦の馬なりといふ。
騂馬〈赤驊付〉 唐韻に云はく、騂〈音は征、漢語抄に驊は赤毛なり、赤驊山鳥は赤毛馬なりと云ふ、驊の音は華〉は馬の赤きなりといふ。
戴星馬 爾雅注に云はく、白顛は一名に的顙、俗に呼びて戴星馬〈和名は宇比多非能無末(うびたひのうま)〉と為といふ。
落星馬 楊氏漢語抄に落星馬〈保之都岐乃宇末(ほしづきのうま)〉と云ふ。
駺馬 唐韻に云はく、駺〈音は狼、漢語抄に乎之路乃無麻(をじろのむま)〉は馬の尾の白きなりといふ。
駮馬 説文に云はく、駮〈補卓反、駮馬は俗人に布知無万(ぶちむま)と云ふ〉は純からざる色の馬なりといふ。
驓馬 爾雅注に云はく、四骹の皆白きを驓〈音は曽、俗に阿之布知(あしぶち)と云ふ〉と曰ひ、骹は膝以下を謂ふなり、四蹢の皆白きを騚〈音は前〉と曰ひ、蹢は蹄なりといふ。俗に呼びて踏雪馬と為。
牛馬体百六
牛角 本草に牛角䚡〈先来反、古都能(こづの)。角等は已に上文に見ゆ〉と云ふ。
耳筒 李緒相馬経に耳筒と云ひ、又、耳管と云ふ。
鬣 唐韻に云はく、鬐〈音は耆、今案ふるに、鬐、鬣は俗に宇奈加美(うなかみ)と云ふ。又、魚の鬐、鬣は魚体に見え之れを知る〉は馬の項の上の長き毛なりといふ。文選に云はく、軍馬は髦を弭(なびか)せて仰ぎ秣(まぐさく)ふといふ〈髦の音は毛、訓は師説に髦は多知賀美(たちがみ)、鬣の称なり〉。
鼻梁 弁色立成に鼻梁〈俗に波奈美禰(はなみね)と云ふ〉と云ふ。
食槽 李緒相馬経に云はく、食槽を寛くせむと欲(す)といふ。〈食槽は馬乃岐保禰(むまのきぼね)〉
廻毛 爾雅注に云はく、廻毛は一に旋毛〈都無之(つむじ)〉と云ふといふ。
排鞍肉 李緒相馬経に云はく、鞍肉を排(はら)ひて成(たひらかにせ)むと欲、成は猶、平らなるがごとしといふ。〈俗に久良於岐止古路(くらおきどころ)〉
脊梁 弁色立成に脊梁〈都賀(つか)、俗に世美禰(せみね)と云ふ〉と云ふ。
承鐙肉 李緒相馬経に云はく、承鐙肉を垂れむと欲といふ。〈俗に阿布彌須利(あぶみすり)と云ふ〉
三封 同経に云はく、三封は斉しく一に如かむと欲といふ。
汗溝 同経に云はく、汗溝を深くせむと欲といふ。〈俗人は阿勢美蘇(あせみぞ)と云ふ〉
歴草 弁色立成に歴草〈曽保岐(そほき)、俗に曽布岐(そふき)と云ふ〉と云ふ。
尾株 李緒相馬経に云はく、尾株は麁(おほひな)らむと欲、麁は猶、大のごときなりといふ。弁色立成に云はく、尾柱は一に尾根と云ふといふ。〈俗人は乎保禰(をぼね)と云ふ〉
烏頭 同経に云はく、烏頭を挙げむと欲といふ。〈弁色立成に曲肘と云ひ、俗に久波由岐(くはゆき)と云ふ〉
夜眼 弁色立成に夜眼〈与米(よめ)、漢語抄に説同じ〉と云ふ。
蹄〈護杵付〉 玉篇に云はく、蹄〈徒奚反、訓は比都米(ひづめ)。弁色立成に護杵と云ひ、和名は上に同じ〉は牛馬の蹄なりといふ。
陰脈 伯楽相馬経に陰脈〈俗に麻良佐夜(まらざや)と云ふ〉と云ふ。
糞門 同経に糞門〈今案ふるに馬の㞘(しり)を謂ふなり、㞘の音は禿、形体部に見ゆ〉と云ふ。李緒相馬経に曰はく、糞は八方(やもにま)らさむと欲といふ。
嘶〈䮸付〉 玉篇に云はく、嘶〈音は西、訓は以波由(いばゆ)、俗に以奈々久(いななく)と云ふ〉は馬の鳴くなりといふ。唐韻に云はく、䮸〈音は渥、俗に布久利豆岐(ふぐりづき)と云ふ〉は馬の腹の下、声するなりといふ。
牛馬病百七
螉䗥 説文に云はく、螉䗥〈翁従の二音、久比(くひ)〉は牛や馬の皮の中に在る虫なりといふ。
蹄漏 四声字苑に云はく、㾜〈古叶反、頬と同じ、俗に豆万以利(つまいり)と云ふ〉は牛の蹄の漏る病なりといふ。
脊瘡 陶隠居に云はく、塩に九種有り、柔塩は馬の脊の瘡〈俗に多胡(たこ)と云ふ〉を療すといふ。
腹瘇 伯楽相馬経に曰はく、馬腹瘇〈今案ふるに瘇は即ち腫の字なり、俗人は多知波礼(たちはれ)と云ふ〉は病無く、直立して腹の下の腫るるは是なり、人をして騎り行か遣(し)むれば則ち汗出でて即ち差(い)ゆといふ。
脚病 伯楽相馬経に曰はく、脚病〈俗に知阿奈岐(ちあなぎ)と云ふ〉、馬に此の病有るときは則ち咳嗽し、毛の焦げるを衣するときは前足を折り重ねて行くこと能はずといふ。
腹転病 同経に曰はく、腹転病〈俗に波良夜無(はらやむ)と云ふ〉は馬に此の病有るときは則ち廻顧し腹に聞(おときこ)ゆ、又、腹結病有り、馬に此の病有るときは則ち臥しては起き、腹痮(ふく)れ汗を出づといふ。
騺 唐韻に云はく、騺〈陟利反、致と同じ、俗人に騺を多利(たり)と云ふ〉は馬の脚、屈り重ぬるなりといふ。
斃 四声字苑に云はく、斃〈毘祭反、訓は多布流(たふる)〉は死ぬなりといふ。
和名類聚抄巻第七
和名類聚抄巻第八
竜魚部第十八 亀貝部第十九 虫豸部第二十
竜魚部第十八
竜魚類百八 竜魚体百九
竜魚類百八
竜 文字集略に云はく、龍〈力鍾反、太都(たつ)〉は四の足、五の采にして甚だ神しき霊有るなりといふ。白虎通に云はく、鱗虫は三百六十六にして、竜は之の長なりと為といふ。
虬龍 文字集略に云はく、虬〈音は球〉は竜の角無く、青色なりといふ。同略に云はく、螭〈音は知〉は竜の角無く、赤、白、蒼に色かはるなりといふ。
蛟 説文に云はく、蛟〈音は交、美都知(みづち)。日本紀私記に大虬の二字を用ゐるなり〉は竜の属なりといふ。山海経に云はく、蛟は蛇に似て四つ脚、池の魚、二千六百に満ちたるときは則ち蛟来りて之の長と為るといふ。
魚 文字集略に云はく、魚〈語居反、宇乎(うを)、俗に伊乎(いを)と云ふ〉は水の中を連なり行く虫の惣名なりといふ。
鯨鯢 唐韻に云はく、大魚の雄を鯨〈渠京反〉と曰ひ、雌を鯢〈音は蜺、久知良(くぢら)〉と曰ふといふ。淮南子に曰はく、鯨、鯢は魚の王なりといふ。
䱐𩶉 臨海異物志に云はく、䱐𩶉〈浮布の二音、伊流賀(いるか)〉は大魚の色の黒く一に浮き一に没(しづ)むなりといふ。兼名苑に云はく、䱐𩶉は一名に鯆𩺷〈甫畢の二音〉、一名に〓〔魚偏に敷〕〓〔魚偏に常〕〈敷常の二音〉といふ。野王案に、一名に江豚とす。
鰐 麻果切韻に云はく、鰐〈音は萼、和邇(わに)〉は鱉に似て四つ足有り、喙の長さ三尺、甚だ利き歯もち、虎及び大鹿の水を渡るとき鰐、之れを撃ち、皆、中ばに断むといふ。
鯗魚 弁色立成に鯗魚と云ふ。〈居媛反、布加(ふか)、今案ふるに未だ詳(つばひら)かならず〉
人魚 兼名苑に云はく、人魚は一名に鯪魚〈上の音は陵〉、魚の身に人の面ある者なりといふ。山海経注に云はく、声は小児の啼くが如き故に之れを名づくといふ。
鮪 食療経に云はく、鮪〈音は委〉は一名に黄頬魚といふ〈之比(しび)〉。爾雅注に云はく、大(とほしろ)きを王鮪と為、小さきを叔鮪と為といふ。
鰹魚 唐韻に云はく、鰹魚〈上の音は堅、漢語抄に加豆乎(かつを)と云ふ。式の文に堅魚の二字を用ゐるなり〉は大鮦なり、大きを鮦〈音は同〉と曰ひ、小さきを鮵〈音は奪、野王案に、鮦の音は同、蠡魚なりとす。蠡魚は下の文に見ゆ。今案ふるに、堅魚と為べき義、未だ詳かならず〉と曰ふといふ。
䰴魚 玉篇に云はく、䰴〈居迄反、漢語抄に古都乎(こつを)と云ふ。式の文に乞魚の二字を用ゐるなり〉は魚の名なりといふ。
鮫 陸詞切韻に云はく、鮫〈音は交、佐米(さめ)〉は魚の皮にして文有り、以て刀剣を飾るべき者なりといふ。兼名苑に、一名に𩶅〓〔弥冠に魚〕〈低迷の二音〉と云ふ。本草に、一名に䱜魚〈上は倉各反〉と云ふ。拾遺に、一名に鯊魚〈上の音は沙、字は亦、魦に作る〉と云ふ。
鰚魚 弁色立成に鰚魚〈音は宣、波良可(はらか)、今案ふるに出づる所、未だ詳かならず。式の文に腹赤の二字を用ゐる〉と云ふ。
鰩 陸詞切韻に云はく、鰩〈音は遥、度比乎(とびを)〉は魚の鳥、翼ありて能く飛ぶなりといふ。
鯛 崔禹食経に云はく、鯛〈都条反、多比(たひ)〉は味は甘、冷、毒無し、貌は鯽に似て紅の鰭の者なりといふ。
尨魚 同食経に云はく、尨魚〈久侶太比(くろだひ)〉は鯛と相似て灰色なりといふ。
海鯽 弁色立成に海鯽魚〈知沼鯽(ちぬだひ)、下の文に見ゆ〉と云ふ。
王余魚 朱厓記に云はく、南海に王余魚〈加良衣比(からえひ)、俗に加礼比(かれひ)と云ふ〉有り、昔、越王、鱠を作り、尽くさざる余り半ばを水に棄つとき、自ら半身を以て魚と為る、故に名けて王余魚と曰ふなりといふ。
𩹶魚 唐韻に云はく、𩹶魚〈音は唐、漢語抄に𩹶子は太古之(たひご)と云ふ〉は魚の名なりといふ。
鯼 字指に云はく、鯼〈音は聡、伊之毛知(いしもち)〉は其の頭に中に石有り、故に亦、石首魚と名づくなりといふ。
梳歯魚 弁色立成に梳歯魚〈東の人は阿波我良(あはがら)と云ふ〉と云ふ。
針魚 七巻食経に云はく、針魚〈波利乎(はりを)、与路豆(よろづ)〉は口の長さ四寸にして針の如し、故に以て之れを名づくといふ。
鱏魚 文字集略に云はく、鱏〈音は尋、一音に淫、衣比(えひ)〉は鱣に似て青く長き鼻の骨の者なりといふ。
鱣魚 同集略に云はく、鱣〈音は天、無奈岐(むなぎ)〉は𩽦〈上に同じ、文に見ゆ〉、黄の魚の鋭き頭にして口は頸の下に在るなりといふ。本草に云はく、䱇魚〈上の音は善〉は一名に〓〔魚偏に𩠐〕魚〈上の音は秋〉、一名に鯆魮〈甫毘の二音〉、一名に䱀䰲〈鴦軋の二音〉といふ。爾雅注に云はく、鱓魚は蛇に似るといふ。〈今案ふるに、鱓は即ち䱇の字なり〉
鰕 七巻食経に云はく、鰕〈音は遐、衣比(えび)、俗に海老の二字を用ゐる〉は味は甘、平、毒無き者なりといふ。
鰧魚 唐韻に云はく、鰧〈直稔反、朕と同じ、漢語抄に乎古之(をこじ)と云ふ〉は魚の名、鰕に似て赤き文ありといふ。
鯵〈鱢〉 崔禹食経に云はく、鯵〈蘇遭反、騒と同じ、阿知(あぢ)〉は味は甘、温、毒無し、貌は鯼に似て尾に白き刺の相次ぐ者なりといふ。
鯖 同食経に云はく、鯖〈音は青、阿乎佐波(あをさば)〉は味は鹹、毒無し、口は尖り背は蒼しといふ。
鱕魚 唐韻に云はく、鱕〈音は番、漢語抄に加勢佐波(かせさば)と云ふ〉魚は横骨有りて鼻前に在り、斤斧(おの)の如き者なりといふ。御覧鱗介部に新婦魚〈弁色立成に和名は上に同じ〉と云ふ。
鯆魚 唐韻に云はく、鯆〈音は甫、弁色立成に奈波左波(なはさば)と云ふ〉は大き魚の名なりといふ。
鮬 同韻に云はく、鮬〈音は枯、漢語抄に世比(せひ)と云ふ。今案ふるに、婢の音を説きて妾婦と謂ふ〉は婢妾魚なりといふ。
鰯 楊氏漢語抄に鰯〈伊和之(いわし)、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。
鯔 遊仙窟に、東海鯔条〈鯔は奈与之(なよし)と読む、音は緇、条を読むは飲食部に見ゆ〉と云ふ。
鰢 唐韻に云はく、鰢〈音は馬、弁色立成に都久良(つくら)と云ふ〉は魚の名なりといふ。
鱧魚 本草に云はく、𩽵魚〈上の音は礼、和名は波無(はむ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。陶隠居注に云はく、𩽵は今、鱧の字に作るなりといふ。
鯯 四声字苑に云はく、鰶〈子例反、字は亦、鯯に作る。和名は古乃之侶(このしろ)〉は魚の名なり、𩺀に似て薄く細き鱗あるなりといふ。
魬魚 唐韻に云はく、魬〈扶板反、上声の重、又、軽音、漢語抄に波利末知(はりまち)と云ふ〉は魚の名なりといふ。
鯸䱌魚 崔禹食経に云はく、鯸䱌〈侯怡の二音、布久(ふく)、一に布久倍(ふくべ)と云ふ〉、之れを犯さば則ち怒り、怒らば則ち腹脹りて水の上に浮き出づる者なりといふ。
鰻鱺魚 本草に鰻鱺〈蛮縲の二音、波之加美伊乎(はじかみいを)〉と云ふ。
韶陽魚 崔禹食経に云はく、韶陽魚〈古米(こめ)〉は味は甘、小冷、貌は鱉に似て甲(よろひ)無く、口は腹の下に在る者なりといふ。
鮏魚 同食経に云はく、鮏〈折青反、佐介(さけ)。今案ふるに俗に鮭の字を用ゐるは非ざるなり。鮭の音は圭、鯸䱌魚の一名なり〉、其の子は苺〈音は茂、苺子は即ち是れ覆盆なり、唐韻に見ゆ〉に似て赤く光る、一名に年魚、春に生れ年の中に死ぬ故に以て之れを名くといふ。
鯉魚 七巻食経に鯉魚〈上の音は里、古比(こひ)〉と云ふ。野王案に鮜〈胡闘反〉と曰ふ。説文に𩸄〈胡瓦反、上声の重〉と云ふ。爾雅に〓〔魚偏に度〕〈音は度〉と云ふ。皆、鯉魚なり。
本草に云はく、鯽魚〈上の音は即〉は一名に鮒〈音は付、布奈(ふな)〉といふ。四声字苑に云はく、𩺀、鯽、鰿〈音は積、今案ふるに三字は通ひ用ゐる〉は鮒なりといふ。
鰠 文字集略に云はく、鰠〈音は騒、漢語抄に美(み)と云ふ〉は鯉の属なりといふ。
鰣 唐韻に云はく、鰣〈音は時、漢語抄に波曽(はそ)と云ふ〉は魚の名なり、魴に似て肥え美しく、江東に四月に之れ有りといふ。
鱸 崔禹食経に云はく、鱸〈音は盧、須々岐(すずき)〉は貌、鯉に似て鰓(あぎと)大きく開く者なりといふ。四声字苑に云はく、鱖に似て大だ青きなりといふ。
鯇 爾雅集注に云はく、鯇〈胡本反、上声の重、字は亦、鯶に作る、阿米(あめ)〉は鱒に似る者なりといふ。楊氏漢語抄に水鮏〈一に江鮏と云ふ。今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。
鱒 七巻食経に云はく、鱒〈慈損反、字は亦、𩻝に作る〉は一名に赤目魚といふ〈万須(ます)〉。兼名苑に云はく、一名に鮅〈音は必〉、鯶に似て赤き目の者なりといふ。
鮸 唐韻に云はく、鮸〈音は免、弁色立成に鮸は邇倍(にべ)と云ひ、一に久知(くち)と云ふ〉は魚の名なりといふ。
鯰 崔禹食経に云はく、鯰〈奴霑反、奈末豆(なまづ)。漢語抄に〓〔魚偏に斥〕の字を用ゐる。出づる所未だ詳かならず〉の貌は䱌に似て大き頭の者なりといふ。
䱌 同食経に云はく、䱌〈音は夷、伊之布之(いしぶし)〉の性は伏し沈み石の間に在る者なりといふ。
鱅 同食経に云はく、鱅〈音は容、知々加布利(ちちかぶり)〉は䱌魚に似て黒き点(ほし)有りといふ。
𫙑魚 同食経に云はく、𫙑〈莫往反、𠕀と同じ、加良加古(からかご)〉は䱌魚に似て頬に鈎を着くる者なりといふ。
鱖魚 唐韻に云はく、鱖〈居衛反、漢語抄に阿散知(あさぢ)と云ふ〉は魚の名、大きな口、細き鱗、斑文有る者なりといふ。
鮎 本草に鮧魚〈上の音は夷〉と云ふ。蘇敬に曰はく、一名に鮎魚〈上は奴兼反、阿由(あゆ)、漢語抄に銀口魚と云ひ、又、細鱗魚と云ふ〉といふ。崔禹食経に云はく、貌は鱒に似て小さく、白き皮有りて鱗無く、春に生れ夏に長り秋に衰へ冬に死ぬ、故に年魚と名づくなりといふ。
鯷魚 陶隠居に曰はく、鮧魚は今の鯷魚なりといふ。四声字苑に云はく、鯷〈音は題、漢語抄に比之古伊和之(ひしこいわし)と云ふ〉は小さき鮎魚の黒くして味少なきなりといふ。
鮠 同字苑に云はく、鮠〈五灰反、漢語抄に波江(はえ)と云ふ。又、鯶の字を用ゐる。出づる所未だ詳かならず〉は魚にして鮎に似て白色といふ。
䱅 玉篇に云はく、䱅〈音は末、一音に蔑、漢語抄に加末豆賀(かまつか)と云ふ〉は小魚の名なりといふ。
鮊魚 文字集略に云はく、鮊〈音は白、漢語抄に之侶乎(しろを)と云ふ〉は魚にして薄き身の白色なりといふ。
𩵖 考声切韻に云はく、𩵖〈音は小、今案ふるに俗に氷魚(ひを)と云ふは是なり。初学記の冬の事対に氷魚、霜鶴の文有りと雖も其の義を尋ぬるは非ざるなり〉は白き小魚の名なり、鮊魚に似て長さ一二寸の者なりといふ。
細魚〈海糠付〉 漢語抄に云はく、細魚〈宇流理古(うるりこ)〉は海糠魚〈阿美(あみ)、今案ふるに未だ詳かならず〉といふ。
竜魚体百九
鱗 唐韻に云はく、鱗〈音は隣、伊路久都(いろくづ)、俗に伊侶古(いろこ)と云ふ〉は魚の甲なりといふ。文字集略に云はく、竜魚の属の衣を鱗と曰ふなりといふ。
鰓 唐韻に云はく、鰓〈蘇来反、阿岐度(あぎと)〉は魚の頬なりといふ。
魚丁 爾雅に云はく、魚枕を丁〈伊乎乃加之良乃保禰(いをのかしらのほね)〉と曰ふといふ。郭璞に曰はく、枕は魚の頭の中に在り、形は丁の字を蒙るに似る者なりといふ。
脬 考声切韻に云はく、脬〈疋交反、漢語抄に以乎乃布衣(いをのふえ)と云ふ〉は魚の腹の中の脬なり、又、人の膀胱の肉なりといふ。
鰭 文選注に云はく、鰭〈音は耆、波太(はた)、俗に比礼(ひれ)と云ふ〉は魚の背の上の鬣なりといふ。唐韻に云はく、鬣〈音は獦、又、馬体に見ゆ〉は鬚鬣なりといふ。
鰾 文字集略に云はく、鰾〈防眇反、上声の重、漢語抄に保波良(ほはら)と云ふ〉は魚の膘なりといふ。唐韻に云はく、膘〈敷沼反〉は脇の前なりといふ。
腴 野王案に、腴〈音は臾、豆知須利(つちすり)〉は魚の腹の下の肥ゆるなりとす。
鯁 唐韻に云はく、鯁〈音は耿、乃岐(のぎ)〉は魚の刺(とげ)の喉に在り、又、骨の鯁なりといふ。
鮾鯹 野王案に、鮾〈音は乃、和語に阿佐流(あざる)と云ふ〉は魚の肉の爛るなり、鯹〈音は星、亦、腥に作る、奈万久佐之(なまぐさし)〉は魚の肉の臭ふなりとす。
亀貝部第十九
亀貝類百十 亀貝体百十一
亀貝類百十
亀 大戴礼に云はく、甲虫三百六十四、神亀〈居追反、加米(かめ)〉は之れを長と為るなりといふ。兼名宛に云はく、亀は一名に鼇〈音は敖、漢語抄に宇美加米(うみがめ)と云ふ〉といふ。
黿鼉 玉篇に云はく、黿鼉〈元陀の二音、於保加米(おほがめ)〉は大きな亀なりといふ。
摂亀 爾雅集注に云はく、摂亀は一名に陵亀〈古賀米(こがめ)〉、小亀なりといふ。
秦亀 本草に云はく、秦亀は一名に觜蠵〈衰維の二音、伊之加米(いしがめ)〉といふ。陶隠居に曰はく、此れは山中の亀なりといふ。
鼈 本草に鼈〈唐韻に云はく、并列反、魚鼈の字は或に鱉に作る、加波可女(かはかめ)〉と云ふ。
甲蠃子 本草に云はく、甲蠃子〈今案ふるに蠃は即ち螺の字なり、音は羅。楊氏漢語抄に海蠃は都比(つび)と云ふ〉は貌、辛螺に似て中に角の盖有る者なりといふ。
栄螺子 崔禹食経に云はく、栄螺子〈佐左江(さざえ)〉は蛤に似て円き者なりといふ。
石陰子 本草に云はく、石陰子〈漢語抄に甲蠃は加世(かせ)と云ふ〉は是の物、海の中に生れ陰の精なる故に以て之れを名くといふ。
霊蠃子 本草に云はく、霊蠃子〈漢語抄に棘甲蠃を宇邇(うに)と云ふ〉は貌、橘に似て円く、其の甲は紫色、芒の角を生やす者なりといふ。
尨蹄子 崔禹食経に云はく、尨蹄子〈勢(せ)〉は貌、犬の蹄に似て石に付き生える者なりといふ。兼名苑注に云はく、石花〈或に華に作る〉は二三月して皆、紫の花を舒(の)ばし石に付きて生ゆ、故に以て名くといふ。
小蠃子 崔禹食経に云はく、小蠃子〈漢語抄に細螺は之太々美(しただみ)と云ふ〉は貌、甲蠃に似て細く小さき口に白玉の蓋有る者なりといふ。
河貝子 同食経に云はく、河貝子〈美奈(みな)、俗に蜷の字を用ゐるは非ざるなり、音は拳、連蜷虫の屈まる貌なり〉は、殻の上、黒く小さく狭く長くして人の身に似たる者なりといふ。
寄居子 本草に云はく、寄居子〈加美奈(かみな)、俗に仮に蟹蜷の二字を用ゐる〉は貌、蜘蛛に似る者なりといふ。
石炎螺 弁色立成に石炎螺〈麻与和(まよわ)、漢語抄の説は之れと同じ〉と云ふ。
大辛螺 七巻食経に大辛螺〈阿岐(あき)〉と云ふ。漢語抄に云はく、蓼螺は一に赤口螺〈和名は上に同じ。弁色立成の説は亦、之れに同じ〉と云ふといふ。
小辛螺 七巻食経に小辛螺〈邇之(にし)、漢語抄に蓼螺子と云ふ〉と云ふ。
田中螺 拾遺本草に云はく、田中螺は其の稜有る者は之れを螭螺〈太都比(たつび)、螭の音は知、竜類に見ゆ〉と謂ふといふ。
蚶 唐韻に云はく、蚶〈乎談反、弁色立成に岐佐(きさ)と云ふ〉は蚌の属、状は蛤の如く円くて厚し、外に理(すぢめ)の縦横に有り、即ち今の魽なりといふ。
蚌蛤 兼名苑に云はく、蚌蛤〈放甲の二音、蚌は或に蜯に作る、波末久利(はまぐり)〉は一名に含漿といふ。
海蛤 本草に云はく、海蛤は一名に魁蛤といふ〈宇無岐乃加比(うむきのかひ)〉。蘇敬に曰はく、亦、之れを㹠耳蛤と謂ふといふ。
文蛤 新抄本草に云はく、文蛤〈伊太夜加比(いたやがひ)〉は衣に文有る者なりといふ。
馬蛤 唐韻に云はく、蟶〈音は檉、弁色立成に蟶は麻天(まて)と云ふ〉は蚌の属なりといふ。本草に云はく、馬刀は一名に馬蛤といふ〈和名は上に同じ〉。
蜆貝 文字集略に云はく、蜆貝〈音は顕、字は亦、𧖙に作る。之々美加比(しじみがひ)〉は蛤に似て小さく黒き者なりといふ。
白貝 唐韻に蛿〈古三反、一音に含、弁色立成に蛿は於富(おふ)と云ふ。本朝式に白貝の二字を用ゐる〉と云ふ。爾雅に云はく、貝の水に在るを蛿と曰ふなりといふ。
貽貝 爾雅注に云はく、貽貝は一名に黒貝といふ。〈貽の音は怡、伊加比(いがひ)〉
紫貝 兼名苑に云はく、紫貝は一名に大貝といふ。〈宇末乃久保加比(うまのくぼがひ)、本草に見ゆ〉
錦貝 弁色立成に錦貝と云ふ。〈夜久乃斑貝(やくのまだらがひ)、今案ふるに俗の説に紅螺杯と云ふ。西海の益救嶋に出づ、故に俗に呼びて益救貝(やくがひ)と為〉
海髑子 崔禹食経に云はく、海髑子〈夜之(やし)〉は此の物、神霊を含み、人を見ては即ち海中に没み、髑髏に似て鼻目有り、故に以て之れを名くといふ。
鰒 四声字苑に云はく、鰒〈蒲角反、雹と同じ。今案ふるに一音は伏、本草音義に見ゆ〉は魚の名なり、蛿に似て偏に石に着く、肉は乾して食ふべし、青州海中に出づといふ。本草に云はく、鮑は一名に鰒といふ〈鮑の音は抱、阿波比(あはび)〉。崔禹食経に云はく、石决明〈和名は上に同じ〉は之れを食へば心目は聡了(さと)くなり、亦、石に付き生ゆ、故に以て名くといふ。
蠣 四声字苑に云はく、蠣〈力制反、本草に云はく、蠣蛤は賀岐(かき)〉は虫殻を相着て石に似たる者なりといふ。
烏賊 南越志に云はく、烏賊〈今案ふるに鳥賊は並びに魚に従ひ鷠鱡〈上の音は烏、下は疾得反〉に作る、亦、鰂に作る、玉篇に見ゆ、伊賀(いか)〉は常に自ら水上に浮き、烏見ては死にたりと以為(おも)ひ之れを啄まば乃ち之れを巻き取る、故に以て名くといふ。
擁剣 本草に云はく、擁剣〈加佐米(がざめ)〉は蟹に似て色は黄、其の一の螯(はさみ)は偏(こづ)み、長さ三寸の者なりといふ。
海蛸子 本草に云はく、海蛸子〈今案ふるに蛸は正しくは鮹に作り、所交反、唐韻に見ゆ。太古(たこ)、俗に䖣の字を用ゐる、出づる所は未だ詳かならず〉は貌、人の裸に似て円き頭の者なり、長さ丈に余る者は之れを海肌子と謂ふといふ。
小蛸魚 崔禹食経に小蛸魚〈知比佐岐太古(ちひさきたこ)、一に須流米(するめ)と云ふ〉と云ふ。
貝鮹 日本紀私記に貝鮹〈加比太古(かひだこ)〉と云ふ。
海鼠 崔禹食経に云はく、海鼠〈和名は古(こ)、本朝式等に熬の字を加へて伊利古(いりこ)と云ふ〉は蛭に似て大き者といふ。
老海鼠 本草に寄生と云ふ。寄生の根を託ぬる処、其の体、此れと相似る、故に実は異なるも名は同じのみ。一説に、大海鼠は極く老ゆる時の名なりとす。楊氏漢語抄に老海鼠〈保夜(ほや)、俗に此の注の二字を用ゐる〉と云ふ。
海月 崔禹食経に云はく、海月は一名に水母〈久良介(くらげ)〉、貌は月に似て海中に在り、故に以て之れを名くといふ。
蝙𧍗 七巻食経に云はく、蝙𧍗〈偏若の二音、為(ゐ)、俗に蝛蛦の二字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉は其の貌、蚓に似て大き者なりといふ。
蟹〈蟹黄付〉 野王案に、蟹〈核買反、字は亦、䲒に作る。加邇(かに)〉は八足の虫なりとす。食療経に云はく、密餅は宜しく蟹黄に合せて之れを食ふべからずといふ〈蟹黄は子有る名なり〉。
蟛螖 兼名苑に云はく、蟛螖〈彭越の二音、漢語抄に葦原蟹(あしはらがに)と云ふ〉は形、蟹に似て小さきなりといふ。
蟛蜞 楊氏漢語抄に蟛蜞〈彭其の二音、海浜の稲舂蟹(いねつきがに)の類なり〉と云ふ。
石蟹 兼名苑注に云はく、石蟹〈以之加邇(いしがに)〉は海際の石の下に生(あ)る、故に以て名くといふ。
亀貝体百十一
甲 文字集略に云はく、亀蚌の属の甲を介と曰ふといふ。〈甲の音は俗に古布(こふ)と云ふ〉
貝 尚書注に云はく、貝〈音は拝、加比(かひ)〉は水にすむ物なりといふ。
殻 唐韻に云はく、殻〈音は角、貝と同じ〉は虫の皮の甲なりといふ。崔禹食経に河貝子の其の殻の上は黒しと云ふは是。
角盖 本草に云はく、甲蠃子の中に角盖〈都比乃布多(つびのふた)〉有り、盖の上は錯(みだ)りて鮫魚皮〈鮫魚は已に上文に見ゆ〉に似るといふ。
玉盖 崔禹食経に云はく、小蠃子に白玉の盖〈之太々美乃布多(しただみのふた)〉有りといふ。
芒角 本草に云はく、霊蠃子は其の甲の紫色なるを芒角〈宇邇乃介(うにのけ)〉と曰ふといふ。
螯 野王案に、𩪋〈音は敖、字は亦、螯に作る、於保豆米(おほづめ)〉は蟹の大脚なりとす。本草に云はく、擁剣は其の一の螯の長き者なりといふ。
烏賊墨 野王案に、鷠鰂魚は背に一つの大骨有り、腹の中に墨有りとす。〈背骨は甲と同じ、墨は以加乃久呂美(いかのくろみ)〉
沙囊 食療経に云はく、蟹を食ふに沙囊と并せ之れを食ふこと得ず、沙囊〈加邇乃毛乃波美(かにのものはみ)〉は蟹の腹の内に在る者なりといふ。
虫豸部第二十
虫名百十二 虫体百十三
虫名百十二
虫 爾雅に云はく、足有るを虫〈直弓反〉と曰ひ、足無きを豸〈池爾反、上声の重〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、䖝〈虫と通ひ用ゐる、和名は無之(むし)〉は鱗介の惣名なりといふ。
蛇 孫愐に曰はく、蛇〈食遮反、倍美(へみ)、一に久知奈波(くちなは)と云ふ。日本紀私記に蛇は乎呂知(をろち)と云ふ〉は毒虫なりといふ。
蚖蛇 崔豹古今注に云はく、蚖〈音は元、字は亦、螈に作る。内典に蚖蛇は加良須倍美(からすへみ)と云ふ〉は一名に玄、緑、各(おのおの)其の色に随ひて之れを名くといふ。
蚺蛇 文字集略に云はく、蚺〈音は髯、邇之岐倍美(にしきへみ)〉は蛇の文、銭を連ぬ錦の如くなりといふ。
蟒蛇 兼名苑に云はく、蟒〈音は莽、夜万加々知(やまかがち)、内典に見ゆ〉は蛇の最も大きなりといふ。
蝮 本草疏に云はく、蝮蛇〈蝮の音は覆〉は一名に䗱𧐖〈僕連の二音〉といふ。兼名苑に云はく、一名に反鼻といふ。〈蝮は波美(はみ)、俗に或に蛇を呼びて反鼻と為、其の音は片尾〉
蝘蜒 兼名苑に云はく、蝘蜒〈偃殄の二音〉は一名に蜥蝪〈析昜の二音〉といふ。釈薬性に云はく、一名に蠑螈〈栄原の二音〉といふ。本草に云はく、竜子は一名に守宮といふ〈度加介(とかげ)〉。蘇敬に曰はく、常に屋の壁に在り、故に守宮と名くなりといふ。
蝙蝠〈天鼠矢付〉 本草に云はく、蝙蝠〈辺福の二音〉は一名に伏翼といふ〈加波保利(かはほり)〉。方言に蟙䘃〈織墨の二音〉と云ふ。蘇敬に天鼠矢〈伏翼の矢の名なり〉と曰ふ。
蜚蠊 本草に云はく、蜚蠊〈非廉の二音〉は一名に蠦蜰〈音は肥、都乃無之(つのむし)〉といふ。
蟷蜋〈螵蛸付〉 兼名苑に云はく、蟷蜋〈当郎の二音〉は一名に蟷蠰〈当餉の二音、以保無之利(いぼむしり)〉、螵蛸〈飄霄の二音〉は一名に䗚蟭〈愽焦の二音、於保知加不久利(おほぢがふぐり)〉は螳蜋の子なりといふ。
蜻蛉 本草に云はく、蜻蛉〈精霊の二音〉は一名に胡〓〔勑冠に虫〕〈音は勑、加介呂布(かげろふ)〉といふ。釈薬性に云はく、一名に蝍蛉〈上の音は即〉といふ。兼名苑に云はく、虰蛵〈丁香の二音〉、一名に胡蝶は蜻蛉なりといふ。
胡黎 崔豹古今注に云はく、胡黎は一名に胡離〈岐恵無波(きゑむば)〉、蜻蛉の小さくして黄なるなりといふ。
赤卒 同注に云はく、赤卒は一名に絳騮〈阿加恵無波(あかゑむば)〉、蜻蛉の小さくして赤きなりといふ。
促織 兼名苑に云はく、絡緯は一名に促織〈波太於利米(はたおりめ)〉、鳴く声は急ぎ機を織るが如し、故に以て之れを名くといふ。
地胆 本草に云はく、地胆は一名に蕪青〈上の音は無、邇波都々(にはつつ)〉といふ。
蜻蛚 文字集略に蜻蛚〈精列の二音、古保呂岐(こほろぎ)〉と云ふ。
螽蟴 兼名苑に云はく、螽蟴〈終斯の二音〉は一名に蚣蝑〈縦黍の二音〉、一名に蠜螽〈煩終の二音〉、舂黍なりといふ〈漢語抄に舂黍を伊禰都岐古万侶(いねつきこまろ)と読むと云ふ〉。
蚱蜢 本草に云はく、蚱蜢〈作猛の二音、伊奈古万侶(いなごまろ)〉は貌、螇蚸に似て色は小し蒼く、田野の間に在る者なりといふ。
螇蚸 本草に云はく、螇蚸〈奚赤の二音、波太波太(はたはた)〉は貌、蚱蜢に似て長く細く、色は黄、飛ぶ時に声を作し、荒れたる田野に在る者なりといふ。
蟋蟀 兼名苑に云はく、蟋蟀〈悉率の二音〉は一名に蛬〈渠容反、又、音は拱、岐利々々須(きりぎりす)〉といふ。
蛍 兼名苑に云はく、蛍〈胡丁反〉は一名に熠燿〈上は一入反、保太流(ほたる)〉といふ。
叩頭虫 傅咸叩頭虫賦に云はく、虫の細微なる者、之れに触れば輙ち頭を叩き、叩頭虫〈沼加豆岐無之(ぬかづきむし)〉と云ふといふ。
齧髪虫 玉篇に云はく、蠰〈相亮反、漢語抄に加美岐利無之(かみきりむし)と云ふ〉は髪を齧む虫なりといふ。
蝟 説文に云はく、蝟〈音は謂、久左布(くさぶ)〉は虫、豪猪に似て小さき者なりといふ。
烏毛虫 兼名苑に云はく、髯虫は一名に烏毛虫といふ。〈加波牟之(かはむし)〉
蜈蚣 兼名苑に云はく、蜈蚣〈呉公の二音〉は一名に螏蟍〈疾梨の二音〉、一名に百足といふ〈無加天(むかで)〉。唐韻に云はく、蝍蛆〈上は子力反、下は子魚反〉は蛇を食ふ虫、蜈蚣は是れなりといふ。
馬陸 本草に云はく、馬陸は一名に百足といふ。〈阿末比古(あまびこ)〉
蚰蜒 兼名苑に云はく、蚰蜒〈由延の二音〉は一名に蚹蠃〈上の音は付〉といふ。本草に螔蝓〈移臾の二音、奈米久知(なめくぢ)〉と云ふ。方言に云はく、北燕に之れを䖡蚭〈上は女陸反、下の音は尼〉と謂ふといふ。
蝸牛 山海経注に云はく、䗱螺〈上の音は僕〉は蝸牛なりといふ。本草に云はく、蝸牛〈上は古華反〉は貌、螔蝓に似て背に殻を負ふのみといふ。
蜣蜋 本草に云はく、蜣蜋〈羌郎の二音〉は一名に蛣蜣〈吉羌の二音、久曽牟之(くそむし)、一に末呂牟之(まろむし)と云ふ〉といふ。
蠐螬 本草に云はく、蠐螬〈斉曹の二音〉は一名に蛣𧌑〈吉屈の二音、須久毛牟之(すくもむし)〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蝤蠐〈上は才尤反〉といふ。
䗪虫 本草に云はく、䗪虫〈上の音は父祖の祖〉は一名に蛜蝛〈伊威の二音、於米無之(おめむし)〉といふ。
蚇蠖 兼名苑に云はく、蚇蠖〈尺郭の二音〉は一名に蝍䗩〈即戚の二音〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蝍𧑙〈子六反〉といふ。説文に云はく、蠖〈乎歧牟之(をぎむし)〉は屈み伸る虫なりといふ。
螟蛉 毛詩注に云はく、螟蛉〈冥霊の二音、阿乎牟之(あをむし)〉は蒼虫なり、水、中にある虫なりといふ。
蠹 説文に云はく、蠹〈音は妬、乃牟之(のむし)〉は木の中の虫なりといふ。
桃蠹 本草に云はく、桃蠹は一名に山竜蠹〈毛々乃牟之(もものむし)〉は桃の樹を食ふ虫なりといふ。
衣魚 本草に云はく、衣魚は一名に白魚、一名に蟫〈音は淫、一音に覃、之美(しみ)〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蛃魚〈上の音は柄〉、衣や書の中に自づから生える虫なりといふ。
蝉 爾雅集注に云はく、良蜩〈徒貂反〉、蝘螗〈偃唐の二音〉、蟪蛄〈恵古の二音〉、螗𧋘〈唐啼の二音〉、蚻蜻〈札請の二音〉、螇螰〈奚禄の二音〉は皆、蝉の類なり、五采に具(かざ)れるは之れを良蜩と謂ひ、小さくして文有るは之れを蚻蜻と謂ふといふ。
蚱蝉 本草に云はく、蚱蝉〈作禅の二音、奈波世美(なはせみ)〉は雌蝉にして鳴くこと能はざる者なりといふ。
蝒蜩 爾雅注に云はく、蝒蜩は一名に蝒〈音は綿、無末世美(むまぜみ)〉、蝉の中の最も大き者なりといふ。
寒蜩 兼名苑に云はく、寒蜩は一名に寒螿〈音は漿〉、一名に𧕄〈音は応、俗に加牟世美(かむせみ)と云ふ〉、蝉に似て小さく青き者といふ。月令に寒蝉鳴くと曰ふは是れ。
蛁蟟 陶隠居本草注に蛁蟟〈凋遼の二音、字は亦、虭蟧に作る、久都々々保宇之(くつくつぼうし)〉は八月に鳴く者と云ふは是れ。
茅蜩 爾雅注に云はく、茅蜩は一名に䘁〈子烈反、比久良之(ひぐらし)〉、小さく青き蝉なりといふ。
夏虫 荘子に云はく、夏虫〈俗に此の二字を用ゐ、奈都牟之(なつむし)と云ふ〉は氷を出だし似せ語るべからずといふ。
蝶 兼名苑に云はく、蛺蝶〈頬牒の二音〉は一名に野蛾といふ。〈形は蛾に似て色の白き者なり〉
緑蝶 兼名苑に云はく、緑女は一名に姥蝶といふ。〈緑蝶なり〉
紺蝶 兼名苑に云はく、紺幡は一名に童幡といふ。〈紺蝶なり〉
鳳車 崔豹古今注に云はく、鳳車は一名に鬼車〈保々天布(ほほてふ)〉、形は蝶に似て大きく、或に斑の文有る者なりといふ。
蛾 説文に云はく、蛾〈音は峨、比々流(ひひる)〉は蝅の飛ぶこと作す虫なりといふ。
蚕〈䖢付〉 説文に云はく、蠶〈昨含反、俗に蚕と為、加比古(かひご)〉は虫の糸を吐くなりといふ。玉篇に云はく、䖢〈亡消反、蛾と同じ〉は蝅の初めて生るるなりといふ。
𧔞 玉篇に云はく、𧔞〈音は元、奈都古(なつご)〉は晩き蝅なりといふ。
蝱 文字集略に云はく、蝱〈今案ふるに即ち是れ蚊虻の虻の字の作りなり、下文に見ゆ。老蝅は比々(ひひ)〉は繭の内の老いし蝅なりといふ。
水蛭 本草に水蛭〈音は質、比流(ひる)〉と云ふ。
馬蛭 本草に云はく、馬蛭は一名に馬蟥〈音は黄、無末比流(むまびる)〉、蛭の大きなるなりといふ。
草蛭 本草に云はく、草蛭〈賀佐比流(かさびる)〉は蛭の草の上に在るなりといふ。
蚯蚓 唐韻に云はく、蜿蟮〈苑善の二音〉は蚯蚓なりといふ。本草に蚯蚓〈丘引の二音、美々須(みみず)〉と云ふ。兼名苑に云はく、蜸蚕〈犬典の二音〉は一名に螼蚓といふ。〈蚯螾なり、螼の音は謹、今案ふるに螾は即ち蚓の字なり、漢書注に見ゆ〉
白頸蚯蚓 本草に云はく、白頸蚯蚓は一名に土竜といふ。〈可不良美々須(かぶらみみず)〉
蝦蟇〈科斗付〉 唐韻に云はく、蛙〈烏蝸反、古文に鼃に作る、加閉流(かへる)〉は蝦蟇なりといふ。兼名苑に云はく、蝦蟇〈遐麻の二音〉は一名に螻蟈〈婁国の二音〉といふ。又、唐韻に云はく、蛞𧓕〈活東の二音〉は科斗なり、蝌蚪〈科斗の二音〉は蝦蟇子なりといふ。
青蝦蟇 陶隠居に曰はく、蝦蟇の大くして青き脊なるは之れを土鴨〈阿乎加閉流(あをがへる)〉と謂ふといふ。
黒蝦蟇 同注に云はく、蝦蟇の黒き色なるは之れを蛤子〈都知加倍流(つちがへる)〉と謂ふといふ。
蛙黽 本草に云はく、蛙黽〈莫耿反、阿末加倍流(あまがへる)〉は形小さく、蝦蟇の如くして青き色の者なりといふ。
蟾蜍 𠔥名苑に云はく、蟾蜍〈占徐二音、蜍は或に蠩に作る。一音に余、比岐(ひき)〉は形、蝦蟇に似て大きく、陸に居る者なりといふ。
蜘蛛 本草に云はく、蜘蛛〈知誅の二音〉は一名に䖦〓〔虫偏に舞〕〈拙牟の二音、久毛(くも)〉といふ。兼名苑に云はく、鼅鼄〈今案ふるに即ち蜘蛛の二字なり〉は一名に蝳蜍〈毒余の二音〉といふ。
蟰蛸 爾雅注に云はく、蟰蛸〈蕭梢の二音〉は一名に蟢子〈上の音は喜、阿之太加乃久毛(あしたかのくも)〉は小さき蜘蛛の長き脚の者なりといふ。
蝿虎 兼名苑注に云はく、蝿虎〈波倍止利(はへとり)〉、此の虫は蜘蛛に似て恒に蝿を捕り粮と為る者なりといふ。
蜂〈𧍙付〉 説文に云はく、蜂蠆〈峯帯の二音、波知(はち)〉は人を螫(さ)す虫なりといふ。四声字苑に云はく、𧍙〈音は范〉は蜂の子なりといふ。
土蜂 爾雅注に云はく、土蜂〈由須留波遅(ゆするばち)〉は大きな蜂の地の中に在りて房を作る者なりといふ。
木蜂 同集注に云はく、木蜂〈美加波知(みかばち)〉は土蜂に似て小さく、樹の上に在りて房を作る者なりといふ。
蜜蜂〈蜚零付〉 方言注に云はく、蜜蜂〈美知波知(みちばち)、蜜は飲食部に見ゆ〉は黒き蜂、竹木に在りて孔を為り、又、室有る者なりといふ。本草に云はく、蜂子は一名に大黄蜂子、一名に蜚零といふ〈今案ふるに蜚は古の飛の字なり〉。
蠮螉 爾雅注に云はく、蠮螉〈悦翁の二音、佐曽利(さそり)〉は蜂に似て細腰の者なりといふ。兼名苑に云はく、一名に蜾蠃〈果裸の二音〉といふ。
蚊 四声字苑に云はく、蚊〈音は文、賀(か)〉は小さく飛ぶ虫にして夏月の夜に人を噬ふなりといふ。
䖟 説文に云はく、䖟〈莫衡反、亡と同じ、字は亦、蝱に作る、阿夫(あぶ)〉は人を齧みて飛ぶ虫なりといふ。
蝿〈䏣付〉 方言に云はく、陳楚の間に之れを蝿〈音は膺、波倍(はへ)〉と謂ひ、東斉の間に之れを羊〈郭璞に蝿羊は此の転語なるのみと曰ふ〉と謂ふといふ。声類に云はく、䏣〈音は且、又、去声、波閉乃古(はへのこ)〉は蝿の子なりといふ。説文に云はく、蝿は肉の中に乳(やしな)ふなりといふ。
狗蠅 兼名苑に云はく、狗蝿は一名に犬蝿、犬に着く者なりといふ。
守瓜 爾雅注に云はく、蠸は一名に守瓜〈蠸の音は権、宇利波閉(うりばへ)〉、瓜の葉を食ふ者なりといふ。
蝗蝮 爾雅集注に云はく、蝗〈古孟反、一音に皇、於保禰無之(おほねむし)〉は苗を食ふを螟〈音は冥〉と曰ひ、葉を食ふを𧊇〈音は貸〉と曰ひ、節を食ふを𧒿〈音は賊〉と曰ひ、根を食ふを蝥〈音は謀〉と曰ひ、蝗は惣名なりといふ。兼名苑注に云はく、蝮蜪〈覆陶の二音〉は蝗子の未だ翅有らざるなりといふ。
螻蛄 本草に云はく、螻蛄〈婁姑の二音〉は一名に〓〔穀冠に虫〕〈胡木反、字は亦、𧎅に作る、介良(けら)〉といふ。方言に螻𧍱〈音は室〉と云ふ。蒋魴切韻に云はく、鼫鼠〈上の音は石〉に五つの能有り、能く飛びて屋を過ぐること能はず、能く啼きて声を囀らすこと能はず、能く泅(およ)〈浮き行くなり。音は囚、又、音は游〉ぎて涜(みぞ)を渡ること能はず、能く縁りて木を窮むること能はず、能く耕して身を掩(おほひかく)すこと能はず、人に喩えるに短(つたな)き芸は即ち螻蛄なりといふ。
大蟻〈蚳蝝付〉 爾雅集注に云はく、蚍蜉〈毘浮の二音〉は一名に馬螘〈宜倚反、今案ふるに即ち蟻の字なり、玉篇に見ゆ、於保阿利(おほあり)〉、大蟻なりといふ。野王案に、蚳蝝〈遅鉛の二音〉は蟻の子なりとす。兼名苑に一名は玄駒〈上の音は兼猗反、又、螘に作る、阿利(あり)〉と曰ふ。
赤蟻 同集注に云はく、赤駮の蚍蜉は一名に蠪虰〈竜偵の二音、伊比阿利(いひあり)〉、赤蟻なりといふ。
飛蟻 同集注に云はく、螱〈音は尉〉は一名に飛蟻〈波阿利(はあり)〉、蟻の翼有りて能く飛ぶ者なりといふ。
蟣虱 説文に云はく、蟣〈音は幾、岐佐々(きささ)〉は虱の子なり、虱〈所乙反、之良美(しらみ)〉は人を齧む虫なりといふ。
蚤 説文に云はく、蚤〈音は早、乃美(のみ)〉は人を齧み跳ぶ虫なりといふ。
蜹 野王案に蜹〈如税反、芮と同じ、太邇(だに)〉とし、今に小さき虫有りて善く人を齧み、之れは毒を含むと謂ふは即ち是。
𧔎 蒋魴切韻に云はく、𧔎〈音は魯、美加良(みがら)〉は井の水中の小さき虫なりといふ。
蠁子 同切韻に云はく、蠁子〈上の音は饗、佐之(さし)〉は酒醑の上の小さき飛虫なりといふ。
蛄䗐 爾雅集注に云はく、蛄䗐〈姑翅の二音、与奈牟之(よなむし)〉は今、穀米の中に蠹(むしは)む小さく黒き虫なりといふ。
蜏 唐韻に云はく、蜏〈音は誘、漢語抄に比乎牟之(ひをむし)と云ふ〉は朝に生れ暮に死ぬ虫の名なりといふ。
蠛蠓 爾雅集注に云はく、蠛蠓〈上は亡結反、下は亡孔反。漢語抄に加豆乎無之(かつをむし)と云ふ。日本紀私記に蠛は末久奈岐(まぐなき)と云ふ〉は小さき虫にして乱れ飛ぶなりといふ。磑(ひ)くときは則ち天の風のごとし、舂(つ)くときは則ち天の雨のごとし。
虫体百十三
蟠 野王案に、蟠〈音は煩、訓は和太加末流(わだかまる)〉は竜蛇の臥す貌なりといふ。
蚑行 唐韻に云はく、蚑〈音は岐、訓は波布(はふ)〉は虫の行くなりといふ。
蠢動 野王案に、蠢〈音は准、訓は牟久米久(むぐめく)〉は虫の動き揺ぐ貌なりといふ。
螫 応劭漢書注に云はく、蠚〈丑略反、又、呵各反〉は螫なりといふ。野王案に、螫〈音は釈、訓は佐須(さす)〉は蜂蠆の毒を行ふなりとす。
蛻〈蛇蛻付〉 野王案に云はく、蛻〈如説反、一音に税、訓は毛奴久(もぬく)〉は蝉の皮を解くなりといふ。本草に云はく、蛇肌は一名に竜子衣といふ〈倍美乃毛沼介(へみのもぬけ)〉。
蟄 野王案に、蟄〈除立反、訓は須古毛流(すごもる)〉は虫の冬に至るに隠れて出でざるなりとす。
化 淮南子に云はく、虫は八日にして化(ば)くといふ。
和名類聚抄巻第八
和名類聚抄巻第九
稲穀部第二十一 菜蔬部第二十二 果蓏部第二十三
稲穀部第二十一
稲穀類百十四 稲穀具百十五
稲穀類百十四
稲 唐韻に云はく、稲〈徒皓反、以禰(いね)、早稲は和世(わせ)、晩稲は比禰(ひね)〉は秔稲なり、𥻧〈音は兼、漢語抄に美之侶乃以禰(みしろのいね)〉は青稲白米なりといふ。
穀 周礼注に云はく、五穀〈古禄反、日本紀私記に伊豆々乃太奈都毛乃(いつつのたなつもの)と云ふ〉は黍、稷、菽、麦、稲なりといふ。礼記月令注に云はく、稷、麻、豆、麦、禾なりといふ。
穭 唐韻に云はく、穭〈音は呂、於路加於比(おろかおひ)、俗に比豆知(ひづち)と云ふ〉は自から生ゆる稲なりといふ。
米 陸詞切韻に云はく、米〈莫礼反、与禰(よね)〉は穀の実なりといふ。
𥻟 蒼頡篇に云はく、𥻟〈奴乱反、𥻟米は毛知乃与禰(もちのよね)〉は米の黏るなりといふ。
秔米 本草に云はく、秔米〈上の音は庚、字は亦、粳に作る〉は一名に〓〔米偏に𠤎〕米〈上の音は𠤎、宇流之禰(うるしね)〉といふ。
𥽦米 唐韻に云はく、𥽦米〈上は蔵洛反、作と同じ。漢語抄に末之良介乃与禰(ましらげのよね)〉は精げし細かき米なりといふ。
粺米 楊氏漢語抄に云はく、粺米〈之良介与禰(しらげよね)、上の音は傍卦反、去声の軽、批と同じ〉は精げ米なりといふ。
糲米 崔禹食経に云はく、烏米は一名に糲米〈上の音は剌、比良之良介乃与禰(ひらしらげのよね)〉、烏米は一斛を舂きて八斗の米を成すを謂ふなりといふ。
糙米 唐韻に云はく、糙米〈上の音は造、漢語抄に毛美与祢(もみよね)と云ひ、一に加知之禰(かちしね)と云ふ〉は米の穀の雑るなりといふ。
糄米 唐韻に云はく、糄米〈上の音は篇、今案ふるに糄米は也岐古米(やきごめ)〉は稲を焼きて米と為るなりといふ。
大麦 陶隠居に曰はく、麦〈莫革反〉は五穀の長なりといふ。蘇敬に曰はく、大麦は一名に青科麦といふ。〈布度牟岐(ふとむぎ)、一に加知加太(かちがた)と云ふ〉
小麦 周礼注に云はく、九穀は稷、黍、稲、粱、菽、麻、大豆、小豆、小麦〈古無岐(こむぎ)、一に万牟岐(まむぎ)と云ふ〉といふ。
蕎麦 孟詵食経に蕎麦〈上の音は喬、一音に驕、曽波牟岐(そばむぎ)〉と云ふ。
粟 唐韻に云はく、粟〈相玉反、阿波(あは)〉は禾の子なりといふ。崔禹に曰はく、禾〈音は和〉は是れ穂の名、稃を被ひ含みて未だ米に成らざるなりといふ。
丹黍 本草に云はく、丹黍〈音は鼠〉は一名に赤黍、一名に黄黍といふ。〈阿加岐々比(あかききび)〉
秬黍 本草に云はく、秬黍〈上の音は巨〉は一名に黒黍といふ。〈久呂岐比(くろきび)〉
秫 爾雅注に云はく、秫〈音は述〉は黏る粟なりといふ。本草に云はく、穡米〈上は子力反〉は一名に粟秫といふ〈岐比乃毛知(きびのもち)〉。蘇敬に曰はく、一名に穄〈音は祭〉といふ。
粱米 崔禹に曰はく、粱米〈上の音は梁〉は一名に𦬊粟〈上の音は起〉、一名に糩米〈上の音は会、阿波乃宇留之禰(あはのうるしね)〉、一名に白粱、一名に円米といふ。
大豆 本草に云はく、大豆〈徒闘反〉は一名に菽〈音は叔、末米(まめ)〉といふ。
烏豆 崔禹に曰はく、烏豆は一名に雄豆〈久呂末女(くろまめ)〉は円くして黒き者なりといふ。
䴏豆 同食経に曰はく、䴏豆〈曽比末米(そびまめ)〉は紫赤色の者なりといふ。
珂孚豆 同経に曰はく、珂孚豆〈井知古末女(ゐちこまめ)〉は状、円々(まるまる)として玉に似て愛づべし、故に以て之れを名くといふ。
大角豆 同経に曰はく、大角豆は一名に白角豆〈佐々介(ささげ)〉、色は牙角の如し、故に以て之れを名く、其の一つの殻に数十粒を含みて離々結房といふ〈離々は布佐奈流(ふさなる)と読む、文選に見ゆ〉。
小豆 本草に赤小豆〈阿加安豆岐(あかあづき)〉と云ふ。崔禹食経に云はく、黒小豆、紫小豆、黄小豆、緑小豆は皆、同じ類なりといふ。
野豆 本草疏に云はく、豌豆〈上は於丸反〉は一名に野豆といふ。〈乃良万女(のらまめ)〉
〓〔艹冠に偏〕豆 弁色立成に云はく、〓〔艹+偏〕豆〈阿知万米(あぢまめ)、上の音は辺、又、比顕反〉は籬の上の豆なりといふ。
胡麻 陶隠居に曰はく、胡麻〈此の間に音は五末、訛りて宇古万(うごま)と云ふ〉は本(もと)、大宛に出づ、故に以て之れを名くといふ。
荏 野王案に、葉の細くして香り、其の実の黒き者を蘇〈新撰本草に乃良江(のらえ)と云ひ、一に奴加江(ぬかえ)と云ふ〉と曰ひ、葉の大きくして毛有り、其の実の白き者を荏〈而枕反、衣(え)〉と曰ふとす。此の二つの物、一つの類と雖も其の状は同じからざるのみ。
香葇 楊氏漢語抄に云はく、香葇〈音は柔、以奴江(いぬえ)〉は一に水蘇と云ふといふ。
薭 左伝注に云はく、薭〈音は俾、比衣(ひえ)〉は草の穀に似る者なりといふ。
葟子 本朝式に葟子〈上の音は皇、美能(みの)〉と云ふ。
稲穀具百十五
種子 日本紀私記に、水田種子〈太奈都毛乃(たなつもの)〉、陸田種子〈波多介豆毛乃(はたけつもの)、種は之隴反、太禰(たね)〉と云ふ。
粒 説文に云はく、粒〈音は立、伊奈豆比(いなつび)〉は米の実なりといふ。
粰 爾雅に云はく、秬は黒黍、一つの稃に二つの米ありといふ〈秬は黍なり、上文に見ゆ〉。説文に云はく、稃〈音は孚、字は亦、𥞂に作る。以禰乃加比(いねのかび)〉は米の甲(よろひ)なりといふ。
糠〈麁糠付〉 爾雅注に云はく、糠〈音は康、沼賀(ぬか)〉は米の皮なりといふ。唐韻に云はく、糩〈音は会、阿良奴加(あらぬか)〉は麁糠なりといふ。
𥝖糏 唐韻に云はく、𥝖〈下没反、字は亦、麧に作る、古女佐岐(こめさき)、一に阿良毛度(あらもと)と云ふ〉は𥝖糏なりといふ。漢書に穅𥝖を食ふとは是、糏〈先結反〉は、米麦の破れるなり。
粃 野王案に云はく、粃〈比之反、去声、之比奈世(しひなせ)〉は穀の実、但し皮有りて米無きなりといふ。
秳 唐韻に云はく、秳〈音は活、乃古利之禰(のこりしね)〉は穀を舂きて潰えざる者なりといふ。
穂 唐韻に云はく、穎〈余頃反、訓は加尾(かび)〉は穂なり、穂〈音は遂、訓は保(ほ)〉は禾穀米なりといふ。
芒 薩珣に曰はく、芒〈音は亡、乃岐(のぎ)〉は禾穂の芒なりといふ。広志に云はく、稲に紫芒稲、赤穬稲〈今案ふるに穬は亦、芒なり、音は古猛反、具に唐韻に見ゆ〉有りといふ。
秉 薩珣に曰はく、秉〈音は丙、訓は以奈太波利(いなたばり)、毛詩に見ゆ〉は禾束なりといふ。四声字苑に云はく、穧〈在詣反、今案ふるに、田野の人の揀稲の揀を云ふは是〉は刈り把る数なりといふ。
藁 麻果に曰はく、藁〈古老反、訓は和良(わら)〉は禾の茎なりといふ。
麦奴 新録単要に麦奴〈牟岐乃久呂美(むぎのくろみ)〉と云ふ。
麩 説文に云はく、麩〈音は扶、字は亦、麱に作る、無岐加須(むぎかす)〉は小麦の皮屑なりといふ。
䅌 野王案に云はく、䅌〈音は涓、無岐加良(むぎがら)〉は麦の茎なりといふ。
萁 同案に云はく、騏〈音は其、字は亦、萁に作る、末女加良(まめがら)〉は豆の茎なりといふ。
腐婢 蘇敬本草注に云はく、腐婢〈阿豆岐乃波奈(あづきのはな)〉は小豆の花の名なりといふ。
菜蔬部第二十二
蒜類百十六 藻類百十七 菜類百十八
蒜類百十六
蒜〈蒜顆付〉 唐韻に云はく、蒜〈音は算、比流(ひる)〉は葷菜なり、葷〈音は軍、今案ふるに大き小さき蒜の惣名なり〉は臭菜なりといふ。楊氏漢語抄に蒜顆〈比流佐岐(ひるさき)といふ。今案ふるに顆は小さき頭なり、音は果、玉篇に見ゆ〉と云ふ。
大蒜 本草に云はく、葫〈音は胡、於保比流(おほびる)〉は味は辛、温、風を除く者なりといふ。兼名苑に云はく、葫は一名に𩐏〈大蒜なり、下の音は煩〉といふ。
小蒜 陶隠居に曰はく、小蒜〈古比流(こびる)、一名に米比流(めびる)〉は葉を生す時に煮和へて之れを食ふべし、五月に至りて葉枯るれば根を取りて之れを噉ふ、甚だ薫り臭ひ、性は辛、熱といふ。
独子蒜 崔禹食経に独子蒜〈比度豆比流(ひとつびる)〉と云ひ、一に独子葫と云ふ。孟詵食経に独頭蒜と云ふ。
沢蒜 兼名苑に云はく、沢蒜は一名に䕾〈音は厳、祢比流(ねびる)〉、水蒜なり、水中に生え、葉形、気味は家蒜に異ならずといふ。
島蒜 楊氏漢語抄に島蒜〈阿佐豆岐(あさつき)、式の文に之れを用ゐる〉と云ふ。
葱 本草に云はく、葱〈音は聡、岐(き)〉の茎は冷、葉は熱なる者なりといふ。蘇敬注に曰はく、葱に数種有り、山葱を茖〈古百反〉と曰ふといふ。
冬葱 広志に云はく、葱に冬春の二種有りといふ。蘇敬に曰はく、葱は又、凍葱有り、冬を凌ぎて死(か)れず食に充つといふ。〈今案ふるに凍葱は即ち冬葱なり、訓は不由岐(ふゆき)〉
薤 本草に云はく、薤〈胡介反、械と同じ、於保美良(おほみら)〉は味は辛、苦、毒無き者なりといふ。蘇敬に曰はく、是れ韮の類なりといふ。
韮 本草に云はく、韮〈音は玖、古美良(こみら)〉は味は辛、酸、温、毒無き者なりといふ。
藻類百十七
藻 毛詩注に云はく、藻〈音は早、毛(も)、一に毛波(もは)と云ふ〉は水中の菜なりといふ。文選に海苔の属と云ふ〈海苔は即ち海藻なり〉。崔禹食経に云はく、沈む者を藻と曰ひ、浮く者を蘋〈音は頻、今案ふるに蘋は又、大萍の名なり〉と曰ふといふ。
昆布 本草に云はく、昆布〈比呂米(ひろめ)、一に衣比須女(えびすめ)と云ふ〉は味は鹹、寒、毒無し、東海に生ゆといふ。陶隠居に曰はく、黄黒き色にして柔らかく細きは之れを食ふべしといふ。
海藻 本草に云はく、海藻〈邇岐米(にきめ)、俗に和布の字を用ゐる〉は味は苦、鹹、寒、毒無き者なりといふ。本朝令に云はく、滑海藻〈阿良米(あらめ)、俗に荒布を用ゐる〉は末滑海藻〈加知女(かちめ)、俗に搗布を用ゐる。搗は搗末の義なり〉といふ。
海松 崔禹食経に云はく、水松〈美流(みる)。楊氏漢語抄に海松と云ひ、式の文に同じく之れを用ゐる〉は状、松の如くして葉無き者なりといふ。
陟厘 本草に陟厘〈音は緾、一本に〓〔勑冠に厘〕に作る。阿乎乃利(あをのり)、俗に青苔を用ゐる〉と云ふ。
神仙菜 崔禹食経に云はく、紫菜〈楊氏漢語抄に阿末乃利(あまのり)と云ひ、俗に甘苔を用ゐる〉は状、紫帛の如くして石の上に凝り生ゆ、是の物に三四種有り、紫色を以て勝れりと為といふ。俗に呼びて神仙菜と曰ふ。
紫菜 兼名苑に云はく、紫菜は一名に石薺といふ。〈牟良佐岐乃利(むらさきのり)、俗に紫苔を用ゐる〉
海蘿 崔禹食経に云はく、海蘿〈不能利(ふのり)、俗に布苔を用ゐる〉は味は渋、鹹、大冷、毒無し、其の性は滑々然として九竅を主るといふ。
鶏冠菜 楊氏漢語抄に鶏冠菜〈度理佐加乃利(とりさかのり)、式の文に鳥坂苔を用ゐる〉と云ふ。
於期菜 本朝式に於期菜と云ふ。
海髪 崔禹食経に云はく、海髪〈伊岐須(いぎす)、楊氏抄に小凝菜と云ふ〉、味は鹹、小冷、其の色は黒く、状は乱れ髪の如き者なりといふ。
大凝菜 楊氏漢語抄に大凝菜〈古々呂布度(こころぶと)〉と云ふ。本朝式に凝海藻〈古流毛波(こるもは)、俗に心太を用ゐ、読みて大凝菜と同じ〉と云ふ。
莫鳴菜 本朝式に莫鳴菜〈奈々利曽(ななりそ)〉と云ふ。楊氏漢語抄に神馬藻〈奈能利曽(なのりそ)、今案ふるに本文は未だ詳(つばひら)かならず。但し神馬は莫(な)騎(の)りその義なり〉と云ふ。
鹿角菜 崔禹食経に云はく、鹿茸〈都乃万太(つのまた)〉は状、水松に似る者なりといふ。文選江賦に鹿角菜と云ふ。〈楊氏抄に和名は上に同じと云ふ〉
鹿尾菜 楊氏漢語抄に鹿尾菜と云ふ。〈比須岐毛(ひずきも)、弁色立成に六味菜と云ふ〉
石蒓 唐韻に云はく、蒓〈常倫反、楊氏抄に石蒓水菜と云ふ。弁色立成に海蓴は和名に古毛(こも)と云ふ〉は水葵なりといふ。
水雲 楊氏漢語抄に水雲〈毛都久(もづく)、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。
紫苔 養生秘要に云はく、補益の食、胡䕑は紫苔といふ。〈須無能利(すむのり)、胡䕑は飲食部の塩梅類に見ゆるなり〉
水苔 弁色立成に水苔〈加波奈(かはな)は一名に河苔〉と云ふ。
芹 本草に云はく、水芹〈音は勤、勢利(せり)〉、味は甘、毒無し、一名に水英といふ。
水葱 唐韻に云はく、𧂔〈胡谷反、楊氏抄に云はく、水葱は奈岐(なぎ)、一に𧂔菜と云ふ〉は水菜、食ふべきなりといふ。
荇 爾雅注に云はく、荇菜〈上の音は杏、字は亦、莕に作る、阿佐々(あさざ)〉は水の中に叢がり生え、葉の円きこと端に在り、長き短かきは水の深き浅きに随ふ者なりといふ。
芡 同注に云はく、芡〈音は倹、美豆布々岐(みづふふき)〉は一名に鶏頭、其の実は烏頭に似る、故に以て之れを名くといふ。
蓴 蘇敬に曰はく、蓴〈視倫反、奴奈波(ぬなは)、別に根有るものは根を食ふに充てず〉は、三四月より七八月に至るに通して糸蓴を名とし、味は甜、体は軟、霜降りて以後(のち)二月に至るに環蓴を名とし、味は苦、体は渋の者なりといふ。
骨蓬 崔禹食経に云はく、骨蓬〈加波保禰(かはほね)〉、味は鹹、大冷、毒無し、根は腐りし骨の如く、花は黄色く、茎の頭に葉を著くる者なりといふ。
江浦草 弁色立成に江浦草と云ふ。〈都久毛(つくも)は一に多久万毛(たくまも)と云ふ〉
蕺 唐韻に云はく、蕺〈阻立反、養生秘要に之不岐(しふき)と云ふ〉は菜の名なりといふ。
菜類百十八
菜蔬 兼名苑注に云はく、草の食ふべきを菜蔬〈在疏の二音、和名は上は奈(な)、下は久佐比良(くさびら)〉と曰ふといふ。説文に云はく、韭〈挙有反、字は亦、韮に作る〉は菜なりといふ。
菌 爾雅注に云はく、菌〈音は窘、太介(たけ)、今案ふるに数種有り、木菌、土菌、石菌、並びに兼名苑に見ゆ〉は形の蓋(きぬがさ)に似る者なりといふ。
䓴 四声字苑に云はく、䓴〈音は軟、岐乃美々(きのみみ)〉は木耳、即ち木菌なり、状は人の耳に似て黒きなりといふ。
蔓菁〈下体付〉 蘇敬本草注に云はく、蕪菁〈無青の二音〉、北人は之れを蔓菁〈上の音は蛮、阿乎奈(あをな)〉と名くといふ。揚雄方言に、陳宋の間に蔓菁を葑〈音は封〉と曰ふとす。毛詩に、葑を采り菲〈音は斐〉を采る、下体〈加布良(かぶら)〉を以てする無かれ、の下体は茎なり、此の二つの菜は蔓菁と葍の類なり。
辛芥 方言に、趙魏の間に蕪菁を謂ひて大芥と為、小さき者は之れを辛芥〈音は介、太加奈(たかな)〉と謂ふとす。
温菘 崔禹食経に云はく、温菘〈音は終、古保禰(こほね)〉、味は辛、大温、毒無き者なりといふ。
辛菜 同経に云はく、又、辛菜〈加良之(からし)、俗に芥子を用ゐる〉有り、根は細くして甚辛、薫りて好く口鼻の気を通すといふ。
葍 爾雅注に云はく、葍〈音は福、於保禰(おほね)、俗に大根の二字を用ゐる〉は根、正に白くして之れを食ふべしといふ。兼名苑に萊菔〈上の音は来〉と云ふ。本草に蘆菔〈音は服〉と云ふ。孟詵食経に蘿菔〈上の音は羅、今案ふるに萊菔、蘆菔、蘿菔は皆、並びに葍の通称なり〉と云ふ。
蘘荷 馬琬食経に云はく、蘘荷〈嬢何の二音、米加(めが)〉は赤き色の者を佳しと為といふ。兼名苑に云はく、一名に蕧苴〈伏且の二音〉といふ。唐韻に云はく、蒪苴〈上の音は粕〉は大き蘘荷の名なりといふ。
薑 兼名苑に云はく、薑〈居良反〉は一名に𧄕〈音は織、久礼乃波之加美(くれのはじかみ)〉といふ。
蒟蒻 文選蜀都賦注に云はく、蒟蒻〈䀠弱の二音、古邇夜久(こにやく)〉、其の根は肥え白し、灰汁を以て煮れば則ち凝り成り、苦酒を以て淹(ひた)して之れを食ふ蜀人や珍しといふ。
苣 孟詵食経に曰はく、白苣〈其呂反、上声の重、知作(ちさ)、楊氏抄に萵苣の二字を用ゐる、上は烏和反、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉は寒、筋力を補ふ者なりといふ。
葪 本草に云はく、葪〈音は計、阿佐美(あざみ)〉、味は甘、温、人をして肥え健やかなら令むといふ。陶隠居に曰はく、大小の葉、並びに刺すこと多しといふ。
大葪 蘇敬に曰はく、大葪〈夜万阿佐美(やまあざみ)〉は山谷に生ゆる者なりといふ。
蕗 崔禹食経に云はく、蕗〈音は路、訓は布々岐(ふふき)〉、葉は葵に似て円く広く、其の茎は煮て之れを噉ふべしといふ。
葵 本草に云はく、葵〈音は逵、阿布比(あふひ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。
竜葵 本草に云はく、竜葵〈古奈須比(こなすび)〉、味は苦、寒、毒無き者なりといふ。
兎葵 本草に云はく、兎葵〈以倍邇礼(いへにれ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。
莧 本草に云はく、莧〈音は寛、去声、比由(ひゆ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。
馬莧 陶隠居に曰はく、今に馬莧に別に一種有り、地に布(し)きて葉を生やし細微に至る、俗に呼びて馬歯莧〈漢語抄に馬歯草は無波比由(むばひゆ)と云ふ〉と為といふ。
菫菜 本草に云はく、菫菜は俗に之れを菫葵〈上の音は謹、須美礼(すみれ)〉と謂ふといふ。
蕓薹 本草に云はく、蕓薹〈雲台の二音、乎知(をち)〉、味は辛、温、毒無しといふ。蘇敬に曰はく、此れ人間の噉ふ所の菜なりといふ。
薇蕨 爾雅注に云はく、薇蕨〈微厥の二音、和良比(わらび)〉は初め葉無くして之れを食ふべしといふ。崔禹食経に云はく、白き者を名けて𧆊〈音は鱉〉と曰ひ、黒き者を名けて蕨と曰ひ、紫の者を名けて藄〈音は期〉と曰ふ、熱き湯の中に置きて熟(に)ら令め、然る後に之れを噉ふべしといふ。
荼 爾雅注に云はく、荼〈音は途、於保都知(おほつち)〉は苦菜の食ふべきなりといふ。
苜蓿 蘇敬に曰はく、苜蓿〈目宿の二音、於保比(おほひ)〉は茎、葉、根、並びに寒の者なりといふ。
荷蔰 釈薬性に荷蔰〈音は戸、乎加度々岐(をかととき)〉と云ふ。
牛蒡 本草に云はく、悪実は一名に牛蒡〈博郎反、岐太岐須(きたきす)、一に宇末不々岐(うまふふき)と云ふ。今案ふるに俗に房に作るは非ざるなり〉といふ。
鬼皂莢 楊氏漢語抄に云はく、鬼皂莢〈造協の二音、久々佐(くくさ)〉は一に鬱茂草と云ふといふ。〈弁色立成に鬱萌草と云ふ。今案ふるに本文は未だ詳かならず〉
薺 崔禹食経に云はく、薺〈辞啓反、上声の重、奈豆奈(なづな)〉は蒸し煮て之れを噉ふといふ。
薺蒿 七巻食経に云はく、薺蒿菜は一名に莪蒿〈上の音は鵝、於波岐(おはぎ)〉といふ。崔禹に曰はく、艾草に似て香り、羹に作り之れを食ふといふ。
蘩蔞 本草に云はく、蘩蔞〈繁婁の二音、波久倍良(はくべら)〉、味は酸、平、毒無しといふ。陶隠居に曰はく、即ち鶏腸草なりといふ。
羊蹄菜 唐韻に云はく、荲〈丑六反、字は亦、蓫に作る、之布久佐(しぶくさ)、一に之(し)と云ふ〉は羊蹄菜なりといふ。
藜 野王案に云はく、藜〈音は黎、阿加佐(あかざ)〉は蓬蒿の類なりといふ。
果蓏部第二十三
果蓏類百十九 果蓏類百二十
果蓏類百十九
果蓏 唐韻に云はく、説文に木の上にあるを果〈古火反、字は亦、菓に作る。日本紀私記に古能美(このみ)と云ひ、俗に久多毛乃(くだもの)と云ふ〉と曰ひ、地の上にあるを蓏〈力果反、久佐久太毛能(くさくだもの)〉と曰ふといふ。張晏に曰はく、核有るを菓と曰ひ、核無きを蓏〈核は果蓏具に見ゆ〉と曰ふといふ。応劭に曰はく、木の実を菓と曰ひ、草の実を蓏と曰ふといふ。
石榴 兼名苑に云はく、若榴〈音は留、佐久侶(ざくろ)、今案ふるに若は正しくは楉に作る、四声字苑に見ゆ〉は石榴なりといふ。
梨子 唐韻に曰はく、梨〈力脂反、奈之(なし)〉は果の名なりといふ。兼名苑に一名に含消と云ふ。
樆 陸詞切韻に云はく、樆〈音は離、夜末奈之(やまなし)〉は山梨なりといふ。
柑子 馬琬食経に柑子〈上の音は甘、加無之(かむじ)〉と云ふ。
木蓮子 崔禹食経に木蓮子〈以太比(いたび)〉と云ふ。本草に折傷木と云ふ。
獼猴桃 七巻食経に獼猴桃〈之良久知(しらくち)、一に古久波(こくは)と云ふ〉と云ふ。
榛 唐韻に云はく、榛〈秦の軽音、字は亦、樼に作る。波之波美(はしばみ)〉は榛栗なりといふ。
栗 兼名苑に云はく、栗〈力質反、久利(くり)〉は一名に撰子といふ。
杬子 崔禹食経に云はく、杬子〈上の音は元〉は一名に䴏栗〈佐々久利(ささぐり)〉、栗と相似て細く小さき者なりといふ。
椎子 本草に椎子〈上は直追反、之比(しひ)〉と云ふ。
櫟子 崔禹食経に云はく、櫟子〈上の音は歴、伊知比(いちひ)〉は相似て椎子より大き者なりといふ。
榧子 本草に云はく、栢実〈上の音は白〉は一名に榧子〈上の音は匪、加閉(かへ)〉といふ。
五粒松子 楊氏漢語抄に五粒松子〈五粒は五葉なり、松子は末都乃美(まつのみ)〉と云ふ。
胡頽子 馬琬食経に胡頽子〈毛侶奈利(もろなり)、養生秘要に久美(ぐみ)と云ふ〉と云ふ。本朝式に諸生子と云ふ。
鸎実 漢語抄に鸎実〈宇久比須乃岐乃美(うぐいすのきのみ)、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。
杏子 本草に杏子〈上の音は荇、加良毛々(からもも)〉と云ふ。
㮏子 本草に㮏子〈上の音は内、字は亦、柰に作る、奈之(なし)、一に加良奈之(からなし)と云ふ〉と云ふ。兼名苑に云はく、㯈〈音は速〉は一名に㭺〈音は掩〉は柰なりといふ。
林檎子 本草に云はく、林檎〈音は禽、利宇古宇(りうこう)〉は柰と相似て小さき者なりといふ。
楊梅 爾雅注に云はく、楊梅〈夜末毛々(やまもも)〉は、状、苺子の如く赤き色にして味は酸、甜、之れを食ふべしといふ。七巻食経に云はく、山桜桃に二種有り、黒桜子〈和名は上に同じ〉、味は甜、美、食ふべしといふ。
桃子 漢武内伝に云はく、西王母の桃、三千年に一たび実を生すといふ〈西王母は仙人の名なり。桃の音は陶、毛々(もも)。楊氏漢語抄に錦桃と云ふ〉。
冬桃 伝玄桃賦に云はく、亦、冬桃〈今案ふるに俗に霜桃と云ふは是なり〉有り、冷たくして氷霜に侔(ひと)し、神(たましひ)を和(やは)し意(こころ)に適ひ、口に恣(まか)せて嘗むる所なりといふ。
李子 兼名苑に云はく、李子〈音は里〉は一名に黄吉といふ。〈須毛々(すもも)〉
麦李 陶隠居に云はく、麦李〈漢語抄に佐毛々(さもも)と云ふ〉は麦の秀づる時に熟る、故に以て名くといふ。兼名苑注に云はく、青房〈今案ふるに是れ麦李なり〉は五月に熟るる李なりといふ。
李桃 弁色立成に李桃〈豆波岐毛々(つばきもも)〉と云ふ。
棗 本草に云はく、大棗は一名に美棗といふ。〈音は早、字は亦、棘に作る、奈都米(なつめ)〉
酸棗 蘇敬に云はく、酸棗は一名に樲棗〈音は弐、佐禰布度(さねぶと)〉、大棗の中の味酸き者なりといふ。
橘 兼名苑に云はく、橘〈居密反〉は一名に金衣といふ。〈太知波奈(たちばな)〉
橙 七巻食経に云はく、橙〈宅耕反、安倍太知波奈(あへたちばな)〉は柚に似て小さき者なりといふ。
柚 爾雅集注に云はく、柚〈音は由、又、以臭反〉は一名に樤〈音は条、訓は由(ゆ)〉、橙に似て酢し、江南より出づといふ。音義に柚は或に櫾に作る。山海経に字、相通ふ。
櫠椵 爾雅注に云はく、櫠椵〈廃加の二音、漢語抄に柚柑と云ふ〉は柚の属なりといふ。
梅 同注に云はく、梅〈莫杯反、無女(むめ)〉は杏に似て酢き者なりといふ。
柿 説文に云はく、柿〈音は市、加岐(かき)〉は赤き実の果なりといふ。
鹿心柿 兼名苑注に云はく、鹿心柿〈夜末加岐(やまがき)〉は柿の小さくて長きなりといふ。
杼 爾雅集注に云はく、栩〈音は羽、又、香羽反〉は一名に杼〈音は杵、又、当旅反、苧と同じ、度知(どち)。荘子狙公賦の杼は是なり〉といふ。
枇杷 唐韻に云はく、枇杷〈琵琶の二音、俗に味把と云ふ〉は菓木、冬に花さきて夏に実るなりといふ。
椋子 爾雅注に云はく、椋〈音は良〉は一名に即棶〈音は来、無久(むく)〉といふ。
青瓜 兼名苑に云はく、竜蹄は一名に青登〈阿乎宇利(あをうり)〉、青㼉瓜なりといふ。唐韻に云はく、㼉〈直禁反、鴆と同じ〉は青皮の瓜の名なりといふ。
斑瓜 兼名苑に云はく、虎蹯は一名に狸首〈末太良宇利(まだらうり)〉は黄斑の文の瓜なりといふ。
白瓜 同苑に云はく、女臂は一名に羊角〈之呂宇利(しろうり)〉、白瓜の名なりといふ。
黄㼐 陸機瓜賦に云はく、黄㼐、白〓〔瓜偏に專〕〈音は摶〉といふ。陸詞切韻に云はく、㼐〈蒲田反、岐宇利(きうり)〉は黄瓜なりといふ。
熟瓜 広雅に云はく、虎掌、羊骹、小青、大斑〈保曽知(ほぞち)、俗に熟瓜の二字を用ゐる。或説に極く熟るる蔕落つるの義なりとす〉は皆、熟瓜の名なりといふ。
寒瓜 兼名苑注に云はく、寒瓜〈加豆宇利(かつうり)〉は冬に至りて方めて熟るる者なりといふ。
冬瓜 神農食経に云はく、冬瓜〈加毛宇利(かもうり)〉、味は甘、寒、毒無く、渇きを止め熱を除く者なりといふ。
胡瓜 孟詵食経に云はく、胡瓜〈曽波宇利(そばうり)、俗に岐宇利(きうり)を用ゐる〉は寒、多く食ふべからず、寒熱を動(な)し瘧病を発すといふ。
瓞瓝 爾雅注に云はく、瓞瓝〈姪雹の二音、太知布宇利(たちぶうり)〉は小瓜の名なりといふ。
茄子 釈氏切韻に云はく、茄子〈上の音は荷〉は一名に紫瓜子といふ。崔禹食経に云はく、茄〈奈須比(なすび)〉、味は甘、鹼〈唐韻に力減反、䤘味なり、䤘の音は初感反、酢味なり。俗に鹼を恵久之(ゑぐし)と云ふ〉、温、小毒あり、蒸し煮、及び水を以て之れを醸せば食ふに快き菜と為るといふ。
郁子 本草に云はく、郁子〈今案ふるに、郁は宜しく㮋に作るべし、於六反、唐韻に見ゆ〉は一名に棣〈都計反、無倍(むべ)〉といふ。
蔔子 本草に云はく、蔔藤〈上の音は福〉は一名に烏𧄏〈音は伏、阿介比(あけび)〉といふ。崔禹食経に附通子〈字は亦、菔に作る〉云ふ。
菱子 説文に云はく、菱〈音は陵、比之(ひし)〉は秦に之れを薢茩〈皆后の二音〉と謂ひ、楚に之れを芰〈音は岐〉と謂ふといふ。
蓮子 爾雅に云はく、荷は芙蕖、其の子は蓮〈波知須乃美(はちすのみ)〉といふ。
覆盆子 爾雅注に云はく、蒛葐〈欠盆の二音〉は覆盆なりといふ。本草に覆盆子〈伊知古(いちご)、今案ふるに、覆は宜しく蕧に作るべし、芳福反、唐韻に見ゆ〉と云ふ。
薯蕷 本草に云はく、薯蕷は一名に山芋といふ〈夜万乃伊毛(やまのいも)〉。兼名苑に藷藇〈音は暑預と同じなり〉と云ふ。
芋 四声字苑に云はく、芋〈于遇反、以倍乃伊毛(いへのいも)〉は葉、荷に似て、其の根は之れを食ふべしといふ。唐韻に云はく、𦵸〈音は耿、以毛之(いもじ)、俗に芋柄の二字を用ゐる〉は芋の茎なりといふ。
沢舄 本草に云はく、沢舄は一名に芒芋といふ。〈奈末為(なまゐ)〉
烏芋 蘇敬本草注に云はく、烏芋〈久和為(くわゐ)〉は水中に生ゆる沢舄の類なりといふ。
薢 崔禹食経に云はく、薢〈音は解、度古侶(ところ)、俗に〓〔艹冠に宅〕の字を用ゐる。漢語抄に野老の二字を用ゐる。今案ふるに並びに未だ詳かならず〉、味は苦、少甘、毒無し、焼き蒸し粮に充つといふ。兼名苑注に云はく、黄薢は其の根、黄白くして味は苦き者なりといふ。
果蓏具百二十
核 爾雅に云はく、桃李の類は皆、核〈偽革反、佐禰(さね)、今案ふるに一名に人、医家書に桃人、杏人等と云ふは是〉有りといふ。蒋魴切韻に云はく、核は子の中の骨なりといふ。
李衡 馬琬食経に云はく、李衡〈加無之乃佐禰(かむじのさね)〉は柑子になづく人の名なりといふ。
桃奴 本草に云はく、桃人は一名に桃奴といふ。〈毛々乃佐禰(もものさね)〉
甘皮 本草に云はく、橘皮は一名に黄皮といふ。〈岐加波(きかは)、其の色の黄なるの義なり〉
疐 爾雅に云はく、棗李の類は皆、疐〈都計反、保曽(ほぞ)、今案ふるに蔕と字通ふ〉有りといふ。
櫟梂 爾雅に云はく、櫟は其の実は梂〈音は求、伊知比乃加佐(いちひのかさ)〉といふ。孫炎に曰はく、菓の自づから裹む者なりといふ。
栗扶 本草に栗扶〈久利乃之布(くりのしぶ)、其の味は渋しの義なり〉と云ふ。
栗刺〈𦉑発付〉 神異経に云はく、北方に栗有り、径(わたり)三尺二寸、刺(とげ)の長さ一尺といふ〈刺は伊賀(いが)〉。文選蜀都賦に云はく、榛(はしばみ)と栗は𦉑発〈上の音は呼亜反、師説に恵米利(ゑめり)〉といふ。李善に、栗の皮、坼𦉑(さ)けて発(あらは)ると曰ふなり。
桃脂 神仙服餌方に云はく、桃脂は一名に桃膠といふ。〈毛々乃夜邇(もものやに)〉
瓣 唐韻に云はく、瓣〈音は辨、宇利乃佐禰(うりのさね)〉は瓜瓠瓣なりといふ。
和名類聚抄巻第九
類聚抄巻第十
草木部第二十四上
草類百二十一 苔類百二十二 蓮類百二十三 葛類百二十四
草類百二十一
草 孫愐に曰はく、草〈音は早、久佐(くさ)〉は百卉の総名なりといふ。文字集略に云はく、𦳝〈音は娘、佐岐久佐(さきくさ)。日本紀私記に福草と云ふ〉は草の枝々相値ひて葉々相当るなりといふ。
蘭 兼名苑に云はく、蘭は一名に蕙〈音は恵、本草に布知波加麻(ふぢばかま)、新撰万葉集に別に藤袴の二字を用ゐる〉といふ。
菊 四声字苑に云はく、菊〈挙竹反、本草経に菊に白菊、紫菊、黄菊有りと云ふ。加波良与毛岐(かはらよもぎ)、一に可波良於波岐(かはらおはぎ)と云ふ〉は日精草なりといふ。
芸 礼記注に云はく、芸〈音は雲、久佐乃香(くさのかう)〉は香草なりといふ。
紫苑 本草に云はく、紫苑は一名に紫蒨〈七見反、能之(のし)〉といふ。
桔梗 本草に桔梗〈結鯁の二音、阿利乃比布岐(ありのひふき)〉と云ふ。
竜胆 陶隠居本草注に云はく、竜胆〈衣夜美久佐(えやみぐさ)、一に邇可奈(にがな)と云ふ〉、味は甚苦、故に胆を以て名と為るなりといふ。
女郎花 新撰万葉集に云はく、女郎花は和歌に女倍芝(をみなへし)と云ふといふ。
瞿麦 本草に云はく、瞿麦は一名に大蘭といふ。〈奈天之古(なでしこ)、一に度古奈都(とこなつ)と云ふ〉
牡丹 本草に云はく、牡丹は一名に鹿韮〈挙有反、布加美久佐(ふかみぐさ)〉といふ。
金銭花 梁の簡文帝に金銭花賦有り。
萓草 兼名苑に云はく、萓草は一名に忘憂といふ。〈萓の音は喧、漢語抄に和須礼久佐(わすれぐさ)と云ふ〉
麦門冬 本草に麦門冬〈夜末須介(やますげ)〉と云ふ。
欵冬 本草に云はく、欵冬は一名に虎鬚といふ〈一本に冬を東に作る。夜末布々岐(やまぶふき)、一に夜末布岐(やまぶき)と云ふ〉。万葉集に山吹花と云ふ。
芭蕉 唐韻に云はく、芭蕉〈巴焦の二音、波勢乎波(はせをば)〉は其の葉、席(むしろ)の如き者なりといふ。
鹿鳴草 爾雅集注に云はく、萩〈音は秋、一音に焦〉は一名に蕭〈音は霄、波岐(はぎ)。今案ふるに牧の名に萩の字を用ゐるは萩倉、是なり。弁色立成、新撰万葉集等、芽の字を用ゐる。唐韻に、芽の音は胡誤反、草の名なりとす。国史に芳宜草を用ゐる。楊氏漢語抄に又、鹿鳴草を用ゐる。並びに本文は未だ詳(つばひら)かならず〉といふ。
薄 爾雅に云はく、草藂り生ゆるを薄と曰ふといふ〈新撰万葉集の和歌に花薄を波奈須々岐(はなすすき)と云ふ。今案ふるに即ち厚薄の薄の字なり、玉篇に見ゆるなり〉。弁色立成に芊〈和名は上に同じ。今案ふるに芊の音は千、草の盛なり、唐匀に見ゆ〉と云ふ。
荻 野王案に云はく、荻〈音は狄、字は亦、藡に作る。乎岐(をぎ)〉は薍と相似て一種に非ずといふ。
蘆葦〈菼等付〉 兼名苑に云はく、葭〈音は家〉は一名に葦〈音は煒、阿之(あし)〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蘆〈音は盧〉といふ。玉篇に云はく、薍〈音は乱〉は菼なり、菼〈音は毯、阿之豆乃(あしづの)〉は蘆の初めて生ゆるなりといふ。蘇敬に曰はく、蓬蕽〈逢仍の二音〉は葦花の名なりといふ。
薔薇〈営実付〉 本草に云はく、薔薇〈牆微の二音〉は一名に墻𧃲〈今案ふるに薇と字通ふ〉といふ。陶隠居に曰はく、営実〈無波良乃美(むばらのみ)〉は薔薇の子なりといふ。
芍薬 唐韻に云はく、芍薬〈上は張約反、新抄本草に衣比須久須利(えびすぐすり)、又、沼美久須利(ぬみぐすり)〉は薬草、食に和ふべきなりといふ。
赤箭 蘇敬本草注に云はく、赤箭〈乎止乎止之(をとをとし)、一に加美乃夜加良(かみのやがら)と云ふ〉は遠くに看れば箭に似て羽有り、故に以て之れを名くといふ。
天門冬 本草に天門冬〈須末路久佐(すまろぐさ)、今案ふるに楊玄操音義に冬を東に作るなり〉と云ふ。
朮 爾雅注に云はく、朮〈儲律反、乎介良(をけら)〉は葪に似て山中に生ゆ、故に又、山葪と名くるなりといふ。
女葳蕤 拾遺本草に云はく、女葳蕤〈中の音は威、下は汝誰反〉は一名に黄芝といふ。〈恵美久佐(ゑみぐさ)、一に安麻奈(あまな)と云ふ〉
黄精 本草に黄精〈於保恵美(おほゑみ)、一に夜末恵美(やまゑみ)と云ふ〉と云ふ。
地黄 本草に云はく、地黄は一名に地髄といふ。
甘草 本草に云はく、甘草は一名に蜜草といふ。〈阿末岐(あまき)〉
黄連 本草に云はく、黄連は一名に王連といふ。〈加久末久佐(かくまぐさ)〉
人参 本草に云はく、人参は一名に神草といふ。〈加乃邇介久散(かのにけくさ)、一に久万能伊(くまのい)と云ふ〉
石蔛 本草に石蔛〈胡谷反、須久奈比古乃久須禰(すくなびこのくすね)、一に伊波久須利(いはぐすり)と云ふ〉と云ふ。
巻柏 本草に巻柏〈以波久美(いはぐみ)、一に伊波古介(いはごけ)と云ふ〉と云ふ。
細辛 釈薬性に云はく、細辛は一名に小辛といふ。〈美良乃禰久散(みらのねぐさ)、一に比岐乃比多比久散(ひきのひたひぐさ)と云ふ〉
独活 本草に云はく、独活は一名に独揺草といふ〈宇止(うど)、一に豆知太良(つちたら)と云ふ〉。陶隠居に曰はく、風無くして自づから揺る、故に以て之れを名くといふ。
升麻 本草に升麻〈止利乃阿之久佐(とりのあしぐさ)、一に宇多加久散(うたかくさ)と云ふ〉と云ふ。
茈胡 本草に茈胡〈乃世利(のせり)、一に阿末安加奈(あまあかな)と云ふ〉と云ふ。蘇敬に曰はく、茈は古の紫の字なりといふ。
女青 本草に云はく、女青は一名に雀瓢といふ〈加波禰久散(かばねぐさ)〉。蘇敬に曰はく、子は瓢の形に似る、故に以て之れを名くといふ。
萆麻 本草に萆麻〈上は釡示反、加良加之波(からかしは)、一に加良衣(からえ)と云ふ〉と云ふ。
巴戟天 本草に巴戟天〈夜末比々良岐(やまひひらぎ)〉と云ふ。
牽牛子 陶隠居に曰はく、牽牛子〈阿佐加保(あさがほ)〉は此れ田舎より出づ、凡そ人、之れを取りて牛を牽き薬に易ふ、故に以て之れを名くといふ。
地膚 本草に云はく、地膚は一名に地葵といふ。〈邇波久佐(にはくさ)、一に末岐久佐(まきくさ)と云ふ〉
蒺䔧 本草に蒺䔧〈疾梨の二音、波末比之(はまびし)〉と云ふ。
狼毒 本草に狼毒〈夜万久佐(やまくさ)〉と云ふ。
防葵 蘇敬本草注に云はく、防葵〈夜末奈須比(やまなすび)〉、葉は葵に似て味は防風に似る、故に防葵と名くなりといふ。
防風 兼名苑に云はく、防風は一名に屏風といふ。〈波末須加奈(はますがな)、一に波万邇賀那(はまにがな)と云ふ〉
苦芺 本草に苦芺〈烏老反、加万那(かまな)、一に可美於古之奈(かみおこしな)と云ふ〉と云ふ。
䕡茹 本草に䕡茹〈閭如の二音、禰阿佐美(ねあざみ)、一に邇比麻久佐(にひまぐさ)と云ふ〉と云ふ。
羊桃 唐韻に云はく、𦾺芅〈遥翼の二音、本草に伊良々久散(いららぐさ)と云ふ〉は桃に似て花白し、今の羊桃なりといふ。
天名精 本草に云はく、天名精は一名に麦句薑といふ〈波末太加奈(はまたかな)、一に波麻不久良(はまふくら)と云ふ〉。蘇敬注に云はく、味は甘、辛、故に薑の称有りといふ。
沢蘭 陶隠居に云はく、沢蘭〈佐波阿良々岐(さはあららぎ)、一に阿加末久佐(あかまぐさ)と云ふ〉は沢の傍に生ゆ、故に以て之れを名づくといふ。
続断 拾遺本草に云はく、続断〈去声、波美(はみ)、一に於邇乃夜加良(おにのやがら)と云ふ〉は中に水有る者、之れを含水藤と謂ふといふ。
雲実 蘇敬に曰はく、雲実は一名に天豆〈波万佐々介(はまささげ)〉、色は黄黒く豆に似る、故に以て之れを名づくといふ。
蒲公草 本草に云はく、蒲公草〈布知奈(ふぢな)、一に多那(たな)と云ふ〉は一名に耩耨〈上は江項反、下は奴豆反〉といふ。
黄耆 本草に黄耆〈夜波良久散(やはらぐさ)〉と云ふ。
漏蘆 本草に云はく、漏蘆は一名に野蘭といふ。〈久呂久佐(くろくさ)、一に安利久佐(ありくさ)と云ふ〉
飛廉草 本草に飛廉草〈曽々岐(そそき)、一に布保々天久佐(ふほほてぐさ)と云ふ〉と云ふ。
夏枯草 蘇敬に曰はく、夏枯草〈宇流岐(うるき)〉は五月に枯る、故に以て之れを名づくといふ。
当帰 本草に当帰〈夜末世里(やまぜり)、一に於保勢利(おほぜり)と云ひ、又、宇万世利(うまぜり)と云ふ〉と云ふ。
秦芁 本草に秦芁〈音は交、都加利久佐(つかりぐさ)、一に波可利久散(はかりぐさ)と云ふ〉と云ふ。
白頭公 陶隠居に曰はく、白頭公〈於岐奈久佐(おきなぐさ)、一に那可久散(ながくさ)と云ふ〉は根に近き処に白き茸有り、人の白頭に似る、故に以て之れを名づくといふ。
藎草 本草に藎草〈上の音は疾胤反、加岐奈(かきな)、一に阿之井(あしゐ)と云ふ〉と云ふ。
麻黄 本草に麻黄〈加豆禰久佐(かつねぐさ)、一に阿末奈(あまな)と云ふ〉と云ふ。
知母 本草に云はく、知母は一名に児草といふ。〈夜末之(やまし)〉
大青 本草に大青〈波止久散(はとくさ)、一に久流久佐(くるくさ)と云ふ〉と云ふ。
决明 陶隠居に曰はく、决明〈衣比須久佐(えびすぐさ)〉、石决明は是、蚌蛤の類、皆(ひと)しく目を明るくすることを主る、故に並びに决明の名有りといふ。
狗尾草 弁色立成に狗尾草〈恵奴乃古久散(ゑぬのこぐさ)〉と云ふ。
貝母 陶隠居に曰はく、貝母〈波々久利(ははくり)〉、形は貝を聚むるに似る、故に以て之れを名づくといふ。
連翹 本草に云はく、連翹は一名に三廉草といふ。〈伊多知久散(いたちぐさ)、一に以太知波勢(いたちはぜ)と云ふ〉
石韋 陶隠居に曰はく、石韋〈以波乃加波(いはのかは)、一に伊波久美(いはぐみ)と云ふ〉は其の葉、皮の如し、故に以て之れを名づくといふ。瓦屋の上に生ゆるは之れを瓦韋と謂ふ。
牛扁 蘇敬に曰はく、牛扁〈甫典反、太知末知久佐(たちまちぐさ)〉は牛の病を治す、故に牛扁と名くるなりといふ。
萹蓄 本草に萹蓄〈宇之久散(うしくさ)〉と云ふ。
三白草 蘇敬に曰はく、三白草〈賀多之路久散(かたしろぐさ)〉は葉の上に三つの黒き点有り、古の人、之れを秘(かく)すに黒を隠(しの)び白と為るのみといふ。
旋花 本草に云はく、旋花は一名に美草といふ。〈旋の音は賎、波夜比止久佐(はやひとぐさ)〉
敗醬 陶隠居に曰はく、敗醬〈知女久佐(ちめぐさ)〉は気の敗(くさ)りて豆醬に似る、故に以て之れを名づくといふ。
白芷 雑要决に云はく、白芷は一名に白芝といふ。〈加佐毛知(かさもち)、一に与呂比久佐(よろひぐさ)と云ふ〉
青葙 本草に青葙〈私羊反、宇末久散(うまくさ)、一に阿末久佐(あまくさ)と云ふ〉と云ふ。
杜𧄇 蘇敬に曰はく、杜𧄇は一名に馬蹄香〈𧄇の音は衡、布太末賀美(ふたまかみ)、一に豆布禰久散(つぶねぐさ)と云ふ〉、形は馬蹄に似る、故に以て之れを名くといふ。
白鮮 陶隠居に曰はく、白鮮は一名に羊羶〈比豆之久散(ひつじぐさ)、式連反、羊臭なり〉、気、羊羶に似る、故に以て之れを名くといふ。
白薇 釈薬性に白薇〈美奈之古久佐(みなしこぐさ)、一に久路久散(くろくさ)と云ひ、又、阿末那(あまな)と云ふ〉と云ふ。
紫参 本草に紫参〈知々乃波久散(ちちのはぐさ)〉と云ふ。
地楡 陶隠居に曰はく、地楡は一名に玉豉〈阿夜女太無(あやめたむ)、一に衣比須禰(えびすね)と云ふ〉、子は黒く豉に似る、故に以て之れを名くといふ。
仙霊毗草 陶隠居に曰はく、淫羊藿〈宇無岐奈(うむきな)、一に夜末止利久佐(やまとりぐさ)と云ふ〉は羊、此の藿を食へば一日に百遍す、故に以て之れを名け、一に剛前と名くといふ。蘇敬に曰はく、俗に仙霊毗草と名くは是といふ。〈漢語抄に仙霊毗草は万良多介利久佐(まらたけぐさ)と云ふ〉
茸蓎子 本草に茸蓎子〈於保美流久佐(おほみるぐさ)〉と云ふ。
薺苨 本草に薺苨〈臍禰の二音、佐岐久佐奈(さきくさな)、一に美乃波(みのは)と云ふ〉と云ふ。
大黄 本草に云はく、大黄は一名に黄良といふ。〈於保之(おほし)〉
鱧腸草 本草に鱧腸草〈上の音は礼、宇末岐多之(うまきたし)〉と云ふ。
半夏 本草に半夏〈保曽久美(ほそくみ)〉と云ふ。
蒟醬 本草に云はく、蒟醬は一名に蓽蕟〈必発の二音、和太々非(わたたび)〉といふ。
甘遂 本草に甘遂〈邇波曽(にはそ)、一に邇比曽(にひそ)と云ふ〉と云ふ。
虎掌 陶隠居に云はく、虎掌〈於保々曽美(おほほそみ)〉は四つの畔に円き牙有ありて虎の掌を看るが如し、故に以て之れを名くといふ。
蕘華 本草に蕘華〈上の音は饒、波末邇礼(はまにれ)〉と云ふ。
蔾蘆 本草に云はく、蔾蘆〈上の音は黎、夜末宇波良(やまうばら)、一に之々乃久比能岐(ししのくびのき)と云ふ〉といふ。
兎葵 本草に兎葵〈以倍邇礼(いへにれ)〉と云ふ。
亭歴子 本草に亭歴子〈波末太加奈(はまたかな)、一に阿之奈豆那(あしなづな)と云ひ、又、波末世利(はまぜり)と云ふ〉と云ふ。
赭魁 本草に赭魁〈為乃止々岐(ゐのととき)〉と云ふ。
及已 本草に及已〈仁諝音義に已の音は以、豆岐禰久佐(つきねぐさ)〉と云ふ。
大戟 本草に大戟〈波夜比止久佐(はやひとぐさ)〉と云ふ。
鳶尾 本草に云はく、鳶尾は一名に烏園といふ。〈古夜須久佐(こやすぐさ)〉
牛膝 陶隠居に曰はく、牛膝〈為乃久豆知(ゐのくづち)〉は節、牛の膝に似る、故に以て之れを名くといふ。
蓍 蘇敬に曰はく、蓍〈音は尸、女止(めど)〉は其の茎を以て筮に為る者なりといふ。
虎杖 本草疏に云はく、虎杖は一名に武杖といふ。〈伊多止利(いたどり)〉
葎草 本草に葎草〈上の音は律、毛久良(もぐら)〉と云ふ。
菴蘆子 本草に菴蘆子〈上の音は淹、波々古(ははこ)〉と云ふ。
馬先蒿 陶隠居に曰はく、馬先蒿は一名に爛石草といふ。〈比岐与毛岐(ひきよもぎ)〉
薏苡 兼名苑に云はく、薏苡〈億以の二音〉は一名に芋珠といふ。〈豆之太万(つしだま)〉
商陸 本草に商陸〈伊乎須岐(いをすき)〉と云ふ。
車前子 本草に云はく、車前子は一名に芣苡といふ。〈浮以の二音、於保波古(おほばこ)〉
茺蔚 本草に茺蔚〈充尉の二音、女波之岐(めはじき)〉と云ふ。
白英 蘇敬に曰はく、白英は一名に鬼目草といふ。〈保曽之(ほそし)、一に豆久美乃伊比禰(つくみのいひね)と云ふ〉
石竜蒭 本草に石竜蒭〈宇之乃比太比(うしのひたひ)〉と云ふ。
石竜芮 本草に石竜芮〈如鋭反、不加豆美(ふかつみ)〉と云ふ。
穬麦 新抄本草に穬麦〈上の音は広、加良須牟岐(からすむぎ)〉と云ふ。
栝楼 兼名苑に云はく、栝楼は一名𤬉㼋〈圭姑の二音、加良須宇利(からすうり)〉といふ。
玄参 本草に云はく、玄参は一名に重台といふ。〈於之久佐(おしくさ)〉
射干 本草に云はく、射干は一名に烏扇といふ。〈射の音は夜、加良須安符岐(からすあふぎ)〉
苦参 本草に云はく、苦参は一名に苦𧄹〈音は識、久良々(くらら)、一に末比利久佐(まひりぐさ)と云ふ〉といふ。
藁本 蘇敬に曰はく、藁本〈佐々波曽良之(ささはそらし)、一に曽良之(そらし)と云ふ〉は根の上の苗の下(もと)の藳に似る、故に以て之れを名くといふ。
酢漿 本草に酢漿草〈加太波美(かたばみ)〉と云ふ。
酸漿 兼名苑に云はく、酸漿は一名に洛神珠といふ。〈保々豆岐(ほほづき)〉
艾 本草に云はく、艾は一名に醫草といふ〈与毛岐(よもぎ)〉。兼名苑に云はく、蓬〈音は逢〉は一名に蓽〈音は畢〉、艾なりといふ。
茵陳蒿 釈薬性に茵陳蒿〈比岐与毛岐(ひきよもぎ)〉と云ふ。
白蒿 本草に云はく、白蒿は一名に蘩皤蒿〈上中の二音は繁波、之呂与毛岐(しろよもぎ)、一に加波良与毛岐(かはらよもぎ)と云ふ。今案ふるに菊に又、此の和名有り、上文に見ゆ〉といふ。
芄蘭 本草に云はく、芄蘭蘿麻子は一名に芄蘿〈上の音は丸、加々美(かがみ)〉といふ。
徐長卿 本草に徐長卿〈比女加々美(ひめかがみ)〉と云ふ。
白前 本草に云はく、白前は一名に石藍といふ。〈能可々美(のかがみ)〉
白蘝 本草に白蘝〈力𢮦反、夜末加々美(やまかがみ)〉と云ふ。
王不留行 釈薬性に王不留行〈今案ふるに一本に留を流に作るなり。加佐久散(かさくさ)〉と云ふ。
景天 陶隠居に曰はく、景天は一名に慎火〈伊岐久佐(いきくさ)〉、火を避くが故に以て之れを名くといふ。
抜葜 本草に抜葜〈上は方八反、佐流止利(さるとり)、一に於保宇波良(おほうばら)と云ふ〉と云ふ。
枲耳 陶隠居に曰はく、枲耳は一名に羊負来〈枲の音は子、奈毛美(なもみ)〉、昔、中国に此の草無し、外国より羊を逐ひ毛の中にして来るが故に以て之れを名くといふ。
王孫 本草に云はく、王孫は一名に黄孫といふ。〈沼波利久佐(ぬはりぐさ)、此の間に都知波利(つちはり)と云ふ〉
積雪草 陶隠居に曰はく、積雪草〈豆保久佐(つぼくさ)〉は寒、冷、故に以て之れを名くといふ。蘇敬に曰はく、其の葉は銭の如し、故に亦、連銭草と名くといふ。
菅 唐韻に云はく、菅〈音は姧、字は亦、蕑に作る、須計(すげ)〉は草の名なりといふ。
茅 大清経に云はく、茅は一名に白羽草といふ。〈茅の音は莫交反、知(ち)〉
萓 広益玉篇に萓〈魚飢反、宜と同じ、加夜(かや)〉と云ふ。
萊草 弁色立成に云はく、萊草〈上の音は来、之波(しば)〉は一名に類草といふ。
百合 本草に云はく、百合は一名に磨藣〈音は罷、由里(ゆり)〉といふ。
懐香 兼名苑注に云はく、懐香は一名に懐芸といふ。〈久礼乃於毛(くれのおも)〉
白慈草 弁色立成に白慈草〈末太布利久佐(またぶりぐさ)〉と云ふ。
狼牙 陶隠居に曰はく、狼牙は一名に犬牙〈古末豆那岐(こまつなぎ)〉、根牙は獣の牙歯に似る、故に以て之れを名くといふ。
莨蓎子 本草に莨蓎〈狼唐の二音、於保美留久佐(おほみるくさ)〉と云ふ。
貫衆 本草に貫衆〈於邇和良比(おにわらび)〉と云ふ。
蒴藋 蘇敬に曰はく、蒴藋〈朔濁の二音、俗に曽久止宇(そくとう)と云ふ〉は即ち陸英なりといふ。
葒草 陶隠居に云はく、葒草〈上の音は紅〉は一名に遊竜といふ。〈伊奴太天(いぬたで)〉
苛 玉篇に云はく、苛〈音は何、以良(いら)〉は小さき草に刺を生やすなりといふ。
𦻂蕪 爾雅注に云はく、𦻂蕪〈飡無の二音、須之(すし)〉は羊蹄に似て葉は細く、味は酢き者なりといふ。
由䟦 本草に由䟦〈薄葛反、加岐都波奈(かなつばな)〉と云ふ。
蓱 説文に云はく、蓱〈薄経反、字は亦、萍に作る、宇岐久佐(うきくさ)〉は根無く水の上に浮く者なりといふ。
蒲〈蒲黄付〉 唐韻に云はく、蒲〈薄胡反、可末(かま)〉は草の名、藺に似て以て席に為べきなりといふ。陶隠居に曰はく、蒲黄〈加万乃波奈(かまのはな)〉は花の上の黄なる者なりといふ。
菰〈菰首付〉 本草に云はく、菰は一名に蒋といふ〈上の音は孤、下の音は将、古毛(こも)〉。弁色立成に茭草〈一に菰蒋草と云ふ、上の音は穀肴反〉と云ふ。七巻食経に云はく、菰首、味は甘、冷といふ。〈古毛不豆路(こもぶつろ)、一名に古毛都乃(こもづの)〉
昌蒲 養性要集に云はく、昌蒲は一名に臭蒲といふ。〈阿夜米久佐(あやめぐさ)〉
劇草 蘇敬に曰はく、劇草は一名に馬藺といふ。〈加岐豆波太(かきつばた)〉
蛇床子 本草に蛇床子〈比流牟之侶(ひるむしろ)〉と云ふ。
三稜草 本草に三稜草〈稜の音は魯登反、美久利(みくり)〉と云ふ。
莎草 唐韻に云はく、莎草〈蘇禾反、漢語抄に久具(くぐ)と云ふ〉は草の名なりといふ。
莞 唐韻に云はく、莞〈音は完、一音に丸、漢語抄に於保井(おほゐ)と云ふ〉は以て席と為べき者なりといふ。
藺 玉篇に云はく、藺〈音は吝、為(ゐ)、弁色立成に鷺尻刺(さぎのしりさし)と云ふ〉は莞に似て細く堅く、宜しく席と為べき者なりといふ。
鼠尾草 本草に鼠尾草〈美曽波岐(みそはぎ)〉と云ふ。
烏頭附子 本草注に云はく、鳥鳥の頭に似るは之れを烏頭と謂ひ、口に似る者を烏喙と謂ひ、三寸以上は之れを天雄と謂ひ、八月に採る者を附子と為、其の辺角の大き者は之れを側子と謂ふといふ。
苔類百二十二
苔 陸詞切韻に云はく、苔〈音は台、古介(こけ)〉は水衣なりといふ。
屋遊 蘓敬本草に云はく、屋遊〈夜乃倍乃古計(やのへのこけ)〉は屋の瓦の上の青き苔衣といふ。
石衣 本草に云はく、石衣は一名に石髪といふ。〈形は髪に同じ、知比佐岐古介(ちひさきこけ)〉
垣衣 本草に云はく、垣衣は一名に烏韮といふ。〈之乃不久佐(しのふくさ)〉
蘿 唐韻に云はく、蘿〈魯何反、日本紀私記に蘿は比加介(ひかげ)と云ふ〉は女蘿なりといふ。雑要决に云はく、松蘿は一名に女蘿といふ。〈万豆乃古介(まつのこけ)、一に佐流乎加世(さるをかせ)と云ふ〉
蓮類百二十三
芙蕖 爾雅に云はく、荷は芙蕖〈符芙に音は同じ、蕖の音は渠〉といふ。郭璞に曰はく、芙蓉〈音は容〉は江東に呼びて荷と為るなりといふ。
藕 爾雅に云はく、其の根を藕〈音は偶、波知須乃禰(はちすのね)〉といふ。
𦾖 爾雅に云はく、其の本を𦾖〈音は蜜、波知須乃波比(はちすのはひ)〉といふ。郭璞に曰はく、茎の下の白蒻〈音は弱〉は泥の中に在る者なりといふ。
茄 爾雅に云はく、其の茎を茄〈音は加、波知須乃久岐(はちすのくき)〉といふ。
蕸 爾雅に云はく、其の葉を蕸〈胡歌反〉といふ。郭璞に曰はく、蕸は亦、荷の字なりといふ。
菡萏 爾雅に云はく、其の華を菡萏〈上は胡感反、下は徒感反、並びに上声の重〉といふ。兼名苑注に云はく、蓮の花、已に開くを芙蕖と曰ひ、未だ舒びざるを菡萏と曰ふなりといふ。
蓮 爾雅に云はく、其の子を蓮〈音は連〉、其の中を菂〈音は漁釣の釣、又の音は的〉といふ。郭璞に曰はく、蓮は房を謂ふなり、菂は蓮の中の子なりといふ。
蕣 文字集略に云はく、蕣〈音は舜、岐波知須(きはちす)〉は地蓮、華は朝に生れ夕に落つる者なりといふ。
葛類百二十四
葛 蘇敬に曰はく、葛穀は一名に鹿豆〈葛の音は割、久須加豆良乃美(くずかづらのみ)〉、葛の実の名なり、葛脰〈音は豆、久須加都良乃禰(くずかづらのね)〉は葛の根の地に五六寸入るる名なりといふ。
藤〈狼跋子付〉 爾雅注に云はく、藟〈力軌反、字は亦、虆に作る、布知(ふぢ)〉は藤なり、葛に似て大しといふ。蘇敬に曰はく、其の子を狼跋子といふ。
皂莢 本草に皂莢〈造夹の二音、加波良不知(かはらふぢ)、俗に蛇結(じゃけつ)と云ふ〉と云ふ。
馬鞭草 蘇敬に曰はく、馬鞭草〈久末豆々良(くまつづら)〉は其の穂、鞭鞘に類(に)る、故に以て之れを名くといふ。
芎藭 唐韻に云はく、芎藭〈弓窮の二音、本草に於無奈加豆良(おむなかづら)〉は香草なり、根を芎藭と曰ひ、苗を蘪蕪〈微無の二音、蘪は又、薇に作る〉と曰ふといふ。
五味 蘇敬に曰はく、五味〈佐禰加豆良(さねかづら)〉、皮の完(しし)は甘、酸、核の中は辛、苦、都て鹹味有り、故に五味と名くなりといふ。
紫萄 本草に紫萄〈衣比加豆良(えびかづら)〉と云ふ。文選蜀都賦に云はく、蒲萄は乱れ潰(つひ)ゆといふ。〈萄の音は陶、漢語抄に蒲萄は衣比加豆良乃美(えびかづらのみ)と云ふ〉
防已 本草に云はく、防已は一名に解離といふ。〈阿乎加都良(あをかづら)〉
忍冬 陶隠居に曰はく、忍冬〈須比加豆良(すひかづら)〉は冬を凌ぎ凋まず、故に以て之れを名くといふ。
千歳虆 蘇敬に曰はく、千歳虆は一名に蘡薁藤〈上中の二音は嬰育、阿末都良(あまづら)、此の間に甘葛なり〉、千歳を得る者の茎は大(ふと)く梡(たきぎ)の如しといふ。
絡石 本草に云はく、絡石は一名に領石といふ〈都太(つた)〉。蘇敬に云はく、此の草は石木を苞みて生ゆ、故に以て之れを名くといふ。
百部 陶隠居に曰はく、百部〈保度豆良(ほどづら)〉は一種を以て百部有り、故に以て之れを名くといふ。
細子草 弁色立成に細子草〈久曽可都良(くそかづら)〉と云ふ。
草木部下
竹類百二十五 竹具百二十六 木類百二十七 木具百二十八〈草具付出〉
竹類百二十五
竹 四声字苑に云はく、竹〈陟六反、多介(たけ)〉は草なりといふ。一に云はく、草に非ず木に非ずといふ。兼名苑注に云はく、筠〈王麏反〉は竹の総名なりといふ。
筨竹 唐韻に云はく、䈄〈音は含、字は亦、筨に作る〉は竹の名なりといふ。
𥯶竹 四声字苑に云はく、𥯶〈音は苦、弁色立成に苦竹は加波多介(かはたけ)と云ふ〉は竹の名なりといふ。
𥲄竹 唐韻に云はく、𥲄〈徒敢反、上声の重、漢語抄に淡竹は於保太介(おほたけ)と云ふ〉は竹の名なりといふ。
䇞竹 文字集略に云はく、䇞〈音は甘、漢語抄に呉竹なりと云ひ、和語に久礼太計(くれたけ)と云ふ〉は䈽に似て節に下し葉を茂らす者なりといふ。
斑竹 兼名苑に云はく、斑竹は一名に涙竹といふ。〈此の間に斑竹は音に篇知久〉
筒 唐韻に云はく、筒〈音は同、又は棟、俗に去声に用ゐる〉は竹の名なりといふ。
箟 唐韻に云はく、箟〈音は昆、能(の)〉は箭竹の名なりといふ。
篠 蒋魴切韻に云はく、篠〈先鳥反、之乃(しの)、小竹は散々(ささ)〉は細々の小竹なりといふ。
竹具百二十六
笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈(たかむな)〉は竹の初めて生ゆるなりといふ。
長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈今案ふるに之乃米(しのめ)〉は笋のうち青く最も晩く生え、味太だ苦きなりといふ。
籜 蒋魴切韻に云はく、籜〈音は択、笋乃宇波加波(たかむなのうはかは)〉は竹の皮なりといふ。
篾 孫愐切韻に篾〈莫結反、竹乃加波(たけのかは)〉と云ふ。
節 野王案に云はく、節〈音は切、布之(ふし)〉は竹の中を隔てて通さざる者なりといふ。
篁 孫愐に曰はく、篁〈音は皇、太加無良(たかむら)、俗に多可波良(たかはら)と云ふ〉は竹の叢るなりといふ。
木類百二十七
旃檀 唐韻に云はく、旃檀〈仙壇の二音、此の間に善短と云ふ〉は香木なりといふ。内典に云はく、赤き者は之れを牛頭栴檀と謂ふといふ。
紫檀 内典に云はく、旃檀の黒き者は之れを紫檀と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名に紫栴といふ。
白檀 内典に云はく、旃檀の白き者は之れを白檀と謂ふといふ。
蘇枋 蘇敬本草に云はく、蘇枋〈唐韻に芳に作る、音は方と同じ、此の間に音は須房〉は人の色を染むるに用ゐる者なりといふ。
黒柿 楊氏漢語抄に柿心と云ふ。〈久侶加岐(くろがき)、俗に黒柿を用ゐる。或説に是は柿木の心の黒き処なり、俗に近きが為に別けて以て之れを置く〉
黄楊 兼名苑注に云はく、黄楊〈都介(つげ)〉は色、黄白く、材にして堅き者なりといふ。
橒 唐韻に云はく、橒〈音は雲、漢語抄に岐佐(きさ)と云ふ。或説に、岐佐(きさ)は蚶の和名なり、此の木の文は蚶貝の文と相似れり、故に取りて名くとす。今案ふるに、和名は義の相近きを取るも、此の字を以て木の名と為ること未だ詳かならず〉は木の文なりといふ。
栐 唐韻に云はく、栐〈音は永、漢語抄に佐久岐(さくき)と云ふ〉は笏に為るべき木なりといふ。
松 漢書に云はく、樹うるに青松を以てすといふ。〈私容反、末都(まつ)〉
栢 兼名苑に云はく、栢〈音は百〉は一名に椈〈音は菊、加閉(かへ)〉といふ。
楓 同苑に云はく、楓〈音は風〉は一名に欇〈音は摂、乎加豆良(をかつら)〉といふ。爾雅に云はく、脂有りて香しきは之れを楓と謂ふといふ。
桂 同苑に云はく、桂〈音は計〉は一名に梫〈音は寑、女加都良(めかつら)〉といふ。
檉 爾雅注に檉〈勑貞反、牟侶乃岐(むろのき)〉と云ふ。
楊 唐韻に云はく、楊〈音は陽、夜那岐(やなぎ)〉は赤茎柳なりといふ。兼名苑に云はく、青楊は一名に蒲柳といふ。
柳 兼名苑に云はく、柳〈力久反〉は一名に小楊〈之太利夜奈岐(しだりやなぎ)〉といふ。崔豹古今注に云はく、一名に独揺、微かな風に大く揺る、故に以て之れを名くといふ。
水楊 本草に水楊〈加波夜那岐(かはやなぎ)〉と云ふ。
桜 文字集略に云はく、桜〈烏茎反、佐久良(さくら)〉は子の大き栢の端の如くして、赤、白、黒の者有るなりといふ。
朱桜 本草に云はく、桜桃は一名に朱桜といふ。〈波々加(ははか)、一に邇波佐久良(にはざくら)と云ふ〉
柞 四声字苑に云はく、柞〈音は作、一音に昨、由之(ゆし)、漢語抄に波々曽(ははそ)と云ふ〉は木の名、梳り作るに堪ふるなりといふ。
椐 玉篇に云はく、椐〈音は居、一音に踞、漢語抄に倍美(へみ)と云ふ〉は木腫を節に中て杖に為るなりといふ。
櫁 唐韻に云はく、櫁〈音は蜜、漢語抄に之岐美(しきみ)と云ふ〉は香木なりといふ。
桒 玉篇に云はく、桒〈音は㽵、字は亦、桑に作る、久波(くは)〉は蚕の食ふ所なりといふ。
柘 毛詩注に云はく、桑柘〈音は射、漢語抄に豆美(つみ)と云ふ〉は蚕の食ふ所なりといふ。
枸𣏌 本草に云はく、枸𣏌、根の下は黄泉に潤ひ、其の精霊は多く犬子と為り、或に小児と為るといふ〈枸𣏌の二音、苟起は沼美久須利(ぬみぐすり)、此の間に音は久古(くこ)〉。抱朴子に云はく、枸𣏌は一名に杔櫨〈託盧の二音〉、一名に却老といふ。
合歓木 唐韻に云はく、棔〈音は昏、禰布利乃岐(ねぶりのき)〉は合歓木、其の葉は朝に舒び暮に歛(をさ)むる者なりといふ。
蔓椒 本草に蔓椒と云ふ。〈伊多知波之加美(いたちはじかみ)、一名に保曽岐(ほそき)〉
呉茱萸 本草に呉茱萸〈朱臾の二音、加波々之加美(かははじかみ)〉と云ふ。
食茱萸 馬琬食経に食茱萸〈於保太良(おほたら)〉と云ふ。
杉 爾雅音義云はく、杉〈音は衫、一音に纎、須岐(すぎ)、日本紀私記に見ゆ。今案ふるに俗に椙の字を用ゐるは非ざるなり。椙は於粉反、柱なり、唐韻に見ゆ〉は松に似て江南に生え、以て船の材に為べしといふ。
檜 爾雅に云はく、栢の葉にして松の身なるを檜〈音は会、又、入声、古活反、飛(ひ)〉と曰ふといふ。
樅 爾雅に云はく、松の葉にして栢の身を樅〈七容反、毛美(もみ)〉と曰ふといふ。
梧桐 陶隠居に曰はく、桐に四種有り、青桐〈音は同じ〉、梧桐〈上の音は吾〉、崗桐、椅桐〈椅の音は猗、皆、岐利(きり)〉、梧桐は色白くして子有る者〈今案ふるに俗に訛り呼びて青桐と為るは是、二音は譲土〉、椅桐は白桐なり、三月に紫に花さき、且(また)、琴瑟を作るに堪ふるは是といふ。
厚朴〈重皮付〉 本草に云はく、厚朴は一名に厚皮〈漢語抄に厚木は保々加之波乃岐(ほほがしはのき)と云ふ〉といふ。釈薬性に云はく、重皮〈保々乃可波(ほほのかは)〉は厚朴の皮の名なりといふ。
椶櫚 唐韻に云はく、椶櫚〈忩閭の二音〉は一名に蒲葵といふ。説文に云はく、栟櫚は以て萆に為るべしといふ。〈栟の音は并、今案ふるに即ち椶櫚なり、俗に種路と云ふ〉
欒 蘇敬本草注に云はく、欒〈魯官反、漢語抄に木欒子は無久礼邇之乃岐(むくれにじのき)と云ふ〉は其の子は数珠に為るに堪ふる者なりといふ。
槻 唐韻に云はく、槻〈音は規、都岐乃岐(つきのき)〉は木の名、弓を作るに堪ふる者なりといふ。
榎 爾雅注に云はく、榎〈古雅反、字は亦、檟に作る〉は一名に槄〈音は瑫、衣(え)〉といふ。
椋 爾雅注に云はく、椋〈音は良〉は一名に即棶〈音は来、牟久(むく)〉といふ。
木瓜 爾雅注に云はく、木瓜は一名に楙〈音は茂、本草に木瓜、毛介(もけ)〉、其の子は小瓜の如き者なりといふ。
釣樟 本草に云はく、釣樟は一名に鳥樟といふ。〈音は章、久沼岐(くぬぎ)〉
羊躑躅 陶隠居に曰はく、羊躑躅〈擲直の二音、伊波都々之(いはつつじ)、一に毛知豆々之(もちつつじ)と云ふ〉は羊、誤りて之れを食ひ躑躅(つまづ)きて死す、故に以て之れを名くといふ。
茵芋 本草に茵芋〈因于の二音、邇豆々之(につつじ)、一に乎加豆々之(をかつつじ)と云ふ〉と云ふ。
山榴 兼名苑に云はく、山榴〈阿伊豆々之(あいつつじ)〉は即ち山石榴なり、花さきて羊躑躅に相似るといふ。
槐 爾雅集注に云はく、葉の小さくして青きを槐〈音は廻、恵邇須(ゑにす)〉と曰ひ、葉の大くして黒きを櫰〈音は懐〉と曰ふ、葉の昼に合ひ夜に開くは之れを守宮槐と謂ふといふ。
㯉 陸詞切韻に云はく、㯉〈勅居反、本草に沼天(ぬて)と云ふ〉は悪しき木なりといふ。弁色立成に白膠木と云ふ。〈和名は上に同じ〉
檍 説文に云はく、檍〈音は億、日本紀私記に阿波岐(あはき)と云ふ。今案ふるに又、櫓の木の一名なり、爾雅に見ゆ〉は梓の属なりといふ。
柧棱 唐韻に云はく、柧棱〈孤稜の二音、曽波乃岐(そばのき)〉は四方の木なりといふ。
橿 唐韻に云はく、橿〈音は薑、加之(かし)〉は万年木なりといふ。爾雅集注に云はく、一名に杻、一名に檍といふ。〈杻の音は紐、今案ふるに又、杻械の杻、刑獄具に見ゆ〉
柀 玉篇に云はく、柀〈音は彼、日本紀に末岐(まき)。今案ふるに又、板の一名なり、爾雅注に見ゆ〉は木の名なり、柱に作り之れを埋めて能く腐らざる者なりといふ。
梓 孫愐に曰はく、梓〈音は子、阿都佐(あづさ)〉は木の名、楸の属なりといふ。
穀 玉篇に云はく、楮〈都古反〉は穀の木なりといふ。唐韻に云はく、穀〈音は糓、加知(かぢ)〉は木の名なりといふ。
檀 唐韻に云はく、檀〈音は弾、末由美(まゆみ)〉は木の名なりといふ。
杜仲 陶隠居に曰はく、杜仲は一名に木綿〈杜の音は度、波比末由美(はひまゆみ)〉、之れを折らば白糸多き者なりといふ。
衛矛 本草に衛矛〈久曽末由美(くそまゆみ)、一に加波久末都々良(かはくまつづら)と云ふ〉と云ふ。
蕪夷 本草に云はく、蕪夷は一名に𦽄䕋〈殿肫の二音、比岐佐久良(ひきざくら)〉といふ。
楡 爾雅注に云はく、楡〈音は臾〉の白き者を名けて枌〈音は紛、夜邇礼(やにれ)〉と曰ふといふ。
石檀 蘇敬本草注に云はく、秦皮は一名に石檀〈止禰利古乃岐(とねりこのき)、一に太無岐(たむき)と云ふ〉、葉は檀に似る、故に以て之れを名くといふ。
陵苕 本草に云はく、紫葳〈音は威〉は一名に陵苕〈音は条、末加夜岐(まかやき)、農世宇(のうぜう)〉といふ。蘇敬に曰はく、一名に凌霄といふ。
五茄 神仙服餌方に云はく、五茄〈無古岐(むこぎ)〉は或に茄を家に作るといふ。本を同じにして五家たり、五家の相隣るを為すが如きなるを言ふ。
売子木 本草に売子木〈賀波知佐乃岐(かはちさのき)〉と云ふ。
鶏冠木 楊氏漢語抄に鶏冠木〈賀倍天乃岐(かへでのき)、弁色立成に鶏頭樹を加比流提乃岐(かひるでのき)と云ふ。今案ふるに是れ一に木の名なり〉と云ふ。
接骨木 本草に接骨木〈美夜都古岐(みやつこぎ)〉と云ふ。
金漆樹 楊氏漢語抄に金漆樹〈許師阿夫良乃岐(こしあぶらのき)〉と云ふ。
烏草樹 同抄に烏草樹〈佐之夫乃岐(さしぶのき)、弁色立成の説に同じ〉と云ふ。
女貞 拾遺本草に云はく、女貞は一名に冬青〈太豆乃岐(たづのき)、楊氏抄に比女都波岐(ひめつばき)と云ふ〉、冬の月に青く翠なり、故に以て之れを名くといふ。
莽草 山海経注に云はく、莽草〈本草に之岐美(しきみ)と云ふ〉は以て魚の毒にすべき者なりといふ。
黄芩 本草に黄芩〈音は琴、比々良岐(ひひらぎ)〉と云ひ、楊氏漢語抄に杠谷樹〈杠の音は江、和名は上に同じ〉と云ひ、一に巴戟天と云ふ。
石楠草 本草に石楠草〈楠の音は南、止比良乃岐(とびらのき)、俗に佐久奈無佐(さくなむざ)と云ふ〉と云ふ。
木蘭 本草に云はく、木蘭は一名に林蘭といふ。〈毛久良邇(もくらに)〉
蔓荊 蘇敬に曰はく、蔓荊は一名に小荊といふ。〈波万波比(はまはひ)〉
荊 唐韻に云はく、荊〈音は京、漢語抄に奈万衣乃岐(なまえのき)〉は木の名なりといふ。
柃 玉篇に云はく、柃〈音は零、一音に冷、漢語抄に比佐加岐(ひさかき)と云ふ〉は荊に似て染灰を作るべき者なりといふ。
椿 唐韻に云はく、椿〈勅倫反、豆波岐(つばき)〉は木の名なりといふ。楊氏漢語抄に海石榴と云ふ。〈和名は上に同じ、式の文に之れを用ゐる〉
楸 唐韻に云はく、楸〈音は秋、漢語抄に比佐岐(ひさぎ)〉は木の名なりといふ。
蜀漆〈恒山付〉 新抄本草に云はく、蜀漆〈久佐岐(くさぎ)、一に夜末宇豆岐乃禰(やまうつぎのね)と云ふ〉は恒山の苗なりといふ。恒山。〈宇久比須乃伊比禰(うぐいすのいひね)、一に久佐岐乃禰(くさぎのね)と云ふ〉
楝 玉篇に云はく、楝〈音は練、本草に阿不知(あふち)と云ふ〉は其の子、榴の類の如く白くして黏りて以て衣を浣ふべき者なりといふ。
楢 唐韻に云はく、楢〈音は秋、漢語抄に奈良(なら)と云ふ〉は堅き木なりといふ。
桵 爾雅注に云はく、桵〈音は蕤、太良(たら)〉は小さき木の叢り生え、刺有るなりといふ。
溲疏 本草に云はく、溲䟽〈上の音は所流反〉は一名に楊櫨〈宇都岐(うつぎ)〉といふ。
木天蓼 刪繁論に木天蓼〈和太々比(わたたび)〉と云ふ。
檳榔〈子付〉 兼名苑に云はく、檳榔〈賓郎の二音、此の間に音は旻朗〉、葉は樹の端に聚り、十余の房有り、一房に数百の子の者なりといふ。本草に云はく、檳榔子は一名に蒳子〈上の音は納〉といふ。
槲 本草に槲〈音は斛、可之波(かしは)〉と云ふ。唐韻に云はく、柏〈音は帛、和名は上に同じ〉は木の名なりといふ。
楠 唐韻に云はく、楠〈音は南、字は亦、柟に作る。本草に久須乃岐(くすのき)〉は木の名なり、櫲樟〈予章の二音、日本紀に上に同じく読む〉は木の名、生えて七年に始めて知らるといふ。
挙樹 本草に挙樹〈久奴岐(くぬぎ)〉と云ふ。日本紀私記に歴木と云ふ。
枳椇 本草に枳椇〈只矩の二音、加良太知(からたち)〉と云ふ。玉篇に云はく、枳は橘に似て屈り曲る者なりといふ。七巻食経に枸櫞〈枸は即ち椇の字なり、櫞の音は縁、加布知(かぶち)〉と云ふ。
楰 四声字苑に云はく、楰〈音は臾、漢語抄に禰須美毛知乃岐(ねずみもちのき)と云ふ〉は鼠梓の木なりといふ。
寄生 本草に云はく、寄生は一名に寓生〈寓は亦、寄なり、音は遇、夜度利岐(やどりぎ)、一に保夜(ほや)と云ふ〉といふ。
木具百二十八〈草具付出〉
根株 東宮切韻に云はく、根株〈痕誅の二音、訓は上は禰(ね)、下は久比世(くひぜ)〉は草木の本なりといふ。唐韻に云はく、荄〈音は皆〉は草の根なりといふ。
蘖 纂要に云はく、斬りて復(また)生ゆるを蘖〈魚列反、比古波衣(ひこばえ)〉と曰ふといふ。
枝条 玉篇に云はく、枝柯〈支歌の二音、衣太(えだ)〉は木の列なりといふ。纂要に云はく、大枝を幹〈音は翰、加良(から)〉と曰ひ、細枝を条〈音は迢、訓は枝と同じ〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、葼〈音は聡、之毛止(しもと)〉は木の細き枝なりといふ。
茎 玉篇に云はく、茎〈戸耕反、久岐(くき)〉は枝の主なりといふ。
葉 陸詞に曰はく、葉〈与渉反、波(は)、万葉集に黄葉、紅葉は皆、並びに毛美知波(もみちば)と読む〉は草木の茎枝に敷(ひら)く者なりといふ。
樹梢 唐韻に云はく、梢〈所交反、古須恵(こずゑ)〉は枝梢なりといふ。
樾 纂要に云はく、木の枝相交はる下の陰を樾〈音は越、古牟良(こむら)〉と曰ふといふ。
杈椏 方言に云はく、江東に樹の岐を謂ひて杈椏〈砂鵶の二音、末太不利(またふり)〉と曰ふといふ。
樸 玉篇に云はく、樸〈音は璞、字は亦、朴に作る、古波太(こはだ)〉は木の皮なりといふ。
樺 玉篇に云はく、樺〈戸花、胡化の二反、加邇波(かには)、今の桜皮に之れ有り〉は木の皮の名、以て炬(たいまつ)に為べき者なりといふ。
花 爾雅に云はく、木の花は之れを華〈戸花反〉と謂ひ、草の花は之れを栄〈永兵反〉と謂ふ、栄(はな)さきて実らざるは之れを英〈於驚反、訓は阿太波奈(あだばな)〉と謂ふといふ。
葩 東宮切韻に云はく、葩〈音は巴、波奈比良(はなびら)〉は草木の花片なりといふ。
萼 同切韻に云はく、萼〈五各反、波奈布佐(はなぶさ)、一に花房と云ふ〉は花を承くる跗なりといふ。
蕊 同切韻に云はく、蕊〈而髄反、之倍(しべ)〉は花の心なりといふ。
節 四声字苑に云はく、節〈子結反、不之(ふし)、今案ふるに竹に従ふ者は竹節、草に従ふ者は草木節、玉篇に見ゆ〉は草木を擁(だ)き腫るる処なりといふ。
心 周易に云はく、其の木に於けるや堅くして心多しと為すといふ。〈師説に多心を奈加古可知(なかごがち)と読む〉
樹汁 蘇敬本草注に云はく、松𣿉〈音は猪、松乃之流(まつのしる)〉は松の枝を取り、其の上に焼き、汁を承け取る、之の名なりといふ。
脂〈伏苓付〉 玄中記に云はく、松脂滴り地に入り千歳へれば則ち伏苓〈郎丁反、松脂は万豆夜邇(まつやに)、伏苓は末都保度(まつほど)〉と為るといふ。
半天河 本草に半天河〈岐乃宇豆保能美都(きのうつほのみづ)〉と云ふ。陶隠居に曰はく、竹籬の頭の水なりといふ。
和名類聚抄巻第十
〈凡例〉
底本には、巻第一~第二の身体類十七の途中まで真福寺本(馬渕和夫編著『古写本和名類聚抄集成 第二部 十巻本系古写本の影印対照』勉誠出版、2008年)、巻第二の残りは高松宮本(館蔵史料編集会『国立歴史民俗博物館蔵 貴重典籍叢書 文学篇 第二十二巻〈辞書〉』臨川書店、1999年)、巻第三~巻第八は伊勢十巻本(馬渕、前掲書)、巻第九~巻第十は高松宮本の影印本を用い、尾州大須宝生院蔵倭名抄残篇(国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536071)、大須本摸刻零本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00256/index.html)を参照しつつ、他の影印本や京本(国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2605646)、下総本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00399/index.html)と校合し、翻字にあたっては、狩谷棭齋・箋注倭名類聚抄(国会図書館デジタルコレクションhttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1126429)、林忠鵬『類聚抄の文献学的研究』(勉誠出版、平成14年)、国立国語研究所「二十巻本和名類聚抄〈古活字版〉」(日本語史研究用テキストデータ集https://www2.ninjal.ac.jp/textdb_dataset/kwrs/)を参考にしつつ、字体は底本になるべく沿うようにして太字で表し、割注部分は〈 〉に入れた。私訓においては適宜、新字体、通用字体、正字体を用いた。現存主要諸本と複製状況については、山田健三「『和名類聚抄 高山寺本』解題」『新天理図書館善本叢書 第七巻 和名類聚抄 高山寺本』(天理図書館出版部、2017年)を参照されたい。なお、序、目録は省いた。
更新履歴:2022年4月24日訂正公開。2024年3月13日最新訂正。goo blog「古事記・日本書紀・万葉集を読む」に既所載、検索の便宜のためまとめた。(加藤良平)