和名類聚抄卷第一

和名類聚抄巻第一  

天地部第一 人倫部第二

 天地部第一 人倫部第二

天地部第一

天地部第一  

景宿類一 風雨類二 神霊類三〈有天神地神故取於此部〉 水圡類四 山石類五 田野類六

 景宿類一 風雨類二 神霊類三〈天神、地神有り、故、此の部に取る〉 水土類四 山石類五 田野類六

景宿類一〈宿音秀夜宿之𠁅息逐反〉

景宿類一〈宿、音は秀、夜宿の処、息逐反〉

日 造天地經云佛令寶應菩薩造日

日 造天地経に云はく、仏は宝応菩薩をして日を造らしむといふ。

陽烏 歴天記云日中有三足烏赤色〈今案文選謂之陽烏日夲紀謂之頭八咫烏也田氏私記云夜太加良湏〉

陽烏 歴天記に云はく、日の中に三足の烏有りて赤色なりといふ。〈今案ふるに文選に之れを陽烏と謂ひ、日本紀に之れを頭八咫烏なりと謂ひ、田氏私記に夜太加良須(やたがらす)と云ふ〉

月 造天地經云佛令吉祥菩薩造月

月 造天地経に云はく、仏は吉祥菩薩をして月を造らしむといふ。

弦月 劉煕釋名云弦〈此间云由𫟈波理有上弦下弦〉月之半名也言其形一旁曲一旁𥄂若張弓也

弦月 劉煕釈名に云はく、弦〈此の間に由美波理(ゆみはり)と云ふ。上弦、下弦有り〉は月の半の名なり。其の形、一(ある)旁(かたはら)は曲り、一旁は直(ただ)して、弓を張るが若きなるを言へり。

望月 釋名云望〈此间云望月毛知豆歧〉月大十六日小十五日日在東月在西遥相望也

望月 釈名に云はく、望〈此の間に望月は毛知豆岐(もちづき)と云ふ〉は月の大きなるは十六日、小さきなるは十五日、日は東に在りて月は西に在り、遥かに相望(み)つるなりといふ。

暈 郭知玄切韵云暈〈音運此间云日月暈加佐辨色立成云月院〉氣繞日月也

暈 郭知玄切韻に云はく、暈〈音は運、此の間に日月の暈は加佐(かさ)と云ひ、弁色立成に月院と云ふ〉は気の日月を繞れるなりといふ。

蝕 釋名云日月𧇊曰蝕〈音食〉稍小浸𧇊如䖝食草木𦯧故字従虫食也

蝕 釈名に云はく、日月の虧くるを蝕〈音は食〉と曰ひ、稍(やや)小しく浸(こ)み虧くるは虫の草木の葉を食ふが如し、故、字は虫と食とに従ふなりといふ。

星 說文云星〈桒經反保之〉万物精上㪽生也

星 説文に云はく、星〈桑経反、保之(ほし)〉は万物の精、上(あが)りて生(あ)れるなりといふ。

明星 𠔥名菀云歳星一名明星〈此间云一名阿賀保之〉

明星 兼名苑に云はく、歳星は一名(あるな)に明星といふ。〈此の間に一名を阿賀保之(あかぼし)と云ふ〉

長庚 𠔥名菀云大白星一名長庚〈此间云由布都々〉暮見於西方為長庚耳

長庚 兼名苑に云はく、大白星、一名に長庚といふ〈此の間に由布都々(ゆふづゝ)と云ふ〉。暮に西方に見ゆるを長庚と為(す)るのみ。

牽牛 尒雅云牽牛一名阿皷〈和名比古保之一云以奴賀比保之〉

牽牛 爾雅に云はく、牽牛は一名に阿皷といふ。〈和名は比古保之(ひこぼし)、一に以奴賀比保之(いぬかひぼし)と云ふ〉

織女 𠔥名菀注云織女〈和名多奈波太豆女〉牽牛匹也

織女 兼名苑注に云はく、織女〈和名は多奈波太豆女(たなばたつめ)〉は牽牛の匹(つれあひ)なりといふ。

流星 𠔥名菀云流星一名奔星〈和名与波比保之〉

流星 兼名苑注に云はく、流星は一名に奔星といふ。〈和名は与波比保之(よばひぼし)〉

彗星 𠔥名菀云彗星〈彗音遂一音歳和名波々歧保之〉言其形如箒篲也

彗星 兼名苑に彗星〈彗の音は遂、一音に歳、和名は波々岐保之(はゝきぼし)〉と云ふ。其の形、箒篲の如きなるに言へり。

昴星 宿耀經云昴〈音与卯同和名湏波流〉六星火神也

昴星 宿耀経に云はく、昴〈音は卯と同じ、和名は須波流(すばる)〉は六星の火の神なりといふ。

天河 𠔥名菀云天河一名天漢〈今案又一名漢河又一名銀河也和名阿麻乃加波〉

天河 兼名苑に云はく、天河は一名に天漢といふ。〈今案ふるに、又、一名に漢河、又、一名に銀河なり。和名は阿麻乃加波(あまのがは)〉

風雨類二

風雨類二

風 春秋元命苞云隂陽怒而為風

風 春秋元命苞に云はく、陰陽怒(いか)りて風と為るといふ。

飊 文選詩云逥飊卷髙樹〈飊音焱和名豆无之加世〉𠔥名菀注云飊者暴風従下而上也

飈 文選詩に云はく、廻飈、高樹を巻くといふ〈飈の音は炎、和名は豆無之加世(つむじかぜ)〉。兼名苑注に云はく、飈は暴風の下(しも)よりして上(のぼ)るなりといふ。

嵐 孫愐切韻云岚〈盧含反和名阿良之〉山下出风也

嵐 孫愐切韻に云はく、嵐〈盧含反、和名は阿良之(あらし)〉は山の下に出づる風なりといふ。

暴风 史記云暴风雷雨〈漢語抄云暴风波夜知又䏻和歧乃加勢〉

暴風 史記に暴風雷雨と云ふ。〈漢語抄に云はく、暴風は波夜知(はやち)、又、能和岐乃加勢(のわきのかぜ)といふ〉

大风 漢書云大风吹兮雲飛揚〈大风此间云於保賀勢〉

大風 漢書に云はく、大風吹きて雲飛揚すといふ。〈大風は此の間に於保賀勢(おほかぜ)と云ふ〉

微风 崔豹古今注云柳微风大揺〈微风此间云古賀世〉

微風 崔豹古今注に云はく、柳は微風に大きに揺るといふ。〈微風は此の間に古賀世(こかぜ)と云ふ〉

雲 說文云雲〈王分反和名久毛〉山川出氣也

雲 説文に云はく、雲〈王分反、和名は久毛(くも)〉は山川の出づる気なりといふ。

霞 唐韵云霞〈胡加反和名加湏𫟈〉赤氣雲也

霞 唐韻に云はく、霞〈胡加反、和名は加須美(かすみ)〉は赤き気の雲なりといふ。

霧 尒雅云地氣上天曰霧〈亡遇反与務同和名歧利今案又水氣也老子経云在天為霧在地为泉源是也〉𠔥名菀云一名雺〈音蒙〉一名雰〈音分〉水氣着樹木為雰也

霧 爾雅に云はく、地の気、天に上るを霧と曰ふといふ〈亡遇反、務と同じ、和名は岐利(きり)。今案ふるに、又、水の気なり。老子経に、天に在りて霧と為り、地に在りて泉源と為ると云ふは是なり〉。兼名苑に云はく、一名に雺〈音は蒙〉、一名に雰〈音は分〉、水の気の樹木に着くを雰と為るなりといふ。

虹 毛詩注云螮蝀〈帝董二音螮亦作蝃和名迩之〉虹也𠔥名菀云虹一名蜺〈五稽反与鯢同今案雄曰虹雌曰蜺也〉

虹 毛詩注に云はく、螮蝀〈帝董の二音、螮は亦、蝃に作る。和名は邇之(にじ)〉は虹なりといふ。兼名苑に云はく、虹は一名に蜺〈五稽反、鯢と同じ。今案ふるに雄を虹と曰ひ、雌を蜺と曰ふなり〉といふ。

雨 說彣云雨〈音禹阿女〉水従雲中而下也

雨 説文に云はく、雨〈音は禹、阿女(あめ)〉は水の雲の中より下るなりといふ。

霡霂 𠔥名菀云細雨一名霡霂〈小雨也麦木二音〈已上本註〉和名古散女〉

霡霂 兼名苑に云はく、細雨、一名に霡霂といふ。〈小雨なり、麦木の二音〈已上は本註〉。和名は古散女(こさめ)〉

霖 𠔥名菀云霖〈音林和名奈加阿女今案一名連雨一名苦雨〉三日以上雨也尒雅注云霖一名𩆍〈音淫〉久雨也

霖 兼名苑に云はく、霖〈音は林、和名は奈加阿女(ながあめ)。今案ふるに一名に連雨、一名に苦雨〉は、三日以上の雨なりといふ。爾雅注に云はく、霖は一名に𩆍〈音は淫〉、久しき雨なりといふ。

霈 文字集略云霈〈音沛〉大雨也日夲紀私記云大雨〈比佐女〉雨氷〈上同今案俗云比布留〉

霈 文字集略に云はく、霈〈音は沛〉は大雨なりといふ。日本紀私記に云はく、大雨〈比佐女(ひさめ)〉は雨氷〈上に同じ。今案ふるに俗に比布留(ひふる)と云ふ〉といふ。

暴雨 楊氏漢語抄云白雨〈和名无良佐女辨色立成說同〉暴雨一種也

暴雨 楊氏漢語抄に云はく、白雨〈和名は無良佐女(むらさめ)、弁色立成の説に同じ〉は暴雨の一種なりといふ。

霤〈潦䒭附〉 說文云霤〈音与溜同和名阿末之太利〉屋簷前雨水流下也唐韻云潦〈音老和名尒波太豆𫟈〉雨水也淮南子注云沫雨〈和名宇太賀太〉雨潦上沫起若覆盆也

霤〈潦等付〉 説文に云はく、霤〈音は溜と同じ、和名は阿末之太利(あましだり)〉は屋の簷前(のきさき)の雨水、流れ下るなりといふ。唐韻に云はく、潦〈音は老、和名は爾波太豆美(にはたづみ)〉は雨水なりといふ。淮南子注に云はく、沫雨〈和名は宇太賀太(うたかた)〉は潦の上に雨ふり沫起りて盆を覆すが若きなりといふ。

𩅧雨 孫愐曰𩅧雨〈音与終同漢語抄云之久礼〉小雨也

𩅧雨 孫愐に曰はく、𩅧雨〈音は終と同じ。漢語抄に之久礼(しぐれ)と云ふ〉は小雨なりといふ。

霜〈𩅀附〉 陸詞曰霜〈音蒼和名之毛〉凝露也說文云𩅀〈丁念反和名波豆之毛〉早霜也

霜〈𩅀付〉 陸詞に曰はく、霜〈音は蒼、和名は之毛(しも)〉は凝る露なりといふ。説文に云はく、𩅀〈丁念反、和名は波豆之毛(はつしも)〉は早霜なりといふ。

雪 陸詞曰雪〈音切字亦作䨮和名由歧日本紀私記云沫雪也阿和由歧其弱如水沫故謂之〉冬雨也五經通義云陽則散為雨水寒則凝為霜雪皆従地而昇者也

雪 陸詞に曰はく、雪〈音は切、字は亦、䨮に作る、和名は由岐(ゆき)。日本紀私記に沫雪なりと云ふは阿和由岐(あわゆき)、其れ弱く水の沫の如し、故、之れを謂ふ〉は冬の雨なりといふ。五経通義に云はく、陽(あたたか)なるときは則ち散じて雨水と為り、寒きときは則ち凝りて霜雪と為る、皆、地よりして昇る者なりといふ。

雹 陸詞云雹〈蒲角反和名阿良礼〉雨氷也

雹 陸詞に云はく、雹〈蒲角反、和名は阿良礼(あられ)〉は雨氷なりといふ。

霰 尒雅注云霰〈七見反字亦作𩆵和名𫟈曽礼〉氷雪雜下也

霰 爾雅注に云はく、霰〈七見反、字は亦、𩆵に作る。和名は美曽礼(みぞれ)〉は氷雪の雑りて下るなりといふ。

露〈甘露附〉 三礼義宗云白露八月節寒露九月節〈露音路和名豆由〉白𧆞通云甘露𫟈露也降則物无不𫟈盛矣

露〈甘露付〉 三礼義宗に云はく、白露は八月の節、寒露は九月の節といふ〈露の音は路、和名は豆由(つゆ)〉。白虎通に云はく、甘露は美(うるは)しき露なり、降(くだ)らば則ち物として美しき盛りならざること無しといふ。

神霊類三

神霊類三

天神 周易云天神曰神〈食隣反和名賀𫟈日夲紀私記云安末豆夜之路〉

天神 周易に云はく、天神は神〈食隣反、和名は賀美(かみ)。日本紀私記に安末豆夜之路(あまつやしろ)と云ふ〉と曰ふといふ。

地神 周易云地神曰祗〈巨支反日夲紀私記云久迩豆夜之路〉

地神 周易に云はく、地神は祗〈巨支反、日本紀私記に久邇豆夜之路(くにつやしろ)と云ふ〉と曰ふといふ。

人神 周易云人神曰鬼〈居偉反於迩或說云和名於迩者隠竒之訛也鬼物隠而不欲顕形故以稱也〉唐韵云吴人曰鬼越人曰𩴆〈音蟻一音祈〉四聲字菀云鬼人死神魂也

人神 周易に云はく、人神は鬼と曰ふといふ〈居偉反、於邇(おに)。或説に、和名の於邇(おに)は隠奇の訛れるなり、鬼物は隠れて形を顕すことを欲せず、故、以て称するなりと云ふ〉。唐韻に云はく、呉人は鬼と曰ひ、越人は𩴆〈音は蟻、一音に祈〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、鬼は人の死にし神魂なりといふ。

霊 四聲字菀云霊〈郎丁反日夲紀私記云𫟈太万一云𫟈加介又用魂魄二字〉通神也

霊 四声字苑に云はく、霊〈郎丁反、日本紀私記に美太万(みたま)と云ひ、一に美加介(みかげ)と云ふ。又、魂魄の二字を用ゐる〉は神と通ふなりといふ。

天一神 百忌經云天一神〈和名奈賀加𫟈〉天女化身也

天一神 百忌経に云はく、天一神〈和名は奈加々美(なかがみ)〉は天女の化身なりといふ。

太白神 新撰隂陽書云太白神〈和名比度比米久利〉

太白神 新撰陰陽書に太白神〈和名は比度比米久利(ひとひめぐり)〉と云ふ。

雷公〈霹靂電附〉 兼名菀云雷公一名雷師〈雷音力逥反和名奈流加𫟈一云以賀豆知〉釋名云霹靂〈辟歴二音和名賀𫟈度歧〉霹析也靂歴也㪽歴皆破析也玉篇云電〈音甸和名以奈比加利一云以奈豆流比又云以奈豆末〉雷之光也

雷公〈霹靂電付〉 兼名苑に云はく、雷公は一名に雷師といふ〈雷の音は力廻反、和名は奈流加美(なるかみ)。一に以加豆知(いかづち)と云ふ〉。釈名に云はく、霹靂〈辟歴の二音、和名は加美度岐(かみとき)〉は霹析なり、靂は歴なり、歴とする所は皆破り析(さ)くなりといふ。玉篇に云はく、電〈音は甸、和名は以奈比加利(いなびかり)。一に以奈豆流比(いなつるび)と云ひ、又、以奈豆末(いなづま)と云ふ〉は雷の光なりといふ。

山神 内典云山神〈和名山乃賀𫟈〉日夲紀私記云山祇〈師說夜万豆𫟈〉

山神 内典に山神〈和名は山乃賀美(やまのかみ)〉と云ふ。日本紀私記に山祇〈師説に夜万豆美(やまつみ)〉と云ふ。

海神 文選海賦云海童於是宴語〈海童即海神也〉日夲紀私記云海神〈和名和太豆𫟈〉

海神 文選海賦に云はく、海童は是に於て宴語すといふ〈海童は即ち海神なり〉。日本紀私記に海神〈和名は和太豆美(わたつみ)〉と云ふ。

河伯神 兼名菀云河伯一名水伯〈河神也〈已上本注〉和名加波乃賀𫟈〉

河伯神 兼名苑に云はく、河伯は一名に水伯といふ。〈河の神なり〈已上は本注〉、和名は加波乃賀美(かはのかみ)〉

圡公 董仲舒書云圡公春三月在竃夏三月在門秋三月在井冬三月在𨓍

土公 董仲舒書に云はく、土公は春の三月は竈に在り、夏の三月は門に在り、秋の三月は井に在り、冬の三月は庭に在りといふ。

産霊 日夲紀私記云産霊〈无湏比乃加𫟈〉

産霊 日本紀私記に産霊〈無須比乃加美(むすひのかみ)〉云ふ。

道祖 風俗通云共工氏之子好遠遊故其死後祀以為祖神〈漢語抄云道祖佐閇乃賀𫟈〉

道祖 風俗通に云はく、共工氏の子、遠遊を好む。故に其の死後祀りて以て祖神と為といふ。〈漢語抄に道祖は佐閉乃賀美(さへのかみ)と云ふ〉

歧神 日夲紀私記云歧神〈布奈斗乃賀𫟈〉

岐神 日本紀私記に岐神〈布奈斗乃賀美(ふなとのかみ)〉と云ふ。

道神 唐韵云禓〈音楊一音傷漢語抄云多无介乃賀𫟈〉道上祭一曰道神也

道神 唐韻に云はく、禓〈音は楊、一音に傷、漢語抄に多無介乃賀美(たむけのかみ)と云ふ〉は道上の祭といふ。一に道の神なりと曰ふ。

保食神 日夲紀私記云保食神〈宇介毛知乃賀𫟈〉師說保猶保持也宇氣者食之義也言是保持食物之神也

保食神 日本紀私記に云はく、保食神〈宇介毛知乃賀美(うけもちのかみ)〉は、師説に保は猶ほ保持のごときなり、宇気は食の義なりといふ。是れ食物を保持するの神なるを言へり。

稲魂 同私記云稲魂〈宇介乃𫟈太万俗云宇加乃𫟈多麻〉

稲魂 同私記に稲魂〈宇介乃美太万(うけのみたま)、俗に宇加乃美多麻(うかのみたま)と云ふ〉と云ふ。

幸魂 同私記云幸魂〈佐枳𫟈太万俗云佐歧太麻〉

幸魂 同私記に幸魂〈佐枳美太万(さきみたま)、俗に佐岐太万(さきたま)と云ふ〉と云ふ。

現人神 同私記云現人神〈阿良比度加𫟈〉

現人神 同私記に現人神〈阿良比度加美(あらひとがみ)〉と云ふ。

邪鬼 同私記云邪鬼〈阿之歧毛乃〉

邪鬼 同私記に邪鬼〈阿之岐毛乃(あしきもの)〉と云ふ。

窮鬼 遊仙窟云窮鬼〈師說云伊歧湏多麻〉

窮鬼 遊仙窟に窮鬼〈師説に伊岐須多麻(いきすだま)〉と云ふ。

魔鬼 内典云邪魔外道〈魔音磨此间音麻〉

魔鬼 内典に邪魔外道〈魔の音は磨、此の間に音は麻〉と云ふ。

瘧鬼 蔡邕獨断云昔顓頊有三子亡去而為疫鬼其一者居江水是為瘧鬼〈和名衣夜𫟈乃於迩〉

瘧鬼 蔡邕独断に云はく、昔、顓頊に三子有り、亡き去りて疫鬼と為り、其の一(ひとり)は江水に居り、是れを瘧鬼〈和名は衣夜美乃於邇(えやみのおに)〉と為といふ。

樹神 内典云樹神〈和名古太万〉文選蕪城賦云木魅山鬼〈魅見下文今案木魅即樹神也〉

樹神 内典に、樹神〈和名は古太万(こだま)〉と云ふ。文選蕪城賦に云はく、木魅は山鬼といふ。〈魅は下文に見ゆ。今案ふるに木魅は即ち樹神なり〉

水神 㔫傳注云魍魎〈罔兩二音日夲紀私記云水神𫟈豆波〉水神也

水神 左伝注に云はく、魍魎〈罔両の二音。日本紀私記に水神は美豆波(みつは)と云ふ〉は水の神なりといふ。

魑魅 山海經注云魑〈音知和名湏多麻〉鬼類也唐韵云魑魅也玉篇云魅〈音未〉老物精也

魑魅 山海経注に云はく、魑〈音は知、和名は須多麻(すだま)〉は鬼の類なりといふ。唐韻に云はく、魑魅なりといふ。玉篇に云はく、魅〈音は未〉は老物の精なりといふ。

醜女 日夲紀私記云醜女〈志古米〉或説黄泉之鬼也今世人為恐小兒稱〈許々女〉者此語之訛也

醜女 日本紀私記に云はく、醜女〈志古米(しこめ)〉は或説に黄泉の鬼なりといふ。今、世の人、恐(かしこ)みて小児の称(たたへ)〈許々女(こゞめ)〉と為るは此の語の訛れるなり。

天探女 同私記云天探女〈阿万乃佐久米俗云阿末佐久女訛也〉

天探女 同私記に天探女〈阿万乃佐久米(あまのさぐめ)、俗に阿万佐久女(あまさぐめ)と云ふは訛れるなり〉と云ふ。

水圡類四

水土類四

水波 釋名云風吹水波成文曰漣〈音連和名奈𫟈又用波浪濤瀾漪等字〉波體轉相連及也

水波 釈名に云はく、風、水を吹きて波の文を成すを漣〈音は連、和名は奈美(なみ)。又、波、浪、濤、瀾、漪等の字を用ゐる〉と曰ひ、波体は転びて相連なり及(し)くなりといふ。

泊湘 唐韵云泊湘〈白相二音文選師說佐々良奈𫟈〉淺水㒵也

泊湘 唐韻に云はく、泊湘〈白相の二音、文選師説に佐々良奈美(ささらなみ)〉は浅き水の貌(かたち)なりといふ。

氷 四聲字菀云氷〈筆凌反和名比一云古保利〉水寒凍結也凍〈音東又去聲〉寒水結氷也

氷 四声字苑に云はく、氷〈筆凌反、和名は比(ひ)。一に古保利(こほり)と云ふ〉は水寒くして凍り結(むすぼほ)るなり、凍〈音は東、又、去声〉るは寒き水の氷に結るなりといふ。

潮 四聲字菀云潮〈𥄂遥反字亦作淖和名宇之保〉海水朝夕来去波涌也

潮 四声字苑に云はく、潮〈直遥反、字は亦、淖に作る、和名は宇之保(うしほ)〉は海の水、朝夕に来り去りて波の涌くなりといふ。

江 唐韵云江〈古雙反和名衣〉江海也

江 唐韻に云はく、江〈古双反、和名は衣(え)〉は江海なりといふ。

海 四聲字菀云海〈音改和名宇𫟈〉百川㪽歸也日夲紀私記云溟渤〈冥勃二音於保歧宇𫟈〉滄溟〈滄音蒼阿乎宇𫟈波良〉

海 四声字苑に云はく、海〈音は改、和名は宇美(うみ)〉は百川の帰(よ)する所なりといふ。日本紀私記に云はく、溟渤〈冥勃の二音、於保岐宇美(おほきうみ)〉、滄溟〈滄の音は蒼、阿乎宇美波良(あをうみはら)〉といふ。

湖 廣雅云湖〈音胡和名𫟈豆宇𫟈〉大池也

湖 広雅に云はく、湖〈音は胡、和名は美豆宇美(みづうみ)〉は大池なりといふ。

池〈楲附〉 玉篇云池〈𥄂離反和名以介〉蓄水也淮南子云决塘𤼲楲〈音威和名伊比〉許慎曰楲㪽以通陂竇也

池〈楲付〉 玉篇に云はく、池〈直離反、和名は以介(いけ)〉は水を蓄ふるなりといふ。淮南子に云はく、塘(つつみ)を决(さく)りて楲〈音は威、和名は伊比(いひ)〉を発(ひら)くといふ。許慎曰はく、楲は陂の竇(あな)を通す所以なりといふ。

沼 唐韵云沼〈之少反和名奴〉池沼也

沼 唐韻に云はく、沼〈之少反、和名は奴(ぬ)〉は池沼なりといふ。

陂堤 禮記注云蓄水曰陂〈音碑和名豆々𫟈下同〉纂要云築圡遏水曰塘〈音唐〉亦謂之堤〈音低字亦作隄〉

陂堤 礼記注に云はく、水を蓄ふるを陂〈音は碑、和名は豆々美(つつみ)、下(しも)同じ〉と曰ふといふ。纂要に云はく、土を築き水を遏(と)むるを塘〈音は唐〉と曰ひ、亦、之れを堤〈音は低、字は亦、隄に作る〉と謂ふといふ。

堰埭 唐韻云堰〈音偃和名井世歧〉壅水也埭〈徒耐反与代同〉以圡遏水也

堰埭 唐韻に云はく、堰〈音は偃、和名は井世岐(ゐせき)〉は水を壅ぐなり、埭〈徒耐反、代と同じ〉は土を以て水を遏むるなりといふ。

川 尒雅云衆流注海曰川〈昌縁反和名加波又用河字〉

川 爾雅に云はく、衆流の海に注ぐを川〈昌縁反、和名は加波(かは)、又、河の字を用ゐる〉と曰ふといふ。

潭 唐韻云潭〈徒含反和名布知亦用渕字〉深水也

潭 唐韻に云はく、潭〈徒含反、和名は布知(ふち)、亦、渕の字を用ゐる〉は深き水なりといふ。

瀬 唐韻云湍〈他端反一音専和名世〉𢚩瀬也說文云瀬〈音頼〉水流於砂上也

瀬 唐韻に云はく、湍〈他端反、一音に専、和名は世(せ)〉は急瀬なりといふ。説文に云はく、瀬〈音は頼〉は水の砂上に流るるなりといふ。

瀧 唐韻云南人名湍曰瀧〈呂江反和名太歧〉𠔥名菀云飛泉一名飛湍〈曝布也〉遊名山志云城門山兩巖間有水形如曝布

瀧 唐韻に云はく、南人、湍を名けて瀧〈呂江反、和名は太岐(たき)〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、飛泉は一名に飛湍といふ〈曝布なり〉。遊名山志に云はく、城門山は両巌の間に水有り、形は曝布の如しといふ。

温泉〈流黄附〉 冝都山川記云佷山縣有温泉〈一云湯泉和名由〉百疾久疾入此水多愈矣本草䟽云石流黄〈和名由乃阿和俗云由王〉礬石液也又有石流黄盖流黄類也

温泉〈流黄付〉 宜都山川記に云はく、佷山県に温泉〈一に湯泉と云ふ。和名は由(ゆ)〉有り、百疾、久疾、此の水に入らば多く愈ゆといふ。本草疏に云はく、石流黄〈和名は由乃阿和(ゆのあわ)、俗に由王(ゆわう)と云ふ〉は礬石液なりといふ。又、石流黄は蓋し流黄の類なりと有り。

井〈桔槹附〉 四聲字菀云井〈子郢反和名為〉𦦹地而取泉也辨色立成云桔槹〈加奈豆奈為吉高二音〉䥫索井也

井〈桔槹付〉 四声字苑に云はく、井〈子郢反、和名は為(ゐ)〉は地を鑿(ほ)りて泉を取るなりといふ。弁色立成に云はく、桔槹〈加奈豆奈為(かなづなゐ)、吉高の二音〉は鉄索の井なりといふ。

妙𫟈井 日本紀私記云妙𫟈井〈之𫟈豆〉

妙美井 日本紀私記に妙美井〈之美豆(しみづ)〉と云ふ。

溝 釋名云田間之水曰溝〈古候反和名𫟈曽又用渠字〉縦横相交𣕛也

溝 釈名に云はく、田の間の水を溝〈古候反、和名は美曽(みぞ)、又、渠の字を用ゐる〉と曰ひ、縦横に相交(か)ひ構ふるなりといふ。

壍 四聲字菀云壍〈七贍反和名保利歧〉遶城長水坑也

壍 四声字苑に云はく、壍〈七贍反、和名は保利岐(ほりき)〉は城を遶る長き水の坑なりといふ。

谿谷〈澗附〉 尒雅注云水出山入川曰谿〈古奚反字𡖋作溪和名太迩下同〉水与谿相属曰谷〈音穀一音欲見唐韵〉野王案壑〈呼各反〉猶谿谷也釋名云澗〈古晏反〉言在兩山間也

谿谷〈澗付〉 爾雅注に云はく、水、山より出で川に入るを谿〈古奚反、字は亦、溪に作る。和名は太邇(たに)、下に同じ〉と曰ひ、水、谿と相属へるを谷〈音は穀、一音に欲、唐韻に見ゆ〉と曰ふといふ。野王案に、壑〈呼各反〉は猶ほ谿谷のごときなりとす。釈名に云はく、澗〈古晏反〉は両つの山の間に在るを言ふなりといふ。

涯岸 尒雅集注云水𨕙曰涯〈五佳反和名歧之下同〉涯陗而高曰岸

涯岸 爾雅集注に云はく、水辺は涯〈五佳反、和名は岐之(きし)、下も同じ〉と曰ひ、涯の陗(さが)しくて高きを岸と曰ふといふ。

浦 四聲字菀云浦〈傍古反和名宇良〉大川旁曲渚舩隠風𠁅也

浦 四声字苑に云はく、浦〈傍古反、和名は宇良(うら)〉は大川の旁(ほとり)の曲れる渚にして、船の風より隠るる処なりといふ。

渚 韓詩注云一溢一否曰渚〈昌与反和名奈歧散〉

渚 韓詩注に云はく、一たびは溢れ一たびは否(しか)らざるを渚〈昌与反、和名は奈岐散(なぎさ)〉と曰ふといふ。

濵 唐韻云濵〈音賔和名波万〉水際也

浜 唐韻に云はく、浜〈音は賓、和名は波万(はま)〉は水際なりといふ。

洲 尒雅云水中可居者曰洲〈音州和名湏〉李巡云四方皆有水也

洲 爾雅に云はく、水の中に居(を)るべき者を洲〈音は州、和名は須(す)〉と曰ふといふ。李巡に云はく、四方に皆、水有るなりといふ。

汀 唐韵云汀〈他丁反和名𫟈歧八〉水際平沙也

汀 唐韻に云はく、汀〈他丁反、和名は美岐八(みぎは)〉は水際の平らなる沙なりといふ。

潟 文選海賦云海濱廣潟〈思積反与昔同師說加太〉

潟 文選海賦に云はく、海浜は広潟といふ。〈思積反、昔と同じ、師説に加太(かた)〉

湊 說文云湊〈音奏和名𫟈奈度〉水上人㪽會也

湊 説文に云はく、湊〈音は奏、和名は美奈度(みなと)〉は水上の人の会ふ所なりといふ。

圡塊 說文云塊〈音會和名豆知久礼〉圡片也

土塊 説文に云はく、塊〈音は会、和名は豆知久礼(つちくれ)〉は土片なりといふ。

埴 釋名云圡黄而細密曰埴〈常職反和名波𨒛〉

埴 釈名に云はく、土の黄にして細密なるを埴〈常職反、和名は波邇(はに)〉と曰ふといふ。

堊 唐韻云堊〈音悪和名之良豆知〉白圡也

堊 唐韻に云はく、堊〈音は悪、和名は之良豆知(しらつち)〉は白土なりといふ。

壚 釋名云圡色黒曰壚〈音盧和名久路豆知〉

壚 釈名に云はく、土の色の黒きを壚〈音は盧、和名は久路豆知(くろつち)〉と曰ふといふ。

涅 唐韵云涅〈奴結反和名久利〉水中黒圡也

涅 唐韻に云はく、涅〈奴結反、和名は久利(くり)〉は水中の黒土なりといふ。

泥 孫愐云泥〈奴低反和名比知利古一云古比知〉圡和水也

泥 孫愐に云はく、泥〈奴低反、和名は比知利古(ひぢりこ)。一に古比知(こひぢ)と云ふ〉は土の水に和ふるなりといふ。

塵埃 𠔥名菀云塳〓〔土偏に思〕〈逢思二音〉塵埃也孫愐云塵埃〈陳哀二音和名知利〉揚圡也

塵埃 兼名苑に云はく、塳〓〔土偏に思〕〈逢思の二音〉は塵埃なりといふ。孫愐に云はく、塵埃〈陳哀の二音、和名は知利(ちり)〉は土を揚ぐるなりといふ。

糞堆 辨色立成云糞堆〈阿久太布上付問反下都囬反〉

糞堆 弁色立成に糞堆〈阿久太布(あくたふ)、上は付問反、下は都回反〉と云ふ。

山石類五

山石類五

山嶽 蒋魴曰嶽〈五角反字𡖋作岳訓与丘同未詳漢語抄云𫟈多介〉高山名也

山嶽 蒋魴に曰はく、嶽〈五角反、字は亦、岳に作る。訓は丘と同じ、未だ詳(つばひら)かならず。漢語抄に美多介(みたけ)と云ふ〉は高き山の名なりといふ。

丘 周礼注云髙曰丘〈音鳩和名乎加又用𦊆字々正作崗〉

丘 周礼注に云はく、高きを丘〈音は鳩、和名は乎加(をか)、又、岡の字を用ゐる、正しくは崗に作る〉と曰ふといふ。

峯 祝尚丘曰峯〈敷容反和名𫟈祢又用岑嶺二字岑音尋嶺音領〉山尖高𠁅也

峯 祝尚丘に曰はく、峯〈敷容反、和名は美禰(みね)、又、岑嶺の二字を用ゐる。岑の音は尋、嶺の音は領〉は山の尖り高き処なりといふ。

巔 孫愐曰巔〈都年反和名以太々歧〉山頂也

巔 孫愐に曰はく、巔〈都年反、和名は以太々岐(いただき)〉は山の頂なりといふ。

峡 考聲切韵云峡〈咸夹反俗云山乃加比〉山間陕𠁅也

峡 考声切韻に云はく、峡〈咸夾反、俗に山乃加比(やまのかひ)と云ふ〉は山の間の陜(せば)き処なりといふ。

岫 陸詞曰岫〈似祐反和名久歧〉山穴似袖也

岫 陸詞に曰はく、岫〈似祐反、和名は久岐(くき)〉は山の穴の袖に似たるなりといふ。

洞 說文云洞〈徒貢反和名保良〉深𨗉之㒵也

洞 説文に云はく、洞〈徒貢反、和名は保良(ほら)〉は深𨗉の貌なりといふ。

坂嶝 唐韵云坂〈音反和名佐賀〉地險也嶝〈都鄧反〉小坂也

坂嶝 唐韻に云はく、坂〈音は反、和名は佐賀(さか)〉は地の険しきなり、嶝〈都鄧反〉は小さき坂なりといふ。

麓 說文云麓〈音禄和名布毛度〉山足也

麓 説文に云はく、麓〈音は禄、和名は布毛度(ふもと)〉は山の足なりといふ。

嶋嶼 說文云嶋〈都皓反一音鳥和名之万〉海中山可依止也唐韻云嶼〈徐呂反上聲之重与序同上同〉海中洲也

嶋嶼 説文に云はく、嶋〈都皓反、一音に鳥、和名は之万(しま)〉は海中の山の依り止るべきなりといふ。唐韻に云はく、嶼〈徐呂反、上声の重、序と同じ、上に同じ〉は海中の洲なりといふ。

岬 唐韵云岬〈古狎反日夲紀私記云𫟈佐歧〉山側也

岬 唐韻に云はく、岬〈古狎反、日本紀私記に美佐岐(みさき)と云ふ〉は山の側(かたはら)なりといふ。

杣 功程式云甲賀杣田上杣〈杣謂曽万㪽出未詳但功程式者修理笄師山田福吉䒭弘仁十四年撰上也〉

杣 功程式に云はく、甲賀杣、田上杣といふ。〈杣は曽万(そま)と謂ふ、出づる所未だ詳かならず。但し、功程式は修理笄師山田福吉等、弘仁十四年に撰上するなりとす〉

巖 唐韻云巖〈五銜反字𡖋作礹和名伊波保〉峯也險也

巌 唐韻に云はく、巌〈五銜反、字は亦、礹に作る、和名は伊波保(いはほ)〉は峯なり、険なりといふ。

磐 陸詞曰磐〈音盤和名以波〉大石也日夲紀私記云千人㪽引磐石〈知比歧乃以之〉

磐 陸詞に曰はく、磐〈音は盤、和名は以波(いは)〉は大(とほしろ)き石なりといふ。日本紀私記に、千人所引磐石〈知比岐乃以之(ちびきのいし)〉と云ふ。

石〈鍾乳附〉 陸詞曰石〈常尺反和名以之〉凝圡也新抄本草云石鍾乳〈出備中國英賀郡和名以之乃知〉

石〈鍾乳付〉 陸詞に曰はく、石〈常尺反、和名は以之(いし)〉は凝土なりといふ。新抄本草に石鍾乳〈備中国英賀郡に出づ、和名は以之乃知(いしのち)〉と云ふ。

消石〈朴消附〉 丹口决云消石一名芒消藥决云朴消一名消石朴〈今案消石朴消是一物也要方云朴消者芒消之大者也消石者芒消之根盤者練之成芒消是也〉

消石〈朴消付〉 丹口决に云はく、消石は一名に芒消といふ。薬决に云はく、朴消は一名に消石朴といふ。〈今案ふるに消石、朴消は是れ一つの物なり。要方に云はく、朴消は芒消の大きなる者なり、消石は芒消の根の盤(むらが)る者、之れを練りて芒消と成すといふは是れなり〉

礜石 唐韻云礜〈音譽本草云一名澤乳〉礜石藥石名也蝅食之肥鼠食之死〈今案又有特生礜石見吴氏夲草〉

礜石 唐韻に礜〈音は誉、本草に一名は沢乳と云ふ〉と云ふ。礜石は薬石の名なり、蚕を食ふ肥うる鼠は之れを食ひて死ぬ。〈今案ふるに、又、特生礜石有り。呉氏本草に見ゆ〉

礬石 蘓敬曰礬石〈礬音繁此間云悶尺〉有青礬白礬黒礬絳礬黄礬五種矣

礬石 蘇敬に曰はく、礬石〈礬の音は繁、此の間に悶尺(もんじゃく)と云ふ〉は青礬、白礬、黒礬、絳礬、黄礬の五種有りといふ。

滑石 夲草云滑石一名脆石〈蘓敬曰極軟滑故以名之〉

滑石 本草に、滑石は一名に脆石と云ふ。〈蘇敬に曰はく、極めて軟滑なる故に以て之れを名くといふ〉

陽起石 夲草云陽起石一名羊起石

陽起石 本草に、陽起石は一名に羊起石と云ふ。

凝水石 夲草云凝水石一名寒水石此石末置水中夏月能为氷或云縦理为寒水横理为凝水

凝水石 本草に云はく、凝水石は一名に寒水石、此の石の末を水中に置かば、夏月は能く氷を為(つく)るといふ。或に云はく、縦理(たたさまにあやなる)は寒水を為り、横理(よこさまにあやなる)は凝水を為るといふ。

慈石 夲草云慈石吸針〈慈石此間云之虵久慈正従石作礠見唐韵〉

慈石 本草に云はく、慈石は吸針といふ。〈慈石は此の間に之虵久(しじゃく)と云ふ。慈は正しくは石に従ひ礠に作る、唐韻に見ゆ〉

玄石 夲草云玄石一名玄水石〈今案慈石又有玄石之名〉

玄石 本草に云はく、玄石は一名に玄水石といふ。〈今案ふるに慈石に又、玄石の名有り〉

理石 夲草云理石一名立制石〈今案礜石又有立制之名〉

理石 本草に云はく、理石は一名に立制石といふ。〈今案ふるに礜石に又、立制の名有り〉

長石 夲草云長石一名方石

長石 本草に云はく、長石は一名に方石といふ。

桃花石 夲草云桃花石〈此间音道卦尺〉色如桃花故以名之

桃花石 本草に云はく、桃花石〈此の間に音は道卦尺(だうけしゃく)〉は色、桃花の如き故に以て之れを名くといふ。

方解石 夲草云方解石一名黄石

方解石 本草に云はく、方解石は一名に黄石といふ。

浮石 文州記云浮石體虚而輕〈和名加留以之〉

浮石 文州記に云はく、浮石は体、虚ろにして軽しといふ。〈和名は加留以之(かるいし)〉

細石 說文云礫〈音歴和名佐々礼以之〉水中細石也

細石 説文に云はく、礫〈音は歴、和名は佐々礼以之(さざれいし)〉は水中の細かき石なりといふ。

砂〈纎砂附〉 聲類云砂〈㪽加反和名以佐古一云湏奈古〉水中細礫也日夲紀私記云纎砂〈万奈古纎細也〉

砂〈纎砂付〉 声類に云はく、砂〈所加反、和名は以佐古(いさご)、一に須奈古(すなご)と云ふ〉は水中の細かき礫なりといふ。日本紀私記に纎砂〈万奈古(まなご)は纎細なり〉と云ふ。

田野類六

田野類六

田 釋名云圡已耕者为田〈徒年反和名多漢語抄云水田古奈太〉田填也五穀填滿其中也

田 釈名に云はく、土の已に耕す者を田〈徒年反、和名は多(た)、漢語抄に水田は古奈太(こなた)と云ふ〉と為(す)といふ。田は填なり。五穀は其の中に填満(み)つるなり。

佃 唐韻云佃〈音与田同和名豆久利太〉作田也

佃 唐韻に云はく、佃〈音は田と同じ、和名は豆久利太(つくりた)〉は作り田なりといふ。

火田 唐韵云疁〈力求反漢語抄云夜歧波太今案野老傳云横截山作畠謂之截幡其田先焼後耕謂之焼幡旣謂田疇何不耕作漢語抄之說唐韻之義頗为相違耳〉田不耕而火種也

火田 唐韻に云はく、疁〈力求反、漢語抄に夜岐波太(やきはた)と云ふ。今案ふるに、野老伝に云はく、横に山を截り畠を作るは之れを截幡と謂ひ、其の田、先に焼き後に耕すは之れを焼幡と謂ひ、田疇、何ぞ耕さずして作ると既に謂へりといふ。漢語抄の説、唐韻の義、頗る相違ふと為るのみ〉は田を耕さずして火を種(う)うるなりといふ。

畠 續捜神記云江南之畠種豆〈畠一云陸田和名波太介〉

畠 続捜神記に云はく、江南の畠は豆を種うといふ。〈畠は一に陸田と云ふ。和名は波太介(はたけ)〉

粟田 日夲紀私記云粟田〈阿波布〉

粟田 日本紀私記に粟田〈阿波布(あはふ)〉と云ふ。

豆田 同私記云豆田〈末米布〉

豆田 同私記に豆田〈末米布(まめふ)〉と云ふ。

町 蒼頡篇云町〈他丁反和名末知〉田區也

町 蒼頡篇に云はく、町〈他丁反、和名は末知(まち)〉は田区なりといふ。

畔 陸詞曰畔〈音半和名久路一云阿〉田界也唐韻云塍〈食陵反字𡖋作塖和名上同〉稲田畦也畦〈音携〉菜畔也

畔 陸詞に曰はく、畔〈音は半、和名は久路(くろ)、一に阿(あ)と云ふ〉は田の界なりといふ。唐韻に云はく、塍〈食陵反、字は亦、塖に作る。和名は上に同じ〉は稲田の畦なりといふ。畦〈音は携〉は菜の畔なり。

畒 陸詞曰畒〈音牡和名宇祢〉田數也唐令云諸田廣一歩長二百卌歩為畒々百為頃〈去頴反今案頃者今之法六町六段二百四十歩也〉

畝 陸詞に曰はく、畝〈音は牡、和名は宇禰(うね)〉は田の数なりといふ。唐令に云はく、諸田の広さ一歩、長さ二百四十歩を畝と為(し)、畝百を頃〈去頴反、今案ふるに頃は今の法の六町六段二百四十歩なり〉と為(す)といふ。

畷 四聲字菀云畷〈昌雪反漢語抄云奈波天〉田间道也

畷 四声字苑に云はく、畷〈昌雪反、漢語抄に奈波天(なはて)と云ふ〉は田の間の道なりといふ。

培塿 風俗通云培塿〈上音部下力㺃反漢語抄云豆无礼〉田中小髙者也

培塿 風俗通に云はく、培塿〈上の音は部、下は力㺃反、漢語抄に豆無礼(つむれ)と云ふ〉は田中の小高き者なりといふ。

畎 陸詞曰畎〈音犬和名太𫟈曽〉田中渠也

畎 陸詞に曰はく、畎〈音は犬、和名は太美曽(たみぞ)〉は田中の渠なりといふ。

園圃 四聲字菀云園圃〈猨浦二音和名曽乃一云曽乃布〉㪽以種蔬菜也

園圃 四声字苑に云はく、園圃〈猨浦の二音、和名は曽乃(その)、一に曽乃布(そのふ)と云ふ〉は蔬菜を種うる所以なりといふ。

菀囿 周礼注云囿今之菀〈菀囿二音音遠宥囿又音育和名上同名〉㪽以城養禽獸也

苑囿 周礼注に云はく、囿は今の苑〈苑囿の二音、音は遠宥、囿は又、音は育、和名は上に同じ名なり〉、禽獣を城(かきがこ)ひて養ふ所以なりといふ。

野〈曠野附〉 四聲字菀云野〈以者反字亦作墅和名能〉郊牧外地也日夲紀私記云曠野〈阿良能良〉

野〈曠野付〉 四声字苑に云はく、野〈以者反、字は亦、墅に作る。和名は能(の)〉は郊牧の外地なりといふ。日本紀私記に曠野〈阿良能良(あらのら)〉と云ふ。

林 說文云地有藂木曰林〈力尋反和名波夜之〉

林 説文に云はく、地に藂(む)るる木有るを林〈力尋反、和名は波夜之(はやし)〉と曰ふといふ。

藪 呂氏春秋云澤無水曰藪〈蘓后反和名夜布〉

薮 呂氏春秋に云はく、沢の水無きを薮〈蘇后反、和名は夜布(やぶ)〉と曰ふといふ。

澤 風圡記云水草交曰澤〈音宅和名佐波〉

沢 風土記に云はく、水草の交はるを沢〈音は宅、和名は佐波(さは)〉と曰ふといふ。

原 毛詩注云髙平曰原〈音源和名波良〉

原 毛詩注に云はく、高く平らかなるを原〈音は源、和名は波良(はら)〉と曰ふといふ。

塞 野王案塞〈先代反和名曽古〉險要之𠁅㪽以隔内外也

塞 野王案に、塞〈先代反、和名は曽古(そこ)〉は険しき要(ぬみ)の処、内外を隔てる所以なりとす。

牧 尚書云萊夷为牧〈音目和名无万歧〉孔安國云萊夷地名可以放牧

牧 尚書に云はく、莱夷は牧〈音は目、和名は無万岐(むまき)〉に為るといふ。孔安国に云はく、莱夷は地の名にして以て牧を放つべしといふ。

人倫部第二

人倫部第二  

男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 㛰姻類十一 夫妻類十二

 男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 婚姻類十一 夫妻類十二

男女類七

男女類七

人 白𧆞通云人者男女惣名也

人 白虎通に云はく、人は男女の惣名なりといふ。

男子 說文云男〈音南和名乎乃古〉丈夫也白𧆞通云男謂之士〈音四〉孝經注子者男子之通稱也

男子 説文に云はく、男〈音は南、和名は乎乃古(をのこ)〉は丈夫なりといふ。白虎通に云はく、男は之れを士〈音は四〉と謂ふといふ。孝経注に子は男子の通称なりとす。

丈夫 公羊傳注云丈夫〈上𥄂兩反下音扶万𦯧集云末湏良乎日夲紀私記云大人之稱也〉

丈夫 公羊伝注に丈夫〈上は直両反、下の音は扶、万葉集に末須良乎(ますらを)と云ふ。日本紀私記に大人の称なりと云ふ〉と云ふ。

壮士 日夲紀私記云壮士〈太計歧比度〉

壮士 日本紀私記に壮士〈太計岐比度(たけきひと)〉と云ふ。

婦人 同私記云手弱女人〈多乎夜米〉婦人〈上同〉

婦人 同私記に云はく、手弱女人〈多乎夜米(たをやめ)〉は婦人〈上に同じ〉といふ。

娘 說文云娘〈女良反和名无湏女〉少女之稱也

娘 説文に云はく、娘〈女良反、和名は無須女(むすめ)〉は少女の称なりといふ。

少女 日夲紀私記云少女〈乎度米〉童女〈上同〉

少女 日本紀私記に云はく、少女〈乎度米(をとめ)〉は童女〈上に同じ〉といふ。

姫 文字集略云姫〈音基和名比女〉衆妾之稱也

姫 文字集略に云はく、姫〈音は基、和名は比女(ひめ)〉は衆妾の称なりといふ。

半月 内典云五種不男其五曰半月〈俗訛云波𨒛和利或說云一月卅日其十五日为男十五日为女之義也〉

半月 内典に云はく、五種の男ならざる、其の五を半月と曰ふといふ。〈俗に訛りて波邇和利(はにわり)と云ふ。或説に、一月三十日、其の十五日男と為り、十五日、女と為ることの義なりと云ふ〉

嬰兒 唐韵云孩〈戸來反辨色立成云嬰兒𫟈都利古〉始生小兒也顔氏家訓云嬰孩〈師說阿歧度布〉

嬰児 唐韻に云はく、孩〈戸来反、弁色立成に、嬰児は美都利古(みどりこ)と云ふ〉は始生の小児なりといふ。顔氏家訓に嬰孩〈師説に阿岐度布(あぎとふ)〉と云ふ。

童〈侲子附〉 禮記注云童〈徒紅反和名和良波〉未冠之稱也文選東亰賦注云侲子〈侲音之忍反師說和良波閇〉童男童女也

童〈侲子付〉 礼記注に云はく、童〈徒紅反、和名は和良波(わらは)〉は未だ冠せざる称なりといふ。文選東京賦注に云はく、侲子〈侲の音は之忍反、師説に和良波閉(わらはべ)〉は童男、童女なりといふ。

髫髪 後漢書注云髫髪〈上音迢字亦作〓〔髟冠に𠮦〕和名宇奈井俗用𡸁髪二字〉謂童子𡸁髪也

髫髪 後漢書注に云はく、髫髪〈上の音は迢、字は亦、〓〔髟冠に𠮦〕に作る。和名は宇奈井(うなゐ)、俗に垂髪の二字を用ゐる〉は童子の垂髪を謂ふなりといふ。

総角 毛詩注云総角〈辨色立成云阿介万歧〉結髪也

総角 毛詩注に云はく、総角〈弁色立成に阿介万岐(あげまき)と云ふ〉は結髪なりといふ。

鰥夫 釋名云无妻曰鰥〈古頑反和名夜毛乎〉

鱞夫 釈名に云はく、妻無きを鱞〈古頑反、和名は夜毛乎(やもを)〉と曰ふといふ。

寡婦 釋名云无夫曰寡〈寡婦和名夜毛米〉玉篋云寡婦或曰孀妻或曰𡠉婦〈孀音相𡠉音狸〉

寡婦 釈名に云はく、夫無きを寡〈寡婦、和名は夜毛米(やもめ)〉と曰ふといふ。玉篋に云はく、寡婦は或に孀妻と曰ひ、或に𡠉婦と曰ふといふ〈孀の音は相、𡠉の音は狸〉。

孤子 四聲字菀云孤〈古胡反和名𫟈奈之古〉少无父母也

孤子 四声字苑に云はく、孤〈古胡反、和名は美奈之古(みなしご)〉は少(をさな)くして父母無きなりといふ。

叟 唐韵云叟〈蘓后反上声和名於歧奈又用翁字〉老人稱也日夲紀私記云老公〈和名上同〉耆宿〈布流於歧奈〉

叟 唐韻に云はく、叟〈蘓后反、上声、和名は於岐奈(おきな)、又、翁の字を用ゐる〉は老人の称なりといふ。日本紀私記に云はく、老公〈和名は上に同じ〉は耆宿〈布流於岐奈(ふるおきな)〉といふ。

嫗 說文云嫗〈於屢反和名於无奈〉老女稱也

嫗 説文に云はく、嫗〈於屢反、和名は於無奈(おむな)〉は老女の称なりといふ。

𧴥 劉向列女傳云古語謂老母为𧴥〈今案和名度之俗用刀自二字者訛也〉

負 劉向列女伝に云はく、古語に老母を謂ひて負〈今案ふるに和名は度之(とじ)、俗に刀自の二字を用うるは訛れるなり〉と為(す)といふ。

専 日夲紀私記云専領〈多宇米乎佐米今案俗呼老女为専故繼於𧴥耳〉

専 日本紀私記に専領〈多宇米乎佐女(たうめをさめ)、今案ふるに俗に老女を呼びて専と為、故に負に継ぐのみ〉と云ふ。

孕婦 尚書云孕婦〈孕音用和名波良女〉

孕婦 尚書に孕婦〈孕の音は用、和名は波良女(はらめ)〉と云ふ。

産婦 食療經云産婦不可食梨子〈産婦和名宇布女〉

産婦 食療経に云はく、産婦は梨子を食ふべからずといふ。〈産婦の和名は宇布女(うぶめ)〉

乳母 文字集略云嬭〈乃礼反字亦作妳辨色立成云嬭母知於毛〉乳人母也唐式云皇子乳母皇孫乳母〈和名女乃度〉

乳母 文字集略に云はく、嬭〈乃礼反、字は亦、妳に作る。弁色立成に、嬭母は知於毛(ちおも)と云ふ〉は人に乳する母なりといふ。唐式に云はく、皇子乳母、皇孫乳母といふ。〈和名は女乃度(めのと)〉

君 文字集略云君〈音軍和名歧𫟈〉在上之稱也

君 文字集略に云はく、君〈音は軍、和名は岐美(きみ)〉は上に在ることの称なりといふ。

臣僕 文字集略云臣〈音辰日夲紀私記云夜豆加礼〉在下之稱也唐韵云僕〈蒲木反和名上同〉侍従人也

臣僕 文字集略に云はく、臣〈音は辰、日夲紀私記に夜豆加礼(やつかれ)と云ふ〉は下に在ることの称なりといふ。唐韻に云はく、僕〈蒲木反、和名は上に同じ〉は侍従の人なりといふ。

人民 日夲紀私記云人民〈比度久佐或說云於保无太賀良〉

人民 日本紀私記に云はく、人民〈比度久佐(ひとくさ)、或説に於保無太賀良(おほむたから)と云ふ〉といふ。

師 徐廣雜記云人有三尊非父不生非師不学非君不仕故曰三尊也

師 徐広雑記に云はく、人に三尊有り、父非ざれば生れず、師非ざれば学べず、君非ざれば仕へられず、故、三尊と曰ふなりといふ。

弟子 孝經序云門徒三千人又云貫首弟子

弟子 孝経序に門徒は三千人と云ふ。又、貫首の弟子(ていし)と云ふ。

賔客 玉篋云大曰賔小曰客〈濱各二音和名末良比度〉㔫傳注云客一𫝶之㪽尊也野王案羈旅寄他國亦謂之客〈旅客和名太比々度〉

賓客 玉篋に云はく、大に賓と曰ひ、小に客と曰ふといふ〈浜各の二音、和名は末良比度(まらひと)〉。左伝注に云はく、客は一座の尊ぶ所なりといふ。野王案に、羈旅して他国に寄す、亦、之れを客と謂ふとす。〈旅客の和名は太比々度(たびびと)〉

朋犮 論語注云同門曰朋〈歩崩反〉尚書注云同志曰犮〈云久反上聲之重和名度毛太知〉文塲秀句云知音得意〈朋犮篇事對也故附出〉

朋友 論語注に云はく、門を同じくするを朋〈歩崩反〉と曰ふといふ。尚書注に云はく、志を同じくするを友〈云久反、上声の重、和名は度毛太知(ともだち)〉と曰ふといふ。文場秀句に云はく、知音とも得意ともいふ。〈朋友篇に事対(そろ)ふなり、故に付け出す〉

故人 史記云寜逢𢙣賔不逢故人

故人 史記に云はく、寧ぞ悪賓に逢ふも故人に逢はざらんといふ。

毉 說文云毉〈音伊字𡖋作醫和名久湏之〉治病工也

毉 説文に云はく、毉〈音は伊、字は亦、医に作る。和名は久須之(くすし)〉は病を治す工(たくみ)なりといふ。

巫覡〈祝附〉 說文云巫〈音无和名加𫟈奈歧〉祝女也文字集略云覡〈下激反〉男祝也祝〈之育反和名波布利〉祭主讀詞

巫覡〈祝付〉 説文に云はく、巫〈音は無、和名は加美奈岐(かみなき)〉は祝女なりといふ。文字集略に云はく、覡〈下激反〉は男祝なり、祝〈之育反、和名は波布利(はふり)〉は祭主にして詞を読むといふ。

獵師〈列卒附〉 内典云譬如群鹿怖畏獵師〈和名加利比度〉文選云列卒滿山〈列卒讀師說加利古〉

獵師〈列卒付〉 内典に云はく、譬へば群鹿の獵師〈和名は加利比度(かりひと)〉を畏怖するが如しといふ。文選に云はく、列卒のかりこ山に満つといふ〈列卒は師説に加利古(かりこ)と読む〉。

白水郎 日夲紀私記云漁人〈阿末〉辨色立成云白水郎〈和名上同楊氏漢語抄說又同〉万𦯧集云海人

白水郎 日本紀私記に漁人〈阿末(あま)〉と云ふ。弁色立成に白水郎〈和名は上に同じ、楊氏漢語抄の説も又同じ〉と云ふ。万葉集に海人と云ふ。

渡子 日夲紀私記云渡子〈和太利毛利今案俗云和太之毛利〉

渡子 日本紀私記に渡子〈和太利毛利(わたりもり)。今案ふるに俗に和太之毛利(わたしもり)と云ふ〉と云ふ。

水手 同私記云水手〈加古今案加古者鹿子之義見于夲書之注矣〉

水手 同私記に水手〈加古(かこ)。今案ふるに加古は鹿子の義、本書の注に見ゆ〉と云ふ。

挾杪 唐令云挾杪〈和名加知度利〉文選呉都賦云㰏工檝師〈㰏字檝字舟具〉

挟杪 唐令に挟杪〈和名は加知度利(かぢとり)〉と云ふ。文選呉都賦に㰏工のさをたくみ、檝師のかぢこと云ふ〈㰏の字と檝の字は舟具〉。

市人 楊氏漢語抄云市郭兒〈和名伊知比度〉

市人 楊氏漢語抄に市郭児〈和名は伊知比度(いちびと)〉と云ふ。

商賈 文選西亰賦云商賈〈賈音古師說阿歧此度〉裨販百族〈師說裨販比佐歧比度百族毛々夜賀良〉

商賈 文選西京賦に云はく、商賈〈賈の音は古、師説に阿岐此度(あきびと)〉、裨販、百族〈師説に裨販は比佐岐比度(ひさぎびと)、百族は毛々夜賀良(ももやから)〉といふ。

田舎人 楊氏漢語抄云田舎兒〈偉那加比度〉

田舎人 楊氏漢語抄に田舎児〈偉那加比度(いなかびと)〉と云ふ。

𨕙鄙 文選云蚩眩𨕙鄙〈師說𨕙鄙阿豆末豆蚩眩阿佐无歧加々夜賀湏〉世說注云東野之鄙語也〈今案俗用東人二字其義近矣〉

辺鄙 文選に云はく、辺鄙を蚩眩すといふ〈師説に辺鄙は阿豆末豆(あづまつ)、蚩眩は阿佐無岐加々夜賀須(あざむきかがやかす)とす〉。世説注に云はく、東野の鄙語なりといふ。〈今案ふるに俗に東人の二字を用ゐる。其の義近し〉

蕩子 文選詩蕩子行不歸〈漢語抄云蕩子太和礼乎〉

蕩子 文選詩に蕩子行きて帰らずとあり。〈漢語抄に蕩子は太和礼乎(たわれを)と云ふ〉

遊女〈夜𤼲附〉 楊氏漢語抄云遊行女兒〈宇加礼女〈已上夲注〉一云阿曽比今案又有夜𤼲之名俗云也保知夲文未詳但或說白晝遊行謂之遊女待夜而𤼲其淫奔謂之夜𤼲也〉

遊女〈夜発付〉 楊氏漢語抄に遊行女児〈宇加礼女(うかれめ)〈已上は本注〉、一に阿曽比(あそび)、今案ふるに、又、夜発の名有り、俗に也保知(やほち)と云ふ。本文は未だ詳かならず。但し或説に、白昼遊行するは之れを遊女と謂ひ、夜を待ちて其の淫奔を発すは之れを夜発と謂ふなりとす〉と云ふ。

閽人 文字集略云閽〈音昏閽人和名𫟈加度毛利〉守門者也

閽人 文字集略に云はく、閽〈音は昏、閽人の和名は美加度毛利(みかどもり)〉は門を守る者なりといふ。

圉人 文字集略云圉〈音語圉无末加比日夲紀私記云典馬辨色立成云馬子並上同〉養馬者也

圉人 文字集略に云はく、圉〈音は語、圉は無末加比(むまかひ)。日本紀私記に典馬と云ひ、弁色立成に馬子と云ふ。並びに上に同じ〉は馬を養ふ者なりといふ。

龓人 唐韻云龓〈盧紅反楊氏漢語抄云龓馬人久知度利〉乘馬又牽也

龓人 唐韻に云はく、龓〈盧紅反、楊氏漢語抄に龓馬人は久知度利(くちとり)と云ふ〉は馬に乗る、又、牽くなりといふ。

奴 唐韻云奴〈乃都反豆布祢〉人之下也

奴 唐韻に云はく、奴〈乃都反、豆布禰(つぶね)〉は人の下なりといふ。

婢 說文云婢〈便𤰞反上聲之重夜豆古〉女之𤰞稱也

婢 説文に云はく、婢〈便卑反、上声の重、夜豆古(やつこ)〉は女の卑しきものの称なりといふ。

客作兒 楊氏漢語云客作兒〈都久乃比々度〉

客作児 楊氏漢語に客作児〈都久乃比々度(つぐのひびと)〉と云ふ。

屠兒 楊氏漢語抄云屠兒〈屠音徒和名惠度利〉殺生及屠牛馬肉販賣者也

屠児 楊氏漢語抄に云はく、屠児〈屠の音は徒、和名は恵度利(ゑとり)〉は生くるを殺し、及(また)、牛馬の肉を屠り販ぎ売る者なりといふ。

乞兒 列子云齊有貧者常乞於城市乞兒曰天下之辱莫過於乞〈楊氏漢語抄云乞索兒保賀比々度今案乞索兒即乞兒也和名賀多井〉

乞児 列子に云はく、斉に貧者有り、常に城市に乞ふに、乞児曰はく、天下の辱は乞に過ぎたるは莫しといふといふ。〈楊氏漢語抄に乞索児は保賀比々度(ほかひびと)と云ふ。今案ふるに乞索児は即ち乞児なり、和名は賀多井(かたゐ)〉

偸兒 楊氏漢語抄云偸兒〈沼湏比止上他侯反〉辨色立成云不良人

偸児 楊氏漢語抄に偸児〈沼須比止(ぬすびと)、上は他侯反〉と云ふ。弁色立成に良からざる人と云ふ。

群盗 漢書云群盗滿山

群盗 漢書に云はく、群盗、山に満つといふ。

海賊 後漢書云海賊張伯路寇略縁海九郡

海賊 後漢書に云はく、海賊の張伯路、縁海の九郡を寇略すといふ。

囚人 東宮切韻云囚〈似由反和名度良閇比止〉繋禁罪人也又一云人固在獄也

囚人 東宮切韻に云はく、囚〈似由反、和名は度良閉比止(とらへびと)〉は罪人を繋ぎ禁(いまし)むるなりといふ。又、一に云はく、人の獄に固め在るなりといふ。

父母類八

父母類八

高祖父 尒雅云曽祖父之考为高祖父〈日夲紀私記云上祖止保豆於夜〉文字集略云五世祖也

高祖父 爾雅に云はく、曽祖父の考(かぞ)を高祖父と為(す)といふ〈日本紀私記に上祖は止保豆於夜(とほつおや)と云ふ〉。文字集略に五世の祖なりと云ふ。

高祖母 尒雅云曽祖父之妣为高祖母

高祖母 爾雅に云はく、曽祖父の妣を高祖母と為といふ。

高祖姑 尒雅云高祖父之姉妹為高祖姑

高祖姑 爾雅に云はく、高祖父の姉妹を高祖姑と為といふ。

曽祖父 尒雅云祖父之父为曽祖父〈和名於保於保知〉文字集略云曽重也四世祖也

曽祖父 爾雅に云はく、祖父の父を曽祖父〈和名は於保於保知(おほおほぢ)〉と為といふ。文字集略に云はく、曽は重ぬなり、四世の祖なりといふ。

曽祖母 尒雅云祖父之母為曽祖母〈和名於保於波〉

曽祖母 爾雅に云はく、祖父の母を曽祖母〈和名は於保於波(おほおば)〉と為といふ。

曽祖姑 尒雅云曽祖父之姉妹为曽祖姑

曽祖姑 爾雅に云はく、曽祖父の姉妹を曽祖姑と為といふ。

族父 尒雅云父之従祖昆弟为族父〈和名於保於保知乎遅〉

族父 爾雅に云はく、父の従祖昆弟を族父〈和名は於保於保知乎遅(おほおほぢをぢ)〉と為といふ。

族昆弟 尒雅云族父之子相謂族昆弟

族昆弟 爾雅に云はく、族父の子を相謂ひて族昆弟といふといふ。

祖父 尒雅云父之考為王父〈九族圖云祖父和名於保知〉

祖父 爾雅に云はく、父の考を王父と為といふ。〈九族図に祖父の和名は於保知(おほぢ)と云ふ〉

祖母 尒雅云父之妣为王母〈九族圖云祖母和名於波〉孫炎曰人尊祖若天王故曰王父王母也

祖母 爾雅に云はく、父の妣を王母と為といふ〈九族図に祖母の和名は於波(おば)と云ふ〉。孫炎に曰はく、人の尊祖は天王の若しといふ。故、王父、王母と曰ふなり。

祖姑 尒雅云王父之姉妹為王姑〈九族圖云祖姑和名於保乎波〉

祖姑 爾雅に云はく、王父の姉妹を王姑と為といふ。〈九族図に祖姑の和名は於保乎波(おほをば)と云ふ〉

従祖父 尒雅云父之世父𫝣父为従祖父〈和名於保知乎遅〉

従祖父 爾雅に云はく、父の世父の叔父を従祖父〈和名は於保知乎遅(おほちをぢ)〉と為といふ。

従祖母 尒雅云父之世母𫝣母为従祖母〈和名於保乎波〉

従祖母 爾雅に云はく、父の世母の叔母を従祖母〈和名は於保乎波(おほをば)〉と為といふ。

伯父 釋名云父之兄曰世父又曰伯父〈辨色立成云阿伯者父之兄也睿乎遅〉

伯父 釈名に云はく、父の兄を世父と曰ひ、又、伯父と曰ふといふ。〈弁色立成に云はく、阿伯は父の兄なり、睿乎遅(えをぢ)といふ〉

仲父 釋名云父之弟曰仲父〈漢語抄云奈賀豆乎遅〉

仲父 釈名に云はく、父の弟を仲父〈漢語抄に奈賀豆乎遅(なかつをぢ)と云ふ〉と曰ふといふ。

𫝣父 釋名云仲父之弟曰𫝣父𫝣父之弟曰季父〈辨色立成云阿𫝣者父之弟也於度乎遅〉

叔父 釈名に云はく、仲父の弟を叔父と曰ひ、叔父の弟を季父と曰ふといふ。〈弁色立成に云はく、阿叔は父の弟なり、於度乎遅(おとをぢ)といふ〉

伯母 九族圖云伯母〈和名乎波今案父之姉也〉

伯母 九族図に伯母と云ふ。〈和名は乎波(をば)。今案ふるに父の姉なり〉

𫝣母 九族圖云𫝣母〈和名与伯母同今案父之妹也〉尒雅云父之姉妹为姑〈辨色立成云阿𫝣上同今案伯𫝣母之惣名也〉

叔母 九族図に叔母と云ふ〈和名は伯母と同じ。今案ふるに父の妹なり〉。爾雅に云はく、父の姉妹を姑と為といふ。〈弁色立成に云はく、阿叔母は上に同じといふ。今案ふるに伯叔母の惣名なり〉

父 尒雅云父为考〈和名日夲紀私記云加曽〉楊氏漢語抄云阿耶〈和名上同〉

父 爾雅に云はく、父を考〈和名は日本紀私記に加曽(かそ)と云ふ〉と為といふ。楊氏漢語抄に阿耶〈和名は上に同じ〉と云ふ。

母 尒雅云母为妣〈𤰞履反又去聲和名波々日夲紀私記云母以路波〉舎人曰生稱父母死稱考妣郭璞曰公羊傳恵公者隠公之考也仲子者桓公之母也明非死生之異稱矣楊氏漢語抄云阿嬢〈嬢音如羊反上同〉

母 爾雅に云はく、母を妣〈卑履反、又、去声、和名は波々(はは)。日本紀私記に母は以路波(いろは)と云ふ〉と為といふ。舎人曰はく、生けるを父母と称ひ、死するを考妣と称ふといふ。郭璞に曰はく、公羊伝の恵公は隠公の考なり、仲子は桓公の母なりといふ。死生の異称に非ざること明らけし。楊氏漢語抄に阿嬢〈嬢の音は如羊反、上に同じ〉と云ふ。

外祖父 尒雅云母之父为外王父〈和名毋方乃於保知〉九族圖云外祖父

外祖父 爾雅に云はく、母の父を外王父〈和名は毋方乃於保知(ははかたのおほぢ)〉と為といふ。九族図に外祖父と云ふ。

外祖母 尒雅云母之妣为外王母〈和名母方乃於波〉九族圖云外祖母

外祖母 爾雅に云はく、母の妣を外王母〈和名は母方乃於波(ははかたのおば)〉と為といふ。九族図に外祖母と云ふ。

舅 尒雅云母之昆弟为舅〈刄九反上聲之重和名母方乃乎知〉楊氏漢語抄云大舅〈母之兄也〉少舅〈母之弟也〉

舅 爾雅に云はく、母の昆弟を舅〈刄九反、上声の重、和名は母方乃乎知(ははかたのをぢ)〉と為といふ。楊氏漢語抄に云はく、大舅〈母の兄なり〉、少舅〈母の弟なり〉といふ。

従母 尒雅云母之姉妹曰従母〈和名母方乃乎波〉

従母 爾雅に云はく、母の姉妹を従母〈和名は母方乃乎波(ははかたのをば)〉と曰ふといふ。

従舅 尒雅云母之従父昆弟为従舅〈和名母方乃於保乎遅〉

従舅 爾雅に云はく、母の従父の昆弟を従舅〈和名は母方乃於保乎遅(ははかたのおほをぢ)〉と為といふ。

兄弟類九

兄弟類九

兄 尒雅云男子先生为兄〈許榮反一云昆和名古能加𫟈日夲紀私記云以呂祢〉

兄 爾雅に云はく、男子の先に生れしを兄〈許栄反、一に昆と云ふ。和名は古能加美(このかみ)。日本紀私記に以呂祢(いろね)と云ふ〉と為といふ。

弟 尒雅云男子後生为弟〈特計反和名於止宇度〉

弟 爾雅に云はく、男子の後に生れしを弟〈特計反、和名は於止宇度(おとうと)〉と為といふ。

姉 尒雅云女子先生为姉〈音止一云女兄和名阿祢日夲紀讀与兄同〉

姉 爾雅に云はく、女子の先に生れしを姉〈音は止、一に女兄と云ふ。和名は阿禰(あね)。日本紀に兄と同じに読む〉と為といふ。

妹 尒雅云女子後生为妹〈音昧和名伊毛宇止日夲紀私記云以呂止〉

妹 爾雅に云はく、女子の後に生れしを妹〈音は昧、和名は伊毛宇止(いもうと)。日本紀私記に以呂止(いろど)と云ふ〉と為といふ。

母兄 文選注云母兄同母兄也

母兄 文選注に云はく、母兄は同母兄なりといふ。

母弟 尚書注云母弟同母弟也

母弟 尚書注に云はく、母弟は同母弟なりといふ。

甥 尒雅云兄弟之子为甥〈音生乎比今案又用姪字尒雅㪽謂昆弟之子为姪是〉

甥 爾雅に云はく、兄弟の子を甥〈音は生、乎比(をひ)、今案ふるに、又、姪の字を用ゐる。爾雅に所謂昆弟の子を姪とするは是〉と為といふ。

姪 釋名云兄弟之女为姪〈徒結反和名米飛〉

姪 釈名に云はく、兄弟の女を姪〈徒結反、和名は米飛(めひ)〉と為といふ。

外姪 釋名云姉妹之子为出〈楊氏漢語抄云外姪〉出嫁於異姓而㪽生也

外姪 釈名に云はく、姉妹の子を出〈楊氏漢語抄に外姪と云ふ〉と為といふ。出でて異姓に嫁ぎて生まるる所なり。

従父兄弟 尒雅云兄之子弟之子相謂従父昆弟姉妹〈和名以止古但兄之子男为従父兄女为従父姉弟之子男为従父弟女为従父妹也〉

従父兄弟 爾雅に云はく、兄の子、弟の子、相謂ひて従父昆弟姉妹〈和名は以止古(いとこ)。但し兄の子の男を従父兄と為(し)、女を従父姉と為、弟の子の男を従父弟と為、女を従父妹と為るなり〉といふといふ。

再従兄弟 九族圖云再従兄弟〈和名以夜以止古〉

再従兄弟 九族図に再従兄弟〈和名は以夜以止古(いやいとこ)〉と云ふ。

三従兄弟 同圖云三従兄弟〈和名万太以度古〉

三従兄弟 同図に三従兄弟〈和名は万太以度古(またいとこ)〉と云ふ。

従母兄弟 尒雅云従母之男子为従母昆弟女子为従母姉妹〈和名与内戚同〉

従母兄弟 爾雅に云はく、従母の男子を従母昆弟と為、女子を従母姉妹と為といふ。〈和名は内戚と同じ〉

子孫類十

子孫類十

子 孫愐云子〈即里反〉息也高祖本紀云呂公曰臣有息女願為箕箒妾

子 孫愐に云はく、子〈即里反〉は息なりといふ。高祖本紀に云はく、呂公曰はく、臣に息ふく女(むすめ)有り、願はくは箕箒の妾と為さめといふといふ。

孫 尒雅云子之子为孫〈音尊和名无麻古〉

孫 爾雅に云はく、子の子を孫〈音は尊、和名は無麻古(むまご)〉と為といふ。

曽孫 尒雅云孫之子为曽孫〈曽踈也和名比々古〉

曽孫 爾雅に云はく、孫の子を曽孫〈曽は疎なり、和名は比々古(ひひこ)〉と為といふ。

玄孫 尒雅云曽孫之子为玄孫〈玄遠也言益踈遠也和名夜之波古〉

玄孫 爾雅に云はく、曽孫の子を玄孫〈玄は遠なり、益(ますます)疎遠なるを言ふ。和名は夜之波古(やしはご)〉と為といふ。

來孫 尒雅云玄孫之子为來孫〈言只有往來之親耳今案五代孫也〉

来孫 爾雅に云はく、玄孫の子を来孫〈只だ往来の親有るのみを言ふ。今案ふるに五代の孫なり〉と為といふ。

昆孫 尒雅云來孫之子为昆孫〈昆後也今案六代孫也〉

昆孫 爾雅に云はく、来孫の子を昆孫〈昆は後なり、今案ふるに六代の孫なりとす〉と為といふ。

仍孫 尒雅云昆孫之子为仍孫〈仍重也今案七代孫也〉漢書注云耳孫仍耳聲相近盖一号也

仍孫 爾雅に云はく、昆孫の子を仍孫〈仍は重なり、今案ふるに七代の孫なり〉と為といふ。漢書注に耳孫と云ふ。仍と耳の声、相近し、蓋し一号なり。

雲孫 尒雅云仍孫之子为雲孫〈言輕遠如浮雲也今案八代孫也〉

雲孫 爾雅に云はく、仍孫の子を雲孫〈軽遠にして浮雲の如きなるを言ふ。今案ふるに八代の孫なり〉と為といふ。

外孫 尒雅云女子之子为外孫

外孫 爾雅に云はく、女子の子を外孫と為といふ。

離孫 釋名云出之子为離孫〈和名男云无末古乎比女云无末古米比〉言離已遠也

離孫 釈名に云はく、出の子を離孫〈和名は男を無末古乎比(むまごをひ)と云ひ、女を無末古米比(むまごめひ)と云ふ〉と為といふ。離れて已に遠きなるを言ふ。

𨺔孫 釋名云姪之子为𨺔孫〈和名与離孫同〉婦人謂嫁為𨺔姪子列故其㪽生曰𨺔也

帰孫 釈名に云はく、姪の子を帰孫〈和名は離孫と同じ〉と為といふ。婦人は嫁を謂ひて帰と為。姪の子の列は故に其の生まるる所を帰と曰ふなり。

㛰姻類十一

婚姻類十一

㛰姻 尒雅云聟之父为姻〈音因〉婦之父为㛰〈音昏〉婦之父母聟之父母相謂為㛰姻

婚姻 爾雅に云はく、聟の父を姻〈音は因〉と為、婦の父を婚〈音は昏〉と為、婦の父母、聟の父母、相謂ひて婚姻と為といふ。

㛰兄弟 尒雅云婦之黨为㛰兄弟

婚兄弟 爾雅に云はく、婦の党を婚兄弟と為といふ。

姻兄弟 尒雅云聟之黨為姻兄弟

姻兄弟 爾雅に云はく、聟の党を姻兄弟と為といふ。

婿 尒雅云子之夫為婿〈音細字亦作聟和名无古〉

婿 爾雅に云はく、子の夫を婿〈音は細、字は亦、聟に作る。和名は無古(むこ)〉と為といふ。

婭 釋名云兩聟相謂婭〈音亞和名阿比无古〉言一人取姉一人取妹相亞次也又曰犮聟言相親犮也

婭 釈名に云はく、両聟は相謂ひて婭〈音は亞、和名は阿比無古(あひむこ)〉といふ。一人は姉を取り、一人は妹を取り、相亜(つ)ぎ次くなるを言ふ。又曰はく、友聟は相親しみ友とするを言ふなりといふ。

𥝠 尒雅云女子謂姉妹之夫为𥝠〈今案公𥝠之𥝠字也和名与聟同〉孫炎曰謂无正親也

私 爾雅に云はく、女子は姉妹の夫を謂ひて私と為といふ〈今案ふるに公私の私の字なり。和名は聟と同じ〉。孫炎曰はく、正親無きを謂ふなりといふ。

婦 尒雅云子之妻为婦〈和名与女又夫之婦也〉

婦 爾雅に云はく、子の妻を婦〈和名は与女(よめ)、又、夫の婦なり〉と為といふ。

娣婦 尒雅云長婦謂幼婦为娣婦〈娣音弟和名於止与米〉

娣婦 爾雅に云はく、長婦は幼婦を謂ひて娣婦と為といふ。〈娣の音は弟、和名は於止与米(おとよめ)〉

姒婦 尒雅云稚婦謂長婦为姒婦〈姒音似和名於保与女〉

姒婦 爾雅に云はく、稚婦は長婦を謂ひて姒婦と為といふ。〈姒の音は似、和名は於保与女(おほよめ)〉

嫂婦 尒雅云女子謂兄之妻为嫂〈音早字亦作㛐〉謂弟之妻为婦〈和名並与女父母之呼子妻同〉

嫂婦 爾雅に云はく、女子は兄の妻を謂ひて嫂〈音は早、字は亦、㛐に作る〉と為、弟の妻を謂ひて婦〈和名は並びに与女(よめ)、父母の子の妻を呼ぶに同じ〉と為といふ。

妯娌 尒雅注云関西兄弟之妻相呼为妯娌〈逐理二音和名阿比与女〉

妯娌 爾雅注に云はく、関西に兄弟の妻を相呼びて妯娌〈逐理の二音、和名は阿比与女(あひよめ)〉と為といふ。

夫妻類十二

夫妻類十二

夫 白𧆞通云夫猶扶也以道扶接也

夫 白虎通に云はく、夫は猶ほ扶のごときなり、道を以て扶け接(まじ)はるなりといふ。

舅 尒雅云夫之父曰舅〈辨色立成云阿翁之宇止〉在則曰君舅𣳚則曰先舅

舅 爾雅に云はく、夫の父を舅〈弁色立成に阿翁は之宇止(しうと)と云ふ〉と曰ひ、在りては則ち君舅と曰ひ、没(し)にては則ち先舅と曰ふといふ。

姑 尒雅云夫之母曰姑〈和名之宇止女〉在則曰君姑𣳚則曰先姑

姑 爾雅に云はく、夫の母を姑〈和名は之宇止女(しうとめ)〉と曰ひ、在りては則ち君姑と曰ひ、没にては則ち先姑と曰ふといふ。

兄公 尒雅云夫之兄曰兄公〈和名古之宇止〉

兄公 爾雅に云はく、夫の兄を兄公〈和名は古之宇止(こじうと)〉と曰ふといふ。

叔 尒雅云夫之弟曰叔〈和名与兄公同〉

叔 爾雅に云はく、夫の弟を叔〈和名は兄公と同じ〉と曰ふといふ。

女公 尒雅云夫之姉曰女公〈和名古之宇止女〉

女公 爾雅に云はく、夫の姉を女公〈和名は古之宇止女(こじうとめ)〉と曰ふといふ。

女妹 尒雅云夫之女弟曰女妹〈和名与女公同又姉妹之女見上文〉

女妹 爾雅に云はく、夫の女弟を女妹〈和名は女公と同じ。又、姉妹の女、上文に見ゆ〉と曰ふといふ。

妻 白𧆞通云妻齊也与夫齊躰也

妻 白虎通に云はく、妻は斉なり、夫と体を斉(ひと)しくすればなりといふ。

妾 文字集略云妾〈音接和名乎無奈米今案又有枉嫡之名夲文未詳但或說言非正嫡故以枉为稱也小妻也〉

妾 文字集略に妾〈音は接、和名は乎無奈米(をむなめ)。今案ふるに、又、枉嫡の名有り。本文は未だ詳かならず。但し或説に言はく、正嫡に非ざる故に枉を以て称と為なり、小妻なりといふ〉と云ふ。

前後妻 顔氏家訓云後妻多𢙣前妻之子〈和名前妻古奈𫟈後妻宇波奈利前妻之子後妻㪽稱前夫之子後夫㪽稱並麻々古世稱後子夲文未詳〉

前後妻 顔氏家訓に云はく、後妻は多く前妻の子を悪むといふ。〈和名は前妻を古奈美(こなみ)、後妻を宇波奈利(うはなり)、前妻の子を後妻の称ふ所、前夫の子を後夫の称ふ所、並びに麻々古(ままこ)、世に後子と称ふ。本文は未だ詳かならず〉

外舅 尒雅云妻之父曰外舅〈辨色立成云婦翁〉

外舅 爾雅に云はく、妻の父を外舅と曰ふといふ。〈弁色立成に婦翁と云ふ〉

外姑 尒雅云妻之母曰外姑〈辨色立成云婦母今俗人㪽稱外舅姑与舅姑同〉孫炎曰夫之敬妻之父母如妻之尊敬舅姑故同其名加外字也

外姑 爾雅に云はく、妻の母を外姑〈弁色立成に婦母と云ふ。今、俗人の称へる外舅姑は舅姑と同じ〉と曰ふといふ。孫炎に曰はく、夫の敬ふ妻の父母は妻の尊び敬ふ舅姑の如し、故、其の名を同じくし、外の字を加ふるなりといふ。

婦兄弟 辨色立成云婦兄〈婦之兄〉婦弟〈婦之弟也並与兄公同〉

婦兄弟 弁色立成に婦兄〈婦の兄〉、婦弟〈婦の弟なり、並びに兄公と同じ〉と云ふ。

姨 尒雅云妻之姉妹曰姨〈音夷与女公同一云以毛之宇止女〉

姨 尒雅に云はく、妻の姉妹を姨〈音は夷、女公と同じ。一に以毛之宇止女(いもしうとめ)と云ふ〉と曰ふといふ。

甥 尒雅云妻之昆弟曰甥〈音生和名古之宇斗〉

甥 爾雅に云はく、妻の昆弟を甥〈音は生、和名は古之宇斗(こじうと)〉と曰ふといふ。

和名類聚抄巻第一

和名類聚抄巻第一

和名類聚抄巻第二

和名類聚抄巻第二  

形體部第三 疾病部第四 術藝部第五

 形体部第三 疾病部第四 術芸部第五

形躰部第三

形躰部第三  

頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髮類十六 身體類十七 蔵府類十八 手足類十九 莖𡸁類二十

 頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髪類十六 身体類十七 蔵府類十八 手足類十九 茎垂類二十

頭面類十三

頭面類十三

首頭 釋名曰首〈賀宇倍〉始也頭〈度侯反訓上同一云賀之良〉獨也言𠁅體而獨貴也

首頭 釈名に曰く、首〈賀宇倍(かうべ)〉は始(はじめ)なり、頭〈度侯反、訓は上に同じ、一に賀之良(かしら)と云ふ〉は独なりといふ。体にある処にして独り貴(たか)きなるを言ふ。

顱〈髑髏附〉 文字集略云顱〈落胡反字亦作髗加之良乃加波良〉𦛁葢也玉篇云髑髏〈獨娄二音俗云比度加之良〉頭骨也

顱〈髑髏付〉 文字集略に云はく、顱〈落胡反、字は亦、髗に作る、加之良乃加波良(かしらのかはら)〉は脳の蓋なりといふ。玉篇に云はく、髑髏〈独婁の二音、俗に比度加之良(ひとがしら)と云ふ〉は頭骨なりといふ。

𦛁 說文云𦛁〈奴道反字亦作𦠊和名奈都歧〉頭中髓也

脳 説文に云はく、脳〈奴道反、字は亦、𦠊に作る、和名は奈都岐(なづき)〉は頭中の髄なりといふ。

顖會 針灸經云顖會一名天窓〈顖音信字亦作囱和名阿太万〉楊氏漢語抄云䫜〈訓上同音於交反〉

顖会 針灸経に云はく、顖会は一名に天窓といふ〈顖の音は信、字は亦、囱に作る。和名は阿太万(あたま)〉。楊氏漢語抄に䫜〈訓は上に同じ、音は於交反〉と云ふ。

頂𩕳 陸詞曰㒹〈音天訓以太々歧〉頂也頂𩕳〈丁寜之上聲〉頭上也

頂𩕳 陸詞に曰く、顚〈音は天、訓は以太々岐(いただき)〉は頂なり、頂𩕳〈丁寧の上声〉は頭の上(かみ)なりといふ。

䫦 文字集略云䫦〈古盍反加波知〉䫦車也

䫦 文字集略に云はく、䫦〈古盍反、加波知(かばち)〉は䫦車なりといふ。

蟀谷〈髮際附〉 鍼灸經云耳以上入髮際一寸半有二穴應嚼而動謂之蟀谷〈和名古米加𫟈髮際加𫟈歧波〉

蟀谷〈髪際付〉 針灸経に云はく、耳以上の髪際に入ること一寸半に二穴有り、嚼むに応へて動くは之れを蟀谷〈和名は古米加美(こめかみ)、髪際は加美岐波(かみぎは)〉と謂ふといふ。

雲脂 墨子五行記云頭垢謂之雲脂〈和名頭乃阿加一云以路古〉

雲脂 墨子五行記に云はく、頭垢は之れを雲脂〈和名は頭乃阿加(かしらのあか)、一に以路古(いろこ)と云ふ〉と謂ふといふ。

顔面 四聲字菀云顔〈五姦反訓与面同〉眉目間也遊仙窟云面子〈師說加保波世一云保々豆歧〉

顔面 四声字苑に云はく、顔〈五姦反、訓は面と同じ〉は眉目の間なりといふ。遊仙窟に面子〈師説に加保波世(かほばせ)、一に保々豆岐(ほほづき)と云ふ〉と云ふ。

額 楊雄方言云額〈五陌反比太非〉東齊謂之䫙〈蘓朗反〉幽州謂之顎〈五各反〉

額 楊雄方言に云はく、額〈五陌反、比太非(ひたひ)〉は東斉に之れを顙〈蘇朗反〉と謂ひ、幽州に之れを顎〈五各反〉と謂ふといふ。

頰〈頰骨附〉 野王案云頬〈音狭豆良一云保々〉面旁目下也師古漢書注云頬骨曰胲〈音改〉玉篇云顴〈音權今案字或通用豆良保祢〉頬骨也或曰輔車

頬〈頬骨付〉 野王案に云はく、頬〈音は狭、豆良(つら)、一に保々(ほほ)と云ふ〉は面の旁(かたはら)、目の下なりといふ。師古漢書注に云はく、頬骨を胲〈音は改〉と曰ふといふ。玉篇に云はく、顴〈音は権、今案ふるに字は或に通ひ用ゐる。豆良保禰(つらぼね)〉は頬骨なりといふ。或に輔車と曰ふ。

靨 淮南子注云靨〈音𦯧恵久保〉面小下也

靨 淮南子注に云はく、靨〈音は葉、恵久保(ゑくぼ)〉は面の小し下(ひく)きところなりといふ。

頷〈頷骨附〉 方言云頥〈音怡〉謂之頷〈胡感反上聲之重字亦作顄於度加比〉野王案顄車〈歧保祢〉頷骨也

頷〈頷骨付〉 方言に云はく、頥〈音は怡〉は之れを頷〈胡感反、上声の重、字は亦、顄に作る。於度加比(おとがひ)〉と謂ふといふ。野王案に顄車〈岐保禰(きぼね)〉は頷骨なりとす。

頸 陸詞切韻云領〈音冷〉頸也頸〈居井反久比〉頭莖也

頸 陸詞切韻に云はく、領〈音は冷〉は頸なり、頸〈居井反、久比(くび)〉は頭の茎なりといふ。

胡 釋名云咽下𡸁曰胡〈之太久比〉

胡 釈名に云はく、咽の下に垂るるを胡〈之太久比(したくび)〉と曰ふといふ。

項 陸詞切韻云項〈胡講反上聲之重宇奈之〉頸後也公羊傳注云齊人項謂之脰〈田侯反〉

項 陸詞切韻に云はく、項〈胡講反、上声の重、宇奈之(うなじ)〉は頸の後なりといふ。公羊伝注に云はく、斉人、項は之れを脰〈田侯反〉と謂ふといふ。

耳目類十四

耳目類十四

耳 孫愐切韻云耳〈𫟈々〉聼聲者也

耳 孫愐切韻に云はく、耳〈美々(みみ)〉は声を聴く者なりといふ。

耳埵 辨色立成云耳埵〈𫟈々太比下丁果反〉

耳埵 弁色立成に耳埵〈美々太比(みみたび)、下は丁果反〉と云ふ。

完骨 針灸經云完骨〈𫟈々世々乃保祢〉耳後大骨也

完骨 針灸経に云はく、完骨〈美々世々乃保禰(みみせせのほね)〉は耳の後の大きな骨なりといふ。

目 釋名云目黙而内識

目 釈名に云はく、目は黙して内に識(しろしめ)すといふ。

眼〈眼皮附〉 廣雅云眼〈吾簡反万奈古〉目子也唐韵云瞳〈音童訓上同〉目也遊仙窟云眼皮〈師說万比歧又末奈古井〉

眼〈眼皮付〉 広雅に云はく、眼〈吾簡反、万奈古(まなこ)〉は目の子なりといふ。唐韻に云はく、瞳〈音は童、訓は上に同じ〉は目なりといふ。遊仙窟に眼皮〈師説に万比岐(まびき)、又、末奈古井(まなこゐ)〉と云ふ。

矊 文字集略云矊〈音綿久路万奈古〉瞳子黒也

矊 文字集略に云はく、矊〈音は綿、久路万奈古(くろまなこ)〉は瞳子の黒きなりといふ。

眸 廣雅云眸〈莫侯反比度𫟈一訓与眼同〉目珠子也

眸 広雅に云はく、眸〈莫侯反、比度美(ひとみ)、一に訓は眼と同じ〉は目の珠子なりといふ。

瞼 唐韵云瞼〈巨險反居儼反末奈布太〉目瞼也

瞼 唐韻に云はく、瞼〈巨険反、居儼反、末奈布太(まなぶた)〉は目の瞼なりといふ。

眶 唐韵云眶〈音匡万奈賀不良〉目眶也

眶 唐韻に云はく、眶〈音は匡、万奈賀不良(まなかぶら)〉は目の眶なりといふ。

眦 廣雅云眦〈在詣反又才賜反末奈之利〉目裂也遊仙窟云眼尾〈師說訓同上〉

眦 広雅に云はく、眦〈在詣反、又、才賜反、末奈之利(まなじり)〉は目の裂なりといふ。遊仙窟に眼尾〈師説に訓は上に同じ〉と云ふ。

眵 唐韵云眵〈音支米久曽〉目汁凝也

眵 唐韻に云はく、眵〈音は支、米久曽(めくそ)〉は目の汁の凝るなりといふ。

涕淚〈𣴎泣附〉 說文云涕淚〈體類二音奈𫟈太〉目汁也黄帝内經云目下謂之𣴎泣〈音急奈𫟈多々利〉

涕涙〈承泣付〉 説文に云はく、涕涙〈体類の二音、奈美太(なみだ)〉は目の汁なりといふ。黄帝内経に云はく、目の下、之れを承泣〈音は急、奈美多々利(なみだたり)〉と謂ふといふ。

鼻口類十五

鼻口類十五

鼻〈嚏附〉 陸詞切韵云鼻〈音必波奈〉面中岳也漢書注云髙祖為人隆凖〈音准〉應劭曰隆髙也李斐曰凖鼻也玉篇云嚏〈丁計反波奈比流〉

鼻〈嚏付〉 陸詞切韻に云はく、鼻〈音は必、波奈(はな)〉は面中の岳なりといふ。漢書注に云はく、高祖は為人(ひととなり)隆凖〈音は准〉なりとは、応劭は隆は高なりと曰ひ、李斐は凖は鼻なりと曰ふといふ。玉篇に嚏〈丁計反、波奈比流(はなひる)〉と云ふ。

齃 說文云齃〈烏曷反字亦作頞波奈久歧〉鼻莖也

齃 説文に云はく、齃〈烏曷反、字は亦、頞に作る。波奈久岐(はなぐき)〉は鼻の茎なりといふ。

鼻柱 黄帝内經云水溝在鼻柱下〈鼻柱波奈波之良〉

鼻柱 黄帝内経に云はく、水溝は鼻柱の下に在りといふ。〈鼻柱は波奈波之良(はなばしら)〉

𩈄 說文云𩈄〈女菊反波𥘾知〉鼻出血也

衄 説文に云はく、衄〈女菊反、波奈知(はなぢ)〉は鼻より出づる血なりといふ。

洟〈挮字附〉 字書云洟〈音夷湏々波奈〉鼻液也文字集略云挮〈他礼反又他細反俗云波奈加无〉以手去鼻洟也

洟〈挮字付〉 字書に云はく、洟〈音は夷、須々波奈(すすはな)〉は鼻の液なりといふ。文字集略に云はく、挮〈他礼反、又、他細反、俗に波奈加无(はなかむ)と云ふ〉は手を以て鼻の洟(しる)を去るなりといふ。

口 野王案口〈苦后反〉㪽以言食也

口 野王案に口〈苦后反〉は言ひ食ふ所以なりとす。

舌 四声字苑云舌〈音切之多〉

舌 四声字苑に云はく、舌〈音は切、之多(した)〉といふ。

人中 黄帝内經云水溝即人中也

人中 黄帝内経に云はく、水溝は即ち人中なりといふ。

脣吻 說文云脣吻〈上音旬久知比留下音粉久知佐歧良〉

脣吻 説文に脣吻〈上の音は旬、久知比留(くちびる)、下の音は粉、久知佐岐良(くちさきら)〉と云ふ。

縦理 史記云縦理〈如字入縦理口餓死之相也〉

縦理 史記に縦理〈字の如し、縦理の入る口は餓死の相なり〉と云ふ。

齒〈齔字附〉 說文云齒〈音始波〉口中㹞骨者也齔〈初覲反去聲訓波賀久〉毀齒也

歯〈齔字付〉 説文に云はく、歯〈音は始、波(は)〉は口の中の骨を齗(かみあ)はす者なり、齔〈初覲反、去声、訓は波賀久(はかく)〉は歯を毀(そこな)ふなりといふ。

板齒 辨色立成云板齒〈奴可波楊氏說同〉

板歯 弁色立成に板歯〈奴可波(ぬかば)、楊氏の説に同じ〉と云ふ。

牙 廣雅云機謂之牙〈𩵋加反歧波〉野王案牙在齒後最近輔車者也

牙 広雅に云はく、機は之れを牙〈魚加反、岐波(きば)〉と謂ふといふ。野王案に、牙は歯の後に在り最も輔車に近き者なりとす。

齨 說文云齨〈音舅上聲之重宇湏波〉老人齒如臼也

齨 説文に云はく、齨〈音は舅、上声の重、宇須波(うすば)〉は老人の歯の臼の如きなりといふ。

齗 玉篇云齗〈音銀波之々〉齒之肉也

齗 玉篇に云はく、齗〈音は銀、波之々(はじし)〉は歯の肉なりといふ。

腭 唐韵云腭〈音萼字亦作咢阿歧〉口中上腭也

腭 唐韻に云はく、腭〈音は萼、字は亦、咢に作る、阿岐(あぎ)〉は口の中の上腭なりといふ。

咽喉 說文云咽〈於前反哽之䖏音悦〉謂之嗌〈音益〉尒雅注云喉〈音侯〉謂之嚨〈音籠乃无止〉

咽喉 説文に云はく、咽〈於前反、哽みし処、音は悦〉は之れを嗌〈音は益〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、喉〈音は侯〉は之れを嚨〈音は籠、乃无止(のむど)〉と謂ふといふ。

吭 史記云絶亢而死〈亢音胡郎反又去聲唐韵従口作吭訓上同俗云能无度布江〉

吭 史記に云はく、亢を絶ちて死ぬといふ。〈亢の音は胡郎反、又、去声。唐韻に口に従ひ吭に作る、訓は上に同じ。俗に能无度布江(のむどぶえ)と云ふ〉

唾 考聲切韵云唾〈湯卧反豆波歧〉口中津也

唾 考声切韻に云はく、唾〈湯臥反、豆波岐(つばき)〉は口の中の津なりといふ。

毛髮類十六

毛髪類十六

毫毛 陸詞曰毛〈音旄〉膚毫也毫〈胡髙反〉長毛也

毫毛 陸詞に曰く、毛〈音は旄〉は膚の毫(け)なり、毫〈胡高反〉は長き毛なりといふ。

鬢髮〈髮根附〉 說文云鬢〈卑𠫤反〉頬髮也野王案髮〈音𤼲加𫟈〉首上長毛也蘓敬夲草注云髲〈仁諝音義云音被楊玄操作採髣〈走孔反又私国反〉和名加𫟈乃祢今案楊說是也髲者頭髲見容飾具〉髮根也

鬢髪〈髪根付〉 説文に云はく、鬢〈卑吝反〉は頬の髪なりといふ。野王案に髪〈音は発、加美(かみ)〉は首の上の長き毛なりとす。蘇敬本草注に云はく、髲〈仁諝音義に音は被と云ひ、楊玄操は採髣〈走孔反、又、私国反〉に作る。和名は加美乃禰(かみのね)。今案ふるに楊説は是きなり。髲は頭髲なり、容飾具に見ゆ〉は髪の根なりといふ。

䭮 唐韻云䭮〈音柫沼加々𫟈〉額前髮也

䭮 唐韻に云はく、䭮〈音は柫、沼加々美(ぬかがみ)〉は額の前の髪なりといふ。

髻〈鬟附〉 唐韻云髻〈音計毛度々理〉鬟也四聲字菀云鬟〈音還和名𫟈豆良一訓上同〉屈髮也

髻〈鬟付〉 唐韻に云はく、髻〈音は計、毛度々理(もとどり)〉は鬟なりといふ。四声字苑に云はく、鬟〈音は還、和名は美豆良(みづら)、一に訓は上に同じ〉は屈(まが)れる髪なりといふ。

鬌 文字集略云鬌〈丁果反湏々之路〉小兒剪髮㪽餘也

鬌 文字集略に云はく、鬌〈丁果反、須々之路(すずしろ)〉は小児の髪の剪り余る所なりといふ。

髭鬚 說文云髭〈子移反賀𫟈豆比介〉口上鬚也鬚髯〈上音湏下如廉反之毛豆比介〉頥下毛也

髭鬚 説文に云はく、髭〈子移反、賀美豆比介(かみつひげ)〉は口の上の鬚なり、鬚髯〈上の音は須、下は如廉反、之毛豆比介(しもつひげ)〉は頤(おとがひ)の下の毛なりといふ。

眉 說文云眉〈音麋万由〉目上毛也

眉 説文に云はく、眉〈音は麋、万由(まゆ)〉は目の上の毛なりといふ。

睫 四聲字菀云睫〈音接字亦作𥅴麻都介〉目瞼毛也

睫 四声字苑に云はく、睫〈音は接、字は亦、䀹に作る、麻都介(まつげ)〉は目の瞼の毛なりといふ。

䀹 玉篇云䀹〈子𦯧反目旁也〉

䀹 玉篇に云はく、䀹〈子葉反、目の旁なり〉といふ。

身躰類十七

身体類十七

身 唐韵云身〈式神反〉躬〈音弓又作躳軀音區訓与身同〉

身 唐韻に云はく、身〈式神反〉、躬〈音は弓、又、躳に作る。躯の音は区、訓は身と同じ〉といふ。

肢躰 野王案肢〈章移反字亦作𨈛衣太〉四躰也體〈他礼反字亦作躰〉猶形也有形之揔稱也

肢躰 野王案に肢〈章移反、字は亦、𨈛に作る、衣太(えだ)〉は四躰なり、體〈他礼反、字は亦、躰に作る〉は猶ほ形のごときなり、有形の惣称なりとす。

𩩲𩨗 廣雅云𩩲𩨗〈二音曷亐針灸經云缺盆骨肩骨也加太乃保祢〉

𩩲𩨗 広雅に𩩲𩨗〈二音で曷亐。針灸経に欠盆骨は肩骨なりと云ふ。加太乃保禰(かたのほね)〉と云ふ。

𢩌 陸詞曰𢩌〈音堅加太〉髆也髆〈音愽字亦作膊〉𢩌也

肩 陸詞に曰く、肩〈音は堅、加太(かた)〉は髆なり、髆〈音は博、字は亦、膊に作る〉は肩なりといふ。

胛 四聲字菀云胛〈音鴨賀以加祢〉𢩌之下也

胛 四声字苑に云はく、胛〈音は鴨、賀以加禰(かいがね)〉は肩の下なりといふ。

腋 唐韻云腋〈音液和歧〉肘腋也四聲字菀云脇〈虚業反字或作胠又与脅同〉腋下也

腋 唐韻に云はく、腋〈音は液、和岐(わき)〉は肘の腋なりといふ。四声字苑に云はく、脇〈虚業反、字は或に胠に作る、又、脅と同じ〉は腋の下なりといふ。

背 玉篇云脊〈音跡世奈賀〉背也

背 玉篇に云はく、脊〈音は跡、世奈賀(せなか)〉は背なりといふ。

胷臆 唐韻云胷〈許容反〉膺〈於陵反〉臆〈於力反无祢〉也

胸臆 唐韻に胸〈許容反〉、膺〈於陵反〉、臆〈於力反、無祢(むね)〉なりと云ふ。

乳 考聲切韻云乳〈而主反上聲之重智〉母㪽以飲子之汁也

乳 考声切韻に云はく、乳〈而主反、上声の重、智(ち)〉は母の子に飲ましむる所以の汁なりといふ。

腹 野王案腹〈音複波良〉㪽以容褁五蔵者也

腹 野王案に腹〈音は複、波良(はら)〉は五臓を容れ裹む所以の者なりとす。

膍臍 四聲字菀云膍臍〈鼙齊二音保曽俗云倍曽〉腹孔也

膍𦜝 四声字苑に云はく、膍𦜝〈鼙斉の二音、保曽(ほぞ)、俗に倍曽(へそ)と云ふ〉は腹の孔なりといふ。

水腹 釋名云自臍以下謂之水腹或曰小腹〈古䏻加𫟈〉

水腹 釈名に云はく、臍より以下は之れを水腹と謂ひ、或に小腹〈古能加美(このかみ)〉と曰ふといふ。

脅肋 四聲字菀云脅〈虚業反加太波良保祢〉身傍脅肋间也文字集略云肋〈音勒太湏介乃保祢〉幹骨也

脅肋 四声字苑に云はく、脅〈虚業反、加太波良保禰(かたはらほね)〉は身の傍の脅肋の間なりといふ。文字集略に云はく、肋〈音は勒、太須介乃保祢(たすけのほね)〉は幹骨なりといふ。

𦝫〈支附〉 說文云𦝫〈於𫕟反字或作腰古之〉身中也遊仙窟云細々腰支〈師說古之波𫝑〉

𦝫〈支付〉 説文に云はく、𦝫〈於𫕟反、字は或に腰に作る、古之(こし)〉は身の中なりといふ。遊仙窟に細々(たをやか)なる腰支〈師説に古之波勢(こしばせ)〉と云ふ。

膁 唐韵云膁〈苦簟反上声扵比之波利〉腰㔫右虚肉処也

膁 唐韻に云はく、膁〈苦簟反、上声、於比之波利(おびしばり)〉は腰の左右の虚しき肉の処なりといふ。

胯 唐韵云胯〈音袴万太〉兩股间也

胯 唐韻に云はく、胯〈音は袴、万太(また)〉は両股の間なりといふ。

腿 宿耀經云㔫右腿股〈腿音退宇知阿波㔟〉

腿 宿耀経に左右の腿股と云ふ。〈腿の音は退、宇知阿波勢(うちあはせ)〉

臋〈𡰪片附〉 唐韵云尻〈苦刀反之利〉臋也〈音屯俗云井佐良比〉坐処也𡱰〈音竺字亦作𡰪弁色立成云𡰪片之利太无良今案鳥獣之尻也〉尾下孔也

臋〈𡰪片付〉 唐韻に云はく、尻〈苦刀反、之利(しり)〉は臋なり〈音は屯、俗に井佐良比(ゐざらひ)と云ふ〉、坐る処なり、𡱰〈音は竺、字は亦、𡰪に作る。弁色立成に𡰪片は之利太無良(しりたむら)と云ふ。今案ふるに鳥獣の尻なり〉は尾の下の孔なりといふ。

骨 野王案骨〈音忽保祢〉肉之核也針灸經注云缺盆骨肩骨也鳩尾骨臆前骨也

骨 野王案に、骨〈音は忽、保祢(ほね)〉は肉の核(さね)なりとす。針灸経注に云はく、欠盆骨は肩の骨なり、鳩尾骨は臆(むね)の前の骨なりといふ。

髓 野王案髓〈先累反湏祢〉骨中脂也

髄 野王案に髄〈先累反、須禰(すね)〉は骨の中の脂なりとす。

筋力 陸詞曰筋〈音斤湏知〉骨筋字従𥭊力也周礼注云力〈呂軄反〉筋骸之強者也

筋力 陸詞に曰く、筋〈音は斤、須知(すぢ)〉は骨の筋、字は𥭊力に従ふなりといふ。周礼注に云はく、力〈呂職反〉は筋骸の強き者なりといふ。

肉〈腠理附〉 玉篇云肉〈如六反字亦作宍之々〉肌膚之肉也淮南子云解肉必中腠〈音蒼奏反之々和歧〉

肉〈腠理付〉 玉篇に云はく、肉〈如六反、字は亦、宍に作る、之々(しし)〉は肌膚の肉なりといふ。淮南子に云はく、肉を解(わ)けば必ず腠〈音は蒼奏反、之々和岐(ししわき)〉に中(あた)るといふ。

脂膏 唐韵云膏〈音髙〉肪〈音方〉脂〈之夷反阿布良〉

脂膏 唐韻に膏〈音は高〉、肪〈音は方〉、脂〈之夷反、阿布良(あぶら)〉と云ふ。

血脉 野王案血〈音决知〉肉中赤汁也脉〈音麦知乃𫟈知〉肉中血理也

血脈 野王案に血〈音は決、知(ち)〉は肉の中の赤汁なり、脈〈音は麦、知乃美知(ちのみち)〉は肉の中の血理なりとす。

孔竅 唐韵云竅〈苦吊反去声孔竅並阿奈〉穴也

孔竅 唐韻に云はく、竅〈苦吊反、去声、孔、竅は並びに阿奈(あな)〉は穴なりといふ。

皮〈皴附〉 釋名云皮〈音疲加波〉被躰也唐韵云皴〈音夋之和〉皮之細起也

皮〈皴付〉 釈名に云はく、皮〈音は疲、加波(かは)〉は体を被ふなりといふ。唐韻に云はく、皴〈音は夋、之和(しわ)〉は皮の細く起るなりといふ。

肌膚 陸詞切韵云膚〈音府隅反字亦作肤波太倍〉體肌也肌〈居夷反賀波倍〉膚肉也

肌膚 陸詞切韻に云はく、膚〈音は府隅反、字は亦、肤に作る、波太倍(はだへ)〉は体の肌なり、肌〈居夷反、賀波倍(かはへ)〉は膚の肉なりといふ。

汗 蔣魴切韵云汗〈音翰阿㔟〉人身上𤍽汁也

汗 蒋魴切韻に云はく、汗〈音は翰、阿勢(あせ)〉は人身の上の熱汁なりといふ。

蔵府類十八

蔵府類十八

五蔵 中黄子云五蔵〈去声〉肝心𦜉肺腎也

五蔵 中黄子に云はく、五蔵〈去声〉は肝、心、脾、肺、腎なりといふ。

肝 白虎通云肝〈音干歧毛〉木之精也色青

肝 白虎通に云はく、肝〈音は干、岐毛(きも)〉は木の精なり、色は青といふ。

心 白虎通云心〈息林反〉火之精也色赤

心 白虎通に云はく、心〈息林反〉は火の精なり、色は赤といふ。

𦜉 白虎通云𦜉〈𠈷移反与古之〉圡之精也色黄

脾 白虎通に云はく、脾〈俾移反、与古之(よこし)〉は土の精なり、色は黄といふ。

肺 白虎通云肺〈音廢布久布久之〉金之精也色白

肺 白虎通に云はく、肺〈音は廃、布久布久之(ふくぶくし)〉は金の精なり、色は白といふ。

腎 白虎通云腎〈時忍反上声之重无良度〉水之精也色黒

腎 白虎通に云はく、腎〈時忍反、上声の重、無良度(むらと)〉は水の精なり、色は黒といふ。

六府 中黄子云六府大腸小腸膽胃三膲膀胱也

六府 中黄子に云はく、六府は大腸、小腸、胆、胃、三膲、膀胱なりといふ。

大腸 中黄子云大腸〈音𥄂良反波良和太〉為傳送之府

大腸 中黄子に云はく、大腸〈音は直良反、波良和太(はらわた))〉は伝送の府為(た)りといふ。

小腸 中黄子云小腸〈楊氏漢語抄云保曽和太〉為受盛之府

小腸 中黄子に云はく、小腸〈楊氏漢語抄に保曽和太(ほそわた)と云ふ〉は受盛の府為りといふ。

膽 中黄子云膽〈都敢反以〉為中精之府

胆 中黄子に云はく、胆〈都敢反、以(い)〉は中精の府為りといふ。

胃 中黄子云胃〈音渭久曽布久路〉為五穀之府

胃 中黄子に云はく、胃〈音は渭、久曽布久呂(くそぶくろ)〉は五穀の府為りといふ。

三膲 中黄子云三膲〈膲音焦楊氏漢語抄云𫟈能和太〉孤立為中瀆之府野王案上中下謂之三膲也

三膲 中黄子に云はく、三膲〈膲の音は焦、楊氏漢語抄に美能和太(みのわた)と云ふ〉は孤立して中涜の府為りといふ。野王案に、上中下、之れを三膲と謂ふなりとす。

膀胱 廣雅云膀胱〈膀音旁胱音光楊氏漢語抄云由波利布久路〉脬也唐韵云脬〈音胞〉腹中水府也

膀胱 広雅に云はく、膀胱〈膀の音は旁、胱の音は光、楊氏漢語抄に由波利布久路(ゆばりぶくろ)と云ふ〉は脬なりといふ。唐韻に云はく、脬〈音は胞〉は腹の中の水府なりといふ。

魂神 淮南子云天氣為魂〈多末之比〉許愼曰魄隂神也魂陽神也

魂神 淮南子に云はく、天の気は魂〈多末之比(たましひ)〉と為るといふ。許愼曰く、魄は陰神なり、魂は陽神なりといふ。

手足類十九

手足類十九

手子 遊仙窟云手子〈師說太奈湏惠〉

手子 遊仙窟に手子〈師説に太奈須恵(たなすゑ)〉と云ふ。

掌 四声字苑云掌〈音賞和名太那古々路日本紀私記云手掌太奈曽古〉手心也

掌 四声字苑に云はく、掌〈音は賞、和名は太那古々路(たなごころ)。日本紀私記に手掌は太奈曽古(たなぞこ)と云ふ〉は手の心なりといふ。

拳 唐韵云拳〈渠貟反古布之〉屈手也

拳 唐韻に云はく、拳〈渠員反、古布之(こぶし)〉は屈手なりといふ。

指 唐韵云指〈諸視反由比俗云扵与比〉手指也指扐〈音勒和名扵与比乃万太〉指間也

指 唐韻に云はく、指〈諸視反、由比(ゆび)。俗に於与比(および)と云ふ〉は手の指なり、指扐〈音は勒、於与比乃万太(およびのまた)〉は指の間なりといふ。

腡 四声字苑云腡〈落戈反和名天乃阿夜〉手指文也

腡 四声字苑に云はく、腡〈落戈反、和名は天乃阿夜(てのあや)〉は手の指の文なりといふ。

拇 國語注云拇〈音母扵保扵与比〉大指也

拇 国語注に云はく、拇〈音は母、於保於与比(おほおよび)〉は大指なりといふ。

食指 㔫傳云食指〈楊氏漢語抄云頭指比斗佐之乃扵与比〉野王案第二指也

食指 左伝に食指〈楊氏漢語抄に頭指を比斗佐之乃於与比(ひとさしのおよび)と云ふ〉と云ふ。野王案に第二の指なりとす。

中指 儀礼云中指〈奈賀乃扵与比〉野王案第三指也

中指 儀礼に中指〈奈賀乃於与比(なかのおよび)〉と云ふ。野王案に第三の指なりとす。

無名指 孟子云無名指〈奈々之乃扵与比〉野王案第四指也

無名指 孟子に無名指〈奈々之乃於与比(ななしのおよび)〉と云ふ。野王案に第四の指なりとす。

季指 儀礼云季指〈古扵与比〉野王案小指第五指也

季指 儀礼に季指〈古於与比(こおよび)〉と云ふ。野王案に小指は第五の指なりとす。

腕 陸詞切韵云腕〈烏叚反太々无歧俗云宇天〉手腕也

腕 陸詞切韻に云はく、腕〈烏段反、太々無岐(ただむき)、俗に宇天(うで)と云ふ〉は手の腕なりといふ。

臂 廣雅云臂〈音秘〉謂之肱〈古弘反〉四声字苑云肘〈陟柳反或作䏔比知〉臂節也

臂 広雅に云はく、臂〈音は秘〉は之れを肱〈古弘反〉と謂ふといふ。四声字苑に云はく、肘〈陟柳反、或に䏔に作る、比知(ひぢ)〉は臂の節なりといふ。

股 唐韵云髀〈傍礼反上声之重与䯗同弁色立成云圍髀毛々〉股也𦙶〈公戸反上声〉古文股字也

股 唐韻に云はく、髀〈傍礼反、上声の重、䯗と同じ。弁色立成に囲髀は毛々(もも)と云ふ〉は股なり、𦙶〈公戸反、上声〉は古文に股の字なりといふ。

𦡀 野王案𦡀〈音悉比佐〉脛頭也

膝 野王案に、膝〈音は悉、比佐(ひざ)〉は脛の頭なりとす。

膝䯊 宿曜經云膝珂〈師說比佐乃加波良今案珂冝作䯊音苦何反見唐韵〉野王案𩪯〈蒲忍反上声之重字亦作臏阿波太古俗云阿波太今案𩪯与𦡀珂名異實同〉𦡀骨也

膝䯊 宿曜経に云はく、膝珂〈師説に比佐乃加波良(ひざのかはら)。今案ふるに珂は宜しく䯊に作るべし。音は苦何反。唐韻に見ゆ〉といふ。野王案に、髕〈蒲忍反、上声の重、字は亦、臏に作る。阿波太古(あはたこ)、俗に阿波太(あはた)、今案ふるに𩪯は膝珂と名を異にし実は同じ〉は膝の骨なりとす。

膕 太素經注云膕〈戈麥反与保路〉曲脚中也

膕 太素経注に云はく、膕〈戈麦反、与保路(よほろ)〉は曲る脚の中なりといふ。

腓 陸詞云腓〈音肥古无良見周易〉脚腓也

腓 陸詞に云はく、腓〈音は肥、古無良(こむら)。周易に見ゆ〉は脚腓なりといふ。

胻 說文云胻〈胡良反波歧〉脛也釋名云脛〈胡定反〉莖也似物莖也

胻 説文に云はく、胻〈胡良反、波岐(はぎ)〉は脛なりといふ。釈名に云はく、脛〈胡定反〉は茎なり、物の茎に似るなりといふ。

脚足 釋名云脚〈居灼反〉言坐時却在後也足〈即玉反〉言踵續也趾〈音止訓並阿之〉言行一進一止也

脚足 釈名に云はく、脚〈居灼反〉は坐る時、却りて後(しりへ)に在るを言ふなり、足〈即玉反〉は踵に続くを言ふなり、趾〈音は止、訓は並びに阿之(あし)〉は行くこと一進一止するを言ふなりといふ。

踝 唐韵云踝〈𦛋瓦反上声之重豆不奈歧俗云豆不々之〉足骨也

踝 唐韻に云はく、踝〈𦛋瓦反、上声の重、豆不奈岐(つぶなき)、俗に豆不々之(つぶふし)と云ふ〉は足の骨なりといふ。

踵 唐韵云跟〈音根久比湏俗云歧比湏〉足踵也踵〈音腫〉足後也

踵 唐韻に云はく、跟〈音は根、久比須(くびす)、俗に岐比須(きびす)と云ふ〉は足の踵なり、踵〈音は腫〉は足の後なりといふ。

跗 儀礼注云趺〈方倶反字亦作跗阿奈比良〉足上也

跗 儀礼注に云はく、趺〈方倶反、字は亦、跗に作る、阿奈比良(あなびら)〉は足の上なりといふ。

蹠 說文云跖〈音尺字亦作踱阿奈宇良〉足下也

蹠 説文に云はく、跖〈音は尺、字は亦、踱に作る、阿奈宇良(あなうら)〉は足の下なりといふ。

爪甲 四声字苑云爪〈音早豆米〉手足指上甲也

爪甲 四声字苑に云はく、爪〈音は早、豆米(つめ)〉は手足の指の上の甲なりといふ。

莖垂類二十

茎垂類二十

隂 釋名云隂〈今案玉莖玉門䓁通称也〉䕃也言其㪽在蔭翳也

陰 釈名に云はく、陰〈今案ふるに玉茎、玉門等の通称なり〉は蔭なりといふ。其の蔭翳に在る所なれば言ふなり。

玉莖 房内經云玉莖〈男隂名也〉楊氏漢語抄云𡱼〈破前一云麻良今案玉篇䓁云々臋骨也音課可為玉莖之義不見〉日本𩄇異記云紀伊國伊都郡有一凶人不信三宝死時蟻著其𨳯〈今案是闭字也俗云或以此字為男隂以開字為女隂其說未詳〉

玉茎 房内経に玉茎〈男陰の名なり〉と云ふ。楊氏漢語抄に𡱼〈破前、一に麻良(まら)と云ふ。今案ふるに玉篇等に云々いへりて臋(ししむら)の骨なり、音は課、玉茎と為べき義見えず〉と云ふ。日本霊異記に云はく、紀伊国伊都郡に一の凶人有り、三宝を信じず、死(い)にし時、蟻、其の𨳯〈今案ふるに是れは閉の字なり。俗に云はく、或に此の字を以て男陰と為、開の字を以て女陰と為といふ。其の説は未だ詳(つばひら)かならず〉に著くといふ。

隂嚢 針灸經云隂嚢〈俗云布久利其義見疾病部隂頽下〉

陰囊 針灸経に陰囊〈俗に布久利(ふぐり)と云ふ。其の義は疾病部の陰頽下に見ゆ〉と云ふ。

隂頽 太素經云天有十日人手有十指辰有十二足有十指莖垂之二以應之〈今案莖者玉莖垂者隂囊也〉女子有隂而不足二節故得懐子也

陰頽 太素経に云はく、天に十日有り、人の手に十指有り、辰(とき)に十二有り、足に十指有り、茎垂の二は以て之れに応へ〈今案ふるに茎は玉茎、垂は陰囊なり〉、女子に陰有りて二節足らず、故、子を懐くを得るなりといふ。

隂核 食療經云食蓼及生魚或令隂核疼〈隂核俗云篇乃古〉刑徳教云丈夫淫乱割其㔟〈𫝑者則隂核也〉

陰核 食療経に云はく、蓼及び生魚を食ふとき或は陰核をして疼(いた)め令むといふ〈陰核は俗に篇乃古(へのこ)と云ふ〉。刑徳教に云はく、丈夫淫乱は其の勢(へのこ)〈勢は則ち陰核なり〉を割くといふ。

玉門 房内経云玉門〈女隂名也〉楊氏漢語抄云𡱖〈通鼻今案俗人或曰朱門並未詳〉

玉門 房内経に玉門と云ふ〈女陰の名なり〉。楊氏漢語抄に𡱖〈通鼻(つび)、今案ふるに俗人は或に朱門と曰ふ。並びに未だ詳かならず〉と云ふ。

吉舌 楊氏漢語抄云吉舌〈比奈佐歧〉

吉舌 楊氏漢語抄に吉舌と云ふ。〈比奈佐岐(ひなさき)〉

月水 針灸經云月水不通則灸氣穴〈月水俗云佐波利〉

月水 針灸経に云はく、月水通らざれば則ち気穴に灸すといふ。〈月水は俗に佐波利(さはり)と云ふ〉

精液 房内經云交接之時精液流𣻌

精液 房内経に云はく、交接の時、精液流れ𣻌(ただよ)ふといふ。

尿 說文云尿〈奴吊反由波利〉小便也

尿 説文に云はく、尿〈奴吊反、由波利(ゆばり)〉は小便なりといふ。

屁 四声字苑云屁䊧𥥓〈匹鼻反三字通也楊氏漢語抄云放屁倍比流〉下部出氣也

屁 四声字苑に云はく、屁䊧𥥓〈匹鼻反、三字通ふなり。楊氏漢語抄に云はく、放屁は倍比流(へひる)といふ〉は、下部より気を出すなりといふ。

屎 野王案糞〈府悶反久曽又糞土見塵土類〉屎也說文云屎〈音矢字亦作𡱁今案俗人呼牛馬犬等糞如弓矢之矢是𡱁之訛也〉大便也

屎 野王案に、糞〈府悶反、久曽(くそ)、又、糞土は塵土類に見ゆ〉は屎なりとす。説文に云はく、屎〈音は矢、字は亦、𡱁に作る。今案ふるに俗人、牛馬犬等の糞を弓矢の矢の如しと呼ぶは、是れ𡱁の訛れるなり〉は大便なりといふ。

疾病部第四

疾病部第四  

病類廿一 瘡類廿二

 病類二十一 瘡類二十二

病類廿一

病類二十一

頭風 魏志云大祖苦頭風

頭風 魏志に云はく、大祖は頭風を苦しむといふ。

聾 四声字苑云聾〈音力東反𫟈々之比〉耳不闻声也

聾 四声字苑に云はく、聾〈音は力東反、美々之比(みみしひ)〉は耳の声を聞かざるなりといふ。

聤耳 病源論云聤耳〈上音亭𫟈々太利〉凨熱耳生膿〈汁也〉

聤耳 病源論に云はく、聤耳〈上の音は亭、美々太利(みみだり)〉は風熱にて耳に膿〈汁なり〉を生ずるといふ。

盲 唐韵云盲〈莫耕反米之比〉目無眸子也

盲 唐韻に云はく、盲〈莫耕反、米之比(めしひ)〉は目に眸子無きなりといふ。

清盲 七巻食經云凢麋并梅李食之任身使子清盲〈俗云阿歧之比〉

清盲 七巻食経に云はく、凡そ麋、梅李を并せて之れを食ひて任身(みごも)れば子をして清盲〈俗に阿岐之比(あきしひ)と云ふ〉なら使むといふ。

近目 食療經云婦人任身勿食驢馬肉令子近目〈俗云智賀米〉

近目 食療経に云はく、婦人、任身りて驢馬の肉を食ふこと勿れ、子をして近目〈俗に智賀米(ちかめ)と云ふ〉なら令むといふ。

眇 周易云眇能視蹇能行〈師説眇讀湏加女蹇見下文也〉

眇 周易に云はく、眇にして能く視、蹇(あしなへ)にして能く行くといふ。〈師説に眇は須加女(すがめ)と読む。蹇は下文に見ゆるなり〉

䁾  文選風賦云得目為䁾〈亡結反師説多々良女〉

䁾  文選風賦に云はく、目に得るときは䁾〈亡結反、師説に多々良女(ただらめ)〉を為すといふ。

目翳 病源論云目翳〈於䴡反俗云比〉目膚眼精之上有物如蝿翅是也

目翳 病源論に云はく、目翳〈於麗反、俗に比(ひ)と云ふ〉は目膚眼精の上に物有り、蠅の翅の如きは是れなりといふ。

萑盲 病源論曰人至暮不見物世謂之萑盲〈俗云度利女〉謂如鳥萑暝則無㪽見也

萑盲 病源論に曰はく、人暮れに至りて物見えざるは世に之れを萑盲〈俗に度利女(とりめ)と云ふ〉と謂ひ、鳥萑の暝(くら)くならば則ち見る所無きが如きを謂ふなりといふ。

眩 釋名云眩〈音懸女久流米久夜万比〉懸也目㪽視動乱如懸物揺々然不定也

眩 釈名に云はく、眩〈音は懸、女久流米久夜万比(めくるめくやまひ)〉は懸なり、目の視る所、動き乱るること物を懸くるが如く揺揺然として定まらざるなりといふ。

塞鼻 釋名云齆〈音一共反波奈比世〉洟久不通遂至室塞也

塞鼻 釈名に云はく、齆〈音は一共反、波奈比世(はなびせ)〉は、洟(はなじる)久しく通らずして遂に室塞に至るなりといふ。

瘖瘂 説文云瘖瘂〈音鵶二音於布之〉不能言也

瘖瘂 説文に云はく、瘖瘂〈音鵶の二音、於布之(おふし)〉は言ふこと能はざるなりといふ。

吃 声類云吃〈居乞反俗云古度々毛利〉重言也説文云言語難也

吃 声類に云はく、吃〈居乞反、俗に古度々毛利(ことどもり)と云ふ〉は重言なりといふ。説文に云はく、言語の難きなりといふ。

兎缺 續晉陽秋云魏詠之生而兎缺〈俗云宇久知〉辨色立成云缺脣也

兎缺 続晋陽秋に云はく、魏詠之は生れながらにして兎缺といふ〈俗に宇久知(うぐち)と云ふ〉。弁色立成に脣を欠くなりと云ふ。

喎僻 説文云咼〈口蛙反或作喎久知由賀无〉口戾也病源論云喎僻則言語不正也

喎僻 説文に云はく、咼〈口蛙反、或に喎に作る。久知由賀無(くちゆがむ)〉は口戻(もと)るなりといふ。病源論に云はく、喎僻するときは則ち言語の正しからざるなりといふ。

失聲〈嘶𠰸附〉 食療經云食熱膩物勿飲酢漿失声嘶𠰸〈師説失声比古惠嘶咽古路々久〉

失声〈嘶咽付〉 食療経に云はく、熱膩の物を食ひて酢漿を飲むこと勿れ、声を失ひ嘶咽すといふ〈師説に失声は比古恵(ひごゑ)、嘶咽は古路々久(ころろく)〉。

噦噎 唐韵云噦噎〈上於越反下乙芴反楊氏漢語抄云噦噎佐久利〉逆氣也

噦噎 唐韻に云はく、噦噎〈上は於越反、下は乙芴反、楊氏漢語抄に噦噎は佐久利(さくり)と云ふ〉は逆気なりといふ。

喘息 唐韵云歂〈昌苑反字亦作喘阿倍歧〉口氣引㒵也

喘息 唐韻に云はく、歂〈昌苑反、字は亦、喘に作る、阿倍岐(あへぎ)〉は口の気引く貌なりといふ。

欬𠲿 病源論云欬欶〈亥束二音字亦作咳𠲿之波不歧〉肺寒則成也

欬𠲿 病源論に云はく、欬欶〈亥束の二音、字は亦、咳𠲿に作る、之波不岐(しはぶき)〉は肺寒からば則ち成るなりといふ。

歐吐 病源論云胃氣逆則歐吐〈上於后反字亦作嘔都久又太万比〉

欧吐 病源論に云はく、胃の気、逆らば則ち欧吐〈上は於后反、字は亦、嘔に作る、都久(つく)、又、太万比(たまひ)〉すといふ。

唾血 極要方云唾血〈知波久唾已見上文〉一縁内傷一縁積熱有此病矣

唾血 極要方に云はく、唾血〈知波久(ちはく)、唾は已に上文に見ゆ〉は一は内傷に縁り、一は熱積に縁りて此の病有りといふ。

哽𠰸 唐韵云哽噎〈綆悦二音噎亦作𠰸无湏〉食塞也

哽咽 唐韻に云はく、哽噎〈綆悦の二音、噎は亦、咽に作る、無須(むす)〉は食ふとき塞がるなりといふ。

津頥 病源論云津頥〈与多利〉小児多涎唾流出於頥下也

津頥 病源論に云はく、津頥〈与多利(よだり)〉は小児、涎唾を多くして頤下に流れ出づるなりといふ。

哯吐 病源論云哯吐〈上音見豆太𫟈〉小児由哺乳冷熱不調㪽致也

哯吐 病源論に云はく、哯吐〈上の音は見、豆太美(つだみ)〉は小児の哺乳、冷熱の調はざるに由りて致す所なりといふ。

喉痺 病源論云喉痺〈侯婢二音俗訛云古比〉喉裏腫塞痺痛水漿不得入是也

喉痺 病源論に云はく、喉痺〈侯婢の二音、俗に訛りて古比(こひ)と云ふ〉は喉の裏腫れ塞がり、痺痛して水漿すら入ること得ざるは是れなりといふ。

齞脣 説文云齞〈牛善反文選云齞脣師説阿以久知〉口張齒見也

齞脣 説文に云はく、齞〈牛善反、文選に齞脣を師説に阿以久知(あいくち)と云ふ〉は口張りて歯見(あらは)るなりといふ。

重舌 病源論云舌本血脉脹然變生如舌之狀謂之重舌也

重舌 病源論に云はく、舌の本の血脈、脹然と変り生え舌の状(かたち)の如くなるは之れを重舌と謂ふなりといふ。

𦧴𦧝 張揖曰𦧴𦧝〈灘天二音之多都歧〉舌不正也

𦧴𦧝 張揖に曰はく、𦧴𦧝〈灘天の二音、之多都岐(したつき)〉は舌の正しからざるなりといふ。

齵歯 蒼頡篇云齵〈五溝反又音隅齵歯於曽波〉歯重生也

齵歯 蒼頡篇に云はく、齵〈五溝反、又、音は隅、齵歯は於曽波(おそは)〉は歯の重ねて生ゆるなりといふ。

歴歯 文選好色賦云歴歯〈師説波和賀礼〉

歴歯 文選好色賦に歴歯〈師説に波和賀礼(はわかれ)〉と云ふ。

齲歯 釋名云齲〈倶禹反齲歯无之加女波〉蟲齧之歯缺朽也

齲歯 釈名に云はく、齲〈倶禹反、齲歯は無之加女波(むしかめは)〉は虫齧みし歯の欠け朽つるなりといふ。

齘歯 録験方云齘歯〈上胡介反波賀𫟈〉睡眠而歯相切有声也令人取其席下土内口中勿使知則止矣

齘歯 録験方に云はく、齘歯〈上は胡介反、波賀美(はがみ)〉は睡眠して歯相切(くひしば)りて声有るなりといふ。人をして其の席の下の土を取りて口の中に内(い)れしめば知らしむること勿くして則ち止む。

齭 説文云齭〈音所此间云波井留〉歯傷酢也

齭 説文に云はく、齭〈音は所、此の間に波井留(はゐる)と云ふ〉は歯、酢に傷むなりといふ。

胡臰 病源論云胡臰〈和歧久曽〉人掖下臰如葱豉之氣也亦謂之狐臰如狐狸之氣也

胡臰 病源論に云はく、胡臰〈和岐久曽(わきくそ)〉は人の掖の下の臰(くさ)きこと葱豉の気の如きなり、亦、之れを狐臰と謂ひ、狐狸の気の如きなりといふ。

脚氣 毉家書有脚氣論〈脚氣一云脚病俗云阿之乃介〉

脚気 医家書に脚気論有り。〈脚気は一に脚の病と云ひ、俗に阿之乃介(あしのけ)と云ふ〉

痿痺 蒼頡篇云痿痺〈萎𠈷二音俗云比留无夜末比〉不能行也

痿痺 蒼頡篇に云はく、痿痺〈萎俾の二音、俗に比留無夜末比(ひるむやまひ)と云ふ〉は行くこと能はざるなりといふ。

轉筋 脚氣論云轉筋〈俗云古无良加倍利一云加良湏奈米理〉由脚弱㪽生也

転筋 脚気論に云はく、転筋〈俗に古無良加倍利(こむらがへり)と云ひ、一に加良須奈米理(からすなめり)と云ふ〉は脚の弱きに由りて生(な)る所なりといふ。

𡰁 毛詩注云腫足曰𡰁〈唐韵時種反足病也亦弁色立成云於賣阿志此间云古比〉又云𤰞濕之地其人多𡰁

𡰁 毛詩注に云はく、腫足〈唐韻に時種反、足の病なり。亦、弁色立成に於売阿志(おめあし)と云ひ、此の間に古比(こひ)と云ふ〉は𡰁と曰ふといふ。又、卑湿の地に其の人、𡰁多しと云ふ。

蹇 説文云蹇〈音犬訓阿之奈閇此间云那閇久〉行不正也

蹇 説文に云はく、蹇〈音は犬、訓は阿之奈閉(あしなへ)、此の間に那閉久(なへぐ)と云ふ〉は行くこと正しからざるなりといふ。

駢拇 荘子云駢拇枝指〈駢音薄堅反駢拇此间云无豆於与非〉

駢拇 荘子に駢拇枝指と云ふ。〈駢の音は薄堅反、駢拇は此の間に無豆於与非(むつおよび)と云ふ〉

癥瘕 蒼頡篇云癥瘕〈徴嫁二音今案醫家書有魚瘕蛇瘕等師傳云加女波良此類也〉腹中病也

癥瘕 蒼頡篇に云はく、癥瘕〈徴嫁の二音、今案ふるに医家書に魚瘕、蛇瘕等有り、師伝に加女波良(かめはら)と云ふは此の類なり〉は腹の中の病なりといふ。

痞 録驗方云痞〈符鄙反上声之重衣賀波良〉小児腹病也唐韵云腹中結病也

痞 録験方に云はく、痞〈符鄙反、上声の重、衣賀波良(えがはら)〉は小児の腹の病なりといふ。唐韻に云はく、腹の中の結ぶ病なりといふ。

疝 釋名云疝〈音山阿太波良一云之良太𫟈〉腹急痛也

疝 釈名に云はく、疝〈音は山、阿太波良(あたばら)、一に之良太美(しらたみ)と云ふ〉は腹の急に痛むなりといふ。

蚘蟲 唐韵云蚘〈音回蛸蛔並同〉人腹中長虫也病源論云蚘蟲〈今案一名寸白俗云加以又云阿久太〉飲白酒食生栗䓁㪽成也

蚘虫 唐韻に云はく、蚘〈音は回、蛸、蛔は並びに同じ〉は人の腹の中の長き虫なりといふ。病源論に云はく、蚘虫〈今案ふるに一名に寸白、俗に加以(かい)と云ひ、又、阿久太(あくた)と云ふ〉は白酒を飲み、生栗等を食ひて成る所なりといふ。

痮 字書云痮〈音悵字亦作脹波良不久流〉腹𫞜也

痮 字書に云はく、痮〈音は悵、字は亦、脹に作る、波良不久流(はらふくる)〉は腹の満つるなりといふ。

痔 説文云痔〈治里反上声之重智乃夜万比〉後病也四声字苑云痔〈今案俗云之利乃夜万比〉䖝食下部病也

痔 説文に云はく、痔〈治里反、上声の重、智乃夜万比(ぢのやまひ)〉は後(しりへ)の病なりといふ。四声字苑に云はく、痔〈今案ふるに俗に之利乃夜万比(しりのやまひ)と云ふ〉は虫の下部を食ふ病なりといふ。

脱疘 病源論云脱疘〈疘古經反字亦作肛也之利以豆流夜万比〉肛門脱出也久痢則大腸虚冷㪽為也

脱疘 病源論に云はく、脱疘〈疘は古経反、字は亦、肛に作るなり。之利以豆流夜万比(しりいづるやまひ)〉は肛門の脱け出づるなりといふ。久しく痢(はらくだ)らば則ち大腸虚冷の為す所なりといふ。

痢 釋名云痢〈音利久曽比理乃夜万比〉言出漏之利也

痢 釈名に云はく、痢〈音は利、久曽比理乃夜万比(くそひりのやまひ)〉は出で漏るるの利なるを言ふといふ。

㿃 釋名云痢赤白曰㿃〈音帯赤痢知久曽白痢奈女〉言滞而難出也葛氏方云重下〈俗云之利於毛〉今㪽謂赤白痢也言令下部疼重故以名之

㿃 釈名に云はく、痢の赤白を㿃〈音は帯、赤痢は知久曽(ちくそ)、白痢は奈女(なめ)〉と曰ふといふ。滞りて出で難きなるを言ふ。葛氏方に云はく、重下〈俗に之利於毛(しりおも)と云ふ〉は今の所謂、赤白痢なりといふ。下部をして疼き重からしむ故に以て之れを名づくと言ふ。

淋病 声類云淋〈音林字亦作痳之波由波利〉小便數也

淋病 声類に云はく、淋〈音は林、字は亦、痳に作る、之波由波利(しばゆばり)〉は小便、数(しばしば)するなりといふ。

臨𤁋 病源論云臨𤁋〈音歴之太天由波利〉小便滴𤁋也

臨瀝 病源論に云はく、臨瀝〈音は歴、之太天由波利(したでゆばり)〉は小便の滴瀝(しただ)るなりといふ。

長血 小品方云婦人長血〈奈賀知又有白血〉

長血 小品方に、婦人の長血と云ふ。〈奈賀知(ながち)、又、白血有り〉

産後腹 新撰要方云婦人産後腹痛〈俗云之利波良〉取大豆二七枚呑之

産後腹 新撰要方に云はく、婦人の産後の腹痛〈俗に之利波良(しりばら)と云ふ〉は大豆二七枚を取りて之れに呑めといふ。

隂頽 針灸經云治隂頽方〈頽音杜囬反一名下重俗云曽比〉令莖頭下向隂囊縫當頭㪽着処灸其縫上七即有験矣

陰頽 針灸経に云はく、陰頽を治する方〈頽の音は杜回反、一名は下重、俗に曽比(そび)と云ふ〉は茎頭をして下(くだ)して陰囊に向はしめ、当頭の着ける処を縫ひ、其の縫へる上灸すること七たび、即ち験有らむといふ。

疫 説文云疫〈音役衣夜𫟈一云度歧乃介〉民皆病也

疫 説文に云はく、疫〈音は役、衣夜美(えやみ)、一に度岐乃介(ときのけ)と云ふ〉は民、皆病なりといふ。

癘 説文云癘〈音例阿之歧夜万比〉悪疾也

癘 説文に云はく、癘〈音は例、阿之岐夜万比(あしきやまひ)〉は悪疾なりといふ。

癲狂 唐令云癲狂酗酒皆不得居侍衛之官〈癲音天狂訓太布流俗云毛乃久流比〉本朝令義解云癲𤼲時仆地吐涎沬無㪽覚也狂或自欲走或自髙称聖賢者也

癲狂 唐令に云はく、癲狂、酗酒は皆、侍衛の官に居ることを得ずといふ〈癲の音は天、狂の訓は太布流(たふる)、俗に毛乃久流比(ものぐるひ)と云ふ〉。本朝令義解に云はく、癲は発する時、地に仆れ涎沬を吐き、覚ゆる所無きなり、狂は或に自ら走らむと欲(し)、或に自ら高(おご)りて聖賢なる者なりと称すといふ。

失意 日本紀私記云失意〈古々路万都比〉

失意 日本紀私記に失意〈古々路万都比(こころまどひ)〉と云ふ。

酗酒 唐韻云酗〈香句反一云酒狂俗云佐加々理〉酔怒也

酗酒 唐韻に云はく、酗〈香句反、一に酒狂と云ひ、俗に佐加々理(さかかり)と云ふ〉は酔ひ怒るなりといふ。

痟𤸎 病源論云消渇〈今案四声字苑云痟𤸎音与消渇同俗云加知乃夜万比〉渇而不小便也

痟𤸎 病源論に云はく、消渇〈今案ふるに四声字苑に痟𤸎の音は消渇と同じと云ひ、俗に加知乃夜万比(かちのやまひ)と云ふ〉は渇きて小便せざるなりといふ。

黃疸 病源論云黃疸〈音旦一云黃病歧波无夜万比〉身躰面目爪甲及小便尽黃之病也

黄疸 病源論に云はく、黄疸〈音は旦、一に黄病は岐波無夜万比(きばむやまひ)と云ふ〉は身体、面目、爪甲、及び小便、尽く黄なる病なりといふ。

癨乱 漢書云南越多癨乱之病矣〈癨乱俗云之利与理久智与理古久夜万比〉

癨乱 漢書に云はく、南越に癨乱の病多しといふ。〈癨乱は俗に之利与理久智与理古久夜万比(しりよりくちよりこくやまひ)と云ふ〉

瘧 説文云瘧〈音虐俗云衣夜𫟈一云和良波夜𫟈〉熱寒並作二日一𤼲之病也

瘧 説文に云はく、瘧〈音は虐、俗に衣夜美(えやみ)と云ひ、一に和良波夜美(わらはやみ)と云ふ〉は熱寒、並(あは)せて作(おこ)り、二日に一発するの病なりといふ。

苦舩 辨色立成云苦舩〈布奈夜毛非〉

苦船 弁色立成に苦船〈布奈夜毛非(ふなやもひ)〉と云ふ。

瘼卧 日本紀私記云瘼卧〈乎江不世理瘼音莫〉

瘼臥 日本紀私記に瘼臥〈乎江不世理(をえふせり)、瘼の音は莫〉と云ふ。

擇食 弁色立成云擇食〈豆波利又楊氏説同〉

択食 弁色立成に択食〈豆波利(つはり)、又、楊氏の説に同じ〉と云ふ。

瘡類廿二

瘡類二十二

瘡 唐韵云瘡〈音倉加佐〉痍也痍〈音夷歧湏〉瘡也瘢〈音般加佐度古路〉瘡痕也四声字苑云痕〈戸恩反訓上同一訓歧波〉故瘡処也廣雅云痂〈音家加佐布太〉瘡上甲也

瘡 唐韻に云はく、瘡〈音は倉、加佐(かさ)〉は痍なり、痍〈音は夷、岐須(きず)〉は瘡なり、瘢〈音は般、加佐度古路(かさどころ)〉は瘡の痕なりといふ。四声字苑に云はく、痕〈戸恩反、訓は上は同じ、一訓に岐波(きは)〉は故(ふる)瘡の処なりといふ。広雅に云はく、痂〈音は家、加佐布太(かさぶた)〉は瘡の上の甲なりといふ。

丁瘡 千金方云治丁瘡方云丁〈或本丁作疔未詳〉

瘡 千金方に云はく、丁瘡を治す方を丁と云ふといふ。〈或本に丁は疔に作る、未だ詳かならず〉

丹毒瘡 掌中要方云丹〈或本作𤴿未詳〉悪毒之氣其色無常也

丹毒瘡 掌中要方に云はく、丹〈或本に𤴿に作る、未だ詳かならず〉は悪毒の気、其の色は常無きなりといふ。

疽 説文云疽〈七余反俗云去声一名𤼲背〉久㿈也

疽 説文に云はく、疽〈七余反、俗に去声、一名に発背と云ふ〉は久しき㿈なりといふ。

癰 釋名云癰〈於容反俗云去声〉氣壅結而不潰也

癰 釈名に云はく、癰〈於容反、俗に去声と云ふ〉は気の壅(ふさ)がり結びて潰せざるなりといふ。

瘭疽 集験方云瘭疽〈瘭音摽俗云倍宇曽〉血氣否渋而㪽生也

瘭疽 集験方に云はく、瘭疽〈瘭の音は摽、俗に倍宇曽(へうそ)と云ふ〉は血気の否渋して生ずる所なりといふ。

乳癰 四声字苑云𤴱〈竹故反与妬同俗云知布〉婦人乳腫也釋名云乳癰曰妬〈今案妬冝作𤴱見上文〉妬貯也積不通也言氣貯積不通矣

乳癰 四声字苑に云はく、𤴱〈竹故反、妬と同じ、俗に知布(ちぶ)と云ふ〉は婦人の乳の腫るるなりといふ。釈名に云はく、乳癰を妬〈今案ふるに妬は宜しく𤴱に作るべし、上文に見ゆ〉と曰ひ、妬は貯なり、積みて通らざるなりといふ。気の貯へ積みて通らざるを言ふ。

痤 唐韵云痤〈昨禾反迩歧𫟈〉小癤也

痤 唐韻に云はく、痤〈昨禾反、邇岐美(にきみ)〉は小さき癤なりといふ。

癤 病源論云癰癤〈音子結反字亦作𤻛賀太祢〉血結聚㪽生也

癤 病源論に云はく、癰癤〈音は子結反、字は亦、𤻛に作る、賀太禰(かたね)〉は血の結び聚まりて生るる所なりといふ。

浸滛瘡 病源論云浸滛瘡〈俗云心𫟈佐宇〉凨熱𤼲於肌膚也

浸淫瘡 病源論に云はく、浸淫瘡〈俗に心美佐宇(しんみさう)と云ふ〉は風熱、肌膚に発るなりといふ。

皰瘡 唐韵云皰〈防教反〉面瘡也類聚國史云仁壽二年皰瘡流行人民疫死〈皰瘡此间云毛加佐〉

皰瘡 唐韻に云はく、皰〈防教反〉は面瘡なりといふ。類聚国史に云はく、仁寿二年に皰瘡流行り人民疫(えやみ)に死ぬといふ。〈皰瘡は此の間に毛加佐(もがさ)と云ふ〉

癭瘻 説文云癭瘻〈郢漏二音俗云路〉頸腫也

癭瘻 説文に云はく、癭瘻〈郢漏の二音、俗に路(ろ)と云ふ〉は頸の腫るるなりといふ。

瘤 病源論云瘤〈力求反之比祢〉皮肉急腫起初如梅李漸長大不癢不痛又不堅強者也

瘤 病源論に云はく、瘤〈力求反、之比祢(しひね)〉は皮の肉、急に腫れ起ること、初め梅李の如し、漸く長大にして癢(かゆ)からず、痛からず、又、堅強ならざる者なりといふ。

瘜肉 説文云瘜〈音息又作𦞜肉阿末之之又古久𫟈〉寄肉也

瘜肉 説文に云はく、瘜〈音は息、又、𦞜肉に作る、阿末之々(あまじし)、又、古久美(こくみ)〉は寄肉なりといふ。

附贅 荘子云附贅懸疣〈贅音制俗云布湏倍〉

附贅 荘子に付贅懸疣(ふぜいけんゆう)〈贅の音は制、俗に布須倍(ふすべ)と云ふ〉と云ふ。

懸疣 釋名云疣〈音尤又音宥懸疣佐賀利布湏倍〉丘也出皮上聚髙如地之有丘也

懸疣 釈名に云はく、疣〈音は尤、又、音は宥、懸疣は佐賀利布須倍(さがりふすべ)〉は丘なり、皮の上に出でて聚り高きこと地の丘有るが如きなりといふ。

肬目 病源論云肬目〈今案肬即疣字也以比保又以乎女〉手足𨕙忽生如豆麁強於肉者也

肬目 病源論に云はく、肬目〈今案ふるに肬は即ち疣の字なりとかむがふ。以比保(いひぼ)、又、以乎女(いをめ)〉は手足の辺に忽ちに生じ、豆の麁きが如く肉より強き者なりといふ。

耵聹 孫愐云耵聹〈丁寜二音𫟈々久曽〉耳垢也

耵聹 孫愐に云はく、耵聹〈丁寧の二音、美々久曽(みみくそ)〉は耳垢なりといふ。

疥癩 内典云疥癩〈介頼二音波太介〉

疥癩 内典に疥癩〈介頼の二音、波太介(はたけ)〉と云ふ。

癬 説文云癬〈音淺俗云錢加佐〉乾瘍也

癬 説文に云はく、癬〈音は浅、俗に銭加佐(ぜにがさ)と云ふ〉は乾瘍なりといふ。

瘍〈禿附〉 説文云瘍〈音楊賀之良加佐〉頭瘡也周礼注云禿〈土木反加不路〉頭瘡也野王案無髮也

瘍〈禿付〉 説文に云はく、瘍〈音は楊、賀之良加佐(かしらがさ)〉は頭の瘡なりといふ。周礼注に云はく、禿〈土木反、加不路(かぶろ)〉は頭の瘡なりといふ。野王案に髪無きなりとす。

鬼舐頭 病源論云鬼舐頭〈師説云為天狗下食㪽舐〉人頭或如錢大或如指大髮不生也

鬼舐頭 病源論に云はく、鬼舐頭〈師説に天狗の下りて食ふに舐むる所が為(ため)と云ふ〉は人の頭に或は銭の大きさの如く、或は指の大きさの如く、髪の生えざるなりといふ。

皯 玉篇云皯〈古但反俗云久路久佐〉面黒氣也

皯 玉篇に云はく、皯〈古但反、俗に久路久佐(くろくさ)と云ふ〉は面の黒き気なりといふ。

𪒎 唐韵云𪒎〈音孕於毛波々久曽〉面黒子也

䵴 唐韻に云はく、䵴〈音は孕、於毛波々久曽(をもははくそ)〉は面の黒子なりといふ。

𣾰瘡 病源論云𣾰瘡〈宇流之加不礼〉人見𣾰中其毒而腫是也

漆瘡 病源論に云はく、漆瘡〈宇流之加不礼(うるしかぶれ)〉は人、漆を見て其の毒に中(あた)りて腫るるは是れなりといふ。

熱沸瘡 四声字苑云疿〈音佛〉𤍽時細瘡也新録方云治夏月熱沸瘡〈和名阿世毛今案沸字冝作疿乎〉

熱沸瘡 四声字苑に云はく、疿〈音は佛〉は熱き時の細(こまか)き瘡なりといふ。新録方に云はく、夏月の熱沸瘡〈和名は阿世毛(あせも)、今案ふるに沸の字は宜しく疿に作るべきか〉を治すといふ。

飼面 病源論云飼面〈加湏毛〉面皮上有滓

飼面 病源論に云はく、飼面〈加須毛(かすも)〉は面皮の上に滓有りといふ。

皶鼻 野王案皶〈音砂迩歧𫟈波奈〉鼻上皰也

皶鼻 野王案に、皶〈音は砂、邇岐美波奈(にきみはな)〉は鼻の上の皰なりといふ。

胗 唐韵云胗〈音軫久智比々〉脣瘡也

胗 唐韻に云はく、胗〈音は軫、久智比々(くちひび)〉は脣の瘡なりといふ。

白癜 病源論云白癜〈一云白電之良波太〉人面及身頸皮肉色変白亦不痛癢者也

白癜 病源論に云はく、白癜〈一に白電と云ふ、之良波太(しらはだ)〉は人の面、及び身の頸の皮肉、色変りて白くして、亦、痛癢せざる者なりといふ。

歴易 病源論云歴易〈奈末豆波太〉人頸及胸前掖下自然斑點相連不痛不癢者也

歴易 病源論に云はく、歴易〈奈末豆波太(なまづはだ)〉は人の頸、及び胸の前、掖の下に自然に斑点相連なりて痛からず、癢からざる者なりといふ。

疵 晋書云趙孟面有二疵〈音疾移反師説阿佐〉

疵 晋書に云はく、趙孟は面に二つの疵〈音は疾移反、師説に阿佐(あざ)〉有りといふ。

黒子 漢書注云黒子〈波々久曽〉今中国呼黶子〈黶音烏添反〉呉楚俗謂之誌〈音志〉々者記也

黒子 漢書注に云はく、黒子〈波々久曽(ははくそ)〉は今、中国に黶子〈黶の音は烏添反〉と呼び、呉楚に俗に之れを誌〈音は志〉と謂ひ、誌は記すことなりといふ。

代指 集驗方云代指〈豆万波良米〉無毒由筋骨中𤍽之盛㪽生也

代指 集験方に云はく、代指〈豆万波良米(つまはらめ)〉は毒の筋骨の中に由ること無く、熱の盛りに生るる所なりといふ。

瘃 漢書音義云瘃〈陟玉反比𫟈弁色立成云之毛久知〉手足中寒作瘡也

瘃 漢書音義に云はく、瘃〈陟玉反、比美(ひみ)、弁色立成に之毛久知(しもくち)と云ふ〉は手足の寒きに中りて瘡と作(な)るなりといふ。

皹 漢書注云皹〈音軍阿加々利〉手足坼裂也

皹 漢書注に云はく、皹〈音は軍、阿加々利(あかがり)〉は手足の坼け裂くるなりといふ。

肉剌 病源論云肉剌〈乃以湏𫟈〉脚指間生肉如剌由着靴小相揩而㪽生也

肉刺 病源論に云はく、肉刺〈乃以須美(のいずみ)〉は脚の指の間に生(な)る肉、刺の如し、靴の小さきを着けて相揩(こす)るに由りて生る所なりといふ。

癮胗 四声字苑云癮胗〈隠軫二音知々保无一云知々波久留〉皮外小起也

癮胗 四声字苑に云はく、癮胗〈隠軫の二音、知々保無(ちちほむ)、一に知々波久留(ちちはくる)と云ふ〉は皮の外に小(すこ)し起るなりといふ。

風癮胗 病源論云風癮胗〈加佐保路之〉人皮膚虚為凨寒㪽折則起也

風癮胗 病源論に云はく、風癮胗〈加佐保路之(かさほろし)〉は人の皮膚の虚にして風の寒きが為に折られば則ち起るなりといふ。

㿺 声類云㿺〈北角反布久流〉肉憤起也

㿺 声類に云はく、㿺〈北角反、布久流(ふくる)〉は肉の憤(いき)り起るなりといふ。

腫 山海經云㾈〈音符一音府今案俗人㪽謂乳腫歯腫冝用此字〉腫也野王案𤺄〈之勇反字亦作腫波留〉身體㿺起虚𣼛也

腫 山海経に云はく、㾈〈音は符、一音に府、今案ふるに俗人の所謂、乳腫、歯腫、宜しく此の字を用ゐるべし〉は腫なりといふ。野王案に、𤺄〈之勇反、字は亦、腫に作る、波留(はる)〉は身体の㿺(ふくれ)起きて虚しく満つるなりとす。

膿 四声字苑云膿〈音農俗云宇𫟈古又云宇𫟈之留〉瘡汁也説文云膿腫血也

膿 四声字苑に云はく、膿〈音は農、俗に宇美古(うみこ)と云ひ、又、宇美之留(うみじる)と云ふ〉は瘡の汁なりといふ。説文に云はく、膿は腫の血なりといふ。

疻 漢書音義云疻〈音脂訓宇流无〉以杖撃人其膚皮起青黒也

疻 漢書音義に云はく、疻〈音は脂、訓は宇流無(うるむ)〉は杖を以て人を撃ちて其の膚の皮に青黒を起すなりといふ。

疼 説文云疼〈徒冬反訓比々良久〉動痛也

疼 説文に云はく、疼〈徒冬反、訓は比々良久(ひひらく)〉は動き痛むなりといふ。

痂 廣雅云痂〈古牙反訓加佐不太〉瘡上甲也

痂 広雅に云はく、痂〈古牙反、訓は加佐不太(かさぶた)〉は瘡の上の甲なりといふ。

痕 四声字苑云痕〈戸恩反加佐度古呂一説与痍同一訓歧波也浪痕涙痕䓁是也〉

痕 四声字苑に痕〈戸恩反、加佐度古呂(かさどころ)、一説に痍と同じ、一訓に岐波(きば)なり、浪痕、涙痕等は是れなり〉と云ふ。

痛 釋名云痛〈音洞訓伊太之〉通也通在膚脉中也

痛 釈名に云はく、痛〈音は洞、訓は伊太之(いたし)〉は通なり、通ひて膚脈の中に在るなりといふ。

癢 釋名云癢〈餘兩反与飬同加由之〉揚也其氣在皮中欲𤼲揚使人搔𤼲而揚出也

癢 釈名に云はく、癢〈余両反、養と同じ、加由之(かゆし)〉は揚なり、其の気は皮の中に在りて、揚を発さむと欲して人をして搔発して揚出せしめんとするなりといふ。

術藝部第五〈文字集略術藝部云術法也藝能也〉

術芸部第五〈文字集略に術芸部は術法なり、芸能なりと云ふ〉  

射藝類廿三 射藝具廿四 雜藝類廿五 雜藝具廿六

 射芸類二十三 射芸具二十四 雑芸類二十五 雑芸具二十六

射藝類廿三〈射音謝又作䠶訓由𫟈以留又云弓弩𤼲於身中於遠故字即従身矢是也〉

射芸類二十三〈射の音は謝、又、䠶に作る、訓は由美以留(ゆみいる)、又、弓弩は身より発ちて遠きに中る故に字は即ち身矢に従ふと云ふは是なり〉

騎射 漢書云甘延壽以良家子善騎射也楊氏漢語抄云馬射〈宇末由𫟈今案馬射即騎射也〉

騎射 漢書に云はく、甘延寿、良家の子(し)を以て騎射を善くするなりといふ。楊氏漢語抄に馬射〈宇末由美(うまゆみ)、今案ふるに馬射は即ち騎射なり〉と云ふ。

歩射 李太尉歩射法云夫歩射以目先領其特心射之〈歩射加知由𫟈今案特心者的異名乎〉

歩射 李太尉歩射法に云はく、夫れ歩射は目を以て先づ其の特心を領(をさ)め之れを射るといふ。〈歩射は加知由美(かちゆみ)、今案ふるに特心は的の異名か〉

細射 唐鹵簿令云細射弓箭〈今案此间云末々歧由𫟈是也〉

細射 唐鹵簿令に云はく、細射は弓箭といふ。〈今案ふるに此の間に末々岐由美(ままきゆみ)と云ふは是れなり〉

遠射 淮南子云越人学遠射参天而𤼲矣楊氏漢語抄云射遠〈圡保奈計今案遠射即射遠也〉

遠射 淮南子に云はく、越人は遠射を学び天に参りて発つといふ。楊氏漢語抄に射遠〈土保奈計(とほなげ)、今案ふるに遠射は即ち射遠なり〉と云ふ。

六射 諸葛亮六射教云射或山林樹木皆以的〈今案本朝式云五月五日左右近衛府射六的是也〉

六射 諸葛亮六射教に云はく、射は或に山林樹木、皆以て的なりといふ。〈今案ふるに本朝式に五月五日の左右近衛府の射の六的と云ふは是れなり〉

馳射 後漢書云馳射〈今案俗云於无毛能以流〉

馳射 後漢書に馳射〈今案ふるに俗に於無毛能以流(おむものいる)と云ふ〉と云ふ。

弋射 唐韻云弋〈与軄反以豆留〉射也四声字苑云矰〈音曽〉射矢也繳〈之若反〉矰繳㪽以加𠃧鳥也

弋射 唐韻に弋〈与職反、以豆留(いづる)〉射なりと云ふ。四声字苑に云はく、矰〈音は曽〉は射る矢なり、繳〈之若反〉は矰繳して飛ぶ鳥に加する所以なりといふ。

照射〈蹤血附〉 續搜神記云聶友少時家貧常照射見一白鹿射中之明晨尋蹤血矣〈今案俗云照射圡毛之蹤血波加利〉

照射〈蹤血付〉 続搜神記に云はく、聶友は少(をさな)き時に家貧しく常に照射(とも)し、一つの白き鹿を見て之れを射中(あ)て、明くる晨(あした)に蹤血を尋ぬといふ。〈今案ふるに俗に照射は土毛之(ともし)、蹤血は波加利(はかり)〉

戱射 郭璞方言注云平題者今之戱射箭也〈今案戱射此间云佐以多天是乎平題見征戦之具也〉

戯射 郭璞方言注に云はく、平題は今の戯射の箭なりといふ。〈今案ふるに戯射は此の間に佐以多天(さいだて)と云ふは是なり、平題は征戦の具に見ゆるなり〉

射藝具廿四

射芸具二十四

射韝 説文云韝〈古侯反多末歧一云小手也又見鷹具〉射臂㳫也

射韝 説文に云はく、韝〈古侯反、多末岐(たまき)、一に小手なりと云ふ。又、鷹具に見ゆ〉は射臂の㳫なりといふ。

弽 毛詩注云弽〈戸渉反訓由𫟈加介〉抉也能射馭則佩之也周礼注云抉〈音决〉挾矢時㪽以持弦之飾也

弽 毛詩注に云はく、弽〈戸渉反、訓は由美加介(ゆみかけ)〉は抉なり、能く射を馭(をさ)むれば則ち之れを佩(お)ぶなりといふ。周礼注に云はく、抉〈音は决〉は矢を挟む時、弦の飾りを持つ所以なりといふ。

𤿧 蔣魴切韵云𤿧〈音旱圡毛楊氏漢語抄日本紀䓁用鞆字俗亦用之本文未詳〉在臂避弦具也毛詩注云拾〈今案即裙拾之拾也見玉篇〉禭也礼與弓矢圖云禭〈音遂〉臂𤿧以朱韋為之

𤿧 蒋魴切韻に云はく、𤿧〈音は旱、土毛(とも)、楊氏漢語抄、日本紀等に鞆の字を用ゐ、俗に亦、之れを用う。本文は未だ詳かならず〉は臂に在りて弦を避くる具なりといふ。毛詩注に云はく、拾〈今案ふるに即ち裙拾の拾なり、玉篇に見ゆ〉は禭なりといふ。礼と弓矢図に云はく、禭〈音は遂〉は臂の𤿧、朱の韋を以て之れを為るといふ。

馬垺 四声字苑云垺〈力輟反与劣同此间云良知〉戱馬道也

馬垺 四声字苑に云はく、垺〈力輟反、劣と同じ、此の間に良知(らち)と云ふ〉は戯馬の道なりといふ。

射垛 唐韵云垛〈他果反字亦作垜楊氏漢語抄云射垛以久波土古路此间云阿无豆知今案又用堋字音朋〉射垛也四声字苑云垜埾也

射垛 唐韻に云はく、垛〈他果反、字は亦、垜に作る。楊氏漢語抄に云はく、射垛は以久波土古路(いくはどころ)といふ。此の間に阿無豆知(あむつち)と云ふ。今案ふるに、又、堋の字を用ゐ、音は朋〉は射垛なりといふ。四声字苑に云はく、垜は埾なりといふ。

的 説文云臬〈魚列反万斗俗用的字音都歴反〉射的也纂要云古者謂射的為侯〈或作堠音与侯同〉以皮為的為鵠〈今案鴻鵠之鵠射之処也古沃反見唐韵〉

的 説文に云はく、臬〈魚列反、万斗(まと)、俗に的の字を用ゐ、音は都歴反〉は射る的なりといふ。纂要に云はく、古は射る的を謂ひて侯〈或に堠に作り、音は侯と同じ〉と為(し)、皮を以て的を為(つく)り、鵠〈今案ふるに鴻鵠の鵠は射る処なり、古沃反、唐韻に見ゆ〉を為るといふ。

皮〈山形附〉 周礼云郷射之礼五物其三曰皮也本朝式云山形〈夜万賀太〉侯後四許丈張紺布禦矢者也

皮〈山形付〉 周礼に云はく、郷射の礼に五物あり、其の三を皮と曰ふなりといふ。本朝式に云はく、山形〈夜万賀太(やまがた)〉は侯の後(しりへ)四許丈に紺の布を張り矢を禦ぐ者なりといふ。

射乏〈司旍附〉 文選東亰賦注云乏〈今案即乏少之乏也但射乏和名夜布世歧〉以革為之護執旍者之禦矢也司旍〈此间云末止万宇之〉執旍文司射中當挙之

射乏〈司旍付〉 文選東京賦注に云はく、乏〈今案ふるに即ち乏少の乏なり。但し射乏の和名は夜布世岐(やふせぎ)〉は革を以て之れを為り、護執旍者は之れにて矢を禦ぐなり、司旍〈此の間に末止万宇之(まとまうし)と云ふ〉は旍(はた)と文(ふみ)を執りて射を司り、中るとき当に之れを挙ぐべしといふ。

射翳 文選射雉賦注云射翳〈於計反隠也障也師説末布之〉㪽以隠射者也

射翳 文選射雉賦注に云はく、射翳〈於計反、隠なり、障なり、師説に末布之(まぶし)〉は隠れ射る所以の者なりといふ。

雜藝類廿五

雑芸類二十五

投壷 投壷經云投壷〈内典云豆保宇智一云都保奈計〉古礼也壷長一尺二寸二分籌長一尺二寸〈籌即投壷矢名也見同經〉

投壺 投壺経に云はく、投壺〈内典に豆保宇智(つぼうち)と云ふ、一に都保奈計(つぼなげ)と云ふ〉は古礼なり、壺の長さ一尺二寸二分、籌の長さ一尺二寸といふ〈籌は即ち投壺の矢の名なり、同経に見ゆ〉。

藏鈎 三秦記云昭帝母釣弋夫人手拳而国色先帝寵之世人為藏鈎之法是也

蔵鈎 三秦記に云はく、昭帝の母の釣弋夫人の手、拳(かが)まりて国の色なるは先帝の之れを寵すればなりといふ。世の人、蔵鈎の法と為(す)るは是なり。

打毬 唐韵云毬〈音求打毬内典或謂之拍毱師説云末利宇知〉毛丸打者也劉向別録云打毬昔黄帝所造本因兵勢而為之

打毬 唐韻に云はく、毬〈音は求、打毬は内典に或に之れを拍毱と謂ひ、師説に末利宇知(まりうち)と云ふ〉は毛を丸めて打つ者なりといふ。劉向別録に云はく、打毬は昔、黄帝の造る所なり、本、兵勢に因りて之れを為るといふ。

蹴鞠 傅玄弾棊賦序云漢成帝好之也〈此间云末利古由蹴音千陸反字亦作蹵公羊傳注云蹴鞠以足逆蹈也〉

蹴鞠 伝玄弾棊賦序に云はく、漢の成帝、之れを好むなりといふ。〈此の間に末利古由(まりこゆ)と云ふ。蹴の音は千陸反、字は亦、蹵に作る。公羊伝注に云はく、蹴鞠は足を以て逆(さかしま)に蹈むなりといふ〉

竸渡 金谷園記云今之竸渡〈布奈久良倍〉楚國凨也

競渡 金谷園記に云はく、今の競渡〈布奈久良倍(ふなくらべ)〉は楚国の風なりといふ。

竸馬〈標附〉 本朝式云五月五日竸馬〈久良閇无麻〉立標〈標讀師米〉

競馬〈標付〉 本朝式に云はく、五月五日の競馬〈久良閉無麻(くらべむま)〉は標〈標は師米(しめ)と読む〉を立つといふ。

鞦韆 古今藝術图云鞦韆〈秋遷二音由佐波利〉以綵縄懸空中以為戱也

鞦韆 古今芸術図に云はく、鞦韆〈秋遷の二音、由佐波利(ゆさはり)〉は綵縄を以て空中に懸けて以て戯れを為すなりといふ。

圍碁 愽物志云尭造圍碁〈音期字亦作棊此间云五〉一云舜之㪽造也晉中興書云圍碁尭舜以教愚子也

囲碁 博物志に云はく、堯、囲碁〈音は期、字は亦、棊に作る、此の間に五と云ふ〉を造るといふ。一に云はく、舜の造る所なりといふ。晋中興書に云はく、囲碁は堯舜の以て愚かなる子に教ふるなりといふ。

弾碁 世説云弾碁始自魏宮文帝於彼此亦好矣

弾碁 世説に云はく、弾碁は魏宮の文帝のとき彼此(そこかしこ)より始まり、亦、好むといふ。

樗蒲 兼名苑云樗蒲一名九采〈内典云樗蒲賀利宇智〉

樗蒲 兼名苑に云はく、樗蒲は一名に九采といふ。〈内典に樗蒲は賀利宇智(かりうち)と云ふ〉

八道行成 内典云拍毱擲石投壷牽道八道行成一切戱笑悉不観作〈作八道行成讀夜佐湏賀利〉

八道行成 内典に云はく、拍毱(まりうち)、擲石(いしなげ)、投壺(つぼうち)、牽道(みちくらべ)、八道行成の一切の戯笑、悉(ことごとく)観も作(し)もせずといふ。〈八道行成は夜佐須賀利(やさすがり)と読む〉

雙六 兼名苑云雙六一名六采〈今案簿奕是也簿音愽俗云湏久呂久〉

双六 兼名苑に云はく、双六は一名に六采といふ。〈今案ふるに簿奕は是なり。簿の音は博、俗に須久呂久(すぐろく)と云ふ〉

意錢 後漢書注云意錢〈此间云世迩宇知〉今之攤錢也桂苑珠藂抄云以手有㪽搓謂之攤〈唐韵云挪諾何反搓挪也字亦作攤此间云駄搓音七何反手攤錢也訓毛无〉

意銭 後漢書注に云はく、意銭〈此の間に世邇宇知(ぜにうち)と云ふ〉は今の攤銭なりといふ。桂苑珠藂抄に云はく、手を以て搓(も)む所有り、之れを攤〈唐韻に、挪は諾何反、搓は挪なり、字は亦、攤に作ると云ふ。此の間に駄、搓の音は七何反、手にて銭を攤(も)むなり、訓は毛無(もむ)と云ふ〉と謂ふといふ。

弄槍 楊氏漢語抄云弄槍〈保古斗利〈已上本注〉槍音倉見征戦之具〉

弄槍 楊氏漢語抄に弄槍〈保古斗利(ほことり)〈已上は本注〉、槍の音は倉、征戦の具に見ゆ〉と云ふ。

弄丸 梁武帝千字文注云冝遼者楚人也能弄丸〈此间云多末斗利〉八在空中一在手中今人之弄鈴是也〈楊氏漢語抄云弄鈴湏々土利〉

弄丸 梁武帝千字文注に云はく、宜遼は楚の人なり、弄丸〈此の間に多末斗利(たまとり)と云ふ〉を能くし、八つ空中に在り、一つ手中に在るといふ。今の人の弄鈴は是なり〈楊氏漢語抄に弄鈴は須々土利(すずとり)と云ふ〉。

相撲 漢武故事云角觝〈丁礼反訓与突同〉今之相撲王隠晉書云相撲〈撲音蒲角反湏末比本朝相撲記有占手垂髪総角㝡手䓁之名別亦有立合相撲長也〉下伎也

相撲 漢武故事に云はく、角觝〈丁礼反、訓は突と同じ〉は今の相撲といふ。王隠晋書に云はく、相撲〈撲の音は蒲角反、須末比(すまひ)。本朝相撲記に占手、垂髪、総角、最手等の名の別有り、亦、立合なる相撲の長有るなり〉は下伎なりといふ。

相搋 唐韵云搋〈勅皆反在皆韵内典云相搋古布之宇知〉以拳加物也

相搋 唐韻に云はく、搋〈勅皆反、皆韻に在り。内典に相搋は古布之宇知(こぶしうち)と云ふ〉は拳を以て物に加ふるなりといふ。

相扠 唐韵云扠〈丑佳反在佳韵内典云相扠多加閇之〉以拳而加人也楊氏漢語抄云拗腕〈拗音於絞反訓同上也〉

相扠 唐韻に云はく、扠〈丑佳反、佳韻に在り。内典に相扠は多加閉之(たがへし)と云ふ〉は拳を以て人に加ふるなりといふ。楊氏漢語抄に拗腕〈拗の音は於絞反、訓は上に同じなり〉と云ふ。

牽道 内典云拍毱擲石投壷牽道〈内典云牽道𫟈知久良閇〉

牽道 内典に拍毱、擲石、投壺、牽道〈内典に牽道は美知久良閉(みちくらべ)と云ふ〉と云ふ。

擲倒 楊氏漢語抄云擲倒〈賀倍利宇都〉

擲倒 楊氏漢語抄に擲倒〈賀倍利宇都(かへりうつ)〉と云ふ。

闘鶏 玉燭寶典云寒食之節城市尤多為闘鶏之戱〈闘鶏此间云土利阿波世〉

闘鶏 玉燭宝典に云はく、寒食の節、城市に尤も多く闘鶏の戯れを為すといふ。〈闘鶏は此の間に土利阿波世(とりあはせ)と云ふ〉

闘草 荊楚歳時記云五月五日之節有闘百草之戱矣〈闘草此間云久佐阿波世今案闘宜作斣何者唐韵闘斣並都豆反闘競也斣斠也〉

闘草 荊楚歳時記に云はく、五月五日の節に百草を闘はしむるの戯れ有りといふ。〈闘草は此の間に久佐阿波世(くさあはせ)と云ふ。今案ふるに闘は宜しく斣に作るべきは何とは、唐韻に闘、斣は並びに都豆反、闘は競ふなり、斣は斠なり〉

拍浮 文選注云拍浮〈拍打也普伯反今案俗云於布湏是也〉

拍浮 文選注に拍は浮と云ふ。〈拍は打つなり、普伯反、今案ふるに俗に於布須(おふす)と云ふは是なり〉

雜藝具廿六

雑芸具二十六

碁子 藝經云白黒碁子各一百七十枚

碁子 芸経に云はく、白黒碁子、各一百七十枚といふ。

碁局 唐韵云枰〈皮命反一音平〉按簿局也陸詞云局〈渠玉反棊局俗云五半〉棊板枰也

碁局 唐韻に枰〈皮命反、一に音は平〉と云ふ。按ふるに簿局なり。陸詞に云はく、局〈渠玉反、棊局は俗に五半と云ふ〉は棊板の枰なりといふ。

樗蒱采 陸詞云𣘖〈音軒加利〉𣘖子樗蒱采名也

樗蒲采 陸詞に云はく、𢳚〈音は軒、加利(かり)〉は𢳚子、樗蒲の采の名なりといふ。

雙六采 楊氏漢語抄云頭子〈双六乃佐以今案見雜題双六詩〉

双六采 楊氏漢語抄に頭子〈双六乃佐以(すぐろくのさい)、今案ふるに雑題双六詩に見ゆ〉と云ふ。

鞠 考声切韵云鞠〈音菊字亦作毱万利〉以韋囊盛糠而蹴之孫愐云今通謂之毬子

鞠 考声切韻に云はく、鞠〈音は菊、字は亦、毱に作る、万利(まり)〉は韋囊を以て糠を盛りて之れを蹴(く)うといふ。孫愐に云はく、今、通ひて之れを毬子と謂ふといふ。

毬杖 辨色立成云骨撾〈竹花反打也〉打毬曲杖也

毬杖 弁色立成に云はく、骨撾〈竹花反、打つなり〉は打毬の曲杖なりといふ。

紙老鴟 辨色立成云紙老鴟〈此間云師労之〉以紙為鴟形乗凨能𠃧一云紙鳶

紙老鴟 弁色立成に云はく、紙老鴟〈此の間に師労之(しらうし)と云ふ〉は紙を以て鴟の形に為り、風に乗せて能く飛ばしむといふ。一に紙鳶と云ふ。

酒胡子 諸葛相如酒胡子賦云因木成形象人立質在掌握而可玩遇盃盤而則出

酒胡子 諸葛相如酒胡子賦に云はく、木に因りて形を成し人に象り質に立て、掌握に在りて玩ぶべし、盃盤に遇はば則ち出すといふ。

傀儡子 唐韵云傀儡〈賄礧二音久々豆〉樂人之㪽弄也顔氏家訓云俗名傀儡子為郭禿

傀儡子 唐韻に云はく、傀儡〈賄礧の二音、久々豆(くぐつ)〉は楽人の弄ぶ所なりといふ。顔氏家訓に云はく、俗に傀儡子を名づけて郭禿と為といふ。

獨樂 弁色立成云獨樂〈古末都玖利〉有孔者也

独楽 弁色立成に云はく、独楽〈古末都玖利(こまつくり)〉は孔有る者なりといふ。

輪鼓 本朝相撲記云輪鼓二人〈謂雜藝之中弄輪鼓之者二人也今案此物㪽出未詳但其形如細腰鼓而輪轉於絲上故以義也〉

輪鼓 本朝相撲記に輪鼓二人と云ふ。〈雑芸の中、輪鼓を弄びし者二人なりと謂ふ。今案ふるに此の物の出づる所、未だ詳かならず。但し其の形、細腰鼓の如くして、糸上に輪転する故に以て義とするなり〉

挿頭花 楊氏漢語抄云頭花〈加佐之俗用挿頭花〉

挿頭花 楊氏漢語抄に頭花〈加佐之(かざし)、俗に挿頭花を用ゐる〉と云ふ。

和名類聚抄巻第二

和名類聚抄巻第二

和名類聚抄巻第三

和名類聚抄巻第三  

居處部第六 舟車部第七 珍寶部第八 布帛部第九

 居処部第六 舟車部第七 珍宝部第八 布帛部第九

居處部第六

居処部第六  

屋宅類廿七 屋宅具廿八 墻壁具廿九 墻壁具三十 門戸類卅一 門戸具卅二 道路類卅三 道路具卅四〈関橋驛等見于此内〉

 屋宅類廿七 屋宅具廿八 墻壁具廿九 墻壁具三十 門戸類三十一 門戸具三十二 道路類三十三 道路具三十四〈関、橋、駅等、此の内に見ゆ〉

屋宅類廿七

屋宅類二十七

屋舎 陸詞切韻云屋〈烏谷反夜〉舎也周礼註云舎〈音謝訓和名同上〉休沐處也

屋舎 陸詞切韻に云はく、屋〈烏谷反、夜(や)〉は舎なりといふ。周礼注に云はく、舎〈音は謝、和名は上に同じ〉は休み沐む処なりといふ。

四阿 唐令云宮殿皆四阿〈弁色立成云四阿安都末夜〉

四阿 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿といふ。〈弁色立成に四阿は安都末夜(あづまや)と云ふ〉

兩下 同令云庻人門舎不得過一門兩下〈弁色立成云兩下麻夜〉

両下 唐令に云はく、庶人の門舎は一つ門、両下〈弁色立成に両下は麻夜(まや)と云ふ〉に過ぐること得じといふ。

殿 唐韵云殿〈音電度能〉宮殿也

殿 唐韻に云はく、殿〈音は電、度能(との)〉は宮殿なりといふ。

寢殿 四声字苑云寢〈七稔反祢夜〉寢室也一曰寝殿

寝殿 四声字苑に云はく、寝〈七稔反、禰夜(ねや)〉は寝室なりといふ。一に寝殿と曰ふ。

堂 釋名云堂〈徒郎反〉猶堂々髙顯㒵也

堂 釈名に云はく、堂〈徒郎反〉は猶ほ堂々と高く顕るるがごとき貌なりといふ。

櫓 唐韻云櫓〈音魯内典云却歒樓櫓夜久良舟具作艫〉城上守禦樓也

櫓 唐韻に云はく、櫓〈音は魯、内典に却敵の楼櫓は夜久良(やぐら)と云ふ。舟具に艫に作る〉は城の上に守り禦ぐ楼なりといふ。

樓閣 四声字苑云今謂臺上構屋爲樓〈音婁弁色立成云太賀度能〉野王案閣〈音各今案俗謂朱雀門爲重閣是〉重門複道也

楼閣 四声字苑に云はく、今、台の上に屋を構へて楼〈音は婁、弁色立成に太賀度能(たかどの)と云ふ〉と為と謂ふといふ。野王案に閣〈音は各、今案ふるに俗に朱雀門を謂ひて重閣と為るは是なり〉は重門にして複道なりとす。

觀 釋名云觀〈音貫嵯峨有栖霞觀〉於上觀望也

観 釈名に云はく、観〈音は貫、嵯峨に栖霞観有り〉は上にて観望むなりといふ。

臺 尒雅註云臺〈徒來反宇天奈〉積土為之所以觀望也尚書註云土髙曰臺有樹曰榭〈和名宇天奈〉

台 爾雅注に云はく、台〈徒来反、宇天奈(うてな)〉は土を積みて之れを為り観望む所以なりといふ。尚書注に云はく、土の高きを台と曰ひ、樹有るを榭〈和名は宇天奈(うてな)〉と曰ふといふ。

廊 唐韵云廊〈音郎漢語抄云保曽度能〉殿下外屋也

廊 唐韻に云はく、廊〈音は郎、漢語抄に保曽度能(ほそどの)と云ふ〉は殿下の外屋なりといふ。

行宮 日本紀私記云行宮〈賀利𫟈夜今案俗云頓宮〉

行宮 日本紀私記に行宮〈賀利美夜(かりみや)、今案ふるに俗に頓宮と云ふ〉と云ふ。

假床 類聚國史云假床〈此間云佐受枳今案假構屋内床之名也〉

仮床 類聚国史に仮床〈此の間に佐受枳(さずき)と云ふ、今案ふるに仮構への屋内の床の名なり〉と云ふ。

房 釋名云房〈音防俗云音望〉旁也在室之兩方也

房 釈名に云はく、房〈音は防、俗に音は望と云ふ〉は旁なり、室の両方に在るなりといふ。

坊〈村附〉 聲類云坊〈音方又音房末智〉別屋也又村坊也四声字苑云村〈音尊无良〉野外聚居也

坊〈村付〉 声類に云はく、坊〈音は方、又、音は房、末智(まち)〉は別屋なり、又、村坊なりといふ。四声字苑に云はく、村〈音は尊、無良(むら)〉は野外に聚り居うるなりといふ。

助鋪 辨色立成云助鋪〈和名古夜一云比多歧夜〉如衛士屋也

助鋪 弁色立成に云はく、助鋪〈和名は古夜(こや)、一に比多岐夜(ひたきや)と云ふ〉は衛士の屋の如きなりといふ。

室〈无戸室附〉 白虎通云黄帝作室〈音七无路〉以避寒暑日本紀私記云無戸室〈宇都无路〉

室〈無戸室付〉 白虎通に云はく、黄帝、室〈音は七、無路(むろ)〉を作り、以て寒暑を避くといふ。日本紀私記に無戸室〈宇都無路(うつむろ)〉と云ふ。

舘 唐韻云舘〈音官字亦作館太智日本紀私記云无路都𫟈〉客舎也

舘 唐韻に云はく、館〈音は官、字は亦、館に作る、太智(たち)。日本紀私記に無路都美(むろつみ)と云ふ〉は客舎なりといふ。

𠅘 釋名云𠅘〈音停弁色立成云客𠅘阿波良夜遊子息處小屋也〉人所停集也

亭 釈名に云はく、亭〈音は停、弁色立成に云はく、客亭は阿波良夜(あばらや)、遊子の息ふ処の小屋なりといふ。〉は人の停り集ふ所なりといふ。

廳 四声字苑云廳〈音汀俗音長日本紀私記云万都利古度々乃〉延賔屋亦衙庁也

庁 四声字苑に云はく、庁〈音は汀、俗に音は長、日本紀私記に万都利古度々乃(まつりごとどの)と云ふ〉は賓を延(まね)く屋、亦、衙庁なりといふ。

院 蔣魴切韵云院〈千變反俗音筠〉別宅也

院 蒋魴切韻に云はく、院〈千変反、俗に音は筠〉は別宅なりといふ。

家〈第宅附〉 四声字苑云家〈音嘉与宅同〉人㪽居處漢書音義云宅有甲乙次第故曰第宅也

家〈第宅付〉 四声字苑に云はく、家〈音は嘉、宅と同じ〉は人の居る所の処といふ。漢書音義に云はく、宅に甲乙の次第有り、故、第宅と曰ふなりといふ。

宇 唐韵云宇〈音羽訓夜賀湏〉宁也宁〈𥄂呂反上声之重〉門屏之間也

宇 唐韻に云はく、宇〈音は羽、訓は夜賀須(やかず)〉は宁なり、宁〈直呂反、上声の重〉は門屏の間なりといふ。

營 唐韵云營〈余傾反日本紀私記云以保利〉軍營也

営 唐韻に云はく、営〈余傾反、日本紀私記に以保利(いほり)と云ふ〉は軍営なりといふ。

倉廪 𠔥名苑云囷〈唐韻云去倫反又渠隕反上声之重倉圓曰囷〉一名廪〈唐韵云力稔反倉有屋曰廪〉倉也釋名云倉〈七岡反久良〉藏也藏物也

倉廪 兼名苑に云はく、囷〈唐韻に去倫反、又、渠隕反、上声の重、倉の円きを囷と曰ふと云ふ〉、一名に廪〈唐韻に力稔反、倉に屋有るを廪と曰ふと云ふ〉は倉なりといふ。釈名に云はく、倉〈七岡反、久良(くら)〉は蔵なり、物を蔵むるなりといふ。

窖 四声字苑云窖〈音教漢語抄云都知久良〉倉窖土中藏穀也

窖 四声字苑に云はく、窖〈音は教、漢語抄に都知久良(つちくら)と云ふ〉は倉窖、土の中に穀を蔵むるなりといふ。

庫〈棚閣附〉 唐令云諸軍器在庫〈音袴漢語抄云豆波毛能久良〉皆造棚閣〈朋各二音太奈〉安𥄂別異

庫〈棚閣付〉 唐令に云はく、諸の軍器は庫〈音は袴、漢語抄に豆波毛能久良(つはものくら)と云ふ〉に在らせ、皆、棚閣〈朋各の二音、太奈(たな)〉に造り別異(ことごと)に安置せよといふ。

厨 說文云厨〈𥄂誅反厨家久利夜〉庖屋也庖〈薄交反〉倉厨也

厨 説文に云はく、厨〈直誅反、厨家は久利夜(くりや)〉は庖屋なり、庖〈薄交反〉は食厨なりといふ。

廐 四声字苑云廐〈音救上声之重无万夜〉牛馬舎也

厩 四声字苑に云はく、厩〈音は救、上声の重、無万夜(むまや)〉は牛馬の舎なりといふ。

廥 四声字苑云廥〈音膾漢語抄云久散夜〉蒭藁藏也

廥 四声字苑に云はく、廥〈音は膾、漢語抄に久散夜(くさや)と云ふ〉は蒭藁の蔵なりといふ。

肆 唐令云諸市毎肆〈伊知久良〉立標題說文云市〈時止反上声之重以知〉賣買所也

肆 唐令に云はく、諸市は肆〈伊知久良(いちくら)〉毎に標題を立てよといふ。説文に云はく、市〈時止反、上声の重、以知(いち)〉は売買する所なりといふ。

邸家 辨色立成云邸家〈邸丁礼反今案俗云津屋此類也〉停賣物取賃處也

邸家 弁色立成に云はく、邸家〈邸は丁礼反、今案ふるに俗に津屋と云ふは此の類なり〉は物を売るを停めて賃を取る処なりといふ。

店家 四声字苑云店〈都念反今案俗云町此類也〉坐賣舎也

店家 四声字苑に云はく、店〈都念反、今案ふるに俗に町を云ふは此の類なり〉は坐売の舎なりといふ。

窟 說文云窟〈音骨以波夜〉土屋也野王案堀地為窟也

窟 説文に云はく、窟〈音は骨、以波夜(いはや)〉は土屋なりといふ。野王案に地を堀りて窟を為るなりとす。

窨 辨色立成云窨〈於禁反和名宇流之无路〉地室也一云漆屋

窨 弁色立成に云はく、窨〈於禁反、和名は宇流之無路(うるしむろ)〉は地室なりといふ。一に漆屋と云ふ。

窯 唐韵云窯〈音遥楊氏漢語抄云賀波良夜〉焼瓦竃也

窯 唐韻に云はく、窯〈音は遥、楊氏漢語抄に賀波良夜(かはらや)と云ふ〉は瓦を焼く竃なりといふ。

庵室 唐韵云庵〈烏含反庵室俗云阿无之知〉小草舎也

庵室 唐韻に云はく、庵〈烏含反、庵室は俗に阿無之知(あむしち)と云ふ〉は小さき草舎なりといふ。

廬 毛詩注云農人作廬〈力魚反伊奉〉以便田事

廬 毛詩注に云はく、農人、廬〈力魚反、伊奉(いほ)〉を作り以て田事に便りとすといふ。

庇 唐韵云庇〈必至反比佐之〉廕〈於禁反〉也弁色立成云庇接簷〈和名同上〉

庇 唐韻に云はく、庇〈必至反、比佐之(ひさし)〉は廕〈於禁反〉なりといふ。弁色立成に云はく、庇、簷〈和名は上に同じ〉に接すといふ。

厠 唐韻云圂〈胡困反字亦作溷〉厠也釋名云厠〈音四賀波夜〉或謂之圊〈音清〉言至穢處冝常修治使潔清也

廁 唐韻に云はく、圂〈胡困反、字は亦、溷に作る〉は廁なりといふ。釈名に云はく、廁〈音は四、賀波夜(かはや)〉は或に之れを圊〈音は清〉と謂ふといふ。至穢の処を宜しく常に修治して潔清ならしむるべきなりを言ふ。

屋宅具廿八

屋宅具二十八

甍 釋名云屋脊曰甍〈音萌伊良加〉在上覆蒙屋也𠔥名苑云甍一名棟〈多貢反訓異故別𥄂之〉

甍 釈名に云はく、屋脊を甍〈音は萌、伊良加(いらか)〉と曰ひ、上に在りて屋を覆蒙ふなりといふ。兼名苑に云はく、甍は一名に棟〈多貢反、訓は異なる故に別に置く〉といふ。

棟 尒雅云棟謂之桴〈音敷一音浮无祢〉唐韻云〓〔木偏に㥯〕〈隠之音去声〉棟也

棟 爾雅に云はく、棟は之れを桴〈音は敷、一音に浮、無祢(むね)〉と謂ふといふ。唐韻に云はく、〓〔木偏に㥯〕〈隠の音、去声〉は棟なりといふ。

瓦 蔣魴切韻云瓦〈五寡反加波良〉焼泥爲之蓋屋宇上蓬萊子所造也

瓦 蒋魴切韻に云はく、瓦〈五寡反、加波良(かはら)〉は泥を焼きて之れを為り、屋宇の上を蓋ふといふ。蓬莱子が造る所なり。

䟽瓦 辨色立成云䟽瓦〈都々𫟈加波良〉

䟽瓦 弁色立成に䟽瓦〈都々美加波良(つつみがはら)〉と云ふ。

花瓦 辨色立成云花瓦〈鐙瓦也阿布美加波良〉

花瓦 弁色立成に花瓦〈鐙瓦なり、阿布美加波良(あぶみがはら)〉と云ふ。

牝瓦 唐韻云瓪〈音板女加波良〉屋牝瓦也

牝瓦 唐韻に云はく、瓪〈音は板、女加波良(めがはら)〉は屋の牝瓦なりといふ。

牡瓦 唐韻云𤭧〈音皆乎加波良〉屋牡瓦也

牡瓦 唐韻に云はく、𤭧〈音は皆、乎加波良(をがはら)〉は屋の牡瓦なりといふ。

棧 楊氏漢語抄云棧〈初限反瓦乃衣都利〉日本紀私記云蘆雚〈和名同上今案唐韻雚胡官反葦也然則以蘆葦爲桟非也〉

桟 楊氏漢語抄に桟〈初限反、瓦乃衣都利(かはらのえつり)〉と云ふ。日本紀私記に蘆雚〈和名は上に同じ、今案ふるに唐韻に雚は胡官反、葦なり、然るも則ち蘆葦を以て桟を為るには非ざるなり〉と云ふ。

鴟尾 唐令云宮殿皆四阿施鴟尾〈弁色立成云久都賀太〉

鴟尾 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿に鴟尾〈弁色立成に久都賀太(くつがた)と云ふ〉を施せといふ。

檐 唐韵云檐〈余廉反字亦作簷能歧〉屋檐也

檐 唐韻に云はく、檐〈余廉反、字は亦、簷に作る、能岐(のき)〉は屋檐なりといふ。

飛檐 文選注云飛檐〈此間音比衣无〉棟頭似鳥翅舒將𠃧之狀也

飛檐 文選注に云はく、飛檐〈此の間に音は比衣無(ひえむ)〉は棟頭、鳥の翅(つばさ)の舒ぶるに似て将に飛ばむとする状なりといふ。

棉梠 文選云鏤檻文㮰〈音琵一音篦師說文㮰賀佐礼留乃歧湏介〉楊氏漢語抄云棉梠〈綿呂二音和名同上〉一云雀梠

棉梠 文選に鏤檻文㮰〈音は琵、一音に篦、師説に文㮰は賀佐礼留乃岐須介(かざれるのきすけ)〉と云ふ。楊氏漢語抄に棉梠〈綿呂の二音、和名は上に同じ〉と云ひ、一に雀梠と云ふ。

懸魚 顔之推詩云懸魚掩金扇〈弁色立成云屋脊桁端懸板名也凢桁端有之〉

懸魚 顔之推詩に云はく、懸魚は金扇を掩ふといふ。〈弁色立成に云はく、屋脊の桁端の懸板の名なりといふ。凡そ桁の端に之れ有り〉

槫風 辨色立成云槫風板〈比冝上音布𢙣反楊氏漢語抄同〉

槫風 弁色立成に槫風板〈比宜(ひぎ)、上の音は布悪反、楊氏漢語抄に同じ〉と云ふ。

桁 考声切韻云桁〈音行又去声計太〉屋檁也檁〈林朕反〉屋桁也

桁 考声切韻に云はく、桁〈音は行、又、去声、計太(けた)〉は屋の檁なり、檁〈林朕反〉は屋の桁なりといふ。

梁 唐韻云梁〈音良宇都波利〉棟梁也尒雅注云杗廇〈亡霤二音〉大梁也

梁 唐韻に云はく、梁〈音は良、宇都波利(うつはり)〉は棟梁なりといふ。爾雅注に云はく、杗廇〈亡霤の二音〉は大梁なりといふ。

長押 功程式云長押〈奈計之〉

長押 功程式に長押〈奈計之(なげし)〉と云ふ。

榱 釋名云榱〈音衰太流歧楊氏云波閇歧〉在檼旁下垂也𠔥名苑云一名橑〈音老〉一名椽〈音傳〉間朲〈唐韵云音人漢語抄云間朲太留木〉

榱 釈名に云はく、榱〈音は衰、太流岐(たるき)、楊氏に波閉岐(はへき)と云ふ〉は檼の旁の下に在りて垂るるなりといふ。兼名苑に云はく、一名に橑〈音は老〉、一名に椽〈音は伝〉といふ。間朲〈唐韻に音は人と云ひ、漢語抄に間朲は太留木(たるき)と云ふ〉なり。

璫 文選云裁金璧以飾璫〈音當師說古之利又耳璫見服玩具〉劉良曰言以金璧飾椽端也

璫 文選に云はく、金璧を裁(たちき)りて以て璫〈音は当、師説に古之利(こじり)、又、耳璫、服玩具に見ゆ〉を飾るといふ。劉良に曰はく、金璧を以て椽端を飾るなるを言ふといふ。

桷 尒雅注云桷〈音角湏𫟈歧〉屋四阿大榱也

桷 爾雅注に云はく、桷〈音は角、須美岐(すみき)〉は屋の四阿の大榱なりといふ。

天井 風俗通云殿舎作天井菱藻水中之物以厭火灾也

天井 風俗通に云はく、殿舎に天井を作るに菱藻ら水中の物を以ゐるは火災を厭ふてなりといふ。

𥴩子 通俗文云𥴩子〈𥴩音隔字亦作䈷〉竹障名也

𥴩子 通俗文に云はく、𥴩子〈𥴩の音は隔、字は亦、䈷に作る〉は竹障の名なりといふ。

蔀 周礼注云蔀〈音部字亦作篰之度美〉覆暖障光也

蔀 周礼注に云はく、蔀〈音は部、字は亦、篰に作る、之度美(しとみ)〉は暖を覆(つつ)み光を障ふるなりといふ。

柱〈束柱附〉 說文云柱〈音注波之良功程式云束柱豆賀波師良〉楹也唐韻云楹〈音盈〉柱也

柱〈束柱付〉 説文に云はく、柱〈音は注、波之良(はしら)、功程式に束柱は豆賀波師良(つかばしら)と云ふ〉は楹なりといふ。唐韻に云はく、楹〈音は盈〉は柱なりといふ。

欄額 辨色立成云欄額〈波之良沼歧〉柱貫也

欄額 弁色立成に云はく、欄額〈波之良沼岐(はしらぬき)〉は柱貫なりといふ。

枓 唐韵云枓〈音斗度賀多〉柱上方木也

枓 唐韻に云はく、枓〈音は斗、度賀多(とがた)〉は柱の上の方木なりといふ。

枅 唐韵云枅〈音鶏漢語抄云比知歧功程式云肱木〉承衡木也

枅 唐韻に云はく、枅〈音は鶏、漢語抄に比知岐(ひぢき)と云ひ、功程式に肱木と云ふ〉は衡を承くる木なりといふ。

栭 尒雅注云梁上謂之栭〈音而文選師說多々利加太〉欂櫨也說文云欂櫨〈薄盧二音〉柱上枅也

栭 爾雅注に云はく、梁の上は之れを栭〈音は而、文選の師説に多々利加太(たたりがた)〉と謂ひ、欂櫨なりといふ。説文に云はく、欂櫨〈薄盧の二音〉は柱の上の枅なりといふ。

梲 尒雅云梁上柱謂之梲〈音拙宇太知楊氏云蜀柱〉孫炎曰梁上柱侏儒也

梲 爾雅に云はく、梁の上の柱は之れを謂ひて梲〈音は拙、宇太知(うだち)、楊氏に蜀柱と云ふ〉といふ。孫炎に曰はく、梁の上の柱は侏儒なりといふ。

鴨柄 功程式云鴨柄〈賀毛江今案本文未詳〉

鴨柄 功程式に鴨柄〈賀毛江(かもえ)、今案ふるに本文は未だ詳(つばひら)かならず〉と云ふ。

杈首 楊氏漢語抄云杈首〈佐湏杈初牙反〉

杈首 楊氏漢語抄に杈首〈佐須(さす)、杈は初牙反〉と云ふ。

軒檻 漢書注云軒〈虚言反〉檻上板也檻〈音監文選檻讀師説於保之万〉殿上欄也唐韻云欄〈音蘭漢語抄云欄檻〉階陛木勾欄亦〈如本〉

軒檻 漢書注に云はく、軒〈虚言反〉檻は上板なり、檻〈音は監、文選に檻を師説に於保之万(おほしま)と読む〉は殿上の欄なりといふ。唐韻に云はく、欄〈音は蘭、漢語抄に欄檻と云ふ〉は階陛の木の勾れる欄も亦なりといふ〈本の如し〉。

簀〈板敷附〉 蔣魴切韻云簀〈音責功程式板敷云々簀子云々湏乃古〉床上藉竹名也

簀〈板敷付〉 蒋魴切韻に云はく、簀〈音は責、功程式に板敷は云々いふ、簀子は云々いふ、須乃古(すのこ)〉は床上に竹を藉(し)く名なりといふ。

柱礎 唐韻云磌〈徒年反都𫟈以之一云以之湏惠〉柱礎也礎〈音楚〉柱下石也

柱礎 唐韻に云はく、磌〈徒年反、都美以之(つみいし)、一に以之須恵(いしずゑ)と云ふ〉は柱の礎なり、礎〈音は楚〉は柱の下石なりといふ。

壇 考声切韻云壇〈達丹反俗云本音之濁〉封土四方而髙也

壇 考声切韻に云はく、壇〈達丹反、俗に本の音の濁と云ふ〉は土を四方に封(も)りて高きなりといふ。

堦 考声切韵云堦〈音皆俗爲階字波之一訓之奈〉登堂級也𠔥名苑云砌一名階〈砌音細訓美歧利〉

堦 考声切韻に云はく、堦〈音は皆、俗に階の字を波之(はし)、一訓に之奈(しな)と為(す)〉は堂に登る級なりといふ。兼名苑に云はく、砌は一名に階〈砌の音は細、訓は美岐利(みぎり)〉といふ。

庭 考声切韵云庭〈定丁反迩波〉屋前也

庭 考声切韻に云はく、庭〈定丁反、邇波(には)〉は屋前なりといふ。

墻壁類廿九

墻壁類二十九

垣墻 尒雅云墻〈音常〉謂之墉〈音庸〉李巡曰謂垣〈音園賀歧〉

垣墻 爾雅に云はく、墻〈音は常〉は之れを墉〈音は庸〉と謂ふといふ。李巡に曰はく、垣〈音は園、賀岐(かき)〉と謂ふといふ。

築墻 淮南子云舜作築墻〈都以加歧一云豆以比知〉

築墻 淮南子に云はく、舜、築墻〈都以加岐(ついがき)、一に豆以比知(ついひぢ)と云ふ〉を作るといふ。

女墻 𠔥名苑云女墻一名𡍕〈音𤗊〉城上小垣也釋名云城上垣曰𡌨堄〈禆詣二音字亦作陴𨺙〉或曰女墻言其𤰞小比之城若女子之於丈夫也

女墻 兼名苑に云はく、女墻、一名に堞〈音は牒〉は城上の小さき垣なりといふ。釈名に云はく、城上の垣を埤堄〈裨詣の二音、字は亦、陴𨺙に作る〉と曰ひ、或に女墻と曰ふ、其の卑小なるは之れを城に比ぶるに女子の丈夫に於けるが若くなるを言ふ。

屏 唐韵云罘罳〈浮思二音〉屏也尒雅注云屏〈音餅〉小墻當門中也

屏 唐韻に云はく、罘罳〈浮思の二音〉は屏なりといふ。爾雅注に云はく、屏〈音は餅〉は小墻、当に門に中るべきなりといふ。

𣑭 說文云𣑭〈音索〉編竪木也

柵 説文に云はく、柵〈音は索〉は竪木を編むなりといふ。

籬〈栫字附〉 釋名云籬〈音離字亦作㰚末加歧一云末世〉以柴作之言踈離々也說文云栫〈七見反加久布〉以柴壅之

籬〈栫字付〉 釈名に云はく、籬〈音は離、字は亦、㰚に作る、末加岐(まがき)、一に末世(ませ)と云ふ〉は柴を以て之れを作り、踈(まばら)にして離々なるを言ふといふ。説文に云はく、栫〈七見反、加久布(かくふ)〉は柴を以て之れを壅ぐといふ。

壁〈隙附〉 野王案壁〈音辟加閇〉室之屏蔽也四声字苑云隙〈綺㦸反比末〉壁際孔也

壁〈隙付〉 野王案に壁〈音は辟、加閉(かべ)〉は室の屏蔽なりといふ。四声字苑に云はく、隙〈綺戟反、比末(ひま)〉は壁際の孔なりといふ。

墻壁具三十

墻壁具三十

助枝 楊氏漢語抄云助枝〈之太知功程式云志達〉

助枝 楊氏漢語抄に助枝〈之太知(したぢ)、功程式に志達と云ふ〉と云ふ。

牏 野王案牏〈音偷又音頭豆以比知伊太〉築垣短板也

牏 野王案に牏〈音は偸、又、音は頭、豆以比知伊太(ついひぢいた)〉は築垣の短き板なりといふ。

壁帯 漢書音義云壁帯〈今案末和多之功程式云間度〉謂壁中之横帯也

壁帯 漢書音義に云はく、壁帯〈今案ふるに末和多之(まわたし)、功程式に間度と云ふ〉は壁中の横帯を謂ふなりといふ。

櫺子 四声字苑云櫺〈郎丁反字亦作欞礼迩之〉窓櫺子也考声切韻云欄檻及窓間子也

櫺子 四声字苑に云はく、櫺〈郎丁反、字は亦、欞に作る、礼邇之(れにし)〉は窓櫺子なりといふ。考声切韻に云はく、欄檻は窓間子に及ぶなりと云ふ。

牖 說文云牖〈与久反字從片戸甫也末度〉穿壁以木爲交窓也

牖 説文に云はく、牖〈与久反、字は片戸甫に従ふなり、末度(まど)〉は壁を穿ちて木を以て交へを為す窓なりといふ。

石灰 𠔥名苑云石灰一名堊灰〈以之波比〉焼青白石成𡦦冷竟澆之碎成灰也

石灰 兼名苑に云はく、石灰は一名に堊灰といふ〈以之波比(いしばひ)〉。青白石を焼きて熟れ成し、冷し竟り澆(あはた)て、砕きて灰と成すなり。

白土 𠔥名苑云白土一名堊〈已見地部水土類〉

白土 兼名苑に云はく、白土は一名に堊といふ。〈已に地部水土類に見ゆ〉

門戸類卅一

門戸類三十一

門〈門舎附〉 四声字苑云門〈加度〉所以通出入也唐令云門舎〈加度夜〉三品以上五架三門五品以上三門兩下六品以下及庻人不得過一門兩下

門〈門舎付〉 四声字苑に云はく、門〈加度(かど)〉は出入りに通る所以なりといふ。唐令に云はく、門舎〈加度夜(かどや〉は三品以上に五架三門、五品以上に三門両下、六品以下及び庶人は一門両下を過ぐること得ずといふ。

閭𨵻 說文云閭𨵻〈廬塩二音文選師說佐度乃加東〉里中門也

閭𨵻 説文に云はく、閭𨵻〈廬塩の二音、文選の師説に佐度乃加東(さとのかど)〉は里中の門なりといふ。

坊門 唐令云兩亰城及州縣郭下坊別置正一人掌坊門管鑰督察姧非也

坊門 唐令に云はく、両京城及び州県郭下は坊別に正一人を置き、坊門の管鑰を掌り、姧非を督察せよといふ。

鷄栖 考声切韻云𣔺〈毛報反〉今之門鷄栖也弁色立成云鷄栖〈鳥居也楊氏説同〉

鶏栖 考声切韻に云はく、𣔺〈毛報反〉は今の門の鶏栖なりといふ。弁色立成に鶏栖〈鳥居なり、楊氏説に同じ〉と云ふ。

戸 野王案在城郭曰門在屋堂曰戸

戸 野王案に、城郭に在るを門と曰ひ、屋堂に在るを戸と曰ふとす。

窓 說文云在屋曰〈楚江反字亦作牎末度〉在墻曰牖〈已見墻壁具〉𠔥名苑云一名櫳〈音籠〉

窓 説文に云はく、屋に在るを窓〈楚江反、字は亦、牎に作る、末度(まど)〉と曰ひ、墻に在るを牖〈已に墻壁具に見ゆ〉と曰ふといふ。兼名苑に一名に櫳〈音は籠〉と云ふ。

水門 後漢書云水門故處皆在河中〈日本紀私記云水門𫟈度〉

水門 後漢書に云はく、水門の故処は皆、河中に在りといふ。〈日本紀私記に水門は美度(みと)と云ふ〉

門戸具卅二

門戸具三十二

扉 說文云扇〈式戦反度比良〉扉〈音非〉門扉也

扉 説文に云はく、扇〈式戦反、度比良(とびら)〉は扉〈音は非〉、門扉なりといふ。

樞 尒雅云樞〈音朱〉謂之椳〈音隈度保曽俗云度万良〉孫炎曰門戸之樞也

枢 爾雅に云はく、枢〈音は朱〉は之れを椳〈音は隈、度保曽(とぼそ)、俗に度万良(とまら)と云ふ〉と謂ふといふ。孫炎に曰はく、門戸の枢なりといふ。

楣 尒雅曰楣〈音眉万久佐〉門戸上横梁也

楣 爾雅に曰はく、楣〈音は眉、万久佐(まぐさ)〉は門戸の上の横梁なりといふ。

𣔺 四声字苑云𣔺〈莫到反又莫代反漢語抄云度加𫟈功程式云𣆎走〉門樞横梁也

𣔺 四声字苑に云はく、𣔺〈莫到反、又、莫代反、漢語抄に度加美(とがみ)と云ふ。功程式に鼠走と云ふ〉は門枢の横梁なりといふ。

青𤨏 四声字苑云青𤨏〈蘓果反字亦作璅〉刻木爲羅文青而施之於戸上也

青瑣 四声字苑に云はく、青瑣〈蘇果反、字は亦、璅に作る〉は木を刻み羅の文を青く為て、之れを戸上に施すなりといふ。

扃 野王案扃〈音經度佐之〉戸扇䥫鈕所用於内以関門也

扃 野王案に、扃〈音は経、度佐之(とさし)〉は戸扇の鉄鈕、内に用ゐ以て門を関く所なりといふ。

鎹 功程式云擧鎹〈阿介賀湏加比今案鎹字本文未詳〉

鎹 功程式に挙鎹〈阿介賀須加比(あげかすがひ)、今案ふるに鎹の字は本文未だ詳かならず〉と云ふ。

鐶鈕 辨色立成云鐶鈕〈斗乃比歧天楊氏說同〉門鈎也

鐶鈕 弁色立成に云はく、鐶鈕〈斗乃比岐天(とのひきて)、楊氏の説に同じ〉は門の鈎なりといふ。

戸鍱 唐韵云鍱〈式渉反与葉同楊氏云戸乃帖木〉銅鍱也

戸鍱 唐韻に云はく、鍱〈式渉反、葉と同じ、楊氏に戸乃帖木(とのてふき)と云ふ〉は銅鍱なりといふ。

関木 說文云關〈古還反字亦作関俗云貫乃木〉以横木持門曰関所以閇也

関木 説文に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る、俗に貫乃木(かんのき)と云ふ〉は横木を以て門を持(たす)くといふ。関は閉づる所以なりと曰ふ。

鑰 四声字苑云鑰〈音薬字亦作𨷲今案俗人印鑰之処用鎰字非也鎰音溢見唐韵〉関具也楊氏漢語抄云鑰匙〈門乃加岐〉

鑰 四声字苑に云はく、鑰〈音は薬、字は亦、𨷲に作る。今案ふるに俗人、印鑰の処に鎰の字を用ゐるは非ざるなり。鎰の音は溢、唐韻に見ゆ〉は関具なりといふ。楊氏漢語抄に鑰匙〈門乃加岐(もんのかぎ)〉と云ふ。

鈎匙 楊氏漢語抄云鈎匙〈戸乃加歧一云加良加歧鈎音古侯反〉

鈎匙 楊氏漢語抄に鈎匙〈戸乃加岐(とのかぎ)、一に加良加岐(からかぎ)と云ふ、鈎の音は古侯反〉と云ふ。

鏁子 唐韵云鎖〈蘓果反俗作鏁子〉䥫鎖也楊氏漢語抄云鏁子〈藏乃賀歧弁色立成云蔵鑰〉

鏁子 唐韻に云はく、鎖〈蘇果反、俗に鏁子に作る〉は鉄鎖なりといふ。楊氏漢語抄に鏁子〈蔵乃賀岐(くらのかぎ)、弁色立成に蔵鑰と云ふ〉と云ふ。

棖 尒雅注云棖〈音唐和名保古多知弁色立成云戸類〉門兩旁木也

棖 爾雅注に云はく、棖〈音は唐、和名は保古多知(ほこたち)。弁色立成に戸の類と云ふ〉は門の両旁の木なりといふ。

橛 唐韵云橛〈音厥俗云巾子形〉所以止扇也尒雅云橛謂之闑〈音蘖〉孫炎曰門中央杙也

橛 唐韻に云はく、橛〈音は厥、俗に巾子形と云ふ〉は扇を止むる所以なりといふ。爾雅に云はく、橛は之れを闑〈音は蘖〉と謂ふといふ。孫炎に曰はく、門中の央杙なりといふ。

閾 尒雅注云閾〈音域〉門限也𠔥名苑云閾一名閫〈苦本反之歧美俗云度之歧𫟈〉

閾 爾雅注に云はく、閾〈音は域〉は門限なりといふ。兼名苑に云はく、閾は一名に閫〈苦本反、之岐美(しきみ)、俗に度之岐美(とじきみ)と云ふ〉といふ。

道路類卅三

道路類三十三

馳道 漢書注云馳道天子所行之道也

馳道 漢書注に云はく、馳道は天子の行く所の道なりといふ。

馬道 辨色立成云馬道〈俗音米多宇〉向堂之道也

馬道 弁色立成に云はく、馬道〈俗の音は米多宇(めたう)〉は堂に向へる道なりといふ。

徼道 唐韵云徼道〈音呌古𫟈知〉小道也

徼道 唐韻に云はく、徼道〈音は呌、古美知(こみち)〉は小道なりといふ。

間道 日本紀私記云間道〈賀久礼𫟈知〉

間道 日本紀私記に間道〈賀久礼美知(かくれみち)〉と云ふ。

徑路 唐韵云径〈音敬与逕同多々知逕近也字或通見下〉歩道也四声字苑云徑道〈徑音古定反〉容牛馬道一云歩道也

径路 唐韻に云はく、径〈音は敬、逕と同じ、多々知(ただち)、逕は近きなり、字は或に下に見ゆるに通ふ〉は歩道なりといふ。四声字苑に云はく、径道〈径の音は古定反〉は牛馬を容るる道といふ。一に歩道なりと云ふ。

大路 唐韵云道路〈音露毛詩有遵大路篇大路和名於保𫟈知〉南北曰阡〈音千日本紀私記云多知之乃𫟈知〉東西曰陌〈音百同私記云与古之乃𫟈知〉四声字苑云路阡陌惣名也

大路 唐韻に云はく、道路〈音は露、毛詩に遵大路篇有り、大路の和名は於保美知(おほみち)〉は南北を阡〈音は千、日本紀私記に多知之乃美知(たちしのみち)と云ふ〉と曰ひ、東西を陌〈音は百、同私記に与古之乃美知(よこしのみち)と云ふ〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、路は阡陌の惣名なりといふ。

巷 唐韵云巷〈胡絳反知末太〉里中道也

巷 唐韻に云はく、巷〈胡絳反、知末太(ちまた)〉は里中の道なりといふ。

十字 吴均行路難云縱横十字成阡陌〈今案十字者東西南北相分之道其中央似十字也俗用辻字本文未詳〉

十字 呉均行路難に云はく、縦横十字に阡陌を成すといふ。〈今案ふるに十字は東西南北相分つの道、其の中央は十字に似るなり、俗に辻の字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉

地道 日本紀私記云地道〈志太都𫟈遲〉

地道 日本紀私記に地道〈志太都美遅(したつみち)〉と云ふ。

碊道 文字集略云碊道〈士輦反上声之重漢語抄云夜末乃加介知〉山路閣道也

碊道 文字集略に云はく、碊道〈士輦反、上声の重、漢語抄に夜末乃加介知(やまのかけち)と云ふ〉は山路の閣道なりといふ。

津 四声字苑云津〈將隣反豆〉渡水處也唐令云諸渡関津及乗舩筏上下經津者皆當有過所

津 四声字苑に云はく、津〈将隣反、豆(つ)〉は水を渡る処なりといふ。唐令に云はく、諸の関、津を渡り、及び船筏に乗り上り下りして津を経る者は皆、当に過所有るべしといふ。

濟 尒雅注云濟〈子礼反和太利〉渡處也

済 爾雅注に云はく、済〈子礼反、和太利(わたり)〉は渡る処なりといふ。

泊 唐韵云泊〈傍各反度末利〉止也坤元録云雍州有百頃泊歧州有荷池泊〈今案播磨国大輪田泊此類也〉

泊 唐韻に云はく、泊〈傍各反、度末利(とまり)〉は止りなりといふ。坤元録に云はく、雍州に百頃の泊有り、岐州に荷池の泊有りといふ。〈今案ふるに播磨国の大輪田の泊は此の類なり〉

道路具卅四

道路具三十四

關 蔡邕月令章句云關〈古還反字亦作関日夲紀私記云關門世歧度〉在境所以察出禦入也

關 蔡邕月令章句に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る。日本紀私記に關門は世岐度(せきと)と云ふ〉は境に在りて出づるを察(み)、入るを禦ぐ所以なりといふ。

橋〈䓗臺附〉 說文云橋〈音喬波之〉水上横木所以渡也尒雅注云梁〈音良〉即水橋也楊氏漢語抄云䓗臺〈比良歧波之良〉橋兩端所竪之柱其頭似䓗花故云

橋〈葱台付〉 説文に云はく、橋〈音は喬、波之(はし)〉は水の上に木を横(よこた)へて渡る所以なりといふ。爾雅注に云はく、梁〈音は良〉は即ち水橋なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、葱台〈比良岐波之良(ひらきばしら)〉は橋を両端に竪めし柱、其の頭の葱花に似る故に云ふといふ。

石橋 尒雅注云矼〈音江以之波之〉石橋也

石橋 爾雅注に云はく、矼〈音は江、以之波之(いしばし)〉は石橋なりといふ。

浮橋 魏略五行志云洛水浮橋〈宇歧波之〉

浮橋 魏略五行志に洛水の浮橋〈宇岐波之(うきばし)〉と云ふ。

土橋 唐韵云圮〈音怡豆知波之〉土橋也

土橋 唐韻に云はく、圮〈音は怡、豆知波之(つちばし)〉は土橋なりといふ。

獨梁 淮南子云獨梁〈比度豆波之今案又一名獨木橋見翰苑等〉徒横一木之梁也

独梁 淮南子に云はく、独梁〈比度豆波之(ひとつばし)、今案ふるに又、一名に独木橋、翰苑等に見ゆ〉は徒(ただ)横に一木の梁なりといふ。

梯 郭知玄曰梯〈音低加介波之〉木堦㪽以登髙也唐韵云棧〈音笇一音賎訓同上〉板木構險爲道也

梯 郭知玄に曰はく、梯〈音は低、加介波之(かけはし)〉は木の堦にして高きに登る所以なりといふ。唐韻に云はく、桟〈音は算、一音に賤、訓は上に同じ〉は板木を険しきに構へて道と為るなりといふ。

遉邏 唐韵云遉邏〈上丑鄭反〉漢語抄云遉邏〈知毛利〉

遉邏 唐韻に遉邏〈上は丑鄭反〉と云ひ、漢語抄に遉邏〈知毛利(ちもり)〉と云ふ。

雁齒 白氏文集云鴨頭新縁水雁齒小紅橋

雁歯 白氏文集に云はく、鴨頭の新縁水、雁歯の小紅橋といふ。

驛 唐令云諸道湏置驛者毎卅里置一駅〈音繹无末夜〉若地勢險阻及無水草處隨縁置之

駅 唐令に云はく、諸道に須く駅を置くべきは、三十里毎に一駅〈音は繹、無末夜(むまや)〉を置け、若し地勢、険(さが)し阻(へだた)り、及び水草無き処は縁(たより)に随ひ之れを置けといふ。

舟車部第七

舟車部第七  

舟類卅五 舟具卅六 車類卅七 車類卅八

 舟類三十五 舟具三十六 車類三十七 車類三十八

舟類卅五

舟類三十五

舟舩〈艘附〉 方言云関東謂之舟〈音周〉關西謂之舩〈音旋布祢〉說文云艘〈蘓遭反〉舩數也

舟船〈艘付〉 方言に云はく、関東に之れを舟〈音は周〉と謂ひ、関西に之れを船〈音は旋、布禰(ふね)〉と謂ふといふ。説文に云はく、艘〈蘇遭反〉は船数なりといふ。

舶 唐韵云舶〈傍陌反楊氏漢語抄云豆具能布祢〉海中大舩也

舶 唐韻に云はく、舶〈傍陌反、楊氏漢語抄に豆具能布禰(つくのふね)と云ふ〉は海中の大船なりといふ。

艇〈游艇附〉 唐韵云艇〈徒鼎反上声之重楊氏漢語抄云艇乎夫祢游艇波師不祢〉小舩也釋名云二人所乗也

艇〈游艇付〉 唐韻に云はく、艇〈徒鼎反、上声の重、楊氏漢語抄に艇は乎夫禰(をぶね)、游艇は波師不禰(はしぶね)と云ふ〉は小船なりといふ。釈名に云はく、二人して乗る所なりといふ。

舴艋 唐韵云舴艋〈嘖猛二音舴艋豆利夫祢〉小漁舟也

舴艋 唐韻に云はく、舴艋〈嘖猛の二音、舴艋は豆利夫禰(つりぶね)〉は小さき漁舟なりといふ。

舼 釋名云艇小而深者曰舼〈渠容反字亦作𦨰今案太和加世俗用高瀬舟〉

舼 釈名に云はく、艇の小さくして深き者を舼〈渠容反、字は亦、𦨰に作る。今案ふるに太和加世(たわかせ)、俗に高瀬舟を用ゐる〉と曰ふといふ。

艜 釋名云艇薄而長者曰艜〈當盖反与帯同今案比良太俗用平田舟〉

艜 釈名に云はく、艇は薄くして長き者を艜〈当蓋反、帯と同じ。今案ふるに比良太(ひらた)、俗に平田舟を用ゐる〉と曰ふといふ。

舸 四声字苑云舸〈古我反楊氏云波夜布祢〉髙尾舟一云戦士可乗之輕舟也

舸 四声字苑に云はく、舸〈古我反、楊氏に波夜布禰(はまふね)と云ふ〉は高尾舟といふ。一に云はく、戦士の乗るべき軽き舟なりといふ。

艨艟 四声字苑云艨艟〈蒙衝二音又並去声漢語抄云以久佐不祢〉戦舩也

艨艟 四声字苑に云はく、艨艟〈蒙衝の二音、又、並びに去声、漢語抄に以久佐不禰(いくさぶね)と云ふ〉は戦船なりといふ。

水脉船 楊氏漢語抄云水脉船〈美乎比歧能布祢〉

水脈船 楊氏漢語抄に水脈船〈美乎比岐能布禰(みをひきのふね)〉と云ふ。

桴筏 論語注云桴編竹木大曰筏〈音伐字亦作𦪑〉小曰桴〈音浮玉篇字亦作艀在舟部以賀多〉

桴筏 論語注に云はく、桴は竹木を編みて大なるを筏〈音は伐、字は亦、𦪑に作る〉と曰ひ、小なるを桴〈音は浮、玉篇に字は亦、艀に作る、舟部に在り、以賀多(いかだ)〉と曰ふといふ。

査 唐韵云楂〈鋤加反字亦作査槎宇歧々〉水中浮木也

査 唐韻に云はく、楂〈鋤加反、字は亦、査、槎に作る。宇岐々(うきき)〉は水中の浮木なりといふ。

舟事類

舟事類

艐 說文云艐〈子紅反俗云爲流〉舩着沙不行也

艐 説文に云はく、艐〈子紅反、俗に為流(ゐる)と云ふ〉は船、沙に着きて行かざるなりといふ。

艤 唐韵云艤〈𩵋綺反訓不奈与曽比〉整舟向岸也

艤 唐韻に云はく、艤〈魚綺反、訓は不奈与曽比(ふなよそひ)〉は舟を整へ岸に向ふなりといふ。

𦨖 唐韵云𦨖〈初教反訓加比路久〉舩不安也

𦨖 唐韻に云はく、𦨖〈初教反、訓は加比路久(かひろぐ)〉は船の安(しづ)かならざるなりといふ。

舟具卅六

舟具三十六

舳 𠔥名苑注云舩前頭謂之舳〈音逐楊氏漢語抄云舟頭制水処也和名閇〉

舳 兼名苑注に云はく、船の前頭は之れを舳〈音は逐、楊氏漢語抄に舟の頭は水を制(おさ)ふる処と云ふ。和名は閉(へ)〉と謂ふといふ。

艫 𠔥名苑注云舩後頭謂之艫〈音盧楊氏曰舟後剌櫂處和語曰度毛〉

艫 兼名苑注に云はく、船の後頭は之れを艫〈音は盧、楊氏に舟の後は櫂を刺す処と曰ふ。和語に度毛(とも)と曰ふ〉と謂ふといふ。

帆 四声字苑云帆〈音凡一音泛保〉風衣也一云舩上掛檣上取風進舩幔也釋名云帆或以席爲之故曰帆席也

帆 四声字苑に云はく、帆〈音は凡、一音に泛、保(ほ)〉は風衣なりといふ。一に云はく、船の上、檣に上に掛けて風を取り船を進むる幔なりといふ。釈名に云はく、帆は或に席を以て之れを為る故に帆席と曰ふなりといふ。

帆竿 楊氏漢語抄云帆竿〈保偈多下古寒反〉

帆竿 楊氏漢語抄に帆竿〈保偈多(ほげた)、下は古寒反〉と云ふ。

帆柱 文選注云槳〈即兩反保波之良〉帆柱也又云帆檣〈諸墻反〉以長木爲之所以挂帆也

帆柱 文選注に云はく、槳〈即両反、保波之良(ほばしら)〉は帆柱なりといふ。又云はく、帆檣〈諸墻反〉は長き木を以て之れを為り、帆を挂くる所以なりといふ。

帆綱 文選注云長梢〈所交反師說保豆奈〉今之帆綱也

帆綱 文選注に云はく、長梢〈所交反、師説に保豆奈(ほづな)〉は今の帆綱なりといふ。

舟笭 釋名云舟中床所以席物曰笭〈力丁反布奈度古〉言但有簀如笭床也

舟笭 釈名に云はく、舟中の床に物を席(し)く所以に笭〈力丁反、布奈度古(ふなどこ)〉と曰ふといふ。但(ただ)簀有りて笭床の如きなるを言ふ。

苫 尒雅注云苫〈士廉反止万〉編菅茅以覆屋也

苫 爾雅注に云はく、苫〈士廉反、止万(とま)〉は菅茅を編みて以て屋を覆ふなりといふ。

篷庳 唐韵云篷庳〈蓬婢二音布奈夜賀太〉舩上屋也釋名云舟上屋謂之廬〈力居反〉言象庐舎也

篷庳 唐韻に云はく、篷庳〈蓬婢の二音、布奈夜賀太(ふなやかた)〉は船の上の屋なりといふ。釈名に云はく、舟上の屋は之れを謂ひて廬〈力居反〉といふ。廬舎に象るなるを言ふ。

枻 野王案枻〈音曳字亦作栧不奈太那〉大舩旁板也

枻 野王案に、枻〈音は曳、字は亦、栧に作る、不奈太那(ふなだな)〉は大船の旁の板なりといふ。

棹 釋名云在旁撥水曰櫂〈𥄂教反字亦作棹楊氏漢語抄云加伊〉櫂於水中且進櫂也

棹 釈名に云はく、旁に在りて水を撥ぬるを櫂〈直教反、字は亦、棹に作る。楊氏漢語抄に加伊(かい)と云ふ〉と曰ひ、水中に櫂し、且(また)櫂を進むなりといふ。

檝 釋名云檝〈音接一音集賀遲〉使舟捷疾也𠔥名苑云檝一名橈〈奴効反一音饒〉

檝 釈名に云はく、檝〈音は接、一音に集、賀遅(かぢ)〉は舟をして捷疾ならしむといふ。兼名苑に云はく、檝は一名に橈〈奴効反、一音に饒〉といふ。

㰏 唐韵云㰏〈音髙字亦作篙佐乎〉棹竿也方言云剌舩竹也

㰏 唐韻に云はく、㰏〈音は高、字は亦、篙に作る、佐乎(さを)〉は棹竿なりといふ。方言に云はく、船を刺す竹なりといふ。

艣 唐韵云艣〈郎古反与魯同〉所以進舩也

艣 唐韻に云はく、艣〈郎古反、魯と同じ〉は船を進むる所以なりといふ。

舵 唐韵云舵〈徒可反上声之重字亦作䑨〉正舩木也漢語抄云柁〈舩尾也或作柂和語云太以之今案舟人呼挾杪爲䑨師是〉

舵 唐韻に云はく、舵〈徒可反、上声の重、字は亦、䑨に作る〉は船を正す木なりといふ。漢語抄に柁〈船尾なり、或に柂に作る、和語に太以之(たいし)と云ふ。今案ふるに舟人の挟杪を呼びて舵師と為すは是れ〉と云ふ。

纜 考声切韵云纜〈藍淡反又音濫和名度毛豆奈〉維舟索也

纜 考声切韻に云はく、纜〈藍淡反、又の音に濫、和名は度毛豆奈(ともづな)〉は舟を維(つな)く索(なは)なりといふ。

牽𥾣 唐韵云牽𥾣〈音支訓豆奈天〉挽舩縄也

牽𥾣 唐韻に云はく、牽𥾣〈音は支、訓は豆奈天(つなて)〉は船を挽く縄なりといふ。

牫牱 唐韵云牫牱〈臧柯二音楊氏漢語抄云加之〉所以繫舟也

牫牱 唐韻に云はく、牫牱〈臧柯の二音、楊氏漢語抄に加之(かし)と云ふ〉は舟を繋ぐ所以なりといふ。

碇 字苑云海中以石駐舟曰碇〈丁定反字亦作矴和名伊加利〉

碇 字苑に云はく、海中に石を以て舟を駐むるを碇〈丁定反、字は亦、矴に作る。和名は伊加利(いかり)〉と曰ふといふ。

𦀌 周易注云衣𦀌〈女余反又奴下反字亦作袽和名夫祢乃能米〉所以塞舟漏也

𦀌 周易注に云はく、衣𦀌〈女余反、又、奴下反、字は亦、袽に作る。和名は夫禰乃能米(ふねののめ)〉は舟の漏るるを塞ぐ所以なりといふ。

戽〈浛附〉 切韻云戽〈音故和名由止利〉洩舟中水之斗也唐韵云浛〈故紺反楊氏漢語抄云布奈由一云容水〉水和物也

戽〈浛付〉 切韻に云はく、戽〈音は故、和名は由止利(ゆとり)〉は舟中の水を洩(さら)ふ斗なりといふ。唐韻に云はく、浛〈故紺反、楊氏漢語抄に布奈由(ふなゆ)と云ひ、一に容水と云ふ〉は水の物に和ふるなりといふ。

𠢧 楊氏漢語抄云𠢧〈書證反布奈迩〉

𠢧 楊氏漢語抄に𠢧〈書証反、布奈邇(ふなに)〉と云ふ。

車類卅七

車類三十七

車駕 古史考云黄帝作車〈尺遮反一音居久留万〉字苑云駕〈音賀〉牛馬入轅軛中也

車駕 古史考に云はく、黄帝、車〈尺遮反、一音に居、久留万(くるま)〉を作るといふ。字苑に云はく、駕〈音は賀〉は牛馬、轅軛の中に入るなりといふ。

轝 字苑云轝〈音餘字或作輿古之〉車無輪也

轝 字苑に云はく、轝〈音は余、字は或に輿に作る、古之(こし)〉は車に輪無きなりといふ。

腰輿 唐令云行障六具分㔫右夾車其次腰輿〈太古之〉

腰輿 唐令に云はく、行障六具、左右に分れ、車を夾み、其の次に腰輿〈太古之(たごし)〉といふ。

籃轝 晉書云陶元亮所乗乃是籃轝〈音藍言竹車也〉

籃轝 晋書に云はく、陶元亮の乗る所、乃ち是れを籃轝〈音は藍、竹車なるを言ふ〉といふ。

輦 周礼注云后居宮中縱容所乗謂之輦〈力展反天久留万〉爲輕輪人挽所行也

輦 周礼注に云はく、后、宮中に居りて縦容(ほしきまま)に乗る所は之れを輦〈力展反、天久留万(てぐるま)〉と謂ひ、軽輪に為りて人挽きて行く所なりといふ。

青蓋車 続漢書輿服志云皇太子皇子皆朱輪青蓋故曰青蓋車

青蓋車 続漢書輿服志に云はく、皇太子、皇子は皆、朱輪青蓋、故、青蓋車と曰ふといふ。

長簷車 顔氏家訓云乗長簷車〈今案俗云庇剌車是乎〉

長簷車 顔氏家訓に云はく、長簷車〈今案ふるに俗に庇刺しの車と云ふは是か〉に乗るといふ。

四馬車 論語注云小車四馬車也

四馬車 論語注に云はく、小車は四馬の車なりといふ。

副車 漢書注云副車〈曽閇久流万俗云比度太万比〉後乗也

副車 漢書注に云はく、副車〈曽閉久流万(そへぐるま)、俗に比度太万比(ひとたまひ)と云ふ〉は後乗りなりといふ。

飛車 𠔥名苑注云弃肱國人〈今案國人無右臂故名之〉能作飛車從風飛行故曰飛車

飛車 兼名苑注に云はく、奇肱国人〈今案ふるに国人に右臂無し、故、之れを名く〉は能く飛車を作り、風に従ひ飛び行く、故、飛車と曰ふといふ。

指南車 鬼谷子注云周成王時肅慎氏献白雉還恐惑周公作指南車以送之

指南車 鬼谷子注に云はく、周の成王の時、粛慎氏、白雉を献る、還るとき惑はむことを恐れて周公、指南車を作りて以て之れを送るといふ。

車具卅八

車具三十八

車蓋〈轑附〉 大戴礼云車蓋〈俗車屋形夜賀太〉廿八轑以象列星也野王案轑〈音老〉車盖上椽也

車蓋〈轑付〉 大戴礼に云はく、車蓋〈俗に車の屋形、夜賀太(やかた)〉二十八轑は以て列星に象るなりといふ。野王案に轑〈音は老〉は車蓋の上椽なりとす。

輫 唐韵云輫〈音俳〉車箱也楊氏漢語抄云車箱〈車乃度古一云車輿〉

輫 唐韻に云はく、輫〈音は俳〉は車箱なりといふ。楊氏漢語抄に車箱〈車乃度古(くるまのとこ)、一に車輿と云ふ〉と云ふ。

軾〈𨋏附〉 說文云軾〈音式車乃止之歧美〉車前也字苑云𨋏〈之忍反〉車後横木也

軾〈𨋏付〉 説文に云はく、軾〈音は式、車乃止之岐美(くるまのとじきみ)〉は車の前なりといふ。字苑に云はく、𨋏〈之忍反〉は車の後の横木なりといふ。

轅 唐韵云輈〈張流反〉車轅也轅〈音園奈加江俗在前謂之轅在後謂之鴟尾或云小轅〉車轅也

轅 唐韻に云はく、輈〈張流反〉は車の轅なり、轅〈音は園、奈加江(ながえ)、俗に前に在るは之れを轅と謂ひ、後に在るは之れを鴟尾と謂ふ。或に小轅と云ふ〉は車の轅なりといふ。

軛 釋名云軛〈音厄久比歧〉所以扼牛領也

軛 釈名に云はく、軛〈音は厄、久比岐(くびき)〉は牛の領に扼(おさ)ふる所以なりといふ。

軸 說文云軸〈𥄂六反与古賀𫟈〉持輪者也

軸 説文に云はく、軸〈直六反、与古賀美(よこがみ)〉は輪を持つ者なりといふ。

𩌏 唐韻云𩌏〈音愽〉車下索也釋名云𩌏〈今案度古之波利〉在車下与輿相連縛者也

𩌏 唐韻に云はく、𩌏〈音は博〉は車の下の索なりといふ。釈名に云はく、𩌏〈今案ふるに度古之波利(とこしばり)〉は車の下に在りて輿と相連ね縛る者なりといふ。

輪〈輞附〉 野王案輪〈音倫和〉車脚所以轉進也字苑云𨊾〈文兩反楊氏漢語抄云於保和一云輪牙〉車輪郭曲木也

輪〈輞付〉 野王案に輪〈音は倫、和(わ)〉は車の脚の転(まろ)び進む所以なりとす。字苑に云はく、輞〈文両反、楊氏漢語抄に於保和(おほわ)と云ふ。一に輪牙と云ふ〉は車輪の郭の曲木なりといふ。

轂 說文云轂〈古禄反楊氏漢語抄云車乃古之歧俗云筒〉輻所湊也

轂 説文に云はく、轂〈古禄反、楊氏漢語抄に車乃古之岐(くるまのこしき)と云ひ、俗に筒と云ふ〉は輻の湊(あつ)まる所なりといふ。

輻 老子經云古車有卅輻〈音福夜〉以象月数也

輻 老子経に云はく、古車に三十輻〈音は福、夜(や)〉有り、月に象るを以ての数なりといふ。

轄 野王案轄〈音割久佐比〉軸端䥫也

轄 野王案に轄〈音は割、久佐比(くさび)〉は軸端の鉄なりとす。

釭 說文云釭〈古紅反又古雙反車乃加利毛〉轂口䥫也

釭 説文に云はく、釭〈古紅反、又、古双反、車乃加利毛(くるまのかりも)〉は轂口の鉄なりといふ。

輠 唐韵云輠〈胡果反上声之重又音果漢語抄云車乃阿不良豆乃〉車脂角也

輠 唐韻に云はく、輠〈胡果反、上声の重、又、音は果、漢語抄に車乃阿不良豆乃(くるまのあぶらのつの)と云ふ〉は車の脂角なりといふ。

乗泥 楊氏漢語抄云乗泥〈車乃豆知波良非〉

乗泥 楊氏漢語抄に乗泥〈車乃豆知波良非(くるまのつちはらひ)〉と云ふ。

罿 唐韵云罿〈音童一音衝車乃阿𫟈〉車上網也

罿 唐韻に云はく、罿〈音は童、一音に衝、車乃阿美(くるまのあみ)〉は車の上の網なりといふ。

車簾 唐韵云㡙㡘〈篦廉二音俗云車簾〉車帷也

車簾 唐韻に云はく、㡙㡘〈篦廉の二音、俗に車簾と云ふ〉は車の帷なりといふ。

鞇 釋名云車中所坐者曰文鞇〈音与茵同車乃之度祢〉用虎皮有文綵因輿而相連著也

鞇 釈名に云はく、車の中の坐る所の者を文鞇〈音は茵と同じ、車乃之度禰(くるまのしとね)〉と曰ひ、虎皮を用ゐ、文綵有り、輿に因りて相連ね著くるなりといふ。

榻 唐韵云榻〈吐盍反之知〉床也

榻 唐韻に云はく、榻〈吐盍反、之知(しぢ)〉は床なりといふ。

鞦 字苑云鞦〈音秋字亦作鞧之利加歧〉車鞦㪽以制牛後也

鞦 字苑に云はく、鞦〈音は秋、字は亦、鞧に作る、之利加岐(しりがき)〉は車鞦、牛の後を制ふる所以なりといふ。

鞅 毛詩注云靷〈音引〉㪽以引車也字苑云鞅〈於兩反漢語抄云无奈加歧〉軛下絆頸縄也

鞅 毛詩注に云はく、靷〈音は引〉は車を引く所以なりといふ。字苑に云はく、鞅〈於両反、漢語抄に無奈加岐(むなかき)と云ふ〉は軛の下にて頸に絆(まと)ふ縄なりといふ。

㡔䘰 唐韵云㡔䘰〈務延二音俗云久𠃧於保比〉牛領上衣也

㡔䘰 唐韻に云はく、㡔䘰〈務延の二音、俗に久飛於保比(くびおほひ)と云ふ〉は牛の領の上衣なりといふ。

牛縻 蒼頡篇云縻〈音与糜同波奈豆良〉牛韁也字書云桊〈音眷楊氏漢語抄云桊牛乃波奈岐〉牛鼻環也

牛縻 蒼頡篇に云はく、縻〈音は糜と同じ、波奈豆良(はなづら)〉は牛の韁なりといふ。字書に云はく、桊〈音は眷、楊氏漢語抄に桊は牛乃波奈岐(うしのはなぎ)と云ふ〉は牛の鼻環なりといふ。

珍寶部第八

珍宝部第八  

金銀類卅九 玉石類四十

 金銀類三十九 玉石類四十

金銀類卅九

金銀類三十九

金 尒雅云黄金曰璗〈徒黨反〉其𫟈者謂之鏐〈力幽反〉即紫磨金也說文云銑〈蘓典反古加祢〉金之最有光澤也

金 爾雅に云はく、黄金を璗〈徒党反〉と曰ひ、其の美なる者は之れを鏐〈力幽反〉と謂ひ、即ち紫磨金なりといふ。説文に云はく、銑〈蘇典反、古加禰(こがね)〉は金の最も光沢有るなりといふ。

金屑 陶隠居曰金屑一名生金〈古加祢乃湏利久豆〉

金屑 陶隠居に曰はく、金屑は一名に生金といふ。〈古加禰乃須利久豆(こがねのすりくず)〉

銀 尒雅云白金曰銀〈冝珎反〉其𫟈者謂之鐐〈力凋力弔二反之路加祢〉

銀 爾雅に云はく、白金は銀〈宜珍反〉と曰ひ、其の美なる者は之れを鐐〈力凋、力弔の二反、之路加禰(しろかね)〉と謂ふといふ。

銀屑 陶隠居曰銀屑一名銀蘓〈銀乃湏利久豆〉

銀屑 陶隠居に曰はく、銀屑は一名に銀蘇といふ。〈銀乃須利久豆(しろかねのすりくず)〉

銅 說文云銅〈音同阿加々祢〉赤金也

銅 説文に云はく、銅〈音は同、阿加々禰(あかがね)〉は赤金なりといふ。

半𡦦 唐韵云鎚〈𥄂類反〉好銅半𡦦也

半熟 唐韻に云はく、鎚〈直類反〉は好き銅の半熟なりといふ。

鐵〈𨮘附〉 說文云鐵〈他結反久路加祢此間一訓祢利〉黒金也唐韵云𨮘〈音賔〉䥫爲刀甚利

鉄〈鑌付〉 説文に云はく、鉄〈他結反、久路加禰(くろがね)、此の間に一訓に禰利(ねり)〉は黒金なりといふ。唐韻に云はく、鑌〈音は賓〉鉄は刀と為て甚だ利しといふ。

鐵落 本草云鐵落一名銕液〈䥫乃波太一訓加奈久曽〉蘓敬曰是鍜家焼䥫赤沸砧上鍜之皮甲落也

鉄落 本草に云はく、鉄落は一名に鉄液といふ〈鉄乃波太(くろがねのはだ)、一に加奈久曽(かなくそ)と訓む〉。蘇敬に曰はく、是れ鍜家の鉄を焼きて赤く沸き、砧上に之れを鍜へば皮甲落つるなりといふ。

鐵精 陶隱居曰䥫精一名䥫漿〈加祢乃佐比〉鍜竃中如塵也

鉄精 陶隠居に曰はく、鉄精は一名に鉄漿〈加禰乃佐比(かねのさひ〉、鍜竃の中の塵の如きなりといふ。

鈆 說文云鈆〈音延奈万利〉青金也

鉛 説文に云はく、鉛〈音は延、奈万利(なまり)〉は青金なりといふ。

鍚 唐韵云鍚〈先擊反〉鈆鍚尒雅云鍚謂之鈏〈常𠫤反〉𠔥名苑云一名白𨭛〈盧盍反之路奈万利〉

鍚 唐韻に云はく、鍚〈先撃反〉は鉛鍚といふ。爾雅に云はく、鍚は之れを鈏〈常吝反〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名に白鑞〈盧盍反、之路奈万利(しろなまり)〉といふ。

水銀 蔣魴切韻云汞〈胡孔反上声之重𫟈豆加祢〉水銀別名也唐韵云澒〈今案汞澒或通〉水銀滓也

水銀 蒋魴切韻に云はく、汞〈胡孔反、上声の重、美豆加禰(みづかね)〉は水銀の別名なりといふ。唐韻に云はく、澒〈今案ふるに汞、澒、或に通ふ〉は水銀の滓なりといふ。

汞粉 陶隱居曰汞粉〈𫟈豆加祢乃賀湏〉焼時飛著釡上之名也俗名之水銀灰

汞粉 陶隠居に曰はく、汞粉〈美豆加禰乃賀須(みづかねのかす)〉は焼く時、飛びて釡の上に著くものの名なり、俗に之を名けて水銀灰といふ。

鎭粉 小品方云鎭粉〈美豆賀祢乃介布利〉焼朱砂爲水銀其上黒煙名也

鎮粉 小品方に云はく、鎮粉〈美豆賀禰乃介布利(みづかねのけぶり)〉は朱砂を焼き水銀を為るとき、其の上の黒煙の名なりといふ。

錢 唐韵云鎈〈初牙反与差同〉錢異名也漢書志云鏹〈居兩反訓世迩豆良〉錢貫也音義云鎔〈音容世迩乃波太毛能〉錢模也

銭 唐韻に云はく、鎈〈初牙反、差と同じ〉は銭の異名なりといふ。漢書志に云はく、鏹〈居両反、訓は世邇豆良(ぜにづら)〉は銭貫なりといふ。音義に云はく、鎔〈音は容、世邇乃波太毛能(ぜにのはたもの)〉は銭模なりといふ。

玉石類四十

玉石類四十

珠 白虎通云海出明珠〈日本紀私記云真珠之良太万〉

珠 白虎通に云はく、海より明珠〈日本紀私記に真珠は之良太万(しらたま)と云ふ〉出づといふ。

玉 四声字苑云玉〈語欲反白玉和名同上〉寶石也𠔥名苑云球琳〈求林二音〉琅玕〈郎干二音〉琨瑤〈昆遥二音〉琬琰〈遠掩二音〉皆美玉名也

玉 四声字苑に云はく、玉〈語欲反、白玉の和名は上に同じ〉は宝石なりといふ。兼名苑に云はく、球琳〈求林の二音〉、琅玕〈郎干の二音〉、琨瑤〈昆遥の二音〉、琬琰〈遠掩の二音〉は皆、美しき玉の名なりといふ。

璞 野王案璞〈普角反阿良太万〉玉未理也

璞 野王案に、璞〈普角反、阿良太万(あらたま)〉は玉の未だ理(みが)かざるなりといふ。

水精 𠔥名苑云水玉一名月珠〈𫟈豆止留太万〉水精也

水精 兼名苑に云はく、水玉、一名に月珠〈美豆止留太万(みづとるたま)〉は水精なりといふ。

火精 𠔥名苑云火珠一名瑒璲〈陽燧二音比止留太万〉火精也

火精 兼名苑に云はく、火珠、一名に瑒璲〈陽燧の二音、比止留太万(ひとるたま)〉は火精なりといふ。

瑠璃 野王案瑠璃〈流離二音俗云留利〉青色而如玉者也

瑠璃 野王案に、瑠璃〈流離の二音、俗に留利(るり)と云ふ〉は青色にして玉の如き者なりとす。

雲母 本草云雲母〈歧良々〉多赤謂之雲珠五色具謂之雲華多青謂之雲英多白謂之雲液多黄謂之雲沙

雲母 本草に云はく、雲母〈岐良々(きらら)〉、多く赤きは之れを雲珠と謂ひ、五色具ふるは之れを雲華と謂ひ、多く青きは之れを雲英と謂ひ、多く白きは之れを雲液と謂ひ、多く黄なるは之れを雲沙と謂ふといふ。

玫瑰 唐韵云玫瑰〈枚廻二音今案和名与雲母同見干文選讀翡翠火齊処〉火齊珠也

玫瑰 唐韻に云はく、玫瑰〈枚廻の二音、今案ふるに和名は雲母と同じ、干を見るは、文選に翡翠火斉の処を読めばなり〉は火斉珠なりといふ。

珊瑚 說文云珊瑚〈𦙱胡二音〉色赤玉出於海底山中也

珊瑚 説文に云はく、珊瑚〈𦙱胡の二音〉は色赤き玉、海底の山中より出づるなりといふ。

琥珀 𠔥名苑云琥珀〈虎伯二音俗音久波久〉一名江珠

琥珀 兼名苑に云はく、琥珀〈虎伯の二音、俗の音は久波久(くはく)〉は一名に江珠といふ。

硨磲 廣雅云車渠〈陸詞並從石作硨磲也俗音謝古〉石之次玉也

硨磲 広雅に云はく、車渠〈陸詞に並びに石に従ひ作硨磲に作るなり、俗の音は謝古〉は石の玉に次ぐなりといふ。

馬脳 廣雅云馬脳〈俗音女奈宇〉石之似玉也

馬脳 広雅に云はく、馬脳〈俗の音は女奈宇(めなう)〉は石の玉に似るなりといふ。

鍮石 考声切韵云鍮〈他侯反字亦作鋀鍮石二音俗云中尺〉石似金西域以銅䥫雜藥令爲之

鍮石 考声切韻に云はく、鍮〈他侯反、字は亦、鋀に作る、鍮石の二音は俗に中尺と云ふ〉石は金に似るといふ。西域に銅鉄を以て薬に雑ぜて之れを為ら令む。

布帛部第九〈部類書有此部蓋綾羅錦綺絹布等惣名也〉

布帛部第九〈部類書に此の部有り、蓋し綾、羅、錦、綺、絹布等の惣名なり〉  

錦綺類四十一 絹布類四十二

 錦綺類四十一 絹布類四十二

錦綺類四十一

錦綺類四十一

錦 釋名云錦〈居飮反迩之歧本朝式有暈𦅘錦高麗錦軟錦兩面錦等之名𦅘字所出未詳〉金也作之用功重其価如金故製其字帛与金也

錦 釈名に云はく、錦〈居飲反、邇之岐(にしき)、本朝式に暈繝錦、高麗錦、軟錦、両面錦等の名有り、繝の字は出づる所未だ詳かならず〉は金なり、之れを作るに用ゐる功の重くして其の価は金の如し、故に其の字を製るに帛に金を与ふなりといふ。

綺 蔣魴切韻云綺〈虚彼反歧一云於利毛能又一訓加无波太〉似錦而薄者也釋名云綺棊也謂方丈如棊也

綺 蒋魴切韻に云はく、綺〈虚彼反、岐(き)、一に於利毛能(おりもの)と云ひ、又、一に加無波太(かむはた)と訓む〉は錦に似て薄き者なりといふ。釈名に云はく、綺は棊なりといふ。方丈の棊の如きなるを謂ふ。

兎褐 蒋魴切韻云兎褐〈戸葛反此间云止加千〉繒衣以兎毛和織也

兎褐 蒋魴切韻に云はく、兎褐〈戸葛反、此の間に止加千(とかち)と云ふ〉は繒衣、兎毛を以て和へ織るなりといふ。

夾纈 東宮切韵云纈〈胡結反夾纈此间云加宇介知〉結帛爲文綵也孫愐曰繒之有夾花也

夾纈 東宮切韻に云はく、纈〈胡結反、夾纈は此の間に加宇介知(かうけち)と云ふ〉は帛を結ひて文綵を為るなりといふ。孫愐に曰はく、繒の夾花有るなりといふ。

繡 蔣魴切韻云繡〈息又反訓沼无毛乃〉以五色絲剌万物形狀也

繡 蒋魴切韻に云はく、繡〈息又反、訓は沼無毛乃(ぬむもの)〉は五色の糸を以て万物の形状を刺すなりといふ。

綾〈紋附〉 野王案曰綾〈音陵阿夜有就線綾長連綾二足綾花文綾平綾等名〉似綺而細者也考声切韻云紋〈音文〉吴越謂小綾也

綾〈紋付〉 野王案に曰はく、綾〈音は陵、阿夜(あや)、熟線綾、長連綾、二足綾、花文綾、平綾等の名有り〉は綺に似て細き者なりといふ。考声切韻に云はく、紋〈音は文〉は呉越に小綾を謂ふなりといふ。

羅 唐韵云羅〈魯何反此间云良一云蝉翼〉綺羅亦網羅也

羅 唐韻に云はく、羅〈魯何反、此の間に良(ら)と云ひ、一に蝉翼と云ふ〉は綺羅、亦、網羅なりといふ。

縠〈縬附〉 釋名云縠〈胡谷反古女〉其形縬々視之如粟也唐韵云縬〈子六反与叔同此间云之々良歧〉繒文㒵也

縠〈縬付〉 釈名に云はく、縠〈胡谷反、古女(こめ)〉は其の形、縬々として之れを視れば粟の如きなりといふ。唐韻に云はく、縬〈子六反、叔と同じ、此の間に之々良岐(ししらぎ)と云ふ〉は繒文の貌なりといふ。

縑 毛詩注云綃〈所交反又音消加止利〉縑也釋名云縑〈音𠔥〉其絲細緻數𠔥於絹也漢書云灌嬰販繒〈疾陵反師說上讀同今案又布帛惣名見說文〉

縑 毛詩注に云はく、綃〈所交反、又、音は消、加止利(かとり)〉は縑なりといふ。釈名に云はく、縑〈音は兼〉は其の糸、細緻にして数(しばしば)絹に兼ぬるなりといふ。漢書に云はく、灌嬰は繒〈疾陵反、師説に上は読むに同じ。今案ふるに又、布帛の惣名なり、説文に見ゆ〉を販ぐといふ。

絹布類四十二

絹布類四十二

絹〈幅字附〉 陸詞切韻云絹〈吉椽反歧沼〉繒帛也四声字苑云幅〈音福俗訓能〉布絹之類闊狹也

絹〈幅字付〉 陸詞切韻に云はく、絹〈吉椽反、岐沼(きぬ)〉は繒帛なりといふ。四声字苑に云はく、幅〈音は福、俗に訓は能(の)〉は布絹の類の闊狭なりといふ。

練 蒋魴切韻云練〈郎甸反祢利歧沼〉𡦦絹也

練 蒋魴切韻に云はく、練〈郎甸反、禰利岐沼(ねりぎぬ)〉は熟絹なりといふ。

絁〈紕字附〉 唐韻云絁〈式支反与施同阿之歧沼〉繒似布也紕〈匹毗反漢語抄云万与布一云与流〉繒欲壊也

絁〈紕字付〉 唐韻に云はく、絁〈式支反、施と同じ、阿之岐沼(あしぎぬ)〉繒は布に似るなり、紕〈匹毗反、漢語抄に万与布(まよふ)と云ふ。一に与流(よる)と云ふ〉は繒の壊れむと欲(す)るなりといふ。

帛 說文云帛〈蒲角反俗云波久乃歧奴〉薄繒也

帛 説文に云はく、帛〈蒲角反、俗に波久乃岐奴(はくのきぬ)と云ふ〉は薄き繒なりといふ。

紗 四声字苑云紗〈所加反俗云射〉似絹太輕薄也

紗 四声字苑に云はく、紗〈所加反、俗に射と云ふ〉は絹に似て太だ軽く薄きものなりといふ。

布 四声字苑云布〈慱故反沼能〉織麻及紵爲帛也

布 四声字苑に云はく、布〈博故反、沼能(ぬの)〉は麻、及び紵を織りて帛と為しものなりといふ。

白絲布 唐式云白絲布〈今案俗用手作布三字云天豆久利乃沼乃是乎〉

白糸布 唐式に白糸布〈今案ふるに俗に手作布の三字を用ゐ天豆久利乃沼乃(てづくりのぬの)と云ふは是か〉と云ふ。

紵布 唐式云紵布三端〈今案紵者麻紵之紵俗用麻布二字云阿佐沼乃是乎〉

紵布 唐式に紵布三端〈今案ふるに紵は麻紵の紵、俗に麻布の二字を用ゐ阿佐沼乃(あさぬの)と云ふは是か〉と云ふ。

調布 唐式云楊州庸調布〈今案本朝式有庸調布讀豆歧乃沼乃又有信濃望陀等名望陀者上総国郡名也其體与他国調布別異故以所出国郡名爲名也〉

調布 唐式に楊州の庸調布〈今案ふるに本朝式に庸調布有り、豆岐乃沼乃(つきのぬの)と読む。又、信濃に望陀等の名有り、望陀は上総国の郡の名なり、其の体、他国の調布と別異(ことな)る、故に出づる所の国郡の名を以て名と為るなり〉と云ふ。

貲布 唐韵云㠿〈音与貲同〉布名也唐式云貲布〈楊氏漢語抄云佐与𫟈乃沼能今案貲布冝作㠿布乎〉

貲布 唐韻に云はく、㠿〈音は貲と同じ〉は布の名なりといふ。唐式に貲布〈楊氏漢語抄に佐与美乃沼能(さよみのぬの)と云ふ。今案ふるに貲布は宜しく㠿布に作るべきか〉と云ふ。

商布 本朝式云商布〈多迩〉

商布 本朝式に商布〈多邇(たに)〉と云ふ。

綿絮〈屯字附〉 唐韻云綿〈武連反和太〉絮也四声字苑云絮〈息慮反〉似綿而麁𢙣也唐令云綿六兩爲屯〈屯聚也俗一屯読𠃧止毛遲〉

綿絮〈屯字付〉 唐韻に云はく、綿〈武連反、和太(わた)は〉は絮なりといふ。四声字苑に云はく、絮〈息慮反〉は綿に似て麁く悪しきなりといふ。唐令に云はく、綿六両を屯〈屯は聚むなり、俗に一屯を飛止毛遅(ひともぢ)と読む〉と為といふ。

和名類聚抄巻第三

和名類聚抄巻第三

和名類聚抄巻第四

和名類聚抄巻第四  

裝束部第十 飮食部第十一 器皿部第十二 燈火部第十三

 装束部第十 飲食部第十一 器皿部第十二 灯火部第十三

裝束部第十

装束部第十  

冠帽類四十三 冠帽具四十四 衣服類四十五 衣服具四十六 𦝫帶類四十七 𦝫帶具四十八 履襪類四十九 履襪具五十

 冠帽類四十三 冠帽具四十四 衣服類四十五 衣服具四十六 腰帯類四十七 腰帯具四十八 履襪類四十九 履襪具五十

冠帽類四十三

冠帽類四十三

冠〈幞頭附〉 𠔥名苑注云冠〈音官〉黄帝造也辨色立成云幞頭〈賀宇布利幞音僕今案楊氏漢語抄說同唐令等亦用之〉

冠〈幞頭付〉 兼名苑注に云はく、冠〈音は官〉は黄帝の造るなりといふ。弁色立成に幞頭〈賀宇布利(かうぶり)、幞の音は僕、今案ふるに楊氏漢語抄の説に同じ。唐令等に亦、之れを用ゐる〉と云ふ。

冕 續漢書輿服志云冕〈音免玉乃冠〉冠之前後垂旒者也

冕 続漢書輿服志に云はく、冕〈音は免、玉乃冠(たまのかうぶり)〉は冠の前後に旒を垂るる者なりといふ。

雲冠 唐令云景雲儛八人五色雲冠〈俗云万比乃加之良〉

雲冠 唐令に云はく、景雲儛八人、五色の雲冠といふ。〈俗に万比乃加之良(まひのかしら)と云ふ〉

天冠 内典云環釧釵璫天冠臂印〈涅槃經文天冠俗訛云天和〉

天冠 内典に環釧釵璫、天冠臂印〈涅槃経文に天冠は俗に訛りて天和(てわ)と云ふ〉と云ふ。

帞頟 方言云頟巾或謂之帞頟〈帞音陌〉或謂之絡頭〈絡音落〉唐令云髙昌伎一部舞二人紅朱頟

帞額 方言に云はく、額巾は或に之れを帞額〈帞の音は陌〉と謂ひ、或に之れを絡頭〈絡の音は落〉と謂ふといふ。唐令に高昌伎一部の舞は二人、紅朱の額と云ふ。

烏帽〈帽子附〉 𠔥名苑云帽一名頭衣〈帽音耄烏帽子俗訛烏爲焉今案烏焉或通見文選注玉篇等〉唐式云庻人帽子皆寛大露面不得有掩蔽

烏帽〈帽子付〉 兼名苑に云はく、帽は一名に頭衣といふ〈帽の音は耄、烏帽子、俗に烏を訛りて焉とす。今案ふるに烏、焉は或に通ふ、文選注、玉篇等に見ゆ〉。唐式に云はく、庶人の帽子は皆、寛大にして面を露にして掩ひ蔽すこと有ること得ずといふ。

頭巾 唐令云諸給時服冬則頭巾一枚

頭巾 唐令に云はく、諸そ時服に冬は則ち頭巾一枚を給せといふ。

幗 釋名云幗〈古誨反去声又古獲反知歧利加宇不利今老嫗戴之〉覆髻上者也唐韵云幗婦人喪冠也

幗 釈名に云はく、幗〈古誨反、去声、又、古獲反、知岐利加宇不利(ちきりかうぶり)、今、老嫗、之れを戴す〉は髻の上を覆ふ者なりといふ。唐韻に云はく、幗は婦人の喪の冠なりといふ。

冠帽具四十四

冠帽具四十四

簮 四声字苑云簮〈作含反又則岑反加无㔫之〉挿冠釘也蒼頡篇云簮笄也釋名云笄〈音鷄此間云笄子〉係也所以抅冠使不墜也

簪 四声字苑に云はく、簪〈作含反、又、則岑反、加無左之(かむさし)〉は冠に挿す釘なりといふ。蒼頡篇に云はく、簪は笄なりといふ。釈名に云はく、笄〈音は鶏、此の間に笄子と云ふ〉は係るなり、冠に抅りて墜ちざらしむる所以なりといふ。

巾子 辨色立成云巾子〈此間巾音如渾〉幞頭具所以挿髻者也

巾子 弁色立成に云はく、巾子〈此の間に巾の音は渾の如し〉の幞頭の具にして髻に挿す所以の者なりといふ。

纓 唐韵云纓〈於盈反俗云燕尾〉冠纓礼記云玄纓紫緌自魯桓公始焉

纓 唐韻に云はく、纓〈於盈反、俗に燕尾と云ふ〉は冠の纓なりといふ。礼記に云はく、玄纓、紫緌は魯の桓公より始まれりといふ。

緌 𠔥名苑云緌〈儒誰反与蕤同〉一名老繫〈和名冠乃乎一云保己湏介又云於以加計或說云老人髻落以此繫冠使不墜故名老繫也今不論老少武官皆用之〉

緌 兼名苑に云はく、緌〈儒誰反、蕤と同じ〉は一名に老繋といふ。〈和名は冠乃乎(かうぶりのを)、一に保己須介(ほこすけ)と云ひ、又、於以加計(おいかけ)と云ふ。或説に云はく、老人は髻落ち、此れを以て冠を繋げて墜ちざらしむる故に老繋と名づくるなりといふ。今、老い少きを論はず、武官は皆、之れを用ゐる〉

擽鬢㕞 文選云勁㕞理𩯭〈李善曰通俗文所以理𩯭謂之㕞也音雪〉釋名云纛〈音盗〉導也所以導擽𩯭髮也或擽𩯭〈擽音暦加𫟈加歧〉

擽鬢刷 文選に云はく、勁刷につよきくしはらひ理鬢〈李善に曰はく、通俗文に鬢を理むる所以に之れを刷(かきつくろ)ふと謂ふなりといふ。音は雪〉にかみををさむといふ。釈名に云はく、纛〈音は盗〉は導なり、鬢髪を導き擽く所以なりといふ。或に鬢を擽く〈擽の音は暦、加美加岐(かみかき)〉とす。

衣服類四十五〈野王案在上曰衣在下曰裳惣謂之服也〉

衣服類四十五〈野王案に、上に在るを衣と曰ひ、下に在るを裳と曰ひ、惣(すべ)ては之れを服と謂ふなりとす〉

袍 楊氏漢語抄云袍〈薄交反宇倍乃歧沼一云朝服〉着襴之袷衣也

袍 楊氏漢語抄に云はく、袍〈薄交反、宇倍乃岐沼(うへのきぬ)、一に朝服と云ふ〉は襴に着る袷衣なりといふ。

縫掖 考声切韵云䘸〈盈迹反縫掖万都波之乃宇倍乃歧奴〉縫掖衣名也

縫掖 考声切韻に云はく、䘸〈盈迹反、縫掖は万都波之乃宇倍乃岐奴(まつはしのうへのきぬ)〉は縫掖の衣の名なりといふ。

缺掖 楊氏漢語抄云蜀衫〈和歧阿介乃古路毛〉本朝式云缺掖〈一云𫔭掖〉

欠掖 楊氏漢語抄に蜀衫〈和岐阿介乃古路毛(わきあけのころも)〉と云ふ。本朝式に欠掖〈一に開掖と云ふ〉と云ふ。

半臂 蔣魴切韵云半臂〈此間名如字但下音比〉衣名也

半臂 蒋魴切韻に云はく、半臂〈此の間に名は字の如し、但し下の音は比〉は衣の名なりといふ。

汗衫 唐令云諸給時服夏則汗衫一領〈衫音所銜反衣名也〉

汗衫 唐令に云はく、諸そ給する時服、夏は則ち汗衫一領といふ。〈衫の音は所銜反、衣の名なり〉

襴衫 楊氏漢語抄云襴衫〈湏曽豆介乃古路毛一云奈倍之能古路毛〉

襴衫 楊氏漢語抄に襴衫〈須曽豆介乃古路毛(すそづけのころも)、一に奈倍之能古路毛(なへしのころも)と云ふ〉と云ふ。

襖子 唐令云諸給時服冬則白襖子一領〈襖音烏老反襖子阿乎之〉

襖子 唐令に云はく、諸給時に冬は則ち白襖子一領〈襖の音は烏老反、襖子は阿乎之(あをし)〉を服せといふ。

裲襠 唐韵云襠〈音當〉兩襠衣名也釋名云兩襠〈今案兩或作裲宇知加介〉其一當胸其一當背也唐令云慶善樂舞四人碧綾𧛾襠〈上音苦盍反〉

裲襠 唐韻に云はく、襠〈音は当〉は両襠、衣の名なりといふ。釈名に云はく、両襠〈今案ふるに両は或に裲に作る、宇知加介(うちかけ)〉は其の一を胸に当て、其の一を背に当つるなりといふ。唐令に云はく、慶善楽の舞する四人、碧綾𧛾襠〈上の音は苦盍反〉なりといふ。

背子〈領巾附〉 弁色立成云背子〈賀良歧沼〉形如半臂無𦝫襴之袷衣也楊氏漢語抄云背子婦人表衣以錦爲之領巾〈日本紀私記云比礼〉婦人項上飾也

背子〈領巾付〉 弁色立成に云はく、背子〈賀良岐沼(からぎぬ)〉の形は半臂の如し、腰の襴無き袷衣なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、背子は婦人の表衣、錦を以て之れを為るといふ。領巾〈日本紀私記に比礼(ひれ)と云ふ〉は婦人の項の上の飾りなりといふ。

裙裳〈裙帯附〉 釋名云上曰裙〈唐韵韻云音与群同字亦作裠〉下曰裳〈音常毛〉白氏文集云青羅裙帶〈裙帶此間云如字〉

裙裳〈裙帯付〉 釈名に云はく、上は裙〈唐韻に音は群と同じ、字は亦、裠に作ると云ふ〉と曰ひ、下は裳〈音は常、毛(も)〉と曰ふといふ。白氏文集に云はく、青羅の裙帯〈裙帯は此の間に字の如しと云ふ〉といふ。

衵 唐韵云衵〈人質反又尼質反漢語抄云阿古女歧沼〉女人近身衣也

衵 唐韻に云はく、衵〈人質反、又、尼質反、漢語抄に阿古女岐沼(あこめぎぬ)と云ふ〉は女人の身に近き衣なりといふ。

袿 漢書音義云諸于〈今案于冝作衧見玉篇〉大䘸衣婦人袿衣也釋名云袿〈音圭漢語抄作褂云宇知歧〉婦人上衣也

袿 漢書音義に云はく、諸于〈今案ふるに于は宜しく衧に作るべし、玉篇に見ゆ〉は大䘸衣、婦人の袿衣なりといふ。釈名に云はく、袿〈音は圭、漢語抄に褂に作り、宇知岐(うちぎ)と云ふ〉は婦人の上衣なりといふ。

衾 說文云衾〈音金布湏万〉大被也四声字苑云衾被別名也

衾 説文に云はく、衾〈音は金、布須万(ふすま)〉は大被なりといふ。四声字苑に云はく、衾は被の別名なりといふ。

裘 說文云裘〈音求加波古路毛俗云加波歧沼〉皮衣也

裘 説文に云はく、裘〈音は求、加波古路毛(かはごろも)、俗に加波岐沼(かはきぬ)と云ふ〉は皮衣なりといふ。

單衣 釋名云衣無裏曰單〈々衣比止閇歧沼謂衣則袴可知之〉

単衣 釈名に云はく、衣の裏無きを単〈単衣は比止閉岐沼(ひとへぎぬ)、衣を謂ふに則ち袴たること、之れを知るべし〉と曰ふといふ。

袷衣 文選秋興賦云御袷衣〈袷音古洽反袷衣阿波世乃歧沼〉李善曰袷衣無絮也

袷衣 文選秋興賦に云はく、袷衣〈袷の音は古洽反、袷衣は阿波世乃岐沼(あはせのきぬ)〉を御すといふ。李善に曰はく、袷衣は絮(わた)無きなりといふ。

袴 蔣魴切韵云袴〈音故八賀万〉脛上衣名也釋名云褶〈音邑宇波𫟈見本朝令〉襲也覆袴上之衣也

袴 蒋魴切韻に云はく、袴〈音は故、八賀万(はかま)〉は脛の上の衣の名なりといふ。釈名に云はく、褶〈音は邑、宇波美(うはみ)、本朝令に見ゆ〉は襲なり、袴の上を覆ふ衣なりといふ。

大口袴 唐令云慶善樂舞四人白絲布大口袴〈於保久知乃八賀万一云表袴〉

大口袴 唐令に云はく、慶善楽の舞する四人は白糸布の大口袴〈於保久知乃八賀万(おほぐちのはかま)、一に表袴と云ふ〉といふ。

袴奴 楊氏漢語抄云袴奴〈佐師奴歧乃波賀万或俗語抄云絹狩袴或云歧奴乃加利八可万〉

袴奴 楊氏漢語抄に袴奴〈佐師奴岐乃波賀万(さしぬきのはかま)、或は俗語抄に絹狩袴と云ひ、或に岐奴乃加利八可万(きぬのかりばかま)と云ふ〉と云ふ。

布衣袴 文選云振布衣〈此間云獦衣加利歧沼謂衣則袴可知之〉世說云著青布袴也

布衣袴 文選に云はく、布衣〈此の間に獦衣は加利岐沼(かりぎぬ)と云ふ、衣を謂ふに則ち袴たること、之れを知るべし〉を振るといふ。世説に云はく、青布袴を著くなりといふ。

褌 方言注云袴而無𨂍謂之褌〈音昆湏万之毛乃一云知比佐歧毛能〉史記云司馬相如著犢鼻褌韋昭曰今三尺布作之形如牛鼻者也唐韵云衳〈軄容反与鍾同楊氏漢語抄云衳子毛乃之太乃太不佐歧一云水子〉小褌也

褌 方言注に云はく、袴にして跨(また)無きは之れを褌〈音は昆、須万之毛乃(すましもの)、一に知比佐岐毛能(ちひさきもの)と云ふ〉と謂ふといふ。史記に云はく、司馬相如、犢鼻褌を著くといふ。韋昭に曰はく、今、三尺の布にて之れを作り、形は牛の鼻の如き者なりといふ。唐韻に云はく、衳〈職容反、鍾と同じ、楊氏漢語抄に衳子は毛乃之太乃太不佐岐(ものしたのたふさぎ)と云ひ、一に水子と云ふ〉は小褌なりといふ。

襁褓 孫愐曰襁褓〈響保二音无豆歧〉小兒被也

襁褓 孫愐に曰はく、襁褓〈響保の二音、無豆岐(むつき)〉は小児の被なりといふ。

衣服具四十六

衣服具四十六

袊 釋名云袊〈音領古呂毛乃久比〉頸也所以擁頸也襟〈音金〉禁也交於前所以禁禦風寒也

衿 釈名に云はく、衿〈音は領、古呂毛乃久比(ころものくび)〉は頸なり、頸を擁く所以なり、襟〈音は金〉は禁なり、前に交へて風寒きを禁(と)め禦(ふせ)く所以なりといふ。

紐子 說文云紐〈女久反楊氏漢語抄云紐子比毛〉結而可解者也

紐子 説文に云はく、紐〈女久反、楊氏漢語抄に紐子は比毛(ひも)と云ふ〉は結びて解くべき者なりといふ。

袵 四声字苑云袵〈如甚反於保久比〉衣前襟也

袵 四声字苑に云はく、袵〈如甚反、於保久比(おほくび)〉は衣の前襟なりといふ。

袖 釋名云袖〈音岫曽天下二字同〉所以受手也袂〈音𡚁〉開張以臂受屈伸也袪〈音居〉其中虚也

袖 釈名に云はく、袖〈音は岫、曽天(そで)、下の二字は同じ〉は手を受くる所以なり、袂〈音は弊〉は開き張りて以て臂を受け屈げ伸すなり、袪〈音は居〉は其の中の虚(うろ)なりといふ。

䘸 方言注云䘸〈音与掖同古呂毛乃和歧〉衣掖也

䘸 方言注に云はく、䘸〈音は掖と同じ、古呂毛乃和岐(ころものわき)〉は衣の掖なりといふ。

襴 唐韵云襴〈音蘭俗云如字〉衫也

襴 唐韻に云はく、襴〈音は蘭、俗に字の如く云ふ〉は衫なりといふ。

裾 陸詞曰裾〈音居古呂毛乃湏曽一云歧沼乃之利〉衣下也

裾 陸詞に曰はく、裾〈音は居、古呂毛乃須曽(ころものすそ)、一に岐沼乃之利(きぬのしり)と云ふ〉は衣の下(しも)なりといふ。

表裏 說文云表〈𥓓矯反宇閇〉衣外也裏〈音里宇良〉衣内也

表裏 説文に云はく、表〈碑矯反、宇閉(うへ)〉は衣の外なり、裏〈音は里、宇良(うら)〉は衣の内なりといふ。

襲 史記音義云衣之單複相具謂之襲〈辞立反加㔫祢〉尒雅注云襲猶重也

襲 史記音義に云はく、衣の単複、相具ふるは之れを襲〈辞立反、加左禰(かさね)〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、襲は猶ほ重ねのごときなりといふ。

襞襀 周礼注云祭服朝服襞襀無數〈辟積二音訓比多米見文選〉

襞襀 周礼注に云はく、祭服、朝服は襞襀無数といふ〈辟積の二音、訓は比多米(ひだめ)、文選に見ゆ〉。

襷襅 續斉諧記云織成襷〈本朝式用此字云多湏歧今案所出音義未詳〉日本紀私記云手繦〈訓上同繦音響〉本朝式云襷襅各一條〈襅讀知波夜今案未詳〉

襷襅 続齊諧記に云はく、織りて襷〈本朝式に此の字を用ゐ、多須岐(たすき)と云ふ。今案ふるに出づる所、音義とも未だ詳(つばひら)かならず〉と成すといふ。日本紀私記に手繦〈訓は上に同じ、繦の音は響〉と云ふ。本朝式に襷襅各一条〈襅は知波夜(ちはや)と読む、今案ふるに未だ詳かならず〉と云ふ。

𦝫帯類四十七

腰帯類四十七

紳 論語注云紳〈音申〉大帯也唐令私記云大帯〈今案一名愽帯著礼服之時帯也〉以繒爲之

紳 論語注に云はく、紳〈音は申〉は大帯なりといふ。唐令私記に云はく、大帯〈今案ふるに一名に博帯、礼服の時に著くる帯なり〉は繒を以て之れを為るといふ。

革帶 唐衣服令云革帶玉鈎〈今案革帶以其所附金玉石角等爲名故有白玉帶隠文帶馬脳帶波斯馬脳帶紀伊石帶出雲石帶越石帶斑犀帶烏犀帶散豆帶等之名其體有純方丸鞆櫛上等之名革帯是其惣名也〉

革帯 唐衣服令に云はく、革帯に玉鈎〈今案ふるに革帯は其の付くる所、金玉、石角等を以て名と為(し)、故に白玉帯、隠文帯、馬脳帯、波斯馬脳帯、紀伊石帯、出雲石帯、越石帯、斑犀帯、烏犀帯、散豆帯等の名有り、其の体に、純方、丸鞆、櫛上等の名有り、革帯は是れ其の惣名なり〉つけよといふ。

金隠起帯 唐鹵簿令云㔫右金吾大將軍各一人紫裲襠金隠起帯

金隠起帯 唐鹵簿令に云はく、左右の金吾大将軍は各一人、紫の裲襠に金隠起帯つけよといふ。

金銅帯 唐樂令云宴楽伎一部儛廿人金銅𦝫帯烏皮靴

金銅帯 唐楽令に云はく、宴楽伎一部儛の二十人は金銅腰帯に烏皮靴つけよといふ。

白犀帯 白氏詩云通天白犀帯照地紫麟袍

白犀帯 白氏詩に云はく、通天白犀の帯しめ、紫麟の袍きて地を照らすといふ。

䌟帯 唐韻云䌟〈蒲革反与欂同今案加良久𫟈〉織絲爲帯也

䌟帯 唐韻に云はく、䌟〈蒲革反、欂と同じ。今案ふるに加良久美(からくみ)〉は糸を織りて帯と為るなりといふ。

接靿 唐樂令云承天樂舞四人紫綾袷袍紫接靿〈唐韵於敎反此间云接𦝫〉

接靿 唐楽令に云はく、承天楽舞の四人は紫の綾の袷袍に紫の接靿〈唐韻に於教反、此の間に接腰と云ふ〉つけよといふ。

白布帯 本朝式云白布帯〈沼能於比〉

白布帯 本朝式に白き布帯〈沼能於比(ぬのおび)〉と云ふ。

衿帯 陸詞曰衿〈音与襟同比歧於比〉小帯也釋名云衿禁也禁不得開散也

衿帯帶 陸詞に曰はく、衿〈音は襟と同じ、比岐於比(ひきおび)〉は小帯なりといふ。釈名に云はく、衿は禁なり、禁めて開き散(あか)つこと得ざるなりといふ。

勒肚巾 楊氏漢語抄云勒肚巾〈波良万岐一云腹帯〉

勒肚巾 楊氏漢語抄に勒肚巾〈波良万岐(はらまき)、一に腹帯と云ふ〉と云ふ。

𦝫帶具四十八

腰帯具四十八

䩠 唐韵云䩠〈他丁反字亦作鞓於比加波〉皮帯䩠也楊氏漢語抄云腰帶之革未著鉸具爲䩠也

䩠 唐韻に云はく、䩠〈他丁反、字は亦、鞓に作る、於比加波(おひかは)〉は皮帯䩠なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、腰帯の革の未だ鉸具を著けざるを䩠と為るなりといふ。

鉸具 楊氏漢語抄云鉸具〈上音古巧反一音敎鉸具此间云賀古今案唐令所謂玉鈎是也已上見上文〉腰帯及鞍具以銅属革也

鉸具 楊氏漢語抄に云はく、鉸具〈上の音は古巧反、一音に教、鉸具は此の間に賀古(かこ)と云ふ。今案ふるに唐令に所謂る玉鈎は是なり、已上は上文に見ゆ〉は腰帯、及び鞍具の銅を以て革を属(つな)ぐなりといふ。

鉉子 楊氏漢語抄云鉉子〈上音胡犬反上声之重〉著鞋銭也

鉉子 楊氏漢語抄に云はく、鉉子〈上の音は胡犬反、上声の重〉は鞋銭を著くるなりといふ。

瑇瑁 曹憲曰瑇瑁〈代昧二音又毒冒今案以爲帯具故附出〉如龜出大海大者如籧篨背上有鱗々大如扇有文章将作器則煑其鱗如柔皮任意用之

瑇瑁 曹憲に曰はく、瑇瑁〈代昧の二音、又、毒冒。今案ふるに以て帯具と為、故に付き出す〉は亀の如し、大海より出でて大きなる者は籧篨の如し、背の上に鱗有りて鱗の大きさ扇の如し、文章(あや)有りて将に器に作らむとせば則ち其の鱗を煮るに柔皮の如し、任意(ほしきまま)に之れを用ゐるといふ。

魚袋 蔣魴切韻云袋〈音代〉囊名又金銀魚袋唐令云諸百官魚袋並令中尚預造進也〈以上注也〉

魚袋 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代〉は囊の名、又、金銀魚袋といふ。唐令に云はく、諸そ百官は魚袋もてといふ。並びに中尚をして預め造り進ら令むるなり〈以上は注なり〉。

履襪類四十九

履襪類四十九

履 唐韵云草曰屝〈音翡〉麻曰屨〈音句〉革曰履〈音李久豆用鞜字音沓〉黄帝臣於則造也

履 唐韻に云はく、草を屝〈音は翡〉と曰ひ、麻を屨〈音は句〉と曰ひ、革を履〈音は李、久豆(くつ)、鞜の字を用ゐる、音は沓〉と曰ふといふ。黄帝の臣、於、則ち造るなり。

襪 說文云襪〈音末字亦作韈之太久豆〉足衣也

襪 説文に云はく、襪〈音は末、字は亦、韈に作る、之太久豆(したぐつ)〉は足の衣なりといふ。

靴 唐令云烏皮靴赤皮靴〈音戈字亦作鞾化乃久豆〉

靴 唐令に烏皮靴、赤皮靴〈音は戈、字は亦、鞾に作る、化乃久豆(けのくつ)〉と云ふ。

深頭履 釋名云韋履深頭曰靸〈先立反又靸鞋見下文今案此间云深履其頭短者謂之半靴〉言其深襲覆足也

深頭履 釈名に云はく、韋履の深頭を靸〈先立反、又、靸鞋は下文に見ゆ。今案ふるに此の間に深履と云ひ、其の頭の短き者は之れを半靴と謂ふ〉と曰ふといふ。其の深く襲ひ足を覆ふなるを言ふ。

單皮履 唐令云諸舄履並烏色舄重皮底履單皮底〈舄音思積反字亦作𩍆和名与履同今案野人以鹿皮爲半靴名曰多鼻冝用此単皮二字乎〉

単皮履 唐令に云はく、諸そ舄履、並びに烏色舄は重皮底、履は単皮底といふ〈舄の音は思積反、字は亦、𩍆に作る、和名は履と同じ。今案ふるに野人は鹿の皮を以て半靴を為り名けて多鼻(たび)と曰ふ、宜しく此れ単皮の二字を用ゐるべきか〉。

鼻高履 楊氏漢語抄云穾子〈穾音他骨反已上本注〉今僧侶所著鼻廣履是歟〈今案鼻髙履也〉

鼻高履 楊氏漢語抄に突子〈突の音は他骨反、已上は本の注〉と云ふ。今、僧侶の著く所の鼻広履は是か。〈今案ふるに鼻高履なり〉

線鞋 弁色立成云線鞋〈上仙戦反字亦作綫下戸佳反又戸皆反楊氏漢語抄云千𫔭乃久都〉絁綫𠔥用男女通著

線鞋 弁色立成に云はく、線鞋〈上は仙戦反、字は亦、綫に作る、下は戸佳反、又、戸皆反。楊氏漢語抄に千開乃久都(せんかいのくつ)と云ふ〉と絁綫は兼ねて用ゐ、男女を通して著くといふ。

絲鞋 弁色立成云絲鞋〈伊止乃久都〈已上本注〉今案俗云之賀伊〉

糸鞋 弁色立成に糸鞋〈伊止乃久都(いとのくつ)〈已上本注〉、今案ふるに俗に之賀伊(しかい)と云ふ〉と云ふ。

麻鞋 顔氏家訓云麻鞋一屋〈麻鞋乎久豆弁色立成云麻鞋以麻爲之〉

麻鞋 顔氏家訓に麻鞋一屋と云ふ。〈麻鞋は乎久豆(おぐつ)、弁色立成に麻鞋は麻を以て之れを為ると云ふ〉

錦鞋 弁色立成云錦鞋〈此间音今𫔭〉以綵爲之形如皮履〈綵音采綾采也〉

錦鞋 弁色立成に云はく、錦鞋〈此の間に音は今開〉は綵を以て之れを為り、形は皮履の如しといふ〈綵の音は采、綾采なり〉。

靸鞋 唐韵云靸〈蘓合反字亦作𩎕靸鞋俗爲𢮿字未詳〉小兒履也

靸鞋 唐韻に云はく、靸〈蘇合反、字は亦、𩎕に作り、靸鞋は俗に𢮿の字と為。未だ詳かならず〉は小児の履なりといふ。

木履 續漢書云袁宏著木履〈楊氏漢語抄云木履紀具都〉

木履 続漢書に云はく、袁宏、木履〈楊氏漢語抄に木履は紀具都(きぐつ)と云ふ〉を著くといふ。

屐 𠔥名苑云屐〈音竒逆反阿師太〉一名足下

屐 兼名苑に云はく、屐〈音は奇逆反、阿師太(あしだ)〉は一名に足下といふ。

屣屐 史記注云屣〈所𦂶反与徒同漢語抄云屐屣久都々計乃阿之太一云屐子〉履之属也

屣屐 史記注に云はく、屣〈所綺反、徒と同じ。漢語抄に屐屣は久都々計乃阿之太(くつつけのあしだ)と云ひ、一に屐子と云ふ〉は履の属なりといふ。

屩 同注云屩〈居灼反与脚同字亦作〓〔尸+彳+甘+冂+半〕和良久豆〉草屝也

屩 同注に云はく、屩〈居灼反、脚と同じ、字は亦、〓〔尸+彳+甘+冂+半〕に作る、和良久豆(わらぐつ)〉は草屝なりといふ。

草履 楊氏漢語抄云草履〈和名与屩同俗云佐宇利〉

草履 楊氏漢語抄に草履〈和名は屩と同じ、俗に佐宇利(ざうり)と云ふ〉と云ふ。

履襪具五十

履襪具五十

履楦 唐韵云楥〈虚願反一音運字亦作楦今案此間云久都加太是歟〉靴履楦又法也

履楦 唐韻に云はく、楥〈虚願反、一音に運、字は亦、楦に作る。今案ふるに此の間に久都加太(くつがた)と云ふは是か〉は靴履の楦(きがた)、又、法(のり)なりといふ。

履屧 野王案曰屧〈思協反久都和良一云久都乃之歧〉履中薦也楊氏漢語抄云履屧一名履苴〈七余反又苞苴苴見厨膳具矣〉

履屧 野王案に曰はく、屧〈思協反、久都和良(くつわら)、一に久都乃之岐(くつのしき)と云ふ〉は履の中の薦なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、履屧は一名に履苴〈七余反、又、苞苴の苴、厨膳具に見ゆ〉といふ。

靴氈 唐令云諸給時服春秋各給靴一兩并氈〈諸延反楊氏漢語抄云靴氊靴裏氈也〉

靴氈 唐令に、諸(およ)そ給する時服、春秋に各、給する靴一両并びに氈〈諸延反、楊氏漢語抄に靴氊、靴裏氈なりと云ふ〉と云ふ。

靴帯 楊氏漢語抄云靴絛〈吐刀反与韜同〉所以繫靴跟也或以革爲之喚云靴帯

靴帯 楊氏漢語抄に云はく、靴条〈吐刀反、韜と同じ〉は靴の跟(くびす)に繋くる所以なりといふ。或に革を以て之れを為り、喚びて靴帯と云ふ。

屐系〈鼻縄附〉 風俗通云延喜年中京師長者皆著屐婦女始嫁至𣾰畫五綵爲系〈今案唐韵胡計反緒也然則屐系阿之太乎〉本草云屐鼻縄灰

屐系〈鼻縄付〉 風俗通に云はく、延喜年中に京師の長者は皆、屐を著く、婦女の始めて嫁ぐに至り、漆画の五綵を系〈今案ふるに唐韻に胡計反、緒なり、然れば則ち屐の系は阿之太乎(あしだを)なり〉に為るといふ。本草に屐の鼻縄の灰と云ふ。

屩耳 唐令云青耳屩〈今案屩耳者俗人云屩之乳乎〉

屩耳 唐令に青耳屩〈今案ふるに屩耳は俗人に云ふ屩之乳(わらぐつのち)か〉と云ふ。

屩靪 唐韵云靪〈音丁今案下賤人以牛皮補著屩下云太知波女冝用此字乎〉補履下也

屩靪 唐韻に云はく、靪〈音は丁、今案ふるに下賤の人、牛皮を以て屩の下に補ひ著くるを太知波女(たちはめ)と云ふ。宜しく此の字を用ゐるべきか〉は履の下を補ふなりといふ。

飲食類第十一

飲食類第十一  

藥酒類五十一 水漿類五十二 飯餅類五十三 麴糱類五十四〈粮附出〉 酥蜜類五十五 果菜類五十六 魚鳥類五十七 塩梅類五十八〈薑椒橘皮等附出〉

 薬酒類五十一 水漿類五十二 飯餅類五十三 麴糵類五十四〈粮付け出し〉 酥蜜類五十五 果菜類五十六 魚鳥類五十七 塩梅類五十八〈薑、椒、橘皮等付け出し〉

藥酒類五十一

薬酒類五十一

藥 食療經云充飢則謂之食療疾則謂之藥〈以灼反久湏利〉

薬 食療経に云はく、飢を充すは則ち之れを食と謂ひ、疾を療すは則ち之れを薬〈以灼反、久須利(くすり)〉と謂ふといふ。

煎 考声切韵云煎〈音箭又如字〉煑薬汁令調也

煎 考声切韻に云はく、煎〈音は箭、又、字の如し〉は薬を煮て汁を調は令むるなりといふ。

酒 食療經云酒〈佐介〉五穀之蕐味之至也故能益人亦能損人

酒 食療経に云はく、酒〈佐介(さけ)〉は五穀の華にして味の至なり、故に能く人を益(たす)け、亦、能く人を損ふといふ。

醴 四声字苑云醴〈音礼古佐計〉一日一宿酒也

醴 四声字苑に云はく、醴〈音は礼、古佐計(こさけ)〉は一日一宿の酒なりといふ。

醪 玉篇云醪〈力刀反漢語抄云濁醪毛呂𫟈〉汁滓酒也

醪 玉篇に云はく、醪〈力刀反、漢語抄に濁醪は毛呂美(もろみ)と云ふ〉は汁滓の酒なりといふ。

醅〈釃字附〉 說文云醅〈音与盃同漢語抄云加湏古女俗云糟米〉醇未釃也唐韵云釃〈所冝反又上声釃酒佐介之多无俗云阿久〉下酒也

醅〈釃字付〉 説文に云はく、醅〈音は盃と同じ、漢語抄に加須古女(かすごめ)と云ひ、俗に糟米と云ふ〉は醇の未だ釃(した)まざるなりといふ。唐韻に云はく、釃〈所宜反、又、上声、釃酒は佐介之多無(さけしたむ)、俗に阿久(あく)と云ふ〉は下酒なりといふ。

醇酒 唐韵云醇〈音淳日本紀私記云醇酒加太佐介〉厚酒也

醇酒 唐韻に云はく、醇〈音は淳、日本紀私記に醇酒は加太佐介(かたさけ)と云ふ〉は厚酒なりといふ。

酎酒 說文云酎〈𥄂祐反漢語抄云豆久利加倍丗流佐介〉三重醸酒也西亰雜記云正旦作酒八月成名曰酎酒一名九醞〈於運反通俗文云醞酘酒於國家也蔣魴切韻云酘於厨反酒𠕂下麹也俗語云曽比〉

酎酒 説文に云はく、酎〈直祐反、漢語抄に豆久利加倍世流佐介(つくりかへせるさけ)と云ふ〉は三重に醸す酒なりといふ。西京雑記に云はく、正旦に酒を作り八月に成る、名けて酎酒と曰ひ、一名に九醞〈於運反、通俗文に国家に於て醞酘酒なりと云ふ。蒋魴切韻に云はく、酘は於厨反、酒に再び麹を下すなりといふ。俗語に曽比(そひ)と云ふ〉といふ。

𨣌酒 陸詞曰𨣌〈音覃一音湛日本紀私記云甜酒多无佐介今案可用此字〉酒味長也

𨣌酒 陸詞に曰はく、𨣌〈音は覃、一音に湛。日本紀私記に甜酒は多無佐介(たむさけ)と云ふ。今案ふるに此の字を用ゐるべし〉の酒は味、長なりといふ。

酵 楊氏漢語抄云酵〈音敎之良賀湏〉白酒甘也

酵 楊氏漢語抄に云はく、酵〈音は教、之良賀須(しらかす)〉は白酒の甘きなりといふ。

醨 唐韵云醨〈音離之流一云毛曽呂〉酒薄也

醨 唐韻に云はく、醨〈音は離、之流(しる)、一に毛曽呂(もそろ)と云ふ〉は酒、薄きなりといふ。

糟 說文云糟〈子勞反賀湏〉酒滓也

糟 説文に云はく、糟〈子労反、賀須(かす)〉は酒の滓なりといふ。

酒蟣 文選注云浮蟣〈師說云佐加歧佐々〉酒蟣在上𪵬々然如萍者也

酒蟣 文選注に云はく、浮蟣〈師説に佐加岐佐々(さかきささ)と云ふ〉は酒蟣、上に在りて汎々然として萍(うきくさ)の如き者なりといふ。

酒膏 同注云醪敷〈佐加阿布良〉酒膏也

酒膏 同注に云はく、醪敷〈佐加阿布良(さかあぶら)〉は酒膏なりといふ。

肴 野王案凢非穀而食謂之肴〈胡交反字亦作餚佐加奈一云布久之毛乃見本朝令〉

肴 野王案に凡そ穀に非ずして食ふは之れを肴〈胡交反、字は亦、餚に作る、佐加奈(さかな)、一に布久之毛乃(ふくしもの)と云ひ、本朝令に見ゆ〉と謂ふとす。

水漿類五十二

水漿類五十二

漿 四時食制經云春冝食漿甘水〈漿音即良反豆久利𫟈豆俗云迩於毛比〉食療經云凡食𤍽膩物勿飮冷酢漿〈師說冷酢讀比伊湏由礼流〉

漿 四時食制経に云はく、春は宜しく漿甘水〈漿の音は即良反、豆久利美豆(つくりみづ)、俗に邇於毛比(におもひ)と云ふ〉を食ふべしといふ。食療経に云はく、凡そ熱膩物を食ひて冷酢漿〈師説に冷酢は比伊須由礼流(ひいすゆれる)と読む〉を飲むこと勿れといふ。

氷漿 四声字苑云氷〈筆綾反比〉水寒凍結也膳夫經云立秋後不得飮氷漿

氷漿 四声字苑に云はく、氷〈筆綾反、比(ひ)〉は水寒く凍り結ぶなりといふ。膳夫経に云はく、立秋の後、氷漿を飲むこと得ずといふ。

白飮 四時食制經云冬冝食白飮〈古𫟈豆今案濃漿之名也〉

白飲 四時食制経に云はく、冬は宜しく白飲〈古美豆(こみづ)、今案ふるに濃漿の名なり〉を食ふべしといふ。

糄𥻨 唐韵云糄𥻨〈褊索二音比女或説說云非米非粥之義也〉煑米多水者也

糄𥻨 唐韻に云はく、糄𥻨〈褊索の二音、比女(ひめ)、或説に非米は非粥の義なりと云ふ〉は米を煮て水を多くする者なりといふ。

粥 唐韵云饘〈諸延反加太賀由〉厚粥也四声字苑云粥周人呼粥也〈之叔反之留加由〉薄糜也

粥 唐韻に云はく、饘〈諸延反、加太賀由(かたがゆ)〉は厚粥なりといふ。四声字苑に云はく、粥は周人の呼ぶ粥なり〈之叔反、之留加由(しるがゆ)〉、薄き糜なりといふ。

署預粥 崔禹食經云千歳虆汁狀如薄蜜甘𫟈以署預爲粉和汁作粥食之補五臓〈署預粥以毛賀由〉

署預粥 崔禹食経に云はく、千歳虆の汁の状、薄蜜の甘美なるが如し、署預を以て粉と為(し)、汁に和へて粥を作り之れを食はば五臓を補ふといふ。〈署預粥は以毛賀由(いもがゆ)〉

茶茗 尒雅集注云茶〈宅加反字亦作𣗪〉小樹似支子其葉可煑爲飮今呼早採爲茶晩採為茗〈音酩〉茗一名荈〈音喘〉風土記云荈者茗老𦯧名也

茶茗 爾雅集注に云はく、茶〈宅加反、字は亦、𣗪に作る〉は小さき樹にして支子に似、其の葉、煮て飲と為べし、今、早採を呼びて茶と為、晩採を茗〈音は酩〉と為、茗は一名に荈〈音は喘〉といふ。風土記に云はく、荈は茗の老葉の名なりといふ。

飯餅類五十三

飯餅類五十三

𩝶饙 四声字苑云𩝶饙〈修紛二音漢語抄云加太加之岐乃以比〉半𤍨飯也

𩝶饙 四声字苑に云はく、𩝶饙〈修紛の二音、漢語抄に加太加之岐乃以比(かたかしきのいひ)と云ふ〉は半熟の飯なりといふ。

強飯 史記云廉頗強飯斗酒食完十斤〈飯音符万反亦作飰𩚳強飯古八伊比〉

強飯 史記に云はく、廉頗は強飯、斗酒に宍十斤〈飯の音は符万反、亦、飰𩚳に作る、強飯は古八伊比(こはいひ)〉を食ふといふ。

𩚖飯 唐韵云𩚖〈女救反字亦作糅加之歧可天〉雜飯也

𩚖飯 唐韻に云はく、𩚖〈女救反、字は亦、糅に作る、加之岐可天(かしきかて)〉は雑飯なりといふ。

油飯 楊氏漢語抄云膏味〈阿不良以比〉麻油炊飯也一云玄熟

油飯 楊氏漢語抄に云はく、膏味〈阿不良以比(あぶらいひ)〉は麻油の炊飯なりといふ。一に玄熟と云ふ。

𥺢 野王案𥺢〈孚秘反与俻同保之以比〉乾飯也

糒 野王案に糒〈孚秘反、備と同じ、保之以比(ほしいひ)〉は乾飯なりとす。

餉 四声字苑云餉〈式亮反訓加礼比於久留俗云加礼比〉以食遺人也

餉 四声字苑に云はく、餉〈式𠅙反、訓は加礼比於久留(かれひおくる)、俗に加礼比(かれひ)と云ふ〉は食(いひ)を以て人に遺るなりといふ。

餅〈殕字附〉 釋名云餅〈音屏毛知比〉令糯麵合并也胡餅以胡麻著之〈今案麵麦粉也此间餅粉阿礼是也〉四声字苑云殕〈孚乳反与撫同今案訓賀布〉食上生白者也

餅〈殕字付〉 釈名に云はく、餅〈音は屏、毛知比(もちひ)〉は糯麺を合并(あは)せ令むるなりといふ。胡餅は胡麻を以て之れに著く〈今案ふるに麺麦粉なり、此の間に餅粉を阿礼(あれ)といふは是なり〉。四声字苑に云はく、殕〈孚乳反、撫と同じ、今案ふるに訓は賀布(かぶ)〉は食の上に生(あ)れし白き者なりといふ。

餅腅 楊氏漢語抄云褁餅中納煑合鵝鴨等子并雜菜而方截一名餅腅〈玉篇腅達監反肴也〉

餅腅 楊氏漢語抄に云はく、裹む餅の中に鵝鴨等の子、并びに雑菜を納れ煮合せて方(けだ)に截るもの、一名に餅腅〈玉篇に腅は達監反、肴なり〉といふ。

糉 風土記云糉〈作弄反字亦作粽知末歧〉以菰𦯧褁米以灰汁煑之令爛𤍨也五月五日啖之

糉 風土記に云はく、糉〈作弄反、字は亦、粽に作る、知末岐(ちまき)〉は菰の葉を以て米を裹み、灰汁を以て之れを煮て爛熟せ令しめ、五月五日に之れを啖(くら)ふといふ。

餻 考声切韵餻〈古勞反字亦作𩝝久佐毛知比〉烝米屑爲之文徳實録云嘉祥三年訛言曰今玆三日不可造餻以無母子也

餻 考声切韻に云はく、餻〈古労反、字は亦、𩝝に作る、久佐毛知比(くさもちひ)〉は米屑を蒸して之れを為るといふ。文徳実録に云はく、嘉祥三年の訛言に、今玆(ことし)三日に餻を造るべからず、母子無きを以てなりと曰ふといふ。

餢飳 蔣魴切韻云餢飳〈部斗二音亦作䴺𪌘布止俗云伏兎〉油煎餅名也

餢飳 蒋魴切韻に云はく、餢飳〈部斗の二音、亦、䴺𪌘に作る、布止(ぶと)、俗に伏兎と云ふ〉は油煎餅の名なりといふ。

糫餅 文選云膏糫粔籹〈糫音還粔籹見下文〉楊氏漢語抄云糫餅〈形如藤葛者也万加利〉

糫餅 文選に云はく、膏糫は粔籹といふ〈糫の音は還、粔籹は下文に見ゆ〉。楊氏漢語抄に糫餅〈形は藤葛の如き者なり、万加利(まがり)〉と云ふ。

結果 楊氏漢語抄云結果〈形如結緒此间亦有之今案加久乃阿和〉

結果 楊氏漢語抄に結果〈形は緒を結ぶ如し、此の間に亦、之れ有り、今案ふるに加久乃阿和(かくのあわ)〉と云ふ。

捻頭 楊氏漢語抄云捻頭〈无歧加太捻音奴恊反一云麥子〉

捻頭 楊氏漢語抄に捻頭〈無岐加太(むぎかた)、捻の音は奴協反、一に麦子と云ふ〉と云ふ。

索餅 釋名云蝎餅䯝餅金餅索餅〈无歧奈波大膳式云手束索餅多都賀〉皆隨形而名之

索餅 釈名に云はく、蝎餅、䯝餅、金餅、索餅〈無岐奈波(むぎなは)、大膳式に手束索餅は多都賀(たつか)と云ふ〉は皆、形に随ひて之れを名くといふ。

粉熟 弁色立成云粉粥〈以米粥爲之今案粉粥即粉熟也〉

粉熟 弁色立成に粉粥〈米粥を以て之れを為る、今案ふるに粉粥は即ち粉熟なり〉と云ふ。

餛飩 四声字苑云餛飩〈渾屯二音上字亦作餫見唐韵〉餅剉肉麵褁煑之

餛飩 四声字苑に云はく、餛飩〈渾屯の二音、上の字は亦、餫に作る、唐韻に見ゆ〉は、餅を肉として剉みて麺とし之れを裹み煮るといふ。

餺飥〈衦字附〉 楊氏漢語抄云餺飥〈愽託二音字亦作𪍡𪌂見玉篇〉衦麵方切名也四声字苑云衦〈古旱反上声之重〉摩展衣也

餺飥〈衦字付〉 楊氏漢語抄に云はく、餺飥〈博託の二音、字は亦、𪍡𪌂に作る、玉篇に見ゆ〉は衦麺、方に切る名なりといふ。四声字苑に云はく、衦〈古旱反、上声の重〉は摩り展ぶるための衣なりといふ。

𤋎餅 楊氏漢語抄云𤋎餅〈此間云如字〉以油𤎅小麥麵之名也

煎餅 楊氏漢語抄に云はく、煎餅〈此の間に字の如しと云ふ〉は油を以て熬る小麦の麺の名なりといふ。

餲餅 四声字苑云餲〈音与蝎同俗云餲餬今案餬寄食也爲餅名未詳〉餅名𤋎麺作蝎虫形也

餲餅 四声字苑に云はく、餲〈音は蝎と同じ、俗に餲餬と云ふ。今案ふるに餬は食に寄するなり、餅の名と為るは未だ詳かならず〉は餅の名、麺を煎りて蝎虫の形に作るなりといふ。

黏臍 弁色立成云黏臍〈油餅名也黏作似人膍臍也上音女廉反下音齊〉

黏臍 弁色立成に黏臍〈油餅の名なり、黏り作り人の膍臍に似するなり、上の音は女廉反、下の音は斉〉と云ふ。

饆饠 唐韵云饆饠〈畢羅二音字亦作〓〔麥偏に必〕𪎆俗云比知良〉餌名也

饆饠 唐韻に云はく、饆饠〈畢羅の二音、字は亦、〓〔麥偏に必〕𪎆に作る。俗に比知良(ひちら)と云ふ〉は餌の名なりといふ。

䭔子 唐韵云䭔〈都囬反又音与堆同此间音都以之〉䭔子也

䭔子 唐韻に云はく、䭔〈都回反、又、音は堆と同じ、此の間に音は都以之(ついし)〉は䭔子なりといふ。

歡喜團 楊氏漢語抄云歡喜團〈以品甘物爲之或說云一名團喜今案俗說梅枝桃枝餲餬桂心黏臍饆饠䭔子團喜謂之八種唐菓子其有所見者已擧於上文〉

歓喜団 楊氏漢語抄に歓喜団と云ふ。〈品(しなじな)の甘物を以て之れと為。或説に一名を団喜と云ふ。今案ふるに俗説に梅枝、桃枝、餲餬、桂心、黏臍、饆饠、䭔子、団喜は之れを八種の唐菓子と謂ふ。其の見ゆる有るは、已に上文に挙ぐ〉

麴糱類五十四

麴糵類五十四

麴 釋名云麴〈音菊加无太知〉朽也欝之使生衣朽敗也

麹 釈名に云はく、麹〈音は菊、加無太知(かむたち)〉は朽なりといふ。之れを鬱(む)して衣を生み朽ち敗れ使むるなりといふ。

糱 說文云糱〈魚列反与祢乃毛夜之〉牙米也本草云糱米味苦無毒又有麥糱矣

糵 説文に云はく、糵〈魚列反、与禰乃毛夜之(よねのもやし)〉は牙米なりといふ。本草に云はく、糵米、味は苦、毒無し、又、麦の糵有りといふ。

粉 唐式云并州毎年造粉五十石以官驢駄運送所司〈粉方吻反古〉

粉 唐式に云はく、并州は毎年、粉五十石を造り、官驢を以て駄し所司に運び送れといふ。〈粉は方吻反、古(こ)〉

麵 說文云麵〈莫甸反去声之輕无歧乃古〉麥粉也粖〈音末〉米麥細屑也

麺 説文に云はく、麺〈莫甸反、去声の軽、無岐乃古(むぎのこ)〉は麦粉なりといふ。粖〈音は末〉は米麦の細かき屑なりといふ。

大豆麨 食療經云麨〈尺紹反字亦作𪍑末女豆歧〉勿与一歳已上十歳已下小兒食之氣壅而死

大豆麨 食療経に云はく、麨〈尺紹反、字は亦、𪍑に作る、末女豆岐(まめつき)〉は一歳已上、十歳已下の小児に与ふること勿れ、之れを食はば気壅りて死ぬといふ。

糄米 唐韵云糄〈音篇夜歧古女𥻨之處上声〉焼稲爲米也

糄米 唐韻に云はく、糄〈音は篇、夜岐古女(やきごめ)、𥻨の処は上声〉は稲を焼きて米を為るなりといふ。

粔籹 文選注云粔籹〈巨女二音於古之古女〉以蜜和米𤋎作也

粔籹 文選注に云はく、粔籹〈巨女の二音、於古之古女(おこしごめ)〉は蜜を以て米に和へ煎り作るなりといふ。

粮 考声切韵云糧〈音涼字亦作粮賀天〉行所賷米也又儲食也

粮 考声切韻に云はく、糧〈音は涼、字は亦、粮に作る、賀天(かて)〉は行く所に齎(もたら)す米なりといふ。又、食を儲くなりといふ。

酥蜜類五十五

酥蜜類五十五

醍醐 蘓敬曰醍醐〈啼胡二音此間音内五醐字或作𩚩餬見唐韻〉是酥之精液也陶隠居曰一名解酥言𥡤一斛之中得四升也

醍醐 蘇敬に曰はく、醍醐〈啼胡の二音、此の間に音は内五、醐の字は或に𩚩に作る。餬は唐韻に見ゆ〉は是れ酥の精なる液なりといふ。陶隠居に曰はく、一名に解酥といふ。𥡱一斛の中より四升を得るなるを言ふ。

酥 陶隱居曰酥〈音与蘓同俗音曽〉牛羊乳所爲也

酥 陶隠居に曰はく、酥〈音は蘇と同じ、俗に音は曽〉は牛羊の乳の所為なりといふ。

酪 通俗文云温牛羊乳曰酪〈盧各反乳酪迩宇能可遊〉

酪 通俗文に云はく、牛羊の乳を温むるを酪〈盧各反、乳酪は邇宇能可遊(にうのかゆ)〉と曰ふといふ。

乳䴵 陶隱居云乳成酪々成酥々成醍醐色黄白作䴵甚甘肥〈今案䴵即餅字也乳䴵此间乳脯是〉

乳䴵 陶隠居に云はく、乳を酪と成し、酪を酥と成し、酥を醍醐と成す、色、黄白にして䴵を作らば甚だ甘肥といふ。〈今案ふるに䴵は即ち餅の字なり。乳䴵、此の間に乳脯とするは是〉

飴 說文云飴〈音怡阿女〉米糱爲之

飴 説文に云はく、飴〈音は怡、阿女(あめ)〉は米の糵、之れを為るといふ。

蜜 說文云蜜〈音密此間云𫟈知〉甘飴也野王案蜂採百花醖醸所成也

蜜 説文に云はく、蜜〈音は密、此の間に美知(みち)と云ふ〉は甘き飴なりといふ。野王案に蜂は百花を採り醞醸して成す所なりといふ。

千歳虆汁 本草云千歳虆汁味甘平無毒續筋骨長肌肉一名虆蕪〈纍無二音〉蘓敬曰即今之蘡薁藤汁是也〈嬰奥二音嬰育和名阿末都良本朝式云甘葛𤋎〉

千歳虆汁 本草に云はく、千歳虆汁、味は甘、平にして毒無し、筋骨に続き、肌肉を長くす、一名に虆蕪〈纍無の二音〉といふ。蘇敬に曰はく、即ち今の蘡薁、藤汁は是なりといふ。〈嬰奥の二音、嬰育は和名に阿末都良(あまづら)、本朝式に甘葛煎と云ふ〉

菓菜類五十六

菓菜類五十六

笋 尒雅注云筍〈音隼字亦作笋太加无奈〉竹初生也本草云竹筍味甘平無毒焼而服之

笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈(たかむな)〉は竹の初めて生ゆるなりといふ。本草に云はく、竹筍、味は甘、平にして毒無く、焼きて之れを服すといふ。

長間笋 𠔥名苑注云長間笋〈之乃女〉笋青㝡睌生味大苦

長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈之乃女(しのめ)〉は笋の青く、最も晩く生え味は大苦といふ。

生菜 食療經云生菜不可合食蟹足

生菜 食療経に云はく、生菜は蟹足と食ひ合はすべからずといふ。

烝 礼記注云㵩〈私列反師說无之毛乃〉烝也野王案烝〈之縄反〉火氣上行也

烝 礼記注に云はく、㵩〈私列反、師説に無之毛乃(むしもの)〉は烝なりといふ。野王案に烝〈之縄反〉は火気(ほけ)の上り行くなりとす。

茹 文選傅玄詩云厨人進藿茹有酒不盈坏〈茹音人恕反由天毛乃藿音霍葵藿也〉

茹 文選伝玄詩に云はく、厨人には藿茹を進められ、酒有るも坏に盈たされずといふ。〈茹の音は人恕反、由天毛乃(ゆでもの)、藿の音は霍、葵藿(ふゆあふひ)なり〉

𦵔 說文云𦵔〈側𩵋反迩良歧楊氏漢語抄云榆末菜也〉菜鮓也

𦵔 説文に云はく、𦵔〈側魚反、邇良岐(にらき)。楊氏漢語抄に楡末(にれのこな)の菜なりと云ふ〉は菜の鮓なりといふ。

黄菜 崔禹食經云温菘味辛是人作黄菜常所噉者也〈黄菜此间云王佐以一云佐波夜介〉

黄菜 崔禹食経に云はく、温菘、味は辛、是れ人の黄菜を作りて常に噉ふ者なりといふ。〈黄菜は此の間に王佐以(わうさい)と云ひ、一に佐波夜介(さはやけ)と云ふ〉

蘴 唐韵云蘴〈音豊久々太知俗用莖立二字〉蔓菁苗也

蘴 唐韻に云はく、蘴〈音は豊、久々太知(くくたち)、俗に茎立の二字を用ゐる〉は蔓菁の苗なりといふ。

菌茸 崔禹食經云菌茸〈而容反上渠殞反上声之重尓雅注云菌有木菌土菌皆多介〉食之温有小毒状如人著笠者也

菌茸 崔禹食経に云はく、菌茸〈而容反、上は渠殞反、上声の重。爾雅注に菌に木菌、土菌有り、皆、多介(たけ)と云ふ〉は之れを食ふに温、小毒有り、状は人の笠を著るが如き者なりといふ。

羹 楚辞注云有菜曰羹〈音庚阿豆毛乃〉無菜曰臛〈呼各反和名上同今案是以𩵋鳥肉爲羹也〉

羹 楚辞注に云はく、菜有るを羹〈音は庚、阿豆毛乃(あつもの)〉と曰ひ、菜無きを臛〈呼各反、和名は上に同じ。今案ふるに是れは魚鳥の肉を以て羹と為るなり〉と曰ふといふ。

魚鳥類五十七

魚鳥類五十七

鱠 唐韵云鱠〈音㑹奈万湏〉細切完也

鱠 唐韻に云はく、鱠〈音は会、奈万須(なます)〉は細切の宍なりといふ。

鮨 尒雅注云鮨〈渠脂反与耆同湏之〉鮓属也野王案大魚曰𩺃〈側下反今即鮓字也〉小魚曰𩷒〈音侵一音蹔〉

鮨 爾雅注云鮨〈渠脂反、耆と同じ、須之(すし)〉は鮓の属なりといふ。野王案に大魚を𩺃〈側下反、今に即ち鮓の字なり〉と曰ひ、小魚を𩷒〈音は侵、一音に蹔〉と曰ふといふ。

䐿 四声字苑云䐿〈烏到反今案俗云加湏毛美〉糟蔵肉也

䐿 四声字苑に云はく、䐿〈烏到反、今案ふるに俗に加須毛美(かすもみ)と云ふ〉は糟に蔵むる肉なりといふ。

䐹 礼記注云䐹〈音周保之以乎見本朝令〉乾魚也

䐹 礼記注に云はく、䐹〈音は周、保之以乎(ほしいを)、本朝令に見ゆ〉は乾魚なりといふ。

魚條 遊仙窟云東海鯔條〈魚條讀湏波夜利本朝式云楚割〉

魚条 遊仙窟に東海の鯔条〈魚条は須波夜利(すはやり)と読む、本朝式に楚割と云ふ〉と云ふ。

魥 唐韵云魥〈音怯今案乎佐之一云与知乎佐之〉以竹貫魚出復州界也

魥 唐韻に云はく、魥〈音は怯、今案ふるに乎佐之(をざし)、一に与知乎佐之(よちをざし)と云ふ〉は竹を以て魚を貫く、復州の界より出づるなりといふ。

炒𤌈 唐韵云炒𤌈〈早備二音漢語抄云炒𤌈𩵋比保之乃以乎俗云火干〉火乾也

炒㷶 唐韻に云はく、炒㷶〈早備の二音、漢語抄に炒㷶魚は比保之乃以乎(ひぼしのいを)と云ひ、俗に火干と云ふ〉は火乾なりといふ。

炙 唐韵云炙〈之夜反又之石反阿布利毛乃〉炙完說文字從月火

炙 唐韻に云はく、炙〈之夜反、又、之石反、阿布利毛乃(あぶりもの)〉は炙宍といふ。説文に字は月火に従ふ。

炰 礼記注云炰〈薄交反豆豆𫟈夜歧〉褁焼也

炰 礼記注に云はく、炰〈薄交反、豆豆美夜岐(つつみやき)〉は裹焼なりといふ。

臛 楚辞云煎𩺀臛雀〈臛音呼各反訓与羹同已見上文〉

臛 楚辞に、𩺀(ふな)を煎り雀を臛にすと云ふ。〈臛の音は呼各反、訓は羹と同じ、已に上文に見ゆ〉

臇 玉篇云臇〈音雖一音淺以利毛乃〉少汁臛也

臇 玉篇に云はく、臇〈音は雖、一音に浅、以利毛乃(いりもの)〉は少なき汁の臛なりといふ。

寒 文選云寒鶬烝麑〈師說寒讀古与之毛乃此间云迩古与春〉

寒 文選に鶬を寒し、麑を蒸すと云ふ。〈師説に寒を古与之毛乃(こよしもの)と読む、此の間に邇古与春(にこよす)と云ふ〉

魚頭 食療經云婦人任身不得食魚頭損胎〈今案煑鯉魚頭謂之魚頭故別擧之〉

魚頭 食療経に云はく、婦人、身任りて魚頭を得(え)食らはじ、胎を損ふといふ。〈今案ふるに鯉の魚頭を煮るは之れを魚頭と謂ふ、故に別に挙ぐ〉

氷頭〈背膓附〉 本朝式云年魚氷頭背膓〈年魚者鮭𩵋也氷頭者比豆也背膓者𫟈奈和太也或說謂背爲皆訛也〉

氷頭〈背腸付〉 本朝式に、年魚、氷頭、背腸と云ふ〈年魚は鮭魚なり、氷頭は比豆(ひづ)なり、背腸は美奈和太(みなわた)なり。或説に背を皆と為るは訛りなりと謂ふ〉。

雉脯 遊仙窟云西山鳳脯〈音甫師說保之止利俗用干鳥二字〉

雉脯 遊仙窟に西山の鳳脯〈音は甫、師説に保之止利(ほしどり)、俗に干鳥の二字を用ゐる〉と云ふ。

腊 唐韻曰腒腊〈居昔二音歧太比〉乾肉也方言云鳥腊曰膴〈音無又武〉

腊 唐韻に曰はく、腒腊〈居昔の二音、岐太比(きたひ)〉は乾肉なりといふ。方言に云はく、鳥腊を膴〈音は無、又、武〉と曰ふといふ。

鹿脯 說文云脯〈音甫保師々之〉乾肉也礼記云牛脩鹿脯〈脩亦脯也音秋〉

鹿脯 説文に云はく、脯〈音は甫、保師々之(ほしじし)〉は乾肉なりといふ。礼記に、牛脩、鹿脯と云ふ〈脩は亦、脯なり、音は秋〉。

醢 尒雅注云醢〈乎改反与海同之々比之保〉完醬也陶隱居曰肉醬魚醬皆呼爲醢不入藥用

醢 爾雅注に云はく、醢〈乎改反、海と同じ、之々比之保(ししびしほ)〉は宍醬なりといふ。陶隠居に曰はく、肉醬、魚醬は皆、呼びて醢と為、薬に入れて用ゐずといふ。

〓〔月偏に簫〕 唐韵云〓〔月偏に簫〕〈蘓弔反与嘯同今案鹿〓〔月偏に簫〕俗云阿閇豆久利是也〉切完合糅也

〓〔月偏に簫〕 唐韻に云はく、〓〔月偏に簫〕〈蘇弔反、嘯と同じ。今案ふるに鹿〓〔月偏に簫〕は俗に阿閉豆久利(あへづくり)と云ふは是なり〉は宍を切りて合せ糅むなりといふ。

頭腦 崔禹食經云鹿頭腦治内𤍽〈今案煑鹿頭之名謂之頭腦故別置之〉

頭脳 崔禹食経に云はく、鹿頭脳は内熱を治すといふ。〈今案ふるに煮鹿頭の名は之れを頭脳と謂ふ、故に別に置く〉

餗 周易注云餗〈音束訓古奈加歧〉鼎實也

餗 周易注に云はく、餗〈音は束、訓は古奈加岐(こなかき)〉は鼎の実なりといふ。

塩梅類五十八〈尚書注云塩鹹也梅酢也四声字苑云韲〈即黎反訓安不〉擣薑蒜以醋和之〉

塩梅類五十八〈尚書注に云はく、塩は鹹なり、梅酢なりといふ。四声字苑に云はく、韲〈即黎反、訓は安不(あふ)〉は薑蒜を擣き醋を以て之れを和ふるをいふ。〉

塩 陶隠居曰塩有九種白塩人常所食也崔禹食經云石塩一名白塩又有黒塩〈余廉反之保日本紀私記云堅塩歧多之〉

塩 陶隠居に曰はく、塩に九種有り、白塩は人の常に食へるなりといふ。崔禹食経に云はく、石塩は一名に白塩、又、黒塩〈余廉反、之保(しほ)。日本紀私記に堅塩は岐多之(きたし)と云ふ〉有りといふ。

酢 本草云酢酒味酸温無毒〈酢倉故反字亦作醋湏酸音素官反〉陶隱居曰俗呼爲苦酒〈今案鄙語謂酢爲加良佐介此類也〉

酢 本草に云はく、酢酒、味は酸、温にして毒無しといふ〈酢は倉故反、字は亦、醋に作る、須く酸くべし、音は素官反〉。陶隠居に曰はく、俗に呼びて苦酒〈今案ふるに鄙語に酢を謂ひて加良佐介(からさけ)と為、此の類なり〉と為といふ。

醬 四声字苑云醬〈即𠅙反比之保別有唐醬〉豆醢也

醬 四声字苑に云はく、醬〈即亮反、比之保(ひしほ)。別に唐醬有り〉は豆醢なりといふ。

𤋎汁 本朝式云堅魚𤋎汁〈加豆乎以路利〉

煎汁 本朝式に堅魚の煎汁〈加豆乎以路利(かつをいろり)〉と云ふ。

末醬 楊氏漢語抄云高麗醤〈美蘓今案弁色立成說同但本義未詳俗用味醤二字味冝作末何則通俗文末榆楊也之義也而末訛爲未未轉爲味又有志賀末醤𠃧騨末醤志賀夷醤未者搗末之義也志賀者近江国郡名各以其所出国郡爲名也〉

末醤 楊氏漢語抄に高麗醤と云ふ。〈美蘇(みそ)、今案ふるに弁色立成の説に同じ。但し本義は未だ詳かならず。俗に味醤の二字を用ゐる。味は宜しく末に作るべし。何となれば則ち通俗文の末は楡楊なるの義なり。而して末は訛りて未と為り、未は転じて味と為る。又、志賀末醤、飛騨末醤有り。志賀夷醤未は搗末の義なり。志賀は近江国の郡の名、各、其の出づる所の国、郡を以て名と為るなり〉

豉 釋名云豉〈是義反久歧〉五味調和者也

豉 釈名に云はく、豉〈是義反、久岐(くき)〉は五味の調ひ和ふる者なりといふ。

搗蒜 食療經云搗蒜韲〈比流都歧〉

搗蒜 食療経に搗蒜韲〈比流都岐(ひるつき)〉と云ふ。

薑〈乾薑附〉 膳夫經云空腹勿食生薑〈居良反久礼乃波之加𫟈俗云阿奈波之加美〉養性要集云乾薑一名定薑〈保之波之加𫟈〉

薑〈乾薑付〉 膳夫経に云はく、空腹に生薑〈居良反、久礼乃波之加美(くれのはじかみ)、俗に阿奈波之加美(あなはじかみ)と云ふ〉を食ふこと勿れといふ。養性要集に云はく、乾薑は一名に定薑といふ〈保之波之加美(ほしはじかみ)〉。

蜀椒 蘓敬本草注云蜀椒〈音蕭奈留波之加𫟈一云不佐波之加𫟈〉生蜀郡故以名之

蜀椒 蘇敬本草注に云はく、蜀椒〈音は蕭、奈留波之加美(なるはじかみ)、一に不佐波之加美(ふさはじかみ)と云ふ〉は蜀郡に生る、故、以て名くといふ。

辛夷 崔禹食經云辛夷〈夜万阿良々歧一云古不之波之加𫟈〉其子可噉之

辛夷 崔禹食経に云はく、辛夷〈夜万阿良々岐(やまあららぎ)、一に古不之波之加美(こぶしはじかみ)と云ふ〉は其の子は之れを噉ふべしといふ。

山葵 養生秘要云山葵〈和佐比漢語抄云山薑〉補益食也

山葵 養生秘要に云はく、山葵〈和佐比(わさび)。漢語抄に山薑と云ふ〉は補益の食なりといふ。

蘭蒚 養生秘要云蘭蒚〈蒚音隔阿良々歧〉

蘭蒚 養生秘要に蘭蒚〈蒚の音は隔、阿良々岐(あららぎ)〉と云ふ。

薄𦺞 養生秘要云薄𦺞〈波加今案𦺞字所出未詳〉

薄𦺞 養生秘要に薄𦺞〈波加(はか)、今案ふるに𦺞の字、出づる所未だ詳かならず〉と云ふ。

胡荽 崔禹食經云胡荽〈息遺反古迩之〉味辛臭一名香荽魚鳥膾尤爲要愽物志云張鶱入西域得之故曰胡荽也

胡荽 崔禹食経に云はく、胡荽〈息遺反、古邇之(こにし)〉、味は辛、臭、一名に香荽、魚鳥の膾に最も要と為といふ。博物志に云はく、張鶱、西域に入りて之れを得、故に胡荽と曰ふなりといふ。

芥 本草云芥味辛歸鼻〈芥音介賀良之〉

芥 本草に云はく、芥、味は辛、鼻に帰るらしといふ。〈芥の音は介、賀良之(からし)〉

蓼 崔禹食經云青蓼〈力鳥反多天〉人家恒食之又有紫蓼矣

蓼 崔禹食経に云はく、青蓼〈力鳥反、多天(たで)〉は人家恒に之れを食ふといふ。又、紫蓼有り。

胡桃 七卷食經云胡桃味甘温食之有油甚𫟈〈久留𫟈〉愽物志云張騫使西域還時得之

胡桃 七巻食経に云はく、胡桃、味は甘、温、之れを食へば油有りて甚だ美しといふ〈久留美(くるみ)〉。博物志に云はく、張騫、西域に使ひして還る時に之れを得といふ。

韲 四聲字苑云韲〈即嵆反訓安不一云阿倍毛乃〉擣薑蒜以醋和之

韲 四声字苑に云はく、韲〈即嵆反、訓は安不(あふ)、一に阿倍毛乃(あへもの)と云ふ〉は薑蒜を擣き醋を以て之れを和ふといふ。

橘皮 本草注云橘皮一名甘皮〈太知波奈乃加波一云歧賀波〉

橘皮 本草注に云はく、橘皮は一名に甘皮といふ〈太知波奈乃加波(たちばなのかは)、一に岐賀波(きがは)と云ふ〉。

器皿部第十二〈四声字苑云皿武𣱵反器惣名也柄音筆病反器物莖柯也衣一云賀良〉

器皿部第十二〈四声字苑に云はく、皿は武永反、器の惣名なり。柄の音は筆病反、器物の茎柯なり、衣(え)、一に賀良(から)と云ふ〉  

金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三

 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三

金器五十九

金器五十九

鼎 說文云鼎〈都梃反与頂同阿之加奈倍〉三足兩耳和五味之寶器也

鼎 説文に云はく、鼎〈都梃反、頂と同じ、阿之加奈倍(あしかなへ)〉は三足に両耳あり、五味を和(ととの)ふる宝器なりといふ。

釡 古史考云釡〈扶雨反上声之重与輔同賀奈倍〉黄帝造也

釡 古史考に云はく、釡〈扶雨反、上声の重、輔と同じ、賀奈倍(かなへ)〉は黄帝、造るなりといふ。

鍑 四声字苑云鍑〈音冨漢語抄云佐加利俗用懸釡二字〉釡而大口一云小釡也

鍑 四声字苑に云はく、鍑〈音は富、漢語抄に佐加利(さがり)と云ひ、俗に懸釡の二字を用ゐる〉は釡にして大口なるをいふ。一に小釡なりと云ふ。

銚 四声字苑云銚〈徒弔反弁色立成云銚子佐之奈閇俗云佐湏奈閇〉焼器似鎢錥而上有鐶也唐韻云鎢錥〈烏育二音〉温器也

銚 四声字苑に云はく、銚〈徒弔反、弁色立成に銚子は佐之奈閉(さしなべ)と云ひ、俗に佐須奈閉(さすなべ)と云ふ〉は焼く器にして鎢錥に似て上に鐶有るなりといふ。唐韻に云はく、鎢錥〈烏育の二音〉は温むる器なりといふ。

鑊子 周礼注云鑊〈音獲此间云鑊子以爲煖頂之器〉煑肉器也

鑊子 周礼注に云はく、鑊〈音は獲、此の間に鑊子と云ふ。煖め頂く器と以為(おも)ふ〉は肉を煮る器なりといふ。

鎗 唐韵云鎗〈音楚庚反字亦作鐺阿之奈倍或說云俗云非甑而所炊之飯謂之鐺飯者音訛也〉小鼎也鐎〈即遥反〉温器三足有柄也

鎗 唐韻に云はく、鎗〈音は楚庚反、字は亦、鐺に作る、阿之奈倍(あしなべ)、或説に云はく、俗に甑非ざりて炊ける飯、之れを鐺飯と謂ふは音の訛りなりと云ふといふ〉は小鼎なり、鐎〈即遥反〉は温むる器の三足にして柄有るなりといふ。

鍋 唐式云䥫鍋食單各一〈鍋音古禾反䥫鍋加奈々倍〉

鍋 唐式に、鉄鍋、食単、各(おのおの)一つと云ふ。〈鍋の音は古禾反、鉄鍋は加奈々倍(かななべ)〉

鏊 四声字苑云鏊〈五到反今案此间云煎餅盤是也〉炒餅䥫盤也

鏊 四声字苑に云はく、鏊〈五到反、今案ふるに此の間に煎餅盤と云ふは是なり〉は餅を炒る鉄盤なりといふ。

鈔鑼 唐韵云鈔鑼〈沙羅二音俗云沙不良今案或說新羅金椀出新羅國後人訛新爲雜故雜羅是說未詳〉

鈔鑼 唐韻に鈔鑼〈沙羅の二音、俗に沙不良(さふら)と云ふ。今案ふるに、或説に新羅の金椀、新羅国より出づ。後の人、新を訛りて雑と為。故に雑羅と云ふ。是の説、未だ詳かならず〉と云ふ。

鉢 四声字苑云鉢〈愽末反字亦作盋見唐韵俗云波知〉學佛道者食器也胡人謂之盂也

鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、字は亦、盋に作る、唐韻に見ゆ。俗に波知(はち)と云ふ〉は仏道を学ぶ者の食器なり、胡人は之れを盂と謂ふなりといふ。

鋺 日本霊異記云其器皆鋺〈俗云加奈万利今案鋺字未詳古語椀爲末利冝用金椀二字〉

鋺 日本霊異記に云はく、其の器は皆、鋺といふ。〈俗に加奈万利(かなまり)と云ふ。今案ふるに鋺の字、未だ詳かならず。古語に椀を末利(まり)と為。宜しく金椀の二字を用ゐるべし〉

漆器六十

漆器六十

樽〈酒海附〉 辨色立成云樽〈音尊此间云去声字亦作罇見說文〉酒樽有脚酒器也蔣魴切韵云樽酒海也〈今案此间所有樽与酒海各異故以附出〉

樽〈酒海付〉 弁色立成に云はく、樽〈音は尊、此の間に去声と云ふ。字は亦、罇に作る、説文に見ゆ〉は酒樽に脚有る酒器なりといふ。蒋魴切韻に云はく、樽は酒海なりといふ〈今案ふるに此の間に樽有る所と酒海と、各異なる、故に以て付け出す〉。

壷 周礼注云壷〈音胡都保〉所以盛飲也𠔥名苑云壷一名𢀿也〈唐韵𢀿音謹以瓢爲酒器也〉

壺 周礼注に云はく、壺〈音は胡、都保(つぼ)〉は飲を盛る所以なりといふ。兼名苑に云はく、壺は一名に𢀿なりといふ〈唐韻に𢀿の音は謹、瓢を以て酒器と為るなり〉。

酒臺〈臺子附〉 東宮舊事云漆酒臺弁色立成云臺子〈志利佐良〉

酒台〈台子付〉 東宮旧事に漆の酒台と云ふ。弁色立成に台子〈志利佐良(しりざら)〉と云ふ。

大槃木 唐式云大槃〈本朝式云朱漆臺盤黒漆臺盤〉

大槃木 唐式に大槃と云ふ。〈本朝式に朱漆の台盤、黒漆の台盤と云ふ〉

櫑子 唐韵云櫑〈音雷字亦作罍本朝式云櫑子〉酒器也

櫑子 唐韻に云はく、櫑〈音は雷、字は亦、罍に作る。本朝式に櫑子と云ふ〉は酒器なりといふ。

疊子 唐式云飯椀羹疊子各一〈楊氏漢語抄云疊子宇流之沼利乃佐良〉

畳子 唐式に、飯椀、羹畳子、各一つと云ふ。〈楊氏漢語抄に畳子は宇流之沼利乃佐良(うるしぬりのさら)と云ふ〉

合子 同式云尚食𡱈漆器三年一換供換毎節䉼朱合等五年一換〈今案朱合此间云朱漆合子也〉

合子 同式に云はく、尚食局、漆器は三年に一たび換へ供ふ、換ふ毎に節料、朱合等は五年に一たび換ふといふ〈今案ふるに朱合は此の間に朱漆の合子なりと云ふ〉。

匜 說文云匜〈初尒反一音移俗用楾字未詳〉柄中有道可以注水之器也

匜 説文に云はく、匜〈初爾反、一音に移、俗に楾の字を用ゐるも未だ詳かならず〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべき器なりといふ。

盥 說文云盥〈古滿反与管同俗用手洗二字已上二物具見下澡浴具也〉澡手也

盥 説文に云はく、盥〈古満反、管と同じ、俗に手洗の二字を用ゐる。已上の二物具は下の澡浴具に見ゆ〉は手を澡(あら)ふなりといふ。

木器六十一

木器六十一

厨子 弁色立成云竪櫃〈竪立也臣庚反上声之重〉厨子別名也

厨子 弁色立成に云はく、竪櫃〈竪は立なり、臣庚反、上声の重〉は厨子の別名なりといふ。

櫃 蔣魴切韵云櫃〈音貴比豆俗有長櫃韓櫃明櫃折櫃此等名〉似厨向上開闔器也

櫃 蒋魴切韻に云はく、櫃〈音は貴、比豆(ひつ)、俗に長櫃、韓櫃、明櫃、折櫃、此等の名有り〉は厨に似て上を向きて開き闔る器なりといふ。

檈 四声字苑云檈〈似泉反与旋同今案俗云臺是〉圎案也

檈 四声字苑に云はく、檈〈似泉反、旋と同じ、今案ふるに俗に台と云ふは是〉は円き案なりといふ。

机〈牙脚附〉 唐韵云机〈音几〉案属也史記云持案進食〈案音按都古惠〉唐式云行床牙脚〈今案牙脚此间云牙象脚也〉

机〈牙脚付〉 唐韻に云はく、机〈音は几〉は案の属なりといふ。史記に云はく、案を持ちて進食(みを)すといふ〈案の音は按、都古恵(つくゑ)〉。唐式に行床の牙脚と云ふ〈今案ふるに牙脚は此の間に牙象脚なりと云ふ〉。

𣝑 唐韵云𣝑〈音豫今案俗云中取是也〉舁食器也

𣝑 唐韻に云はく、𣝑〈音は予、今案ふるに俗に中取(なかどる)と云ふは是なり〉は食を舁(にな)ふ器なりといふ。

臼〈杵附〉 四声字苑云臼〈巨久反上声之重宇湏〉舂穀器也杵〈昌与反岐祢〉舂槌也

臼〈杵付〉 四声字苑に云はく、臼〈巨久反、上声の重、宇須(うす)〉は穀を舂(うすづ)く器なり、杵〈昌与反、岐禰(きね)〉は舂く槌なりといふ。

碓 祝尚丘曰碓〈音對字亦作磓賀良宇湏〉踏舂具也𠔥名苑云碓一名𥕐〈音的〉魯般造也

碓 祝尚丘に曰はく、碓〈音は対、字は亦、磓に作る、賀良宇須(からうす)〉は踏み舂く具なりといふ。兼名苑に云はく、碓は一名に𥕐〈音は的〉、魯般が造るなりといふ。

磑 𠔥名苑云磑〈五對反〉一名䃀〈音砌〉磨礱也唐韵云磨礱〈麻籠二音又並去声湏利宇湏〉磑也

磑 兼名苑に云はく、磑〈五対反〉は一名に䃀〈音は砌〉、磨礱なりといふ。唐韻に云はく、磨礱〈麻籠の二音、又、並びに去声、須利宇須(すりうす)〉は磑なりといふ。

甑〈甑帯附〉 蔣魴切韵云甑〈音勝古之歧〉炊飯器也本草云甑帯灰〈古之幾和良乃波𠃧〉弁色立成云炊單也

甑〈甑帯付〉 蒋魴切韻に云はく、甑〈音は勝、古之岐(こしき)〉は飯を炊ぐ器なりといふ。本草に甑帯灰〈古之幾和良乃波飛(こしきわらのはひ)〉と云ふ。弁色立成に炊単なりと云ふ。

酒槽 文選酒徳頌注云槽〈音曹佐加布祢〉今之酒槽也

酒槽 文選酒徳頌注に云はく、槽〈音は曹、佐加布禰(さかふね)〉は今の酒槽なりといふ。

桶 蔣魴切韵云桶〈徒惣反上声之重又他孔反乎介〉汲水於井之器也

桶 蒋魴切韻に云はく、桶〈徒惣反、上声の重、又、他孔反、乎介(をけ)〉は水を井に汲む器なりといふ。

杓〈瓢附〉 唐韵云杓〈音酌比佐古〉斟水器也瓢〈符霄反奈利比佐古〉瓠也瓠〈音護〉匏也匏〈薄交反〉可爲飲器者也

杓〈瓢付〉 唐韻に云はく、杓〈音は酌、比佐古(ひさご)〉は水を斟む器なりといふ。瓢〈符霄反、奈利比佐古(なりひさご)〉は瓠なり、瓠〈音は護〉は匏なり、匏〈薄交反〉は飲む器に為べき者なりといふ。

棬 陸詞切韵云棬〈音拳漢語抄云佐湏江〉器似斗属屈木爲之考声切韵云盃類也

棬 陸詞切韻に云はく、棬〈音は拳、漢語抄に佐須江(さすえ)と云ふ〉は器にして斗の属に似て木を屈めて之れを為るといふ。考声切韻に盃の類なりと云ふ。

笥 礼記注云笥〈思吏反介〉盛食器也

笥 礼記注に云はく、笥〈思吏反、介(け)〉は食を盛る器なりといふ。

衦麵杖 弁色立成云衦麵杖〈牟歧於湏紀上音各旱反〉

衦麺杖 弁色立成に、衦麺杖〈牟岐於須紀(むぎおすき)、上の音は各旱反〉と云ふ。

茶研 章孝標集有黄楊木茶碾子詩〈碾音展訓歧之流〉

茶研 章孝標集に黄楊木茶碾子詩有り〈碾の音は展、訓は岐之流(きしる)〉。

瓦器六十二〈瓦器一云陶器陶訓湏惠毛乃〉

瓦器六十二〈瓦器は一に陶器と云ふ。陶の訓は須恵毛乃(すゑもの)〉

大甕 弁色立色云大甕〈𫟈賀〉本朝式云𤭖〈和名同上音長一音仗見唐韵也〉

大甕 弁色立色に大甕〈美賀(みか)〉と云ふ。本朝式に𤭖〈和名は上に同じ、音は長、一音に仗、唐韻に見ゆるなり〉と云ふ。

浅甕 日本紀私記云浅甕〈佐良介〉本朝式云瓼〈和名上同今案所出未詳〉

浅甕 日本紀私記に浅甕〈佐良介(さらけ)〉と云ふ。本朝式に瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉と云ふ。

甕 方言云自關而東甖〈烏莖反字亦作罌〉謂之甕〈烏貢反字亦作瓮毛太比〉

甕 方言に云はく、関より東に甖〈烏茎反、字は亦、罌に作る〉は之れを甕〈烏貢反、字は亦、瓮に作る、毛太比(もたひ)〉と謂ふといふ。

坩 楊氏漢語抄云坩〈古甘反都保今案木謂之壷瓦謂之坩〉壷也或曰甒甖〈武鸎二音〉垂拱留司格云瓷坩廿口一斗以下五升以上故知坩者壷也

坩 楊氏漢語抄に云はく、坩〈古甘反、都保(つぼ)。今案ふるに木は之れを壺と謂ひ瓦は之れを坩と謂ふ〉は壺なりといふ。或に甒甖〈武鸎の二音〉と曰ふ。垂拱留司格に瓷坩二十口は一斗以下五升以上と云ふ。故に坩は壺なりと知れり。

瓶子 楊氏漢語抄云瓶子〈賀米上薄經反〉

瓶子 楊氏漢語抄に瓶子〈賀米(かめ)、上は薄経反〉と云ふ。

游堈 唐韵云堈〈音㓻楊氏抄云游堈由賀〉甕也〈今案俗人呼大桶爲由加乎介是弁色立成云於保𫟈加〉

游堈 唐韻に云はく、堈〈音は剛、楊氏抄に游堈は由賀(ゆか)と云ふ〉は甕なりといふ〈今案ふるに俗人の大桶を呼びて由加乎介(ゆかをけ)と為るは是。弁色立成に於保美加(おほみか)と云ふ〉。

盆 唐韵云盆〈蒲奔反字亦作瓫弁色立成云比良賀〉瓦器也尒雅云瓫謂之缶〈音不訓保度歧〉𠔥名苑云盆一名盂〈音于〉

盆 唐韻に云はく、盆〈蒲奔反、字は亦、瓫に作る。弁色立成に比良賀(ひらか)と云ふ〉は瓦器なりといふ。爾雅に云はく、瓫は之れを缶〈音は不、訓は保度岐(ほとき)〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、盆は一名に盂〈音は于〉といふ。

罐 唐韵云罐〈音貫楊氏抄云都流閇〉汲水器也

缶 唐韻に云はく、缶〈音は貫、楊氏抄に都流閉(つるべ)と云ふ〉は水を汲む器なりといふ。

堝 弁色立成云堝〈奈閇古禾反今案金謂之鍋瓦謂之堝字或相通〉

堝 弁色立成に堝〈奈閉(なべ)、古禾反、今案ふるに金なるは之れを鍋と謂ひ、瓦なるは之れを堝と謂ひ、字は或に相通ふ〉と云ふ。

瓷 唐韵云瓷〈疾資反〉瓦器也

瓷 唐韻に云はく、瓷〈疾資反〉は瓦器なりといふ。

盌 說文云盌〈烏管反字作椀弁色立成云末利俗云毛比〉小盂

盌 説文に云はく、盌〈烏管反、字は椀に作る。弁色立成に末利(まり)と云ふ。俗に毛比(もひ)と云ふ〉は小さき盂といふ。

盤 唐韵云盤〈薄官反佐良〉器名也

盤 唐韻に云はく、盤〈薄官反、佐良(さら)〉は器の名なりといふ。

盃盞 𠔥名苑云盃〈字亦作坏〉一名巵〈音支佐賀都歧〉方言注云盞〈音産〉盃之㝡小者也

盃盞 兼名苑に云はく、盃〈字は亦、坏に作る〉は一名に巵〈音は支、佐賀都岐(さかづき)〉といふ。方言注に云はく、盞〈音は産〉は盃の最も小さき者なりといふ。

竹器六十三

竹器六十三

箱筐 楊氏漢語抄云箱〈音相〉篋〈苦恊反〉筥〈居許反筥篋〉筐〈音匡〉篚〈音匪已上皆波古〉唐韵云竹器方曰筐圎曰篚也

箱筐 楊氏漢語抄に、箱〈音は相〉、篋〈苦協反〉、筥〈居許反、筥篋〉、筐〈音は匡〉、篚〈音は匪、已上は皆、波古(はこ)〉と云ふ。唐韻に云はく、竹器の方なるを筐と曰ひ、円なるを篚と曰ふなりといふ。

簏 考声切韵云簏〈音禄湏利〉箱類也

簏 考声切韻に云はく、簏〈音は禄、須利(すり)〉は箱の類なりといふ。

籠 唐韵云籠〈盧紅反一音龍又力董反古〉竹器也

籠 唐韻に云はく、籠〈盧紅反、一音に竜、又、力董反、古(こ)〉は竹器なりといふ。

笭箐 四声字苑云笭箐〈零青二音漢語抄云加太𫟈〉小籠也

笭箐 四声字苑に云はく、笭箐〈零青の二音、漢語抄に加太美(かたみ)と云ふ〉は小さき籠なりといふ。

籮 考声切韵云江南人謂筐底方上圎者爲籮〈音羅之太𫟈〉

籮 考声切韻に云はく、江南の人、筐の底の方(けだ)にして上の円(まろ)かなる者を謂ひて籮〈音は羅、之太美(したみ)〉と為といふ。

䈪 方言注云䈪形小而髙江東呼爲䈪〈呼撃反漢語抄云阿自賀今案又用簣字見史記〉

䈪 方言注に云はく、䈪は形小さくて高し、江東に呼びて䈪〈呼撃反、漢語抄に阿自賀(あじか)。今案ふるに又、簣の字を用ゐる、史記に見ゆ〉と為といふ。

箄 四声字苑云箄〈愽継反漢語抄云飯箄以比之太𫟈〉蔽甑底竹筐也

箄 四声字苑に云はく、箄〈博継反、漢語抄に飯箄を以比之太美(いひじたみ)と云ふ〉は甑の底を蔽ふ竹の筐なりといふ。

篝 說文云篝〈古侯反加々利〉竹器也

篝 説文に云はく、篝〈古侯反、加々利(かがり)〉は竹器なりといふ。

篩 說文云篩〈音師字亦作簛布流比〉除麁去細之竹器也

篩 説文に云はく、篩〈音は師、字は亦、簛に作る、布流比(ふるひ)〉は麁きを除き細かきを去る竹器なりといふ。

笟籬 辨色立成云笟籬〈楊氏抄云无歧湏久比唐韵上側教反去声之輕下音離〉麥索煑籠也以竹編爲之

笟籬 弁色立成に云はく、笟籬〈楊氏抄に無岐須久比(むぎすくひ)と云ふ。唐韻に上は側教反、去声の軽、下の音は離〉は麦索を煮る籠なりといふ。竹を以て編み之れを為る。

箕〈箒附〉 說文云箕〈音姫𫟈〉除糞簸米之器也𠔥名苑云箒〈音酒〉一名篲〈祥歳反波々歧〉

箕〈箒付〉 説文に云はく、箕〈音は姫、美(み)〉は糞を除き米を簸(ひ)る器なりといふ。兼名苑に云はく、箒〈音は酒〉は一名に篲〈祥歳反、波々岐(ははき)〉といふ。

燈火部第十三

灯火部第十三  

燈火類六十四 燈火具六十五 燈火器六十六

 灯火類六十四 灯火具六十五 灯火器六十六

燈火類六十四

灯火類六十四

燈燭 四声字苑云器照曰燈〈音登〉竪焼曰燭〈音属和名並度毛師比〉野王案灯燭蘭膏所燃之火也

灯燭 四声字苑に云はく、器照を灯〈音は登〉と曰ひ、竪焼を燭〈音は属、和名は並びに度毛師比(ともしび)〉と曰ふといふ。野王案に灯燭、蘭膏は燃ゆる所の火なりとす。

䗶燭 唐式云少府監毎年供䗶燭七十挺

蠟燭 唐式に、少府監、年毎に蠟燭七十挺を供すと云ふ。

紙燭 雜題有紙燭詩〈紙燭俗音之曽久〉

紙燭 雑題に紙燭詩〈紙燭は俗に音は之曽久(しそく)〉有り。

炬火 唐韵云爝〈即略反与雀同〉炬火也字書云炬火〈其呂反上声之重訓与燈同俗云太天阿加之〉束薪灼之

炬火 唐韻に云はく、爝〈即略反、雀と同じ〉は炬火なりといふ。字書に云はく、炬火〈其呂反、上声の重、訓は灯と同じ、俗に太天阿加之(たてあかし)と云ふ〉は薪を束ねて之れを灼くをいふ。

庭燎 四声字苑云燎〈力照反和名迩波比毛詩有庭燎篇〉庭火也

庭燎 四声字苑に云はく、燎〈力照反、和名は邇波比(にはび)。毛詩に庭燎篇有り〉は庭火なりといふ。

𤇺燧〈火橛附〉 說文云𤇺燧〈峯遂二音度布比〉𨕙有警則擧之唐式云諸置燧之處置火臺々上挿橛〈音厥俗云保久之〉

𤇺燧〈火橛付〉 説文に云はく、𤇺燧〈峯遂の二音、度布比(とぶひ)〉は辺に警め有るときは則ち之れを挙ぐといふ。唐式に云はく、諸そ燧を置く処に火の台を置き、台の上に橛〈音は厥、俗に保久之(ほぐし)と云ふ〉を挿せといふ。

煻煨 唐韵云熾〈昌志反漢語抄云於歧比〉猛火也又盛也四声字苑云煻煨〈唐隈二音和名上同〉熱灰新火也

煻煨 唐韻に云はく、熾〈昌志反、漢語抄に於岐比(おきび)と云ふ〉は猛き火なり、又、盛りなりといふ。四声字苑に云はく、煻煨〈唐隈の二音、和名は上に同じ〉は熱灰に新まる火なりといふ。

燐火 文字集略云燐〈音隣一音𠫤於迩比〉鬼火也人及牛馬兵死者血所化也

燐火 文字集略に云はく、燐〈音は隣、一音に吝、於邇比(おにび)〉は鬼火なり、人及び牛馬兵の死ぬる者の血の化ける所なりといふ。

燈火具六十五

灯火具六十五

火鑚 内典云譬如因燧因鑚〈音賛比歧利〉而得生火〈涅槃經文也〉

火鑚 内典に云はく、譬へば燧に因り鑚〈音は賛、比岐利(ひきり)〉に因りて火を生むを得るが如しといふ。〈涅槃経の文なり〉

燧 古史考云燧人氏造鑚燧〈音遂比宇知〉始出火

燧 古史考に云はく、燧人氏、鑚燧〈音は遂、比宇知(ひうち)〉を造り、始めて火を出すといふ。

油〈擣押附〉 四声字苑云油〈以周反阿布良〉迮麻取脂也迮〈側陌反字与窄通〉迫也狹也内典云胡麻熟已収子𤎅之擣押〈俗語云之路无〉然後乃得出油〈涅槃經文也〉

油〈擣押付〉 四声字苑に云はく、油〈以周反、阿布良(あぶら)〉は麻を迮(せ)めて脂を取るなり、迮〈側陌反、字は窄と通ふ〉は迫なり、狭なりといふ。内典に云はく、胡麻熟れ已り子を収めば熬りて擣き押す〈俗語に之路無(しろむ)と云ふ〉、然る後、乃ち油の出づるを得といふ〈涅槃経の文なり〉。

燈心 考声切韵云炷〈音主又去声和名火度宇之𫟈燈心音訛也〉燈心也

灯心 考声切韻に云はく、炷〈音は主、又、去声、和名は火度宇之美(ひとうしみ)、灯心の音の訛るなり〉は灯心なりといふ。

炭〈々籠附〉 蔣魴切韻云炭〈他案反湏𫟈〉樹木以火焼之仙人嚴青造也野王案𤈩〈乍下反字亦作𥰭〉炭籠也

炭〈炭籠付〉 蒋魴切韻に云はく、炭〈他案反、須美(すみ)〉は樹木の火を以て之れを焼く、仙人の厳青が造るなりといふ。野王案に、𤈩〈乍下反、字は亦、𥰭に作る〉は炭籠なりとす。

松明 唐式云毎城油一斗松明十斤〈今案松明者今之續松乎〉

松明 唐式に、城毎に油一斗、松明十斤〈今案ふるに松明は今の続松か〉と云ふ。

薪 纂要云火木曰薪〈音新多歧々〉

薪 纂要に云はく、火木を薪〈音は新、多岐々(たきぎ)〉と曰ふといふ。

燼 㔫傳注云燼〈音晉毛江久比〉火餘木也

燼 左伝注に云はく、燼〈音は晋、毛江久比(もえくひ)〉は火の余木なりといふ。

灰 陸詞切韵云灰〈呼恢反波比〉火燼滅也

灰 陸詞切韻に云はく、灰〈呼恢反、波比(はひ)〉は火の燼滅なりといふ。

炲煤 唐韵云炲煤〈臺梅二音湏々〉灰集屋也

炲煤 唐韻に云はく、炲煤〈台梅の二音、須々(すす)〉は灰の屋に集むるなりといふ。

煙〈𤓭附〉 四声字苑云煙〈於賢反字亦作烟介不利〉火焼草木黒氣也唐韵云𤓭〈音欝俗語云介布太之〉煙氣也

煙〈爩付〉 四声字苑に云はく、煙〈於賢反、字は亦、烟に作る、介不利(けぶり)〉は火の草木を焼く黒き気なりといふ。唐韻に云はく、爩〈音は鬱、俗語に介布太之(けぶたし)と云ふ〉は煙気なりといふ。

㸅 四声字苑云㸅〈子結反保曽久豆〉燭餘炭也

㸅 四声字苑に云はく、㸅〈子結反、保曽久豆(ほそくづ)〉は燭の余炭なりといふ。

燈火器六十六

灯火器六十六

燈籠 内典云燈爐〈見涅槃經〉唐式云燈籠〈見𫔭元式〉本朝式云燈樓〈見主殿寮式今案三各皆通稱也〉

灯籠 内典に灯炉〈涅槃経に見ゆ〉と云ふ。唐式に灯籠〈開元式に見ゆ〉と云ふ。本朝式に灯楼〈主殿寮式に見ゆ。今案ふるに三つ各皆、通称なり〉と云ふ。

燈械 楊氏漢語抄云燈械〈音戒〉所以居燈盞也

灯械 楊氏漢語抄に云はく、灯械〈音は戒〉は灯盞を居うる所以なりといふ。

燈臺 本朝式云主殿寮燈臺

灯台 本朝式に、主殿寮に灯台と云ふ。

燈盞 唐式云毎城燈盞七枚〈燈盞阿布良都歧〉

灯盞 唐式に、城毎に灯盞七枚〈灯盞は阿布良都岐(あぶらつき)〉と云ふ。

油瓶 内典云尒時復有諸沙門等手自作食執持油瓶〈阿布良賀米〉

油瓶 内典に云はく、爾の時に復、諸沙門等有ち、手自ら食を作り、油瓶〈阿布良賀米(あぶらがめ)〉を執り持つといふ。

火爐 声類云爐〈音盧楊氏漢語抄云火爐比多歧〉火爐火所居也

火炉 声類に云はく、炉〈音は盧、楊氏漢語抄に火炉は比多岐(ひたき)と云ふ〉は火炉、火を居うる所なりといふ。

火筯 弁色立成云火筯〈比波之下治據反〉

火筯 弁色立成に火筯〈比波之(ひばし)、下は治拠反〉と云ふ。

竃〈𫁑附〉 四声字苑云竃〈則到反与躁同加万〉炊㸑處也文字集略云𫁑〈七紅反久度〉竃後穿也

竃〈𫁑付〉 四声字苑に云はく、竃〈則到反、躁と同じ、加万(かま)〉は炊㸑の処なりといふ。文字集略に云はく、𫁑〈七紅反、久度(くど)〉は竃の後の穿(あな)なりといふ。

和名類聚抄巻第四

和名類聚抄巻第四

和名類聚抄卷第五

和名類聚抄巻第五

調度類第十四

調度類第十四  

佛塔具六十七 伽藍具六十八 僧房具六十九 祭祀具七十 文書具七十一 圖繪具七十二 征戰具七十三 弓劔具七十四 刑罸具七十五 鞍馬具七十六 鷹犬具七十七 畋獵具七十八 漁釣具七十九 農耕具八十 造作具八十一 木工具八十二 細工具八十三 鍜冶具八十四

 仏塔具六十七 伽藍具六十八 僧房具六十九 祭祀具七十 文書具七十一 図絵具七十二 征戦具七十三 弓剣具七十四 刑罰具七十五 鞍馬具七十六 鷹犬具七十七 畋猟具七十八 漁釣具七十九 農耕具八十 造作具八十一 木工具八十二 細工具八十三 鍛冶具八十四

佛塔具六十七

仏塔具六十七

塔 孫愐切韻云齊楚曰塔〈吐盍反内典有多寶佛塔石塔沙塔泥塔䓁〉楊越曰𪚕〈口含反字亦作龕〉一云塔下室也

塔 孫愐切韻に云はく、斉楚に塔〈吐盍反、内典に多宝仏塔、石塔、沙塔、泥塔等有り〉と曰ひ、楊越に𪚕〈口含反、字は亦、龕に作る〉と曰ひ、一に塔の下の室なりと云ふといふ。

舎利 法華經云以佛舎利起七寶塔

舎利 法華経に云はく、仏舎利を以て七宝塔を起すといふ。

檫 四声字苑云檫〈初轄反俗云心乃波之良〉佛塔中心柱也

檫 四声字苑に云はく、檫〈初轄反、俗に心乃波之良(しんのはしら)と云ふ〉は仏塔の中の心柱なりといふ。

層 梁簡文帝大愛敬寺刹下銘序云普通三年二月建七層霊塔〈唐韵層音昨稜反一音曽重屋也塔乃古之〉

層 梁簡文帝愛敬寺刹下銘序に云はく、普通三年二月に七層霊塔を建つといふ。〈唐韻に層の音は昨稜反、一音に曽、屋を重ぬるなり、塔乃古之(たふのこし)〉

露盤 梁孝元帝有霊夢寺露盤銘

露盤 梁孝元帝に霊夢寺露盤銘有り。

火珠 楊氏漢語抄云火珠〈塔乃比散久賀太〉

火珠 楊氏漢語抄に火珠〈塔乃比散久賀太(たふのひさくがた)〉と云ふ。

寶鐸 四声字苑云鐸〈徒落反〉大鈴也李徳林并州西山塔銘云寶鐸交音梵声凝韻

宝鐸 四声字苑に云はく、鐸〈徒落反〉は大鈴なりといふ。李徳林并州西山塔銘に云はく、宝鐸は音を交へ、梵声は韻を凝らすといふ。

箜篌 法華經云起七寶塔懸諸幡盖又云簫笛箜篌種々儛戯以妙音声歌唄讚頌〈箜篌二音俗云空古〉

箜篌 法華経に云はく、七宝塔を起し諸の幡蓋を懸くといふ。又云はく、簫笛、箜篌は種々の儛戯に、妙音の声歌、唄讚を以て頌ふといふ。〈箜篌の二音、俗に空古(くこ)と云ふ〉

伽藍具六十八

伽藍具六十八

金堂 梁元帝入佛日殿礼拜詩云玳瑁金堂柱𣞀欒紺篠䕺楊氏云佛殿金堂也礼堂金堂前名

金堂 梁元帝入仏日殿礼拝詩に、玳瑁の金堂柱、檀欒の紺篠䕺と云ふ。楊氏に云はく、仏殿は金堂なり、礼堂は金堂の前(さき)の名なりといふ。

講堂 金光明經云大講堂衆會之中

講堂 金光明経に、大講堂、衆会の中と云ふ。

食堂 内典云舎衛國祗阤園食堂浴室無不俻足〈楊氏云食堂僧食𠁅也寺炊爨處謂之大衆屋本文未詳〉

食堂 内典に云はく、舎衛国の祗陀園の食堂、浴室備へ足らずといふこと無し。〈楊氏に云はく、食堂は僧の食する処なり、寺の炊爨する処は之れを大衆屋と謂ふといふ。本文は未だ詳(つばひら)かならず〉

經藏 後周王褒有經蔵𩔊文〈白氏文集云東林寺經藏〉

経蔵 後周王褒に経蔵の願文有り。〈白氏文集に東林寺の経蔵と云ふ〉

寶蔵 内典云有寶者心无憂慼〈涅槃經文也〉

宝蔵 内典に云はく、宝有る者は心に憂慼(うれひ)無しといふ〈涅槃経の文なり〉。

鐘樓 禇𠅙鐘樓銘云菴園寶地李苑珠䑓形如涌出𫝑似飛来

鐘樓 褚亮鐘楼銘に云はく、菴園の宝地、李苑の珠台、形は涌き出づるが如く、勢ひは飛び来るに似るといふ。

僧坊 法華經云起立塔寺及造僧坊〈他經云房䓁或云僧房〉供養衆僧其徳㝡勝無量無𨕙

僧坊 法華経に云はく、塔寺を起し立て、及(また)僧坊〈他経に房等と云ひ、或に僧房と云ふ〉を造り、衆僧を供養するは、其の徳、最も勝れて無量無辺なりといふ。

浴室 内典有温室經〈今案温室即浴室也俗云由夜〉

浴室 内典に温室経有り。〈今案ふるに温室は即ち浴室なり。俗に由夜(ゆや)と云ふ〉

寶幢 華嚴經偈云寶幢諸幡盖〈訓波多保古〉

宝幢 華厳経の偈に云はく、宝幢の諸幡蓋といふ。〈訓は波多保古(はたほこ)〉

窣堵婆 倶舎論云破壊窣堵婆是無間同類〈窣音蘓骨反〉

窣堵婆 倶舎論に云はく、窣堵婆を破壊(こは)すは是れ無間と同じ類といふ。〈窣の音は蘇骨反〉

幡 涅槃經云諸香木上懸五色幡〈波太又見征戦具〉

幡 涅槃経に云はく、諸の香木の上に五色の幡を懸くといふ。〈波太(はた)、又、征戦具に見ゆ〉

盖 同經云幢幡寶盖〈歧沼加散有白盖髙𫝶上具也〉

蓋 同経に、幢幡に宝蓋と云ふ。〈岐沼加散(きぬがさ)、白蓋有り、高座の上の具なり〉

花鬘 同經云種々花鬘

花鬘 同経に種々の花鬘と云ふ。

鐘 虞世南禪林寺鐘銘序云乃与清信有縁道俗四衆共造洪鐘一口〈洪鐘俗云於保加祢〉

鐘 虞世南禅林寺鐘銘序に云はく、乃ち清信有縁の道俗四衆と共に洪鐘一口を造るといふ〈洪鐘は俗に於保加禰(おほがね)と云ふ〉。

磬 僧清閑題寺詩云五色雲中鳴玉磬千花䑓上礼金佛〈苦定反宇知奈良之又見音樂門〉

磬 僧清閑題寺詩に云はく、五色雲中に玉磬を鳴し、千花台上に金仏を礼ぶといふ。〈苦定反、宇知奈良之(うちならし)、又、音楽門に見ゆ〉

金皷 㝡勝王經云妙幢菩薩於夜夢中見大金皷〈比良加祢〉

金皷 最勝王経に云はく、妙幢菩薩、夜の夢の中に大金皷〈比良加禰(ひらがね)〉を見るといふ。

匳〈籢匲並同〉 唐韵云匳〈音廉俗音輪〉香匳盛香器也

匳〈籢、匲、並びに同じ〉 唐韻に云はく、匳〈音は廉、俗に音は輪〉、香匳は香を盛る器なりといふ。

火舎 内典云火舎〈俗音化赭〉

火舎 内典に火舎〈俗に音は化赭〉といふ。

閼伽 内典云閼伽〈上音遏〉梵語也漢言欝勃烝煑雜香以其汁供養佛也

閼伽 内典に、閼伽〈上の音は遏〉は梵語なりと云ふ。漢に、鬱勃と雑香を烝煮し、其の汁を以て仏に供養するなりと言ふ。

燈明 大般若經云上妙花鬘乃至燈明〈於保𫟈阿賀之〉

燈明 大般若経に、上妙なる花鬘、乃至は灯明〈於保美阿賀之(おほみあかし)〉と云ふ。

髙𫝶 仁王經云建百髙𫝶

高座 仁王経に、百の高座を建つと云ふ。

僧坊具六十九

僧坊具六十九

香炉 小品經云以白銀香爐焼黒沈水供養般若

香炉 小品経に云はく、白銀の香炉を以て黒き沈水(じむ)を焼き般若に供養すといふ。

鍚杖 錫杖經云鍚杖亦名智杖彰顕聖智也亦名徳杖行功徳本故也

鍚杖 錫杖経に云はく、鍚杖は亦、智杖と名く、聖智を彰顕(あらは)せばなり、亦、徳杖と名く、功を行ふは徳の本の故なりといふ。

如意 梁劉孺有如意銘

如意 梁の劉孺に如意銘有り。

三鈷 大日経䟽云獨鈷三鈷五鈷〈音古俗云上声之輕〉

三鈷 大日経疏に独鈷、三鈷、五鈷と云ふ。〈音は古、俗に上声の軽と云ふ〉

金鎞 同䟽云金鎞〈𨕙奚反〉

金鎞 同疏に金鎞〈辺奚反〉と云ふ。

念珠 内典有念珠經〈今案念珠一云數珠見千手經〉

念珠 内典に念珠経有り。〈今案ふるに念珠は一に数珠と云ふ、千手経に見ゆ〉

跋折羅 千手經云若爲降伏一切大魔神者當於跋折羅手

跋折羅 千手経に云はく、若し一切の大魔神を降伏せむと為ば、当に跋折羅の手に於てすべしといふ。

白拂 同經云若爲除身上𢙣障難者當於白拂手〈白拂波閇波良𠃧〉

白払 同経に云はく、若し身上の悪しき障難を除かんと為ば、当に白払の手に於てすべしといふ。〈白払は波閉波良飛(はへはらひ)なり〉

鉢 四声字苑云鉢〈愽末反俗云波智〉學佛道者食器也

鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、俗に波智(はち)と云ふ〉は仏道を学ぶ者の食器なりといふ。

漉水嚢 涅槃經云漉水嚢〈𫟈豆布流比漉音盧谷反楊氏漢語抄云漉取湏久比度流〉

漉水嚢 涅槃経に、漉水嚢〈美豆布流比(みづふるひ)、漉の音は盧谷反、楊氏漢語抄に漉取は須久比度流(すくひとる)と云ふ〉と云ふ。

寶螺 千手經云若爲召呼一切諸天善神者當於寶螺手

宝螺 千手経に云はく、若し一切の諸天の善神を召呼(よ)ばむと為ば、当に宝螺の手に於てすべしといふ。

水瓶 因果經云善慧仙人被鹿皮執水瓶〈𫟈豆賀米〉

水瓶 因果経に云はく、善慧仙人は鹿皮を被り、水瓶〈美豆賀米(みづかめ)〉を執るといふ。

三衣匣 金玉義林云僧六物其一曰三衣匣〈俗云佐无江乃波古〉三衣者一僧伽梨云大衣二欝多羅層云中衣三安陁會云下衣

三衣匣 金玉義林に云はく、僧に六物の其の一を三衣匣〈俗に佐無江乃波古(さむえのはこ)と云ふ〉と曰ふといふ。三衣は、一に僧伽梨(そうぎやり)を大衣と云ひ、二に鬱多羅層(うつたらそう)を中衣と云ひ、三に安陀会(あむだゑ)を下衣と云ふ。

剃刀 玄奘三蔵表云䥫剃刀一口〈剃音他計反去声之輕与涕同剃刀加𫟈曽利〉

剃刀 玄奘三蔵表に、鉄の剃刀一口〈剃の音は他計反、去声の軽、涕と同じ、剃刀は加美曽利(かみそり)〉と云ふ。

頭巾 内典云世尊新剃頭髮以衣覆頭々巾之縁是也

頭巾 内典に云はく、世尊、新たに頭髪を剃り衣を以て頭を覆ふといふ。頭巾の縁(ことのもと)、是れなり。

袈裟 東宮切韻釋氏曰袈裟〈加沙二音俗云介佐〉天竺語也此云無垢衣又功徳衣孫愐曰傳法衣即沙門之服也

袈裟 東宮切韻釈氏に曰はく、袈裟〈加沙の二音、俗に介佐(けさ)と云ふ〉は天竺の語なりといふ。此れ無垢衣、又、功徳衣と云ふ。孫愐に曰はく、伝法衣は即ち沙門の服なりといふ。

横被 内典云昔有媱女見阿難端正發欲想尒時阿難爲覆蔵其身始有横被又名覆肩衣

横被 内典に云はく、昔、媱女有り、阿難の端正なるを見、欲想を発す、爾の時に、阿難、其の身を覆ひ蔵さむ為に始めて横被有りといふ。又、覆肩衣と名く。

衲 玄弉三蔵表云衲袈裟一領〈衲音奴荅反字亦作納俗云能不一云太比〉

衲 玄奘三蔵表に衲袈裟一領と云ふ。〈衲の音は奴答反、字は亦、納に作る。俗に能不(のふ)と云ふ。一に太比(たひ)と云ふ〉

裳 内典抄云慈悲一切衆生如慈母故服裳又名慈悲衣

裳 内典抄に云はく、一切衆生を慈悲すること慈母の如し、故に裳を服(け)すといふ。又、慈悲衣と名く。

𫝶具 金玉義林云僧六物其三曰𫝶具

座具 金玉義林に云はく、僧の六物の其の三を座具と曰ふといふ。

草𫝶 因果經云於是菩薩以草爲𫝶

草座 因果経に云はく、是に菩薩は草を以て座を為るといふ。

鹿杖 漢語抄云鹿杖〈加𫝑都惠〉

鹿杖 漢語抄に鹿杖〈加勢都恵(かせづゑ)〉と云ふ。

祭祀具七十

祭祀具七十

木綿 本草經注云木綿〈由布〉折之多白絲者也

木綿 本草経注に云はく、木綿〈由布(ゆふ)〉は之れを折れば白糸多き者なりといふ。

龍眼木 楊氏漢語抄云龍眼木〈佐賀歧今案龍眼木者其子名也見本草〉日本紀私記云坂樹剌立以爲祭神之木〈今案本朝式用賢木二字漢語抄用榊字並未詳〉

龍眼木 楊氏漢語抄に龍眼木〈佐賀岐(さかき)、今案ふるに龍眼木は其の子(み)の名なり、本草に見ゆ〉と云ふ。日本紀私記に云はく、坂樹は刺し立て以て祭神の木と為といふ。〈今案ふるに本朝式に賢木の二字を用ゐ、漢語抄に榊の字を用ゐる。並びに未だ詳かならず〉

蘿鬘 日本紀私記云爲鬘以蘿〈比加介加都良〉

蘿鬘 日本紀私記に云はく、鬘を為るに蘿〈比加介加都良(ひかげかづら)〉を以てすといふ。

幣帛 礼記注云幣〈音弊𫟈天久良〉今江東云幣帛

幣帛 礼記注に云はく、幣〈音は弊、美天久良(みてぐら)〉は今、江東に幣帛と云ふといふ。

偶人 史記云土偶人木偶人〈偶音五㺃反俗云比度加太〉野王案凢刻削物爲人像皆曰偶人

偶人 史記に、土偶人、木偶人〈偶の音は五㺃反、俗に比度加太(ひとがた)と云ふ〉と云ふ。野王案に、凡そ物を刻み削り人像を為るは皆、偶人と曰ふとす。

蒭霊 日本紀私記云蒭霊〈久散比度加太〉

蒭霊 日本紀私記に蒭霊〈久散比度加太(くさひとがた)〉と云ふ。

紙銭 新樂府云神之來兮風飄々紙銭動兮錦繖揺〈紙銭俗云加𫟈𫝑迩一云𫝑迩賀太〉

紙銭 新楽府に云はく、神の来たるや風は飄々たり、紙銭動きて錦繖も揺るといふ。〈紙銭は俗に加美勢邇(かみぜに)と云ふ。一に勢邇賀太(ぜにがた)と云ふ〉

玉籤 日本紀云玉籤〈下音七廉反多万久之〉

玉籤 日本紀に玉籤〈下の音は七廉反、多万久之(たまぐし)〉と云ふ。

神籬 日本紀私記云神籬〈俗云比保路歧〉

神籬 日本紀私記に神籬〈俗に比保路岐(ひぼろき)と云ふ〉と云ふ。

葦索 蔡邕獨断云懸葦索〈阿之乃奈波〉於門戸以禦凶也

葦索 蔡邕独断に云はく、葦索〈阿之乃奈波(あしのなは)〉を門戸に懸け、以て凶を禦ぐなりといふ。

注連 顔氏家訓云注連章断〈師說注連之梨久倍奈波章断之度太智〉日本紀私記云端出之縄〈讀与注連同也〉

注連 顔氏家訓に云はく、注連して章断すといふ〈師説に注連は之梨久倍奈波(しりくべなは)、章断は之度太智(しとだち)〉といふ。日本紀私記に端出之縄〈読みて注連と同じ也〉と云ふ。

𦯧椀 本朝式云十一月辰日宴會其飯器参議以上朱𣾰椀五位以上𦯧椀〈久保天〉

葉椀 本朝式に云はく、十一月辰日の宴会には其の飯器、参議以上は朱漆椀、五位以上は葉椀〈久保天(くぼて)〉にせよといふ。

𦯧手 漢語抄云𦯧手〈比良天〉

葉手 漢語抄に葉手〈比良天(ひらで)〉と云ふ。

粢餅 陸詞切韻云粢〈音姿又疾脂反漢語抄云粢餅之度歧〉祭餅也

粢餅 陸詞切韻に云はく、粢〈音は姿、又は疾脂反、漢語抄に粢餅は之度岐(しとぎ)と云ふ〉は祭餅なりといふ。

粿米 唐韵云粿〈音果漢語抄云粿米加之与祢〉淨米也

粿米 唐韻に云はく、粿〈音は果、漢語抄に粿米は加之与禰(かしよね)と云ふ〉は浄米なりといふ。

神酒 日本紀私記云神酒〈𫟈和〉

神酒 日本紀私記に神酒〈美和(みわ)〉と云ふ。

糈米 離騒經注云糈〈和呂反久万之祢〉精米㪽以享神也

糈米 離騒経注に云はく、糈〈和呂反、久万之禰(くましね)〉は精米を神に享する所以なりといふ。

犧牲 礼記云祭祀供犧牲〈二音羲生論語注牲生曰餼々音氣訓伊介迩倍〉

犠牲 礼記に云はく、祭祀に犧牲〈二音で羲生、論語注に牲生を餼と曰ふ。餼の音は気、訓は伊介邇倍(いけにへ)〉を供ふといふ。

寶倉 漢語抄云寶倉〈保久良云神殿〉

宝倉 漢語抄に宝倉〈保久良(ほくら)、神殿を云ふ〉と云ふ。

瑞籬 日本紀私記云瑞籬〈俗云𫟈豆加歧一云以賀歧〉

瑞籬 日本紀私記に瑞籬〈俗に美豆加岐(みづかき)と云ふ。一に以賀岐(いがき)と云ふ〉と云ふ。

文書具七十一

文書具七十一

筆 張華慱物志云蒙恬造筆〈古文作笔布𫟈天〉

筆 張華博物志に云はく、蒙恬が筆〈古文に笔に作る、布美天(ふみて)〉を造るといふ。

稾筆 郭知玄云古者以稾為筆〈稾筆和良不𫟈天〉書訖以刀刻於板矣

稾筆 郭知玄に云はく、古は稾を以て筆〈稾筆は和良不美天(わらふみて)〉を為る、書き訖りて刀を以て板に刻むといふ。

墨〈挺字附〉 蒋魴曰墨〈音目湏𫟈〉以松栢煙和膠合成也唐秘書省式云冩書料毎月大墨一挺〈今案俗用廷字未詳〉

墨〈挺字付〉 蒋魴に曰はく、墨〈音は目、須美(すみ)〉は松栢の煙を以て膠に和へ合せ成すなりといふ。唐秘書省式に云はく、写書料は毎月、大墨一挺とせよといふ〈今案ふるに俗に廷の字を用ゐる、未だ詳かならず〉。

硯 書譜云用硯之法石爲第一瓦為第二〈硯音五甸反湏𫟈湏利〉

硯 書譜に云はく、硯を用ゐる法は、石を第一と為、瓦を第二と為。〈硯の音は五甸反、須美須利(すみすり)〉

水滴器 御覧䓁目録云水滴器〈今案湏𫟈湏理賀米〉

水滴器 御覧等目録に水滴器〈今案ふるに須美須理賀米(すみすりがめ)〉と云ふ。

筆䑓 漢語鈔云筆䑓〈比知太伊〉

筆台 漢語鈔に筆台〈比知太伊(ひちだい)〉と云ふ。

紙 𠔥名苑注云紙〈古文作帋賀𫟈紙有色紙檀紙穀紙紙屋紙松紙河苔紙斐紙薄用紙䓁名〉後漢和帝時蔡倫㪽造也

紙 兼名苑注に云はく、紙〈古文に帋に作る、賀美(かみ)。紙に色紙、檀紙、穀紙、紙屋紙、松紙、河苔紙、斐紙、薄用紙等の名有り〉は後漢の和帝の時、蔡倫が造れるといふ。

反故 齊春秋云沈麟士字雲揁少清貧無紙以飜故書冩數千巻

反故 斉春秋に云はく、沈麟士、字(あざな)は雲揁、少(をさなき)より清貧にして紙無し、飜故を以て数千巻を書き写すといふ。

褾帋 唐式云染麻紙廿五張穀帋五十張褾帋廿張〈褾音方小反袖端也見唐韵〉

褾帋 唐式に、染麻紙二十五張、穀帋五十張、褾帋二十張と云ふ。〈褾の音は方小反、袖の端なり、唐韻に見ゆ〉

軸 要覧云二王暮年書勝於少其縑素書以珊瑚為軸紙書以金為軸次瑇瑁栴檀爲軸〈𥄂六反見車具〉

軸 要覧に云はく、二王の暮年の書は少(わかき)より勝れり、其の縑素書には珊瑚を以て軸と為、紙書には金を以て軸と為、次には瑇瑁栴檀を軸〈𥄂六反、車具に見ゆ〉と爲といふ。

帙 四声字苑云帙〈𥄂質反字亦作袠〉㪽以𧚣書也𠔥名苑云一名書衣

帙 四声字苑に云はく、帙〈直質反、字は亦、袠に作る〉は書を裹む所以なりといふ。兼名苑に云はく、一名に書衣といふ。

籖 玉篇云籖〈曹廉反俗人云去声〉驗人也一曰銳貫也

籖 玉篇に云はく、籖〈曹廉反、俗人に去声と云ふ〉は人を験すなり、一に鋭貫なりと曰ふといふ。

笈 唐韻云笈〈音挿又其輙反不𫟈波古又用凾字音咸〉屓書箱也風土記云學士㪽以屓書状如冠箱而𤰞

笈 唐韻に云はく、笈〈音は挿、又、其輙反、不美波古(ふみはこ)、又、凾の字を用ゐる、音は咸〉は書箱を負ふなりといふ。風土記に云はく、学士の書を負ふ状(かたち)は冠箱の如くして卑(ひく)き所以といふ。

書櫃 白氏文集云破栢作書櫃〈布𫟈比都〉

書櫃 白氏文集に云はく、栢を破りて書櫃〈布美比都(ふみひつ)〉に作るといふ。

書案 梁簡文帝有書案銘〈書案俗云不𫟈都久恵〉

書案 梁の簡文帝に書案銘有り。〈書案は俗に不美都久恵(ふみづくゑ)と云ふ〉

简札 野王案简〈古限反不𫟈太〉㪽以冩書記事者也𠔥名苑云牘〈音讀〉一名札〈音察〉简也

簡札 野王案に、簡〈古限反、不美太(ふみた)〉は書を写し事を記す所以の者なりとす。兼名苑に云はく、牘〈音は読〉、一名に札〈音は察〉は簡なりといふ。

牒〈帖附〉 說文云牒〈徒恊反〉札長一尺二寸也文字集略云帖〈音同上〉請物䟽也唐韻云䟽〈去声〉記䟽也

牒〈帖付〉 説文に云はく、牒〈徒協反〉は札にして長さ一尺二寸なりといふ。文字集略に云はく、帖〈音は上に同じ〉は物を請ふ疏なりといふ。唐韻に云はく、疏〈去声〉は記疏なりといふ。

牓示 孫愐切韵云牓〈慱朗反〉題示也

牓示 孫愐切韻に云はく、牓〈博朗反〉は題示なりといふ

戸籍 文字集略云籍〈音席和名与簡札同〉民戸之書古以版紙今黄帋野王案凢書於簡札皆謂之籍也

戸籍 文字集略に云はく、籍〈音は席、和名は簡札と同じ〉は民戸の書、古は版を以て紙とす、今は黄帋なり。野王案に、凡そ簡札に書けるは皆、之れを籍と謂ふなりとす。

版位 唐儀制令云諸版位〈俗云變為二音〉百官一品以下各方七寸厚一寸半〈版字亦作板字也野王案以木為書籍是也〉

版位 唐儀制令に云はく、諸の版位〈俗に変為二音と云ふ〉は百官の一品以下は各(おのおの)方七寸、厚さ一寸半といふ。〈版の字は亦、板の字に作るなり。野王案に木を以て書籍を為るとするは是なり〉

笇 說文云筭〈蘓貫反俗音殘〉長六寸以計暦數也

笇 説文に云はく、筭〈蘇貫反、俗に音は残〉は長さ六寸、以て暦数を計るなりといふ。

曆 漢書律暦志云黄帝造暦〈音暦古与𫟈〉

暦 漢書律暦志に云はく、黄帝、暦〈音は暦、古与美(こよみ)〉を造るといふ。

圖繪具七十二〈野王案圖〈音徒〉畫物像也郭知玄云畫〈音卦〉丹青㪽啚也釋名云繪會五綵也〉

図絵具七十二〈野王案に、図〈音は徒〉は物の像を画くなりとす。郭知玄に云はく、画〈音は卦〉は丹青にて図(えが)く所なりといふ。釈名に云はく、絵は五綵に会ふなりといふ〉

丹砂 考声切韵云丹砂〈丹音都寒反迩〉似朱砂而不鮮明者也

丹砂 考声切韻に云はく、丹砂〈丹、音は都寒反、邇(に)〉は朱砂に似て鮮明ならざる者なりといふ。

朱砂 本草云朱砂㝡上者謂之光明沙

朱砂 本草に云はく、朱砂の最も上なる者は之れを光明沙と謂ふといふ。

燕支 西河舊事云焉支山出丹〈今案以㪽出山名為名也焉支煙支燕支燕脂皆通用之

燕支 西河旧事に云はく、焉支山に丹を出づといふ〈今案ふるに、出づる所の山の名を以て名と為るなり、焉支、煙支、燕支、燕脂、皆、之れを通ひ用ゐる〉。

青黛 漢語抄云青黛

漢語抄に青黛と云ふ。

空青 丹口决云空青一名曽青

空青 丹口决に云はく、空青は一名に曽青といふ。

金青 本草稽疑云金青者空青之㝡上也

本草稽疑に云はく、金青は空青の最も上なるなりといふ。

白青 蘓敬本草注云白青一名魚目青形似魚目故以名之

白青 蘇敬本草注に云はく、白青は一名に魚目、青くして形は魚の目に似る故に以て之れを名くといふ。

緑青 本草云縁青一名碧青〈緑青俗云禄省〉

緑青 本草に云はく、縁青は一名に碧青といふ。〈緑青は俗に禄省と云ふ〉

雌黄 𠔥名苑云雌黄一名金液〈雌黄俗云之王〉山有金其精熏則生雌黄耳

雌黄 兼名苑に云はく、雌黄は一名に金液といふ〈雌黄は俗に之王と云ふ〉。山に金有り、其の精を熏さば則ち雌黄を生むのみ。

銅黄 漢語抄云同黄

銅黄 漢語抄に同黄と云ふ。

胡粉 張華愽物志云焼鍚成胡粉

胡粉 張華博物志に云はく、錫を焼きて胡粉と成すといふ。

征戰具七十三

征戦具七十三

幡〈旒附〉 考工記云幡〈音翻波太〉旌旗〈精期二音〉幡之惣名也唐韻云旒〈音流波太阿之〉旌旗之末垂者也

幡〈旒付〉 考工記に云はく、幡〈音は翻、波太(はた)〉は旌旗〈精期の二音〉、幡の惣名なりといふ。唐韻に云はく、旒〈音は流、波太阿之(はたあし)〉は旌旗の末の垂るる者なりといふ。

甲 唐韻云鎧〈苦盖反与路比〉甲也釋名云甲似物之有鱗甲也

甲 唐韻に云はく、鎧〈苦盖反、与路比(よろひ)〉は甲なりといふ。釈名に云はく、甲は物の鱗甲有るに似るなりといふ。

胄 說文云胄〈音宙賀布度〉首鎧也

胄 説文に云はく、胄〈音は宙、賀布度(かぶと)〉は首鎧なりといふ。

楯 𠔥名苑云楯〈食尹反上声之重太天〉一名樐〈音魯〉蚩尤造也

楯 兼名苑に云はく、楯〈食尹反、上声の重、太天(たて)〉は一名に樐〈音は魯〉、蚩尤が造るなりといふ。

歩楯 釋名云狹而長曰歩楯〈天太天〉歩兵㪽持也

歩楯 釈名に云はく、狭くして長きを歩楯〈天太天(てだて)〉と曰ひ、歩兵の持つ所なりといふ。

弓 四声字苑云弓〈音弓由𫟈〉㪽以遣箭之器也釋名云弓末曰彇〈音蕭由𫟈波數〉中央曰弣〈音撫由𫟈都賀〉

弓 四声字苑に云はく、弓〈音は弓、由美(ゆみ)〉は箭を遣る所以の器なりといふ。釈名に云はく、弓の末は彇〈音は蕭、由美波数(ゆみはず)〉と曰ひ、中央は弣〈音は撫、由美都賀(ゆみつか)〉と曰ふといふ。

弩 兼名苑注云弩〈音怒於保由𫟈〉黄帝造也

弩 兼名苑注に云はく、弩〈音は怒、於保由美(おほゆみ)〉は黄帝が造るなりといふ。

角弓 尒雅注云弭〈己耳反都能由𫟈〉今之角弓也

角弓 爾雅注に云はく、弭〈己耳反、都能由美(つのゆみ)〉は今の角弓なりといふ。

彈弓 唐韵云彈弓〈徒丹反去声俗音暖宮〉放丸弓也文字集略云竹弦弓

弾弓 唐韻に云はく、弾弓〈徒丹反、去声、俗の音は暖宮〉は丸を放つ弓なりといふ。文字集略に竹弦の弓と云ふ。

靫 釋名云歩人㪽帯曰靫〈初牙反由歧〉以箭叉其中也

靫 釈名に云はく、歩人の帯ぶ所を靫〈初牙反、由岐(ゆぎ)〉と曰ひ、箭を以て其の中に叉すなりといふ。

箙 周礼注云箙〈音服夜奈久比唐令用胡籙二字〉盛矢器也唐韵云箶簏〈胡鹿二音〉箭室也

箙 周礼注に云はく、箙〈音は服、夜奈久比(やなぐひ)、唐令に胡籙の二字を用ゐる〉は矢を盛る器なりといふ。唐韻に云はく、箶簏〈胡鹿の二音〉は箭の室なりといふ。

箭 釋名云笶〈音矢夜〉其體曰簳〈音幹夜賀良〉其旁曰羽〈去声〉其足曰鏑〈的音〉或謂之鏃〈子毒楚角才木三反訓夜佐岐俗云夜之利〉唐韵云筈〈古活反夜波湏〉箭受弦處也

箭 釈名に云はく、笶〈音は矢、夜(や)〉は其の体を簳〈音は幹、夜賀良(やがら)〉と曰ひ、其の旁を羽〈去声〉と曰ひ、其の足を鏑〈的の音〉と曰ふといふ。或に之れを鏃〈子毒、楚角、才木の三反、訓は夜佐岐(やさき)、俗に夜之利(やじり)と云ふ〉と謂ふ。唐韻に云はく、筈〈古活反、夜波須(やはず)〉は箭の弦を受くる処なりといふ。

征箭 唐式云諸府衛士人別弓一張征箭卅隻〈征箭曽夜〉

征箭 唐式に云はく、諸府の衛士は人別に弓一張、征箭三十隻といふ。〈征箭は曽夜(そや)〉

鳴箭 漢書音義云鳴鏑〈日夲紀私記云八目鏑夜豆女加布良〉如今之鳴箭也

鳴箭 漢書音義に云はく、鳴鏑〈日本紀私記に八目鏑は夜豆女加布良(やつめかぶら)と云ふ〉は今の鳴箭の如きなりといふ

平題箭 楊雄方言云鏃不鋭者謂之平題〈以太都歧〉郭璞曰題猶頭也今之戯射箭也

平題箭 楊雄方言云はく、鏃の鋭かざる者は之れを平題〈以太都岐(いたづき)〉と謂ふといふ。郭璞に曰はく、題は猶ほ頭のごときなり、今の戯射の箭なりといふ。

刀 四声字苑云似劔而一刃曰刀〈都窂反太刀太知小刀賀太奈〉

刀 四声字苑に云はく、剣に似て一つ刃なるを刀〈都窂反、太刀は太知(たち)、小刀は賀太奈(かたな)〉と曰ふといふ。

長刀 唐令云銀装長刀又云細刀〈之路加祢都久利乃奈加太知細刀保曽太知〉

長刀 唐令に、銀装の長刀と云ひ、又、細刀と云ふ。〈之路加禰都久利乃奈加太知(しろかねづくりのながたち)、細刀は保曽太知(ほそだち)〉

短刀 𠔥名苑云剌刀〈能太知〉短刀也

短刀 兼名苑に云はく、刺刀〈能太知(のだち)〉は短刀なりといふ。

劔 四声字苑云似刀而兩刃曰劔〈挙欠反今案僧家㪽持是也〉

剣 四声字苑に云はく、刀に似て両刃なるを剣〈挙欠反、今案ふるに僧家の持つ所は是れなり〉と曰ふといふ。

属鏤 廣雅云属鏤〈力朱反文選讀豆流歧〉劔也

属鏤 広雅に云はく、属鏤〈力朱反、文選に豆流岐(つるぎ)と読む〉は剣なりといふ。

鈇鉞 唐韻云干鏚〈音戚〉鈇鉞〈府越二音万佐賀利〉鈇亦作斧

鈇鉞 唐韻に云はく、干鏚〈音は戚〉は鈇鉞〈府越の二音、万佐賀利(まさかり)〉といふ。鈇は亦、斧に作る。

叉 六韜云叉〈初牙反文選叉簇讀比之今案簇即鏃字也〉兩歧䥫柄長六尺

叉 六韜に云はく、叉〈初牙反、文選に叉簇を比之(ひし)と読む。今案ふるに簇は即ち鏃の字なり〉は両岐の鉄柄にして長さ六尺といふ。

戟 楊雄方言云㦸〈几劇反保古〉或謂之干或謂之戈〈古禾反〉

戟 楊雄方言に云はく、戟〈几劇反、保古(ほこ)〉は或に之れを干と謂ひ、或に之れを戈〈古禾反〉と謂ふといふ。

矛 釋名云手㦸曰矛〈音謀字亦作鉾天保古〉人㪽持也

矛 釈名に云はく、手戟は矛〈音は謀、字は亦、鉾に作る、天保古(てぼこ)〉と曰ひ、人の持つ所なりといふ。

旝 四声字苑云旝〈音膾以之波之歧〉建大木置石其上發機以投敵也

旝 四声字苑に云はく、旝〈音は膾、以之波之岐(いしはじき)〉は大木を建て、石を其の上に置き、機を発きて以て敵に投ぐるなりといふ。

角 𠔥名苑注云角〈楊氏漢語抄云大角波良乃布江小角久太乃布江〉本出胡中或云出吴越以象龍吟也

角 兼名苑注に云はく、角〈楊氏漢語抄に大角は波良乃布江(はらのふえ)、小角は久太乃布江(くだのふえ)と云ふ〉は本(もと)、胡中より出づといふ。或に呉越より出づと云ふ。以て竜吟に象るなり。

弓劔具七十四

弓剣具七十四

檠〈楺字附〉 野王案㯳〈音敬又音鯨由𫟈多女〉㪽以正弓弩也四声字苑云楺〈人久反字亦作煣訓太无〉以火屈申木也

檠〈楺字付〉 野王案に、㯳〈音は敬、又の音は鯨、由美多女(ゆみだめ)〉は弓弩を正す所以なりとす。四声字苑に云はく、楺〈人久反、字は亦、煣に作る。訓は太無(たむ)〉は火を以て木を屈め申(の)ぶるなりといふ。

弦 說文云弦〈音与絃同由𫟈都流〉弓弩弦也

弦 説文に云はく、弦〈音は与、絃に同じ、由美都流(ゆみづる)〉は弓弩の弦なりといふ。

弓袋 說文云韔〈音帳由𫟈布久路〉或云弓袋

弓袋 説文に云はく、韔〈音は帳、由美布久路(ゆみぶくろ)〉は或に弓袋と云ふといふ。

弦袋 唐式云諸府衛士弦袋〈由𫟈都流布久路〉

弦袋 唐式に云はく、諸府の衛士に弦袋〈由美都流布久路(ゆみづるぶくろ)〉といふ。

𣠽 唐韻云𣠽〈音覇太知乃都加〉劔柄也考工記云劔莖〈今案即𣠽也〉人㪽握鐔以上也

𣠽 唐韻に云はく、𣠽〈音は覇、太知乃都加(たちのつか)〉は剣の柄なりといふ。考工記に云はく、剣の茎〈今案ふるに即ち𣠽なり〉は人の握る所は鐔より上なりといふ。

鮫皮 仁諿本草音義云鮫𩵋皮〈鮫音交佐女乃加波〉装刀𣠽者也

鮫皮 仁諝本草音義に云はく、鮫魚皮〈鮫の音は交、佐女乃加波(さめのかは)〉は刀𣠽を装ふ者なりといふ。

鐔 唐韵云鐔〈音尋一音潭都𫟈波〉劔鼻也

鐔 唐韻に云はく、鐔〈音は尋、一音に潭、都美波(つみは)〉は剣の鼻なりといふ。

𩏪䪝 唐韻云𩏪䪝〈宅蒦二音下音又濩於比度利〉佩刀把中皮也

𩏪䪝 唐韻に云はく、𩏪䪝〈宅蒦の二音、下の音は又、濩、於比度利(おびとり)〉は刀を佩く把中皮なりといふ。

劔鞘  郭璞方言注云鞞〈音𤰞〉劔鞘也唐韻云鞘〈私妙反佐夜〉刀室也

劔鞘  郭璞方言注に云はく、鞞〈音は卑〉は剣の鞘なりといふ。唐韻に云はく、鞘〈私妙反、佐夜(さや)〉は刀室なりといふ。

劔韜 說文云韜〈土刀反太知不久路〉劔衣也

剣韜 説文に云はく、韜〈土刀反、太知不久路(たちぶくろ)〉は剣衣なりといふ。

刑罸具七十五

刑罰具七十五

笞 唐令云笞〈音知之毛度〉大頭二分小頭一分半

笞 唐令に云はく、笞〈音は知、之毛度(しもと)〉の大頭は二分、小頭は一分半といふ。

杖 同令云諸杖〈音仗都惠〉皆削去節目長三尺五寸許

杖 同令に云はく、諸杖〈音は仗、都恵(つゑ)〉は皆節目を削り去り、長さは三尺五寸許といふ。

棒 蒋魴切韻云棒〈音蚌字亦作㭋俗音方〉杖名也

棒 蒋魴切韻に云はく、棒〈音は蚌、字は亦、㭋に作る、俗に音は方〉は杖の名なりといふ。

盤枷 唐令云若無鉗者著盤枷〈音加日本紀私記云久比加之〉

盤枷 唐令に云はく、若し鉗無くば盤枷〈音は加、日本紀私記に久比加之(くびかし)と云ふ〉を著けよといふ。

鉗 漢書注云鉗〈奇炎反加奈歧〉以䥫束頸也野王案釱〈徒盖反和名同上〉脰沓也

鉗 漢書注に云はく、鉗〈奇炎反、加奈岐(かなき)〉は鉄を以て頸を束ぬなりといふ。野王案に、釱〈徒盖反、和名は上に同じ〉は脰沓なりとす。

杻 玉篇云杻〈漢語抄云天加之今案又木名也以音可分杻械之杻勑久反杻橿女久反〉械也說文云梏〈音酷〉手械也

杻 玉篇に云はく、杻〈漢語抄に天加之(てかし)と云ふ。今案ふるに、又、木の名なり。音を以て分つ可し。杻械の杻は勅久反、杻橿は女久反〉は械なりといふ。説文に云はく、梏〈音は酷〉は手械なりといふ。

械 四声字苑云械〈胡界反阿之賀之〉穿木加足也說文云桎〈音質〉足械也

械 四声字苑に云はく、械〈胡界反、阿之賀之(あしかし)〉は木を穿ちて足に加(つけ)るなりといふ。説文に云はく、桎〈音は質〉は足械なりといふ。

鋜 蒋魴切韵云鋜〈士角反加奈保太之〉鏁足具也

鋜 蒋魴切韻に云はく、鋜〈士角反、加奈保太之(かなほだし)〉は足を鏁す具なりといふ。

鏁 唐韵云鏁〈蘓果反日本紀私記云加奈都賀利〉䥫鏁也

鏁 唐韻に云はく、鏁〈蘇果反、日本紀私記に加奈都賀利(かなつがり)と云ふ〉は鉄鏁なりといふ。

箯輿 漢書注云箯輿〈上音鞭阿𫟈以太〉編竹木為輿也

箯輿 漢書注に云はく、箯輿〈上の音は鞭、阿美以太(あみいた)〉は竹木を編みて輿と為るなりといふ。

獄 四声字苑云獄〈語欲反比度夜〉窂罪人㪽也唐韻云囹圄〈霊語二音〉獄名也

獄 四声字苑に云はく、獄〈語欲反、比度夜(ひとや)〉は罪人を窂する所なりといふ。唐韻に云はく、囹圄〈霊語の二音〉は獄の名なりといふ。

鞍馬具七十六

鞍馬具七十六

鞍〈鞁鞍附〉 說文云鞍〈音安字或作鞌久良俗云有唐鞍移鞍結鞍䓁名〉馬鞁也蒋魴切韻云鞁〈音被楊氏漢語抄鞁鞍久良於久〉以鞍駕馬也卸〈司夜反楊氏曰卸鞍久良於路湏〉除鞍也

鞍〈鞁鞍付〉 説文に云はく、鞍〈音は安、字は或に鞌に作る、久良(くら)、俗に唐鞍、移鞍、結鞍等の名有りと云ふ〉は馬鞁なりといふ。蒋魴切韻に云はく、鞁〈音は被、楊氏漢語抄の鞁鞍は久良於久(くらおく)〉は鞍を以て馬に駕(の)るなり、卸〈司夜反、楊氏に卸鞍は久良於路須(くらおろす)と曰ふ〉は鞍を除くなりといふ。

鞍橋 楊氏漢語抄云鞍橋〈久良保祢〉一云鞍瓦

鞍橋 楊氏漢語抄に云はく、鞍橋〈久良保禰(くらぼね)〉は一に鞍瓦と云ふといふ。

鞍褥 楊氏漢語抄云鞍褥〈久良之岐俗云宇波之岐〉

鞍褥 楊氏漢語抄に鞍褥〈久良之岐(くらじき)、俗に宇波之岐(うはじき)と云ふ〉と云ふ。

屟脊 蒋魴切韻云屟〈思恊反屟脊奈女〉鞍下屟脊也

屟脊 蒋魴切韻に云はく、屟〈思協反、屟脊は奈女(なめ)〉は鞍下の屟脊なりといふ。

韉〈䪌附〉 唐韻云韉〈則前反之太久良〉鞍韉也䪌〈仕陥反今案俗云駒韉欤〉韉之短也

韉〈䪌付〉 唐韻に云はく、韉〈則前反、之太久良(したぐら)〉は鞍韉なり、䪌〈仕陥反、今案ふるに俗に駒韉と云ふか〉は韉の短きものなりといふ。

接鞦

接鞦

鞖 考声切韻云鞖〈砕囬反之保天〉穿鞍橋皮也

鞖 考声切韻に云はく、鞖〈砕回反、之保天(しほで)〉は鞍橋の皮を穿つなりといふ。

鞦 唐式云諸蕃入朝調度帳幕鞍韉鞦轡量事供給鞦〈音秋之利賀歧〉

鞦 唐式に云はく、諸蕃入朝の調度に、帳幕、鞍韉、鞦轡、事を量り供給せよといふ。鞦〈音は秋、之利賀岐(しりがき)〉

當胷 後漢書云拔佩刀截馬當胷〈楊氏漢語抄云班胷无奈賀歧〉

当胸 後漢書に云はく、佩刀を抜き、馬当胸〈楊氏漢語抄に班胸は無奈賀岐(むながき)と云ふ〉を截るといふ。

杏葉 弁色立成云杏葉〈和名𠈷良〈已上本注〉俗云行衣布〉

杏葉 弁色立成に杏葉〈和名は俾良(ひら)〈已上は本注なり〉、俗に行衣布(ぎやうえふ)と云ふ〉と云ふ。

𩍺 唐韵云𩍺〈音吹〉鞍鞘也楊氏漢語抄云鞍鞘〈加礼比都氣〉

𩍺 唐韻に云はく、𩍺〈音は吹〉は鞍鞘なりといふ。楊氏漢語抄に鞍鞘〈加礼比都気(かれひつけ)〉と云ふ。

雲珠 辨色立成云雲珠〈宇湏今案雲母一名也為馬飾未詳〉

雲珠 弁色立成に雲珠〈宇須(うず)、今案ふるに雲母、一名なる、馬の飾りの為か、未だ詳かならず〉と云ふ。

腹帯 唐韻云纕〈息良反波良於比〉馬腹帯也

腹帯 唐韻に云はく、纕〈息良反、波良於比(はらおび)〉は馬の腹帯なりといふ。

鞶 周礼注云鞶〈音盤宇波波良於比〉馬大帯也

鞶 周礼注に云はく、鞶〈音は盤、宇波波良於比(うははらおび)〉は馬の大帯なりといふ。

鐙 蒋魴切韻云鐙〈都㔁反阿布𫟈〉鞍兩𨕙承脚具也

鐙 蒋魴切韻に云はく、鐙〈都㔁反、阿布美(あぶみ)〉は鞍の両辺に脚を承くる具なりといふ。

鐙靻 楊氏漢語抄云鎧靻〈𫟈豆乎下音祖〉一云鐙靳〈音斤去声〉

鐙靻 楊氏漢語抄に鎧靻〈美豆乎(みづを)、下の音は祖〉と云ふ。一に鐙靳〈音は斤、去声〉と云ふ。

逆靻 楊氏漢語抄云逆靻〈知賀良加波〉一云逆靳

逆靻 楊氏漢語抄に逆靻〈知賀良加波(ちからがは)〉と云ふ。一に逆靳と云ふ。

障泥 唐韻云𩌬〈音章〉障泥〈阿布利〉鞍飾也西亰雜記云玫瑰鞍以緑地錦為蔽泥〈今案即泥障〉後稍以熊羆皮爲之

障泥 唐韻に云はく、𩌬〈音は章〉は障泥〈阿布利(あぶり)〉、鞍の飾りなりといふ。西京雑記に云はく、玫瑰鞍は緑地の錦を以て蔽泥〈今案ふるに即ち泥障〉を為り、後に稍く熊、羆の皮を以て之れと為るといふ。

鞍帊 楊氏漢語抄云鞍帊〈久良於保比下芳覇反〉

鞍帊 楊氏漢語抄に鞍帊〈久良於保比(くらおほひ)、下は芳覇反〉と云ふ。

金〓〔馬偏に𡕢〕 蔡邕獨断云金〓〔馬偏に𡕢〕〈下亡犯反字亦作錽今案俗云銀面之昌蒲形是〉馬冠也高廣各五寸上如三華形者也

金〓〔馬偏に𡕢〕 蔡邕独断に云はく、金〓〔馬偏に𡕢〕〈下は亡犯反、字は亦、錽に作る。今案ふるに、俗に銀面の昌蒲の形を云ふは是〉は馬の冠なり、高さ広さ各五寸、上は三華の形の如き者なりといふ。

尾韜 考声切韻云紛〈音分俗云尾袋〉㪽以韜馬尾也

尾韜 考声切韻に云はく、紛〈音は分、俗に尾袋と云ふ〉は馬の尾を韜(つつ)む所以なりといふ。

鑣 說文云鑣〈音飄訓久都波𫟈俗云久々𫟈〉馬銜也𠔥名苑云鑣一名勒野王案勒〈盧則反〉馬口中䥫也

鑣 説文に云はく、鑣〈音は飄、訓は久都波美(くつばみ)、俗に久々美(くくみ)と云ふ〉は馬銜なりといふ。兼名苑に云はく、鑣は一名に勒といふ。野王案に、勒〈盧則反〉は馬の口の中の鉄なりとす。

蒺䔧銜 辨色立成云蒺䔧銜〈宇波良具都和〉

蒺䔧銜 弁色立成に蒺䔧銜〈宇波良具都和(うばらぐつわ)〉と云ふ。

轡 𠔥名苑云轡〈音秘訓久豆和都良俗云久都和〉一名钀〈魚列反〉楊氏漢語抄云韁鞚〈薑貢二音和名同上〉一名馬鞚

轡 兼名苑云はく、轡〈音は秘、訓は久豆和都良(くつわづら)、俗に久都和(くつわ)と云ふ〉は一名に钀〈魚列反〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、韁鞚〈薑貢の二音、和名は上に同じ〉は一名に馬鞚といふ。

承鞚 弁色立成云承鞚〈𫟈豆歧俗云三都々歧〉一云七寸

承鞚 弁色立成に承鞚〈美豆岐(みづき)、俗に三都々岐(みづつき)と云ふ〉と云ひ、一に七寸と云ふ。

䪊頭 唐韻云䪊〈音籠楊氏漢語抄云䪊頭於毛都良〉頭也羈〈音基〉馬絡頭也〈今案絡頭即䪊頭也〉

䪊頭 唐韻に云はく、䪊〈音は籠、楊氏漢語抄に䪊頭は於毛都良(おもづら)と云ふ〉は頭なり、羈〈音は基〉は馬の絡頭なりといふ。〈今案ふるに絡頭は即ち䪊頭なり〉

樓額 辨色立成云樓額〈沼賀々旣〉

楼額 弁色立成に楼額〈沼賀々既(ぬかがき)〉と云ふ。

鞗 唐韵云鞗〈音迢久佐利今案俗用鏈字未詳縺鈆朴也音連〉革轡也毛詩注云鞗以金為小環往々纒搤者也

鞗 唐韻に云はく、鞗〈音は迢、久佐利(くさり)、今案ふるに俗に鏈の字を用ゐる、未だ詳かならず。縺は鉛朴なり、音は連〉は革轡なりといふ。毛詩注に云はく、鞗は金を以て小環を為り、小環は往き往きて纒ひ搤(おさ)ふる者なりといふ。

馬衣 㔫傳注云馬褐〈无麻歧沼〉馬被也

馬衣 左伝注に云はく、馬褐〈無麻岐沼(むまぎぬ)〉は馬被なりといふ。

馬㕞 楊氏漢語抄云馬㕞〈于麻波太氣下㪽劣反〉

馬㕞 楊氏漢語抄に馬㕞〈于麻波太気(うまはたけ)、下は所劣反〉と云ふ。

抑 唐韵云抑〈吾浪反与𫝑波之良〉繫馬柱也

抑 唐韻に云はく、抑〈吾浪反、与勢波之良(よせばしら)〉は馬を繋ぐ柱なりといふ。

櫪 唐韵云櫪〈音歴之歧以太〉馬櫪也

櫪 唐韻に云はく、櫪〈音は歴、之岐以太(しきいた)〉は馬櫪なりといふ。

槽 唐韵云槽〈音曹馬舟也〉馬槽也

槽 唐韻に云はく、槽〈音は曹、馬舟なり〉は馬槽なりといふ。

剉薙 唐式云剉薙一具〈漢語抄云久散歧利剉麁臥反〉

剉薙 唐式に、剉薙一具と云ふ。〈漢語抄に久散岐利(くさきり)と云ふ。剉は麁臥反〉

蒭 說文云蒭〈音雛字亦作芻加良久佐〉乾草也

蒭 説文に云はく、蒭〈音は雛、字は亦、芻に作る、加良久佐(からくさ)〉は乾草なりといふ。

秣 漢書注云秣〈音末万久佐〉謂以粟米飼也

秣 漢書注に云はく、秣〈音は末、万久佐(まぐさ)〉は粟米を以て飼ふを謂ふなりといふ。

鞭 野王案鞭〈音篇无知俗云无遲〉馬策也策〈馬𠕋字亦作筞〉馬檛也檛〈音花〉㪽以箠驅遲也

鞭 野王案に、鞭〈音は篇、無知(むち)、俗に無遅(むぢ)と云ふ〉は馬の策なり、策〈馬冊、字は亦、筞に作る〉は馬の檛なり、檛〈音は花〉は箠(むちう)ちて遅きを駆る所以なりとす。

罥索 辨色立成云罥索〈加介奈波上音古縣反〉取馬縄也

罥索 弁色立成に云はく、罥索〈加介奈波(かけなは)、上の音は古縣反〉は馬を取る縄なりといふ。

絆 釋名云絆〈音半保太之〉半也拘使半行不得自縦也

絆 釈名に云はく、絆〈音は半、保太之(ほだし)〉は半なり、拘りて半ば行かして自ら縦(ほしきまま)にすることを得ざる使むるなりといふ。

鷹犬具七十七

鷹犬具七十七

攣 唐韵云攣〈音䏈今案一字兩訓在鷹阿之乎在犬岐豆奈〉所以綴攣狗也

攣 唐韻に云はく、攣〈音は聯、今案ふるに一字に両つの訓、鷹に在りては阿之乎(あしを)、犬に在りては岐豆奈(きづな)〉は狗を綴攣(つな)ぐ所以なりといふ。

絛 唐韵云絛〈音刀於保乎〉絲縄也章孝標飢鷹詩云縦令啄断紅絛結未得君呼不敢飛

絛 唐韻に云はく、絛〈音は刀、於保乎(おほを)〉は糸縄なりといふ。章孝標飢鷹詩に云はく、縦令(たとひ)紅絛の結びを啄ひ断つとも、未だ君の呼ぶを得ざれば敢へて飛ばずといふ。

旋子 楊氏漢語抄云旋子〈毛度保利上似泉反〉

旋子 楊氏漢語抄に旋子〈毛度保利(もとほり)、上は似泉反〉と云ふ。

韛 文選西京賦云青骹摯於韛下〈韛音溝訓太加太沼歧又見射藝具〉薩琮曰韛臂衣也

韛 文選西京賦に云はく、青骹(せいかう)のあをきたか、韛の下(もと)に摯るといふ〈韛の音は溝、訓は太加太沼岐(たかたぬき)、又、射芸具に見ゆ〉。薩琮に曰はく、韛は臂衣なりといふ。

䚨 唐韵云䚨〈音發漢語抄云閇麻歧〉弋射収繳具也

䚨 唐韻に云はく、䚨〈音は発、漢語抄に閉麻岐(へまき)と云ふ〉は弋射をして繳を収むる具なりといふ。

紲 文選西京賦云韓獹噬於紲末〈紲音思列反訓歧都奈〉薩琮曰紲攣也

紲 文選西京賦に云はく、韓獹のかりいぬ、紲の末に噬ふといふ〈紲の音は思列反、訓は岐都奈(きづな)〉。薩琮に曰はく、紲は攣なりといふ。

鋂 野王案鋂〈音梅久佐利〉犬鏁也

鋂 野王案に、鋂〈音は梅、久佐利(くさり)〉は犬の鏁なりとす。

犬枷 内典云譬如枷犬繫之於柱終日繞柱不能得離〈涅槃經文也枷讀師說久比都奈〉

犬枷 内典に云はく、譬へば犬を枷して之れを柱に繋ぎ、終日(ひねもす)柱を繞りて離るること得能はざるが如しといふ。〈涅槃経の文なり。枷は師説に久比都奈(くびづな)と読む〉

畋獵具七十八〈畋音田唐韵云取禽獣也〉

畋猟具七十八〈畋の音は田、唐韻に禽獣を取るなりと云ふ〉

罘網〈統閇紭附〉 纂要云獸䋄曰罘〈音浮〉麋䋄曰罠〈武巾反〉兎網曰罝〈子耶反已上訓皆阿𫟈〉文選注云紭〈戸萌反訓呼又与䌉同〉罘之䌉也

罘網〈統閉紭付〉 纂要に云はく、獣網は罘〈音は浮〉と曰ひ、麋網は罠〈武巾反〉と曰ひ、兎網は罝〈子耶反、已上の訓は皆、阿美(あみ)〉と曰ふといふ。文選注に云はく、紭〈戸萌反、訓は呼(を)、又、綱と同じ〉は罘の綱なりといふ。

蹄 周易云蹄者㪽以得兎也故得兎忘蹄〈師說和奈今案即牛蹄馬蹄也見玉篇〉

蹄 周易に云はく、蹄は兎を得る所以なり、故に兎を得て蹄を忘るといふ。〈師説に和奈(わな)。今案ふるに即ち牛蹄、馬蹄なり、玉篇に見ゆ〉

弶 四声字苑云弶〈其髙反漢語抄云久比知〉取獸械也

弶 四声字苑に云はく、弶〈其高反、漢語抄に久比知(くびち)と云ふ〉は獣を取る械なりといふ。

棝 唐韵云棝〈音固漢語抄云奈由𫟈〉射䑕斗也

棝 唐韵に云はく、棝〈音は固、漢語抄に奈由美(なゆみ)と云ふ〉は鼠を射る斗なりといふ。

䑕弩 楊氏漢語抄云䑕弩〈於之〉一云䑕弓也

鼠弩 楊氏漢語抄に云はく、鼠弩〈於之(おし)〉は一に鼠弓と云ふなりといふ。

鳥羅 尓雅云罟曰羅〈度利阿𫟈〉

鳥羅 爾雅に云はく、罟を羅〈度利阿美(とりあみ)〉と曰ふ。

囮 唐韵云囮〈音訛漢語抄云天々礼〉䋄鳥者媒也

囮 唐韻に云はく、囮〈音は訛、漢語抄に天々礼(ててれ)と云ふ〉は網鳥なる者にして媒なりといふ。

鳥籠 說文云笯〈音奴一音那度利古〉鳥籠也

鳥籠 説文に云はく、笯〈音は奴、一音に那、度利古(とりこ)〉は鳥籠なりといふ。

媒鳥 文選射雉賦注云少養雉子至長狎人能招引野雉者謂之媒〈師說乎度利〉

媒鳥 文選射雉賦注に云はく、少きより雉の子を養ひ、長るに至れば人に狎れ、能く野雉を招き引く、之れを媒〈師説に乎度利(をとり)〉と謂ふといふ。

黐〈擌附〉 唐韵云黐〈女知反毛知〉㪽以黏鳥也黐擌〈㪽責反漢語抄云波賀〉㪽以捕鳥也

黐〈擌付〉 唐韻に云はく、黐〈女知反、毛知(もち)〉は鳥を黏(ねえつ)く所以なり、黐擌〈所責反、漢語抄に波賀(はか)と云ふ〉は鳥を捕ふ所以なりといふ。

矪 唐韵云矪〈張留反漢語抄云久流利〉射鳥矢名也

矪 唐韻に云はく、矪〈張留反、漢語抄に久流利(くるり)と云ふ〉は鳥を射る矢の名なりといふ。

餌 四声字苑云餌〈乃吏反恵〉以食誘𩵋鳥也

餌 四声字苑に云はく、餌〈乃吏反、恵(ゑ)〉は食を以て魚鳥を誘ふなりといふ。

魚釣具七十九〈漁音𩵋說文云捕𩵋也訓湏奈都利〉

魚釣具七十九〈漁の音は魚、説文に魚を捕るなりといふ、訓は須奈都利(すなどり)〉

網罟 廣雅云罟〈音古阿𫟈〉𩵋䋄也

網罟 広雅に云はく、罟〈音は古、阿美(あみ)〉は魚網なりといふ。

纚 文選注云纚〈㪽買反師說佐天〉䋄如箕形狹後廣前者也

纚 文選注に云はく、纚〈所買反、師説に佐天(さで)〉網は箕の形の如く後へを狭くし前を広くする者なりといふ。

魚梁 毛詩注云梁〈音良夜奈〉魚梁也唐韵云簎〈士角反漢語抄云夜奈湏〉取魚箔也

魚梁 毛詩注に云はく、梁〈音は良、夜奈(やな)〉は魚梁なりといふ。唐韻に云はく、簎〈士角反、漢語抄に夜奈須(やなす)と云ふ〉は魚を取る箔(すだれ)なりといふ。

筌 野王案筌〈且沿反宇倍〉捕𩵋竹笱也〈古厚反〉取魚竹器也

筌 野王案に、筌〈且沿反、宇倍(うへ)〉は魚を捕る竹笱なりとす〈古厚反〉。魚を取る竹器なり。

籞 唐韵云籞〈音語以介湏〉池水中編竹籬養魚也

籞 唐韻に云はく、籞〈音は語、以介須(いけす)〉は池水の中に竹籬を編み魚を養ふなりといふ。

罧 尒雅云罧〈蘓䕃反字亦作椮〉謂之涔〈字廉反又音岑布之都介〉郭璞曰積柴於水中魚寒入其裏因以簿圍捕取也

罧 爾雅に云はく、罧〈蘇蔭反、字は亦、椮に作る〉は之れを涔〈字廉反、又の音は岑、布之都介(ふしづけ)〉と謂ふといふ。郭璞に曰はく、柴を水中に積み、魚寒くして其の裏に入り、因りて簿を以て囲みて捕へ取るなりといふ。

籗 纂要云籗〈𧆞郭反又士角反漢語抄云比之〉以䥫施棹頭囙以取魚也

籗 纂要に云はく、籗〈虎郭反、又は士角反、漢語抄に比之(ひし)と云ふ〉は鉄を以て棹頭に施し、因りて以て魚を取るなりといふ。

釣 声類云釣〈都叫反都利〉設釣餌取魚也

釣 声類に云はく、釣〈都叫反、都利(つり)〉は釣餌を設けて魚を取るなりといふ。

泛子 蒋魴切韻云泛子〈漢語抄云宇介今案䋄具又有此名故別置之〉釣別名也

泛子 蒋魴切韻に云はく、泛子〈漢語抄に宇介(うけ)と云ふ。今案ふるに、網具に又、此の名有り、故に別ちて之れを置く〉は釣の別名なりといふ。

農耕具八十〈日本紀私記云農奈利波比〉

農耕具八十〈日本紀私記に農は奈利波比(なりはひ)と云ふ〉

犂 唐韵云犂〈音黎加良湏歧〉墾田器也鐴〈必益反閇良〉犂耳也楊氏漢語抄云耒底〈為佐利上音頼〉耒骨〈為佐利乃江〉耒𣓻〈䓁利久比下音表〉耒箭〈太々利賀太〉耒鑱〈佐歧下字見造作具〉

犂 唐韻に云はく、犂〈音は黎、加良須岐(からすき)〉は田を墾く器なり、鐴〈必益反、閉良(へら)〉は犂の耳なりといふ。楊氏漢語抄に、耒底〈為佐利(ゐさり)、上の音は頼〉、耒骨〈為佐利乃江(ゐさりのえ)〉、耒𣓻〈等利久比(とりくび)、下の音は表〉、耒箭〈太々利賀太(たたりがた)〉、耒鑱〈佐岐(さき)、下の字は造作具に見ゆ〉と云ふ。

鋤 唐韻云鎡錤〈孜期二音〉鋤別名也釋名云鋤〈士𩵋反湏歧〉去穢助苗也鍤〈音挿和名同上〉挿地起土也

鋤 唐韻に云はく、鎡錤〈孜期の二音〉は鋤の別名なりといふ。釈名に云はく、鋤〈士魚反、須岐(すき)〉は穢を去り苗を助くなり、鍤〈音は挿、和名は上に同じ〉は地に挿して土を起すなりといふ。

鍫 兼名苑云鍫〈七遥反字亦作鐰久波〉一名鏵〈音華〉說文云钁〈補各反楊氏漢語抄云和名同上〉大鋤也

鍫 兼名苑に云はく、鍫〈七遥反、字は亦、鐰に作る、久波(くは)〉は一名に鏵〈音は華〉といふ。説文に云はく、钁〈補各反、楊氏漢語抄に和名は上に同じと云ふ〉は大鋤なりといふ。

鎛 國語注云鎛〈音愽漢語抄云佐比都恵〉鋤属也釋名云鎛迫地去草也

鎛 国語注に云はく、鎛〈音は博、漢語抄に佐比都恵(さひづゑ)と云ふ〉は鋤の属なりといふ。釈名に云はく、鎛は地を迫(せ)りて草を去るなりといふ。

䤨 麻果切韻云䤨〈普麦反又普狄反漢語抄云加奈賀歧一云久之路〉鈎䤨也

䤨 麻果切韻に云はく、䤨〈普麦反、又は普狄反、漢語抄に加奈賀岐(かながき)と云ふ、一に久之路(くしろ)と云ふ〉は鈎䤨なりといふ。

馬杷 唐韵云杷〈白賀反一音琶弁色立成云馬杷宇麻久波一云馬齒〉作田具也𨫒楱〈漏奏二音漢語抄云和名同上〉䥫齒杷名也

馬杷 唐韻に云はく、杷〈白賀反、一音に琶、弁色立成に云はく、馬杷は宇麻久波(うまぐは)、一に馬歯と云ふ〉は田を作る具なりといふ。𨫒楱〈漏奏の二音、漢語抄に和名は上に同じと云ふ〉は鉄歯の杷の名なりといふ。

欋 楊雄方言云齊魯謂四齒杷為欋〈音衢漢語抄云佐良比〉

欋 楊雄方言に云はく、斉魯に四歯杷を謂ひて欋〈音は衢、漢語抄に佐良比(さらひ)と云ふ〉と為といふ。

朳〈音八〉 郭璞方言注云江東杷之無齒者為朳〈音拜楊氏漢語抄云江布利〉

朳〈音は八〉 郭璞方言注に云はく、江東に杷の歯無き者を朳〈音は拝、楊氏漢語抄に江布利(えぶり)と云ふ〉と為といふ。

杴 唐韵云杴〈虚嚴反漢語抄云古湏歧〉鍬属也

杴 唐韻に云はく、杴〈虚厳反、漢語抄に古須岐(こすき)と云ふ〉は鍬の属なりといふ。

鎌 𠔥名苑云鎌〈音廉〉一名鍥〈音結賀末〉方言云刈𠛎〈艾鉤二音〉野王案柌〈音祠賀末都加〉鎌柄也

鎌 兼名苑に云はく、鎌〈音は廉〉は一名に鍥〈音は結、賀末(かま)〉といふ。方言に刈𠛎〈艾鉤の二音〉と云ふ。野王案に、柌〈音は祠、賀末都加(かまつか)〉は鎌柄なりとす。

連枷 陸詞切韵云連枷〈音加賀良佐乎〉打穀具也釋名云枷加也加於柄頭㪽以檛〈陟瓜反打也〉穗出穀也或曰羅枷三杖而用之

連枷 陸詞切韻に云はく、連枷〈音は加、賀良佐乎(からさを)〉は穀を打つ具なりといふ。釈名に云はく、枷は加なり、柄頭に加へ、穂を檛〈陟瓜反、打つなり〉ち穀を出づる所以なりといふ。或に曰はく、枷三杖を羅(つら)ねて之れを用ゐるといふ。

口籠 蒋魴切韻云〓〔竹冠に兒〕〈音鯢久都古〉牛馬口上籠也

口籠 蒋魴切韻に云はく、〓〔竹冠に兒〕〈音は鯢、久都古(くつこ)〉は牛馬の口の上の籠なりといふ。

造作具八十一

造作具八十一

轆轤 四声字苑云轆轤〈鹿盧二音俗云六路〉圎轉木機也

轆轤 四声字苑に云はく、轆轤〈鹿盧の二音、俗に六路と云ふ〉は円転の木機なりといふ。

鋋 楊氏漢語抄云鋋〈辞戀反又市連反路久魯賀奈〉轆轤之裁刀也

鋋 楊氏漢語抄に云はく、鋋〈辞恋反、又、市連反、路久魯賀奈(ろくろがな)〉は轆轤の裁刀なりといふ。

釘 陸詞切韵云釘〈音丁久歧〉䥫杙也

釘 陸詞切韻に云はく、釘〈音は丁久岐〉は鉄の杙なりといふ。

鑚 唐韻云鑚〈作含反岐利久歧〉無盖釘也

鑚 唐韻に云はく、鑚〈作含反、岐利久岐(きりくぎ)〉は盖無き釘なりといふ。

鉜鏂 楊氏漢語抄云鉜鏂〈浮謳二音和名乃之加太乃久木〉頭高大釘也

鉜鏂 楊氏漢語抄に云はく、鉜鏂〈浮謳の二音、和名は乃之加太乃久木(のしがたのくぎ)〉は頭の高き大釘なりといふ。

栓 四声字苑云栓〈山貟反歧久歧〉木釘也

栓 四声字苑に云はく、栓〈山員反、岐久岐(きくぎ)〉は木の釘なりといふ。

䋲 𠔥名苑云䋲〈食陵反〉一名索〈蘓各反奈波〉

縄 兼名苑に云はく、縄〈食陵反〉は一名に索〈蘇各反、奈波(なは)〉といふ。

准䋲 漢語抄云准䋲〈𫟈豆波賀利〉

准縄 漢語抄に准縄〈美豆波賀利(みづはかり)〉と云ふ。

鑱 唐韻云鑱〈音讒一音暫漢語抄云加奈布久之〉犁䥫又土具也

鑱 唐韻に云はく、鑱〈音は讒、一音に暫、漢語抄に加奈布久之(かなぶくし)と云ふ〉は犁鉄、又、土具なりといふ。

杙〈椓字附〉 文選云椓嶻㠔而為杙〈餘織反訓久比椓音琢訓久比宇都今案俗以杬為杙非也杬音元木名也見唐韵〉

杙〈椓字付〉 文選に云はく、嶻㠔に椓(くひう)ちて杙〈餘織反、訓は久比(くひ)、椓の音は琢、訓は久比宇都(くひうつ)、今案ふるに俗に杬を以て杙と為るは非ざるなり。杬の音は元、木の名なり、唐韻に見ゆ〉と為といふ。

椓擊 纂文云齊人以大槌爲椓擊〈漢語抄云阿比〉

椓擊 纂文に云はく、斉人、大槌を以て椓擊〈漢語抄に阿比(あひ)と云ふ〉と為といふ。

泥鏝 尒雅云鏝〈音蠻〉謂之圬〈音烏字亦作釫〉郭璞曰圬泥鏝也野王案䥫釫〈古天〉塗土具也

泥鏝 爾雅に云はく、鏝〈音は蛮〉は之れを圬〈音は烏、字は亦、釫に作る〉と謂ふといふ。郭璞に曰はく、圬は泥鏝なりといふ。野王案に、鉄釫〈古天(こて)〉は土を塗る具なりとす。

榰柱 唐韻云榰〈音支〉柱〈今案湏介〉支屋攲也

榰柱 唐韻に云はく、榰〈音は支〉柱〈今案ふるに須介(すけ)〉は屋の攲(そばた)つを支ふるなりといふ。

麻柱 辨色立成云麻柱〈阿奈々比〉

麻柱 弁色立成に麻柱〈阿奈々比(あななひ)〉と云ふ。

檜楚 漢語抄云檜楚〈比曽用檜曽二字今案楚字是也〉

檜楚 漢語抄に檜楚〈比曽(ひそ)、檜曽の二字を用ゐる。今案ふるに楚の字は是れなり〉と云ふ。

榑 說文云榑〈補各反久礼功程式有檜榑椙榑〉壁柱也

榑 説文に云はく、榑〈補各反、久礼(くれ)、功程式に檜榑、椙榑有り〉は壁柱なりといふ。

板 唐韻云板〈歩綰反伊太功程式有波多板歩板〉薄木也

板 唐韻に云はく、板〈歩綰反、伊太(いた)、功程式に波多板・歩板有り〉は薄木なりといふ。

材木〈杮附〉 唐韻云材〈音才〉衆木也韓知十曰杮〈音廢古介良〉削朴也謂削木之朴㪽出細片曰杮也

材木〈杮付〉 唐韻に云はく、材〈音は才〉は衆の木なりといふ。韓知十に曰はく、杮〈音は廃、古介良(こけら)〉は削朴なりといふ。削木の朴の出づる所の細片を杮と曰ふなりと謂ふ。

木工具八十二〈四聲字苑云工匠也匠者工巧者又也〉

木工具八十二〈四声字苑に云はく、工は匠なり、匠者は工巧者の又なりといふ〉

鐇 唐韵云鐇〈音繁漢語抄云多都歧〉廣刃斧也

鐇 唐韻に云はく、鐇〈音は繁、漢語抄に多都岐(たつぎ)と云ふ〉は広き刃の斧なりといふ。

斧〈柲附〉 𠔥名苑注云斧〈音府乎能一云与歧〉神農造也柲〈音秘一音必乎乃々江一云布流〉斧柄名也

斧〈柲付〉 兼名苑注に云はく、斧〈音は府、乎能(をの)、一に与岐(よき)と云ふ〉は神農が造るなりといふ。柲〈音は秘、一音に必、乎乃々江(をののえ)、一に布流(ふる)と云ふ〉は斧の柄の名なりといふ。

釿〈𣚚附〉 釋名云釿〈音斤天乎乃〉㪽以平滅斧迹也唐韵云𣃁𣚚〈並音勑〉上釿也下釿柄名也

釿〈𣚚付〉 釈名に云はく、釿〈音は斤、天乎乃(てをの)〉は斧の迹を平(なら)し滅(け)す所以なりといふ。唐韻に云はく、𣃁𣚚〈並びに音は勅〉の上は釿なり、下は釿の柄の名なりといふ。

鐁 唐韻云鐁〈音斯加奈弁色立成用曲刀二字新撰万𦯧集用銫字今案銫字㪽出未詳但唐韻有鍦字視遮反一音夷短矛名也可為工具其義未詳〉平木器也釋名云釿有髙下之跡鐁以此平上也

鐁 唐韻に云はく、鐁〈音は斯、加奈(かな)。弁色立成に曲刀の二字を用ゐる。新撰万葉集に銫の字を用ゐる。今案ふるに、銫の字、出づる所未だ詳かならず。但し、唐韻に鍦の字有り、視遮反、一音は夷、短き矛の名なり、工具と為(す)可し、其の義は未だ詳かならず〉は木を平す器なりといふ。釈名に云はく、釿に高下の跡有り、鐁は此れを以て上を平すなりといふ。

鋸 四声字苑云鋸〈音據能保木利〉似刀有齒者也

鋸 四声字苑に云はく、鋸〈音は拠、能保木利(のほぎり)〉は刀に似て歯有る者なりといふ。

鑿〈樈附〉 野王案鑿〈音昨能𫟈〉㪽以穿木之器也通俗文云樈〈音刑〉鑿柄名也

鑿〈樈付〉 野王案に、鑿〈音は昨、能美(のみ)〉は木を穿つ所以の器なりとす。通俗文に云はく、樈〈音は刑〉は鑿の柄の名なりといふ。

錑 考声切韻云錑〈雷内反又音戾漢語抄云錑毛遅〉鑚也

錑 考声切韻に云はく、錑〈雷内反、又、音は戻、漢語抄に錑は毛遅(もぢ)と云ふ〉は鑚なりといふ。

䥫槌 廣雅云䤶〈於却反加奈都知〉䥫槌也

鉄槌 広雅に云はく、䤶〈於却反、加奈都知(かなづち)〉は鉄槌なりといふ。

柊楑 纂文云方椎〈𥄂追反字亦作槌〉謂之柊楑〈終葵二音漢語抄云散伊都遲〉

柊楑 纂文に云はく、方椎〈直追反、字は亦、槌に作る〉は之れを柊楑〈終葵の二音、漢語抄に散伊都遅(さいづち)と云ふ〉と謂ふといふ。

墨斗 楊氏漢語抄云墨斗〈湏𫟈都保〉

墨斗 楊氏漢語抄に墨斗〈須美都保(すみつぼ)〉と云ふ。

䋲墨 内典云端𥄂不曲喻如䋲墨〈涅槃經文也䋲墨湏𫟈奈波〉

縄墨 内典に云はく、端直にして曲らず、喩へば縄墨〈涅槃経の文なり、縄墨は須美奈波(すみなは)〉の如しといふ。

墨芯 蒋魴切韻云以𥯣爲筆曰芯〈音浸湏𫟈佐之〉周赧王時史臣公田𣞀造也時人以竹芯畫文字今工匠墨芯是

墨芯 蒋魴切韻に云はく、𥯣を以て筆と為るを芯〈音は浸、須美佐之(すみさし)〉と曰ふといふ。周の赧王の時、史臣の公田檀が造るなり。時の人、竹の芯を以て文字を画く、今の工匠の墨芯は是。

曲尺 弁色立成云曲尺〈麻賀利賀祢〉

曲尺 弁色立成に曲尺〈麻賀利賀禰(まがりがね)〉と云ふ。

細工具八十三

細工具八十三

刀子 楊氏漢語抄云刀子〈賀太奈上都牢反〉

刀子 楊氏漢語抄に刀子〈賀太奈(かたな)、上は都牢反〉と云ふ。

錐 毛詩云童子佩錐〈軄追反歧利〉

錐 毛詩に云はく、童子は錐〈職追反、岐利(きり)〉を佩くといふ。

觽 唐韵云觽〈許規反久之利〉角錐童子佩觽說文云角銳端可以解結者也

觽攜 唐韻に云はく、觽〈許規反、久之利(くじり)〉は角錐、童子は攜を佩くといふ。説文に云はく、角の端を鋭くして以て結びを解く可き者なりといふ。

𨧌 辨色立成云𨧌〈加布良恵利巨淹反〉曲刀鑿也

𨧌 弁色立成に云はく、𨧌〈加布良恵利(かぶらゑり)、巨淹反〉は曲刀の鑿なりといふ。

膠 野王案膠〈音交迩賀波〉㪽以連綴物令相黏着者也本草云煑牛皮作之出東阿故曰東阿膠也

膠 野王案に、膠〈音は交、邇賀波(にかは)〉は物を連ね綴ぢ相ひ黏り着かせ令むる所以の者なりとす。本草に云はく、牛皮を煮て之れを作る、東阿より出づる故に東阿膠と曰ふなりといふ。

𣾰 野王案云𣾰〈音七宇流之〉木汁可以塗物也

漆 野王案に云はく、漆〈音は七、宇流之(うるし)〉は木の汁にして以て物を塗る可きなりといふ。

朱𣾰 荆州記云金銀朱𣾰之器

朱漆 荆州記に、金、銀、朱の漆の器と云ふ。

金𣾰 開元式云台州有金𣾰樹〈金漆古之阿布良〉

金漆 開元式に云はく、台州に金漆の樹有りといふ。〈金漆は古之阿布良(こしあぶら)〉

掃墨 功程式云掃墨一斗合酒二升膠二兩〈波伊湏𫟈〉

掃墨 功程式に云はく、掃墨一斗は酒二升、膠二両に合すといふ。〈波伊須美(はいずみ)〉

䰍筆 陸詞切韻云䰍〈音次漢語抄云䰍筆波介〉以𣾰塗物也

䰍筆 陸詞切韻に云はく、䰍〈音は次、漢語抄に䰍筆は波介(はけ)と云ふ〉は漆を以て物に塗るなりといふ。

錯子 唐韵云錯〈倉各反漢語抄云錯子古湏利〉鑪別名又摩也

錯子 唐韻に云はく、錯〈倉各反、漢語抄に錯子は古須利(こすり)と云ふ〉は鑪の別名、又、摩なりといふ。

木賊 弁色立成云木賊〈度久佐〉

木賊 弁色立成に木賊〈度久佐(とくさ)〉と云ふ。

椋葉 本草云椋葉〈无久乃波具見木類〉

椋葉 本草に椋葉〈無久乃波(むくのは)、具(つぶさ)に木類に見ゆ〉と云ふ。

金銀薄 外國志云長者作金薄銀薄承塵

金銀薄 外国志に云はく、長者は金薄、銀薄の承塵を作るといふ。

竹刀 日本紀私記云竹刀〈阿乎比衣〉言以竹刀剪金銀薄也

竹刀 日本紀私記に竹刀〈阿乎比衣(あをひえ)〉と云ふ。竹刀を以て金銀薄を剪るなりと言ふ。

韋 唐韵云韋〈音闈乎之賀波〉柔皮也

韋 唐韻に云はく、韋〈音は闈、乎之賀波(をしかは)〉は柔皮なりといふ。

革 說文云革〈古核反都久利加波今案有蘓枋皮黄櫨革紫革褐革緋纈革䓁名纈讀由波太卽是夾纈之纈字也〉獸皮去毛也

革 説文に云はく、革〈古核反、都久利加波(つくりがは)、今案ふるに、蘇枋皮、黄櫨革、紫革、褐革、緋纈革等の名有り。纈は由波太(ゆはた)と読む、即ち是れ夾纈の纈の字なり〉は獣皮の毛を去るなりといふ。

蠟 考声切韻云蠟〈藍盍反字亦作䗶〉銷蜜蜂窠㪽以為也

蝋 考声切韻に云はく、蝋〈藍盍反、字は亦、䗶に作る〉は蜜蜂の窠を銷(とか)して為る所以なりといふ。

鍜冶具八十四〈叚野二音四声字苑云鍜打金鐵為器也冶焼䥫銷鑠也〉

鍛冶具八十四〈段野の二音、四声字苑に云はく、鍛は金鉄を打ち器を為る也、冶は鉄を焼き銷鑠(とか)す也といふ〉

鞴 唐韻云鞴〈蒲拜反楊氏漢語抄云皮袋布歧賀波〉韋嚢吹火也野王案鞴㪽以吹冶火令熾之嚢也

鞴 唐韻に云はく、鞴〈蒲拝反、楊氏漢語抄に皮袋は布岐賀波(ふきがは)と云ふ〉は韋嚢にして火を吹くなりといふ。野王案に、鞴は冶火を吹きて熾(おこ)さ令むる所以の嚢なりとす。

蹈鞴 日本紀私記云蹈鞴〈太々良今案漢語抄用錧字非也唐韻錧音貫一音管車軸頭䥫也〉

蹈鞴 日本紀私記に蹈鞴〈太々良(たたら)、今案ふるに、漢語抄に錧の字を用ゐるは非ざるなり。唐韻に錧の音は貫、一音に管、車軸の頭の鉄なり〉と云ふ。

鎔 漢書注云鎔〈音容伊賀太〉鑄䥫形也

鎔 漢書注に云はく、鎔〈音は容、伊賀太(いがた)〉は鉄を鋳る形なりといふ。

炭鉤 陸詞切韻云鋊〈音欲湏𫟈賀歧〉炭鉤也

炭鉤 陸詞切韻に云はく、鋊〈音は欲、須美賀岐(すみかぎ)〉は炭鉤なりといふ。

和炭 楊氏漢語抄云和炭〈迩古湏𫟈今案一云賀知湏𫟈〉

和炭 楊氏漢語抄に和炭〈邇古須美(にこすみ)、今案ふるに一に賀知須美(かぢすみ)といふ〉と云ふ。

䥫槌 廣雅云䤶〈於却反加奈都知〉䥫槌也四声字苑云鎚〈𥄂追反今案即䥫槌也〉打䥫器也

鉄槌 広雅に云はく、䤶〈於却反、加奈都知(かなづち)〉は鉄槌なりといふ。四声字苑に云はく、鎚〈直追反、今案ふるに即ち鉄槌なり〉は鉄を打つ器なりといふ。

䥫鉗 楊氏漢語抄云䥫鉗〈加奈波之下竒炎反〉

鉄鉗 楊氏漢語抄に鉄鉗〈加奈波之(かなばし)、下は奇炎反〉と云ふ。

䥫碪 同抄云䥫碪〈加奈之歧〉

鉄碪 同抄に鉄碪〈加奈之岐(かなしき)〉と云ふ。

鉸刀 同抄云鉸刀〈波佐𫟈上古效反〉㪽以切銅䥫也

鉸刀 同抄に云はく、鉸刀〈波佐美(はさみ)、上は古効反〉は銅鉄を切る所以なりといふ。

鏟 唐韻云鏟剗〈並初限反弁色立成云鏟奈良之云剗刀鏟〉上平木器也下削也

鏟 唐韻に云はく、鏟剗〈並びに初限反、弁色立成に鏟は奈良之(ならし)と云ひ、剗刀を鏟と云ふ〉、上は木を平す器なり、下は削るなりといふ。

鑢子 四声字苑云鑢〈音慮字亦作鋁漢語抄云子夜湏利〉㪽以利鋸齒也

鑢子 四声字苑に云はく、鑢〈音は慮、字は亦、鋁に作る。漢語抄に子夜須利(こやすり)と云ふ〉は鋸の歯を利(と)ぐ所以なりといふ。

鐟 陸詞切韵云鐟〈徐感反上声之重漢語抄云太加祢〉剪䥫器也

鐟 陸詞切韻に云はく、鐟〈徐感反、上声の重、漢語抄に太加禰(たがね)と云ふ〉は鉄を剪る器なりといふ。

砥 𠔥名苑云砥〈音旨〉一名䃤〈音篠末度〉細礪石也

砥 兼名苑に云はく、砥〈音は旨〉、一名に䃤〈音は篠、末度(まと)〉は細かき礪石なりといふ。

磺 𠔥名苑云磑〈音豈〉一名磺〈音黄阿良度〉麁礪石也四声字苑云礪〈力制反今案惣名也〉磨䥫石也

磺 兼名苑に云はく、磑〈音は豈〉、一名に磺〈音は黄、阿良度(あらと)〉は麁(あら)き礪石なりといふ。四声字苑に云はく、礪〈力制反、今案ふるに惣名なり〉は鉄を磨く石なりといふ。

青礪 唐韻云礛䃴〈監諸二音阿乎度〉青礪石也

青礪 唐韻に云はく、礛䃴〈監諸の二音、阿乎度(あをと)〉は青き礪石なりといふ。

和名類聚抄巻第五

和名類聚抄巻第五

和名類聚抄巻第六

和名類聚抄巻第六

調度部下

調度部下  

音樂具八十五 服玩具八十六 稱量具八十七 容飾具八十八 澡浴具八十九 厨膳具九十 薫香具九十一 裁縫具九十二 染色具九十三 機織具九十四 蝅絲具九十五 屏障具九十六 㘴臥具九十七 行旅具九十八 葬送具九十九

 音楽具八十五 服玩具八十六 称量具八十七 容飾具八十八 澡浴具八十九 厨膳具九十 薫香具九十一 裁縫具九十二 染色具九十三 機織具九十四 蚕糸具九十五 屏障具九十六 坐臥具九十七 行旅具九十八 葬送具九十九

音樂具八十五〈四声字苑云音声和曰樂五角反哀樂之樂盧各反〉

音楽具八十五〈四声字苑に云はく、音声和するを楽は五角反と曰ひ、哀楽の楽は盧各反〉

鉦皷 後漢書云鉦皷之聲〈鉦音征俗云常古〉𠔥名苑云鉦一名鐃〈女交反〉金皷也越王勾践造也

鉦皷 後漢書に鉦皷の声〈鉦の音は征、俗に常古(とこ)と云ふ〉と云ふ。兼名苑に云はく、鉦、一名に鐃〈女交反〉は金皷なりといふ。越王の勾践が造るなり。

方磬 律書樂圖云磬〈苦定反俗云方磬磬音強〉懸廿四唐令云玉磬方響各一架〈今案磬与方響似而非也〉

方磬 律書楽図に云はく、磬〈苦定反、俗に方磬と云ふ、磬の音は強〉は二十四を懸くといふ。唐令に云はく、玉磬、方響、各(おのおの)一架といふ。〈今案ふるに磬は方響と似て非なり〉

銅鈸子 律書樂圖云銅鈸子〈今案鈸即鉢字也〉出自西域無柄以皮為紐相撃以應節今夷樂多用之

銅鈸子 律書楽図に云はく、銅鈸子〈今案ふるに鈸は即ち鉢の字なり〉は西域より出で、柄無く、皮を以て紐と為し、相撃ちて以て節に応ふといふ。今、夷楽に多く之れを用ゐる。

琴 唐韻云琴〈巨金反〉樂器神農作之本五絃周文王加二絃〈音与弦同古度乃乎樂有絃者皆用之〉

琴 唐韻に云はく、琴〈巨金反〉は楽器、神農が之れを作り、本(もと)は五絃、周の文王が二絃〈音は弦と同じ、古度乃乎(ことのを)、楽に絃有るは皆、之れを用ゐる〉を加ふといふ。

箏〈柱附〉  蒼頡篇云箏〈組耕反俗云象乃古度〉形似瑟而短有十三絃阮瑀箏譜云柱髙三寸謂天地人也〈柱古度遲〉

箏〈柱付〉  蒼頡篇に云はく、箏〈組耕反、俗に象乃古度(しゃうのこと)と云ふ〉は形、瑟に似て短く、十三絃有りといふ。阮瑀箏譜に云はく、柱の高さ三寸なるは天地人を謂ふなりといふ〈柱は古度遅(ことぢ)〉。

琵琶〈撥附〉 𠔥名苑云琵琶〈毗婆二音〉本出於胡也馬上皷之一云魏武造也今之㪽用是蒋魴切韻云棙〈音麗俗用撥字〉琵琶撥名也

琵琶〈撥付〉 兼名苑に云はく、琵琶〈毘婆の二音〉は本、胡より出づるなり、馬上に之れを皷(たた)く、一に魏の武の造るなりと云ひ、今の用ゐる所は是といふ。蒋魴切韻に云はく、棙〈音は麗、俗に撥の字を用ゐる〉は琵琶の撥の名なりといふ。

阮咸 阮咸譜云清風調与琵琶風香調同音今案琵琶之其頸不曲也

阮咸 阮咸譜に云はく、清風調と琵琶風香調と同音といふ。今案ふるに琵琶の其の頸、曲らざるなり。

箜篌 𠔥名苑注云箜篌〈空侯二音楊氏漢語抄云箜篌百済琴也〉漢武時人依琴製之

箜篌 兼名苑注に云はく、箜篌〈空侯の二音、楊氏漢語抄に箜篌は百済琴なりと云ふ〉は漢の武の時の人、琴に依りて之れを製るといふ。

𥰃篌 本朝格云𥰃篌師一人〈今案𥰃字未詳〉

𥰃篌 本朝格に𥰃篌師一人と云ふ。〈今案ふるに𥰃の字は未だ詳(つばひら)かならず〉

新羅琴 同格云新羅琴師一人〈新羅琴之良歧古度〉

新羅琴 同格に新羅琴師一人と云ふ。〈新羅琴は之良岐古度(しらきごと)〉

日本琴 万𦯧集云日本琴〈俗用倭琴二字夜末度古度〉

日本琴 万葉集に日本琴と云ふ。〈俗に倭琴の二字を用ゐる。夜末度古度(やまとごと)〉

横笛 律書樂啚云横笛〈音歒与古不江〉本出於羌也漢張騫使西域首傳一曲李延年造新声廿八曲

横笛 律書楽図に云はく、横笛〈音は歒、与古不江(よこぶえ)〉は本、羌より出づるなり、漢の張騫、西域に使ひして首(はじ)めて一曲を伝ふ、李延年、新声二十八曲を造るといふ。

長笛 同啚云馬融善吹者為長笛

長笛 同図に云はく、馬融の善く吹くは長笛と為といふ。

高麗笛 唐令云高麗伎横笛〈高麗笛俗云古末布江〉

高麗笛 唐令に高麗伎の横笛〈高麗笛は俗に古末布江(こまぶえ)と云ふ〉と云ふ。

笙 釋名云笙〈音生俗云象乃布江〉竹之母曰𠣻〈薄交反俗云都保〉以瓢為之竽𡖋是〈竽音于〉其中受簧〈音黄俗云之太〉於管頭横施於其中也

笙 釈名に云はく、笙〈音は生、俗に象乃布江(しゃうのふえ)と云ふ〉、竹の母を𠣻〈薄交反、俗に都保(つぼ)と云ふ〉と曰ひ、瓢を以て之れを為るといふ。竽は亦、是〈竽の音は于〉。其の中に簧〈音は黄、俗に之太(した)と云ふ〉を管頭に受け、其の中に横に施すなり。

篳篥 律書樂啚云大篳篥小篳篥〈畢栗二音俗云比知利歧〉

篳篥 律書楽図に、大篳篥、小篳篥〈畢栗の二音、俗に比知利岐(ひちりき)と云ふ〉と云ふ。

簫 蔡邕月令章句云簫〈音蕭俗云去声〉編竹吹之長則濁短則清以蜜䗶實其底而増減則知之

簫 蔡邕月令章句に云はく、簫〈音は蕭、俗に去声と云ふ〉は竹を編みて之れを吹く、長きは則ち濁り短きは則ち清し、蜜蝋を以て其の底に実(みた)して増減し、則ち之れを知すといふ。

莫目 本朝格云莫牟師一人〈牟或作目俗云万玖毛〉

莫目 本朝格に莫牟師一人〈牟は或に目に作る、俗に万玖毛(まくも)といふ〉と云ふ。

尺八 律書樂啚云尺八為短笛

尺八 律書楽図に云はく、尺八を短笛と為といふ。

中管 同啚云長笛短笛之間謂之中管

中管 同図に云はく、長笛、短笛の間、之れを中管と謂ふといふ。

皷 蔡邕獨断云皷〈公戸反都々𫟈〉黄帝臣歧伯㪽作也

皷 蔡邕独断に云はく、皷〈公戸反、都々美(つづみ)〉は黄帝の臣、岐伯が作る所なりといふ。

大皷〈枹附〉 律書樂啚云尒雅云大皷〈今案俗或謂之四皷又小皷有一二三之名皆以應莭次第取名也〉謂之鼓賁〈音憤〉即建皷也𠔥名苑云槌一名枹〈音浮字𡖋作桴俗云豆々𫟈乃波知〉㪽以擊大皷也

大皷〈枹付〉 律書楽図に云はく、爾雅に大皷〈今案ふるに、俗に或は之れを四皷、又は小皷と謂ひ、一二三の名有り、皆、節の次第に応ふるを以て名を取るなり〉は之れを鼓賁〈音は憤〉と謂ひ、即ち皷を建つと云ふなりといふ。兼名苑に云はく、槌は一名に枹〈音は浮、字は亦、桴に作る、俗に豆々美乃波知(つづみのばち)と云ふ〉は大皷を撃つ所以なりといふ。

摺皷 律書樂啚云摺皷〈摺摩也俗云湏利都々𫟈〉

摺皷 律書楽図に摺皷〈摺は摩なり、俗に須利都々美(すりつづみ)と云ふ〉と云ふ。

鞨皷 同圖云荅臈皷者今之鞨侯提皷〈鞨音曷俗用掲字未詳〉即鞨皷也

鞨皷 同図に云はく、答臈皷は今の鞨侯、提皷〈鞨の音は曷、俗に掲の字を用ゐる、未だ詳かならず〉は即ち鞨皷なりといふ。

𪔛皷 周礼注云𪔛〈徒刀反字𡖋作鞉不利豆々𫟈〉如皷而小持其柄揺之則旁耳還自擊之

鼗皷 周礼注に云はく、鼗〈徒刀反、字は亦、鞉に作る、不利豆々美(ふりつづみ)〉は皷の如くして小は其の柄を持ち之れを揺らし、則ち旁耳が還りて自ら之れを擊つといふ。

𦝫皷 唐令云髙麗𠆸一部横笛𦝫皷各一〈𦝫皷俗云三鼓〉本朝令云𦝫皷師一人〈𦝫皷讀久礼豆々𫟈今吴樂㪽用是〉

腰皷 唐令に、高麗伎一部に横笛、腰皷、各一と云ふ〈腰皷は俗に三鼓と云ふ〉。本朝令に、腰皷師一人と云ふ。〈腰皷は久礼豆々美(くれつづみ)と読む。今、呉楽の用ゐる所は是〉

拍子 蒋魴切韻云拍〈普伯反〉打也拍板樂器名也

拍子 蒋魴切韻に云はく、拍〈普伯反〉は打つなり、板を拍つ楽器の名なりといふ。

服玩具八十六

服玩具八十六

笏 四声字苑云笏〈音忽俗云尺〉手板長一尺六寸闊三寸厚五分也〈唐笏品天子玉諸侯象大夫魚鬚文士竹木〉

笏 四声字苑に云はく、笏〈音は忽、俗に尺と云ふ〉は手板、長さ一尺六寸、闊さ三寸、厚さ五分なりといふ。〈唐笏品に天子は玉、諸侯は象、大夫は魚鬚、文士は竹木とす〉

玉珮 唐韻云珮〈音与佩同於无毛乃〉玉珮也古之君子妼佩玉以比徳佩帯也

玉珮 唐韻に云はく、珮〈音は佩と同じ、於無毛乃(おむもの)〉は玉珮なりといふ。古の君子は妼(こしもと)に玉を佩き、以て徳に比する佩帯なり。

瑱 唐韵云瑱〈音鎮𫟈々不太歧〉玉充耳也

瑱 唐韻に云はく、瑱〈音は鎮、美々不太岐(みみふたぎ)〉は玉の耳に充つるなりといふ。

璫 釋名云穿耳施曰璫〈音當𫟈々久佐利〉本出於蠻々夷婦女輕淫好走故以此為錘〈音𡸁見權衡具〉今中國效之

璫 釈名に云はく、耳を穿ちて施すを璫〈音は当、美々久佐利(みみくさり)〉と曰ひ、本(もと)蛮より出づ、蛮夷の婦女、軽淫にして好みて走る故に此れを以て錘〈音は垂、権衡具に見ゆ〉と為、今に中国、之れに効ふといふ。

鐶 唐韵云鐶〈音与環同由比万歧〉指鐶也環玉也

鐶 唐韻に云はく、鐶〈音は環と同じ、由比万岐(ゆびまき)〉は指鐶なり、環玉なりといふ。

釧 内典云在指上者名之曰鐶在𦡍上者名之為釧〈涅槃經文也釧音食倫反比知万歧〉

釧 内典に云はく、指の上に在る者は之れを名けて鐶と曰ひ、臂の上に在る者は之れを名けて釧〈涅槃経の文なり、釧の音は食倫反、比知万岐(ひぢまき)〉と為といふ。

綬 礼記注云綬〈音受久𫟈又用組字音祖〉㪽以貫珮玉相𣴎受也四声字苑云緂〈吐敢反俗音奴含反〉青而黄也

綬 礼記注に云はく、綬〈音は受、久美(くみ)、又、組の字を用ゐる、音は祖〉は珮玉を貫き相承受する所以なりといふ。四声字苑に云はく、緂〈吐敢反、俗に音は奴含反〉は青くして黄なるなりといふ。

総 蒋魴切韻云総〈作孔反布散〉聚絲成束也

総 蒋魴切韻に云はく、総〈作孔反、布散(ふさ)〉は糸を聚め束を成すなりといふ。

鈴 陸詞切韻云鈴〈音霊楊氏漢語抄云鈴字湏々〉似鐘而小三礼圖云鐸〈音澤〉今鈴其以銅為之

鈴 陸詞切韻に云はく、鈴〈音は霊、楊氏漢語抄に鈴の字は須々(すず)と云ふ〉は鐘に似て小なりといふ。三礼図に云はく、鐸〈音は沢〉は今の鈴、其れ銅を以て之れを為るといふ。

華盖 𠔥名苑注云華盖〈歧沼加散〉黄帝征蚩尤時當帝頭上有五色雲因其形㪽造也

華盖 兼名苑注に云はく、華盖〈岐沼加散(きぬがさ)〉は黄帝の蚩尤を征(う)つ時、当に帝の頭上に五色雲有りて其の形に因りて造る所なりといふ。

翳 本朝式云齊王行具翳二枚〈翳音於計反波〉

翳 本朝式に、斎王の行具は翳二枚と云ふ。〈翳の音は於計反、波(は)〉

屏繖 唐令云𦝫輿一次大繖四〈繖音散本朝式云屏繖〉

屏繖 唐令に、腰輿一、次に大繖四と云ふ。〈繖の音は散、本朝式に屏繖と云ふ〉

麈尾 卅國春秋云王夷甫常把玉柄麈尾〈麈音主俗音朱𫟈〉

麈尾 三十国春秋に云はく、王夷甫は常に玉柄の麈尾を把るといふ。〈麈の音は主、俗の音は朱美〉

扇 四声字苑云扇〈式戰反玉篇作𥰢在竹部阿布歧〉㪽以取風也𠔥名苑云扇一名箑〈音接字𡖋作䈉〉

扇 四声字苑に云はく、扇〈式戦反、玉篇に𥰢に作る、竹部に在り。阿布岐(あふぎ)〉は風を取る所以なりといふ。兼名苑に云はく、扇は一名に箑〈音は接、字は亦、䈉に作る〉といふ。

蒲葵扇 晉書云蒲葵扇〈今案蒲葵或木別名也今稱蒲扇者以蒲作之〉

蒲葵扇 晋書に蒲葵扇と云ふ。〈今案ふるに蒲葵は或に木の別名なり。今、蒲扇と称するは蒲を以て之れを作る〉

稱量具八十七〈今案知長短謂之度知輕重謂之稱知多少謂之量並見笇經〉

称量具八十七〈今案ふるに長短を知るは之れを度と謂ひ、軽重を知るは之れを称と謂ひ、多少を知るは之れを量と謂ふ。並びに算経に見ゆ〉

權衡 廣雅云錘〈音𡸁〉謂之權〈波加利乃於毛之〉𠔥名苑云銓〈音全〉一名衡〈楊氏漢語抄云權衡加良波可利〉稱也

権衡 広雅に云はく、錘〈音は垂〉は之れを権〈波加利乃於毛之(はかりのおもし)〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、銓〈音は全〉は一名に衡〈楊氏漢語抄に権衡は加良波可利(からばかり)と云ふ〉称なりといふ。

龠 唐韵云龠〈音藥〉量器名也

龠 唐韻に云はく、龠〈音は薬〉は量器の名なりといふ。

合 唐韵云合〈侯閤反又与閤同〉合同又器名也

合 唐韻に云はく、合〈侯閤反、又、閤と同じ〉は合同、又、器の名なりといふ。

升 陸詞切韵云升〈音昇麻湏〉十合器也

升 陸詞切韻に云はく、升〈音は昇、麻須(ます)〉は十合器なりといふ。

斗〈槪附〉 同切韵云斗〈當口反俗音度字𡖋作㪷見唐韵〉十升器也礼記注云槪〈古礙反斗俗云度加歧〉平斗斛米者也

斗〈概付〉 同切韻云はく、斗〈当口反、俗に音は度、字は亦、㪷に作る、唐韻に見ゆ〉は十升の器なりといふ。礼記注に云はく、概〈古礙反、斗は俗に度加岐(とかき)と云ふ〉は斗斛の米を平す者なりといふ。

半石 唐令私記云大倉署函斛〈今案函者俗稱半石者是又案半冝作㪵見四声字苑〉函者受五斗形如此間酒槽耳

半石 唐令私記に云はく、大倉署の函斛〈今案ふるに函は俗に半石と称する者は是。又案ふるに半は宜しく㪵に作るべし、四声字苑に見ゆ〉の函は五斗を受け、形は此の間の酒槽の如きのみといふ。

斛 漢書律暦志云龠合升斗斛〈胡谷反〉㪽以量多少也野王案說文云十斗為石々猶斛也

斛 漢書律暦志に云はく、龠、合、升、斗、斛〈胡谷反〉は多少を量る所以なりといふ。野王案に、説文に十斗を石と為、石は猶ほ斛のごとしと云ふなりとす。

容飾具八十八

容飾具八十八

鏡 孫愐切韻云鏡〈居命反加々𫟈〉照人面者也

鏡 孫愐切韻に云はく、鏡〈居命反、加々美(かがみ)〉は人の面を照らす者なりといふ。

鏡臺 魏武䟽云純銀參帯鏡台〈弁色立成云加々𫟈加介〉

鏡台 魏武疏に、純銀の参帯の鏡台〈弁色立成に加々美加介(かがみかけ)と云ふ〉と云ふ。

髲 釈名云髲〈音被加都良俗用鬘字非也鬘者花鬘花鬘見伽藍具〉髪少者所以被助其髪也

髲 釈名に云はく、髲〈音は被、加都良(かつら)、俗に鬘の字を用ゐるは非ざるなり、鬘は花鬘、花鬘は伽藍具に見ゆ〉は髪の少き者の其の髪を被(かがふ)り助く所以なりといふ。

假髻 釈名云假髻〈湏惠〉以此假覆髪上也

仮髻 釈名に云はく、仮髻〈須恵(すゑ)〉は此れを以て髪の上を仮に覆ふなりといふ。

蔽髪 釈名云蔽髪〈比太𠃧〉蔽髪前為飾

蔽髪 釈名に云はく、蔽髪〈比太飛(ひたひ)〉は髪の前を蔽ひ飾りと為るといふ。

鬠 孫愐切韵云鬠〈音活毛度由比〉以組束髪也

鬠 孫愐切韻に云はく、鬠〈音は活、毛度由比(もとゆひ)〉は組むを以て髪を束ぬるなりといふ。

䞓粉 釈名云䞓粉〈今案䞓即頳字也䞓粉閇迩〉䞓赤也染使赤㪽以着頰也

䞓粉 釈名に云はく、䞓粉〈今案ふるに䞓は即ち頳の字なり。䞓粉は閉邇(べに)〉の䞓は赤なり、染めて赤から使め頬に着くる所以なりといふ。

粉 文選好色賦云着粉則大白〈粉之路歧毛能〉

粉 文選好色賦に云はく、粉を着けば則ち大(はなは)だ白しといふ。〈粉は之路岐毛能(しろきもの)〉

白粉 開元式云白粉卅斤〈白粉俗云波布迩〉

白粉 開元式に白粉卅斤と云ふ。〈白粉は俗に波布邇(はふに)と云ふ〉

黛 說文云黛〈音代万由湏𫟈〉畫眉墨也

黛 説文に云はく、黛〈音は代、万由須美(まゆずみ)〉は眉を画く墨なりといふ。

澤 釋名云澤〈俗用脂綿二字阿布良和太〉人髪恒枯忰以此令濡澤也

沢 釈名に云はく、沢〈俗に脂綿の二字を用ゐる、阿布良和太(あぶらわた)〉は人の髪、恒に枯れ悴(やつ)る、此れを以て濡れ沢(うる)ほ令むるなりといふ。

黒齒 文選注云黒齒國在東海中其圡俗以草染齒故曰黒齒〈俗云波久路女今婦人有黒齒具故取之〉

黒歯 文選注に云はく、黒歯国は東海の中に在り、其の土俗(くにぶり)に草を以て歯を染む、故に黒歯といふ。〈俗に波久路女(はぐろめ)と云ふ。今の婦人に黒歯の具有り、故に之れを取る〉

鉸刀 楊氏漢語抄云鉸刀〈波佐𫟈上古巧反一音效〉

鉸刀 楊氏漢語抄に鉸刀〈波佐美(はさみ)、上は古巧反、一音に効〉と云ふ。

鑷子 釈名云鑷〈尼輙反楊氏漢語抄云波奈介沼歧俗云計沼歧〉摂也拔取毛髮也

鑷子 釈名に云はく、鑷〈尼輒反、楊氏漢語抄に波奈介沼岐(はなげぬき)と云ひ、俗に計沼岐(けぬき)と云ふ〉は摂なり、毛髪を抜き取るなりといふ。

櫛 說文云櫛〈阻瑟反久之〉梳枇揔名也

櫛 説文に云はく、櫛〈阻瑟反、久之(くし)〉は梳枇の惣名なりといふ。

細櫛 唐韻云梳〈音踈一訓介都留〉櫛也枇〈毗至反保曽歧久之一云剌櫛佐之久之〉細櫛也

細櫛 唐韻に云はく、梳〈音は疎、一に介都留(けづる)と訓む〉は櫛なり、枇〈毘至反、保曽岐久之(ほそきくし)、一に刺櫛を佐之久之(さしぐし)と云ふ〉は細き櫛なりといふ。

嚴器 魏武䟽云桼畫嚴器〈俗用唐櫛匣三字云賀良玖師介〉

厳器 魏武疏に、桼画の厳器〈俗に唐櫛匣の三字を用ゐ、賀良玖師介(からくしげ)と云ふ〉と云ふ。

澡浴具八十九〈澡音早洒手也浴音欲洗身也洒与洗古字通〉

澡浴具八十九〈澡の音は早、手を洒(すす)ぐなり、浴の音は欲、身を洗ふなり、洒と洗と古、字通ふ〉

澡豆 温室經云澡浴之法用七物其三曰澡豆

澡豆 温室経に云はく、澡浴の法に七物を用ゐ、其の三を澡豆と曰ふといふ。

楊枝 同經云七物其六曰楊枝

楊枝 同経に云はく、七物の其の六を楊枝と曰ふといふ。

手巾 修復山陵故事云白紵手巾廿枚〈手巾太乃古比〉

手巾 修復山陵故事に、白紵の手巾廿枚〈手巾は太乃古比(たのごひ)〉と云ふ。

巾箱 雜題猪髮㕞子詩云委質巾箱裏〈巾箱者盛手巾之器名也俗云打乱匣〉

巾箱 雑題猪髪㕞子詩に云はく、巾箱の裏(うち)に質(し)を委(い)すといふ。〈巾箱は手巾を盛る器の名なり、俗に打乱匣と云ふ〉

匜 說文云匜〈移尒反一音移波迩佐布俗用楾字㪽出未詳但和名波迩佐布義或說云有柄半挿其内半在其外故呼為半挿也〉柄中有道可以注水之器也

匜 説文に云はく、匜〈移爾反、一音に移、波邇佐布(はにさふ)、俗に楾の字を用ゐる。出づる所、未だ詳かならず。但し、和名の波邇佐布(はにさふ)の義、或る説に柄有り半ば其の内に挿し、半ば其の外に在り、故に呼びて半挿と為るなりと云ふ〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべき器なりといふ。

盥 說文云盥〈音管一音貫楊氏漢語抄云澡手多良比俗用手洗二字〉澡手也字從臼水臨皿也

盥 説文に云はく、盥〈音は管、一音に貫、楊氏漢語抄に手を澡ふを多良比(たらひ)と云ひ、俗に手洗の二字を用ゐる〉は手を澡ふなり、字は臼に水の皿に臨むに従ふなりといふ。

唾壷 外國傳云佛唾壷色似文石

唾壺 外国伝に云はく、仏の唾壺の色、文石に似るといふ。

浴斛 楊氏漢語抄云浴斛〈由布祢下胡谷反〉

浴斛 楊氏漢語抄に浴斛〈由布禰(ゆぶね)、下は胡谷反〉と云ふ。

内衣 温室經云澡浴之法用七物其七曰内衣〈由加太比良〉論語注云明衣以布為沐浴衣也

内衣 温室経に云はく、澡浴の法に七物を用ゐ、其の七を内衣〈由加太比良(ゆかたびら)〉と曰ふといふ。論語注に云はく、明衣は衣を以て沐浴の衣と為るなりといふ。

厨膳具九十

厨膳具九十

箸 唐韻云筯〈遅倨反字𡖋作箸波之〉匙箸也𠔥名苑云一名梜提

箸 唐韻に云はく、筯〈遅倨反、字は亦、箸に作る、波之(はし)〉は匙箸なりといふ。兼名苑に云はく、一名に梜提といふ。

匙 說文云𠤎〈𤰞履反賀比〉㪽以取飯也𠔥名苑云𠤎一名匙〈是支反与疵同又音提見唐韻〉

匙 説文に云はく、𠤎〈卑履反、賀比(かひ)〉は飯を取る所以なりといふ。兼名苑に云はく、𠤎は一名に匙〈是支反、疵と同じ、又、音は提、唐韻に見ゆ〉といふ。

俎 史記云人爲刀俎我為𩵋肉〈俎音阻末奈以太〉𫔭元式云食刀切机各一〈今案切机即俎也〉

俎 史記に云はく、人を刀俎と為、我を魚肉と為〈俎の音は阻、末奈以太(まないた)〉。開元式に云はく、食刀、切机、各一〈今案ふるに切机は即ち俎なり〉。

炙函 東宮舊事云𣾰炙函〈今案宇流之奴利乃夜歧之留乃都奉〉

炙函 東宮旧事に漆炙函〈今案ふるに宇流之奴利乃夜岐之留乃都奉(うるしぬりのやきじるのつぼ)〉と云ふ。

串𦠁 唐韻云串〈初限反与剗同夜伊久之〉炙完串也𦠁〈𦠁音束〉串炙具也

串𦠁 唐韻に云はく、串〈初限反、剗と同じ、夜伊久之(やいぐし)〉は完(しし)を炙る串なり、𦠁〈𦠁の音は束〉串は炙りの具なりといふ。

虃 唐韻云虃〈昨先反与前同太介乃久之〉細削竹也

𥷪 唐韻に云はく、𥷪〈昨先反、前と同じ、太介乃久之(たけのくし)〉は細く削る竹なりといふ。

柈 風土記云越俗飲宴皷柈為樂〈今案柈即槃字也亦作盤俗云朱𣾰皷柈黒𣾰皷柈是也盃盤柈取其廣尺五六寸者抱以着腹以右手五指弾之舞者應節而舞皷柈〉

柈 風土記に云はく、越の俗に飲宴するとき皷柈を楽と為といふ。〈今案ふるに、柈は即ち槃の字なり。亦、盤に作る。俗に朱漆の皷柈、黒漆の皷柈と云ふは是なり。盃盤の柈は其の広尺にして五六寸なる者を取り抱きて以て腹に着け、右手の五指を以て之れを弾き、舞ふ者は節に応へて皷柈を舞ふ〉

油單 唐式云鴻臚蕃客䓁器皿油單及雜物並令少府監支造

油単 唐式に云はく、鴻臚蕃客等の器皿、油単及び雑物、並びに少府監の支をして造ら令むといふ。

食單 同式云䥫鍋食單各一〈漢語抄云食単湏古毛〉

食単 同式に云はく、鉄鍋、食単、各一。〈漢語抄に食単は須古毛(すごも)と云ふ〉

苞苴 唐韻云苞苴〈包書二音日本紀私記云於保迩保俗云阿良万歧〉褁魚肉也

苞苴 唐韻に云はく、苞苴〈包書の二音、日本紀私記に於保邇保(おほにほ)と云ふ、俗に阿良万岐(あらまき)と云ふ〉は魚肉を裹むなりといふ。

薫香具九十一

薫香具九十一

香 樓炭經云凡雜香有卌二種

香 楼炭経に云はく、凡そ雑香に四十二種有りといふ。

沈香 本草云沈香〈沈俗音女林反〉節堅而沈水者也𠔥名苑云一名堅黒

沈香 本草に云はく、沈香〈沈は俗に音は女林反〉は節堅くして水に沈む者なりといふ。兼名苑に云はく、一名に堅黒といふ。

浅香 南州異物志云沈香其次在心白間不甚堅者置之水中不浮不沈与水平者名曰浅香

浅香 南州異物志に云はく、沈香の其の次に心白の間に在り、甚だ堅からざる者、之れを水中に置けば浮ばず、沈まず、水と平らなる者、名けて浅香と曰ふといふ。

麝香 尒雅注云麝〈食夜反〉脚似麞而有香

麝香 爾雅注に云はく、麝〈食夜反〉の脚は麞に似て香り有りといふ。

裛衣香 文字集略云裛〈於業反於及反〉裛衣香〈俗云衣比〉

裛衣香 文字集略に云はく、裛〈於業反、於及反〉は裛衣香といふ。〈俗に衣比(えひ)と云ふ〉

丁子香 内典云丁子欝金婆律膏〈七言偈也欝金見下文〉

丁子香 内典に、丁子、鬱金、婆律膏〈七言の偈なり、鬱金は下文に見ゆ〉と云ふ。

薫陸香 𠔥名苑注云薫陸香〈俗音君禄〉出中天竺也

薫陸香 兼名苑注に云はく、薫陸香〈俗に音は君禄〉は中天竺より出づるなりといふ。

牛頭香 同注云牛頭香〈俗音五豆〉出大𥘿國氣似麝香

牛頭香 同注に云はく、牛頭香〈俗に音は五豆〉は大秦国より出で、気は麝香に似るといふ。

鶏舌香 南州異物志云鶏舌香是草花可含口香

鶏舌香 南州異物志に云はく、鶏舌香は是れ草花の口に含む可き香なりといふ。

雀頭香 江表傳云魏文帝遣使於吴求雀頭香

雀頭香 江表伝に云はく、魏の文帝、使を呉に遣して雀頭香を求むといふ。

龍腦香 蘓敬本草注云龍腦香者樹根中乾脂也

龍脳香 蘇敬本草注に云はく、龍脳香は樹の根の中の乾きし脂なりといふ。

青木香 南州異物志云青木香〈俗用象目〉出天竺是草根状似甘草

青木香 南州異物志に云はく、青木香〈俗に象目を用ゐる〉は天竺より出づ、是れ草の根の状にして甘草に似るといふ。

零陵香 南州異物志云零陵香土人謂為燕草

零陵香 南州異物志に云はく、零陵香は土人の謂ひて燕草と為といふ。

都梁香 荊州記云都梁縣有小山々上有水清浅其中生蘭草俗謂蘭為都梁香

都梁香 荊州記に云はく、都梁県に小山有り、山上に水有りて清く浅し、其の中に蘭草生え、俗に蘭と謂ひて都梁香と為といふ。

兠納香 魏略云兠納香出大𥘿國

兜納香 魏略に云はく、兜納香は大秦国より出づといふ。

兠末香 漢武故事云兠末香西王母焼之本是兠渠國㪽獻

兜末香 漢武故事に云はく、兜末香は西王母、之れを焼くといふ。本(もと)是れ兜渠国の献る所。

流黄香 吴時外国志云流黄香出都昆国

流黄香 呉時外国志に云はく、流黄香は都昆国より出づといふ。

艾納香 廣雅云艾納香

艾納香 広雅に艾納香と云ふ。

迷迭香 魏略云迷迭香出大秦國

迷迭香 魏略に云はく、迷迭香は大秦国より出づといふ。

詹糖香 本草云詹糖香〈詹糖二音占唐〉

詹糖香 本草に詹糖香〈詹糖の二音は占唐〉と云ふ。

白芷香 本草云白芷香〈芷音止〉味辛生河東

白芷香 本草に云はく、白芷香〈芷の音は止〉、味は辛、河東に生ゆといふ。

蘓合香 唐志云蘓合香出蘓合國〈今案一說諸香草煎汁名也見本草䟽〉

蘇合香 唐志に云はく、蘇合香は蘇合国より出づといふ。〈今案ふるに一説に諸の香草の煎汁の名なり。本草疏に見ゆ〉

甲香 南州異物志云甲香〈俗云甲音合〉螺属也可合衆香焼之皆使益芳獨焼則臭

甲香 南州異物志に云はく、甲香〈俗に甲の音は合と云ふ〉は螺の属なり、衆香に合せ之れを焼くべし、皆、芳(かをり)を益さ使む、独り焼くときは則ち臭しといふ。

百和香 神仙傳云淮南王張錦繡之帳燔百和之香

百和香 神仙伝に云はく、淮南王は錦繡の帳を張り、百和の香を燔くといふ。

芸香 礼記注云芸香〈音雲俗久佐乃香〉

芸香 礼記注に芸香〈音は雲、俗に久佐乃香(くさのかう)〉と云ふ。

薫爐 漢劉向有薫爐銘〈薫炉比度利〉

薫爐 漢の劉向に薫炉銘〈薫炉は比度利(ひとり)〉有り。

薫籠 方言注云火籠〈多歧毛乃々古〉今薫籠也

薫籠 方言注に云はく、火籠〈多岐毛乃々古(たきもののこ)〉は今の薫籠なりといふ。

香囊 唐韵云幃〈音圍又許歸反〉香囊也

香囊 唐韻に云はく、幃〈音は囲、又、許帰反〉は香囊なりといふ。

裁縫具九十二

裁縫具九十二

碓 祝尚丘曰碓〈都隊反對同加良宇湏〉踏舂具也

碓 祝尚丘に曰く、碓〈都隊反、対に同じ、加良宇須(からうす)〉は踏み舂く具なりといふ。

砧 唐韵云碪〈知林反字𡖋作砧歧沼伊太〉擣衣石也

砧 唐韻に云はく、碪〈知林反、字は亦、砧に作る。岐沼伊太(きぬいた)〉は衣を擣つ石なりといふ。

擣衣杵 東宮舊事云擣衣杵〈昌与反都智〉

擣衣杵 東宮旧事に擣衣杵〈昌与反、都智(つち)〉と云ふ。

硟 陸詞切韵云硟〈尺戦反与扇同漢語抄云歧奴以太〉展缯石也

硟 陸詞切韻に云はく、硟〈尺戦反、扇と同じ、漢語抄に岐奴以太(きぬいた)と云ふ〉は繒を展す石なりといふ。

模 唐韵云模〈莫胡反俗語加太歧〉法也形也

模 唐韻に云はく、模〈莫胡反、俗語に加太岐(かたぎ)〉は法なり、形なりといふ。

剪刀 楊氏漢語抄云剪刀〈剪音即浅反俗云毛䏻多知加太奈〉㪽所以裁衣裳也

剪刀 楊氏漢語抄に云はく、剪刀〈剪の音は即浅反、俗に毛能多知加太奈(ものたちがたな)と云ふ〉は衣裳を裁る所以なりといふ。

針 陸詞切韻云鍼〈軄深反字𡖋作針波利〉縫衣具也

針 陸詞切韻に云はく、鍼〈職深反、字は亦、針に作る、波利(はり)〉は衣を縫ふ具なりといふ。

針管 魏武䟽云針管一枚〈針管波利都々〉

針管 魏武疏に針管一枚と云ふ。〈針管は波利都々(はりづつ)〉

錔 野王案錔〈他合反与踏同於与比奴木〉指沓㪽縫衣具也

錔 野王案に、錔〈他合反、踏と同じ、於与比奴木(およびぬき)〉は指の沓にして衣を縫ふ所の具なりとす。

熨斗 蒋魴切韵云熨〈音尉熨斗乃之今案一音欝見唐韻〉斗㪽以熨衣裳也

熨斗 蒋魴切韻に云はく、熨〈音は尉、熨斗は乃之(のし)、今案ふるに一音は鬱、唐韻に見ゆ〉斗は衣裳を熨す所以なりといふ。

染色具九十三〈四声字苑云以物取彩色也色者五綵之惣名也〉

染色具九十三〈四声字苑に云はく、物を以て彩色を取るなりといふ。色は五綵の惣名なり〉

蘓枋 蘓敬本草注云蘓枋〈音方俗音湏方〉人用染色

蘇枋 蘇敬本草注に云はく、蘇枋〈音は方、俗に音は須方〉は人の染色に用ゐるといふ。

黄櫨 文選注云櫨〈落胡反波迩之〉今之黄櫨木也

黄櫨 文選注に云はく、櫨〈落胡反、波邇之(はにし)〉は今の黄櫨の木なりといふ。

檗 𠔥名苑云黄檗〈補麦反〉一名黄木〈歧波太〉

檗 兼名苑に云はく、黄檗〈補麦反〉は一名に黄木といふ。〈岐波太(きはだ)〉

梔子 唐韵云梔〈音支今案醫家書䓁用支子二字久知奈之〉梔子木實可染黄色者也

梔子 唐韻に云はく、梔〈音は支、今案ふるに、医家書等に支子の二字を用ゐる、久知奈之(くちなし)〉は梔子、木の実にして黄色に染む可き者なりといふ。

橡 唐韵云橡〈徐兩反上声之重都流波𫟈〉櫟實也

橡 唐韻に云はく、橡〈徐両反、上声の重、都流波美(つるばみ)〉は櫟の実なりといふ。

茜 𠔥名苑注云茜〈蘓見反阿加祢〉可以染緋者也

茜 兼名苑注に云はく、茜〈蘇見反、阿加禰(あかね)〉は以て緋に染むべき者なりといふ。

紫草 本草云紫草〈无良散歧〉𠔥名苑云一名茈䓞〈紫戾二音今案玉篇䓁茈即古紫字也〉

紫草 本草に紫草〈無良散岐(むらさき)〉と云ふ。兼名苑に云はく、一名に茈䓞〈紫戻の二音、今案ふるに玉篇に茈は即ち古紫の字なり〉といふ。

紅藍 弁色立成云紅藍〈久礼乃阿井〉吴藍〈同上〉本朝式云紅花俗用之

紅藍 弁色立成に云はく、紅藍〈久礼乃阿井(くれのあゐ)〉は呉藍〈上に同じ〉といふ。本朝式に云はく、紅花、俗に之れを用ゐるといふ。

藍〈澱附〉 唐韵云藍〈魯甘反木都波歧阿井菜多天阿井見本草〉染草也澱〈音殿阿井之流〉藍澱也本草云木藍堪作澱

藍〈澱付〉 唐韻に云はく、藍〈魯甘反、木は都波岐阿井(つばきあゐ)、菜は多天阿井(たであゐ)、本草に見ゆ〉は染草なり、澱〈音は殿、阿井之流(あゐじる)〉は藍澱なりといふ。本草に云はく、木藍は澱に作るに堪ふといふ。

黄草 弁色立成云黄草〈加伊奈本朝式云刈安草〉

黄草 弁色立成に黄草〈加伊奈(かいな)、本朝式に刈安草と云ふ〉と云ふ。

鴨頭草 楊氏漢語抄云鴨頭草〈都歧久佐弁色立成云押赤草〉

鴨頭草 楊氏漢語抄に鴨頭草〈都岐久佐(つきくさ)、弁色立成に押赤草と云ふ〉と云ふ。

赤莧 本草注云莧又有赤莧〈阿加比由〉莖𦯧純紫不堪食之

赤莧 本草注に云はく、莧に又、赤莧〈阿加比由(あかひゆ)〉有り、茎葉は純紫にして之れを食ふに堪へずといふ。

黄灰 本草云冬灰一名藜灰〈阿加佐乃波比〉陶隱居曰此浣衣黄灰也焼諸蒿藜練作之

黄灰 本草に云はく、冬灰は一名に藜灰といふ〈阿加佐乃波比(あかざのはひ)〉。陶隠居に曰く、此れ衣を浣ふ黄灰なり、諸の蒿藜を焼き、練りて之れを作るといふ。

柃灰 蘓敬曰又有柃灰〈柃音霊今案俗㪽謂椿灰䓁是〉焼木𦯧作之並入染用

柃灰 蘇敬に曰く、又、柃灰〈柃の音は霊、今案ふるに俗に所謂、椿の灰等、是〉有り、木葉を焼き之れを作り、並びに染に入れて用ゐるといふ。

灰汁 辨色立成云灰汁〈阿久〉淋灰〈阿久太流上音林〉

灰汁 弁色立成に云はく、灰汁〈阿久(あく)〉は淋灰〈阿久太流(あくたる)、上の音は林〉といふ。

織機具九十四

織機具九十四

機〈經緯附〉 國語注云織設經緯以機〈居衣反楊氏漢語抄云髙機多加波太今案機巧之𠁅和加豆利〉成缯布也說文云緯〈音尉沼歧謂之則經可知〉横織絲也

機〈経緯付〉 国語注に云はく、経緯を設け機〈居衣反、楊氏漢語抄に云はく、高機は多加波太(たかはた)、今案ふるに、機巧の処は和加豆利(わかつり)〉を以て織り繒布を成すなりといふ。説文に云はく、緯〈音は尉、沼岐(ぬき)、之れを謂ふときは則ち経(たていと)を知る可し〉は横に織る糸なりといふ。

杼 通俗文云受緯曰䇡〈今案即杼字也比〉亦謂之梭〈蘓禾反与沙同〉說文云杼者機之持緯者也

杼 通俗文に云はく、緯を受くるを䇡〈今案ふるに即ち杼の字なり、比(ひ)〉と曰ひ、亦、之れを梭〈蘓禾反、沙と同じ〉と謂ふといふ。説文に云はく、杼は機の緯を持つ者なりといふ。

筬 唐韵云筬〈音成楊氏漢語抄云乎佐〉織具也

筬 唐韻に云はく、筬〈音は成、楊氏漢語抄に乎佐(をさ)と云ふ〉は織具なりといふ。

榺 四声字苑云榺〈音勝負之勝楊氏漢語抄云知歧利〉織機巻經之木也

榺 四声字苑に云はく、榺〈音は勝負の勝、楊氏漢語抄に知岐利(ちきり)と云ふ〉は織機の経を巻く木なりといふ。

綜 野王曰綜〈蘓統反閇〉機縷持絲交者也

綜 野王曰はく、綜〈蘇統反、閉(へ)〉は機縷、糸を持ち交へる者なりといふ。

卧機 楊氏漢語抄云卧機〈久豆比歧弁色立成說同〉

臥機 楊氏漢語抄に臥機〈久豆比岐(くつひき)、弁色立成の説に同じ〉と云ふ。

機躡 辨色立成云機躡〈万祢歧〈已上本注〉躡踏也尼輙反〉

機躡 弁色立成に機躡〈万禰岐(まねき)〈已上は本注〉、躡踏なり、尼輒反〉と云ふ。

繀車 說文云繀〈蘓對反楊氏漢語抄云繀車沼歧加不利〉着絲於筟也

繀車 説文に云はく、繀〈蘇対反、楊氏漢語抄に繀車は沼岐加不利(ぬきかぶり)と云ふ〉は糸を筟(くだ)に着けるなりといふ。

繀筟 說文云筟〈芳無反与敷同楊氏漢語抄云筟久太〉繀絲管也弁色立成云管子〈和名同上新撰万𦯧集𡖋用之〉

繀筟 説文に云はく、筟〈芳無反、敷と同じ、楊氏漢語抄に筟は久太(くだ)と云ふ〉は繀糸の管なりといふ。弁色立成に管子〈和名は上に同じ、新撰万葉集に亦、之れを用ゐる〉と云ふ。

織椱 孫愐曰織椱〈音服漢語抄云井乃阿之〉機之巻缯者也

織椱 孫愐に曰く、織椱〈音は服、漢語抄に井乃阿之(ゐのあし)と云ふ〉は機の繒を巻く者なりといふ。

麻苧 說文云麻〈音磨乎一云阿佐〉枲属也尒雅注云枲〈司里反介无之〉麻之有子名也周礼注云苧〈𥄂呂反上声之重加良无之〉麻属白而細者也

麻苧 説文に云はく、麻〈音は磨、乎(を)、一に阿佐(あさ)と云ふ〉は枲の属なりといふ。爾雅注に云はく、枲〈司里反、介無之(けむし)〉は麻の子有る名なりといふ。周礼注に云はく、苧〈直呂反、上声の重、加良無之(からむし)〉は麻の属の白くして細き者なりといふ。

巻子 楊氏漢語抄云巻子〈閇蘓今案本文未詳但闾巷㪽傳續麻円巻名也〉

巻子 楊氏漢語抄に巻子〈閉蘇(へそ)、今案ふるに本文は未だ詳かならず、但し閭巷の所伝に、麻を続(う)みて円く巻く名なりといふ〉と云ふ。

蝅絲具九十五

蚕糸具九十五

蠺 說文云蠺〈昨含反俗為𧌩字加比古一訓古賀比湏〉䖝吐絲也

蚕 説文に云はく、蚕〈昨含反、俗に𧌩の字に為る、加比古(かひこ)、一訓に古賀比須(こがひす)〉は虫の吐く糸なりといふ。

繭〈獨繭附〉 說文云繭〈音顕万由〉蝅衣也列子云詹何者善釣人也以獨蠒絲為綸〈獨蠒比歧万由〉

繭〈独繭付〉 説文に云はく、繭〈音は顕、万由(まゆ)〉は蚕の衣なりといふ。列子に云はく、詹何は釣りを善くする人なり、独繭糸を以て綸と為といふ〈独繭は比岐万由(ひきまゆ)〉。

桒蠒 唐韻云蟓〈音象久波万由〉桒蠒即桑蝅也

桑蠒 唐韻に云はく、蟓〈音は象、久波万由(くはまゆ)〉は桑繭、即ち桑蚕なりといふ。

蝅沙 本草云蝅沙〈古久曽〉蝅矢名也

蚕沙 本草に云はく、蚕沙〈古久曽(こくそ)〉は蚕の矢(くそ)の名なりといふ。

蝅簿 𠔥名苑云簿〈音薄衣比良〉一名筁〈音曲〉養蝅器施蝅於其上令作蠒者也

蚕簿 兼名苑に云はく、簿〈音は薄、衣比良(えびら)〉は一名に筁〈音は曲〉、蚕を養ふ器なり、蚕を其の上に施し、繭を作ら令むる者なりといふ。

桒柘 礼記注云桒柘〈荘射二音和名上久波下都𫟈〉蝅㪽食也

桑柘 礼記注に云はく、桑柘〈荘射の二音、和名は上は久波(くは)、下は都美(つみ)〉は蚕の食ふ所なりといふ。

絲 文字集略云絲〈音司伊度〉蝅㪽吐也說文云線〈思翦反字𡖋作綫訓与縷曰以度湏知〉絲縷也纇〈盧對反伊度乃布之〉絲節

糸 文字集略に云はく、糸〈音は司、伊度(いと)〉は蚕の吐く所なりといふ。説文に云はく、線〈思翦反、字は亦、綫に作る、訓は縷と同じ、以度須知(いとすぢ)と曰ふ〉は糸の縷なり、纇〈盧対反、伊度乃布之(いとのふし)〉は糸の節といふ。

絓絲 說文云絓〈口蝸反漢語抄云絓絲之介以度〉𢙣絲也

絓絲 説文に云はく、絓〈口蝸反、漢語抄に絓糸は之介以度(しけいと)と云ふ〉は悪しき糸なりといふ。

籰 說文云籰〈王縳反字𡖋作篗俗云本音之重〉収絲者也唐韵云柅〈女履反和久乃江〉籰柄也

籰 説文に云はく、籰〈王縳反、字は亦、篗に作る。俗に本音の重と云ふ〉は糸を収むる者なりといふ。唐韻に云はく、柅〈女履反、和久乃江(わくのえ)〉は籰の柄なりといふ。

反轉 辨色立成云反轉〈久流閇枳楊氏漢語抄說同〉

反転 弁色立成に反転〈久流閉枳(くるべき)、楊氏漢語抄の説に同じ〉と云ふ。

縿車 唐韻云縿〈蘓遭反又㪽衡反訓久流漢語抄云縿車於保賀〉絡蠒取絲也

縿車 唐韻に云はく、縿〈蘇遭反、又、所衡反、訓は久流(くる)。漢語抄に縿車は於保賀(おほが)と云ふ〉は繭を絡めて糸を取るなりといふ。

鍋〈紡續附〉 字書云鍋〈音戈字𡖋作楇漢語抄云都𫟈〉紡車収絲者也唐韵云紡〈芳兩反豆无久〉續也蒋魴切韻云績〈則歴反宇无〉續苧名也

鍋〈紡続付〉 字書に云はく、鍋〈音は戈、字は亦、楇に作る。漢語抄に都美(つみ)と云ふ〉、紡車は糸を収むる者なりといふ。唐韻に云はく、紡〈芳両反、豆無久(つむぐ)〉は続むなりといふ。蒋魴切韻に云はく、績〈則歴反、宇無(うむ)〉は苧を続む名なりといふ。

絡垛 楊氏漢語抄云絡垛〈多々理下他果反〉

絡垜 楊氏漢語抄に絡垜〈多々理(たたり)、下は他果反〉と云ふ。

屏障具九十六

屏障具九十六

帷 釋名云帷〈音維加太比良〉圍也以自障圍也

帷 釈名に云はく、帷〈音は維、加太比良(かたびら)〉は囲むなり、以て自ら障へ囲むなりといふ。

幕 唐式云衛尉寺六幅幕八幅幕〈音莫万久〉

幕 唐式に、衛尉寺に六幅幕、八幅幕〈音は莫、万久(まく)〉と云ふ。

帟 周礼注云平帳曰帟〈羊盃反比良波利〉

帟 周礼注に云はく、平帳は帟〈羊盃反、比良波利(ひらばり)〉と曰ふといふ。

幄 四声字苑云幄〈於角反阿計波利〉大帳也

幄 四声字苑に云はく、幄〈於角反、阿計波利(あげはり)〉は大帳なりといふ。

幔 唐韵云幔〈莫半反俗名如字本朝式斑之讀万不良万久〉帷幔也

幔 唐韻に云はく、幔〈莫半反、俗の名は字の如し、本朝式に斑は之れを万不[太]良万久(まぶ[だ]らまく)と読む〉は帷幔なりといふ。

幌 唐韵云幌〈胡廣反上声之重止波利〉帷幔也

幌 唐韻に云はく、幌〈胡広反、上声の重、止波利(とばり)〉は帷幔なりといふ。

帳〈几帳附〉 釈名云帳〈猪𠅙反俗音長今案之属有几帳之名㪽出未詳〉張也施張於床上也小帳曰斗〈俗云斗帳一云屏風帳〉形如覆斗也

帳〈几帳付〉 釈名に云はく、帳〈猪亮反、俗に音は長、今案ふるに、之の属に几帳の名有り、出づる所未だ詳かならず〉は張なり、床の上に施し張るなり、小帳を斗〈俗に斗帳と云ふ。一に屏風帳と云ふ〉と曰ひ、形は覆斗の如きなりといふ。

簾 野王曰簾〈音廉湏太礼〉編竹帳也

簾 野王曰はく、簾〈音は廉、須太礼(すだれ)〉は竹を編む帳なりといふ。

軟障 本朝式云軟障一條

軟障 本朝式に軟障一条と云ふ。

行障 唐鹵簿令云行障六具

行障 唐鹵簿令に行障六具と云ふ。

屏風 西亰雜記云七尺屏風〈屏音薄經反〉

屏風 西京雑記に七尺の屏風〈屏の音は薄経反〉と云ふ。

承麈 釈名云承塵〈此間名如字〉施於上承塵土也

承麈 釈名に云はく、承塵〈此の間に名は字の如し〉は上に施し塵土を承くるなりといふ。

傅壁 釈名云傅壁〈漢語抄云防壁多都古毛〉以席傅着於壁也

伝壁 釈名に云はく、伝壁〈漢語抄に防壁は多都古毛(たつこも)と云ふ〉は席(むしろ)を以て壁に伝へ着くるなりといふ。

籧篨 說文云籚𥳊〈蘆癈二音〉麁竹席也方言曰江東謂之籧篨〈渠除二音阿无師路〉

籧篨 説文に云はく、籚𥳊〈蘆㾱の二音〉は麁竹の席なりといふ。方言に曰はく、江東に之れを籧篨〈渠除の二音、阿無師路(あむしろ)〉と謂ふといふ。

障子 楊氏漢語抄云障子〈屏風之属也〉

障子 楊氏漢語抄に障子〈屏風の属なり〉と云ふ。

㘴卧具九十七

坐臥具九十七

衣架 尒雅注云箷〈音移字𡖋作椸𫟈曽加介〉懸御衣也

衣架 爾雅注に云はく、箷〈音は移、字は亦、椸に作る、美曽加介(みそかけ)〉は御衣を懸けるなりといふ。

几〈脇息附〉 西亰雜記云漢制天子玉几公侯皆以竹木為几〈居履反於之万都歧今案之属又有脇息之名所出未詳〉

几〈脇息付〉 西京雑記に云はく、漢制に天子は玉几なり、公侯は皆、竹木を以て几〈居履反、於之万都岐(おしまづき)。今案ふるに、之の属は又、脇息の名有り。出づる所は未だ詳かならず〉を為るといふ。

牙床 遊仙窟云六尺象牙床〈楊氏漢語抄云牙床久礼度古〉

牙床 遊仙窟に、六尺の象牙床と云ふ。〈楊氏漢語抄に牙床は久礼度古(くれどこ)と云ふ〉

倚子 本朝式云紫宸殿設黒柿倚子

倚子 本朝式に云はく、紫宸殿に黒柿の倚子を設くといふ。

床子 同式云行幸用赤𣾰床子

床子 同式に云はく、行幸用の赤漆の床子といふ。

草墩 同式云清凉殿設草墩

草墩 同式に云はく、清涼殿に草墩を設くといふ。

胡床 風俗通云霊帝好胡服京師皆作胡床〈阿久良〉

胡床 風俗通に云はく、霊帝は胡服を好み、京師は皆、胡床〈阿久良(あぐら)〉を作るといふ。

毯 蒋魴切韻云毯〈他敢反此间名如字〉毛席以五色絲為之

毯 蒋魴切韻に云はく、毯〈他敢反、此の間に名は字の如し〉は毛の席、五色の糸を以て之れを為るといふ。

氈 野王曰氈〈諸延反賀毛〉毛席撚毛為席也

氈 野王に曰く、氈〈諸延反、賀毛(かも)〉は毛の席、毛を撚りて席に為るなりといふ。

茵〈褥附〉 野王曰茵〈音因之土祢〉茵褥又以虎豹皮為之唐韻云褥〈而蜀反与辱同俗音迩久今案毛席名也〉氊褥也

茵〈褥付〉 野王に曰く、茵〈音は因、之土禰(しとね)〉は茵褥、又、虎、豹の皮を以て之れを為るといふ。唐韻に云はく、褥〈而蜀反、辱と同じ、俗に音は邇久、今案ふるに毛の席の名なり〉は氊褥なりといふ。

簟 蒋魴切韻云簟〈徒玷反上声之重〉織篾為席暑月鋪之

簟 蒋魴切韻に云はく、簟〈徒玷反、上声の重〉は篾を織りて席に為り、暑月に之れを鋪(し)くといふ。

圎𫝶 孫愐曰䕆〈徒口反上声之重俗云円𫝶一云和良布太〉圎草褥也

円座 孫愐に曰く、䕆〈徒口反、上声の重、俗に円座と云ひ、一に和良布太(わらふだ)と云ふ〉は円き草の褥なりといふ。

疊 本朝式云掃部寮長疊短疊〈唐韵徒恊反重疊也太々𫟈〉

畳 本朝式に、掃部寮に長畳、短畳と云ふ。〈唐韻に徒協反、重畳なり、太々美(たたみ)〉

筵〈席附〉 說文云筵〈音延无之路〉竹席也遊仙窟云五綵龍鬢筵〈今案俗又有九𧋝筵依文名之〉唐韻云席〈音与藉同訓同上〉薦席也

筵〈席付〉 説文に云はく、筵〈音は延、無之路(むしろ)〉は竹席なりといふ。遊仙窟に、五綵龍の鬢筵と云ふ〈今案ふるに俗に又、九蝶筵有り、文に依りて之れを名く〉。唐韻に云はく、席〈音は藉と同じ、訓は上に同じ〉は薦席なりといふ。

薦 唐韻云薦〈作甸反古毛〉席也

薦 唐韻に云はく、薦〈作甸反、古毛(こも)〉は席なりといふ。

鎮子 西亰雜記云昭陽殿有緑羆席々毛長尺餘㘴則没𦡀有四玉鎮〈陟鄰反鎮子俗音陳之〉

鎮子 西京雑記に云はく、昭陽殿に緑羆の席有り、席の毛の長さ尺余り、坐れば則ち膝を没(しず)め、四玉鎮〈陟鄰反、鎮子は俗の音は陳之〉といふもの有りといふ。

枕 陸詞切韵云枕〈之稔反万久良枕物之𠁅去声〉𣴎頭木也

枕 陸詞切韻に云はく、枕〈之稔反、万久良(まくら)、枕物の処、去声〉は頭を承くる木なりといふ。

楲㢏 說文云楲〈音威比〉㢏也國語注云㢏〈音投〉行清廁也

楲㢏 説文に云はく、楲〈音は威、比(ひ)〉は㢏なりといふ。国語注に云はく、㢏〈音は投〉は清厠へ行くなりといふ。

褻器 周礼注云褻器〈褻音思烈反〉謂清器虎子之属也〈今案俗語𧆞子於保都保清浄器師乃波古〉

褻器 周礼注に云はく、褻器〈褻の音は思烈反〉は清器にして虎子の属と謂ふなりといふ。〈今案ふるに、俗語に虎子は於保都保(おほつぼ)、清浄器は師乃波古(しのはこ)〉

行旅具九十八

行旅具九十八

簏 說文云簏〈音𢉖楊氏漢語抄云簏子湏利〉竹篋也

簏 説文に云はく、簏〈音は鹿、楊氏漢語抄に簏子は須利(すり)と云ふ〉は竹の篋なりといふ。

篼 唐韵云篼〈當侯反漢語抄云波太古俗用𢬜籠二字〉飼馬籠

篼 唐韻に云はく、篼〈当侯反、漢語抄に波太古(はたご)と云ふ。俗に旅籠の二字を用ゐる〉は馬を飼ふ籠といふ。

樏〈餉附〉 蒋魴切韻云樏〈力委反楊氏漢語抄云樏子加礼比計今案俗㪽謂破子是破子讀和利古〉樏子中有隔之器也四声字苑云餉〈式𠅙反字𡖋作𩜋訓加礼比於久留〉以食送也

樏〈餉付〉 蒋魴切韻に云はく、樏〈力委反、楊氏漢語抄に樏子は加礼比計(かれひけ)と云ふ。今案ふるに、俗に所謂、破子は是。破子は和利古(わりこ)と読む〉は樏子、中に隔ての有る器なりといふ。四声字苑に云はく、餉〈式亮反、字は亦、𩜋に作る、訓は加礼比於久留(かれひおくる)〉は食を以て送るなりといふ。

蓑 說文云蓑〈蘓和反𫟈能〉雨衣也

蓑 説文に云はく、蓑〈蘇和反、美能(みの)〉は雨衣なりといふ。

笠 毛詩注云笠〈力執反賀佐〉㪽以禦雨也

笠 毛詩注に云はく、笠〈力執反、賀佐(かさ)〉は雨を禦ぐ所以なりといふ。

簦 史記音義云簦〈音登俗云大笠於保賀散〉笠有柄也

簦 史記音義に云はく、簦〈音は登、俗に大笠と云ふ。於保賀散(おほがさ)〉は笠に柄有るなりといふ。

雨衣 唐式云三品以上若遇雨聴着雨衣氈帽至殿門前〈雨衣阿万歧沼今案一云油衣隋書云焬帝遇雨左右進油衣是〉

雨衣 唐式に云はく、三品以上、若し雨に遇はば雨衣、氈帽を着て殿門の前に至るを聴(ゆる)すといふ。〈雨衣は阿万岐沼(あまぎぬ)、今案ふるに一に油衣と云ふ。隋書に、煬帝、雨に遇ひ、左右、油衣を進むと云ふは是〉

行縢 釈名云行縢〈音与騰同行縢无加波歧〉騰也言褁脚可以跳騰輕便也

行縢 釈名に云はく、行縢〈音は騰と同じ、行縢は無加波岐(むかばき)〉は騰なりといふ。脚を裹み以て跳び騰るべき軽便なるを言ふ。

行緾〈莔附〉 唐式云諸府衛士人別行緾一具〈緾音𥄂連反〉本朝式云脛巾〈俗云波々歧〉新抄本草云莔〈傾井反以知比今案俗編之為行緾也〉故附出

行纏〈莔付〉 唐式に云はく、諸府の衛士、人別(ごと)に行纏一具といふ〈纏の音は直連反〉。本朝式に脛巾〈俗に波々岐(はばき)と云ふ〉と云ふ。新抄本草に莔〈傾井反、以知比(いちひ)、今案ふるに俗に之れを編みて行纏に為るなり〉と云ふ。故に付け出す。

杖 四声字苑云杖〈𥄂兩反上声之重都惠〉以竹木爲之㪽輔老人也

杖 四声字苑に云はく、杖〈直両反、上声の重、都恵(つゑ)〉は竹木を以て之れを為り、老人を輔くる所なりといふ。

横𩠐杖 唐韵云𣈡〈他礼反与躰同漢語抄云伽世都恵一云𢉖杖〉横𩠐杖也

横首杖 唐韻に云はく、𣈡〈他礼反、体と同じ。漢語抄に伽世都恵(かせづゑ)と云ふ。一に鹿杖と云ふ〉は横首杖なりといふ。

䥫杖 唐韵云䥯〈音与罷同加奈都惠〉大䥫杖也

鉄杖 唐韻に云はく、䥯〈音は罷と同じ、加奈都恵(かなづゑ)〉は大鉄杖なりといふ。

朸 声類云朸〈音力阿布古〉杖名也

朸 声類に云はく、朸〈音は力、阿布古(あふこ)〉は杖の名なりといふ。

帊幞 通俗文云帛三幅曰帊〈普駕反去声之重〉帊衣曰幞〈音僕〉楊氏漢語抄云衣幞〈古路毛都々𫟈〉

帊幞 通俗文に云はく、帛三幅を帊〈普駕反、去声の重〉と曰ひ、帊衣を幞〈音は僕〉と曰ふといふ。楊氏漢語抄に衣幞〈古路毛都々美(ころもづつみ)〉と云ふ。

囊 蒋魴切韻云袋〈音代字亦作帒布久路〉囊名又魚帒

囊 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代、字は亦、帒に作る、布久路(ふくろ)〉は囊の名、又、魚帒といふ。

幐 唐韻云幐〈音騰於比不久路〉囊之可帯也

幐 唐韻に云はく、幐〈音は騰、於比不久路(おびぶくろ)〉は囊の帯ぶべきなりといふ。

𦵏送具九十九

葬送具九十九

棺 四声字苑云棺〈音官一音貫比度歧〉㪽以盛屍也屍〈音与尸同訓或通〉死人形體曰屍也

棺 四声字苑に云はく、棺〈音は官、一音は貫、比度岐(ひとき)〉は屍を盛(い)るる所以なり、屍〈音は尸と同じ、訓は或に通ふ〉は死人の形体を屍と曰ふなりといふ。

槨 野王曰槨〈古愽反与郭同於保止古〉周棺者也

槨 野王に曰はく、槨〈古博反、郭と同じ、於保止古(おほどこ)〉は棺に周らす者なりといふ。

琀 唐韻云琀〈胡紺反〉玉送終口中玉也

琀 唐韻に云はく、琀〈胡紺反〉玉は終を送る口中の玉なりといふ。

香輿 喪礼啚云香輿〈俗云香乃古之〉

香輿 喪礼図に香輿〈俗に香乃古之(かうのこし)と云ふ〉と云ふ。

火輿 同圖云䗶燭輿〈今案俗云火輿是〉

火輿 同図に蝋燭輿〈今案ふるに俗に火輿と云ふは是〉と云ふ。

縗衣 唐韻云縗〈倉囬反与催同不知古路毛〉喪衣也

縗衣 唐韻に云はく、縗〈倉回反、催と同じ、不知古路毛(ふちごろも)〉は喪衣なりといふ。

歩障 喪礼啚云白布帷以障婦人〈今案俗用歩障是〉

歩障 喪礼図に云はく、白布帷は以て婦人を障るといふ。〈今案ふるに俗に歩障を用ゐるは是〉

門燎 周礼云喪設門燎〈力弔反俗云門火〉顔氏家訓云喪出之日門前燃之

門燎 周礼に云はく、喪に門燎〈力弔反、俗に門火と云ふ〉を設くといふ。顔氏家訓に云はく、喪出づるの日に門前に之れを燃(もや)すといふ。

山陵〈埴輪附〉 日本紀私記云山陵〈𫟈佐々歧〉埴輪〈波迩和〉山陵縁辺作埴人形立如車輪者也

山陵〈埴輪付〉 日本紀私記に山陵〈美佐々岐(みさざき)〉と云ふ。埴輪〈波迩和(はにわ)〉は山陵の縁辺に埴の人形を作り、車輪の如く立つる者なりといふ。

墳墓 周礼注云墓〈莫故反与暮同豆賀〉塚塋地也廣雅云塚塋〈寵營二音〉𦵏地也方言云墳〈扶云反〉壟〈力腫反〉並塚名也

墳墓 周礼注に云はく、墓〈莫故反、暮と同じ、豆賀(つか)〉は塚塋の地なりといふ。広雅に云はく、塚塋〈寵営の二音〉は葬地なりといふ。方言に云はく、墳〈扶云反〉、壟〈力腫反〉は並びに塚の名なりといふ。

和名類聚抄巻第六

和名類聚抄巻第六

和名類聚抄巻第七

和名類聚抄巻第七  

羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七

 羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七

羽族部第十五〈文選注云羽族謂鳥也〉

羽族部第十五〈文選注に羽族は鳥を謂ふなりと云ふ〉  

鳥名百 鳥體百一

 鳥名百 鳥体百一

鳥名百

鳥名百

鳥 尒雅注云二足而羽者曰禽〈音琴和名与鳥同〉一說飛曰鳥走曰獸惣謂之禽獸〈訓与獸同〉毛詩注云鳥之雌雄〈熊斯二音和名上乎度利下米度利〉不分別者以翼知之右掩㔫雄㔫掩右雌隂陽相下之義謂之也

鳥 爾雅注に云はく、二足にして羽ある者を禽〈音は琴、和名は鳥と同じ〉と曰ふといふ。一説に飛ふを鳥と曰ひ、走るを獣と曰ひ、惣べて之れを禽獣〈訓は獣と同じ〉と謂ふ。毛詩注に云はく、鳥の雌雄〈熊斯の二音、和名は上に乎度利(をとり)、下に米度利(めとり)〉は分ち別かざるは、翼を以て之れを知る、右の左を掩ふを雄、左の右を掩ふを雌、陰陽相下の義、之れを謂ふなりといふ。

鳳凰 尒雅云雄曰鳳雌曰凰〈俸皇二音〉毛䖝之長也

鳳凰 爾雅に云はく、雄を鳳と曰ひ雌を凰〈俸皇の二音〉と曰ひ、毛虫の長さなりといふ。

孔雀 𠔥名苑注云孔雀〈俗云音宮尺〉毛端圎一寸者謂之珠毛々文如畫此鳥或以音響相接或見雄則有子矣

孔雀 兼名苑注に云はく、孔雀〈俗に音は宮尺と云ふ〉は毛の端の円一寸なるは之れを珠毛と謂ひ、毛の文は画の如し、此の鳥は或に音響を以て相接し、或に雄を見れば則ち子有りといふ。

鸚鵡 山海経云青羽赤喙䏻言名曰鸚䳇〈櫻母二音〉郭璞注云今之鸚鵡〈音武〉脚指前後各两者也

鸚鵡 山海経に云はく、青き羽、赤き喙にして能く言(ものい)ふ、名けて鸚䳇〈桜母の二音〉と曰ふといふ。郭璞注に云はく、今の鸚鵡〈音は武〉は脚の指、前後に各、両(ふたまた)なる者なりといふ。

鶴 四声字苑云鶴〈何各反都流〉似鵠長喙高脚唐韻云䴇〈音零楊氏抄漢語抄云太豆〉䴇鳥鸖別名也

鶴 四声字苑に云はく、鶴〈何各反、都流(つる)〉は鵠に似て長き喙、高き脚なりといふ。唐韻に云はく、䴇〈音は零、楊氏抄漢語抄に太豆(たづ)と云ふ〉は䴇鳥、鸖の別名なりといふ。

鵰鷲 唐韵云鶚〈音凋和之〉鶚鳥別名也鶚〈音萼〉大鵰也山海経注云鷲〈音就〉小鵰也

鵰鷲 唐韻に云はく、鶚〈音は凋、和之(わし)〉は鶚鳥の別名なり、鶚〈音は咢〉は大鵰なりといふ。山海経注に云はく、鷲〈音は就〉は小鵰なりといふ。

角鷹 弁色立成云角鷹〈久万太加今案角者毛角之義也〉

角鷹 弁色立成に角鷹〈久万太加(くまたか)、今案ふるに角は毛角の義なり〉と云ふ。

鷙〈鴘字附〉 蒋魴切韻云鷙〈音四多賀〉鷹鷂惣名也日本紀私記云倶知〈兩字急讀屈百済俗号鷹曰倶知也〉唐韻云鴘〈方免反又府蹇反俗云賀閇流波𫟈〉鷹鷂二秊色也

鷙〈鴘字付〉 蒋魴切韻に云はく、鷙〈音は四、太賀(たか)〉は鷹鷂の惣名なりといふ。日本紀私記に倶知〈両字を急ぎ読みて屈、百済に俗に鷹を号けて倶知(くち)と曰ふなり〉と云ふ。唐韻に云はく、鴘〈方免反、又、府蹇反、俗に賀閉流波美(かへるはみ)と云ふ〉は鷹鷂の二年の色なりといふ。

鷹 廣雅云一歳名之黄鷹〈音膺和賀多加〉二歳名之撫〈加太加閇利〉三歳名之青鷹白鷹〈漢語抄云大鷹於保太加兄鷹㔟宇今案俗說雄鷹謂之光鷹雌鷹謂之火鷹也〉

鷹 広雅に云はく、一歳は之れを名けて黄鷹〈音は膺、和賀多加(わかたか)〉、二歳は之れを名けて撫鷹〈加太加閉利(かたかへり〉、三歳は之れを名けて青鷹、白鷹〈漢語抄に大鷹は於保太加(おほたか)、兄鷹は勢宇(せう)と云ふ。今案ふるに俗説に雄鷹は之れを光鷹と謂ひ、雌鷹は之れを火鷹と謂ふなり〉といふ。

鷂 𠔥名苑云鷣〈音滛〉一名鸇〈諸延反〉鷂也野王案鷂〈音遥又云漢語抄云波之太加兄鷂古䏻里〉似鷹而小也

鷂 兼名苑に云はく、鷣〈音は滛〉は一名に鸇〈諸延反〉、鷂なりといふ。野王案に、鷂〈音は遥、又は云はく、漢語抄に波之太加(はしたか)、兄鷂は古能里(このり)と云ふといふ〉は鷹に似て小さきなりとす。

鶙鵳〈鷸子附〉 廣雅云鶙鵳〈帝肩二音漢語抄云能𫝑〉鷸子〈鷸音聿豆布利〉皆鷂属也

鶙鵳〈鷸子付〉 広雅に云はく、鶙鵳〈帝肩の二音、漢語抄に能勢(のせ)と云ふ〉、鷸子〈鷸の音は聿、豆布利(つぶり)〉は皆、鷂の属なりといふ。

雀鷂 𠔥名苑云雀鷂〈漢語抄云湏々𫟈多加一云都𫟈〉善提雀者也唐韵云𪀚〈音戎漢語抄云雀𪀚悦哉〉雀𪀚小鷹也

雀鷂 兼名苑に云はく、雀鷂〈漢語抄に須々美多加(すずみたか)と云ひ、一に都美(つみ)と云ふ〉は善く雀を提ぐる者なりといふ。唐韻に云はく、𪀚〈音は戎、漢語抄に雀𪀚は悦哉と云ふ〉は雀𪀚にして小さき鷹なりといふ。

鶻 斐務齊切韻云鶻〈音骨波夜布佐〉鷹属也隼〈音笋和名同上〉鷙鳥也大名祝鳩

鶻 斐務齊切韻に云はく、鶻〈音は骨、波夜布佐(はやぶさ)〉は鷹の属なり、隼〈音は笋、和名は上に同じ〉は鷙鳥なり、大名(たいめい)に祝鳩といふ。

鴡鳩 尒雅集注云鴡鳩〈上七余反𫟈佐古〉鵰属也好在江𨕙山中𡖋食𩵋者也日本紀私記云覺賀鳥〈賀久加乃止利公望案髙橋氏文云水佐古〉

鴡鳩 爾雅集注に云はく、鴡鳩〈上は七余反、美佐古(みさご)〉は鵰の属なり、江辺、山中に在るを好み、亦、魚を食ふ者なりといふ。日本紀私記に覚賀鳥〈賀久加乃止利(かくかのとり)、公望案に高橋氏文に水佐古(みさご)と云ふ〉と云ふ。

山鷄 七巻食経云山鷄一名鵕䴊〈峻儀二音夜末止利今案鵕䴊種類各異見漢書注〉地理志云山鷄形如家鷄〈雄斑雌黒〉

山鶏 七巻食経に云はく、山鶏は一名に鵕䴊といふ〈峻儀の二音、夜末止利(やまどり)、今案ふるに鵕䴊の種類は各(おのおの)異なる、漢書注に見ゆ〉。地理志に云はく、山鶏の形は家鶏の如しといふ。〈雄は斑にして雌は黒し〉

木兎 尒雅注云木兎〈豆久〉似鴟而小兎頭毛角者也

木兎 爾雅注に云はく、木兎〈都久(つく)〉は鴟に似て小さく兎頭の毛角の者なりといふ。

鴟 本草云鴟一名鳶〈上音祗下音鈆字亦作𪀝度比〉尒雅云一名𪀝鵟〈音狂〉喜食䑕而大目者也

鴟 本草に云はく、鴟は一名に鳶といふ〈上の音は祗、下の音は鉛、字は亦、𪀝に作る、度比(とび)〉。爾雅に云はく、一名に𪀝鵟〈音は狂〉は喜びて鼠を食ひ目を大きくする者なりといふ。

梟 說文云梟〈古堯反布久呂布弁色立成云佐計食父母不孝鳥也尒雅注云鴟梟八別大小之名也〉鴟

梟 説文に云はく、梟〈古堯反、布久呂布(ふくろふ)、弁色立成に佐計(さけ)と云ふ。父母を食ふ不孝の鳥なり。爾雅注に鴟梟は大小を八別する名なりと云ふ〉は鴟といふ。

恠鴟 尒雅注云恠鴟〈与多賀〉晝伏夜行鳴以為恠者也

恠鴟 爾雅注に云はく、恠鴟〈与多賀(よたか)〉は昼に伏し夜に行き、鳴きては恠(あや)しと以為(おも)ふ者なりといふ。

烏 唐韻云烏〈哀都反加良湏〉孝鳥也尒雅云純黒而反哺者謂之烏〈哺音簿故反食在口也〉𠔥名苑云一名鵶〈音䃁字亦作鴉見唐韻〉

烏 唐韻に云はく、烏〈哀都反、加良須(からす)〉は孝鳥なりといふ。爾雅に云はく、純(すべ)て黒くし反哺する者は之れを烏〈哺の音は簿故反、食は口に在るなり〉と謂ふといふ。兼名苑に、一名に鵶〈音は䃁、字は亦、鴉に作る、唐韻に見ゆ〉と云ふ。

鳩 野王案曰鳩〈音丘夜末波止〉此鳥種類甚多鳩其惣名也

鳩 野王案に曰はく、鳩〈音は丘、夜末波止(やまばと)〉、此の鳥は種類、甚だ多く、鳩は其の惣名なりといふ。

鴿 本草云鴿〈古沓反与頜同伊閇波止〉頸短灰色

鴿 本草に云はく、鴿〈古沓反、頜と同じ、伊閉波止(いへばと)〉は頸短く灰色といふ。

鵤 崔禹食経云鵤〈胡岳反以加流賀〉㒵似鴿而白喙𠔥名苑云斑鳩〈日本紀私記云和名同上〉觜大尾短者也

鵤 崔禹食経に云はく、鵤〈胡岳反、以加流賀(いかるが)〉の貌は鴿に似て白き喙といふ。兼名苑に云はく、斑鳩〈日本紀私記に和名は上に同じと云ふ〉は觜大きく尾の短き者なりといふ。

鳹 陸詞曰鳹〈音黔又音琴漢語抄云比米〉白喙鳥也

鳹 陸詞に曰はく、鳹〈音は黔、又の音は琴、漢語抄に比米(ひめ)と云ふ〉は白き喙の鳥といふ。

鴲 孫愐曰鴲〈音脂漢語抄云之米〉小青雀也

鴲 孫愐に曰はく、鴲〈音は脂、漢語抄に之米(しめ)と云ふ〉は小き青雀なりといふ。

獦子鳥 楊氏漢語抄云獦子鳥〈俗云阿止利〉弁色立成云臈觜鳥〈和名同上一云胡雀今案本文未詳但或說云此鳥群𠃧如列卒之滿山林故名獦子鳥也〉

獦子鳥 楊氏漢語抄に獦子鳥と云ふ〈俗に阿止利(あとり)と云ふ〉。弁色立成に臈觜鳥と云ふ。〈和名は上に同じ、一に胡雀と云ふ。今案ずるに本文は未だ詳(つばひら)かならず。但し或説に此の鳥は列卒の山林に満つるが如く群れ飛ぶ故に獦子鳥と名くるなりと云ふ〉

鵯烏 崔禹食経云鵯〈音𤰞一音疋比衣止利〉㒵似烏而色蒼白也尒雅注云鸄〈音激〉一名鵯鶋〈疋居二音〉一名鸒𪆗〈譽斯二音〉飛而多群腹下白者江東呼為鵯烏

鵯烏 崔禹食経に云はく、鵯〈音は卑、一音に疋、比衣止利(ひえどり)〉の貌は烏に似て色は蒼白きなりといふ。爾雅注に云はく、鸄〈音は激〉は一名に鵯鶋〈疋居の二音〉、一名に鸒𪆗〈誉斯の二音〉は飛びて多く群れ、腹の下の白き者、江東に呼びて鵯烏と為といふ。

鵐鳥 唐韻云鵐〈音巫漢語抄云巫鳥之止々〉鳥名也

鵐鳥 唐韻に云はく、鵐〈音は巫、漢語抄に巫鳥は之止々(しとど)と云ふ〉は鳥の名なりといふ。

鶇鳥 唐韻云鶇〈音東漢語抄云鶇鳥都久𫟈見弁色立成云馬鳥〉鳥名也

鶇鳥 唐韻に云はく、鶇〈音は東、漢語抄に鶇鳥は都久美(つぐみ)と云ふ。弁色立成に見え馬鳥を云ふ〉は鳥の名なりといふ。

鵽鳥 陸詞曰鵽〈古活反多止利〉小鳥似雉也

鵽鳥 陸詞に曰はく、鵽〈古活反、多止利(たどり)〉は小鳥にして雉に似るなりといふ。

胡鷰 𠔥名苑注云鷰有胡越二種〈楊氏漢語抄云胡鷰子阿万止利〉

胡鷰 兼名苑注に云はく、鷰に胡、越の二種有りといふ。〈楊氏漢語抄に胡鷰子は阿万止利(あまどり)と云ふ〉

𪇆𪄻 四声字苑云𪇆𪄻〈獨舂二音漢語抄云獨舂鳥佐夜豆歧止利〉鳥黄色声似舂者相杵也

𪇆𪄻 四声字苑に云はく、𪇆𪄻〈独舂の二音、漢語抄に独舂鳥は佐夜豆岐止利(さやつきどり)と云ふ〉鳥は黄色にして、声は舂く者の相杵うつに似るなりといふ。

喚子鳥 万𦯧集云喚子鳥〈其讀与布古止利〉

喚子鳥 万葉集に喚子鳥〈其れを与布古止利(よぶこどり)と読む〉と云ふ。

稲屓鳥 同集云稲屓鳥〈其読伊𥘾於保㔟度利〉

稲負鳥 同集に稲負鳥〈其れを伊奈於保勢度利(いなおほせどり)と読む〉と云ふ。

鵙 𠔥名苑云鵙一名鷭〈上音覔下音煩漢語抄云伯勞毛受一云鵙〉伯勞也日本紀私記云百舌鳥

鶪 兼名苑に云はく、鶪は一名に鷭〈上の音は覔、下の音は煩、漢語抄に伯労は毛受(もず)と云ひ、一に鶪と云ふ〉、伯労なりといふ。日本紀私記に百舌鳥と云ふ。

斵木 尒雅集注云斵木一名鴷〈音列天良豆々歧〉好食樹中蠹者也

斵木 爾雅集注に云はく、斵木は一名に鴷〈音は列、天良豆々岐(てらつつき)〉、樹の中の蠹を好み食ふ者なりといふ。

布穀鳥 𠔥名苑云鸕𪆰一名鴶鵴〈盧葛吉菊四音布々止利〉布穀也

布穀鳥 兼名苑に云はく、鸕𪆰は一名に鴶鵴〈盧、葛、吉、菊の四音、布々止利(ふふどり)〉、布穀なりといふ。

鵼 唐韻云鵼〈音空漢語抄云沼江〉怪鳥也

鵼 唐韻に云はく、鵼〈音は空、漢語抄に沼江(ぬえ)と云ふ〉は怪しき鳥なりといふ。

鵂鶹 張蕐愽物志云鵂鶹鳥〈休留二音漢語抄云伊比止与〉人截手足爪棄地則入其家拾取之

鵂鶹 張華博物志に云はく、鵂鶹鳥〈休留の二音、漢語抄に伊比止与(いひどよ)と云ふ〉は人、手足の爪を截りて地に棄つれば則ち其の家に入りて之れを拾ひ取るといふ。

鵁鶄 唐韵云鵁鶄〈交青二音〉鳥名也弁色立成云鵁鶄〈伊微〉住海𨕙其鳴極喧者也

鵁鶄 唐韻に云はく、鵁鶄〈交青の二音〉は鳥名なりといふ。弁色立成に云はく、鵁鶄〈伊微(いひ)〉は海辺に住み、其の鳴くこと極めて喧しき者なりといふ。

鸎 陸詞曰鸎〈烏莖反漢語抄云春鳥子宇久比湏〉春鳥也

鸎 陸詞に曰はく、鸎〈烏茎反、漢語抄に春鳥子は宇久比須(うぐひす)と云ふ〉は春鳥なりといふ。

𪇖𪈜鳥 唐韵云𪇖𪈜〈藍縷二音保度々歧湏〉今之郭公也

𪇖𪈜鳥 唐韻に云はく、𪇖𪈜〈藍縷の二音、保度々岐須(ほととぎす)〉は今の郭公なりといふ。

雉 廣雅云雉〈音智上声之重歧々湏一云歧之〉野鷄也

雉 広雅に云はく、雉〈音は智、上声の重、岐々須(きぎす)、一に岐之(きじ)と云ふ〉は野鷄なりといふ。

鶉 淮南子云蝦蟇化為鶉〈市倫反宇豆良〉

鶉 淮南子に云はく、蝦蟇は化けて鶉〈市倫反、宇豆良(うづら)〉と為るといふ。

鸗 玉篇云鸗〈音籠漢語抄云之歧一云田鳥〉野鳥也

鸗 玉篇に云はく、鸗〈音は籠、漢語抄に之岐(しぎ)と云ひ、一に田鳥と云ふ〉は野鳥なりといふ。

雲雀 崔禹食経云雲雀似雀而大〈比波利〉楊氏漢語鈔云鶬鶊〈倉庚二音訓上同〉

雲雀 崔禹食経に云はく、雲雀は雀に似て大(とほしろ)しといふ〈比波利(ひばり〉。楊氏漢語抄に鶬鶊〈倉庚の二音、訓は上に同じ〉と云ふ。

鸅鸆鳥 唐韵云鸅鸆〈澤虞二音漢語抄云護田鳥於湏賣止利〉尒雅集注云鴋〈音紡〉一名澤虞即護田鳥也常在澤中見人輙鳴有似主守官故以名之

鸅鸆鳥 唐韻に、鸅鸆〈澤虞の二音、漢語抄に護田鳥、於須売止利(おすめどり)と云ふ〉と云ふ。爾雅集注に云はく、鴋〈音は紡〉は一名に沢虞、即ち護田鳥なり、常に沢中に在りて人を見ては輙ち鳴く、主守官に似たる有り、故に以て之れを名づくといふ。

鼃鳥 崔禹食経云鼃鳥〈久比𥘾漢語抄云水鷄〉㒵似水鷄能食鼃故以名之

鼃鳥 崔禹食経に云はく、鼃鳥〈久比奈(くひな)、漢語抄に水鷄と云ふ〉の貌は水鷄に似て能く鼃を食ふ、故に以て之れを名づくといふ。

鷰鳥 尒雅集注云鷰〈烏見反豆波久良米〉白脰小烏也

鷰鳥 爾雅集注に云はく、鷰〈烏見反、豆波久良米(つばくらめ)〉は白き脰(うなじ)の小烏なりといふ。

雀〈連雀附〉 楊氏漢語抄云雀〈且略反湏々米〉連雀〈唐雀也弁色立成說同〉

雀〈連雀付〉 楊氏漢語抄に云はく、雀〈且略反、須々米(すずめ)〉、連雀〈唐雀なり、弁色立成の説に同じ〉といふ。

𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食経云𪃹〓〔令冠に鳥〕〈積霊二音字或作鶺鴒迩波久𥘾布利日本紀私記云止都歧乎之倍止利〉㒵似鷰而髙飛作声

𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食経に云はく、𪃹〓〔令冠に鳥〕〈積霊の二音、字は或に鶺鴒に作る、邇波久奈布利(にはくなぶり)、日本紀私記に止都岐乎之倍止利(とつぎをしへどり)と云ふ〉の貌は鷰に似て高く飛び声を作すといふ。

巧婦 𠔥名苑注云巧婦〈太久𫟈止利〉好割葦皮食中䖝故亦名蘆虎

巧婦 兼名苑注に云はく、巧婦〈太久美止利(たくみどり)〉は好く葦皮を割きて中の虫を食ふ、故に亦、蘆虎と名づくといふ。

鷦鷯 文選鷦鷯賦云鷦鷯〈焦遼二音佐々歧〉小鳥也生於蒿萊之間長於藩籬之下

鷦鷯 文選鷦鷯賦に云はく、鷦鷯〈焦遼の二音、佐々岐(さざき)〉は小鳥なり、蒿萊の間に生れ、藩籬の下(もと)に長(おとな)ぶといふ。

鷃 唐韻云鷃〈音晏加夜久歧〉萑鷃小鳥也

鷃 唐韻に云はく、鷃〈音は晏、加夜久岐(かやくき)〉は萑鷃、小鳥なりといふ。

鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注云大曰鴻小曰鴈〈洪岸二音加利〉

鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注に云はく、大きなるを鴻と曰ひ、小きなるを鴈と曰ふといふ。〈洪岸の二音、加利(かり)〉

鴨 尒雅集注云鴨〈音押〉野名曰鳬〈音扶〉家名曰鶩〈音木〉楊氏漢語抄云鳬鷖〈加毛下字音烏嵆反〉

鴨 爾雅集注に云はく、鴨〈音は押〉は野にゐるは名を鳬〈音は扶〉と曰ひ、家にゐるは名を鶩〈音は木〉と曰ふ。楊氏漢語抄に鳬鷖〈加毛(かも)、下の字の音は烏嵆反〉と云ふ。

鴛鴦 崔豹古今注云鴛鴦〈𡨚鸎二音乎之漢語抄云〓〔溪冠に鳥〕𪃠其音溪勅〉雌雄未嘗相離人得其一則一思而死故名匹鳥也

鴛鴦 崔豹古今注に云はく、鴛鴦〈𡨚鸎の二音、乎之(をし)、漢語抄に〓〔溪冠に鳥〕𪃠、其の音は渓勅と云ふ〉は雌雄、未だ嘗て相離れず、人の其の一を得ば、則ち一は思ひて死す、故に匹鳥と名づくなりといふ。

鸍 尒雅集注云鸍〈音弥一音施漢語抄云多加倍〉一名沈鳬㒵似鴨而小背上有文

鸍 爾雅集注に云はく、鸍〈音は弥、一音に施、漢語抄に多加倍(たかべ)と云ふ〉は一名に沈鳬、貌は鴨に似て小さく、背の上に文有りといふ。

鵝 𠔥名苑注云鵝〈音我〉形如雁人家㪽畜也

鵝 兼名苑注に云はく、鵝〈音は我〉の形は雁の如くして人家に畜はれるなりといふ。

鵠 野王案曰鵠〈胡篤反漢語抄云古布日本紀私記云久々比〉大鳥也

鵠 野王案に曰はく、鵠〈胡篤反、漢語抄に古布(こふ)と云ひ、日本紀私記に久々比(くぐひ)と云ふ〉は大鳥なりといふ。

鸛 本草云鸛〈音舘於保止利〉水鳥似鵠而巢樹者也

鸛 本草に云はく、鸛〈音は舘、於保止利(おほとり)〉は水鳥にして鵠に似て樹に巣(すく)ふ者なりといふ。

鷺 唐韵云𪅖〓〔鋤偏に鳥〕〈舂鋤二音〉白鷺也崔禹食経云鷺〈音路佐歧〉色純白其声似人呼者也

鷺 唐韻に云はく、𪅖〓〔鋤偏に鳥〕〈舂鋤の二音〉は白鷺なりといふ。崔禹食経に云はく、鷺〈音は路、佐岐(さぎ)〉の色は純て白くして其の声は人の呼ぶに似たる者なりといふ。

蒼鷺 崔禹食経云鷺又有一種相似而小色蒼黒並在水湖間〈漢語抄云蒼鷺𫟈止佐歧〉

蒼鷺 崔禹食経に云はく、鷺に又、一種有り、相似て小さく色の蒼黒く、並びに水湖の間に在りといふ。〈漢語抄に蒼鷺は美止佐岐(みとさぎ)と云ふ〉

鵲 本草云鵲〈且略反加佐々歧〉飛駮馬泥鵲腦名也

鵲 本草に云はく、鵲〈且略反、加佐々岐(かささぎ)〉の飛駮、馬泥は鵲の脳の名なりといふ。

鳭 玉篇云鳭〈音嘲都歧〉赤喙自呼之鳥也楊氏漢語抄云紅𩿷〈同上俗用鵇字今案㪽出未詳日本云桃花鳥〉

鳭 玉篇に云はく、鳭〈音は嘲、都岐(つき)〉は赤き喙にして自ら呼ぶ鳥なりといふ。楊氏漢語抄に紅𩿷と云ふ。〈上に同じ、俗に鵇の字を用ゐる。今案ふるに出づる所未だ詳かならず。日本に桃花鳥と云ふ〉

鸕鷀 弁色立成云大曰鸕鷀〈盧兹二音日本紀私記云志麻都止利〉小曰鵜鶘〈啼胡二音俗云宇〉尒雅注云鸕鷀水鳥也觜頭如鈎好食𩵋也

鸕鷀 弁色立成に云はく、大きなるを鸕鷀〈盧兹の二音、日本紀私記に志麻都止利(しまつとり)と云ふ〉と曰ひ、小さきなるを鵜鶘〈啼胡の二音、俗に宇(う)と云ふ〉と曰ふといふ。爾雅注に云はく、鸕鷀は水鳥なり、觜頭は鈎の如くして好く魚を食ふなりといふ。

𩿢 唐韵云𩿢〈他口反漢語抄云久呂止利〉黒色水鳥名也

𩿢 唐韻に云はく、𩿢〈他口反、漢語抄に久呂止利(くろどり)と云ふ〉は黒色の水鳥の名なりといふ。

魚虎 尒雅集注云鴗〈音立曽比見日本紀私記〉小鳥也色青翆而食魚江東呼為水狗𠔥名苑云𩵋虎

魚虎 爾雅集注に云はく、鴗〈音は立、曽比(そび)、日本紀私記に見ゆ〉は小鳥なり、色は青翠にして魚を食ひ、江東に呼びて水狗と為といふ。兼名苑に魚虎と云ふ。

鸊鶙 方言注云鸊鶙〈辟低二音弁色立色云迩保〉野鳬小而好沒水中也玉篇云鸊鶙其膏可以瑩刀劔

鸊鶙 方言注に云はく、鸊鶙〈辟低の二音、弁色立色に邇保(にほ)と云ふ〉は野鳬にして小さくして好く水中に没むなりといふ。玉篇に云はく、鸊鶙、其の膏を以て刀剣を瑩くべしといふ。

鷗 唐韵云鷗〈烏侯反加毛米〉水鳥也𠔥名苑云一名江鷰

鷗 唐韻に云はく、鷗〈烏侯反、加毛米(かもめ)〉は水鳥なりといふ。兼名苑に云はく、一名に江鷰といふ。

鶵 尒雅云鳥子生湏其母而食謂之鷇〈音雊一云音鴿〉鳥子生能噣食謂之雛〈音蒭字亦作𪀫訓並比𥘾〉

鶵 爾雅に云はく、鳥の子生れて須く其の母にして食ふべきは之れを鷇〈音は雊、一音に鴿と云ふ〉と謂ひ、鳥の子生れて能く食を噣(ついは)むは之れを雛〈音は蒭、字は亦、𪀫に作る、訓は並びに比奈(ひな)〉と謂ふといふ。

𡖉 陸詞曰𡖉〈音嬾加比古〉鳥胎也呂氏春秋云鷄𡖉多毈〈音段湏毛里〉野王案曰毈𡖉不孵也孵〈音孚俗云加閇流〉𡖉化也

卵 陸詞に曰はく、卵〈音は嬾、加比古(かひご)〉は鳥の胎なりといふ。呂氏春秋に云はく、鶏卵は多く毈〈音は段、須毛里(すもり)〉すといふ。野王案に曰はく、毈卵は孵らざるなり、孵〈音は孚、俗に加閉流(かへる)と云ふ〉は卵の化るといふ。

鳥體百一

鳥体百一

冠 野王案云〓〔溪冠に鳥〕𪃠頭上有毛冠〈冠讀佐賀文選羽毛射雉賦冠雙立謂之毛角耳〉鳥冠也尒雅注云木兎似鴟而毛角〈今案名同上但獨立謂之毛冠此间雙立謂之毛角耳〉

冠 野王案に云はく、〓〔溪冠に鳥〕𪃠の頭上に毛冠〈冠は佐賀(さか)と読む。文選羽毛射雉賦に冠の双つ立つは之れを毛角耳と謂ふ〉、鳥冠有りといふ。爾雅注に云はく、木兎は鴟に似て毛角ありといふ。〈今案ふるに名は上に同じ。但し独つ立つは之れを毛冠と謂ふ。此の間に双つ立つは之れを毛角耳と謂ふ〉

觜〈喙附〉 說文云觜〈音斯久知波之〉鳥喙也喙〈音衛久知佐歧良文選序鷹礪之是〉鳥口也

觜〈喙付〉 説文に云はく、觜〈音は斯、久知波之(くちばし)〉は鳥の喙なり、喙〈音は衛、久知佐岐良(くちさきら)、文選序に鷹の之れを礪ぐは是〉は鳥の口なりといふ。

毳 考声切韵云毳〈川芮反尒古介〉細弱毛也

毳 考声切韻に云はく、毳〈川芮反、爾古介(にこげ)〉は細く弱き毛なりといふ。

䙰𥛨 文選海賦云鳬雛䙰𥛨〈離徒二音師說布久介〉

䙰𥛨 文選海賦に云はく、鳬(かもめ)の雛、䙰𥛨〈離徒の二音、師説に布久介(ふくげ)〉にすといふ。

淋渗 同賦云鸖子淋渗〈林深二音師說都々介〉李善曰䙰𥛨淋渗皆毛羽始生㒵也

淋渗 同賦に云はく、鶴子は淋渗〈林深の二音、師説に都々介(つつげ)〉にささげなくといふ。李善に曰はく、䙰𥛨、淋渗は皆、毛羽の始めて生ゆる貌なりといふ。

羽 唐韵云羽〈音禹波〉鳥翅也

羽 唐韻に云はく、羽〈音は禹、波(は)〉は鳥の翅なりといふ。

翼 唐韵云翅〈施智反去声之輕豆波佐〉鳥翼也翼〈与軄反〉羽翼又助也翎〈音零和名並同上〉鳥羽

翼 唐韻に云はく、翅〈施智反、去声の軽、豆波佐(つばさ)〉は鳥の翼なり、翼〈与職反〉は羽翼、又、助くなり、翎〈音は零、和名は並びに上に同じ〉は鳥の羽といふ。

翮 尒雅集注云羽本曰翮〈下革反字亦作𦑜波祢〉一云羽根也

翮 爾雅集注に云はく、羽の本を翮〈下革反、字は亦、𦑜に作る、波禰(はね)〉と曰ひ、一に羽根と云ふなりといふ。

翈 唐韵云翈〈胡甲反与匣同加佐歧利〉翮上短羽也

翈 唐韻に云はく、翈〈胡甲反、匣と同じ、加佐岐利(かざきり)〉は翮の上の短き羽なりといふ。

倍羅縻 日本紀私記云倍羅縻〈師說鳥乃和歧乃之多乃介乎為倍羅縻也縻謂真實也言掖羽乃古止掩蔵之周也案奥區也今俗謂保呂羽訛也〉

倍羅縻 日本紀私記に倍羅縻〈師説に鳥乃和岐乃之多乃介(とりのわきのしたのけ)を倍羅縻と為るなり、縻は真実を謂ふなり、掖羽のごと掩ひ蔵し周らすなるを言ふ、案ふるに奥区なり、今、俗に保呂羽(ほろば)と謂ふは訛れるなり〉と云ふ。

翹 四声字苑云翹〈渠遥反今案俗云翡翆是〉鳥尾上長毛也

翹 四声字苑に云はく、翹〈渠遥反、今案ふるに俗に翡翠と云ふは是〉は鳥の尾の上の長き毛なりといふ。

尾 野王案云尾〈漠鬼反乎〉鳥獣尻長毛也

尾 野王案に云はく、尾〈漠鬼反、乎(を)〉は鳥獣の尻の長き毛なりといふ。

鞦 文選射雉賦云青鞦〈音秋師說乎布佐〉李善曰鞦夾尾之間也

鞦 文選射雉賦に青き鞦〈音は秋、師説に乎布佐(をぶさ)〉と云ふ。李善に曰はく、鞦は尾の間に夾むなりといふ。

臎 遊仙窟云雉臎〈音翆師說比多礼〉說文云臎〈今案如許慎說者俗㪽謂阿布良之利是也〉鳥尾肉也

臎 遊仙窟に雉臎〈音は翠、師説に比多礼(ひたれ)〉と云ふ。説文に云はく、臎〈今案ふるに許慎の説の如きは俗に所謂る阿布良之利(あぶらしり)、是なり〉は鳥の尾の肉なりといふ。

吭 唐韵云吭〈胡郎反又去声鳥乃布江〉鳥喉嚨也

吭 唐韻に云はく、吭〈胡郎反、又、去声、鳥乃布江(とりのふえ)〉は鳥の喉嚨なりといふ。

膍胵 本草云膍胵〈毗蚩二音鳥乃和多〉鳥胃也

膍胵 本草に云はく、膍胵〈毘蚩の二音、鳥乃和多(とりのわた)〉は鳥の胃なりといふ。

肫 唐韵云肫〈章倫反与春同漢語抄云无々歧〉鳥蔵也

肫 唐韻に云はく、肫〈章倫反、春と同じ、漢語抄に無々岐(むむき)と云ふ〉は鳥の蔵なりといふ。

膆 文選射雉賦注云膆〈音素師說毛乃波𫟈〉鳥受食𠙚也

膆 文選射雉賦注に云はく、膆〈音は素、師説に毛乃波美(ものはみ)〉は鳥の食(くひもの)を受くる処なりといふ。

𠷏 唐韵云𠷏〈音委又音毀曽々呂〉說文鷙鳥食已吐其皮毛如丸也

𠷏 唐韻に𠷏〈音は委、又の音は毀、曽々呂(そそろ)〉と云ふ。説文に鷙鳥は食ひ已りて其の皮毛を吐けば丸(まり)の如きなり。

鴨通 本草云鴨通〈加毛乃久曽〉鴨屎名也

鴨通 本草に云はく、鴨通〈加毛乃久曽(かものくそ)〉は鴨の屎の名なりといふ。

蜀水草 本草云蜀水華〈宇乃久曽〉鸕鷀矢名也

蜀水草 本草に云はく、蜀水華〈宇乃久曽(うのくそ)〉は鸕鷀の矢(くそ)の名なりといふ。

蹼 尒雅集注云蹼〈音卜𫟈豆加歧〉鳬鴈足指間有幕相連著者也

蹼 爾雅集注に云はく、蹼〈音は卜、美豆加岐(みづかき)〉は鳬鴈の足の指の間に幕有りて相連なり著く者なりといふ。

距 蒋魴切韻云距〈音巨訓阿古江〉鶏雉脛有歧也

距 蒋魴切韻に云はく、距〈音は巨、訓は阿古江(あごえ)〉は鶏雉の脛に岐有るなりといふ。

飛翥 唐韵云翥〈章恕字亦作䬡文選射雉賦云軒翥波布流俗云波都々〉𠃧擧也

飛翥 唐韻に云はく、翥〈章は恕、字は亦、䬡に作る。文選射雉賦に軒翥を波布流(はふる)と云ひ、俗に波都々(はつつ)と云ふ〉は飛び挙ぐるなりといふ。

啄 四声字苑云啄〈丁角反都伊波无又用噣字音闘〉鳥口取食也

啄 四声字苑に云はく、啄〈丁角反、都伊波無(ついばむ)、又、噣の字を用ゐる、音は闘〉は鳥の口、取り食ふなりといふ。

嚇 唐韵云鳴〈音名𥘾久〉鳥啼也囀〈音轉佐閇都流〉鳥吟也文選蕪城賦云寒鴟嚇鶵〈嚇音呼格反師說賀々𥘾久〉

嚇 唐韻に云はく、鳴〈音は名、奈久(なく)〉は鳥の啼くなり、囀〈音は転、佐閉都流(さへづる)〉は鳥の吟くなりといふ。文選蕪城賦に云はく、寒鴟のこひたるとり、嚇鶵とかかなくといふ。〈嚇の音は呼格反、師説に賀々奈久(かかなく)〉

㕞毛 四声字苑云㕞〈㪽劣反文選云㕞加以豆久路比湏漢語抄云阿布良比歧〉鳥理毛也

㕞毛 四声字苑に云はく、㕞〈所劣反、文選に㕞は加以豆久路比須(かいつくろひす)と云ひ、漢語抄に阿布良比岐(あぶらびき)と云ふ〉は鳥の毛を理むるなりといふ。

孳尾 尚書云鳥獣孳尾〈孳音疾置反与字同〉孔安國曰乳化曰孳交接曰尾〈鳥交接俗人云豆流比湏〉

孳尾 尚書に云はく、鳥獣は孳尾〈孳の音は疾置反、字と同じ〉すといふ。孔安国に曰はく、乳化を孳と曰ひ、交接を尾〈鳥の交接を俗人は豆流比須(つるびす)と云ふ〉と曰ふといふ。

巢 孫愐曰鳥巣在穴曰窠在樹曰巣〈音曹訓湏一云湏久布〉

巢 孫愐に曰はく、鳥の巣の穴に在るを窠と曰ひ、樹に在るを巣〈音は曹、訓は須(す)一に須久布(すくふ)と云ふ〉と曰ふといふ。

塒 毛詩曰雞栖于塒注曰鑿墻而棲曰塒〈音時訓止久良〉

塒 毛詩に曰はく、鶏は塒に栖むといふ。注に曰はく、墻を鑿ちて棲むを塒〈音は時、訓は止久良(とぐら)〉と曰ふといふ。

毛群部第十六〈文選注云毛群謂獣〉

毛群部第十六〈文選注に云はく、毛群を獣と謂ふといふ〉  

獣名百二 獣體百三

 獣名百二 獣体百三

獣名百二

獣名百二

獣 尒雅注云四足而毛曰獣〈音狩介毛乃〉野王案六畜〈音宙一音救介多毛乃〉牛馬羊犬鷄豕也說文云牝〈音臏米介毛能〉畜毋也牡〈音母乎介毛乃〉畜父也

獣 爾雅注に云はく、四足にして毛あるを獣〈音は狩、介毛乃(けもの)〉と曰ふといふ。野王案に、六畜〈音は宙、一音に救、介多毛乃(けだもの)〉は牛、馬、羊、犬、鶏、豕なりとす。説文に云はく、牝〈音は臏、米介毛能(めけもの)〉は畜母なり、牡〈音は母、乎介毛乃(をけもの)〉は畜父なりといふ。

師子 𠔥名苑云師子一名狻猊〈酸蜺二音〉𥠇天子傳云狻猊日行五百里以虎豹為粮

師子 兼名苑に云はく、師子は一名に狻猊〈酸蜺の二音〉といふ。穆天子伝に云はく、狻猊は日に五百里行きて以て虎豹を粮と為といふ。 

象 四声字苑云𤉢〈祥兩反上声之重字亦作象歧佐〉獣名似水牛大耳長鼻眼細牙長者也

象 四声字苑に云はく、𤉢〈祥両反、上声の重、字は亦、象に作る、岐佐(きさ)〉は獣の名、水牛に似て大き耳、長き鼻、眼細く、牙長き者なりといふ。

犀〈雌犀附〉 尒雅集注云犀〈音西此间音在〉形似水牛猪頭大腹有三角一在頂上一在額上一在鼻上脚有三蹄黒色本草云雌犀一名兕犀〈楊玄操曰兕音似〉

犀〈雌犀付〉 爾雅集注に云はく、犀〈音は西、此の間に音は在〉の形は水牛に似て猪の頭、大き腹、三つの角有り、一は頂の上に在り、一は額の上に在り、一は鼻の上に在り、脚に三つの蹄有り、黒き色といふ。本草に云はく、雌犀は一名に兕犀といふ〈楊玄操に兕の音は似と曰ふ〉。

麒麟 瑞應圖云麒麟〈其隣二音又作騏驎〉仁獣也牡曰〓〔其偏に鹿〕牝曰𫜏也

麒麟 瑞応図に云はく、麒麟〈其隣の二音、亦、騏驎に作る〉は仁獣なり、牡を〓〔其偏に鹿〕と曰ひ、牝を𫜏と曰ふなりといふ。

猩々 尒雅注云猩々〈音星此間云象章〉能言獣也孫愐曰獣身人面好飲酒者也

猩々 爾雅注に云はく、猩々〈音は星、此の間に象章と云ふ〉は能く言(ものい)ふ獣なりといふ。孫愐に曰はく、獣身にして人面、好みて酒を飲む者なりといふ。

虎 說文云虎〈乎古反止良〉山獣之君也

虎 説文に云はく、虎〈乎古反、止良(とら)〉は山獣の君なりといふ。

豹 說文云豹〈補教反日本紀私記云𥘾賀豆可𫟈〉似虎而圎文者也

豹 説文に云はく、豹〈補教反、日本紀私記に奈賀豆可美(なかつかみ)と云ふ〉は虎に似て円き文の者なりといふ。

熊 陸詞切韵云熊〈音雄久万〉獣之似羆而小也

熊 陸詞切韻に云はく、熊〈音は雄、久万(くま)〉は獣の羆に似て小さきなりといふ。

犲狼〈獥附〉 𠔥名苑云狼一名犲〈音才〉說文云狼〈音郎於保加𫟈〉似犬而鋭頭白頰者也尒雅云獥〈音叫〉狼子也

犲狼〈獥付〉 兼名苑に云はく、狼は一名に犲〈音は才〉といふ。説文に云はく、狼〈音は郎、於保加美(おほかみ)〉は犬に似て鋭き頭、白き頬の者なりといふ。爾雅に云はく、獥〈音は叫〉は狼の子なりといふ。

猫 野王案猫〈音苗祢古麻〉似虎而小䏻捕䑕為粮

猫 野王案に、猫〈音は苗、禰古麻(ねこま)〉は虎に似て小さく、能く鼠を捕りて粮と為といふ。

葦鹿 本朝式云葦鹿皮〈阿之賀見于陸奥出羽交昜雜物中矣本文未詳〉

葦鹿 本朝式に葦鹿皮と云ふ。〈阿之賀(あしか)、陸奥、出羽の交易雑物の中に見ゆ。本文は未だ詳かならず〉

獨犴 唐韵云犴〈俄寒反又音岸今案和名未詳但本朝式云葦鹿皮獨犴皮云々犴音如蕳此名㪽出亦未詳〉胡地野犬名也

獨犴 唐韻に云はく、犴〈俄寒反、又、音は岸。今案ふるに和名は未だ詳かならず。但し本朝式に葦鹿皮は独犴皮云々、犴の音は蕳の如しと云ふ。此の名の出づる所、亦、未だ詳かならず〉は胡地の野犬の名なりといふ。

水豹 文選西亰賦云搤水豹〈阿㔫良之〉

水豹 文選西京賦に云はく、水豹〈阿左良之(あざらし)〉を搤(くび)るといふ。

獺 𠔥名苑云獺〈音脫乎曽〉水獣恒居水中食𩵋為粮者也唐韵云獱〈音頻〉獺之別名也

獺 兼名苑に云はく、獺〈音は脱、乎曽(をそ)〉は水獣、恒に水中に居り魚を食ひて粮と為る者なりといふ。唐韻に云はく、獱〈音は頻〉は獺の別名なりといふ。

麋 四声字苑云麋〈音眉漢語抄云於保之可〉似鹿而大毛不斑以冬至解角者也

麋 四声字苑に云はく、麋〈音は眉、漢語抄に於保之可(おほじか)と云ふ〉は鹿に似て大きく毛は斑ならず、冬至を以て角を解く者なりといふ。

鹿 陸詞切韵云鹿〈音禄賀〉斑獣也尒雅集注云牡鹿曰麚〈音家日本紀私記云牡鹿佐乎之加〉牝鹿曰麀〈音憂米賀〉其子曰麑〈音迷字亦作麛加吴〉

鹿 陸詞切韻に云はく、鹿〈音は禄、賀(か)〉は斑の獣なりといふ。爾雅集注に云はく、牡鹿を麚〈音は家、日本紀私記に牡鹿を佐乎之加(さをしか)と云ふ〉と曰ひ、牝鹿を麀〈音は憂、米賀(めか)〉と曰ひ、其の子を麑〈音は迷、字は亦、麛に作る、加呉(かこ)〉と曰ふといふ。

麞 唐韵云麏〈居筠反字亦作麕〉鹿属也本草音義云麞〈音章〉一名麕〈久之加〉

麞 唐韻に云はく、麏〈居筠反、字は亦、麕に作る〉は鹿の属なりといふ。本草音義に云はく、麞〈音は章〉は一名に麕といふ。〈久之加(くじか)〉

麢羊 尒雅注云麢羊〈力丁反字亦作𦏪和名加万之師〉大於羊而大角

麢羊 爾雅注に云はく、麢羊〈力丁反、字は亦、𦏪に作る、和名は加万之師(かましし)〉は羊より大きく、大き角あるといふ。

玃 抱朴子云猨壽五百歳則變為玃〈音攫漢語抄云夜末古〉

玃 抱朴子に云はく、猨は寿、五百歳にして則ち変りて玃〈音は攫、漢語抄に夜末古(やまこ)と云ふ〉と為るといふ。

猱㹶 文選注云猱㹶〈上乃交反下音𨓍漢語抄云麻多〉猨属也

猱㹶 文選注に云はく、猱㹶〈上は乃交反、下の音は庭、漢語抄に麻多(また)と云ふ〉は猨の属なりといふ。

猨 風土記云猨〈音園字亦作猿佐流〉善屓子乘危而投至倒而還者也𠔥名苑云一名猕猴〈弥侯二音〉文選云猿狖〈音犮〉唐韵云猴猻〈音孫漢語抄云猢猻猴猻〉

猨 風土記に云はく、猨〈音は園、字は亦、猿に作る、佐流(さる)〉は善く子を負ひ、危きに乗りて投ぐるに至り倒れては還る者なりといふ。兼名苑に一名は獼猴〈弥侯の二音〉と云ふ。文選に猿狖〈音は友〉と云ふ。唐韻に猴猻〈音は孫、漢語抄に猢猻は猴猻と云ふ〉と云ふ。

狐 考声切韵云狐〈音胡歧豆祢〉獣名射干也関中呼為野干語訛也孫愐曰狐䏻為妖怪至百歳化為女者也

狐 考声切韻に云はく、狐〈音は胡、岐豆禰(きつね)〉は獣の名、射干なり、関中に呼びて野干と為るは語の訛れるなりといふ。孫愐に曰はく、狐は能く妖怪と為り、百歳に至りて化けて女と為る者なりといふ。

狢 說文云狢〈音鸖漢語抄云无之𥘾〉似狐而善睡者也

狢 説文に云はく、狢〈音は鶴、漢語抄に無之奈(むじな)と云ふ〉は狐に似て善く睡る者なりといふ。

野猪 本草云野猪〈久佐為𥘾歧〉

野猪 本草に野猪〈久佐為奈岐(くさゐなぎ)〉と云ふ。

狸 𠔥名苑注云狸〈音𨤲多奴歧〉摶鳥為粮者也

狸 兼名苑注に云はく、狸〈音は𨤲、多奴岐(たぬき)〉は鳥を摶(あつ)めて粮と為る者なりといふ。

猯 唐韵云猯〈音端又音旦𫟈〉似豕而肥者也本草云一名獾㹠〈歓屯二音〉

猯 唐韻に云はく、猯〈音は端、又の音は旦、美(み)〉は豕に似て肥ゆる者なりといふ。本草に一名は獾㹠〈歓屯の二音〉と云ふ。

兎 四声字苑云兎〈音度宇佐歧〉似小犬而長耳缺脣者也

兎 四声字苑に云はく、兎〈音は度、宇佐岐(うさぎ)〉は小犬に似て長き耳、脣を欠く者なりといふ。

貂 同苑云貂〈音凋天〉似䑕黄色〈皮堪作裘〉

貂 同苑に云はく、貂〈音は凋、天(て)〉は鼠に似て黄色なりといふ。〈皮は裘を作るに堪ふ〉

黒貂 唐韵云貂有黄黒貂出東北夷〈黒貂布流歧〉

黒貂 唐韻に云はく、貂に黄、黒貂有り、東北夷に出づといふ。〈黒貂は布流岐(ふるき)〉

䑕 四声字苑云䑕〈昌与反祢湏𫟈〉穴居小獣種類多者也

鼠 四声字苑に云はく、鼠〈昌与反、禰須美(ねずみ)〉は穴に居る小さき獣、種類の多き者なりといふ。

火䑕 神異記云火䑕〈比祢湏𫟈〉取其毛織為布若汙以火焼之更令清潔矣

火鼠 神異記に云はく、火鼠〈比禰須美(ひねずみ)〉は其の毛を取りて織りて布を為る、若し汚るれば火を以て之れを焼き、更び清潔なら令むといふ。

鼷䑕 說文云鼷䑕〈音奚阿末久知祢湏𫟈〉小䑕也食人及鳥獣雖至盡不痛今謂之甘口䑕

鼷鼠 説文に云はく、鼷鼠〈音は奚、阿末久知禰須美(あまくちねずみ)〉は小鼠なり、人及び鳥獣を食ひ、尽きるに至ると雖も痛まずといふ。今、之れを甘口鼠と謂ふ。

鼱鼩 文選注云鼱鼩〈精劬二音漢語抄云䏻良祢〉小䑕也

鼱鼩 文選注に云はく、鼱鼩〈精劬の二音、漢語抄に能良禰(のらね)と云ふ〉は小鼠なりといふ。

𪕭𪖂 玉篇云𪕭𪖂〈藹離二音豆良祢古〉小䑕相銜而行也

𪕭𪖂 玉篇に云はく、𪕭𪖂〈藹離の二音、豆良禰古(つらねこ)〉は小鼠の相銜みて行くなりといふ。

鼯䑕 本草云鼺䑕〈上音力水反又音力追反〉一名鼯鼠〈上音吾毛𫟈俗云无佐々比〉𠔥名苑注云狀如猨而肉翼似蝙蝠䏻従髙而下不䏻下而上常食火煙声如小兒者也

鼯鼠 本草に云はく、鼺鼠〈上の音は力水反、又の音は力追反〉は一名に鼯鼠〈上の音は吾、毛美(もみ)、俗に無佐々比(むささび)と云ふ〉といふ。兼名苑注に云はく、状は猨の如くして肉の翼、蝙蝠に似て能く高きより下り、下にありて上ること能はず、常に火煙を食ひ声は小児(わくご)の如き者なりといふ。

鼬䑕 尒雅集注云鼬䑕〈上音酉〉狀如䑕赤黄而大尾䏻食䑕今江東呼為鼪〈音性以太知漢語抄云䑕狼〉

鼬鼠 爾雅集注に云はく、鼬鼠〈上の音は酉〉の状は鼠の如くして赤黄にして大きなる尾、能く鼠を食ふといふ。今、江東に呼びて鼪〈音は性、以太知(いたち)、漢語抄に鼠狼と云ふ〉と為といふ。

鼴䑕 本草云鼴䑕〈上音偃〉一名鼢䑕〈上扶粉反上声之重字亦作𪖅宇古路毛知〉通俗文云糞䑕一名𤣘〈音冥〉兼名苑注云恒在圡中行若見三光即死

鼴鼠 本草に云はく、鼴鼠〈上の音は偃〉は一名に鼢鼠〈上は扶粉反、上声の重、字は亦、𪖅に作る、宇古路毛知(うごろもち)〉といふ。通俗文に云はく、糞鼠は一名に𤣘〈音は冥〉といふ。兼名苑注に云はく、恒に土中に在りて行く、若し三光を見ば即ち死ぬといふ。

猪〈猪子附〉 尒雅集注云猪〈徴居反〉一名彘〈音弟井〉𠔥名苑云一名豕〈音子〉方言注云豚〈徒昆反字亦作㹠〉豕子也

猪〈猪子付〉 爾雅集注に云はく、猪〈徴居反〉は一名に彘〈音は弟、井(ゐ)〉といふ。兼名苑に一名は豕〈音は子〉と云ふ。方言注に云はく、豚〈徒昆反、字は亦、㹠に作る〉は豕子なりといふ。

羊〈羊子附〉 𠔥名苑云羝〈音低〉一名䍽〈音歴匕都之〉羊也羔〈音髙〉一名羜〈音宁〉羊子也

羊〈羊子付〉 兼名苑に云はく、羝〈音は低〉は一名に䍽〈音は歴、比都之(ひつじ)〉は羊なり、羔〈音は高〉、一名に羜〈音は宁〉は羊の子なりといふ。

犬〈犬子附〉 𠔥名苑云犬一名尨〈莫江反〉尒雅集注云㺃〈音苟恵沼又与犬同〉犬子也

犬〈犬子付〉 兼名苑に云はく、犬は一名に尨〈莫江反〉といふ。爾雅集注に云はく、㺃〈音は苟、恵沼(ゑぬ)、又、犬と同じ〉は犬の子なりといふ。

𤡠 唐韵云𤡠〈奴刀反无久介以沼〉深毛犬也

㺜 唐韻に云はく、㺜〈奴刀反、無久介以沼(むくげいぬ)〉は深き毛の犬なりといふ。

獣體百三

獣体百三

牙 山海経云象牙大者長一丈

牙 山海経に云はく、象牙の大なる者は長さ一丈といふ。

角〈觘附〉 野王案角〈古岳反豆䏻〉獣頭上出骨也有枝曰觡〈居額反〉无枝曰角唐韵云觘〈初教反去声之軽沼多波太又用皽字音旨善反上声〉角上浪也

角〈觘付〉 野王案に、角〈古岳反、豆能(つの)〉は獣の頭上に出づる骨なり、枝有るを觡〈居額反〉と曰ひ、枝無きを角と曰ふといふ。唐韻に云はく、觘〈初教反、去声の軽、沼多波太(ぬたはだ)、又、皽の字を用ゐる、音は旨善反、上声〉は角の上の浪なりといふ。

䚡 說文云䚡〈先來反本草云牛角䚡古豆乃〉角中骨也

䚡 説文に云はく、䚡〈先来反、本草に牛角䚡は古豆乃(こづの)と云ふ〉は角の中の骨なりといふ。

奴角 本草云奴角一名食角〈犀乃波𥘾都䏻〉犀鼻上角之名也

奴角 本草に云はく、奴角は一名に食角〈犀乃波奈都能(さいのはなづの)〉、犀の鼻の上の角の名なりといふ。

鹿茸 雜要决云鹿茸〈賀乃豆乃〉鹿角初生也

鹿茸 雑要决に云はく、鹿茸〈賀乃豆乃(かのつの)〉は鹿の角の初めて生えしなりといふ。

熊白 本草云熊脂一名熊白〈久万乃阿布良〉熊背上膏

熊白 本草に云はく、熊脂は一名に熊白〈久万乃阿布良(くまのあぶら)〉、熊の背の上の膏なりといふ。

蹯 唐韻云蹯〈音繁〉熊掌也

蹯 唐韻に云はく、蹯〈音は繁〉は熊の掌なりといふ。

猨嗛 尒雅注云猨嗛〈菅簟反佐流保々〉猿頰内蔵食處也

猨嗛 爾雅注に云はく、猨嗛〈菅簟反、佐流保々(さるぼほ)〉は猿の頬の内に食を蔵むる処なりといふ。

豚𡖉 本草云豚𡖉一名豚㒹〈為乃布久利〉

豚卵 本草に云はく、豚卵は一名に豚顛といふ。〈為乃布久利(ゐのふぐり)〉

氄毛 尚書云中冬鳥獣氄毛〈上音如勇反布由介〉孔安国曰鳥獣皆生細毛自温也

氄毛 尚書に云はく、中冬に鳥獣は氄毛〈上の音は如勇反、布由介(ふゆげ)〉おふといふ。孔安国に曰はく、鳥獣は皆、細き毛を生ひ自ら温るなりといふ。

蹄 毛詩注云蹢〈音滴〉蹄也蒼頡篇云蹄〈音啼比都米又筌蹄之蹄見畋獦具〉畜足下也

蹄 毛詩注に云はく、蹢〈音は滴〉は蹄なりといふ。蒼頡篇に云はく、蹄〈音は啼、比都米(ひづめ)、又、筌蹄の蹄は畋猟具に見ゆ〉は畜の足の下なりといふ。

齝 尒雅集注云獣呑蒭噬反出而嚼牛曰齝〈音台唐韵有笞詩二音字亦作𪗪〉羊曰齛〈音泄〉麋𪊍曰齸〈音益已上三字迩介加无今案俗人謂麋𪊍屎為味氣是〉

齝 爾雅集注に云はく、獣は蒭を呑み反り出るを噬みて嚼(かみくだ)くを牛に齝〈音は台、唐韻に笞詩の二音有り、字は亦、𪗪に作る〉と曰ひ、羊に齛〈音は泄〉と曰ひ、麋𪊍に齸〈音は益、已上の三字は邇介加無(にげかむ)、今案ふるに俗人の麋𪊍の屎を謂ひて味気と為るは是〉と曰ふといふ。

犬吣 唐韵云吣〈七鴆反以奴乃太米比〉犬吐也

犬吣 唐韻に云はく、吣〈七鴆反、以奴乃太米比(いぬのためひ)〉は犬の吐くなりといふ。

嘷 玉篇云嘷〈胡刀反与豪同〉虎狼声也唐韵云吼〈呼后反字亦作吽呴〉牛鳴也吠〈符廢反已上三字訓並保由〉犬之鳴声也

嘷 玉篇に云はく、嘷〈胡刀反、豪と同じ〉は虎、狼の声なりといふ。唐韻に云はく、吼〈呼后反、字は亦、吽、呴に作る〉は牛の鳴くなり、吠〈符廃反、已上の三字の訓は並びに保由(ほゆ)〉は犬の鳴声なりといふ。

觝 說文云觝〈丁礼反漢語抄云豆歧之良比〉以角觸物也

觝 説文に云はく、觝〈丁礼反、漢語抄に豆岐之良比(つきしらひ)と云ふ〉は角を以て物に触るるなりといふ。

齀 說文云齀〈五忽反宇世流〉以鼻動物也

鼿 説文に云はく、鼿〈五忽反、宇世流(うせる)〉は鼻を以て物を動かすなりといふ。

遊牝 礼記云遊牝于野〈遊牝此间云由比日本紀私記云豆流比〉唐厩牧令云諸牧馬毎年三月遊牝

遊牝 礼記に云はく、野に遊牝〈遊牝は此の間に由比(ゆひ)と云ふ。日本紀私記に豆流比(つるび)と云ふ〉すといふ。唐厩牧令に云はく、諸の牧の馬、年毎に三月に遊牝せよといふ。

生益 春秋說題辞云馬十二月而生淮南子云犬三月而生豕四月而生猨五月而生鹿六月而生虎七月而生

生益 春秋説題辞に云はく、馬は十二月にして生るといふ。淮南子に云はく、犬は三月にして生れ、豕は四月にして生れ、猨は五月にして生れ、鹿は六月にして生れ、虎は七月にして生るといふ。

牛馬部第十七

牛馬部第十七  

牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬體百六 牛馬病百七

 牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬体百六 牛馬病百七

牛馬類百四

牛馬類百四

牛〈犢附〉 四声字苑云牛〈語丘反宇之〉土畜也尒雅注云犢〈音讀古宇之〉牛子也

牛〈犢付〉 四声字苑に云はく、牛〈語丘反、宇之(うし)〉は土畜なりといふ。爾雅注に云はく、犢〈音は読、古宇之(こうし)〉は牛の子なりといふ。

特牛〈犅〉 弁色立成云特牛〈俗語云古止比〉頭大牛也

特牛〈犅〉 弁色立成に云はく、特牛〈俗語に古止比(ことひ)と云ふ〉は頭の大きな牛なりといふ。

乳牛 唐厩牧令云乳牛犢十頭給丁一人牧飼〈乳牛者牝牛有子之名也知宇之〉

乳牛 唐厩牧令に云はく、乳牛に犢十頭、丁一人を給ひ牧に飼へ。〈乳牛は牝の牛の子有るの名なり。知宇之(ちうし)〉

水牛 文選上林賦注云沈牛〈今案又一名潛牛也見南越志〉即水牛也能沈沒於水中者也唐韵云牨〈水牛也音同〉

水牛 文選上林賦注に云はく、沈牛〈今案ふるに、又、一名に潜牛なり、南越志に見ゆ〉は即ち水牛なり、能く水の中に沈没(しず)む者なりといふ。唐韻に牨〈水牛なり、音は同じ〉と云ふ。

馬〈駒字附〉 四声字苑云馬〈麻之上声无万〉南方火畜也尒雅注云牝馬一名騲馬〈上音草米万〉牡馬一名䭸馬〈上音父乎末〉王仁煦曰駒〈音倶古万〉馬子也

馬〈駒字付〉 四声字苑に云はく、馬〈麻の上声、無万(むま)〉は南の方の火畜なりといふ。爾雅注に云はく、牝馬は一名に騲馬〈上の音は草、米万(めま)〉、牡馬は一名に䭸馬〈上の音は父、乎末(をま)〉といふ。王仁煦に曰はく、駒〈音は倶、古万(こま)〉は馬の子なりといふ。

駿馬 𥠇天子傳云駿馬〈上音俊漢語抄云止歧宇万日本紀私記云湏久礼多流宇末〉馬之美稱也

駿馬 穆天子伝に云はく、駿馬〈上の音は俊、漢語抄に止岐宇万(ときうま)と云ふ。日本紀私記に須久礼多流宇末(すぐれたるうま)と云ふ〉は馬の美(よみす)る称(みな)なりといふ。

駑馬〈駄附〉 唐韵云駘〈音䑓〉駑馬也野王案曰駑〈音奴漢語抄云於曽歧馬〉馬之㝡下也郭知玄曰駄〈唐佐反〉屓物者也

駑馬〈駄付〉 唐韻に云はく、駘〈音は台〉は駑馬なりといふ。野王案に曰はく、駑〈音は奴、漢語抄に於曽岐馬(おそきむま)と云ふ〉は馬の最も下なりといふ。郭知玄に曰はく、駄〈唐佐反〉は物を負ふ者なりといふ。

駻馬 孫愐曰駻〈音旱今案此間云波祢无末〉突𢙣馬也

駻馬 孫愐に曰はく、駻〈音は旱、今案ふるに此の間に波禰無末(はねむま)と云ふ〉は突(にはか)に悪しかる馬なりといふ。

驢騾 說文云驢〈力居反与閭同宇佐歧无末〉似馬長耳騾〈音螺〉驢父馬毋㪽生也

驢騾 説文に云はく、驢〈力居反、閭と同じ、宇佐岐無末(うさぎむま)〉は馬に似て長き耳なり、騾〈音は螺〉は驢の父、馬の母の生む所なりといふ。

駱駞 本草云駱駞〈洛陁二音良久太乃宇末〉周書云𩧐駝〈駝即駞字也𩧐音卓字亦作駞即駱駞也〉有肉鞍能屓重致遠者也

駱駞 本草に駱駞〈洛陁の二音、良久太乃宇末(らくだのうま)〉と云ふ。周書に云はく、𩧐駝〈駝は即ち駞の字なり、𩧐の音は卓、字は亦、駞に作る、即ち駱駞なり〉は肉の鞍有りて能く重きを負ひて遠くへ致す者なりといふ。

牛馬毛百五

牛馬毛百五

黄牛 冝都記云黄牛灘有人牽黄牛〈弁色立成云阿米宇之〉

黄牛 宜都記に云はく、黄牛灘に人有り、黄牛〈弁色立成に阿米宇之(あめうじ)と云ふ〉を牽くといふ。

烏牛 弁色立成云烏牛〈漢語抄云麻伊〉黒牛也

烏牛 弁色立成に云はく、烏牛〈漢語抄は麻伊(まい)と云ふ〉は黒牛なりといふ。

𤘾牛 唐韵云𤘾〈普耕反今案此間云保之末多良〉牛色駮如星也

𤘾牛 唐韻に云はく、𤘾〈普耕反、今案ふるに此の間に保之末多良(ほしまだら)と云ふ〉は牛の色の駮(ぶち)なること星の如きなりといふ。

𩣭馬 說文云𩣭〈音聡漢語抄云𩣭青馬也黄𩣭馬葦花毛馬也日本紀私記云𩣭馬𫟈多良乎乃宇末〉青白雜毛馬也

驄馬 説文に云はく、驄〈音は聡、漢語抄に驄は青馬なり、黄驄馬は葦花毛の馬なりと云ふ。日本紀私記に驄馬は美多良乎乃宇末(みだらをのうま)と云ふ〉は青白雑る毛の馬なりといふ。

桃花馬 弁色立成云桃花馬〈葦花毛馬紅色者也〉

桃花馬 弁色立成に桃花馬〈葦花毛の馬の紅色の者なり〉と云ふ。

青驪馬 唐韵云𩢺〈火玄反漢語抄云䥫𩣭馬久呂𫟈止利乃无万〉青驪馬今之䥫𩣭馬也

青驪馬 唐韻に云はく、駽〈火玄反、漢語抄に鉄驄馬は久呂美止利乃無万(くろみどりのむま)と云ふ〉は青驪馬、今の鉄驄馬なりといふ。

連䥫𩣭 尒雅注云色有深浅斑駮謂之連䥫𩣭〈漢語抄云連䥫𩣭𧆞毛馬也一云駼馬駼音余又云薄漢馬今案俗云連銭葦毛是〉

連鉄驄 爾雅注に云はく、色に深き浅き斑駮有るは之れを連鉄驄と謂ふといふ。〈漢語抄に連鉄驄は虎毛馬なりと云ふ。一に駼馬の駼の音は余と云ひ、又、薄漢馬と云ふ。今案ふるに俗に連銭葦毛と云ふは是〉

驃馬〈赤驃附〉 說文云驃〈毗召反漢語抄云驃馬白麾馬也赤驃馬赤麻毛也黄馬同上〉黄白馬也

驃馬〈赤驃付〉 説文に云はく、驃〈毘召反、漢語抄に驃馬は白麾の馬なり、赤驃馬は赤き麻毛なり、黄馬も上に同じと云ふ〉は黄白き馬なりといふ。

騧馬 尒雅注云騧〈音花漢語抄云騧馬麾馬也〉浅黄色馬也

騧馬 爾雅注に云はく、騧〈音は花、漢語抄に騧馬は麾馬なりと云ふ〉は浅黄色の馬なりといふ。

騮馬〈紫馬附〉 毛詩注云騮〈音留漢語抄云騮馬麾也烏騮黒麾也黄騮赤栗毛也紫騮黒栗毛也〉赤身黒𩮊馬也

騮馬〈紫馬付〉 毛詩注に云はく、騮〈音は留、漢語抄に騮馬は麾なり、烏騮は黒麾なり、黄騮は赤栗毛なり、紫騮は黒栗毛なりと云ふ〉は赤身に黒き鬣の馬なりといふ。

騟馬 唐韵云騟〈羊朱反弁色立成云紫馬栗毛馬也〉紫馬也

騟馬 唐韻に云はく、騟〈羊朱反、弁色立成に紫馬は栗毛馬なりと云ふ〉は紫馬なりといふ。

驪馬 毛詩注云驪〈音離漢語抄云驪馬黒毛馬也〉純黒馬也

驪馬 毛詩注に云はく、驪〈音は離、漢語抄に驪馬は黒毛馬なりと云ふ〉は純て黒き馬なりといふ。

騅 同注云騅〈音錐漢語抄云騅馬䑕毛馬也〉蒼白雜毛馬也尒雅注云菼騅〈今案菼者蘆初生也吐敢反俗云葦毛是〉青白如菼色也

騅 同注に云はく、騅〈音は錐、漢語抄に騅馬は鼠毛馬なりと云ふ〉は蒼白く毛の雑る馬なりといふ。爾雅注に云はく、菼騅〈今案ふるに菼は蘆の初めに生ゆるなり、吐敢反、俗に葦毛と云ふは是〉は青白く菼の色の如きなりといふ。

赭白馬 毛詩注云騢〈音遐漢語抄云赭白馬鵇毛也赭黄馬赤鵇毛也今案鵇字未詳〉彤白雜毛馬也尒雅注云騢今之赭白馬也

赭白馬 毛詩注に云はく、騢〈音は遐、漢語抄に赭白馬は鵇毛なり、赭黄馬は赤鵇毛なりと云ふ。今案ふるに鵇の字は未だ詳かならず〉は彤白して毛の雑る馬なりといふ。爾雅注に云はく、騢は今の赭白馬なりといふ。

駱馬 毛詩注云駱〈音落漢語抄云駱馬川原毛沙駱馬黒川原毛馬也〉白馬黒髦之馬也

駱馬 毛詩注に云はく、駱〈音は落、漢語抄に駱馬は川原毛、沙駱馬は黒川原毛の馬なりと云ふ〉は白馬にして黒き髦の馬なりといふ。

騂馬〈赤驊附〉 唐韵云騂〈音征漢語抄云驊赤毛也赤驊山鳥赤毛馬也驊音蕐〉馬赤也

騂馬〈赤驊付〉 唐韻に云はく、騂〈音は征、漢語抄に驊は赤毛なり、赤驊山鳥は赤毛馬なりと云ふ、驊の音は華〉は馬の赤きなりといふ。

戴星馬 尒雅注云白㒹一名的䫙俗呼為戴星馬〈和名宇比多非能无末〉

戴星馬 爾雅注に云はく、白顛は一名に的顙、俗に呼びて戴星馬〈和名は宇比多非能無末(うびたひのうま)〉と為といふ。

落星馬 楊氏漢語抄云落星馬〈保之都歧乃宇末〉

落星馬 楊氏漢語抄に落星馬〈保之都岐乃宇末(ほしづきのうま)〉と云ふ。

駺馬 唐韵云駺〈音狼漢語抄云乎之路乃无麻〉馬尾白也

駺馬 唐韻に云はく、駺〈音は狼、漢語抄に乎之路乃無麻(をじろのむま)〉は馬の尾の白きなりといふ。

駮馬 說文云駮〈補卓反駮馬俗人云布知无万〉不純色馬也

駮馬 説文に云はく、駮〈補卓反、駮馬は俗人に布知無万(ぶちむま)と云ふ〉は純からざる色の馬なりといふ。

驓馬 尒雅注云四骹皆白曰驓〈音曽俗云阿之布知〉骹謂膝以下也四蹢皆白曰騚〈音前〉蹢蹄也俗呼為踏雪馬

驓馬 爾雅注に云はく、四骹の皆白きを驓〈音は曽、俗に阿之布知(あしぶち)と云ふ〉と曰ひ、骹は膝以下を謂ふなり、四蹢の皆白きを騚〈音は前〉と曰ひ、蹢は蹄なりといふ。俗に呼びて踏雪馬と為。

牛馬體百六

牛馬体百六

牛角 本草云牛角䚡〈先來反古都能角䓁已見上文〉

牛角 本草に牛角䚡〈先来反、古都能(こづの)。角等は已に上文に見ゆ〉と云ふ。

耳筒 李緒相馬経云耳筒又云耳管

耳筒 李緒相馬経に耳筒と云ひ、又、耳管と云ふ。

𩮊 唐韵云鬐〈音耆今案鬐𩮊俗云宇𥘾加𫟈又𩵋之鬐𩮊見𩵋體知之〉馬項上長毛也文選云軍馬弭髦而仰秣〈髦音毛訓師說髦多知賀𫟈𩮊之稱也〉

鬣 唐韻に云はく、鬐〈音は耆、今案ふるに、鬐、鬣は俗に宇奈加美(うなかみ)と云ふ。又、魚の鬐、鬣は魚体に見え之れを知る〉は馬の項の上の長き毛なりといふ。文選に云はく、軍馬は髦を弭(なびか)せて仰ぎ秣(まぐさく)ふといふ〈髦の音は毛、訓は師説に髦は多知賀美(たちがみ)、鬣の称なり〉。

鼻梁 弁色立成云鼻梁〈俗云波𥘾𫟈祢〉

鼻梁 弁色立成に鼻梁〈俗に波奈美禰(はなみね)と云ふ〉と云ふ。

食槽 李緒相馬経云食槽欲寛〈食槽馬乃歧保祢〉

食槽 李緒相馬経に云はく、食槽を寛くせむと欲(す)といふ。〈食槽は馬乃岐保禰(むまのきぼね)〉

逥毛 尒雅注云逥毛一云旋毛〈都无之〉

廻毛 爾雅注に云はく、廻毛は一に旋毛〈都無之(つむじ)〉と云ふといふ。

排鞍肉 李緒相馬経云排鞍肉欲成々猶平也〈俗云久良於歧止古路〉

排鞍肉 李緒相馬経に云はく、鞍肉を排(はら)ひて成(たひらかにせ)むと欲、成は猶、平らなるがごとしといふ。〈俗に久良於岐止古路(くらおきどころ)〉

脊梁 弁色立成云脊梁〈都賀俗云世𫟈祢〉

脊梁 弁色立成に脊梁〈都賀(つか)、俗に世美禰(せみね)と云ふ〉と云ふ。

𣴎鐙肉 李緒相馬経云𣴎鐙肉欲垂〈俗云阿布弥湏利〉

承鐙肉 李緒相馬経に云はく、承鐙肉を垂れむと欲といふ。〈俗に阿布彌須利(あぶみすり)と云ふ〉

三封 同経云三封欲齊如一

三封 同経に云はく、三封は斉しく一に如かむと欲といふ。

汗溝 同経云汗溝欲深〈俗人云阿㔟𫟈蘓〉

汗溝 同経に云はく、汗溝を深くせむと欲といふ。〈俗人は阿勢美蘇(あせみぞ)と云ふ〉

歴草 弁色立成云歴草〈曽保歧俗云曽布歧〉

歴草 弁色立成に歴草〈曽保岐(そほき)、俗に曽布岐(そふき)と云ふ〉と云ふ。

尾株 李緒相馬経云尾株欲麁々猶大也弁色立成云尾柱一云尾根〈俗人云乎保祢〉

尾株 李緒相馬経に云はく、尾株は麁(おほひな)らむと欲、麁は猶、大のごときなりといふ。弁色立成に云はく、尾柱は一に尾根と云ふといふ。〈俗人は乎保禰(をぼね)と云ふ〉

烏頭 同経云烏頭欲舉〈弁色立成云曲肘俗云久波由歧〉

烏頭 同経に云はく、烏頭を挙げむと欲といふ。〈弁色立成に曲肘と云ひ、俗に久波由岐(くはゆき)と云ふ〉

夜眼 弁色立成云夜眼〈与米漢語抄說同〉

夜眼 弁色立成に夜眼〈与米(よめ)、漢語抄に説同じ〉と云ふ。

蹄〈護杵附〉 玉篇云蹄〈徒奚反訓比都米弁色立成云護杵和名同上〉牛馬蹄也

蹄〈護杵付〉 玉篇に云はく、蹄〈徒奚反、訓は比都米(ひづめ)。弁色立成に護杵と云ひ、和名は上に同じ〉は牛馬の蹄なりといふ。

陰脉 伯樂相馬経云陰脉〈俗云麻良佐夜〉

陰脈 伯楽相馬経に陰脈〈俗に麻良佐夜(まらざや)と云ふ〉と云ふ。

糞門 同経云糞門〈今案謂馬𡱰也𡱰音禿見形體部〉李緒相馬経曰糞欲八方

糞門 同経に糞門〈今案ふるに馬の㞘(しり)を謂ふなり、㞘の音は禿、形体部に見ゆ〉と云ふ。李緒相馬経に曰はく、糞は八方(やもにま)らさむと欲といふ。

嘶〈䮸附〉 玉篇云嘶〈音西訓以波由俗云以𥘾々久〉馬鳴也唐韵云䮸〈音渥俗云布久利豆歧〉馬腹下声也

嘶〈䮸付〉 玉篇に云はく、嘶〈音は西、訓は以波由(いばゆ)、俗に以奈々久(いななく)と云ふ〉は馬の鳴くなりといふ。唐韻に云はく、䮸〈音は渥、俗に布久利豆岐(ふぐりづき)と云ふ〉は馬の腹の下、声するなりといふ。

牛馬病百七

牛馬病百七

螉䗥 說文云螉䗥〈翁從二音久比〉在牛馬皮中䖝也

螉䗥 説文に云はく、螉䗥〈翁従の二音、久比(くひ)〉は牛や馬の皮の中に在る虫なりといふ。

蹄漏 四声字苑云㾜〈古叶反与頰同俗云豆万以利〉牛蹄漏病也

蹄漏 四声字苑に云はく、㾜〈古叶反、頬と同じ、俗に豆万以利(つまいり)と云ふ〉は牛の蹄の漏る病なりといふ。

脊瘡 陶隠居云塩有九種柔塩療馬脊瘡〈俗云多胡〉

脊瘡 陶隠居に云はく、塩に九種有り、柔塩は馬の脊の瘡〈俗に多胡(たこ)と云ふ〉を療すといふ。

腹瘇 伯樂相馬経曰馬腹瘇〈今案瘇即腫字也俗人云多知波礼〉無病𥄂立腹下腫是也遣人騎行則汗出即差

腹瘇 伯楽相馬経に曰はく、馬腹瘇〈今案ふるに瘇は即ち腫の字なり、俗人は多知波礼(たちはれ)と云ふ〉は病無く、直立して腹の下の腫るるは是なり、人をして騎り行か遣(し)むれば則ち汗出でて即ち差(い)ゆといふ。

脚病 伯樂相馬経曰脚病〈俗云知阿𥘾歧〉馬有此病則咳𠲿衣毛焦折前足重不能行

脚病 伯楽相馬経に曰はく、脚病〈俗に知阿奈岐(ちあなぎ)と云ふ〉、馬に此の病有るときは則ち咳嗽し、毛の焦げるを衣するときは前足を折り重ねて行くこと能はずといふ。

腹轉病 同経曰腹轉病〈俗云波良夜无〉馬有此病則廽顧聞腹又有腹結病馬有此病則卧起腹痮出汗

腹転病 同経に曰はく、腹転病〈俗に波良夜無(はらやむ)と云ふ〉は馬に此の病有るときは則ち廻顧し腹に聞(おときこ)ゆ、又、腹結病有り、馬に此の病有るときは則ち臥しては起き、腹痮(ふく)れ汗を出づといふ。

騺 唐韵云騺〈陟利反与致同俗人云騺多利〉馬脚屈重也

騺 唐韻に云はく、騺〈陟利反、致と同じ、俗人に騺を多利(たり)と云ふ〉は馬の脚、屈り重ぬるなりといふ。

斃 四声字苑云斃〈毗祭反訓多布流〉死也

斃 四声字苑に云はく、斃〈毘祭反、訓は多布流(たふる)〉は死ぬなりといふ。

和名類聚抄巻第七

和名類聚抄巻第七

和名類聚抄巻第八

和名類聚抄巻第八  

龍𩵋部第十八 龜貝部第十九 䖝豸部第二十

 竜魚部第十八 亀貝部第十九 虫豸部第二十

龍魚部第十八

竜魚部第十八  

龍魚類百八 龍魚體百九

 竜魚類百八 竜魚体百九

龍𩵋類百八

竜魚類百八

龍 文字集略云龍〈力鍾反太都〉四足五采甚有神靈也白虎通云鱗䖝三百六十六而龍為之長也

竜 文字集略に云はく、龍〈力鍾反、太都(たつ)〉は四の足、五の采にして甚だ神しき霊有るなりといふ。白虎通に云はく、鱗虫は三百六十六にして、竜は之の長なりと為といふ。

虯龍 文字集略云虯〈音球〉龍之无角青色也同略云螭〈音知〉龍之无角赤白蒼色也

虬龍 文字集略に云はく、虬〈音は球〉は竜の角無く、青色なりといふ。同略に云はく、螭〈音は知〉は竜の角無く、赤、白、蒼に色かはるなりといふ。

蛟 說文云蛟〈音交𫟈都知日本紀私記用大虯二字也〉龍之属也山海経云蛟似虵而四脚池𩵋滿二千六百則蛟來為之長

蛟 説文に云はく、蛟〈音は交、美都知(みづち)。日本紀私記に大虬の二字を用ゐるなり〉は竜の属なりといふ。山海経に云はく、蛟は蛇に似て四つ脚、池の魚、二千六百に満ちたるときは則ち蛟来りて之の長と為るといふ。

魚 文字集略云魚〈語居反宇乎俗云伊乎〉水中連行蟲之惣名也

魚 文字集略に云はく、魚〈語居反、宇乎(うを)、俗に伊乎(いを)と云ふ〉は水の中を連なり行く虫の惣名なりといふ。

鯨鯢 唐韵云大魚雄曰鯨〈渠亰反〉雌曰鯢〈音蜺久知良〉淮南子曰鯨鯢𩵋之王也

鯨鯢 唐韻に云はく、大魚の雄を鯨〈渠京反〉と曰ひ、雌を鯢〈音は蜺、久知良(くぢら)〉と曰ふといふ。淮南子に曰はく、鯨、鯢は魚の王なりといふ。

䱐𩶉 臨海異物志云䱐𩶉〈浮布二音伊流賀〉大𩵋色黒一浮一沒也𠔥名苑云䱐𩶉一名鯆𩺷〈甫畢二音〉一名〓〔魚偏に敷〕〓〔魚偏に常〕〈敷常二音〉野王案一名江豚

䱐𩶉 臨海異物志に云はく、䱐𩶉〈浮布の二音、伊流賀(いるか)〉は大魚の色の黒く一に浮き一に没(しづ)むなりといふ。兼名苑に云はく、䱐𩶉は一名に鯆𩺷〈甫畢の二音〉、一名に〓〔魚偏に敷〕〓〔魚偏に常〕〈敷常の二音〉といふ。野王案に、一名に江豚とす。

鰐 麻果切韵云鰐〈音萼和迩〉似鱉有四足喙長三尺甚利齒虎及大鹿渡水鰐撃之皆中斷

鰐 麻果切韻に云はく、鰐〈音は萼、和邇(わに)〉は鱉に似て四つ足有り、喙の長さ三尺、甚だ利き歯もち、虎及び大鹿の水を渡るとき鰐、之れを撃ち、皆、中ばに断むといふ。

鯗魚 弁色立成云鯗魚〈居媛反布加今案未詳〉

鯗魚 弁色立成に鯗魚と云ふ。〈居媛反、布加(ふか)、今案ふるに未だ詳(つばひら)かならず〉

人𩵋 𠔥名苑云人𩵋一名鯪𩵋〈上音陵〉𩵋身人面者也山海經注云声如小兒啼故名之

人魚 兼名苑に云はく、人魚は一名に鯪魚〈上の音は陵〉、魚の身に人の面ある者なりといふ。山海経注に云はく、声は小児の啼くが如き故に之れを名づくといふ。

鮪 食療經云鮪〈音委〉一名黄頰𩵋〈之比〉尒雅注云大為王鮪小為叔鮪

鮪 食療経に云はく、鮪〈音は委〉は一名に黄頬魚といふ〈之比(しび)〉。爾雅注に云はく、大(とほしろ)きを王鮪と為、小さきを叔鮪と為といふ。

鰹𩵋 唐韵云鰹𩵋〈上音堅漢語抄云加豆乎式文用堅𩵋二字也〉大鮦也大曰鮦〈音同〉小曰鮵〈音奪野王案鮦音同蠡𩵋也蠡𩵋見下文今案可為堅𩵋之義未詳〉

鰹魚 唐韻に云はく、鰹魚〈上の音は堅、漢語抄に加豆乎(かつを)と云ふ。式の文に堅魚の二字を用ゐるなり〉は大鮦なり、大きを鮦〈音は同〉と曰ひ、小さきを鮵〈音は奪、野王案に、鮦の音は同、蠡魚なりとす。蠡魚は下の文に見ゆ。今案ふるに、堅魚と為べき義、未だ詳かならず〉と曰ふといふ。

䰴𩵋 玉篇云䰴〈居迄反漢語抄云古都乎式文用乞𩵋二字也〉𩵋名也

䰴魚 玉篇に云はく、䰴〈居迄反、漢語抄に古都乎(こつを)と云ふ。式の文に乞魚の二字を用ゐるなり〉は魚の名なりといふ。

鮫 陸詞切韵云鮫〈音交佐米〉𩵋皮有文可以飾刀劔者也𠔥名苑云一名𩶅〓〔弥冠に魚〕〈低迷二音〉本草云一名䱜𩵋〈上倉各反〉拾遺云一名鯊𩵋〈上音沙字亦作魦〉

鮫 陸詞切韻に云はく、鮫〈音は交、佐米(さめ)〉は魚の皮にして文有り、以て刀剣を飾るべき者なりといふ。兼名苑に、一名に𩶅〓〔弥冠に魚〕〈低迷の二音〉と云ふ。本草に、一名に䱜魚〈上は倉各反〉と云ふ。拾遺に、一名に鯊魚〈上の音は沙、字は亦、魦に作る〉と云ふ。

鰚𩵋 弁色立成云鰚𩵋〈音宣波良可今案㪽出未詳式文用腹赤二字〉

鰚魚 弁色立成に鰚魚〈音は宣、波良可(はらか)、今案ふるに出づる所、未だ詳かならず。式の文に腹赤の二字を用ゐる〉と云ふ。

鰩 陸詞切韵云鰩〈音遥度比乎〉魚之鳥翼能𠃧也

鰩 陸詞切韻に云はく、鰩〈音は遥、度比乎(とびを)〉は魚の鳥、翼ありて能く飛ぶなりといふ。

鯛 崔禹食經云鯛〈都條反多比〉味甘冷無毒㒵似鲫而紅鰭者也

鯛 崔禹食経に云はく、鯛〈都条反、多比(たひ)〉は味は甘、冷、毒無し、貌は鯽に似て紅の鰭の者なりといふ。

尨𩵋 同食經云尨𩵋〈久侶太比〉与鯛相似而灰色

尨魚 同食経に云はく、尨魚〈久侶太比(くろだひ)〉は鯛と相似て灰色なりといふ。

海鲫 弁色立成云海鲫魚〈知沼鯽見下文〉

海鯽 弁色立成に海鯽魚〈知沼鯽(ちぬだひ)、下の文に見ゆ〉と云ふ。

王餘魚 朱厓記云南海有王餘魚〈加良衣比俗云加礼比〉昔越王作鱠不盡餘半棄水自以半身為魚故名曰王餘魚也

王余魚 朱厓記に云はく、南海に王余魚〈加良衣比(からえひ)、俗に加礼比(かれひ)と云ふ〉有り、昔、越王、鱠を作り、尽くさざる余り半ばを水に棄つとき、自ら半身を以て魚と為る、故に名けて王余魚と曰ふなりといふ。

𩹶魚 唐韵云𩹶魚〈音唐漢語抄云𩹶子太古之〉魚名也

𩹶魚 唐韻に云はく、𩹶魚〈音は唐、漢語抄に𩹶子は太古之(たひご)と云ふ〉は魚の名なりといふ。

鯼 字指云鯼〈音聡伊之毛知〉其頭中有石故亦名石𩠐魚也

鯼 字指に云はく、鯼〈音は聡、伊之毛知(いしもち)〉は其の頭に中に石有り、故に亦、石首魚と名づくなりといふ。

梳齒魚 弁色立成云梳齒魚〈東人云阿波我良〉

梳歯魚 弁色立成に梳歯魚〈東の人は阿波我良(あはがら)と云ふ〉と云ふ。

針魚 七巻食經経云針魚〈波利乎与路豆〉口長四寸如針故以名之

針魚 七巻食経に云はく、針魚〈波利乎(はりを)、与路豆(よろづ)〉は口の長さ四寸にして針の如し、故に以て之れを名づくといふ。

鱏魚 文字集略云鱏〈音尋一音滛衣比〉似鱣而青長鼻骨者也

鱏魚 文字集略に云はく、鱏〈音は尋、一音に淫、衣比(えひ)〉は鱣に似て青く長き鼻の骨の者なりといふ。

鱣魚 同集略云鱣〈音天无奈歧〉𩽦〈同上見文〉黄魚銳頭口在頸下也本草云䱇魚〈上音善〉一名〓〔魚偏に𩠐〕魚〈上音秋〉一名鯆魮〈甫毗二音〉一名䱀䰲〈鴦軋二音〉尒雅注云鱓魚似虵〈今案鱓即䱇字也〉

鱣魚 同集略に云はく、鱣〈音は天、無奈岐(むなぎ)〉は𩽦〈上に同じ、文に見ゆ〉、黄の魚の鋭き頭にして口は頸の下に在るなりといふ。本草に云はく、䱇魚〈上の音は善〉は一名に〓〔魚偏に𩠐〕魚〈上の音は秋〉、一名に鯆魮〈甫毘の二音〉、一名に䱀䰲〈鴦軋の二音〉といふ。爾雅注に云はく、鱓魚は蛇に似るといふ。〈今案ふるに、鱓は即ち䱇の字なり〉

鰕 七巻食經云鰕〈音遐衣比俗用海老二字〉味甘平無毒者也

鰕 七巻食経に云はく、鰕〈音は遐、衣比(えび)、俗に海老の二字を用ゐる〉は味は甘、平、毒無き者なりといふ。

鰧魚 唐韵云鰧〈直稔反与朕同漢語抄云乎古之〉魚名似鰕而赤文

鰧魚 唐韻に云はく、鰧〈直稔反、朕と同じ、漢語抄に乎古之(をこじ)と云ふ〉は魚の名、鰕に似て赤き文ありといふ。

鯵〈鱢〉 崔禹食經云鯵〈蘓遭反与騒同阿知〉味甘温無毒㒵似鯼而尾白剌相次者也

鯵〈鱢〉 崔禹食経に云はく、鯵〈蘇遭反、騒と同じ、阿知(あぢ)〉は味は甘、温、毒無し、貌は鯼に似て尾に白き刺の相次ぐ者なりといふ。

鯖 同食經云鯖〈音青阿乎佐波〉味鹹無毒口尖背蒼

鯖 同食経に云はく、鯖〈音は青、阿乎佐波(あをさば)〉は味は鹹、毒無し、口は尖り背は蒼しといふ。

鱕魚 唐韵云鱕〈音番漢語抄云加㔟佐波〉魚有横骨在鼻前如斤斧者也御覧鱗介部云新婦魚〈弁色立成和名同上〉

鱕魚 唐韻に云はく、鱕〈音は番、漢語抄に加勢佐波(かせさば)と云ふ〉魚は横骨有りて鼻前に在り、斤斧(おの)の如き者なりといふ。御覧鱗介部に新婦魚〈弁色立成に和名は上に同じ〉と云ふ。

鯆魚 唐韵云鯆〈音甫弁色立成云奈波㔫波〉大魚名也

鯆魚 唐韻に云はく、鯆〈音は甫、弁色立成に奈波左波(なはさば)と云ふ〉は大き魚の名なりといふ。

鮬 同韵云鮬〈音枯漢語抄云世比今案說婢音謂妾婦〉婢妾魚也

鮬 同韻に云はく、鮬〈音は枯、漢語抄に世比(せひ)と云ふ。今案ふるに、婢の音を説きて妾婦と謂ふ〉は婢妾魚なりといふ。

鰯 楊氏漢語抄云鰯〈伊和之今案本文未詳〉

鰯 楊氏漢語抄に鰯〈伊和之(いわし)、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。

鯔 遊仙窟云東海鯔條〈鯔讀奈与之音緇條讀見飲食部〉

鯔 遊仙窟に、東海鯔条〈鯔は奈与之(なよし)と読む、音は緇、条を読むは飲食部に見ゆ〉と云ふ。

鰢 唐韵云鰢〈音馬弁色立成云都久良〉魚名也

鰢 唐韻に云はく、鰢〈音は馬、弁色立成に都久良(つくら)と云ふ〉は魚の名なりといふ。

鱧魚 本草云𩽵魚〈上音礼和名波无〉味甘寒無毒者也陶隠居注云𩽵今作鱧字也

鱧魚 本草に云はく、𩽵魚〈上の音は礼、和名は波無(はむ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。陶隠居注に云はく、𩽵は今、鱧の字に作るなりといふ。

鯯 四声字苑云鰶〈子例反字亦作鯯和名古乃之侶〉𩵋名似𩺀而薄細鱗也

鯯 四声字苑に云はく、鰶〈子例反、字は亦、鯯に作る。和名は古乃之侶(このしろ)〉は魚の名なり、𩺀に似て薄く細き鱗あるなりといふ。

魬魚 唐韵云魬〈扶板反上声之重又軽音漢語抄云波利末知〉魚名也

魬魚 唐韻に云はく、魬〈扶板反、上声の重、又、軽音、漢語抄に波利末知(はりまち)と云ふ〉は魚の名なりといふ。

鯸䱌魚 崔禹食經云鯸䱌〈侯怡二音布久一云布久倍〉犯之則怒々則腹脹浮出水上者也

鯸䱌魚 崔禹食経に云はく、鯸䱌〈侯怡の二音、布久(ふく)、一に布久倍(ふくべ)と云ふ〉、之れを犯さば則ち怒り、怒らば則ち腹脹りて水の上に浮き出づる者なりといふ。

鰻鱺魚 本草云鰻鱺〈蠻縲二音波之加𫟈伊乎〉

鰻鱺魚 本草に鰻鱺〈蛮縲の二音、波之加美伊乎(はじかみいを)〉と云ふ。

韶陽魚 崔禹食經云韶陽魚〈古米〉味甘小冷㒵似鱉而無甲口在腹下者也

韶陽魚 崔禹食経に云はく、韶陽魚〈古米(こめ)〉は味は甘、小冷、貌は鱉に似て甲(よろひ)無く、口は腹の下に在る者なりといふ。

鮏魚 同食經云鮏〈折青反佐介今案俗用鮭字非也鮭音圭鯸䱌𩵋一名也〉其子似苺〈音茂苺子即是覆盆也見唐韵〉赤光一名年魚春生年中死故以名之

鮏魚 同食経に云はく、鮏〈折青反、佐介(さけ)。今案ふるに俗に鮭の字を用ゐるは非ざるなり。鮭の音は圭、鯸䱌魚の一名なり〉、其の子は苺〈音は茂、苺子は即ち是れ覆盆なり、唐韻に見ゆ〉に似て赤く光る、一名に年魚、春に生れ年の中に死ぬ故に以て之れを名くといふ。

鯉魚 七巻食經云鯉魚〈上音里古比〉野王案曰鮜〈胡闘反〉說文云𩸄〈胡瓦反上声之重〉尒雅云〓〔魚偏に度〕〈音度〉皆鯉魚也

鯉魚 七巻食経に鯉魚〈上の音は里、古比(こひ)〉と云ふ。野王案に鮜〈胡闘反〉と曰ふ。説文に𩸄〈胡瓦反、上声の重〉と云ふ。爾雅に〓〔魚偏に度〕〈音は度〉と云ふ。皆、鯉魚なり。

鮒 本草云鯽魚〈上音即〉一名鮒〈音付布奈〉四声字苑云𩺀鲫鰿〈音積今案三字通用〉鮒也

本草に云はく、鯽魚〈上の音は即〉は一名に鮒〈音は付、布奈(ふな)〉といふ。四声字苑に云はく、𩺀、鯽、鰿〈音は積、今案ふるに三字は通ひ用ゐる〉は鮒なりといふ。

鰠 文字集略云鰠〈音騒漢語抄云𫟈〉鯉属也

鰠 文字集略に云はく、鰠〈音は騒、漢語抄に美(み)と云ふ〉は鯉の属なりといふ。

鰣 唐韻韵云鰣〈音時漢語抄云波曽〉魚名也似魴肥𫟈江東四月有之

鰣 唐韻に云はく、鰣〈音は時、漢語抄に波曽(はそ)と云ふ〉は魚の名なり、魴に似て肥え美しく、江東に四月に之れ有りといふ。

鱸 崔禹食經云鱸〈音盧須々歧〉㒵似鯉而鰓大𫔭者也四声字苑云似鱖而大青也

鱸 崔禹食経に云はく、鱸〈音は盧、須々岐(すずき)〉は貌、鯉に似て鰓(あぎと)大きく開く者なりといふ。四声字苑に云はく、鱖に似て大だ青きなりといふ。

鯇 尒雅集注云鯇〈胡本反上声之重字亦作鯶阿米〉似鱒者也楊氏漢語抄云水鮏〈一云江鮏今案本文未詳〉

鯇 爾雅集注に云はく、鯇〈胡本反、上声の重、字は亦、鯶に作る、阿米(あめ)〉は鱒に似る者なりといふ。楊氏漢語抄に水鮏〈一に江鮏と云ふ。今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。

鱒 七巻食經云鱒〈慈損反字亦作𩻝〉一名赤目𩵋〈万須〉𠔥名苑云一名鮅〈音必〉似鯶而赤目者也

鱒 七巻食経に云はく、鱒〈慈損反、字は亦、𩻝に作る〉は一名に赤目魚といふ〈万須(ます)〉。兼名苑に云はく、一名に鮅〈音は必〉、鯶に似て赤き目の者なりといふ。

鮸 唐韵云鮸〈音免弁色立成云鮸迩倍一云久知〉𩵋名也

鮸 唐韻に云はく、鮸〈音は免、弁色立成に鮸は邇倍(にべ)と云ひ、一に久知(くち)と云ふ〉は魚の名なりといふ。

鯰 崔禹食經云鯰〈奴霑反奈末豆漢語抄用〓〔魚偏に斥〕字㪽出未詳〉㒵似䱌而大頭者也

鯰 崔禹食経に云はく、鯰〈奴霑反、奈末豆(なまづ)。漢語抄に〓〔魚偏に斥〕の字を用ゐる。出づる所未だ詳かならず〉の貌は䱌に似て大き頭の者なりといふ。

䱌 同食經云䱌〈音夷伊之布之〉性伏沈在石間者也

䱌 同食経に云はく、䱌〈音は夷、伊之布之(いしぶし)〉の性は伏し沈み石の間に在る者なりといふ。

鱅 同食經云鱅〈音容知々加布利〉似䱌魚而有黒點

鱅 同食経に云はく、鱅〈音は容、知々加布利(ちちかぶり)〉は䱌魚に似て黒き点(ほし)有りといふ。

𫙑魚 同食經云𫙑〈莫徃反与𠕀同加良加古〉似䱌魚而頰着鈎者也

𫙑魚 同食経に云はく、𫙑〈莫往反、𠕀と同じ、加良加古(からかご)〉は䱌魚に似て頬に鈎を着くる者なりといふ。

鱖魚 唐韵云鱖〈居衛反漢語抄云阿散知〉魚名大口細鱗有斑文者也

鱖魚 唐韻に云はく、鱖〈居衛反、漢語抄に阿散知(あさぢ)と云ふ〉は魚の名、大きな口、細き鱗、斑文有る者なりといふ。

鮎 本草云鮧𩵋〈上音夷〉蘓敬曰一名鮎魚〈上奴𠔥反阿由漢語抄云銀口魚又云細鱗𩵋〉崔禹食經云㒵似鱒而小有白皮無鱗春生夏長秋衰冬死故名年𩵋也

鮎 本草に鮧魚〈上の音は夷〉と云ふ。蘇敬に曰はく、一名に鮎魚〈上は奴兼反、阿由(あゆ)、漢語抄に銀口魚と云ひ、又、細鱗魚と云ふ〉といふ。崔禹食経に云はく、貌は鱒に似て小さく、白き皮有りて鱗無く、春に生れ夏に長り秋に衰へ冬に死ぬ、故に年魚と名づくなりといふ。

鯷魚 陶隠居曰鮧魚今之鯷魚也四声字苑云鯷〈音題漢語抄云比之古伊和之〉小鮎魚黒而少味也

鯷魚 陶隠居に曰はく、鮧魚は今の鯷魚なりといふ。四声字苑に云はく、鯷〈音は題、漢語抄に比之古伊和之(ひしこいわし)と云ふ〉は小さき鮎魚の黒くして味少なきなりといふ。

鮠 同字苑云鮠〈五灰反漢語抄云波江又用鯶字㪽出未詳〉魚似鮎白色

鮠 同字苑に云はく、鮠〈五灰反、漢語抄に波江(はえ)と云ふ。又、鯶の字を用ゐる。出づる所未だ詳かならず〉は魚にして鮎に似て白色といふ。

䱅 玉篇云䱅〈音末一音𦸑漢語抄云加末豆賀〉小魚名也

䱅 玉篇に云はく、䱅〈音は末、一音に蔑、漢語抄に加末豆賀(かまつか)と云ふ〉は小魚の名なりといふ。

鮊魚 文字集略云鮊〈音白漢語抄云之侶乎〉魚薄身白色也

鮊魚 文字集略に云はく、鮊〈音は白、漢語抄に之侶乎(しろを)と云ふ〉は魚にして薄き身の白色なりといふ。

𩵖 考声切韵云𩵖〈音小今案俗云氷𩵋是也初學記冬事對雖有氷𩵋霜鸖之文而尋其義非也〉白小魚名也似鮊魚長一二寸者也

𩵖 考声切韻に云はく、𩵖〈音は小、今案ふるに俗に氷魚(ひを)と云ふは是なり。初学記の冬の事対に氷魚、霜鶴の文有りと雖も其の義を尋ぬるは非ざるなり〉は白き小魚の名なり、鮊魚に似て長さ一二寸の者なりといふ。

細魚〈海糠附〉 漢語抄云細魚〈宇流理古〉海糠魚〈阿𫟈今案未詳〉

細魚〈海糠付〉 漢語抄に云はく、細魚〈宇流理古(うるりこ)〉は海糠魚〈阿美(あみ)、今案ふるに未だ詳かならず〉といふ。

龍魚體百九

竜魚体百九

鱗 唐韵云鱗〈音隣伊路久都俗云伊侶古〉魚甲也文字集略云龍魚属之衣曰鱗也

鱗 唐韻に云はく、鱗〈音は隣、伊路久都(いろくづ)、俗に伊侶古(いろこ)と云ふ〉は魚の甲なりといふ。文字集略に云はく、竜魚の属の衣を鱗と曰ふなりといふ。

鰓 唐韵云鰓〈蘓來反阿歧度〉魚頰也

鰓 唐韻に云はく、鰓〈蘇来反、阿岐度(あぎと)〉は魚の頬なりといふ。

魚丁 尒雅云魚枕曰丁〈伊乎乃加之良乃保祢〉郭璞曰枕在魚頭中形似蒙丁字者也

魚丁 爾雅に云はく、魚枕を丁〈伊乎乃加之良乃保禰(いをのかしらのほね)〉と曰ふといふ。郭璞に曰はく、枕は魚の頭の中に在り、形は丁の字を蒙るに似る者なりといふ。

脬 考声切韵云脬〈疋交反漢語抄云以乎乃布衣〉𩵋腹中脬也又人膀胱肉也

脬 考声切韻に云はく、脬〈疋交反、漢語抄に以乎乃布衣(いをのふえ)と云ふ〉は魚の腹の中の脬なり、又、人の膀胱の肉なりといふ。

鰭 文選注云鰭〈音耆波太俗云比礼〉魚背上𩮊也唐韵云𩮊〈音獦又見馬體〉鬚𩮊也

鰭 文選注に云はく、鰭〈音は耆、波太(はた)、俗に比礼(ひれ)と云ふ〉は魚の背の上の鬣なりといふ。唐韻に云はく、鬣〈音は獦、又、馬体に見ゆ〉は鬚鬣なりといふ。

鰾 文字集略云鰾〈防眇反上声之重漢語抄云保波良〉魚膘也唐韻韵云膘〈敷沼反〉脅前也

鰾 文字集略に云はく、鰾〈防眇反、上声の重、漢語抄に保波良(ほはら)と云ふ〉は魚の膘なりといふ。唐韻に云はく、膘〈敷沼反〉は脇の前なりといふ。

腴 野王案腴〈音臾豆知湏利〉魚腹下肥也

腴 野王案に、腴〈音は臾、豆知須利(つちすり)〉は魚の腹の下の肥ゆるなりとす。

鯁 唐韵云鯁〈音耿乃歧〉魚剌在喉又骨鯁也

鯁 唐韻に云はく、鯁〈音は耿、乃岐(のぎ)〉は魚の刺(とげ)の喉に在り、又、骨の鯁なりといふ。

鮾鯹 野王案〓〔委偏に魚〕〈音乃和語云阿佐流〉魚肉爛也鯹〈音星亦作腥奈万久佐之〉魚肉臭也

鮾鯹 野王案に、鮾〈音は乃、和語に阿佐流(あざる)と云ふ〉は魚の肉の爛るなり、鯹〈音は星、亦、腥に作る、奈万久佐之(なまぐさし)〉は魚の肉の臭ふなりとす。

龜貝部第十九

亀貝部第十九  

龜貝類百十 龜貝體百十一

 亀貝類百十 亀貝体百十一

龜貝類百十

亀貝類百十

龜 大戴礼云甲䖝三百六十四神龜〈居追反加米〉為之長也𠔥名宛云龜一名鼇〈音敖漢語抄云宇𫟈加米〉

亀 大戴礼に云はく、甲虫三百六十四、神亀〈居追反、加米(かめ)〉は之れを長と為るなりといふ。兼名宛に云はく、亀は一名に鼇〈音は敖、漢語抄に宇美加米(うみがめ)と云ふ〉といふ。

黿鼉 玉篇云黿鼉〈元陁二音於保加米〉大龜也

黿鼉 玉篇に云はく、黿鼉〈元陀の二音、於保加米(おほがめ)〉は大きな亀なりといふ。

攝龜 尒雅集注云攝龜一名陵龜〈古賀米〉小龜也

摂亀 爾雅集注に云はく、摂亀は一名に陵亀〈古賀米(こがめ)〉、小亀なりといふ。

秦龜 本草云秦龜一名觜蠵〈衰維二音伊之加米〉陶隠居曰此山中龜也

秦亀 本草に云はく、秦亀は一名に觜蠵〈衰維の二音、伊之加米(いしがめ)〉といふ。陶隠居に曰はく、此れは山中の亀なりといふ。

鼈 本草云鼈〈唐韵云并列反𩵋鼈字或作鱉加波可女〉

鼈 本草に鼈〈唐韻に云はく、并列反、魚鼈の字は或に鱉に作る、加波可女(かはかめ)〉と云ふ。

甲蠃子 本草云甲蠃子〈今案蠃即螺字也音羅楊氏漢語抄云海蠃都比〉㒵似辛螺而中有角盖者也

甲蠃子 本草に云はく、甲蠃子〈今案ふるに蠃は即ち螺の字なり、音は羅。楊氏漢語抄に海蠃は都比(つび)と云ふ〉は貌、辛螺に似て中に角の盖有る者なりといふ。

榮螺子 崔禹食經云榮螺子〈佐㔫江〉似蛤而圎者也

栄螺子 崔禹食経に云はく、栄螺子〈佐左江(さざえ)〉は蛤に似て円き者なりといふ。

石隂子 本草云石隂子〈漢語抄云甲蠃加世〉是物生海中隂精故以名之

石陰子 本草に云はく、石陰子〈漢語抄に甲蠃は加世(かせ)と云ふ〉は是の物、海の中に生れ陰の精なる故に以て之れを名くといふ。

霊蠃子 本草云霊蠃子〈漢語抄云𣗥甲蠃宇迩〉㒵似橘而圎其甲紫色生芒角者也

霊蠃子 本草に云はく、霊蠃子〈漢語抄に棘甲蠃を宇邇(うに)と云ふ〉は貌、橘に似て円く、其の甲は紫色、芒の角を生やす者なりといふ。

尨蹄子 崔禹食經云尨蹄子〈𫝑〉㒵似犬蹄而附石生者也𠔥名苑注云石花〈或作華〉二三月皆舒紫花附石而生故以名之

尨蹄子 崔禹食経に云はく、尨蹄子〈勢(せ)〉は貌、犬の蹄に似て石に付き生える者なりといふ。兼名苑注に云はく、石花〈或に華に作る〉は二三月して皆、紫の花を舒(の)ばし石に付きて生ゆ、故に以て名くといふ。

小蠃子 崔禹食經云小蠃子〈漢語抄云細螺之太々𫟈〉㒵似甲蠃而細小口有白玉盖者也

小蠃子 崔禹食経に云はく、小蠃子〈漢語抄に細螺は之太々美(しただみ)と云ふ〉は貌、甲蠃に似て細く小さき口に白玉の蓋有る者なりといふ。

河貝子 同食經云河貝子〈美奈俗用蜷字非也音拳連蜷䖝屈㒵也〉殻上黒小狹長似人身者也

河貝子 同食経に云はく、河貝子〈美奈(みな)、俗に蜷の字を用ゐるは非ざるなり、音は拳、連蜷虫の屈まる貌なり〉は、殻の上、黒く小さく狭く長くして人の身に似たる者なりといふ。

寄居子 本草云寄居子〈加𫟈奈俗假用蟹蜷二字〉㒵似蜘蛛者也

寄居子 本草に云はく、寄居子〈加美奈(かみな)、俗に仮に蟹蜷の二字を用ゐる〉は貌、蜘蛛に似る者なりといふ。

石炎螺 弁色立成云石炎螺〈麻与和漢語抄說同之〉

石炎螺 弁色立成に石炎螺〈麻与和(まよわ)、漢語抄の説は之れと同じ〉と云ふ。

大辛螺 七巻食經云大辛螺〈阿歧〉漢語抄云蓼螺一云赤口螺〈和名同上弁色立成說亦同之〉

大辛螺 七巻食経に大辛螺〈阿岐(あき)〉と云ふ。漢語抄に云はく、蓼螺は一に赤口螺〈和名は上に同じ。弁色立成の説は亦、之れに同じ〉と云ふといふ。

小辛螺 七巻食經云小辛螺〈迩之漢語抄云蓼螺子〉

小辛螺 七巻食経に小辛螺〈邇之(にし)、漢語抄に蓼螺子と云ふ〉と云ふ。

田中螺 拾遺本草云田中螺其有稜者謂之螭螺〈太都比螭音知見龍類〉

田中螺 拾遺本草に云はく、田中螺は其の稜有る者は之れを螭螺〈太都比(たつび)、螭の音は知、竜類に見ゆ〉と謂ふといふ。

蚶 唐韵云蚶〈乎談反弁色立成云歧佐〉蚌属状如蛤圎而厚外有理縱横即今魽也

蚶 唐韻に云はく、蚶〈乎談反、弁色立成に岐佐(きさ)と云ふ〉は蚌の属、状は蛤の如く円くて厚し、外に理(すぢめ)の縦横に有り、即ち今の魽なりといふ。

蚌蛤 𠔥名苑云蚌蛤〈放甲二音蚌或作蜯波末久利〉一名含漿

蚌蛤 兼名苑に云はく、蚌蛤〈放甲の二音、蚌は或に蜯に作る、波末久利(はまぐり)〉は一名に含漿といふ。

海蛤 本草云海蛤一名𣁽蛤〈宇无歧乃加比〉蘓敬曰亦謂之㹠耳蛤

海蛤 本草に云はく、海蛤は一名に魁蛤といふ〈宇無岐乃加比(うむきのかひ)〉。蘇敬に曰はく、亦、之れを㹠耳蛤と謂ふといふ。

文蛤 新抄本草云文蛤〈伊太夜加比〉衣有文者也

文蛤 新抄本草に云はく、文蛤〈伊太夜加比(いたやがひ)〉は衣に文有る者なりといふ。

馬蛤 唐韵云蟶〈音檉弁色立成云蟶麻天〉蚌属也本草云馬刀一名馬蛤〈和名同上〉

馬蛤 唐韻に云はく、蟶〈音は檉、弁色立成に蟶は麻天(まて)と云ふ〉は蚌の属なりといふ。本草に云はく、馬刀は一名に馬蛤といふ〈和名は上に同じ〉。

蜆貝 文字集略云蜆貝〈音顕字亦作𧖙之々𫟈加比〉似蛤而小黒者也

蜆貝 文字集略に云はく、蜆貝〈音は顕、字は亦、𧖙に作る。之々美加比(しじみがひ)〉は蛤に似て小さく黒き者なりといふ。

白貝 唐韵云蛿〈古三反一音含弁色立成云蛿於冨本朝式用白貝二字〉尒雅云貝在水曰蛿也

白貝 唐韻に蛿〈古三反、一音に含、弁色立成に蛿は於富(おふ)と云ふ。本朝式に白貝の二字を用ゐる〉と云ふ。爾雅に云はく、貝の水に在るを蛿と曰ふなりといふ。

貽貝 尒雅注云貽貝一名黒貝〈貽音怡伊加比〉

貽貝 爾雅注に云はく、貽貝は一名に黒貝といふ。〈貽の音は怡、伊加比(いがひ)〉

紫貝 𠔥名苑云紫貝一名大貝〈宇末乃久保加比見本草〉

紫貝 兼名苑に云はく、紫貝は一名に大貝といふ。〈宇末乃久保加比(うまのくぼがひ)、本草に見ゆ〉

錦貝 弁色立成云錦貝〈夜久乃斑貝今案俗說云紅螺杯出西海益救嶋故俗呼為益救貝〉

錦貝 弁色立成に錦貝と云ふ。〈夜久乃斑貝(やくのまだらがひ)、今案ふるに俗の説に紅螺杯と云ふ。西海の益救嶋に出づ、故に俗に呼びて益救貝(やくがひ)と為〉

海髑子 崔禹食経云海髑子〈夜之〉此物含神霊見人即𣳚海中似髑髏而有鼻目故以名之

海髑子 崔禹食経に云はく、海髑子〈夜之(やし)〉は此の物、神霊を含み、人を見ては即ち海中に没み、髑髏に似て鼻目有り、故に以て之れを名くといふ。

鰒 四声字苑云鰒〈蒲角反与雹同今案一音伏見本草音義〉魚名似蛿偏着石肉乾可食出青州海中矣本草云鮑一名鰒〈鮑音抱阿波比〉崔禹食經云石决明〈和名同上〉食之心目聡了亦附石生故以名之

鰒 四声字苑に云はく、鰒〈蒲角反、雹と同じ。今案ふるに一音は伏、本草音義に見ゆ〉は魚の名なり、蛿に似て偏に石に着く、肉は乾して食ふべし、青州海中に出づといふ。本草に云はく、鮑は一名に鰒といふ〈鮑の音は抱、阿波比(あはび)〉。崔禹食経に云はく、石决明〈和名は上に同じ〉は之れを食へば心目は聡了(さと)くなり、亦、石に付き生ゆ、故に以て名くといふ。

蠣 四声字苑云蠣〈力制反本草云蠣蛤賀歧〉相着䖝殻似石者也

蠣 四声字苑に云はく、蠣〈力制反、本草に云はく、蠣蛤は賀岐(かき)〉は虫殻を相着て石に似たる者なりといふ。

烏賊 南越志云烏賊〈今案鳥賊並従𩵋作鷠鱡〈上音烏下疾得反〉亦作鰂見玉篇伊賀〉常自浮水上烏見以為死啄之乃巻取之故以名之

烏賊 南越志に云はく、烏賊〈今案ふるに鳥賊は並びに魚に従ひ鷠鱡〈上の音は烏、下は疾得反〉に作る、亦、鰂に作る、玉篇に見ゆ、伊賀(いか)〉は常に自ら水上に浮き、烏見ては死にたりと以為(おも)ひ之れを啄まば乃ち之れを巻き取る、故に以て名くといふ。

擁劔 本草云擁劔〈加佐米〉似蟹色黄其一螯偏長三寸者也

擁剣 本草に云はく、擁剣〈加佐米(がざめ)〉は蟹に似て色は黄、其の一の螯(はさみ)は偏(こづ)み、長さ三寸の者なりといふ。

海蛸子 本草云海蛸子〈今案蛸正作鮹㪽交反見唐韻太古俗用䖣字㪽出未詳〉㒵似人裸而圎頭者也長丈餘者謂之海肌子

海蛸子 本草に云はく、海蛸子〈今案ふるに蛸は正しくは鮹に作り、所交反、唐韻に見ゆ。太古(たこ)、俗に䖣の字を用ゐる、出づる所は未だ詳かならず〉は貌、人の裸に似て円き頭の者なり、長さ丈に余る者は之れを海肌子と謂ふといふ。

小蛸魚 崔禹食經云小蛸魚〈知比佐歧太古一云湏流米〉

小蛸魚 崔禹食経に小蛸魚〈知比佐岐太古(ちひさきたこ)、一に須流米(するめ)と云ふ〉と云ふ。

貝鮹 日本紀私記云貝鮹〈加比太古〉

貝鮹 日本紀私記に貝鮹〈加比太古(かひだこ)〉と云ふ。

海䑕 崔禹食經云海鼠〈和名古本朝式等加𤎅字云伊利古〉似蛭而大者

海鼠 崔禹食経に云はく、海鼠〈和名は古(こ)、本朝式等に熬の字を加へて伊利古(いりこ)と云ふ〉は蛭に似て大き者といふ。

老海䑕 本草云寄生々々託根之處其躰与此相似故實異名同耳一說大海䑕極老時之名也楊氏漢語抄云老海䑕〈保夜俗用此注二字〉

老海鼠 本草に寄生と云ふ。寄生の根を託ぬる処、其の体、此れと相似る、故に実は異なるも名は同じのみ。一説に、大海鼠は極く老ゆる時の名なりとす。楊氏漢語抄に老海鼠〈保夜(ほや)、俗に此の注の二字を用ゐる〉と云ふ。

海月 崔禹食経云海月一名水母〈久良介〉㒵似月在海中故以名之

海月 崔禹食経に云はく、海月は一名に水母〈久良介(くらげ)〉、貌は月に似て海中に在り、故に以て之れを名くといふ。

蝙𧍗 七巻食経云蝙𧍗〈偏若二音為俗用蝛蛦二字本文未詳〉其㒵似蚓而大者也

蝙𧍗 七巻食経に云はく、蝙𧍗〈偏若の二音、為(ゐ)、俗に蝛蛦の二字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉は其の貌、蚓に似て大き者なりといふ。

蟹〈蟹黄附〉 野王案蟹〈核買反字亦作䲒加迩〉八足虫也食療經経云密餅不冝合蟹黄食之〈蟹黄有子名也〉

蟹〈蟹黄付〉 野王案に、蟹〈核買反、字は亦、䲒に作る。加邇(かに)〉は八足の虫なりとす。食療経に云はく、密餅は宜しく蟹黄に合せて之れを食ふべからずといふ〈蟹黄は子有る名なり〉。

蟛螖 𠔥名苑云蟛螖〈彭越二音漢語抄云葦原蟹〉形似蟹而小也

蟛螖 兼名苑に云はく、蟛螖〈彭越の二音、漢語抄に葦原蟹(あしはらがに)と云ふ〉は形、蟹に似て小さきなりといふ。

蟛蜞 楊氏漢語抄云蟛蜞〈彭其二音海濵稲舂蟹之類也〉

蟛蜞 楊氏漢語抄に蟛蜞〈彭其の二音、海浜の稲舂蟹(いねつきがに)の類なり〉と云ふ。

石蟹 𠔥名苑注云石蟹〈以之加迩〉生海際石下故以名之

石蟹 兼名苑注に云はく、石蟹〈以之加邇(いしがに)〉は海際の石の下に生(あ)る、故に以て名くといふ。

龜貝體百十一

亀貝体百十一

甲 文字集略云龜蚌之属甲曰介〈甲音俗云古布〉

甲 文字集略に云はく、亀蚌の属の甲を介と曰ふといふ。〈甲の音は俗に古布(こふ)と云ふ〉

貝 尚書注云貝〈音拜加比〉水物也

貝 尚書注に云はく、貝〈音は拝、加比(かひ)〉は水にすむ物なりといふ。

殻 唐韵云殻〈音角与貝同〉䖝之皮甲也崔禹食經云河貝子其殻上黒是

殻 唐韻に云はく、殻〈音は角、貝と同じ〉は虫の皮の甲なりといふ。崔禹食経に河貝子の其の殻の上は黒しと云ふは是。

角盖 本草云甲蠃子中有角盖〈都比乃布多〉盖上錯似鮫魚皮〈鮫𩵋已見上文〉

角盖 本草に云はく、甲蠃子の中に角盖〈都比乃布多(つびのふた)〉有り、盖の上は錯(みだ)りて鮫魚皮〈鮫魚は已に上文に見ゆ〉に似るといふ。

玉盖 崔禹食經云小蠃子有白玉之盖〈之太々美乃布多〉

玉盖 崔禹食経に云はく、小蠃子に白玉の盖〈之太々美乃布多(しただみのふた)〉有りといふ。

芒角 本草云霊蠃子其甲紫色曰芒角〈宇迩乃介〉

芒角 本草に云はく、霊蠃子は其の甲の紫色なるを芒角〈宇邇乃介(うにのけ)〉と曰ふといふ。

螯 野王案𩪋〈音敖字亦作螯於保豆米〉蟹大脚也本草云擁劔其一螯長者也

螯 野王案に、𩪋〈音は敖、字は亦、螯に作る、於保豆米(おほづめ)〉は蟹の大脚なりとす。本草に云はく、擁剣は其の一の螯の長き者なりといふ。

烏賊墨 野王案鷠鰂魚背有一大骨腹中有墨〈背骨与甲同墨以加乃久呂𫟈〉

烏賊墨 野王案に、鷠鰂魚は背に一つの大骨有り、腹の中に墨有りとす。〈背骨は甲と同じ、墨は以加乃久呂美(いかのくろみ)〉

沙囊 食療經云食蟹不得并沙囊食之沙囊〈加迩乃毛乃波𫟈〉在蟹腹内者也

沙囊 食療経に云はく、蟹を食ふに沙囊と并せ之れを食ふこと得ず、沙囊〈加邇乃毛乃波美(かにのものはみ)〉は蟹の腹の内に在る者なりといふ。

蟲豸部第二十

虫豸部第二十  

蟲名百十二 蟲體百十三

 虫名百十二 虫体百十三

蟲名百十二

虫名百十二

蟲 尒雅云有足曰蟲〈直弓反〉無足曰豸〈池尒反上声之重〉唐韵云䖝〈与蟲通用和名无之〉鱗介惣名也

虫 爾雅に云はく、足有るを虫〈直弓反〉と曰ひ、足無きを豸〈池爾反、上声の重〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、䖝〈虫と通ひ用ゐる、和名は無之(むし)〉は鱗介の惣名なりといふ。

虵 孫愐曰虵〈食遮反倍美一云久知奈波日本紀私記云虵乎呂知〉毒虫也

蛇 孫愐に曰はく、蛇〈食遮反、倍美(へみ)、一に久知奈波(くちなは)と云ふ。日本紀私記に蛇は乎呂知(をろち)と云ふ〉は毒虫なりといふ。

蚖虵 崔豹古今注云蚖〈音元字亦作螈内典云蚖虵加良湏倍𫟈〉一名玄緑各隨其色名之

蚖蛇 崔豹古今注に云はく、蚖〈音は元、字は亦、螈に作る。内典に蚖蛇は加良須倍美(からすへみ)と云ふ〉は一名に玄、緑、各(おのおの)其の色に随ひて之れを名くといふ。

蚺虵 文字集略云蚺〈音髯迩之歧倍𫟈〉虵文如連銭錦也

蚺蛇 文字集略に云はく、蚺〈音は髯、邇之岐倍美(にしきへみ)〉は蛇の文、銭を連ぬ錦の如くなりといふ。

蟒虵 𠔥名苑云蟒〈音莽夜万加々知見内典〉虵之最大也

蟒蛇 兼名苑に云はく、蟒〈音は莽、夜万加々知(やまかがち)、内典に見ゆ〉は蛇の最も大きなりといふ。

蝮 本草䟽云蝮虵〈蝮音覆〉一名䗱𧐖〈僕連二音〉𠔥名苑云一名反鼻〈蝮波𫟈俗或呼虵為反鼻其音片尾〉

蝮 本草疏に云はく、蝮蛇〈蝮の音は覆〉は一名に䗱𧐖〈僕連の二音〉といふ。兼名苑に云はく、一名に反鼻といふ。〈蝮は波美(はみ)、俗に或に蛇を呼びて反鼻と為、其の音は片尾〉

蝘蜒 𠔥名苑云蝘蜒〈偃𣧠二音〉一名蜥蝪〈析昜二音〉釋藥性云一名蠑螈〈榮原二音〉本草云龍子一名守宮〈度加介〉蘇敬曰常在屋壁故名守宮也

蝘蜒 兼名苑に云はく、蝘蜒〈偃殄の二音〉は一名に蜥蝪〈析昜の二音〉といふ。釈薬性に云はく、一名に蠑螈〈栄原の二音〉といふ。本草に云はく、竜子は一名に守宮といふ〈度加介(とかげ)〉。蘇敬に曰はく、常に屋の壁に在り、故に守宮と名くなりといふ。

蝙蝠〈天䑕矢附〉 本草云蝙蝠〈𨕙福二音〉一名伏翼〈加波保利〉方言云蟙䘃〈織墨二音〉蘓敬曰天䑕矢〈伏翼矢名也〉

蝙蝠〈天鼠矢付〉 本草に云はく、蝙蝠〈辺福の二音〉は一名に伏翼といふ〈加波保利(かはほり)〉。方言に蟙䘃〈織墨の二音〉と云ふ。蘇敬に天鼠矢〈伏翼の矢の名なり〉と曰ふ。

蜚蠊 本草云蜚蠊〈非廉二音〉一名蠦蜰〈音肥都乃无之〉

蜚蠊 本草に云はく、蜚蠊〈非廉の二音〉は一名に蠦蜰〈音は肥、都乃無之(つのむし)〉といふ。

蟷蜋〈螵蛸附〉 𠔥名苑云蟷蜋〈當郎二音〉一名蟷蠰〈當餉二音以保无之利〉螵蛸〈飄霄二音〉一名䗚蟭〈愽焦二音於保知加不久利〉螳蜋子也

蟷蜋〈螵蛸付〉 兼名苑に云はく、蟷蜋〈当郎の二音〉は一名に蟷蠰〈当餉の二音、以保無之利(いぼむしり)〉、螵蛸〈飄霄の二音〉は一名に䗚蟭〈愽焦の二音、於保知加不久利(おほぢがふぐり)〉は螳蜋の子なりといふ。

蜻蛉 本草云蜻蛉〈精霊二音〉一名胡〓〔勑冠に虫〕〈音勑加介呂布〉釋藥性云一名蝍蛉〈上音即〉𠔥名苑云虰蛵〈丁馨二音〉一名胡𧋝蜻蛉也

蜻蛉 本草に云はく、蜻蛉〈精霊の二音〉は一名に胡〓〔勑冠に虫〕〈音は勑、加介呂布(かげろふ)〉といふ。釈薬性に云はく、一名に蝍蛉〈上の音は即〉といふ。兼名苑に云はく、虰蛵〈丁香の二音〉、一名に胡蝶は蜻蛉なりといふ。

胡黎 崔豹古今注云胡黎一名胡離〈歧恵无波〉蜻蛉之小而黄也

胡黎 崔豹古今注に云はく、胡黎は一名に胡離〈岐恵無波(きゑむば)〉、蜻蛉の小さくして黄なるなりといふ。

赤卒 同注云赤卒一名絳騮〈阿加恵无波〉蜻蛉之小而赤也

赤卒 同注に云はく、赤卒は一名に絳騮〈阿加恵無波(あかゑむば)〉、蜻蛉の小さくして赤きなりといふ。

促織 𠔥名苑云絡緯一名促織〈波太於利米〉鳴声如急織機故以名之

促織 兼名苑に云はく、絡緯は一名に促織〈波太於利米(はたおりめ)〉、鳴く声は急ぎ機を織るが如し、故に以て之れを名くといふ。

地膽 本草云地膽一名蕪青〈上音無迩波都々〉

地胆 本草に云はく、地胆は一名に蕪青〈上の音は無、邇波都々(にはつつ)〉といふ。

蜻蛚 文字集略云蜻蛚〈精列二音古保呂歧〉

蜻蛚 文字集略に蜻蛚〈精列の二音、古保呂岐(こほろぎ)〉と云ふ。

螽蟴 𠔥名苑云螽蟴〈終斯二音〉一名蚣蝑〈縱黍二音〉一名蠜螽〈煩終二音〉舂黍也〈漢語抄云舂黍讀伊祢都歧古万侶〉

螽蟴 兼名苑に云はく、螽蟴〈終斯の二音〉は一名に蚣蝑〈縦黍の二音〉、一名に蠜螽〈煩終の二音〉、舂黍なりといふ〈漢語抄に舂黍を伊禰都岐古万侶(いねつきこまろ)と読むと云ふ〉。

蚱蜢 本草云蚱蜢〈作猛二音伊奈古万侶〉㒵似螇蚸而色小蒼在田野間者也

蚱蜢 本草に云はく、蚱蜢〈作猛の二音、伊奈古万侶(いなごまろ)〉は貌、螇蚸に似て色は小し蒼く、田野の間に在る者なりといふ。

螇蚸 本草云螇蚸〈奚赤二音波太波太〉㒵似蚱蜢而長細色黄飛時作声在荒田野者也

螇蚸 本草に云はく、螇蚸〈奚赤の二音、波太波太(はたはた)〉は貌、蚱蜢に似て長く細く、色は黄、飛ぶ時に声を作し、荒れたる田野に在る者なりといふ。

蟋蟀 𠔥名苑云蟋蟀〈悉率二音〉一名蛬〈渠容反又音拱歧利々々湏〉

蟋蟀 兼名苑に云はく、蟋蟀〈悉率の二音〉は一名に蛬〈渠容反、又、音は拱、岐利々々須(きりぎりす)〉といふ。

螢 𠔥名苑云螢〈胡丁反〉一名熠燿〈上一入反保太流〉

蛍 兼名苑に云はく、蛍〈胡丁反〉は一名に熠燿〈上は一入反、保太流(ほたる)〉といふ。

叩頭虫 傅咸叩頭虫賦云䖝之細微者觸之輙叩頭云叩頭虫〈沼加豆歧无之〉

叩頭虫 傅咸叩頭虫賦に云はく、虫の細微なる者、之れに触れば輙ち頭を叩き、叩頭虫〈沼加豆岐無之(ぬかづきむし)〉と云ふといふ。

齧髪虫 玉篇云蠰〈相𠅙反漢語抄云加𫟈歧利无之〉齧髪虫也

齧髪虫 玉篇に云はく、蠰〈相亮反、漢語抄に加美岐利無之(かみきりむし)と云ふ〉は髪を齧む虫なりといふ。

蝟 說文云蝟〈音謂久㔫布〉䖝似豪猪而小者也

蝟 説文に云はく、蝟〈音は謂、久左布(くさぶ)〉は虫、豪猪に似て小さき者なりといふ。

烏毛虫 𠔥名苑云髯䖝一名烏毛虫〈加波牟之〉

烏毛虫 兼名苑に云はく、髯虫は一名に烏毛虫といふ。〈加波牟之(かはむし)〉

蜈蚣 𠔥名苑云蜈蚣〈吴公二音〉一名螏蟍〈疾梨二音〉一名百足〈无加天〉唐韵云蝍蛆〈上子力反下子𩵋反〉食虵虫蜈蚣是也

蜈蚣 兼名苑に云はく、蜈蚣〈呉公の二音〉は一名に螏蟍〈疾梨の二音〉、一名に百足といふ〈無加天(むかで)〉。唐韻に云はく、蝍蛆〈上は子力反、下は子魚反〉は蛇を食ふ虫、蜈蚣は是れなりといふ。

馬陸 本草云馬陸一名百足〈阿末比古〉

馬陸 本草に云はく、馬陸は一名に百足といふ。〈阿末比古(あまびこ)〉

蚰蜒 𠔥名苑云蚰蜒〈由延二音〉一名蚹蠃〈上音付〉本草云螔蝓〈移臾二音奈米久知〉方言云北燕謂之䖡蚭〈上女陸反下音尼〉

蚰蜒 兼名苑に云はく、蚰蜒〈由延の二音〉は一名に蚹蠃〈上の音は付〉といふ。本草に螔蝓〈移臾の二音、奈米久知(なめくぢ)〉と云ふ。方言に云はく、北燕に之れを䖡蚭〈上は女陸反、下の音は尼〉と謂ふといふ。

蝸牛 山海經注云䗱螺〈上音僕〉蝸牛也本草云蝸牛〈上古華反〉㒵似螔蝓背𧴥殻耳

蝸牛 山海経注に云はく、䗱螺〈上の音は僕〉は蝸牛なりといふ。本草に云はく、蝸牛〈上は古華反〉は貌、螔蝓に似て背に殻を負ふのみといふ。

蜣蜋 本草云蜣蜋〈羌郎二音〉一名蛣蜣〈吉羌二音久曽牟之一云末呂牟之〉

蜣蜋 本草に云はく、蜣蜋〈羌郎の二音〉は一名に蛣蜣〈吉羌の二音、久曽牟之(くそむし)、一に末呂牟之(まろむし)と云ふ〉といふ。

蠐螬 本草云蠐螬〈齊曹二音〉一名蛣𧌑〈吉屈二音湏久毛牟之〉尒雅注云一名蝤蠐〈上才尤反〉

蠐螬 本草に云はく、蠐螬〈斉曹の二音〉は一名に蛣𧌑〈吉屈の二音、須久毛牟之(すくもむし)〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蝤蠐〈上は才尤反〉といふ。

䗪虫 本草云䗪虫〈上音父祖之祖〉一名蛜蝛〈伊威二音於米无之〉

䗪虫 本草に云はく、䗪虫〈上の音は父祖の祖〉は一名に蛜蝛〈伊威の二音、於米無之(おめむし)〉といふ。

蚇蠖 𠔥名苑云蚇蠖〈尺郭二音〉一名蝍䗩〈即戚二音〉尒雅注云一名蝍𧑙〈子六反〉說文云蠖〈乎歧牟之〉屈伸䖝也

蚇蠖 兼名苑に云はく、蚇蠖〈尺郭の二音〉は一名に蝍䗩〈即戚の二音〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蝍𧑙〈子六反〉といふ。説文に云はく、蠖〈乎歧牟之(をぎむし)〉は屈み伸る虫なりといふ。

螟蛉 毛詩注云螟蛉〈冥霊二音阿乎牟之〉蒼䖝也水中䖝也

螟蛉 毛詩注に云はく、螟蛉〈冥霊の二音、阿乎牟之(あをむし)〉は蒼虫なり、水、中にある虫なりといふ。

蠹 說文云蠹〈音妬乃牟之〉木中䖝也

蠹 説文に云はく、蠹〈音は妬、乃牟之(のむし)〉は木の中の虫なりといふ。

桃蠹 本草云桃蠹一名山龍蠹〈毛々乃牟之〉食桃樹䖝也

桃蠹 本草に云はく、桃蠹は一名に山竜蠹〈毛々乃牟之(もものむし)〉は桃の樹を食ふ虫なりといふ。

衣魚 本草云衣魚一名白魚一名蟫〈音滛一音覃之𫟈〉尒雅注云一名蛃魚〈上音柄〉衣書中自生䖝也

衣魚 本草に云はく、衣魚は一名に白魚、一名に蟫〈音は淫、一音に覃、之美(しみ)〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蛃魚〈上の音は柄〉、衣や書の中に自づから生える虫なりといふ。

蟬 尒雅集注云良蜩〈徒貂反〉蝘螗〈偃唐二音〉蟪蛄〈恵古二音〉螗𧋘〈唐啼二音〉蚻蜻〈札請二音〉螇螰〈奚禄二音〉皆蟬類也五采具謂之良蜩小而有文謂之蚻蜻

蝉 爾雅集注に云はく、良蜩〈徒貂反〉、蝘螗〈偃唐の二音〉、蟪蛄〈恵古の二音〉、螗𧋘〈唐啼の二音〉、蚻蜻〈札請の二音〉、螇螰〈奚禄の二音〉は皆、蝉の類なり、五采に具(かざ)れるは之れを良蜩と謂ひ、小さくして文有るは之れを蚻蜻と謂ふといふ。

蚱蟬 本草云蚱蟬〈作禅二音奈波世𫟈〉雌蝉不䏻鳴者也

蚱蝉 本草に云はく、蚱蝉〈作禅の二音、奈波世美(なはせみ)〉は雌蝉にして鳴くこと能はざる者なりといふ。

蝒蜩 尒雅注云蝒蜩一名蝒〈音綿无末世𫟈〉蟬中㝡大者也

蝒蜩 爾雅注に云はく、蝒蜩は一名に蝒〈音は綿、無末世美(むまぜみ)〉、蝉の中の最も大き者なりといふ。

寒蜩 𠔥名苑云寒蜩一名寒螿〈音漿〉一名𧕄〈音應俗云加牟世𫟈〉似蟬而小青者月令曰寒蝉鳴是

寒蜩 兼名苑に云はく、寒蜩は一名に寒螿〈音は漿〉、一名に𧕄〈音は応、俗に加牟世美(かむせみ)と云ふ〉、蝉に似て小さく青き者といふ。月令に寒蝉鳴くと曰ふは是れ。

蛁蟟 陶隠居本草注云蛁蟟〈凋遼二音字亦作虭蟧久都々々保宇之〉八月鳴者是

蛁蟟 陶隠居本草注に蛁蟟〈凋遼の二音、字は亦、虭蟧に作る、久都々々保宇之(くつくつぼうし)〉は八月に鳴く者と云ふは是れ。

茅蜩 尒雅注云茅蜩一名䘁〈子烈反比久良之〉小青蝉也

茅蜩 爾雅注に云はく、茅蜩は一名に䘁〈子烈反、比久良之(ひぐらし)〉、小さく青き蝉なりといふ。

夏蟲 荘子云夏蟲〈俗用此二字云奈都牟之〉不可似語出氷

夏虫 荘子に云はく、夏虫〈俗に此の二字を用ゐ、奈都牟之(なつむし)と云ふ〉は氷を出だし似せ語るべからずといふ。

蝶 𠔥名苑云蛺蝶〈頰牒二音〉一名野蛾〈形似蛾而色白者也〉

蝶 兼名苑に云はく、蛺蝶〈頬牒の二音〉は一名に野蛾といふ。〈形は蛾に似て色の白き者なり〉

緑𧋝 𠔥名苑云緑女一名姥𧋝〈緑𧋝也〉

緑蝶 兼名苑に云はく、緑女は一名に姥蝶といふ。〈緑蝶なり〉

紺𧋝 𠔥名苑云紺幡一名童幡〈紺𧋝也〉

紺蝶 兼名苑に云はく、紺幡は一名に童幡といふ。〈紺蝶なり〉

鳳車 崔豹古今注云鳳車一名鬼車〈保々天布〉形似𧋝而大或有斑文者也

鳳車 崔豹古今注に云はく、鳳車は一名に鬼車〈保々天布(ほほてふ)〉、形は蝶に似て大きく、或に斑の文有る者なりといふ。

蛾 說文云蛾〈音峩比々流〉蝅作𠃧䖝也

蛾 説文に云はく、蛾〈音は峨、比々流(ひひる)〉は蝅の飛ぶこと作す虫なりといふ。

蝅〈䖢附〉 說文云蠶〈昨含反俗為蝅加比古〉䖝吐絲也玉篇云䖢〈亡消反与蛾同〉蝅初生也

蚕〈䖢付〉 説文に云はく、蠶〈昨含反、俗に蚕と為、加比古(かひご)〉は虫の糸を吐くなりといふ。玉篇に云はく、䖢〈亡消反、蛾と同じ〉は蝅の初めて生るるなりといふ。

𧔞 玉篇云𧔞〈音元奈都古〉晩蝅也

𧔞 玉篇に云はく、𧔞〈音は元、奈都古(なつご)〉は晩き蝅なりといふ。

蝱 文字集略云蝱〈今案即是蚊虻之虻字之作也見下文老蝅比々〉蠒内老蝅也

蝱 文字集略に云はく、蝱〈今案ふるに即ち是れ蚊虻の虻の字の作りなり、下文に見ゆ。老蝅は比々(ひひ)〉は繭の内の老いし蝅なりといふ。

水蛭 本草云水蛭〈音質比流〉

水蛭 本草に水蛭〈音は質、比流(ひる)〉と云ふ。

馬蛭 本草云馬蛭一名馬蟥〈音黄无末比流〉蛭之大也

馬蛭 本草に云はく、馬蛭は一名に馬蟥〈音は黄、無末比流(むまびる)〉、蛭の大きなるなりといふ。

草蛭 本草云草蛭〈賀佐比流〉蛭之在草上也

草蛭 本草に云はく、草蛭〈賀佐比流(かさびる)〉は蛭の草の上に在るなりといふ。

蚯蚓 唐韵云蜿蟮〈苑善二音〉蚯蚓也本草云蚯蚓〈丘引二音𫟈々湏〉𠔥名苑云蜸蚕〈犬典二音〉一名螼蚓〈蚯螾也螼音謹今案螾即蚓字也見漢書注〉

蚯蚓 唐韻に云はく、蜿蟮〈苑善の二音〉は蚯蚓なりといふ。本草に蚯蚓〈丘引の二音、美々須(みみず)〉と云ふ。兼名苑に云はく、蜸蚕〈犬典の二音〉は一名に螼蚓といふ。〈蚯螾なり、螼の音は謹、今案ふるに螾は即ち蚓の字なり、漢書注に見ゆ〉

白頸蚯蚓 本草云白頸蚯蚓一名圡龍〈可不良𫟈々湏〉

白頸蚯蚓 本草に云はく、白頸蚯蚓は一名に土竜といふ。〈可不良美々須(かぶらみみず)〉

蝦蟇〈科斗附〉 唐韵云蛙〈烏蝸反古文作鼃加閇流〉蝦蟇也𠔥名苑云蝦蟇〈遐麻二音〉一名螻蟈〈婁国二音〉又唐韵云蛞𧓕〈活東二音〉科斗也蝌蚪〈科斗二音〉蝦蟇子也

蝦蟇〈科斗付〉 唐韻に云はく、蛙〈烏蝸反、古文に鼃に作る、加閉流(かへる)〉は蝦蟇なりといふ。兼名苑に云はく、蝦蟇〈遐麻の二音〉は一名に螻蟈〈婁国の二音〉といふ。又、唐韻に云はく、蛞𧓕〈活東の二音〉は科斗なり、蝌蚪〈科斗の二音〉は蝦蟇子なりといふ。

青蝦蟇 陶隠居曰蝦蟇大而青脊謂之圡鴨〈阿乎加閇流〉

青蝦蟇 陶隠居に曰はく、蝦蟇の大くして青き脊なるは之れを土鴨〈阿乎加閉流(あをがへる)〉と謂ふといふ。

黒蝦蟇 同注云蝦蟇黒色謂之蛤子〈都知加倍流〉

黒蝦蟇 同注に云はく、蝦蟇の黒き色なるは之れを蛤子〈都知加倍流(つちがへる)〉と謂ふといふ。

蛙黽 本草云蛙黽〈莫耿反阿末加倍流〉形小如蝦蟇而青色者也

蛙黽 本草に云はく、蛙黽〈莫耿反、阿末加倍流(あまがへる)〉は形小さく、蝦蟇の如くして青き色の者なりといふ。

蟾蜍 𠔥名苑云蟾蜍〈占徐二音蜍或作蠩一音余比歧〉形似蝦蟇而大陸居者也

蟾蜍 𠔥名苑に云はく、蟾蜍〈占徐二音、蜍は或に蠩に作る。一音に余、比岐(ひき)〉は形、蝦蟇に似て大きく、陸に居る者なりといふ。

蜘蛛 本草云蜘蛛〈知誅二音〉一名䖦〓〔虫偏に舞〕〈拙牟二音久毛〉𠔥名苑云鼅鼄〈今案即蜘蛛二字也〉一名蝳蜍〈毒余二音〉

蜘蛛 本草に云はく、蜘蛛〈知誅の二音〉は一名に䖦〓〔虫偏に舞〕〈拙牟の二音、久毛(くも)〉といふ。兼名苑に云はく、鼅鼄〈今案ふるに即ち蜘蛛の二字なり〉は一名に蝳蜍〈毒余の二音〉といふ。

蟰蛸 尒雅注云蟰蛸〈蕭梢二音〉一名蟢子〈上音喜阿之太加乃久毛〉小蜘蛛之長脚者也

蟰蛸 爾雅注に云はく、蟰蛸〈蕭梢の二音〉は一名に蟢子〈上の音は喜、阿之太加乃久毛(あしたかのくも)〉は小さき蜘蛛の長き脚の者なりといふ。

蝿虎 𠔥名苑注云蝿虎〈波倍止利〉此䖝似蜘蛛恒捕蠅為粮者也

蝿虎 兼名苑注に云はく、蝿虎〈波倍止利(はへとり)〉、此の虫は蜘蛛に似て恒に蝿を捕り粮と為る者なりといふ。

蜂〈𧍙附〉 說文云蜂蠆〈峯帯二音波知〉螫人䖝也四声字苑云𧍙〈音范〉蜂子也

蜂〈𧍙付〉 説文に云はく、蜂蠆〈峯帯の二音、波知(はち)〉は人を螫(さ)す虫なりといふ。四声字苑に云はく、𧍙〈音は范〉は蜂の子なりといふ。

圡蜂 尒雅注云圡蜂〈由湏留波遲〉大蜂之在地中作房者也

土蜂 爾雅注に云はく、土蜂〈由須留波遅(ゆするばち)〉は大きな蜂の地の中に在りて房を作る者なりといふ。

木蜂 同集注云木蜂〈𫟈加波知〉似圡蜂而小在樹上作房者也

木蜂 同集注に云はく、木蜂〈美加波知(みかばち)〉は土蜂に似て小さく、樹の上に在りて房を作る者なりといふ。

蜜蜂〈蜚零附〉 方言注云蜜蜂〈𫟈知波知蜜見飲食部〉黒蜂在竹木為孔又有室者也本草云蜂子一名大黄蜂子一名蜚零〈今案蜚者古飛字也〉

蜜蜂〈蜚零付〉 方言注に云はく、蜜蜂〈美知波知(みちばち)、蜜は飲食部に見ゆ〉は黒き蜂、竹木に在りて孔を為り、又、室有る者なりといふ。本草に云はく、蜂子は一名に大黄蜂子、一名に蜚零といふ〈今案ふるに蜚は古の飛の字なり〉。

蠮螉 尒雅注云蠮螉〈恱翁二音佐曽利〉似蜂而細𦝫者也𠔥名苑云一名蜾蠃〈果裸二音〉

蠮螉 爾雅注に云はく、蠮螉〈悦翁の二音、佐曽利(さそり)〉は蜂に似て細腰の者なりといふ。兼名苑に云はく、一名に蜾蠃〈果裸の二音〉といふ。

蚊 四声字苑云蚊〈音文賀〉小𠃧蟲夏月夜噬人也

蚊 四声字苑に云はく、蚊〈音は文、賀(か)〉は小さく飛ぶ虫にして夏月の夜に人を噬ふなりといふ。

䖟 說文云䖟〈莫衡反与亡同字亦作蝱阿夫〉齧人𠃧䖝也

䖟 説文に云はく、䖟〈莫衡反、亡と同じ、字は亦、蝱に作る、阿夫(あぶ)〉は人を齧みて飛ぶ虫なりといふ。

蠅〈䏣附〉 方言云陳楚之間謂之蠅〈音膺波倍〉東齊之間謂之羊〈郭璞曰蠅羊此轉語耳〉声類云䏣〈音且又去声波閇乃古〉蠅子也說文云蠅乳肉中也

蝿〈䏣付〉 方言に云はく、陳楚の間に之れを蝿〈音は膺、波倍(はへ)〉と謂ひ、東斉の間に之れを羊〈郭璞に蝿羊は此の転語なるのみと曰ふ〉と謂ふといふ。声類に云はく、䏣〈音は且、又、去声、波閉乃古(はへのこ)〉は蝿の子なりといふ。説文に云はく、蝿は肉の中に乳(やしな)ふなりといふ。

狗蠅 𠔥名苑云狗蠅一名犬蠅着於犬者也

狗蠅 兼名苑に云はく、狗蝿は一名に犬蝿、犬に着く者なりといふ。

守瓜 尒雅注云蠸一名守瓜〈蠸音權宇利波閇〉食瓜葉者也

守瓜 爾雅注に云はく、蠸は一名に守瓜〈蠸の音は権、宇利波閉(うりばへ)〉、瓜の葉を食ふ者なりといふ。

蝗蝮 尒雅集注云蝗〈古孟反一音皇於保祢无之〉食苗曰螟〈音冥〉食𦯧曰𧊇〈音貸〉食莭曰𧒿〈音賊〉食根曰蝥〈音謀〉蝗惣名也𠔥名苑注云蝮蜪〈覆陶二音〉蝗子未有翅也

蝗蝮 爾雅集注に云はく、蝗〈古孟反、一音に皇、於保禰無之(おほねむし)〉は苗を食ふを螟〈音は冥〉と曰ひ、葉を食ふを𧊇〈音は貸〉と曰ひ、節を食ふを𧒿〈音は賊〉と曰ひ、根を食ふを蝥〈音は謀〉と曰ひ、蝗は惣名なりといふ。兼名苑注に云はく、蝮蜪〈覆陶の二音〉は蝗子の未だ翅有らざるなりといふ。

螻蛄 本草云螻蛄〈婁姑二音〉一名〓〔穀冠に虫〕〈胡木反字亦作𧎅介良〉方言云螻𧍱〈音室〉蒋魴切韵云鼫䑕〈上音石〉有五能々𠃧不能過屋能啼不能囀声能泅〈浮行也音龱又音游〉不能渡瀆能縁不能窮木能耕不能掩身喻人之短藝即螻蛄也

螻蛄 本草に云はく、螻蛄〈婁姑の二音〉は一名に〓〔穀冠に虫〕〈胡木反、字は亦、𧎅に作る、介良(けら)〉といふ。方言に螻𧍱〈音は室〉と云ふ。蒋魴切韻に云はく、鼫鼠〈上の音は石〉に五つの能有り、能く飛びて屋を過ぐること能はず、能く啼きて声を囀らすこと能はず、能く泅(およ)〈浮き行くなり。音は囚、又、音は游〉ぎて涜(みぞ)を渡ること能はず、能く縁りて木を窮むること能はず、能く耕して身を掩(おほひかく)すこと能はず、人に喩えるに短(つたな)き芸は即ち螻蛄なりといふ。

大蟻〈蚳蝝附〉 尒雅集注云蚍蜉〈毗浮二音〉一名馬螘〈冝倚反今案即蟻字也見玉篇於保阿利〉大蟻也野王案蚳蝝〈遲鈆二音〉蟻子也𠔥名苑曰一名玄駒〈上音兼猗反又作螘阿利〉

大蟻〈蚳蝝付〉 爾雅集注に云はく、蚍蜉〈毘浮の二音〉は一名に馬螘〈宜倚反、今案ふるに即ち蟻の字なり、玉篇に見ゆ、於保阿利(おほあり)〉、大蟻なりといふ。野王案に、蚳蝝〈遅鉛の二音〉は蟻の子なりとす。兼名苑に一名は玄駒〈上の音は兼猗反、又、螘に作る、阿利(あり)〉と曰ふ。

赤蟻 同集注云赤駮蚍蜉一名蠪虰〈龍偵二音伊比阿利〉赤蟻也

赤蟻 同集注に云はく、赤駮の蚍蜉は一名に蠪虰〈竜偵の二音、伊比阿利(いひあり)〉、赤蟻なりといふ。

飛蟻 同集注云螱〈音尉〉一名飛蟻〈波阿利〉蟻有翼而能𠃧者也

飛蟻 同集注に云はく、螱〈音は尉〉は一名に飛蟻〈波阿利(はあり)〉、蟻の翼有りて能く飛ぶ者なりといふ。

蟣虱 說文云蟣〈音幾歧佐々〉虱子也虱〈㪽乙反之良𫟈〉齧人䖝也

蟣虱 説文に云はく、蟣〈音は幾、岐佐々(きささ)〉は虱の子なり、虱〈所乙反、之良美(しらみ)〉は人を齧む虫なりといふ。

蚤 說文云蚤〈音早乃𫟈〉齧人跳䖝也

蚤 説文に云はく、蚤〈音は早、乃美(のみ)〉は人を齧み跳ぶ虫なりといふ。

蜹 野王案蜹〈如稅反与芮同太迩〉今有小䖝善齧人謂之含毒即是

蜹 野王案に蜹〈如税反、芮と同じ、太邇(だに)〉とし、今に小さき虫有りて善く人を齧み、之れは毒を含むと謂ふは即ち是。

𧔎 蒋魴切韵云𧔎〈音魯𫟈加良〉井水中小䖝也

𧔎 蒋魴切韻に云はく、𧔎〈音は魯、美加良(みがら)〉は井の水中の小さき虫なりといふ。

蠁子 同切韵云蠁子〈上音饗佐之〉酒醑上小𠃧䖝也

蠁子 同切韻に云はく、蠁子〈上の音は饗、佐之(さし)〉は酒醑の上の小さき飛虫なりといふ。

蛄䗐 尒雅集注云蛄䗐〈姑翅二音与奈牟之〉今穀米中蠹小黒䖝也

蛄䗐 爾雅集注に云はく、蛄䗐〈姑翅の二音、与奈牟之(よなむし)〉は今、穀米の中に蠹(むしは)む小さく黒き虫なりといふ。

蜏 唐韵云蜏〈音誘漢語抄云比乎牟之〉朝生暮死䖝名也

蜏 唐韻に云はく、蜏〈音は誘、漢語抄に比乎牟之(ひをむし)と云ふ〉は朝に生れ暮に死ぬ虫の名なりといふ。

蠛蠓 尒雅集注云蠛蠓〈上亡結反下亡孔反漢語抄云加豆乎无之日本紀私記云蠛末久奈歧〉小䖝乱𠃧也磑則天風舂則天雨

蠛蠓 爾雅集注に云はく、蠛蠓〈上は亡結反、下は亡孔反。漢語抄に加豆乎無之(かつをむし)と云ふ。日本紀私記に蠛は末久奈岐(まぐなき)と云ふ〉は小さき虫にして乱れ飛ぶなりといふ。磑(ひ)くときは則ち天の風のごとし、舂(つ)くときは則ち天の雨のごとし。

蟲體百十三

虫体百十三

蟠 野王案蟠〈音煩訓和太加末流〉龍虵卧㒵也

蟠 野王案に、蟠〈音は煩、訓は和太加末流(わだかまる)〉は竜蛇の臥す貌なりといふ。

蚑行 唐韵云蚑〈音歧訓波布〉䖝行也

蚑行 唐韻に云はく、蚑〈音は岐、訓は波布(はふ)〉は虫の行くなりといふ。

蠢動 野王案蠢〈音准訓牟久米久〉䖝動揺㒵貌也

蠢動 野王案に、蠢〈音は准、訓は牟久米久(むぐめく)〉は虫の動き揺ぐ貌なりといふ。

螫 應劭漢書注云蠚〈丑略反又呵各反〉螫也野王案螫〈音釋訓佐湏〉蜂蠆行毒也

螫 応劭漢書注に云はく、蠚〈丑略反、又、呵各反〉は螫なりといふ。野王案に、螫〈音は釈、訓は佐須(さす)〉は蜂蠆の毒を行ふなりとす。

蛻〈虵蛻附〉 野王案云蛻〈如說反一音稅訓毛奴久〉蝉之解皮也本草云虵肌一名龍子衣〈倍𫟈乃毛沼介〉

蛻〈蛇蛻付〉 野王案に云はく、蛻〈如説反、一音に税、訓は毛奴久(もぬく)〉は蝉の皮を解くなりといふ。本草に云はく、蛇肌は一名に竜子衣といふ〈倍美乃毛沼介(へみのもぬけ)〉。

蟄 野王案蟄〈除立反訓湏古毛流〉䖝至冬隠不出也

蟄 野王案に、蟄〈除立反、訓は須古毛流(すごもる)〉は虫の冬に至るに隠れて出でざるなりとす。

化 淮南子云䖝八日而化

化 淮南子に云はく、虫は八日にして化(ば)くといふ。

和名類聚抄巻第八

和名類聚抄巻第八

和名類聚抄卷第九

和名類聚抄巻第九  

稲穀部第廿一 菜蔬部第廿二 果蓏部第廿三

 稲穀部第二十一 菜蔬部第二十二 果蓏部第二十三

稲穀部第廿一

稲穀部第二十一  

稲穀類百十四 稲穀具百十五

 稲穀類百十四 稲穀具百十五

稲穀類百十四

稲穀類百十四

稲 唐韵云稲〈徒皓反以祢早稲和世晩稲比祢〉𥝲稲也𥻧〈音𠔥漢語抄云𫟈之侶乃以祢〉青稲白米也

稲 唐韻に云はく、稲〈徒皓反、以禰(いね)、早稲は和世(わせ)、晩稲は比禰(ひね)〉は秔稲なり、𥻧〈音は兼、漢語抄に美之侶乃以禰(みしろのいね)〉は青稲白米なりといふ。

穀 周礼注云五穀〈古禄反日本紀私記云伊豆々乃太奈都毛乃〉黍稷菽麥稲也礼記月令注云稷麻豆麥禾也

穀 周礼注に云はく、五穀〈古禄反、日本紀私記に伊豆々乃太奈都毛乃(いつつのたなつもの)と云ふ〉は黍、稷、菽、麦、稲なりといふ。礼記月令注に云はく、稷、麻、豆、麦、禾なりといふ。

穭 唐匀云穭〈音呂於路加於比俗云比豆知〉自生稲也

穭 唐韻に云はく、穭〈音は呂、於路加於比(おろかおひ)、俗に比豆知(ひづち)と云ふ〉は自から生ゆる稲なりといふ。

米 陸詞切匀云米〈莫礼反与祢〉穀實也

米 陸詞切韻に云はく、米〈莫礼反、与禰(よね)〉は穀の実なりといふ。

𥻟 蒼頡篇云𥻟〈奴乱反𥻟米毛知乃与祢〉米之黏也

𥻟 蒼頡篇に云はく、𥻟〈奴乱反、𥻟米は毛知乃与禰(もちのよね)〉は米の黏るなりといふ。

𥝲米 本草云𥝲米〈上音庚字亦作粳〉一名〓〔米偏に𠤎〕米〈上音𠤎宇流之祢〉

秔米 本草に云はく、秔米〈上の音は庚、字は亦、粳に作る〉は一名に〓〔米偏に𠤎〕米〈上の音は𠤎、宇流之禰(うるしね)〉といふ。

𥽦米 唐匀云𥽦米〈上蔵洛反与作同漢語抄云末之良介乃与祢〉精細米也

𥽦米 唐韻に云はく、𥽦米〈上は蔵洛反、作と同じ。漢語抄に末之良介乃与禰(ましらげのよね)〉は精げし細かき米なりといふ。

粺米 楊氏漢語抄云粺米〈之良介与祢上音傍卦反去声之輕与批同〉精米也

粺米 楊氏漢語抄に云はく、粺米〈之良介与禰(しらげよね)、上の音は傍卦反、去声の軽、批と同じ〉は精げ米なりといふ。

糲米 崔禹食經云烏米一名糲米〈上音剌比良之良介乃与祢〉烏米謂舂一斛成八斗之米也

糲米 崔禹食経に云はく、烏米は一名に糲米〈上の音は剌、比良之良介乃与禰(ひらしらげのよね)〉、烏米は一斛を舂きて八斗の米を成すを謂ふなりといふ。

糙米 唐匀云糙米〈上音造漢語抄云毛𫟈与祢一云加知之祢〉米穀雜也

糙米 唐韻に云はく、糙米〈上の音は造、漢語抄に毛美与祢(もみよね)と云ひ、一に加知之禰(かちしね)と云ふ〉は米の穀の雑るなりといふ。

糄米 唐匀云糄米〈上音篇今案糄米也岐古米〉焼稲為米也

糄米 唐韻に云はく、糄米〈上の音は篇、今案ふるに糄米は也岐古米(やきごめ)〉は稲を焼きて米と為るなりといふ。

大麥 陶隠居曰麥〈莫革反〉五穀之長也蘓敬曰大麥一名青科麥〈布度牟岐一云加知加太〉

大麦 陶隠居に曰はく、麦〈莫革反〉は五穀の長なりといふ。蘇敬に曰はく、大麦は一名に青科麦といふ。〈布度牟岐(ふとむぎ)、一に加知加太(かちがた)と云ふ〉

小麥 周礼注云九穀者稷黍稲粱菽麻大豆小豆小麦〈古无岐一云万牟岐〉

小麦 周礼注に云はく、九穀は稷、黍、稲、粱、菽、麻、大豆、小豆、小麦〈古無岐(こむぎ)、一に万牟岐(まむぎ)と云ふ〉といふ。

蕎麥 孟詵食經云蕎麦〈上音喬一音驕曽波牟岐〉

蕎麦 孟詵食経に蕎麦〈上の音は喬、一音に驕、曽波牟岐(そばむぎ)〉と云ふ。

粟 唐匀云粟〈相玉反阿波〉禾子也崔禹曰禾〈音和〉是穂名被含稃未成米也

粟 唐韻に云はく、粟〈相玉反、阿波(あは)〉は禾の子なりといふ。崔禹に曰はく、禾〈音は和〉は是れ穂の名、稃を被ひ含みて未だ米に成らざるなりといふ。

丹黍 本屮云丹黍〈音𣆎〉一名赤黍一名黄黍〈阿加岐々比〉

丹黍 本草に云はく、丹黍〈音は鼠〉は一名に赤黍、一名に黄黍といふ。〈阿加岐々比(あかききび)〉

秬黍 本草云秬黍〈上音巨〉一名黒黍〈久呂岐比〉

秬黍 本草に云はく、秬黍〈上の音は巨〉は一名に黒黍といふ。〈久呂岐比(くろきび)〉

秫 尒雅注云秫〈音述〉黏粟也本草云穡米〈上子力反〉一名粟秫〈岐比乃毛知〉蘓敬曰一名穄〈音祭〉

秫 爾雅注に云はく、秫〈音は述〉は黏る粟なりといふ。本草に云はく、穡米〈上は子力反〉は一名に粟秫といふ〈岐比乃毛知(きびのもち)〉。蘇敬に曰はく、一名に穄〈音は祭〉といふ。

粱米 崔禹曰粱米〈上音梁〉一名𦬊粟〈上音起〉一名糩米〈上音㑹阿波乃宇留之祢〉一名白粱一名圎米

粱米 崔禹に曰はく、粱米〈上の音は梁〉は一名に𦬊粟〈上の音は起〉、一名に糩米〈上の音は会、阿波乃宇留之禰(あはのうるしね)〉、一名に白粱、一名に円米といふ。

大豆 本草云大豆〈徒闘反〉一名菽〈音叔末米〉

大豆 本草に云はく、大豆〈徒闘反〉は一名に菽〈音は叔、末米(まめ)〉といふ。

烏豆 崔禹曰烏豆一名雄豆〈久呂末女〉圎而黒者也

烏豆 崔禹に曰はく、烏豆は一名に雄豆〈久呂末女(くろまめ)〉は円くして黒き者なりといふ。

䴏豆 同食經曰䴏豆〈曽比末米〉紫赤色者也

䴏豆 同食経に曰はく、䴏豆〈曽比末米(そびまめ)〉は紫赤色の者なりといふ。

珂孚豆 同經曰珂孚豆〈井知古末女〉狀圎々似玉而可愛故以名之

珂孚豆 同経に曰はく、珂孚豆〈井知古末女(ゐちこまめ)〉は状、円々(まるまる)として玉に似て愛づべし、故に以て之れを名くといふ。

大角豆 同經曰大角豆一名白角豆〈佐々介〉色如牙角故以名之其一殻含数十粒離々結房〈離々讀布佐奈流見文選〉

大角豆 同経に曰はく、大角豆は一名に白角豆〈佐々介(ささげ)〉、色は牙角の如し、故に以て之れを名く、其の一つの殻に数十粒を含みて離々結房といふ〈離々は布佐奈流(ふさなる)と読む、文選に見ゆ〉。

小豆 本草云赤小豆〈阿加安豆岐〉崔禹食經云黒小豆紫小豆黄小豆緑小豆皆同類也

小豆 本草に赤小豆〈阿加安豆岐(あかあづき)〉と云ふ。崔禹食経に云はく、黒小豆、紫小豆、黄小豆、緑小豆は皆、同じ類なりといふ。

野豆 本草䟽云豌豆〈上於𠁽反〉一名野豆〈乃良万女〉

野豆 本草疏に云はく、豌豆〈上は於丸反〉は一名に野豆といふ。〈乃良万女(のらまめ)〉

〓〔艹冠に偏〕豆 弁色立成云〓〔艹+偏〕豆〈阿知万米上音𨕙辺又比顕反〉籬上豆也

〓〔艹冠に偏〕豆 弁色立成に云はく、〓〔艹+偏〕豆〈阿知万米(あぢまめ)、上の音は辺、又、比顕反〉は籬の上の豆なりといふ。

胡麻 陶隠居曰胡麻〈此间音五末訛云宇古万〉本出大宛故以名之

胡麻 陶隠居に曰はく、胡麻〈此の間に音は五末、訛りて宇古万(うごま)と云ふ〉は本(もと)、大宛に出づ、故に以て之れを名くといふ。

荏 野王案𦯧細而香其實黒者曰蘓〈新撰本草云乃良江一云奴加江〉𦯧大而有毛其實白者曰荏〈而枕反衣〉此二物𧈧一類其状不同耳

荏 野王案に、葉の細くして香り、其の実の黒き者を蘇〈新撰本草に乃良江(のらえ)と云ひ、一に奴加江(ぬかえ)と云ふ〉と曰ひ、葉の大きくして毛有り、其の実の白き者を荏〈而枕反、衣(え)〉と曰ふとす。此の二つの物、一つの類と雖も其の状は同じからざるのみ。

香葇 楊氏漢語抄云香葇〈音柔以奴江〉一云水蘓

香葇 楊氏漢語抄に云はく、香葇〈音は柔、以奴江(いぬえ)〉は一に水蘇と云ふといふ。

薭 左傳注云薭〈音𠈷比衣〉草之似穀者也

薭 左伝注に云はく、薭〈音は俾、比衣(ひえ)〉は草の穀に似る者なりといふ。

葟子 本朝式云葟子〈上音皇𫟈能〉

葟子 本朝式に葟子〈上の音は皇、美能(みの)〉と云ふ。

稲穀具百十五

稲穀具百十五

種子 日本紀私記云水田種子〈太奈都毛乃〉陸田種子〈波多介豆毛乃種之隴反太祢〉

種子 日本紀私記に、水田種子〈太奈都毛乃(たなつもの)〉、陸田種子〈波多介豆毛乃(はたけつもの)、種は之隴反、太禰(たね)〉と云ふ。

粒 説文云粒〈音立伊奈豆比〉米實也

粒 説文に云はく、粒〈音は立、伊奈豆比(いなつび)〉は米の実なりといふ。

粰 尒雅云秬者黒黍一稃二米〈秬黍也見上文〉説文云稃〈音孚字亦作𥞂以祢乃加比〉米甲也

粰 爾雅に云はく、秬は黒黍、一つの稃に二つの米ありといふ〈秬は黍なり、上文に見ゆ〉。説文に云はく、稃〈音は孚、字は亦、𥞂に作る。以禰乃加比(いねのかび)〉は米の甲(よろひ)なりといふ。

糠〈𫝖糠附〉 尒雅注云糠〈音康沼賀〉米皮也唐匀云糩〈音㑹阿良奴加〉𫝖糠也

糠〈麁糠付〉 爾雅注に云はく、糠〈音は康、沼賀(ぬか)〉は米の皮なりといふ。唐韻に云はく、糩〈音は会、阿良奴加(あらぬか)〉は麁糠なりといふ。

𥝖糏 唐匀云𥝖〈下𣳚反字亦作麧古女佐岐一云阿良毛度〉𥝖糏漢書食穅𥝖是糏〈先結反〉米麥破也

𥝖糏 唐韻に云はく、𥝖〈下没反、字は亦、麧に作る、古女佐岐(こめさき)、一に阿良毛度(あらもと)と云ふ〉は𥝖糏なりといふ。漢書に穅𥝖を食ふとは是、糏〈先結反〉は、米麦の破れるなり。

粃 野王案云粃〈比之反去声之比奈世〉穀實但有皮而無米也

粃 野王案に云はく、粃〈比之反、去声、之比奈世(しひなせ)〉は穀の実、但し皮有りて米無きなりといふ。

秳 唐匀云秳〈音活乃古利之祢〉舂穀不潰者也

秳 唐韻に云はく、秳〈音は活、乃古利之禰(のこりしね)〉は穀を舂きて潰えざる者なりといふ。

穗 唐匀云頴〈餘頃反訓加尾〉穗也穗〈音遂訓保〉禾穀米也

穂 唐韻に云はく、穎〈余頃反、訓は加尾(かび)〉は穂なり、穂〈音は遂、訓は保(ほ)〉は禾穀米なりといふ。

芒 薩珣曰芒〈音亡乃岐〉禾穗芒也廣志云稲有紫芒稲赤穬稲〈今案穬亦芒也音古猛反具見唐匀〉

芒 薩珣に曰はく、芒〈音は亡、乃岐(のぎ)〉は禾穂の芒なりといふ。広志に云はく、稲に紫芒稲、赤穬稲〈今案ふるに穬は亦、芒なり、音は古猛反、具に唐韻に見ゆ〉有りといふ。

秉 薩珣曰秉〈音丙訓以奈太波利見毛詩〉禾束也四声字苑云穧〈在詣反今案田野人云揀稲之揀是〉刈把数也

秉 薩珣に曰はく、秉〈音は丙、訓は以奈太波利(いなたばり)、毛詩に見ゆ〉は禾束なりといふ。四声字苑に云はく、穧〈在詣反、今案ふるに、田野の人の揀稲の揀を云ふは是〉は刈り把る数なりといふ。

藁 麻果曰藁〈古老反訓和良〉禾莖也

藁 麻果に曰はく、藁〈古老反、訓は和良(わら)〉は禾の茎なりといふ。

麥奴 新録單要云麥奴〈牟岐乃久呂𫟈〉

麦奴 新録単要に麦奴〈牟岐乃久呂美(むぎのくろみ)〉と云ふ。

麩 説文云麩〈音扶字亦作麱无岐加湏〉小麥皮屑也

麩 説文に云はく、麩〈音は扶、字は亦、麱に作る、無岐加須(むぎかす)〉は小麦の皮屑なりといふ。

䅌 野王案云䅌〈音㳙无岐加良〉麥莖也

䅌 野王案に云はく、䅌〈音は涓、無岐加良(むぎがら)〉は麦の茎なりといふ。

萁 同案云騏〈音其字亦作萁末女加良〉豆莖也

萁 同案に云はく、騏〈音は其、字は亦、萁に作る、末女加良(まめがら)〉は豆の茎なりといふ。

腐婢 蘓敬本草注云腐婢〈阿豆岐乃波奈〉小豆花名也

腐婢 蘇敬本草注に云はく、腐婢〈阿豆岐乃波奈(あづきのはな)〉は小豆の花の名なりといふ。

菜蔬部第廿二

菜蔬部第二十二  

䔉類百十六 藻類百十七 菜類百十八

 蒜類百十六 藻類百十七 菜類百十八

䔉類百十六

蒜類百十六

蒜〈蒜顆附〉 唐匀云蒜〈音筭比流〉葷菜也葷〈音軍今案大小蒜惣名也〉臭菜也楊氏漢語抄云蒜顆〈比流佐岐今案顆小頭也音果見玉篇〉

蒜〈蒜顆付〉 唐韻に云はく、蒜〈音は算、比流(ひる)〉は葷菜なり、葷〈音は軍、今案ふるに大き小さき蒜の惣名なり〉は臭菜なりといふ。楊氏漢語抄に蒜顆〈比流佐岐(ひるさき)といふ。今案ふるに顆は小さき頭なり、音は果、玉篇に見ゆ〉と云ふ。

大蒜 本屮云葫〈音胡於保比流〉味辛温除風者也兼名苑云葫一名𩐏〈大蒜也下音煩〉

大蒜 本草に云はく、葫〈音は胡、於保比流(おほびる)〉は味は辛、温、風を除く者なりといふ。兼名苑に云はく、葫は一名に𩐏〈大蒜なり、下の音は煩〉といふ。

小蒜 陶隠居曰小蒜〈古比流一名米比流〉生𦯧時可煑和食之至五月𦯧枯取根噉之甚薫臭性辛𤍽

小蒜 陶隠居に曰はく、小蒜〈古比流(こびる)、一名に米比流(めびる)〉は葉を生す時に煮和へて之れを食ふべし、五月に至りて葉枯るれば根を取りて之れを噉ふ、甚だ薫り臭ひ、性は辛、熱といふ。

獨子蒜 崔禹食經云獨子蒜〈比度豆比流〉一云獨子葫孟詵食經云獨頭蒜

独子蒜 崔禹食経に独子蒜〈比度豆比流(ひとつびる)〉と云ひ、一に独子葫と云ふ。孟詵食経に独頭蒜と云ふ。

澤蒜 兼名苑云澤蒜一名䕾〈音嚴祢比流〉水蒜也生水中𦯧形氣味不異家蒜

沢蒜 兼名苑に云はく、沢蒜は一名に䕾〈音は厳、祢比流(ねびる)〉、水蒜なり、水中に生え、葉形、気味は家蒜に異ならずといふ。

嶋蒜 楊氏漢語抄云嶋蒜〈阿佐豆岐式文用之〉

島蒜 楊氏漢語抄に島蒜〈阿佐豆岐(あさつき)、式の文に之れを用ゐる〉と云ふ。

䓗 本草云䓗〈音聡岐〉莖冷葉𤍽者也蘓敬曰䓗有數種山䓗曰茖〈古百反〉

葱 本草に云はく、葱〈音は聡、岐(き)〉の茎は冷、葉は熱なる者なりといふ。蘇敬注に曰はく、葱に数種有り、山葱を茖〈古百反〉と曰ふといふ。

冬䓗 廣志云䓗有冬春二種蘇敬曰䓗又有凍䓗凌冬不死充食〈今案凍䓗即冬䓗也訓不由岐〉

冬葱 広志に云はく、葱に冬春の二種有りといふ。蘇敬に曰はく、葱は又、凍葱有り、冬を凌ぎて死(か)れず食に充つといふ。〈今案ふるに凍葱は即ち冬葱なり、訓は不由岐(ふゆき)〉

薤 本草云薤〈胡介反与械同於保𫟈良〉味辛苦无毒者也蘓敬曰是韮類也

薤 本草に云はく、薤〈胡介反、械と同じ、於保美良(おほみら)〉は味は辛、苦、毒無き者なりといふ。蘇敬に曰はく、是れ韮の類なりといふ。

韮 本屮云韮〈音玖古𫟈良〉味辛酸温无毒者也

韮 本草に云はく、韮〈音は玖、古美良(こみら)〉は味は辛、酸、温、毒無き者なりといふ。

藻類百十七

藻類百十七

藻 毛詩注云藻〈音早毛一云毛波〉水中菜也文選云海苔之屬〈海苔即海藻也〉崔禹食經云沈者曰藻浮者曰蘋〈音頻今案蘋又大萍名也〉

藻 毛詩注に云はく、藻〈音は早、毛(も)、一に毛波(もは)と云ふ〉は水中の菜なりといふ。文選に海苔の属と云ふ〈海苔は即ち海藻なり〉。崔禹食経に云はく、沈む者を藻と曰ひ、浮く者を蘋〈音は頻、今案ふるに蘋は又、大萍の名なり〉と曰ふといふ。

昆布 本草云昆布〈比呂米一云衣比湏女〉味醎寒无毒生東海陶隠居曰黄黒色柔細可食之

昆布 本草に云はく、昆布〈比呂米(ひろめ)、一に衣比須女(えびすめ)と云ふ〉は味は鹹、寒、毒無し、東海に生ゆといふ。陶隠居に曰はく、黄黒き色にして柔らかく細きは之れを食ふべしといふ。

海藻 本草云海藻〈迩岐米俗用和布字〉味苦醎寒無毒者也本朝令云滑海藻〈阿良米俗用荒布〉末滑海藻〈加知女俗用搗布搗者搗末之義也〉

海藻 本草に云はく、海藻〈邇岐米(にきめ)、俗に和布の字を用ゐる〉は味は苦、鹹、寒、毒無き者なりといふ。本朝令に云はく、滑海藻〈阿良米(あらめ)、俗に荒布を用ゐる〉は末滑海藻〈加知女(かちめ)、俗に搗布を用ゐる。搗は搗末の義なり〉といふ。

海松 崔禹食經云水松〈𫟈流楊氏漢語抄云海松式文同用之〉狀如松而無𦯧者也

海松 崔禹食経に云はく、水松〈美流(みる)。楊氏漢語抄に海松と云ひ、式の文に同じく之れを用ゐる〉は状、松の如くして葉無き者なりといふ。

陟厘 本草云陟𨤲〈音緾一本作〓〔勑冠に厘〕阿乎乃利俗用青苔〉

陟厘 本草に陟厘〈音は緾、一本に〓〔勑冠に厘〕に作る。阿乎乃利(あをのり)、俗に青苔を用ゐる〉と云ふ。

神仙菜 崔禹食經云紫菜〈楊氏漢語抄云阿末乃利俗用甘苔〉狀如紫帛凝生石上是物有三四種以紫色為勝俗呼曰神仙菜

神仙菜 崔禹食経に云はく、紫菜〈楊氏漢語抄に阿末乃利(あまのり)と云ひ、俗に甘苔を用ゐる〉は状、紫帛の如くして石の上に凝り生ゆ、是の物に三四種有り、紫色を以て勝れりと為といふ。俗に呼びて神仙菜と曰ふ。

紫菜 兼名苑云紫菜一名石萕〈牟良佐岐乃利俗用紫苔〉

紫菜 兼名苑に云はく、紫菜は一名に石薺といふ。〈牟良佐岐乃利(むらさきのり)、俗に紫苔を用ゐる〉

海蘿 崔禹食經云海蘿〈不能利俗用布苔〉味渋醎大冷無毒其性滑々然主九竅

海蘿 崔禹食経に云はく、海蘿〈不能利(ふのり)、俗に布苔を用ゐる〉は味は渋、鹹、大冷、毒無し、其の性は滑々然として九竅を主るといふ。

鷄冠菜 楊氏漢語抄云鷄冠菜〈度理佐加乃利式文用鳥坂苔〉

鶏冠菜 楊氏漢語抄に鶏冠菜〈度理佐加乃利(とりさかのり)、式の文に鳥坂苔を用ゐる〉と云ふ。

於期菜 本朝式云於期菜

於期菜 本朝式に於期菜と云ふ。

海髮 崔禹食經云海髮〈伊岐湏楊氏抄云小凝菜〉味醎小冷其色黒狀如乱髮者也

海髪 崔禹食経に云はく、海髪〈伊岐須(いぎす)、楊氏抄に小凝菜と云ふ〉、味は鹹、小冷、其の色は黒く、状は乱れ髪の如き者なりといふ。

大凝菜 楊氏漢語抄云大凝菜〈古々呂布度〉本朝式云凝海藻〈古流毛波俗用心太讀与大凝菜同〉

大凝菜 楊氏漢語抄に大凝菜〈古々呂布度(こころぶと)〉と云ふ。本朝式に凝海藻〈古流毛波(こるもは)、俗に心太を用ゐ、読みて大凝菜と同じ〉と云ふ。

莫鳴菜 本朝式云莫鳴菜〈奈々利曽〉楊氏漢語抄云神馬藻〈奈能利曽今案本文未詳但神馬莫騎之義也〉

莫鳴菜 本朝式に莫鳴菜〈奈々利曽(ななりそ)〉と云ふ。楊氏漢語抄に神馬藻〈奈能利曽(なのりそ)、今案ふるに本文は未だ詳(つばひら)かならず。但し神馬は莫(な)騎(の)りその義なり〉と云ふ。

鹿角菜 崔禹食經云鹿茸〈都乃万太〉状似水松者也文選江賦云鹿角菜〈楊氏抄云和名同上〉

鹿角菜 崔禹食経に云はく、鹿茸〈都乃万太(つのまた)〉は状、水松に似る者なりといふ。文選江賦に鹿角菜と云ふ。〈楊氏抄に和名は上に同じと云ふ〉

鹿尾菜 楊氏漢語抄云鹿尾菜〈比湏岐毛弁色立成云六味菜〉

鹿尾菜 楊氏漢語抄に鹿尾菜と云ふ。〈比須岐毛(ひずきも)、弁色立成に六味菜と云ふ〉

石蒓 唐匀云蒓〈常倫反楊氏抄云石蒓水菜弁色立成云海蓴和名古毛〉水葵也

石蒓 唐韻に云はく、蒓〈常倫反、楊氏抄に石蒓水菜と云ふ。弁色立成に海蓴は和名に古毛(こも)と云ふ〉は水葵なりといふ。

水雲 楊氏漢語抄云水雲〈毛都久今案本文未詳〉

水雲 楊氏漢語抄に水雲〈毛都久(もづく)、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。

紫苔 養生秘要云補益食胡䕑紫苔〈湏无能利胡䕑見飲食部塩梅類也〉

紫苔 養生秘要に云はく、補益の食、胡䕑は紫苔といふ。〈須無能利(すむのり)、胡䕑は飲食部の塩梅類に見ゆるなり〉

水苔 弁色立成云水苔〈加波奈一名河苔〉

水苔 弁色立成に水苔〈加波奈(かはな)は一名に河苔〉と云ふ。

芹 本屮云水芹〈音勤㔟利〉味甘无毒一名水英

芹 本草に云はく、水芹〈音は勤、勢利(せり)〉、味は甘、毒無し、一名に水英といふ。

水䓗 唐匀云𧂔〈胡谷反楊氏抄云水葱奈岐一云𧂔菜〉水菜可食也

水葱 唐韻に云はく、𧂔〈胡谷反、楊氏抄に云はく、水葱は奈岐(なぎ)、一に𧂔菜と云ふ〉は水菜、食ふべきなりといふ。

荇 尒雅注云荇菜〈上音杏字𡖋作莕阿佐々〉叢生水中𦯧圎在端長短隨水深浅者也

荇 爾雅注に云はく、荇菜〈上の音は杏、字は亦、莕に作る、阿佐々(あさざ)〉は水の中に叢がり生え、葉の円きこと端に在り、長き短かきは水の深き浅きに随ふ者なりといふ。

芡 同注云芡〈音倹𫟈豆布々岐〉一名鷄頭其實似烏頭故以名之

芡 同注に云はく、芡〈音は倹、美豆布々岐(みづふふき)〉は一名に鶏頭、其の実は烏頭に似る、故に以て之れを名くといふ。

蓴 蘓敬曰蓴〈視倫反奴奈波別有根々不充食〉自三四月至七八月通名絲蓴味甜躰軟霜降以後至二月名環蓴味苦躰渋者也

蓴 蘇敬に曰はく、蓴〈視倫反、奴奈波(ぬなは)、別に根有るものは根を食ふに充てず〉は、三四月より七八月に至るに通して糸蓴を名とし、味は甜、体は軟、霜降りて以後(のち)二月に至るに環蓴を名とし、味は苦、体は渋の者なりといふ。

骨蓬 崔禹食經云骨蓬〈加波保祢〉味醎大冷無毒根如腐骨花黄色莖頭著𦯧者也

骨蓬 崔禹食経に云はく、骨蓬〈加波保禰(かはほね)〉、味は鹹、大冷、毒無し、根は腐りし骨の如く、花は黄色く、茎の頭に葉を著くる者なりといふ。

江浦草 弁色立成云江浦草〈都久毛一云多久万毛〉

江浦草 弁色立成に江浦草と云ふ。〈都久毛(つくも)は一に多久万毛(たくまも)と云ふ〉

蕺 唐匀云蕺〈阻立反養生秘要云之不岐〉菜名也

蕺 唐韻に云はく、蕺〈阻立反、養生秘要に之不岐(しふき)と云ふ〉は菜の名なりといふ。

菜類百十八

菜類百十八

菜蔬 兼名苑注云草可食曰菜蔬〈在䟽二音和名上奈下久佐比良〉説文云韭〈举有反字亦作韮〉菜也

菜蔬 兼名苑注に云はく、草の食ふべきを菜蔬〈在疏の二音、和名は上は奈(な)、下は久佐比良(くさびら)〉と曰ふといふ。説文に云はく、韭〈挙有反、字は亦、韮に作る〉は菜なりといふ。

菌 尒雅注云菌〈音窘太介今案有數種木菌土菌石菌並見兼名苑〉形似盖者也

菌 爾雅注に云はく、菌〈音は窘、太介(たけ)、今案ふるに数種有り、木菌、土菌、石菌、並びに兼名苑に見ゆ〉は形の蓋(きぬがさ)に似る者なりといふ。

䓴 四声字苑云䓴〈音軟岐乃𫟈々〉木耳即木菌也状似人耳而黒也

䓴 四声字苑に云はく、䓴〈音は軟、岐乃美々(きのみみ)〉は木耳、即ち木菌なり、状は人の耳に似て黒きなりといふ。

蔓菁〈下躰附〉 蘓敬本屮注云蕪菁〈无青二音〉北人名之蔓菁〈上音蠻阿乎奈〉揚雄方言陳宋之间蔓菁曰葑〈音封〉毛詩采葑采菲〈音斐〉无以下躰〈加布良〉下躰莖也此二菜者蔓菁与葍之類也

蔓菁〈下体付〉 蘇敬本草注に云はく、蕪菁〈無青の二音〉、北人は之れを蔓菁〈上の音は蛮、阿乎奈(あをな)〉と名くといふ。揚雄方言に、陳宋の間に蔓菁を葑〈音は封〉と曰ふとす。毛詩に、葑を采り菲〈音は斐〉を采る、下体〈加布良(かぶら)〉を以てする無かれ、の下体は茎なり、此の二つの菜は蔓菁と葍の類なり。

辛芥 方言趙魏之间謂蕪菁為大芥小者謂之辛芥〈音介太加奈〉

辛芥 方言に、趙魏の間に蕪菁を謂ひて大芥と為、小さき者は之れを辛芥〈音は介、太加奈(たかな)〉と謂ふとす。

温菘 崔禹食經云温菘〈音終古保祢〉味辛大温无毒者也

温菘 崔禹食経に云はく、温菘〈音は終、古保禰(こほね)〉、味は辛、大温、毒無き者なりといふ。

辛菜 同經云又有辛菜〈加良之俗用芥子〉根細而甚辛薫好通口鼻之氣

辛菜 同経に云はく、又、辛菜〈加良之(からし)、俗に芥子を用ゐる〉有り、根は細くして甚辛、薫りて好く口鼻の気を通すといふ。

葍 尒雅注云葍〈音福於保祢俗用大根二字〉根正白而可食之兼名苑云萊菔〈上音來〉本屮云蘆菔〈音服〉孟詵食經云蘿菔〈上音羅今案萊菔蘆菔蘿菔皆並葍之通称也〉

葍 爾雅注に云はく、葍〈音は福、於保禰(おほね)、俗に大根の二字を用ゐる〉は根、正に白くして之れを食ふべしといふ。兼名苑に萊菔〈上の音は来〉と云ふ。本草に蘆菔〈音は服〉と云ふ。孟詵食経に蘿菔〈上の音は羅、今案ふるに萊菔、蘆菔、蘿菔は皆、並びに葍の通称なり〉と云ふ。

蘘荷 馬琬食經云蘘荷〈穰何二音米加〉赤色者為佳矣兼名苑云一名蕧苴〈伏且二音〉唐韵云蒪苴〈上音粕〉大蘘荷名也

蘘荷 馬琬食経に云はく、蘘荷〈嬢何の二音、米加(めが)〉は赤き色の者を佳しと為といふ。兼名苑に云はく、一名に蕧苴〈伏且の二音〉といふ。唐韻に云はく、蒪苴〈上の音は粕〉は大き蘘荷の名なりといふ。

薑 兼名苑云薑〈居良反〉一名𧄕〈音織久礼乃波之加𫟈〉

薑 兼名苑に云はく、薑〈居良反〉は一名に𧄕〈音は織、久礼乃波之加美(くれのはじかみ)〉といふ。

蒟蒻 文選蜀都賦注云蒟蒻〈䀠弱二音古迩夜久〉其根肥白以灰汁煑則凝成以苦酒淹食之蜀人珎焉

蒟蒻 文選蜀都賦注に云はく、蒟蒻〈䀠弱の二音、古邇夜久(こにやく)〉、其の根は肥え白し、灰汁を以て煮れば則ち凝り成り、苦酒を以て淹(ひた)して之れを食ふ蜀人や珍しといふ。

苣 孟詵食經曰白苣〈其呂反上声之重知作楊氏抄用萵苣二字上烏和反今案本文未詳〉寒補筋力者也

苣 孟詵食経に曰はく、白苣〈其呂反、上声の重、知作(ちさ)、楊氏抄に萵苣の二字を用ゐる、上は烏和反、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉は寒、筋力を補ふ者なりといふ。

葪 本屮云葪〈音計阿佐𫟈〉味甘温令人肥健陶隠居曰大小之葉並多刺

葪 本草に云はく、葪〈音は計、阿佐美(あざみ)〉、味は甘、温、人をして肥え健やかなら令むといふ。陶隠居に曰はく、大小の葉、並びに刺すこと多しといふ。

大葪 蘓敬曰大葪〈夜万阿佐𫟈〉生山谷者也

大葪 蘇敬に曰はく、大葪〈夜万阿佐美(やまあざみ)〉は山谷に生ゆる者なりといふ。

蕗 崔禹食經云蕗〈音路訓布々岐〉葉似葵而圎廣其莖煑可噉之

蕗 崔禹食経に云はく、蕗〈音は路、訓は布々岐(ふふき)〉、葉は葵に似て円く広く、其の茎は煮て之れを噉ふべしといふ。

葵 本屮云葵〈音逵阿布比〉味甘寒無毒者也

葵 本草に云はく、葵〈音は逵、阿布比(あふひ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。

龍葵 本屮草云龍葵〈古奈湏比〉味苦寒无毒者也

竜葵 本草に云はく、竜葵〈古奈須比(こなすび)〉、味は苦、寒、毒無き者なりといふ。

兎葵 本屮云兎葵〈以倍迩礼〉味甘寒无毒者也

兎葵 本草に云はく、兎葵〈以倍邇礼(いへにれ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。

莧 本屮云莧〈音寛去声比由〉味甘寒无毒者也

莧 本草に云はく、莧〈音は寛、去声、比由(ひゆ)〉、味は甘、寒、毒無き者なりといふ。

馬莧 陶隠居曰今馬莧別有一種布地而生𦯧至細微俗呼為馬歯莧〈漢語抄云馬歯草无波比由〉

馬莧 陶隠居に曰はく、今に馬莧に別に一種有り、地に布(し)きて葉を生やし細微に至る、俗に呼びて馬歯莧〈漢語抄に馬歯草は無波比由(むばひゆ)と云ふ〉と為といふ。

菫菜 本草云菫菜俗謂之菫葵〈上音謹湏𫟈礼〉

菫菜 本草に云はく、菫菜は俗に之れを菫葵〈上の音は謹、須美礼(すみれ)〉と謂ふといふ。

芸薹 本草云芸薹〈雲臺二音乎知〉味辛温无毒蘓敬曰此人間㪽噉菜也

蕓薹 本草に云はく、蕓薹〈雲台の二音、乎知(をち)〉、味は辛、温、毒無しといふ。蘇敬に曰はく、此れ人間の噉ふ所の菜なりといふ。

薇蕨 尒雅注云薇蕨〈微厥二音和良比〉初无𦯧而可食之崔禹食經云白者名曰𧆊〈音鱉〉黒者名曰蕨紫者名曰藄〈音期〉置熱湯中令𤍨然後可噉之

薇蕨 爾雅注に云はく、薇蕨〈微厥の二音、和良比(わらび)〉は初め葉無くして之れを食ふべしといふ。崔禹食経に云はく、白き者を名けて𧆊〈音は鱉〉と曰ひ、黒き者を名けて蕨と曰ひ、紫の者を名けて藄〈音は期〉と曰ふ、熱き湯の中に置きて熟(に)ら令め、然る後に之れを噉ふべしといふ。

荼 尒雅注云荼〈音途於保都知〉苦菜之可食也

荼 爾雅注に云はく、荼〈音は途、於保都知(おほつち)〉は苦菜の食ふべきなりといふ。

苜蓿 蘓敬曰苜蓿〈目宿二音於保比〉莖葉根並寒者也

苜蓿 蘇敬に曰はく、苜蓿〈目宿の二音、於保比(おほひ)〉は茎、葉、根、並びに寒の者なりといふ。

荷蔰 釋藥性云荷蔰〈音戸乎加度々岐〉

荷蔰 釈薬性に荷蔰〈音は戸、乎加度々岐(をかととき)〉と云ふ。

牛蒡 本草云𢙣實一名牛蒡〈愽郎反岐太岐湏一云宇末不々岐今案俗作房者非也〉

牛蒡 本草に云はく、悪実は一名に牛蒡〈博郎反、岐太岐須(きたきす)、一に宇末不々岐(うまふふき)と云ふ。今案ふるに俗に房に作るは非ざるなり〉といふ。

鬼皂莢 楊氏漢語抄云鬼皂莢〈造恊二音久々佐〉一云欝茂草〈弁色立成云欝萌屮今案本文未詳〉

鬼皂莢 楊氏漢語抄に云はく、鬼皂莢〈造協の二音、久々佐(くくさ)〉は一に鬱茂草と云ふといふ。〈弁色立成に鬱萌草と云ふ。今案ふるに本文は未だ詳かならず〉

薺 崔禹食經云薺〈辞啓反上声之重奈豆奈〉烝煑噉之

薺 崔禹食経に云はく、薺〈辞啓反、上声の重、奈豆奈(なづな)〉は蒸し煮て之れを噉ふといふ。

薺蒿 七卷食經云薺蒿菜一名莪蒿〈上音鵝於波岐〉崔禹曰似艾草而香作羹食之

薺蒿 七巻食経に云はく、薺蒿菜は一名に莪蒿〈上の音は鵝、於波岐(おはぎ)〉といふ。崔禹に曰はく、艾草に似て香り、羹に作り之れを食ふといふ。

蘩蒌 本草云蘩蒌〈繁娄二音波久倍良〉味酸平无毒陶隠居曰即鷄腸草也

蘩蔞 本草に云はく、蘩蔞〈繁婁の二音、波久倍良(はくべら)〉、味は酸、平、毒無しといふ。陶隠居に曰はく、即ち鶏腸草なりといふ。

羊蹄菜 唐匀云荲〈丑六反字亦作蓫之不久佐一云之〉羊蹄菜也

羊蹄菜 唐韻に云はく、荲〈丑六反、字は亦、蓫に作る、之布久佐(しぶくさ)、一に之(し)と云ふ〉は羊蹄菜なりといふ。

藜 野王案云藜〈音黎阿加佐〉蓬蒿之類也

藜 野王案に云はく、藜〈音は黎、阿加佐(あかざ)〉は蓬蒿の類なりといふ。

果蓏部第廿三

果蓏部第二十三  

果蓏類百十九 果蓏類百廿

 果蓏類百十九 果蓏類百二十

果蓏類百十九

果蓏類百十九

果蓏 唐匀云説文木上曰果〈古火反字亦作菓日本紀私記云古䏻𫟈俗云久多毛乃〉地上曰蓏〈力果反久佐久太毛能〉張晏曰有核曰菓无核曰蓏〈核見果蓏具〉應劭曰木實曰菓草實曰蓏

果蓏 唐韻に云はく、説文に木の上にあるを果〈古火反、字は亦、菓に作る。日本紀私記に古能美(このみ)と云ひ、俗に久多毛乃(くだもの)と云ふ〉と曰ひ、地の上にあるを蓏〈力果反、久佐久太毛能(くさくだもの)〉と曰ふといふ。張晏に曰はく、核有るを菓と曰ひ、核無きを蓏〈核は果蓏具に見ゆ〉と曰ふといふ。応劭に曰はく、木の実を菓と曰ひ、草の実を蓏と曰ふといふ。

石榴 兼名苑云若榴〈音留佐久侶今案若正作楉見四声字苑〉石榴也

石榴 兼名苑に云はく、若榴〈音は留、佐久侶(ざくろ)、今案ふるに若は正しくは楉に作る、四声字苑に見ゆ〉は石榴なりといふ。

梨子 唐匀曰梨〈力脂反奈之〉果名也兼名苑云一名含消

梨子 唐韻に曰はく、梨〈力脂反、奈之(なし)〉は果の名なりといふ。兼名苑に一名に含消と云ふ。

樆 陸詞切匀云樆〈音離夜末奈之〉山梨也

樆 陸詞切韻に云はく、樆〈音は離、夜末奈之(やまなし)〉は山梨なりといふ。

柑子 馬琬食經云柑子〈上音甘加无之〉

柑子 馬琬食経に柑子〈上の音は甘、加無之(かむじ)〉と云ふ。

木蓮子 崔禹食經云木蓮子〈以太比〉本屮云折傷木

木蓮子 崔禹食経に木蓮子〈以太比(いたび)〉と云ふ。本草に折傷木と云ふ。

猕猴桃 七卷食經云猕猴桃〈之良久知一云古久波〉

獼猴桃 七巻食経に獼猴桃〈之良久知(しらくち)、一に古久波(こくは)と云ふ〉と云ふ。

榛 唐匀云榛〈秦之輕音字亦作樼波之波𫟈〉榛栗也

榛 唐韻に云はく、榛〈秦の軽音、字は亦、樼に作る。波之波美(はしばみ)〉は榛栗なりといふ。

栗 兼名苑云栗〈力質反久利〉一名撰子

栗 兼名苑に云はく、栗〈力質反、久利(くり)〉は一名に撰子といふ。

杬子 崔禹食經云杬子〈上音元〉一名䴏栗〈佐々久利〉栗相似而細小者也

杬子 崔禹食経に云はく、杬子〈上の音は元〉は一名に䴏栗〈佐々久利(ささぐり)〉、栗と相似て細く小さき者なりといふ。

椎子 本草云椎子〈上𥄂追反之比〉

椎子 本草に椎子〈上は直追反、之比(しひ)〉と云ふ。

櫟子 崔禹食經云櫟子〈上音歴伊知比〉相似而大於椎子者也

櫟子 崔禹食経に云はく、櫟子〈上の音は歴、伊知比(いちひ)〉は相似て椎子より大き者なりといふ。

榧子 本草云栢實〈上音白〉一名榧子〈上音匪加閇〉

榧子 本草に云はく、栢実〈上の音は白〉は一名に榧子〈上の音は匪、加閉(かへ)〉といふ。

五粒松子 楊氏漢語抄云五粒松子〈五粒五葉也松子末都乃𫟈〉

五粒松子 楊氏漢語抄に五粒松子〈五粒は五葉なり、松子は末都乃美(まつのみ)〉と云ふ。

胡頽子 馬琬食經云胡頽子〈毛侶奈利養生秘要云久𫟈〉本朝式云諸生子

胡頽子 馬琬食経に胡頽子〈毛侶奈利(もろなり)、養生秘要に久美(ぐみ)と云ふ〉と云ふ。本朝式に諸生子と云ふ。

鸎實 漢語抄云鸎實〈宇久比湏乃岐乃𫟈今案本文未詳〉

鸎実 漢語抄に鸎実〈宇久比須乃岐乃美(うぐいすのきのみ)、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉と云ふ。

杏子 本屮云杏子〈上音荇加良毛々〉

杏子 本草に杏子〈上の音は荇、加良毛々(からもも)〉と云ふ。

㮏子 本屮云㮏子〈上音内字𡖋作柰奈之一云加良奈之〉兼名苑云㯈〈音速〉一名㭺〈音掩〉柰也

㮏子 本草に㮏子〈上の音は内、字は亦、柰に作る、奈之(なし)、一に加良奈之(からなし)と云ふ〉と云ふ。兼名苑に云はく、㯈〈音は速〉は一名に㭺〈音は掩〉は柰なりといふ。

林檎子 本屮云林檎〈音禽利宇古宇〉与柰相似而小者也

林檎子 本草に云はく、林檎〈音は禽、利宇古宇(りうこう)〉は柰と相似て小さき者なりといふ。

楊梅 尒雅注云楊梅〈夜末毛々〉状如苺子赤色味酸甜可食之七卷食經云山櫻桃有二種黒櫻子〈和名同上〉味甜𫟈可食矣

楊梅 爾雅注に云はく、楊梅〈夜末毛々(やまもも)〉は、状、苺子の如く赤き色にして味は酸、甜、之れを食ふべしといふ。七巻食経に云はく、山桜桃に二種有り、黒桜子〈和名は上に同じ〉、味は甜、美、食ふべしといふ。

桃子 漢武内傳云西王母桃三千年一生實〈西王母者仙人名也桃音陶毛々楊氏漢語抄云錦桃〉

桃子 漢武内伝に云はく、西王母の桃、三千年に一たび実を生すといふ〈西王母は仙人の名なり。桃の音は陶、毛々(もも)。楊氏漢語抄に錦桃と云ふ〉。

冬桃 傅玄桃賦云亦有冬桃〈今案俗云霜桃是也〉冷侔氷霜和神適意恣口所嘗

冬桃 伝玄桃賦に云はく、亦、冬桃〈今案ふるに俗に霜桃と云ふは是なり〉有り、冷たくして氷霜に侔(ひと)し、神(たましひ)を和(やは)し意(こころ)に適ひ、口に恣(まか)せて嘗むる所なりといふ。

李子 兼名苑云李子〈音里〉一名黄吉〈湏毛々〉

李子 兼名苑に云はく、李子〈音は里〉は一名に黄吉といふ。〈須毛々(すもも)〉

麥李 陶隠居云麥李〈漢語抄云佐毛々〉麥秀時𤍨故以名之兼名苑注云青房〈今案是麥李也〉五月𤍨李也

麦李 陶隠居に云はく、麦李〈漢語抄に佐毛々(さもも)と云ふ〉は麦の秀づる時に熟る、故に以て名くといふ。兼名苑注に云はく、青房〈今案ふるに是れ麦李なり〉は五月に熟るる李なりといふ。

李桃 弁色立成云李桃〈豆波岐毛々〉

李桃 弁色立成に李桃〈豆波岐毛々(つばきもも)〉と云ふ。

棗 本屮云大枣一名𫟈棗〈音早字亦作棘奈都米〉

棗 本草に云はく、大棗は一名に美棗といふ。〈音は早、字は亦、棘に作る、奈都米(なつめ)〉

酸枣 蘓敬云酸枣一名樲棗〈音貮佐祢布度〉大枣之中味酸者也

酸棗 蘇敬に云はく、酸棗は一名に樲棗〈音は弐、佐禰布度(さねぶと)〉、大棗の中の味酸き者なりといふ。

橘 兼名苑云橘〈居密反〉一名金衣〈太知波奈〉

橘 兼名苑に云はく、橘〈居密反〉は一名に金衣といふ。〈太知波奈(たちばな)〉

橙 七卷食經云橙〈宅耕反安倍太知波奈〉似柚而小者也

橙 七巻食経に云はく、橙〈宅耕反、安倍太知波奈(あへたちばな)〉は柚に似て小さき者なりといふ。

柚 尒雅集注云柚〈音由又以臭反〉一名樤〈音条訓由〉似橙而酢出江南矣音義柚或作櫾山海經字相通

柚 爾雅集注に云はく、柚〈音は由、又、以臭反〉は一名に樤〈音は条、訓は由(ゆ)〉、橙に似て酢し、江南より出づといふ。音義に柚は或に櫾に作る。山海経に字、相通ふ。

櫠椵 尒雅注云櫠椵〈廢加二音漢語抄云柚柑〉柚属也

櫠椵 爾雅注に云はく、櫠椵〈廃加の二音、漢語抄に柚柑と云ふ〉は柚の属なりといふ。

梅 同注云梅〈莫杯反无女〉似杏而酢者也

梅 同注に云はく、梅〈莫杯反、無女(むめ)〉は杏に似て酢き者なりといふ。

柹 説文云柹〈音市加岐〉赤實果也

柿 説文に云はく、柿〈音は市、加岐(かき)〉は赤き実の果なりといふ。

鹿心柹 兼名苑注云鹿心柹〈夜末加岐〉柹之小而長也

鹿心柿 兼名苑注に云はく、鹿心柿〈夜末加岐(やまがき)〉は柿の小さくて長きなりといふ。

杼 尒雅集注云栩〈音羽又香羽反〉一名杼〈音杵又當旅反与苧同度知荘子狙公賦杼是〉

杼 爾雅集注に云はく、栩〈音は羽、又、香羽反〉は一名に杼〈音は杵、又、当旅反、苧と同じ、度知(どち)。荘子狙公賦の杼は是なり〉といふ。

枇杷 唐匀云枇杷〈琵琶二音俗云味把〉菓木冬花而夏實也

枇杷 唐韻に云はく、枇杷〈琵琶の二音、俗に味把と云ふ〉は菓木、冬に花さきて夏に実るなりといふ。

椋子 尒雅注云椋〈音良〉一名即棶〈音來无久〉

椋子 爾雅注に云はく、椋〈音は良〉は一名に即棶〈音は来、無久(むく)〉といふ。

青瓜 兼名苑云龍蹄一名青登〈阿乎宇利〉青㼉瓜也唐匀云㼉〈𥄂禁反与鴆同〉青皮瓜名也

青瓜 兼名苑に云はく、竜蹄は一名に青登〈阿乎宇利(あをうり)〉、青㼉瓜なりといふ。唐韻に云はく、㼉〈直禁反、鴆と同じ〉は青皮の瓜の名なりといふ。

斑瓜 兼名苑云虎蹯一名貍首〈末太良宇利〉黄斑文瓜也

斑瓜 兼名苑に云はく、虎蹯は一名に狸首〈末太良宇利(まだらうり)〉は黄斑の文の瓜なりといふ。

白瓜 同苑云女臂一名羊角〈之呂宇利〉白瓜名也

白瓜 同苑に云はく、女臂は一名に羊角〈之呂宇利(しろうり)〉、白瓜の名なりといふ。

黄㼐 陸機瓜賦云黄㼐白〓〔瓜偏に專〕〈音摶〉陸詞切匀云㼐〈蒲田反岐宇利〉黄瓜也

黄㼐 陸機瓜賦に云はく、黄㼐、白〓〔瓜偏に專〕〈音は摶〉といふ。陸詞切韻に云はく、㼐〈蒲田反、岐宇利(きうり)〉は黄瓜なりといふ。

𤍨瓜 廣雅云虎掌羊骹小青大斑〈保曽知俗用𤍨瓜二字或説極𤍨蔕落之義也〉皆𤍨瓜名也

熟瓜 広雅に云はく、虎掌、羊骹、小青、大斑〈保曽知(ほぞち)、俗に熟瓜の二字を用ゐる。或説に極く熟るる蔕落つるの義なりとす〉は皆、熟瓜の名なりといふ。

寒瓜 兼名苑注云寒瓜〈加豆宇利〉至冬方𤍨者也

寒瓜 兼名苑注に云はく、寒瓜〈加豆宇利(かつうり)〉は冬に至りて方めて熟るる者なりといふ。

冬瓜 神農食經云冬瓜〈加毛宇利〉味甘寒無毒止渇除𤍽者也

冬瓜 神農食経に云はく、冬瓜〈加毛宇利(かもうり)〉、味は甘、寒、毒無く、渇きを止め熱を除く者なりといふ。

胡瓜 孟詵食經云胡瓜〈曽波宇利俗用岐宇利〉寒不可多食動寒熱發瘧病

胡瓜 孟詵食経に云はく、胡瓜〈曽波宇利(そばうり)、俗に岐宇利(きうり)を用ゐる〉は寒、多く食ふべからず、寒熱を動(な)し瘧病を発すといふ。

瓞瓝 尒雅注云瓞瓝〈姪雹二音太知布宇利〉小瓜名也

瓞瓝 爾雅注に云はく、瓞瓝〈姪雹の二音、太知布宇利(たちぶうり)〉は小瓜の名なりといふ。

茄子 釈氏切匀云茄子〈上音荷〉一名紫瓜子崔禹食經云茄〈奈湏比〉味甘鹼〈唐匀力减反䤘味也䤘音初感反酢味也俗云鹼恵久之〉温小毒烝煑及以水醸之食為快菜

茄子 釈氏切韻に云はく、茄子〈上の音は荷〉は一名に紫瓜子といふ。崔禹食経に云はく、茄〈奈須比(なすび)〉、味は甘、鹼〈唐韻に力減反、䤘味なり、䤘の音は初感反、酢味なり。俗に鹼を恵久之(ゑぐし)と云ふ〉、温、小毒あり、蒸し煮、及び水を以て之れを醸せば食ふに快き菜と為るといふ。

郁子 本草云郁子〈今案郁冝作㮋於六反見唐匀〉一名棣〈都計反无倍〉

郁子 本草に云はく、郁子〈今案ふるに、郁は宜しく㮋に作るべし、於六反、唐韻に見ゆ〉は一名に棣〈都計反、無倍(むべ)〉といふ。

蔔子 本草云蔔藤〈上音福〉一名烏𧄏〈音伏阿介比〉崔禹食經云附通子〈字亦作菔〉

蔔子 本草に云はく、蔔藤〈上の音は福〉は一名に烏𧄏〈音は伏、阿介比(あけび)〉といふ。崔禹食経に附通子〈字は亦、菔に作る〉云ふ。

菱子 説文云菱〈音陵比之〉秦謂之薢茩〈皆后二音〉楚謂之芰〈音岐〉

菱子 説文に云はく、菱〈音は陵、比之(ひし)〉は秦に之れを薢茩〈皆后の二音〉と謂ひ、楚に之れを芰〈音は岐〉と謂ふといふ。

蓮子 尒雅云荷芙蕖其子蓮〈波知湏乃𫟈〉

蓮子 爾雅に云はく、荷は芙蕖、其の子は蓮〈波知須乃美(はちすのみ)〉といふ。

覆盆子 尒雅注云蒛葐〈缺盆二音〉覆盆也本屮云覆盆子〈伊知古今案覆冝作蕧芳福反見唐匀〉

覆盆子 爾雅注に云はく、蒛葐〈欠盆の二音〉は覆盆なりといふ。本草に覆盆子〈伊知古(いちご)、今案ふるに、覆は宜しく蕧に作るべし、芳福反、唐韻に見ゆ〉と云ふ。

薯蕷 本屮云薯蕷一名山芋〈夜万乃伊毛〉兼名苑云藷藇〈音与暑預同也〉

薯蕷 本草に云はく、薯蕷は一名に山芋といふ〈夜万乃伊毛(やまのいも)〉。兼名苑に藷藇〈音は暑預と同じなり〉と云ふ。

芋 四声字苑云芋〈于遇反以倍乃伊毛〉葉似荷其根可食之唐匀云𦵸〈音耿以毛之俗用芋柄二字〉芋茎也

芋 四声字苑に云はく、芋〈于遇反、以倍乃伊毛(いへのいも)〉は葉、荷に似て、其の根は之れを食ふべしといふ。唐韻に云はく、𦵸〈音は耿、以毛之(いもじ)、俗に芋柄の二字を用ゐる〉は芋の茎なりといふ。

澤舄 本屮云澤舄一名芒芋〈奈末為〉

沢舄 本草に云はく、沢舄は一名に芒芋といふ。〈奈末為(なまゐ)〉

烏芋 蘓敬本草注云烏芋〈久和為〉生水中澤舄之類也

烏芋 蘇敬本草注に云はく、烏芋〈久和為(くわゐ)〉は水中に生ゆる沢舄の類なりといふ。

薢 崔禹食經云薢〈音解度古侶俗用〓〔艹冠に宅〕字漢語抄用野老二字今案並未詳〉味苦少甘无毒焼烝充粮兼名苑注云黄薢其根黄白而味苦者也

薢 崔禹食経に云はく、薢〈音は解、度古侶(ところ)、俗に〓〔艹冠に宅〕の字を用ゐる。漢語抄に野老の二字を用ゐる。今案ふるに並びに未だ詳かならず〉、味は苦、少甘、毒無し、焼き蒸し粮に充つといふ。兼名苑注に云はく、黄薢は其の根、黄白くして味は苦き者なりといふ。

果蓏具百廿

果蓏具百二十

核 尒雅云桃李之類皆有核〈偽革反佐祢今案一名人醫家書云桃人杏人䓁是〉蒋魴切匀云核者子中之骨也

核 爾雅に云はく、桃李の類は皆、核〈偽革反、佐禰(さね)、今案ふるに一名に人、医家書に桃人、杏人等と云ふは是〉有りといふ。蒋魴切韻に云はく、核は子の中の骨なりといふ。

李衡 馬琬食經云李衡〈加无之乃佐祢〉柑子人名也

李衡 馬琬食経に云はく、李衡〈加無之乃佐禰(かむじのさね)〉は柑子になづく人の名なりといふ。

桃奴 本屮云桃人一名桃奴〈毛々乃佐祢〉

桃奴 本草に云はく、桃人は一名に桃奴といふ。〈毛々乃佐禰(もものさね)〉

甘皮 本屮云橘皮一名黄皮〈岐加波其色黄之義也〉

甘皮 本草に云はく、橘皮は一名に黄皮といふ。〈岐加波(きかは)、其の色の黄なるの義なり〉

疐 尒雅云棗李之類皆有疐〈都計反保曽今案与蔕字通〉

疐 爾雅に云はく、棗李の類は皆、疐〈都計反、保曽(ほぞ)、今案ふるに蔕と字通ふ〉有りといふ。

櫟梂 尒雅云櫟其實梂〈音求伊知比乃加佐〉孫炎曰菓之自褁者也

櫟梂 爾雅に云はく、櫟は其の実は梂〈音は求、伊知比乃加佐(いちひのかさ)〉といふ。孫炎に曰はく、菓の自づから裹む者なりといふ。

栗扶 本屮云栗扶〈久利乃之布其味渋之義也〉

栗扶 本草に栗扶〈久利乃之布(くりのしぶ)、其の味は渋しの義なり〉と云ふ。

栗剌〈𦉑發附〉 神異經云北方有栗徑三尺二寸剌長一尺〈剌伊賀〉文選蜀都賦云榛栗𦉑發〈上音呼亞反師説恵米利〉李善曰栗皮坼𦉑而發也

栗刺〈𦉑発付〉 神異経に云はく、北方に栗有り、径(わたり)三尺二寸、刺(とげ)の長さ一尺といふ〈刺は伊賀(いが)〉。文選蜀都賦に云はく、榛(はしばみ)と栗は𦉑発〈上の音は呼亜反、師説に恵米利(ゑめり)〉といふ。李善に、栗の皮、坼𦉑(さ)けて発(あらは)ると曰ふなり。

桃脂 神仙服餌方云桃脂一名桃膠〈毛々乃夜迩〉

桃脂 神仙服餌方に云はく、桃脂は一名に桃膠といふ。〈毛々乃夜邇(もものやに)〉

瓣 唐韵云瓣〈音辨宇利乃佐祢〉瓜瓠瓣也

瓣 唐韻に云はく、瓣〈音は辨、宇利乃佐禰(うりのさね)〉は瓜瓠瓣なりといふ。

和名類聚抄卷第九

和名類聚抄巻第九

類聚抄卷第十

類聚抄巻第十

草木部第廿四上

草木部第二十四上

草類百廿一 苔類百廿二 蓮類百廿三 葛類百廿四

草類百二十一 苔類百二十二 蓮類百二十三 葛類百二十四

草類百廿一

草類百二十一

草 孫愐曰草〈音早久佐〉百卉捴名也文字集略云𦳝〈音娘佐岐久佐日本紀私記云福草〉草枝々相値𦯧々相當也

草 孫愐に曰はく、草〈音は早、久佐(くさ)〉は百卉の総名なりといふ。文字集略に云はく、𦳝〈音は娘、佐岐久佐(さきくさ)。日本紀私記に福草と云ふ〉は草の枝々相値ひて葉々相当るなりといふ。

蘭 兼名苑云蘭一名蕙〈音惠本草布知波加麻新撰万葉集別用藤袴二字〉

蘭 兼名苑に云はく、蘭は一名に蕙〈音は恵、本草に布知波加麻(ふぢばかま)、新撰万葉集に別に藤袴の二字を用ゐる〉といふ。

菊 四声字苑云菊〈挙竹反本屮經云菊有白菊紫菊黄菊加波良与毛岐一云可波良於波岐〉日精屮也

菊 四声字苑に云はく、菊〈挙竹反、本草経に菊に白菊、紫菊、黄菊有りと云ふ。加波良与毛岐(かはらよもぎ)、一に可波良於波岐(かはらおはぎ)と云ふ〉は日精草なりといふ。

芸 礼記注云芸〈音雲久佐乃香〉香草也

芸 礼記注に云はく、芸〈音は雲、久佐乃香(くさのかう)〉は香草なりといふ。

紫苑 本草云紫苑一名紫蒨〈七見反能之〉

紫苑 本草に云はく、紫苑は一名に紫蒨〈七見反、能之(のし)〉といふ。

桔梗 本草云桔梗〈結鯁二音阿利乃比布岐〉

桔梗 本草に桔梗〈結鯁の二音、阿利乃比布岐(ありのひふき)〉と云ふ。

龍膽 陶隠居本屮注云龍膽〈衣夜𫟈久佐一云迩可奈〉味甚苦故以膽為名也

竜胆 陶隠居本草注に云はく、竜胆〈衣夜美久佐(えやみぐさ)、一に邇可奈(にがな)と云ふ〉、味は甚苦、故に胆を以て名と為るなりといふ。

女郎花 新撰万葉集云女郎花和歌云女倍芝

女郎花 新撰万葉集に云はく、女郎花は和歌に女倍芝(をみなへし)と云ふといふ。

瞿麥 本屮云瞿麥一名大蘭〈奈天之古一云度古奈都〉

瞿麦 本草に云はく、瞿麦は一名に大蘭といふ。〈奈天之古(なでしこ)、一に度古奈都(とこなつ)と云ふ〉

牡丹 本屮云牡丹一名鹿韮〈挙有反布加𫟈久佐〉

牡丹 本草に云はく、牡丹は一名に鹿韮〈挙有反、布加美久佐(ふかみぐさ)〉といふ。

金銭花 梁簡文帝有金銭花賦

金銭花 梁の簡文帝に金銭花賦有り。

萓草 兼名苑云萓草一名忘憂〈萓音喧漢語抄云和湏礼久佐〉

萓草 兼名苑に云はく、萓草は一名に忘憂といふ。〈萓の音は喧、漢語抄に和須礼久佐(わすれぐさ)と云ふ〉

麥門冬 本草云麥門冬〈夜末湏介〉

麦門冬 本草に麦門冬〈夜末須介(やますげ)〉と云ふ。

欵冬 本草云欵冬一名虎鬚〈一本冬作東夜末布々岐一云夜末布岐〉万葉集云山吹花

欵冬 本草に云はく、欵冬は一名に虎鬚といふ〈一本に冬を東に作る。夜末布々岐(やまぶふき)、一に夜末布岐(やまぶき)と云ふ〉。万葉集に山吹花と云ふ。

芭蕉 唐韵云芭蕉〈巴焦二音波㔟乎波〉其葉如席者也

芭蕉 唐韻に云はく、芭蕉〈巴焦の二音、波勢乎波(はせをば)〉は其の葉、席(むしろ)の如き者なりといふ。

鹿鳴草 尒雅集注云萩〈音秋一音焦〉一名蕭〈音霄波岐今案牧名用萩字萩倉是也弁色立成新撰万葉集䓁用芽字唐韵芽音胡誤反草名也國史用芳冝草楊氏抄又用鹿鳴草並本文未詳〉

鹿鳴草 爾雅集注に云はく、萩〈音は秋、一音に焦〉は一名に蕭〈音は霄、波岐(はぎ)。今案ふるに牧の名に萩の字を用ゐるは萩倉、是なり。弁色立成、新撰万葉集等、芽の字を用ゐる。唐韻に、芽の音は胡誤反、草の名なりとす。国史に芳宜草を用ゐる。楊氏漢語抄に又、鹿鳴草を用ゐる。並びに本文は未だ詳(つばひら)かならず〉といふ。

薄 尒雅云草藂生曰薄〈新撰万葉集和歌云花薄波奈湏々岐今案即厚薄之薄字也見玉篇也〉弁色立成云芊〈和名同上今案芊音千草盛也見唐匀〉

薄 爾雅に云はく、草藂り生ゆるを薄と曰ふといふ〈新撰万葉集の和歌に花薄を波奈須々岐(はなすすき)と云ふ。今案ふるに即ち厚薄の薄の字なり、玉篇に見ゆるなり〉。弁色立成に芊〈和名は上に同じ。今案ふるに芊の音は千、草の盛なり、唐匀に見ゆ〉と云ふ。

荻 野王案云荻〈音狄字亦作藡乎岐〉与𦯠相似而非一種

荻 野王案に云はく、荻〈音は狄、字は亦、藡に作る。乎岐(をぎ)〉は薍と相似て一種に非ずといふ。

蘆葦〈菼䓁附〉 兼名苑云葭〈音家〉一名葦〈音煒阿之〉尒雅注云一名蘆〈音盧〉玉篇云薍〈音乱〉菼也菼〈音毯阿之豆乃〉蘆之初生也蘓敬曰蓬蕽〈逢仍二音〉葦花名也

蘆葦〈菼等付〉 兼名苑に云はく、葭〈音は家〉は一名に葦〈音は煒、阿之(あし)〉といふ。爾雅注に云はく、一名に蘆〈音は盧〉といふ。玉篇に云はく、薍〈音は乱〉は菼なり、菼〈音は毯、阿之豆乃(あしづの)〉は蘆の初めて生ゆるなりといふ。蘇敬に曰はく、蓬蕽〈逢仍の二音〉は葦花の名なりといふ。

薔薇〈營實附〉 本草云薔薇〈牆微二音〉一名墻𧃲〈今案与薇字通〉陶隠居曰營實〈无波良乃𫟈〉薔薇子也

薔薇〈営実付〉 本草に云はく、薔薇〈牆微の二音〉は一名に墻𧃲〈今案ふるに薇と字通ふ〉といふ。陶隠居に曰はく、営実〈無波良乃美(むばらのみ)〉は薔薇の子なりといふ。

芍藥 唐匀云芍藥〈上張約反新抄本屮衣比湏久湏利又沼𫟈久湏利〉薬草可和食也

芍薬 唐韻に云はく、芍薬〈上は張約反、新抄本草に衣比須久須利(えびすぐすり)、又、沼美久須利(ぬみぐすり)〉は薬草、食に和ふべきなりといふ。

赤箭 蘓敬本草注云赤箭〈乎止乎止之一云加𫟈乃夜加良〉遠看似箭有羽故以名之

赤箭 蘇敬本草注に云はく、赤箭〈乎止乎止之(をとをとし)、一に加美乃夜加良(かみのやがら)と云ふ〉は遠くに看れば箭に似て羽有り、故に以て之れを名くといふ。

天門冬 本草云天門冬〈湏末路久佐今案楊玄操音義冬作東也〉

天門冬 本草に天門冬〈須末路久佐(すまろぐさ)、今案ふるに楊玄操音義に冬を東に作るなり〉と云ふ。

术 尒雅注云术〈儲律反乎介良〉似葪生山中故又名山葪也

朮 爾雅注に云はく、朮〈儲律反、乎介良(をけら)〉は葪に似て山中に生ゆ、故に又、山葪と名くるなりといふ。

女葳蕤 拾遺本屮云女葳蕤〈中音威下汝誰反〉一名黄芝〈惠𫟈久佐一云安麻奈〉

女葳蕤 拾遺本草に云はく、女葳蕤〈中の音は威、下は汝誰反〉は一名に黄芝といふ。〈恵美久佐(ゑみぐさ)、一に安麻奈(あまな)と云ふ〉

黄精 本屮云黄精〈於保惠𫟈一云夜末惠𫟈〉

黄精 本草に黄精〈於保恵美(おほゑみ)、一に夜末恵美(やまゑみ)と云ふ〉と云ふ。

地黄 本屮云地黄一名地髓

地黄 本草に云はく、地黄は一名に地髄といふ。

甘草 本屮云甘草一名蜜草〈阿末岐〉

甘草 本草に云はく、甘草は一名に蜜草といふ。〈阿末岐(あまき)〉

黄連 本屮云黄連一名王連〈加久末久佐〉

黄連 本草に云はく、黄連は一名に王連といふ。〈加久末久佐(かくまぐさ)〉

人参 本屮云人参一名神草〈加乃迩介久散一云久万能伊〉

人参 本草に云はく、人参は一名に神草といふ。〈加乃邇介久散(かのにけくさ)、一に久万能伊(くまのい)と云ふ〉

石蔛 本屮云石蔛〈胡谷反湏久奈比古乃久湏祢一云伊波久湏利〉

石蔛 本草に石蔛〈胡谷反、須久奈比古乃久須禰(すくなびこのくすね)、一に伊波久須利(いはぐすり)と云ふ〉と云ふ。

卷栢 本屮云卷栢〈以波久𫟈一云伊波古介〉

巻柏 本草に巻柏〈以波久美(いはぐみ)、一に伊波古介(いはごけ)と云ふ〉と云ふ。

細辛 釋藥性云細辛一名小辛〈𫟈良乃祢久散一云比岐乃比多比久散〉

細辛 釈薬性に云はく、細辛は一名に小辛といふ。〈美良乃禰久散(みらのねぐさ)、一に比岐乃比多比久散(ひきのひたひぐさ)と云ふ〉

獨活 本屮云獨活一名獨揺草〈宇止一云豆知太良〉陶隠居曰无風自揺故以名之

独活 本草に云はく、独活は一名に独揺草といふ〈宇止(うど)、一に豆知太良(つちたら)と云ふ〉。陶隠居に曰はく、風無くして自づから揺る、故に以て之れを名くといふ。

升麻 本屮云升麻〈止利乃阿之久佐一云宇多加久散〉

升麻 本草に升麻〈止利乃阿之久佐(とりのあしぐさ)、一に宇多加久散(うたかくさ)と云ふ〉と云ふ。

茈胡 本屮云茈胡〈乃世利一云阿末安加奈〉蘓敬曰茈古紫字也

茈胡 本草に茈胡〈乃世利(のせり)、一に阿末安加奈(あまあかな)と云ふ〉と云ふ。蘇敬に曰はく、茈は古の紫の字なりといふ。

女青 本屮云女青一名雀瓢〈加波祢久散〉蘓敬曰子似瓢形故以名之

女青 本草に云はく、女青は一名に雀瓢といふ〈加波禰久散(かばねぐさ)〉。蘇敬に曰はく、子は瓢の形に似る、故に以て之れを名くといふ。

萆麻 本草云萆麻〈上釡示反加良加加之波一云加良衣〉

萆麻 本草に萆麻〈上は釡示反、加良加之波(からかしは)、一に加良衣(からえ)と云ふ〉と云ふ。

巴㦸天 本草云巴㦸天〈夜末比々良岐〉

巴戟天 本草に巴戟天〈夜末比々良岐(やまひひらぎ)〉と云ふ。

牽牛子 陶隠居曰牽牛子〈阿佐加保〉此出於田舎凢人取之牽牛易藥故以名之

牽牛子 陶隠居に曰はく、牽牛子〈阿佐加保(あさがほ)〉は此れ田舎より出づ、凡そ人、之れを取りて牛を牽き薬に易ふ、故に以て之れを名くといふ。

地膚 本草云地膚一名地葵〈迩波久佐一云末岐久佐〉

地膚 本草に云はく、地膚は一名に地葵といふ。〈邇波久佐(にはくさ)、一に末岐久佐(まきくさ)と云ふ〉

蒺䔧 本屮云蒺䔧〈疾梨二音波末比之〉

蒺䔧 本草に蒺䔧〈疾梨の二音、波末比之(はまびし)〉と云ふ。

狼毒 本屮云狼毒〈夜万久佐〉

狼毒 本草に狼毒〈夜万久佐(やまくさ)〉と云ふ。

防葵 蘓敬本屮注云防葵〈夜末奈湏比〉𦯧似葵味似防風故名防葵也

防葵 蘇敬本草注に云はく、防葵〈夜末奈須比(やまなすび)〉、葉は葵に似て味は防風に似る、故に防葵と名くなりといふ。

防風 兼名苑云防風一名屏風〈波末湏加奈一云波万迩賀那〉

防風 兼名苑に云はく、防風は一名に屏風といふ。〈波末須加奈(はますがな)、一に波万邇賀那(はまにがな)と云ふ〉

苦芺 本屮云苦芺〈烏老反加万那一云可𫟈於古之奈〉

苦芺 本草に苦芺〈烏老反、加万那(かまな)、一に可美於古之奈(かみおこしな)と云ふ〉と云ふ。

䕡茹 本屮云䕡茹〈閭如二音祢阿佐𫟈一云迩比麻久佐〉

䕡茹 本草に䕡茹〈閭如の二音、禰阿佐美(ねあざみ)、一に邇比麻久佐(にひまぐさ)と云ふ〉と云ふ。

羊桃 唐匀云𦾺芅〈遥翼二音本屮云伊良々久散〉似桃而花白今之羊桃也

羊桃 唐韻に云はく、𦾺芅〈遥翼の二音、本草に伊良々久散(いららぐさ)と云ふ〉は桃に似て花白し、今の羊桃なりといふ。

天名精 本草云天名精一名麥句薑〈波末太加奈一云波麻不久良〉蘓敬注云味甘辛故有薑称矣

天名精 本草に云はく、天名精は一名に麦句薑といふ〈波末太加奈(はまたかな)、一に波麻不久良(はまふくら)と云ふ〉。蘇敬注に云はく、味は甘、辛、故に薑の称有りといふ。

澤蘭 陶隠居云澤蘭〈佐波阿良々岐一云阿加末久佐〉生澤傍故以名之

沢蘭 陶隠居に云はく、沢蘭〈佐波阿良々岐(さはあららぎ)、一に阿加末久佐(あかまぐさ)と云ふ〉は沢の傍に生ゆ、故に以て之れを名づくといふ。

續断 拾遺本屮云續断〈去声波𫟈一云於迩乃夜加良〉中有水者謂之含水藤

続断 拾遺本草に云はく、続断〈去声、波美(はみ)、一に於邇乃夜加良(おにのやがら)と云ふ〉は中に水有る者、之れを含水藤と謂ふといふ。

雲實 蘓敬曰雲實一名天豆〈波万佐々介〉色黄黒似豆故以名之

雲実 蘇敬に曰はく、雲実は一名に天豆〈波万佐々介(はまささげ)〉、色は黄黒く豆に似る、故に以て之れを名づくといふ。

蒲公草 本草云蒲公草〈布知奈一云多那〉一名耩耨〈上江項反下奴豆反〉

蒲公草 本草に云はく、蒲公草〈布知奈(ふぢな)、一に多那(たな)と云ふ〉は一名に耩耨〈上は江項反、下は奴豆反〉といふ。

黄耆 本草云黄耆〈夜波良久散〉

黄耆 本草に黄耆〈夜波良久散(やはらぐさ)〉と云ふ。

漏蘆 本草云漏蘆一名野蘭〈久呂久佐一云安利久佐〉

漏蘆 本草に云はく、漏蘆は一名に野蘭といふ。〈久呂久佐(くろくさ)、一に安利久佐(ありくさ)と云ふ〉

𠃧廉屮 本草云𠃧廉屮〈曽々岐一云布保々天久佐〉

飛廉草 本草に飛廉草〈曽々岐(そそき)、一に布保々天久佐(ふほほてぐさ)と云ふ〉と云ふ。

夏枯草 蘓敬曰夏枯草〈宇流岐〉五月枯故以名之

夏枯草 蘇敬に曰はく、夏枯草〈宇流岐(うるき)〉は五月に枯る、故に以て之れを名づくといふ。

當歸 本屮云當歸〈夜末世里一云於保㔟利又云宇万世利〉

当帰 本草に当帰〈夜末世里(やまぜり)、一に於保勢利(おほぜり)と云ひ、又、宇万世利(うまぜり)と云ふ〉と云ふ。

秦芁 本屮云秦芁〈音交都加利久佐一云波可利久散〉

秦芁 本草に秦芁〈音は交、都加利久佐(つかりぐさ)、一に波可利久散(はかりぐさ)と云ふ〉と云ふ。

白頭公 陶隠居曰白頭公〈於岐奈久佐一云那可久散〉近根処有白茸似人白頭故以名之

白頭公 陶隠居に曰はく、白頭公〈於岐奈久佐(おきなぐさ)、一に那可久散(ながくさ)と云ふ〉は根に近き処に白き茸有り、人の白頭に似る、故に以て之れを名づくといふ。

藎草 本屮云藎草〈上音疾胤反加岐奈一云阿之井〉

藎草 本草に藎草〈上の音は疾胤反、加岐奈(かきな)、一に阿之井(あしゐ)と云ふ〉と云ふ。

麻黄 本屮云麻黄〈加豆祢久佐一云阿末奈〉

麻黄 本草に麻黄〈加豆禰久佐(かつねぐさ)、一に阿末奈(あまな)と云ふ〉と云ふ。

知毋 本屮云知毋一名兒草〈夜末之〉

知母 本草に云はく、知母は一名に児草といふ。〈夜末之(やまし)〉

大青 本屮云大青〈波止久散一云久流久佐〉

大青 本草に大青〈波止久散(はとくさ)、一に久流久佐(くるくさ)と云ふ〉と云ふ。

决明 陶隠居曰决明〈衣比湏久佐〉石决明是蚌蛤類皆主明目故並有决明之名

决明 陶隠居に曰はく、决明〈衣比須久佐(えびすぐさ)〉、石决明は是、蚌蛤の類、皆(ひと)しく目を明るくすることを主る、故に並びに决明の名有りといふ。

狗尾草 弁色立成云狗尾草〈惠奴乃古久散〉

狗尾草 弁色立成に狗尾草〈恵奴乃古久散(ゑぬのこぐさ)〉と云ふ。

貝毋 陶隠居曰貝毋〈波々久利〉形似聚貝故以名之

貝母 陶隠居に曰はく、貝母〈波々久利(ははくり)〉、形は貝を聚むるに似る、故に以て之れを名づくといふ。

連翹 本屮云連翹一名三廉草〈伊多知久散一云以太知波㔟〉

連翹 本草に云はく、連翹は一名に三廉草といふ。〈伊多知久散(いたちぐさ)、一に以太知波勢(いたちはぜ)と云ふ〉

石韋 陶隠居曰石韋〈以波乃加波一云伊波久𫟈〉其葉如皮故以名之生瓦屋上謂之瓦韋

石韋 陶隠居に曰はく、石韋〈以波乃加波(いはのかは)、一に伊波久美(いはぐみ)と云ふ〉は其の葉、皮の如し、故に以て之れを名づくといふ。瓦屋の上に生ゆるは之れを瓦韋と謂ふ。

牛扁 蘓敬曰牛扁〈甫典反太知末知久佐〉治牛病故名牛扁也

牛扁 蘇敬に曰はく、牛扁〈甫典反、太知末知久佐(たちまちぐさ)〉は牛の病を治す、故に牛扁と名くるなりといふ。

萹蓄 本草云萹蓄〈宇之久散〉

萹蓄 本草に萹蓄〈宇之久散(うしくさ)〉と云ふ。

三白草 蘓敬曰三白草〈賀多之路久散〉𦯧上有三黒點古人秘之隠黒為白耳

三白草 蘇敬に曰はく、三白草〈賀多之路久散(かたしろぐさ)〉は葉の上に三つの黒き点有り、古の人、之れを秘(かく)すに黒を隠(しの)び白と為るのみといふ。

旋花 本屮云旋花一名𫟈屮〈旋音賎波夜比止久佐〉

旋花 本草に云はく、旋花は一名に美草といふ。〈旋の音は賎、波夜比止久佐(はやひとぐさ)〉

敗醬 陶隠居曰敗醬〈知女久佐〉氣似敗豆醬故以名之

敗醬 陶隠居に曰はく、敗醬〈知女久佐(ちめぐさ)〉は気の敗(くさ)りて豆醬に似る、故に以て之れを名づくといふ。

白芷 雑要决云白芷一名白芝〈加佐毛知一云与呂比久佐〉

白芷 雑要决に云はく、白芷は一名に白芝といふ。〈加佐毛知(かさもち)、一に与呂比久佐(よろひぐさ)と云ふ〉

青葙 本屮云青葙〈私羊反宇末久散一云阿末久佐〉

青葙 本草に青葙〈私羊反、宇末久散(うまくさ)、一に阿末久佐(あまくさ)と云ふ〉と云ふ。

杜𧄇 蘓敬曰杜𧄇一名馬蹄香〈𧄇音衡布太末賀𫟈一云豆布祢久散〉形似馬蹄故以名之

杜𧄇 蘇敬に曰はく、杜𧄇は一名に馬蹄香〈𧄇の音は衡、布太末賀美(ふたまかみ)、一に豆布禰久散(つぶねぐさ)と云ふ〉、形は馬蹄に似る、故に以て之れを名くといふ。

白鮮 陶隠居曰白鮮一名羊羶〈比豆之久散式連反羊臭也〉氣似羊羶故以名之

白鮮 陶隠居に曰はく、白鮮は一名に羊羶〈比豆之久散(ひつじぐさ)、式連反、羊臭なり〉、気、羊羶に似る、故に以て之れを名くといふ。

白薇 釈薬性云白薇〈𫟈奈之古久佐一云久路久散又云阿末那〉

白薇 釈薬性に白薇〈美奈之古久佐(みなしこぐさ)、一に久路久散(くろくさ)と云ひ、又、阿末那(あまな)と云ふ〉と云ふ。

紫參 本屮云紫參〈知々乃波久散〉

紫参 本草に紫参〈知々乃波久散(ちちのはぐさ)〉と云ふ。

地榆 陶隠居曰地榆一名玉豉〈阿夜女太无一云衣比湏祢〉子黒似豉故以名之

地楡 陶隠居に曰はく、地楡は一名に玉豉〈阿夜女太無(あやめたむ)、一に衣比須禰(えびすね)と云ふ〉、子は黒く豉に似る、故に以て之れを名くといふ。

仙靈毗草 陶隠居曰滛羊藿〈宇无岐奈一云夜末止利久佐〉羊食此藿一日百遍故以名之一名𡬺前蘇敬曰俗名仙靈毗草是〈漢語抄云仙靈毗草万良多介利久佐〉

仙霊毗草 陶隠居に曰はく、淫羊藿〈宇無岐奈(うむきな)、一に夜末止利久佐(やまとりぐさ)と云ふ〉は羊、此の藿を食へば一日に百遍す、故に以て之れを名け、一に剛前と名くといふ。蘇敬に曰はく、俗に仙霊毗草と名くは是といふ。〈漢語抄に仙霊毗草は万良多介利久佐(まらたけぐさ)と云ふ〉

茸蓎子 本草云茸蓎子〈於保𫟈流久佐〉

茸蓎子 本草に茸蓎子〈於保美流久佐(おほみるぐさ)〉と云ふ。

薺苨 本草云薺苨〈臍祢二音佐岐久佐奈一云𫟈乃波〉

薺苨 本草に薺苨〈臍禰の二音、佐岐久佐奈(さきくさな)、一に美乃波(みのは)と云ふ〉と云ふ。

大黄 本草云大黄一名黄良〈於保之〉

大黄 本草に云はく、大黄は一名に黄良といふ。〈於保之(おほし)〉

鱧膓草 本屮云鱧膓草〈上音礼宇末岐多之〉

鱧腸草 本草に鱧腸草〈上の音は礼、宇末岐多之(うまきたし)〉と云ふ。

半夏 本屮云半夏〈保曽久𫟈〉

半夏 本草に半夏〈保曽久美(ほそくみ)〉と云ふ。

蒟醬 本屮云蒟醬一名蓽蕟〈必發二音和太々非〉

蒟醬 本草に云はく、蒟醬は一名に蓽蕟〈必発の二音、和太々非(わたたび)〉といふ。

甘遂 本屮云甘遂〈迩波曽一云迩比曽〉

甘遂 本草に甘遂〈邇波曽(にはそ)、一に邇比曽(にひそ)と云ふ〉と云ふ。

虎掌 陶隠居云虎掌〈於保々曽𫟈〉四畔有圎牙如看虎掌故以名之

虎掌 陶隠居に云はく、虎掌〈於保々曽美(おほほそみ)〉は四つの畔に円き牙有ありて虎の掌を看るが如し、故に以て之れを名くといふ。

蕘蕐 本草云蕘蕐〈上音饒波末迩礼〉

蕘華 本草に蕘華〈上の音は饒、波末邇礼(はまにれ)〉と云ふ。

䔧蘆 本草云䔧蘆〈上音黎夜末宇波良一云之々乃久比能岐〉

蔾蘆 本草に云はく、蔾蘆〈上の音は黎、夜末宇波良(やまうばら)、一に之々乃久比能岐(ししのくびのき)と云ふ〉といふ。

兎葵 本草云兎葵〈以倍迩礼〉

兎葵 本草に兎葵〈以倍邇礼(いへにれ)〉と云ふ。

亭歴子 本草云亭歴子〈波末太加奈一云阿之奈豆那又云波末世利〉

亭歴子 本草に亭歴子〈波末太加奈(はまたかな)、一に阿之奈豆那(あしなづな)と云ひ、又、波末世利(はまぜり)と云ふ〉と云ふ。

赭魁 本草云赭魁〈為乃止々岐〉

赭魁 本草に赭魁〈為乃止々岐(ゐのととき)〉と云ふ。

及已 本草云及已〈仁諿音義已音以豆岐祢久佐〉

及已 本草に及已〈仁諝音義に已の音は以、豆岐禰久佐(つきねぐさ)〉と云ふ。

大㦸 本草云大㦸〈波夜比止久佐〉

大戟 本草に大戟〈波夜比止久佐(はやひとぐさ)〉と云ふ。

鳶尾 本草云鳶尾一名烏園〈古夜湏久佐〉

鳶尾 本草に云はく、鳶尾は一名に烏園といふ。〈古夜須久佐(こやすぐさ)〉

牛膝 陶隠居曰牛膝〈為乃久豆知〉莭似牛膝故以名之

牛膝 陶隠居に曰はく、牛膝〈為乃久豆知(ゐのくづち)〉は節、牛の膝に似る、故に以て之れを名くといふ。

蓍 蘓敬曰蓍〈音尸女止〉以其莖為筮者也

蓍 蘇敬に曰はく、蓍〈音は尸、女止(めど)〉は其の茎を以て筮に為る者なりといふ。

虎杖 本屮䟽云虎杖一名武杖〈伊多止利〉

虎杖 本草疏に云はく、虎杖は一名に武杖といふ。〈伊多止利(いたどり)〉

葎草 本草云葎草〈上音律毛久良〉

葎草 本草に葎草〈上の音は律、毛久良(もぐら)〉と云ふ。

菴蘆子 本草云菴蘆子〈上音淹波々古〉

菴蘆子 本草に菴蘆子〈上の音は淹、波々古(ははこ)〉と云ふ。

馬先蒿 陶隠居曰馬先蒿一名爛石草〈比岐与毛岐〉

馬先蒿 陶隠居に曰はく、馬先蒿は一名に爛石草といふ。〈比岐与毛岐(ひきよもぎ)〉

薏苡 兼名苑云薏苡〈億以二音〉一名芋珠〈豆之太万〉

薏苡 兼名苑に云はく、薏苡〈億以の二音〉は一名に芋珠といふ。〈豆之太万(つしだま)〉

商陸 本屮云商陸〈伊乎湏岐〉

商陸 本草に商陸〈伊乎須岐(いをすき)〉と云ふ。

車前子 本屮云車前子一名芣苡〈浮以二音於保波古〉

車前子 本草に云はく、車前子は一名に芣苡といふ。〈浮以の二音、於保波古(おほばこ)〉

茺蔚 本草云茺蔚〈充尉二音女波之岐〉

茺蔚 本草に茺蔚〈充尉の二音、女波之岐(めはじき)〉と云ふ。

白英 蘓敬曰白英一名鬼目草〈保曽之一云豆久𫟈乃伊比祢〉

白英 蘇敬に曰はく、白英は一名に鬼目草といふ。〈保曽之(ほそし)、一に豆久美乃伊比禰(つくみのいひね)と云ふ〉

石竜蒭 本草云石竜蒭〈宇之乃比太比〉

石竜蒭 本草に石竜蒭〈宇之乃比太比(うしのひたひ)〉と云ふ。

石龍芮 本草云石龍芮〈如鈗反不加豆𫟈〉

石竜芮 本草に石竜芮〈如鋭反、不加豆美(ふかつみ)〉と云ふ。

穬麥 新抄本草云穬麥〈上音廣加良湏牟岐〉

穬麦 新抄本草に穬麦〈上の音は広、加良須牟岐(からすむぎ)〉と云ふ。

栝樓 兼名苑云栝樓一名𤬉㼋〈圭姑二音加良湏宇利〉

栝楼 兼名苑に云はく、栝楼は一名𤬉㼋〈圭姑の二音、加良須宇利(からすうり)〉といふ。

玄參 本屮云玄參一名重䑓〈於之久佐〉

玄参 本草に云はく、玄参は一名に重台といふ。〈於之久佐(おしくさ)〉

射干 本屮云射干一名烏扇〈射音夜加良湏安符岐〉

射干 本草に云はく、射干は一名に烏扇といふ。〈射の音は夜、加良須安符岐(からすあふぎ)〉

苦參 本屮云苦參一名苦𧄹〈音識久良々一云末比利久佐〉

苦参 本草に云はく、苦参は一名に苦𧄹〈音は識、久良々(くらら)、一に末比利久佐(まひりぐさ)と云ふ〉といふ。

藁本 蘓敬曰藁本〈佐々波曽良之一云曽良之〉根上苗下似藳故以名之

藁本 蘇敬に曰はく、藁本〈佐々波曽良之(ささはそらし)、一に曽良之(そらし)と云ふ〉は根の上の苗の下(もと)の藳に似る、故に以て之れを名くといふ。

酢漿 本屮云酢漿草〈加太波𫟈〉

酢漿 本草に酢漿草〈加太波美(かたばみ)〉と云ふ。

酸漿 兼名苑云酸漿一名洛神珠〈保々豆岐〉

酸漿 兼名苑に云はく、酸漿は一名に洛神珠といふ。〈保々豆岐(ほほづき)〉

艾 本草云艾一名醫草〈与毛岐〉兼名苑云蓬〈音逢〉一名蓽〈音畢〉艾也

艾 本草に云はく、艾は一名に醫草といふ〈与毛岐(よもぎ)〉。兼名苑に云はく、蓬〈音は逢〉は一名に蓽〈音は畢〉、艾なりといふ。

茵陳蒿 釋薬性云茵陳蒿〈比岐与毛岐〉

茵陳蒿 釈薬性に茵陳蒿〈比岐与毛岐(ひきよもぎ)〉と云ふ。

白蒿 本草云白蒿一名蘩皤蒿〈上中二音繁波之呂与毛岐一云加波良与毛岐今案菊又有此和名見上文〉

白蒿 本草に云はく、白蒿は一名に蘩皤蒿〈上中の二音は繁波、之呂与毛岐(しろよもぎ)、一に加波良与毛岐(かはらよもぎ)と云ふ。今案ふるに菊に又、此の和名有り、上文に見ゆ〉といふ。

芄蘭 本草云芄蘭蘿麻子一名芄蘿〈上音丸加々𫟈〉

芄蘭 本草に云はく、芄蘭蘿麻子は一名に芄蘿〈上の音は丸、加々美(かがみ)〉といふ。

徐長卿 本草云徐長卿〈比女加々𫟈〉

徐長卿 本草に徐長卿〈比女加々美(ひめかがみ)〉と云ふ。

白前 本草云白前一名石藍〈能可々𫟈〉

白前 本草に云はく、白前は一名に石藍といふ。〈能可々美(のかがみ)〉

白蘝 本草云白蘝〈力𢮦反夜末加々𫟈〉

白蘝 本草に白蘝〈力𢮦反、夜末加々美(やまかがみ)〉と云ふ。

王不留行 釋薬性云王不留行〈今案一本留作流也加佐久散〉

王不留行 釈薬性に王不留行〈今案ふるに一本に留を流に作るなり。加佐久散(かさくさ)〉と云ふ。

景天 陶隠居曰景天一名慎火〈伊岐久佐〉避火故以名之

景天 陶隠居に曰はく、景天は一名に慎火〈伊岐久佐(いきくさ)〉、火を避くが故に以て之れを名くといふ。

抜葜 本屮云抜葜〈上方八反佐流止利一云於保宇波良〉

抜葜 本草に抜葜〈上は方八反、佐流止利(さるとり)、一に於保宇波良(おほうばら)と云ふ〉と云ふ。

枲耳 陶隠居曰枲耳一名羊屓來〈枲音子奈毛𫟈〉昔中國無此草従外國逐羊毛中而来故以名之

枲耳 陶隠居に曰はく、枲耳は一名に羊負来〈枲の音は子、奈毛美(なもみ)〉、昔、中国に此の草無し、外国より羊を逐ひ毛の中にして来るが故に以て之れを名くといふ。

王孫 本草云王孫一名黄孫〈沼波利久佐此间云都知波利〉

王孫 本草に云はく、王孫は一名に黄孫といふ。〈沼波利久佐(ぬはりぐさ)、此の間に都知波利(つちはり)と云ふ〉

積雪屮 陶隠居曰積雪屮〈豆保久佐〉寒冷故以名之蘓敬曰其𦯧如銭故亦名連銭屮

積雪草 陶隠居に曰はく、積雪草〈豆保久佐(つぼくさ)〉は寒、冷、故に以て之れを名くといふ。蘇敬に曰はく、其の葉は銭の如し、故に亦、連銭草と名くといふ。

菅 唐匀云菅〈音姧字亦作蕳湏計〉草名也

菅 唐韻に云はく、菅〈音は姧、字は亦、蕑に作る、須計(すげ)〉は草の名なりといふ。

茅 大清經云茅一名白羽草〈茅音莫交反知〉

茅 大清経に云はく、茅は一名に白羽草といふ。〈茅の音は莫交反、知(ち)〉

萓 廣益玉篇云萓〈魚飢反与冝同加夜〉

萓 広益玉篇に萓〈魚飢反、宜と同じ、加夜(かや)〉と云ふ。

莱屮 弁色立成云莱屮〈上音来之波〉一名類屮

萊草 弁色立成に云はく、萊草〈上の音は来、之波(しば)〉は一名に類草といふ。

百合 本屮云百合一名磨藣〈音罷由里〉

百合 本草に云はく、百合は一名に磨藣〈音は罷、由里(ゆり)〉といふ。

懐香 兼名苑注云懐香一名懐芸〈久礼乃於毛〉

懐香 兼名苑注に云はく、懐香は一名に懐芸といふ。〈久礼乃於毛(くれのおも)〉

白慈屮 弁色立成云白慈屮〈末太布利久佐〉

白慈草 弁色立成に白慈草〈末太布利久佐(またぶりぐさ)〉と云ふ。

狼牙 陶隠居曰狼牙一名犬牙〈古末豆那岐〉根牙似獣牙歯故以名之

狼牙 陶隠居に曰はく、狼牙は一名に犬牙〈古末豆那岐(こまつなぎ)〉、根牙は獣の牙歯に似る、故に以て之れを名くといふ。

莨蓎子 本屮云莨蓎〈狼唐二音於保𫟈留久佐〉

莨蓎子 本草に莨蓎〈狼唐の二音、於保美留久佐(おほみるくさ)〉と云ふ。

貫衆 本屮云貫衆〈於迩和良比〉

貫衆 本草に貫衆〈於邇和良比(おにわらび)〉と云ふ。

蒴藋 蘓敬曰蒴藋〈朔濁二音俗云曽久止宇〉即陸英也

蒴藋 蘇敬に曰はく、蒴藋〈朔濁の二音、俗に曽久止宇(そくとう)と云ふ〉は即ち陸英なりといふ。

葒草 陶隠居云葒草〈上音紅〉一名遊龍〈伊奴太天〉

葒草 陶隠居に云はく、葒草〈上の音は紅〉は一名に遊竜といふ。〈伊奴太天(いぬたで)〉

苛 玉篇云苛〈音何以良〉小屮生剌也

苛 玉篇に云はく、苛〈音は何、以良(いら)〉は小さき草に刺を生やすなりといふ。

𦻂蕪 尒雅注云𦻂蕪〈飡無二音須之〉似羊蹄葉細味酢者也

𦻂蕪 爾雅注に云はく、𦻂蕪〈飡無の二音、須之(すし)〉は羊蹄に似て葉は細く、味は酢き者なりといふ。

由䟦 本草云由䟦〈薄葛反加岐都波奈〉

由䟦 本草に由䟦〈薄葛反、加岐都波奈(かなつばな)〉と云ふ。

蓱 説文云蓱〈薄経反字亦作萍宇岐久佐〉無根浮水上者也

蓱 説文に云はく、蓱〈薄経反、字は亦、萍に作る、宇岐久佐(うきくさ)〉は根無く水の上に浮く者なりといふ。

蒲〈蒲黄附〉 唐匀云蒲〈薄胡反可末〉草名似藺可以為席也陶隠居曰蒲黄〈加万乃波奈〉花上黄者也

蒲〈蒲黄付〉 唐韻に云はく、蒲〈薄胡反、可末(かま)〉は草の名、藺に似て以て席に為べきなりといふ。陶隠居に曰はく、蒲黄〈加万乃波奈(かまのはな)〉は花の上の黄なる者なりといふ。

菰〈菰𩠐附〉 本屮云菰一名蒋〈上音孤下音将古毛〉弁色立成云茭草〈一云菰蒋草上音穀肴反〉七卷食經云菰𩠐味甘冷〈古毛不豆路一名古毛都乃〉

菰〈菰首付〉 本草に云はく、菰は一名に蒋といふ〈上の音は孤、下の音は将、古毛(こも)〉。弁色立成に茭草〈一に菰蒋草と云ふ、上の音は穀肴反〉と云ふ。七巻食経に云はく、菰首、味は甘、冷といふ。〈古毛不豆路(こもぶつろ)、一名に古毛都乃(こもづの)〉

昌蒲 養性要集云昌蒲一名臰蒲〈阿夜米久佐〉

昌蒲 養性要集に云はく、昌蒲は一名に臭蒲といふ。〈阿夜米久佐(あやめぐさ)〉

劇草 蘓敬曰劇草一名馬藺〈加岐豆波太〉

劇草 蘇敬に曰はく、劇草は一名に馬藺といふ。〈加岐豆波太(かきつばた)〉

虵床子 本草云虵床子〈比流牟之侶〉

蛇床子 本草に蛇床子〈比流牟之侶(ひるむしろ)〉と云ふ。

三稜草 本草云三稜草〈稜音魯登反𫟈久利〉

三稜草 本草に三稜草〈稜の音は魯登反、美久利(みくり)〉と云ふ。

莎草 唐匀云莎草〈蘓禾反漢語抄云久具〉草名也

莎草 唐韻に云はく、莎草〈蘇禾反、漢語抄に久具(くぐ)と云ふ〉は草の名なりといふ。

莞 唐匀云莞〈音完一音丸漢語抄云於保井〉可以為席者也

莞 唐韻に云はく、莞〈音は完、一音に丸、漢語抄に於保井(おほゐ)と云ふ〉は以て席と為べき者なりといふ。

藺 玉篇云藺〈音𠫤為弁色立成云鷺尻剌〉似莞而細堅冝為席者也

藺 玉篇に云はく、藺〈音は吝、為(ゐ)、弁色立成に鷺尻刺(さぎのしりさし)と云ふ〉は莞に似て細く堅く、宜しく席と為べき者なりといふ。

䑕尾屮 本屮云䑕尾屮〈𫟈曽波岐〉

鼠尾草 本草に鼠尾草〈美曽波岐(みそはぎ)〉と云ふ。

烏頭附子 本屮注云似烏鳥頭謂之烏頭似口者謂之烏喙三寸以上謂之天雄八月採者為附子其𨕙角大者謂之側子

烏頭附子 本草注に云はく、鳥鳥の頭に似るは之れを烏頭と謂ひ、口に似る者を烏喙と謂ひ、三寸以上は之れを天雄と謂ひ、八月に採る者を附子と為、其の辺角の大き者は之れを側子と謂ふといふ。

苔類百廿二

苔類百二十二

苔 陸詞切匀云苔〈音䑓古介〉水衣也

苔 陸詞切韻に云はく、苔〈音は台、古介(こけ)〉は水衣なりといふ。

屋遊 蘓敬本屮云屋遊〈夜乃倍乃古計〉屋瓦上青苔衣

屋遊 蘓敬本草に云はく、屋遊〈夜乃倍乃古計(やのへのこけ)〉は屋の瓦の上の青き苔衣といふ。

石衣 本草云石衣一名石髪〈形髪同知比佐岐古介〉

石衣 本草に云はく、石衣は一名に石髪といふ。〈形は髪に同じ、知比佐岐古介(ちひさきこけ)〉

垣衣 本草云垣衣一名烏韮〈之乃不久佐〉

垣衣 本草に云はく、垣衣は一名に烏韮といふ。〈之乃不久佐(しのふくさ)〉

蘿 唐匀云蘿〈魯何反日本紀私記云蘿比加介〉女蘿也雜要决云松蘿一名女蘿〈万豆乃古介一云佐流乎加世〉

蘿 唐韻に云はく、蘿〈魯何反、日本紀私記に蘿は比加介(ひかげ)と云ふ〉は女蘿なりといふ。雑要决に云はく、松蘿は一名に女蘿といふ。〈万豆乃古介(まつのこけ)、一に佐流乎加世(さるをかせ)と云ふ〉

蓮類百廿三

蓮類百二十三

芙蕖 尒雅云荷芙蕖〈符芙音同蕖音渠〉郭璞曰芙蓉〈音容〉江東呼為荷也

芙蕖 爾雅に云はく、荷は芙蕖〈符芙に音は同じ、蕖の音は渠〉といふ。郭璞に曰はく、芙蓉〈音は容〉は江東に呼びて荷と為るなりといふ。

藕 尒雅云其根藕〈音偶波知湏乃祢〉

藕 爾雅に云はく、其の根を藕〈音は偶、波知須乃禰(はちすのね)〉といふ。

𦾖 尒雅云其本𦾖〈音蜜波知湏乃波比〉郭璞曰莖下白蒻〈音弱〉在泥中者也

𦾖 爾雅に云はく、其の本を𦾖〈音は蜜、波知須乃波比(はちすのはひ)〉といふ。郭璞に曰はく、茎の下の白蒻〈音は弱〉は泥の中に在る者なりといふ。

茄 尒雅云其莖茄〈音加波知湏乃久岐〉

茄 爾雅に云はく、其の茎を茄〈音は加、波知須乃久岐(はちすのくき)〉といふ。

蕸 尒雅云其𦯧蕸〈胡歌反〉郭璞曰蕸亦荷字也

蕸 爾雅に云はく、其の葉を蕸〈胡歌反〉といふ。郭璞に曰はく、蕸は亦、荷の字なりといふ。

菡蓞 尒雅云其蕐菡蓞〈上胡感反下徒感反並上声之重〉兼名苑注云蓮花已𫔭曰芙蕖未舒曰菡蓞也

菡萏 爾雅に云はく、其の華を菡萏〈上は胡感反、下は徒感反、並びに上声の重〉といふ。兼名苑注に云はく、蓮の花、已に開くを芙蕖と曰ひ、未だ舒びざるを菡萏と曰ふなりといふ。

蓮 尒雅云其子蓮〈音連〉其中菂〈音漁釣之釣又音的〉郭璞曰蓮謂房也菂蓮中子也

蓮 爾雅に云はく、其の子を蓮〈音は連〉、其の中を菂〈音は漁釣の釣、又の音は的〉といふ。郭璞に曰はく、蓮は房を謂ふなり、菂は蓮の中の子なりといふ。

蕣 文字集略云蕣〈音舜岐波知湏〉地蓮蕐朝生夕落者也

蕣 文字集略に云はく、蕣〈音は舜、岐波知須(きはちす)〉は地蓮、華は朝に生れ夕に落つる者なりといふ。

葛類百廿四

葛類百二十四

葛 蘓敬曰葛穀一名鹿豆〈葛音割久湏加豆良乃𫟈〉葛實名也葛脰〈音豆久湏加都良乃祢〉葛脰〈音豆久須加都良乃祢〉葛根入地五六寸名也

葛 蘇敬に曰はく、葛穀は一名に鹿豆〈葛の音は割、久須加豆良乃美(くずかづらのみ)〉、葛の実の名なり、葛脰〈音は豆、久須加都良乃禰(くずかづらのね)〉は葛の根の地に五六寸入るる名なりといふ。

藤〈狼跋子附〉 尒雅注云藟〈力䡄反字亦作虆布知〉藤也似葛而大蘓敬曰其子狼跋子

藤〈狼跋子付〉 爾雅注に云はく、藟〈力軌反、字は亦、虆に作る、布知(ふぢ)〉は藤なり、葛に似て大しといふ。蘇敬に曰はく、其の子を狼跋子といふ。

皂莢 本草云皂莢〈造夾二音加波良不知俗云虵結〉

皂莢 本草に皂莢〈造夹の二音、加波良不知(かはらふぢ)、俗に蛇結(じゃけつ)と云ふ〉と云ふ。

馬鞭草 蘓敬曰馬鞭草〈久末豆々良〉其穗類鞭鞘故以名之

馬鞭草 蘇敬に曰はく、馬鞭草〈久末豆々良(くまつづら)〉は其の穂、鞭鞘に類(に)る、故に以て之れを名くといふ。

芎藭 唐匀云芎藭〈弓窮二音本屮於无奈加豆良〉香屮也根曰芎藭苗曰蘪蕪〈微無二音蘪又作薇〉

芎藭 唐韻に云はく、芎藭〈弓窮の二音、本草に於無奈加豆良(おむなかづら)〉は香草なり、根を芎藭と曰ひ、苗を蘪蕪〈微無の二音、蘪は又、薇に作る〉と曰ふといふ。

五味 蘓敬曰五味〈佐祢加豆良〉皮完肉甘酸核中辛苦都有醎味故名五味也

五味 蘇敬に曰はく、五味〈佐禰加豆良(さねかづら)〉、皮の完(しし)は甘、酸、核の中は辛、苦、都て鹹味有り、故に五味と名くなりといふ。

紫萄 本屮云紫萄〈衣比加豆良〉文選蜀都賦云蒲萄乱潰〈萄音陶漢語抄云蒲萄衣比加豆良乃𫟈〉

紫萄 本草に紫萄〈衣比加豆良(えびかづら)〉と云ふ。文選蜀都賦に云はく、蒲萄は乱れ潰(つひ)ゆといふ。〈萄の音は陶、漢語抄に蒲萄は衣比加豆良乃美(えびかづらのみ)と云ふ〉

防已 本屮云防已一名解離〈阿乎加都良〉

防已 本草に云はく、防已は一名に解離といふ。〈阿乎加都良(あをかづら)〉

忍冬 陶隠居曰忍冬〈湏比可豆良〉凌冬不凋故以名之

忍冬 陶隠居に曰はく、忍冬〈須比加豆良(すひかづら)〉は冬を凌ぎ凋まず、故に以て之れを名くといふ。

千歳虆 蘓敬曰千歳虆一名蘡薁藤〈上中二音嬰育阿末都良此间甘葛也〉得千歳者莖大如梡

千歳虆 蘇敬に曰はく、千歳虆は一名に蘡薁藤〈上中の二音は嬰育、阿末都良(あまづら)、此の間に甘葛なり〉、千歳を得る者の茎は大(ふと)く梡(たきぎ)の如しといふ。

絡石 本屮云絡石一名領石〈都太〉蘓敬曰此屮苞石木而生故以名之

絡石 本草に云はく、絡石は一名に領石といふ〈都太(つた)〉。蘇敬に云はく、此の草は石木を苞みて生ゆ、故に以て之れを名くといふ。

百部 陶隠居曰百部〈保度豆良〉一種以有百部故以名之

百部 陶隠居に曰はく、百部〈保度豆良(ほどづら)〉は一種を以て百部有り、故に以て之れを名くといふ。

細子草 弁色立成云細子草〈久曽可都良〉

細子草 弁色立成に細子草〈久曽可都良(くそかづら)〉と云ふ。

草木部下

草木部下

竹類百廿五 竹具百廿六 木類百廿七 木具百廿八〈草具附出〉

竹類百二十五 竹具百二十六 木類百二十七 木具百二十八〈草具付出〉

竹類百廿五

竹類百二十五

竹 四声字苑云竹〈陟六反多介〉草也一云非草非木兼名苑注云筠〈王麏反〉竹捴名也

竹 四声字苑に云はく、竹〈陟六反、多介(たけ)〉は草なりといふ。一に云はく、草に非ず木に非ずといふ。兼名苑注に云はく、筠〈王麏反〉は竹の総名なりといふ。

筨竹 唐匀云䈄〈音含字亦作筨〉竹名也

筨竹 唐韻に云はく、䈄〈音は含、字は亦、筨に作る〉は竹の名なりといふ。

𥯶竹 四声字苑云𥯶〈音苦弁色立成云苦竹加波多介〉竹名也

𥯶竹 四声字苑に云はく、𥯶〈音は苦、弁色立成に苦竹は加波多介(かはたけ)と云ふ〉は竹の名なりといふ。

𥲄竹 唐匀云𥲄〈徒敢反上声之重漢語抄云淡竹於保太介〉竹名也

𥲄竹 唐韻に云はく、𥲄〈徒敢反、上声の重、漢語抄に淡竹は於保太介(おほたけ)と云ふ〉は竹の名なりといふ。

䇞竹 文字集略云䇞〈音甘漢語抄云呉竹也和語云久礼太計〉似䈽而下莭茂𦯧者也

䇞竹 文字集略に云はく、䇞〈音は甘、漢語抄に呉竹なりと云ひ、和語に久礼太計(くれたけ)と云ふ〉は䈽に似て節に下し葉を茂らす者なりといふ。

斑竹 兼名苑云斑竹一名淚竹〈此間斑竹音篇知久〉

斑竹 兼名苑に云はく、斑竹は一名に涙竹といふ。〈此の間に斑竹は音に篇知久〉

筒 唐匀云筒〈音同又棟俗用去声〉竹名也

筒 唐韻に云はく、筒〈音は同、又は棟、俗に去声に用ゐる〉は竹の名なりといふ。

箟 唐匀云箟〈音昆能〉箭竹名也

箟 唐韻に云はく、箟〈音は昆、能(の)〉は箭竹の名なりといふ。

篠 蒋魴切匀云篠〈先鳥反之乃小竹散々〉細々小竹也

篠 蒋魴切韻に云はく、篠〈先鳥反、之乃(しの)、小竹は散々(ささ)〉は細々の小竹なりといふ。

竹具百廿六

竹具百二十六

笋 尒雅注云筍〈音隼字𡖋作笋太加无奈〉竹初生也

笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈(たかむな)〉は竹の初めて生ゆるなりといふ。

長間笋 兼名苑注云長間笋〈今案之乃米〉笋青最晩生味太苦也

長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈今案ふるに之乃米(しのめ)〉は笋のうち青く最も晩く生え、味太だ苦きなりといふ。

籜 蒋魴切韵云籜〈音擇笋乃宇波加波〉竹皮也

籜 蒋魴切韻に云はく、籜〈音は択、笋乃宇波加波(たかむなのうはかは)〉は竹の皮なりといふ。

篾 孫愐切匀云篾〈莫結反竹乃加波〉

篾 孫愐切韻に篾〈莫結反、竹乃加波(たけのかは)〉と云ふ。

節 野王案云節〈音切布之〉竹中隔而不通者也

節 野王案に云はく、節〈音は切、布之(ふし)〉は竹の中を隔てて通さざる者なりといふ。

篁 孫愐曰篁〈音皇太加无良俗云多可波良〉竹叢也

篁 孫愐に曰はく、篁〈音は皇、太加無良(たかむら)、俗に多可波良(たかはら)と云ふ〉は竹の叢るなりといふ。

木類百廿七

木類百二十七

旃檀 唐匀云旃檀〈仙壇二音此间云善短〉香木也内典云赤者謂之牛頭栴檀

旃檀 唐韻に云はく、旃檀〈仙壇の二音、此の間に善短と云ふ〉は香木なりといふ。内典に云はく、赤き者は之れを牛頭栴檀と謂ふといふ。

紫檀 内典云旃檀黒者謂之紫檀兼名苑云一名紫栴

紫檀 内典に云はく、旃檀の黒き者は之れを紫檀と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名に紫栴といふ。

白檀 内典云旃檀白者謂之白檀

白檀 内典に云はく、旃檀の白き者は之れを白檀と謂ふといふ。

蘓枋 蘓敬本草云蘇枋〈唐匀作芳音与方同此间音湏房〉人用染色者也

蘇枋 蘇敬本草に云はく、蘇枋〈唐韻に芳に作る、音は方と同じ、此の間に音は須房〉は人の色を染むるに用ゐる者なりといふ。

黒柹 楊氏漢語抄云柹心〈久侶加岐俗用黒柹或説是柹木心黒処也為近於俗別以置之〉

黒柿 楊氏漢語抄に柿心と云ふ。〈久侶加岐(くろがき)、俗に黒柿を用ゐる。或説に是は柿木の心の黒き処なり、俗に近きが為に別けて以て之れを置く〉

黄楊 兼名苑注云黄楊〈都介〉色黄白材堅者也

黄楊 兼名苑注に云はく、黄楊〈都介(つげ)〉は色、黄白く、材にして堅き者なりといふ。

橒 唐匀云橒〈音雲漢語抄云岐佐或説岐佐者蚶之和名也此木文与蚶貝文相似故取名焉今案取和名者義相近矣以此字為木名未詳〉木文也

橒 唐韻に云はく、橒〈音は雲、漢語抄に岐佐(きさ)と云ふ。或説に、岐佐(きさ)は蚶の和名なり、此の木の文は蚶貝の文と相似れり、故に取りて名くとす。今案ふるに、和名は義の相近きを取るも、此の字を以て木の名と為ること未だ詳かならず〉は木の文なりといふ。

栐 唐匀云栐〈音永漢語抄云佐久岐〉木可為笏也

栐 唐韻に云はく、栐〈音は永、漢語抄に佐久岐(さくき)と云ふ〉は笏に為るべき木なりといふ。

松 漢書云树以青松〈私容反末都〉

松 漢書に云はく、樹うるに青松を以てすといふ。〈私容反、末都(まつ)〉

栢 兼名苑云栢〈音百〉一名椈〈音菊加閇〉

栢 兼名苑に云はく、栢〈音は百〉は一名に椈〈音は菊、加閉(かへ)〉といふ。

楓 同苑云楓〈音風〉一名欇〈音攝乎加豆良〉尒雅云有脂而香謂之楓

楓 同苑に云はく、楓〈音は風〉は一名に欇〈音は摂、乎加豆良(をかつら)〉といふ。爾雅に云はく、脂有りて香しきは之れを楓と謂ふといふ。

桂 同苑云桂〈音計〉一名梫〈音寑女加都良〉

桂 同苑に云はく、桂〈音は計〉は一名に梫〈音は寑、女加都良(めかつら)〉といふ。

檉 尒雅注云檉〈𠡠貞反牟侶乃岐〉

檉 爾雅注に檉〈勑貞反、牟侶乃岐(むろのき)〉と云ふ。

楊 唐匀云楊〈音陽夜那岐〉赤莖柳也兼名苑云青楊一名蒲柳

楊 唐韻に云はく、楊〈音は陽、夜那岐(やなぎ)〉は赤茎柳なりといふ。兼名苑に云はく、青楊は一名に蒲柳といふ。

柳 兼名苑云柳〈力久反〉一名小楊〈之太利夜奈岐〉崔豹古今注云一名獨揺微風大揺故以名之

柳 兼名苑に云はく、柳〈力久反〉は一名に小楊〈之太利夜奈岐(しだりやなぎ)〉といふ。崔豹古今注に云はく、一名に独揺、微かな風に大く揺る、故に以て之れを名くといふ。

水楊 本草云水楊〈加波夜那岐〉

水楊 本草に水楊〈加波夜那岐(かはやなぎ)〉と云ふ。

櫻 文字集略云櫻〈烏莖反佐久良〉子大如栢端有赤白黒者也

桜 文字集略に云はく、桜〈烏茎反、佐久良(さくら)〉は子の大き栢の端の如くして、赤、白、黒の者有るなりといふ。

朱櫻 本草云櫻桃一名朱櫻〈波々加一云迩波佐久良〉

朱桜 本草に云はく、桜桃は一名に朱桜といふ。〈波々加(ははか)、一に邇波佐久良(にはざくら)と云ふ〉

柞 四声字苑云柞〈音作一音昨由之漢語抄云波々曽〉木名堪作梳也

柞 四声字苑に云はく、柞〈音は作、一音に昨、由之(ゆし)、漢語抄に波々曽(ははそ)と云ふ〉は木の名、梳り作るに堪ふるなりといふ。

椐 玉篇云椐〈音居一音踞漢語抄云倍𫟈〉木腫莭中為杖也

椐 玉篇に云はく、椐〈音は居、一音に踞、漢語抄に倍美(へみ)と云ふ〉は木腫を節に中て杖に為るなりといふ。

櫁 唐匀云櫁〈音蜜漢語抄云之岐𫟈〉香木也

櫁 唐韻に云はく、櫁〈音は蜜、漢語抄に之岐美(しきみ)と云ふ〉は香木なりといふ。

桒 玉篇云桒〈音㽵字亦作桑久波〉蝅㪽食也

桒 玉篇に云はく、桒〈音は㽵、字は亦、桑に作る、久波(くは)〉は蚕の食ふ所なりといふ。

柘 毛詩注云桒柘〈音射漢語抄云豆𫟈〉蝅㪽食也

柘 毛詩注に云はく、桑柘〈音は射、漢語抄に豆美(つみ)と云ふ〉は蚕の食ふ所なりといふ。

枸𣏌 本屮云枸𣏌根下润黄泉其精灵多為犬子或為小児〈枸𣏌二音苟起沼𫟈久湏利此间音久古〉抱朴子云枸𣏌一名杔櫨〈託盧二音〉一名却老

枸𣏌 本草に云はく、枸𣏌、根の下は黄泉に潤ひ、其の精霊は多く犬子と為り、或に小児と為るといふ〈枸𣏌の二音、苟起は沼美久須利(ぬみぐすり)、此の間に音は久古(くこ)〉。抱朴子に云はく、枸𣏌は一名に杔櫨〈託盧の二音〉、一名に却老といふ。

合歡木 唐匀云棔〈音昏祢布利乃岐〉合歡木其𦯧朝舒暮㰸者也

合歓木 唐韻に云はく、棔〈音は昏、禰布利乃岐(ねぶりのき)〉は合歓木、其の葉は朝に舒び暮に歛(をさ)むる者なりといふ。

蔓椒 本屮云蔓椒〈伊多知波之加𫟈一名保曽岐〉

蔓椒 本草に蔓椒と云ふ。〈伊多知波之加美(いたちはじかみ)、一名に保曽岐(ほそき)〉

呉茱茰 本草云呉茱茰〈朱臾二音加波々之加𫟈〉

呉茱萸 本草に呉茱萸〈朱臾の二音、加波々之加美(かははじかみ)〉と云ふ。

食茱茰 馬琬食經云食茱茰〈於保太良〉

食茱萸 馬琬食経に食茱萸〈於保太良(おほたら)〉と云ふ。

杦 尒雅音義云杦〈音衫一音纎湏岐見日本紀私記今案俗用椙字非也椙者於粉反柱也見唐匀〉似松生江南可以為舩材矣

杉 爾雅音義云はく、杉〈音は衫、一音に纎、須岐(すぎ)、日本紀私記に見ゆ。今案ふるに俗に椙の字を用ゐるは非ざるなり。椙は於粉反、柱なり、唐韻に見ゆ〉は松に似て江南に生え、以て船の材に為べしといふ。

檜 尒雅云栢𦯧松身曰檜〈音㑹又入声古活反𠃧〉

檜 爾雅に云はく、栢の葉にして松の身なるを檜〈音は会、又、入声、古活反、飛(ひ)〉と曰ふといふ。

樅 尒雅云松葉栢身曰樅〈七容反毛𫟈〉

樅 爾雅に云はく、松の葉にして栢の身を樅〈七容反、毛美(もみ)〉と曰ふといふ。

梧桐 陶隠居曰桐有四種青桐〈音同〉梧桐〈上音吾〉崗桐椅桐〈椅音猗皆岐利〉梧桐者色白有子者〈今案俗訛呼為青桐是二音譲圡〉椅桐者白桐也三月花紫且堪作琴瑟者是

梧桐 陶隠居に曰はく、桐に四種有り、青桐〈音は同じ〉、梧桐〈上の音は吾〉、崗桐、椅桐〈椅の音は猗、皆、岐利(きり)〉、梧桐は色白くして子有る者〈今案ふるに俗に訛り呼びて青桐と為るは是、二音は譲土〉、椅桐は白桐なり、三月に紫に花さき、且(また)、琴瑟を作るに堪ふるは是といふ。

厚朴〈重皮附〉 本草云厚朴一名厚皮〈漢語抄云厚木保々加之波乃岐〉釈薬性云重皮〈保々乃可波〉厚朴皮名也

厚朴〈重皮付〉 本草に云はく、厚朴は一名に厚皮〈漢語抄に厚木は保々加之波乃岐(ほほがしはのき)と云ふ〉といふ。釈薬性に云はく、重皮〈保々乃可波(ほほのかは)〉は厚朴の皮の名なりといふ。

椶榈 唐匀云椶榈〈忩闾二音〉一名蒲葵説文云栟榈可以為萆〈栟音并今案即椶榈也俗云種路〉

椶櫚 唐韻に云はく、椶櫚〈忩閭の二音〉は一名に蒲葵といふ。説文に云はく、栟櫚は以て萆に為るべしといふ。〈栟の音は并、今案ふるに即ち椶櫚なり、俗に種路と云ふ〉

欒 蘓敬本屮注云欒〈魯官反漢語抄云木欒子无久礼迩之乃岐〉其子堪為数珠者也

欒 蘇敬本草注に云はく、欒〈魯官反、漢語抄に木欒子は無久礼邇之乃岐(むくれにじのき)と云ふ〉は其の子は数珠に為るに堪ふる者なりといふ。

槻 唐匀云槻〈音規都岐乃岐〉木名堪作弓者也

槻 唐韻に云はく、槻〈音は規、都岐乃岐(つきのき)〉は木の名、弓を作るに堪ふる者なりといふ。

榎 尒雅注云榎〈古雅反字亦作檟〉一名槄〈音瑫衣〉

榎 爾雅注に云はく、榎〈古雅反、字は亦、檟に作る〉は一名に槄〈音は瑫、衣(え)〉といふ。

椋 尒雅注云椋〈音良〉一名即棶〈音来牟久〉

椋 爾雅注に云はく、椋〈音は良〉は一名に即棶〈音は来、牟久(むく)〉といふ。

木瓜 尒雅注云木瓜一名楙〈音茂本屮木瓜毛介〉其子如小瓜者也

木瓜 爾雅注に云はく、木瓜は一名に楙〈音は茂、本草に木瓜、毛介(もけ)〉、其の子は小瓜の如き者なりといふ。

釣樟 本屮云釣樟一名鳥樟〈音章久沼岐〉

釣樟 本草に云はく、釣樟は一名に鳥樟といふ。〈音は章、久沼岐(くぬぎ)〉

羊躑躅 陶隠居曰羊躑躅〈擲𥄂二音伊波都々之一云毛知豆々之〉羊誤食之躑躅而死故以名之

羊躑躅 陶隠居に曰はく、羊躑躅〈擲直の二音、伊波都々之(いはつつじ)、一に毛知豆々之(もちつつじ)と云ふ〉は羊、誤りて之れを食ひ躑躅(つまづ)きて死す、故に以て之れを名くといふ。

茵芋 本屮云茵芋〈因于二音迩豆々之一云乎加豆々之〉

茵芋 本草に茵芋〈因于の二音、邇豆々之(につつじ)、一に乎加豆々之(をかつつじ)と云ふ〉と云ふ。

山榴 兼名苑云山榴〈阿伊豆々之〉即山石榴也花而羊躑躅相似矣

山榴 兼名苑に云はく、山榴〈阿伊豆々之(あいつつじ)〉は即ち山石榴なり、花さきて羊躑躅に相似るといふ。

槐 尒雅集注云葉小而青曰槐〈音廽惠迩湏〉𦯧大而黒曰櫰〈音懐〉𦯧昼合夜開謂之守宮槐

槐 爾雅集注に云はく、葉の小さくして青きを槐〈音は廻、恵邇須(ゑにす)〉と曰ひ、葉の大くして黒きを櫰〈音は懐〉と曰ふ、葉の昼に合ひ夜に開くは之れを守宮槐と謂ふといふ。

㯉 陸詞切韵云㯉〈𠡠居反本屮云沼天〉𢙣木也弁色立成云白膠木〈和名同上〉

㯉 陸詞切韻に云はく、㯉〈勅居反、本草に沼天(ぬて)と云ふ〉は悪しき木なりといふ。弁色立成に白膠木と云ふ。〈和名は上に同じ〉

檍 説文云檍〈音億日本紀私記云阿波岐今案又櫓木一名也見尒雅〉梓之属也

檍 説文に云はく、檍〈音は億、日本紀私記に阿波岐(あはき)と云ふ。今案ふるに又、櫓の木の一名なり、爾雅に見ゆ〉は梓の属なりといふ。

柧棱 唐匀云柧棱〈孤稜二音曽波乃岐〉四方木也

柧棱 唐韻に云はく、柧棱〈孤稜の二音、曽波乃岐(そばのき)〉は四方の木なりといふ。

橿 唐匀云橿〈音薑加之〉万年木也尒雅集注云一名杻一名檍〈杻音紐今案又杻械之杻見刑獄具〉

橿 唐韻に云はく、橿〈音は薑、加之(かし)〉は万年木なりといふ。爾雅集注に云はく、一名に杻、一名に檍といふ。〈杻の音は紐、今案ふるに又、杻械の杻、刑獄具に見ゆ〉

柀 玉篇云柀〈音彼日本紀末岐今案又板一名也見尓雅注〉木名也作柱埋之能不腐者也

柀 玉篇に云はく、柀〈音は彼、日本紀に末岐(まき)。今案ふるに又、板の一名なり、爾雅注に見ゆ〉は木の名なり、柱に作り之れを埋めて能く腐らざる者なりといふ。

梓 孫愐曰梓〈音子阿都佐〉木名楸之属也

梓 孫愐に曰はく、梓〈音は子、阿都佐(あづさ)〉は木の名、楸の属なりといふ。

穀 玉篇云楮〈都古反〉穀木也唐匀云穀〈音糓加知〉木名也

穀 玉篇に云はく、楮〈都古反〉は穀の木なりといふ。唐韻に云はく、穀〈音は糓、加知(かぢ)〉は木の名なりといふ。

𣞀 唐匀云𣞀〈音弾末由𫟈〉木名也

檀 唐韻に云はく、檀〈音は弾、末由美(まゆみ)〉は木の名なりといふ。

杜仲 陶隠居曰杜仲一名木綿〈杜音度波比末由𫟈〉折之多白絲者也

杜仲 陶隠居に曰はく、杜仲は一名に木綿〈杜の音は度、波比末由美(はひまゆみ)〉、之れを折らば白糸多き者なりといふ。

衛矛 本屮云衛矛〈久曽末由𫟈一云加波久末都々良〉

衛矛 本草に衛矛〈久曽末由美(くそまゆみ)、一に加波久末都々良(かはくまつづら)と云ふ〉と云ふ。

蕪夷 本屮云蕪夷一名𦽄䕋〈殿肫二音比岐佐久良〉

蕪夷 本草に云はく、蕪夷は一名に𦽄䕋〈殿肫の二音、比岐佐久良(ひきざくら)〉といふ。

榆 尒雅注云榆〈音臾〉白者名曰枌〈音紛夜迩礼〉

楡 爾雅注に云はく、楡〈音は臾〉の白き者を名けて枌〈音は紛、夜邇礼(やにれ)〉と曰ふといふ。

石𣞀 蘓敬本屮注云秦皮一名石𣞀〈止祢利古乃岐一云太無岐〉𦯧似𣞀故以名之

石檀 蘇敬本草注に云はく、秦皮は一名に石檀〈止禰利古乃岐(とねりこのき)、一に太無岐(たむき)と云ふ〉、葉は檀に似る、故に以て之れを名くといふ。

陵苕 本草云紫葳〈音威〉一名陵苕〈音條末加夜岐農世宇〉蘓敬曰一名凌霄

陵苕 本草に云はく、紫葳〈音は威〉は一名に陵苕〈音は条、末加夜岐(まかやき)、農世宇(のうぜう)〉といふ。蘇敬に曰はく、一名に凌霄といふ。

五茄 神仙服餌方云五茄〈无古岐〉或茄作家言同本而五家如五家為相隣也

五茄 神仙服餌方に云はく、五茄〈無古岐(むこぎ)〉は或に茄を家に作るといふ。本を同じにして五家たり、五家の相隣るを為すが如きなるを言ふ。

賣子木 本草云賣子木〈賀波知佐乃岐〉

売子木 本草に売子木〈賀波知佐乃岐(かはちさのき)〉と云ふ。

鷄冠木 楊氏漢語抄云鷄冠木〈賀倍天乃岐弁色立成云鶏頭樹加比流提乃岐今案是一木名也〉

鶏冠木 楊氏漢語抄に鶏冠木〈賀倍天乃岐(かへでのき)、弁色立成に鶏頭樹を加比流提乃岐(かひるでのき)と云ふ。今案ふるに是れ一に木の名なり〉と云ふ。

接骨木 本屮云接骨木〈𫟈夜都古岐〉

接骨木 本草に接骨木〈美夜都古岐(みやつこぎ)〉と云ふ。

金漆樹 楊氏漢語抄云金漆樹〈許師阿夫良乃岐〉

金漆樹 楊氏漢語抄に金漆樹〈許師阿夫良乃岐(こしあぶらのき)〉と云ふ。

烏草樹 同抄云烏草樹〈佐之夫乃岐弁色立成説同〉

烏草樹 同抄に烏草樹〈佐之夫乃岐(さしぶのき)、弁色立成の説に同じ〉と云ふ。

女貞 拾遺本草云女貞一名冬青〈太豆乃岐楊氏抄云比女都波岐〉冬月青翠故以名之

女貞 拾遺本草に云はく、女貞は一名に冬青〈太豆乃岐(たづのき)、楊氏抄に比女都波岐(ひめつばき)と云ふ〉、冬の月に青く翠なり、故に以て之れを名くといふ。

莾草 山海經注云莾草〈本屮云之岐𫟈〉可以毒魚者也

莽草 山海経注に云はく、莽草〈本草に之岐美(しきみ)と云ふ〉は以て魚の毒にすべき者なりといふ。

黄芩 本屮云黄芩〈音琴比々良岐〉楊氏漢語抄云杠谷樹〈杠音江和名同上〉一云巴戟天

黄芩 本草に黄芩〈音は琴、比々良岐(ひひらぎ)〉と云ひ、楊氏漢語抄に杠谷樹〈杠の音は江、和名は上に同じ〉と云ひ、一に巴戟天と云ふ。

石楠草 本屮云石楠草〈楠音南止比良乃岐俗云佐久奈无佐〉

石楠草 本草に石楠草〈楠の音は南、止比良乃岐(とびらのき)、俗に佐久奈無佐(さくなむざ)と云ふ〉と云ふ。

木蘭 本屮云木蘭一名林蘭〈毛久良迩〉

木蘭 本草に云はく、木蘭は一名に林蘭といふ。〈毛久良邇(もくらに)〉

蔓荊 蘓敬曰蔓荊一名小荆〈波万波比〉

蔓荊 蘇敬に曰はく、蔓荊は一名に小荊といふ。〈波万波比(はまはひ)〉

荊 唐匀云荊〈音亰漢語抄奈万衣乃岐〉木名也

荊 唐韻に云はく、荊〈音は京、漢語抄に奈万衣乃岐(なまえのき)〉は木の名なりといふ。

柃 玉篇云柃〈音零一音冷漢語抄云比佐加岐〉似荊可作染灰者也

柃 玉篇に云はく、柃〈音は零、一音に冷、漢語抄に比佐加岐(ひさかき)と云ふ〉は荊に似て染灰を作るべき者なりといふ。

椿 唐匀云椿〈𠡠倫反豆波岐〉木名也楊氏漢語抄云海石榴〈和名同上式文用之〉

椿 唐韻に云はく、椿〈勅倫反、豆波岐(つばき)〉は木の名なりといふ。楊氏漢語抄に海石榴と云ふ。〈和名は上に同じ、式の文に之れを用ゐる〉

楸 唐匀云楸〈音秋漢語抄比佐岐〉木名也

楸 唐韻に云はく、楸〈音は秋、漢語抄に比佐岐(ひさぎ)〉は木の名なりといふ。

蜀漆〈恒山附〉 新抄本草云蜀漆〈久佐岐一云夜末宇豆岐乃祢〉恒山苗也恒山〈宇久比湏乃伊比祢一云久佐岐乃祢〉

蜀漆〈恒山付〉 新抄本草に云はく、蜀漆〈久佐岐(くさぎ)、一に夜末宇豆岐乃禰(やまうつぎのね)と云ふ〉は恒山の苗なりといふ。恒山。〈宇久比須乃伊比禰(うぐいすのいひね)、一に久佐岐乃禰(くさぎのね)と云ふ〉

楝 玉篇云楝〈音練本屮云阿不知〉其子如榴類白而黏可以浣衣者也

楝 玉篇に云はく、楝〈音は練、本草に阿不知(あふち)と云ふ〉は其の子、榴の類の如く白くして黏りて以て衣を浣ふべき者なりといふ。

楢 唐韵云楢〈音秋漢語抄云奈良〉堅木也

楢 唐韻に云はく、楢〈音は秋、漢語抄に奈良(なら)と云ふ〉は堅き木なりといふ。

桵 尒雅注云桵〈音蕤太良〉小木叢生有剌也

桵 爾雅注に云はく、桵〈音は蕤、太良(たら)〉は小さき木の叢り生え、刺有るなりといふ。

溲䟽 本屮云溲䟽〈上音㪽流反〉一名楊櫨〈宇都岐〉

溲疏 本草に云はく、溲䟽〈上の音は所流反〉は一名に楊櫨〈宇都岐(うつぎ)〉といふ。

木天蓼 刪繁論云木天蓼〈和太々比〉

木天蓼 刪繁論に木天蓼〈和太々比(わたたび)〉と云ふ。

㯽榔〈子附〉 兼名苑云㯽榔〈賔郎二音此间音旻朗〉𦯧聚樹端有十餘房一房数百子者也本屮云㯽榔子一名蒳子〈上音納〉

檳榔〈子付〉 兼名苑に云はく、檳榔〈賓郎の二音、此の間に音は旻朗〉、葉は樹の端に聚り、十余の房有り、一房に数百の子の者なりといふ。本草に云はく、檳榔子は一名に蒳子〈上の音は納〉といふ。

槲 本屮云槲〈音斛可之波〉唐匀云柏〈音帛和名同上〉木名也

槲 本草に槲〈音は斛、可之波(かしは)〉と云ふ。唐韻に云はく、柏〈音は帛、和名は上に同じ〉は木の名なりといふ。

楠 唐匀云楠〈音南字亦作柟本屮久湏乃岐〉木名也櫲樟〈豫章二音日本紀讀同上〉木名生而七年始知矣

楠 唐韻に云はく、楠〈音は南、字は亦、柟に作る。本草に久須乃岐(くすのき)〉は木の名なり、櫲樟〈予章の二音、日本紀に上に同じく読む〉は木の名、生えて七年に始めて知らるといふ。

舉樹 本屮云舉樹〈久奴岐〉日本紀私記云歴木

挙樹 本草に挙樹〈久奴岐(くぬぎ)〉と云ふ。日本紀私記に歴木と云ふ。

枳椇 本屮云枳椇〈只矩二音加良太知〉玉篇云枳似橘而屈曲者也七卷食經云枸櫞〈枸即椇字也櫞音縁加布知〉

枳椇 本草に枳椇〈只矩の二音、加良太知(からたち)〉と云ふ。玉篇に云はく、枳は橘に似て屈り曲る者なりといふ。七巻食経に枸櫞〈枸は即ち椇の字なり、櫞の音は縁、加布知(かぶち)〉と云ふ。

楰 四声字苑云楰〈音臾漢語抄云祢湏𫟈毛知乃岐〉䑕梓木也

楰 四声字苑に云はく、楰〈音は臾、漢語抄に禰須美毛知乃岐(ねずみもちのき)と云ふ〉は鼠梓の木なりといふ。

寄生 本草云寄生一名寓生〈寓亦寄也音遇夜度利岐一云保夜〉

寄生 本草に云はく、寄生は一名に寓生〈寓は亦、寄なり、音は遇、夜度利岐(やどりぎ)、一に保夜(ほや)と云ふ〉といふ。

木具百廿八〈草具附出〉

木具百二十八〈草具付出〉

根株 東宮切匀云根株〈痕誅二音訓上祢下久比世〉草木本也唐匀云荄〈音皆〉草根也

根株 東宮切韻に云はく、根株〈痕誅の二音、訓は上は禰(ね)、下は久比世(くひぜ)〉は草木の本なりといふ。唐韻に云はく、荄〈音は皆〉は草の根なりといふ。

蘖 纂要云斬而復生曰蘖〈魚列反比古波衣〉

蘖 纂要に云はく、斬りて復(また)生ゆるを蘖〈魚列反、比古波衣(ひこばえ)〉と曰ふといふ。

枝條 玉篇云枝柯〈支哥二音衣太〉木之列也纂要云大枝曰榦〈音翰加良〉細枝曰條〈音迢訓与枝同〉唐匀云葼〈音聡之毛止〉木細枝也

枝条 玉篇に云はく、枝柯〈支歌の二音、衣太(えだ)〉は木の列なりといふ。纂要に云はく、大枝を幹〈音は翰、加良(から)〉と曰ひ、細枝を条〈音は迢、訓は枝と同じ〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、葼〈音は聡、之毛止(しもと)〉は木の細き枝なりといふ。

莖 玉篇云莖〈戸耕反久岐〉枝之主也

茎 玉篇に云はく、茎〈戸耕反、久岐(くき)〉は枝の主なりといふ。

葉 陸詞曰葉〈与渉反波万葉集黄葉紅葉讀皆並毛𫟈知波〉草木之敷於莖枝者也

葉 陸詞に曰はく、葉〈与渉反、波(は)、万葉集に黄葉、紅葉は皆、並びに毛美知波(もみちば)と読む〉は草木の茎枝に敷(ひら)く者なりといふ。

樹梢 唐匀云梢〈㪽交反古湏惠〉枝梢也

樹梢 唐韻に云はく、梢〈所交反、古須恵(こずゑ)〉は枝梢なりといふ。

樾 纂要云木枝相交下隂曰樾〈音越古牟良〉

樾 纂要に云はく、木の枝相交はる下の陰を樾〈音は越、古牟良(こむら)〉と曰ふといふ。

杈椏 方言云江東謂樹岐曰杈椏〈砂鵶二音末太不利〉

杈椏 方言に云はく、江東に樹の岐を謂ひて杈椏〈砂鵶の二音、末太不利(またふり)〉と曰ふといふ。

樸 玉篇云樸〈音璞字亦作朴古波太〉木皮也

樸 玉篇に云はく、樸〈音は璞、字は亦、朴に作る、古波太(こはだ)〉は木の皮なりといふ。

樺 玉篇云樺〈戸花胡化二反加迩波今櫻皮有之〉木皮名可以為炬者也

樺 玉篇に云はく、樺〈戸花、胡化の二反、加邇波(かには)、今の桜皮に之れ有り〉は木の皮の名、以て炬(たいまつ)に為べき者なりといふ。

花 尒雅云木花謂之蕐〈戸花反〉草花謂之榮〈永兵反〉榮而不實謂之英〈於驚反訓阿太波奈〉

花 爾雅に云はく、木の花は之れを華〈戸花反〉と謂ひ、草の花は之れを栄〈永兵反〉と謂ふ、栄(はな)さきて実らざるは之れを英〈於驚反、訓は阿太波奈(あだばな)〉と謂ふといふ。

葩 東宮切匀云葩〈音巴波奈比良〉草木花片也

葩 東宮切韻に云はく、葩〈音は巴、波奈比良(はなびら)〉は草木の花片なりといふ。

蕚 同切匀云萼〈五各反波奈布佐一云花房〉𣴎花跗也

萼 同切韻に云はく、萼〈五各反、波奈布佐(はなぶさ)、一に花房と云ふ〉は花を承くる跗なりといふ。

蘃 同切匀云蘃〈而髓反之倍〉花心也

蕊 同切韻に云はく、蕊〈而髄反、之倍(しべ)〉は花の心なりといふ。

節 四声字苑云節〈子結反不之今案従竹者竹節従草者草木節見玉篇〉草木擁腫処也

節 四声字苑に云はく、節〈子結反、不之(ふし)、今案ふるに竹に従ふ者は竹節、草に従ふ者は草木節、玉篇に見ゆ〉は草木を擁(だ)き腫るる処なりといふ。

心 周易云其於木也為堅多心〈師説多心讀奈加古可知〉

心 周易に云はく、其の木に於けるや堅くして心多しと為すといふ。〈師説に多心を奈加古可知(なかごがち)と読む〉

樹汁 蘓敬本草注云松𣿉〈音猪松乃之流〉取松枝焼其上𣴎取汁之名也

樹汁 蘇敬本草注に云はく、松𣿉〈音は猪、松乃之流(まつのしる)〉は松の枝を取り、其の上に焼き、汁を承け取る、之の名なりといふ。

脂〈伏苓附〉 玄中記云松脂滴入地千歳則為伏苓〈郎丁反松脂万豆夜迩伏苓末都保度〉

脂〈伏苓付〉 玄中記に云はく、松脂滴り地に入り千歳へれば則ち伏苓〈郎丁反、松脂は万豆夜邇(まつやに)、伏苓は末都保度(まつほど)〉と為るといふ。

半天河 本草云半天河〈岐乃宇豆保能𫟈都〉陶隠居曰竹籬頭水也

半天河 本草に半天河〈岐乃宇豆保能美都(きのうつほのみづ)〉と云ふ。陶隠居に曰はく、竹籬の頭の水なりといふ。

和名類聚抄卷第十

和名類聚抄巻第十

〈凡例〉

 底本には、巻第一~第二の身体類十七の途中まで真福寺本(馬渕和夫編著『古写本和名類聚抄集成 第二部 十巻本系古写本の影印対照』勉誠出版、2008年)、巻第二の残りは高松宮本(館蔵史料編集会『国立歴史民俗博物館蔵 貴重典籍叢書 文学篇 第二十二巻〈辞書〉』臨川書店、1999年)、巻第三~巻第八は伊勢十巻本(馬渕、前掲書)、巻第九~巻第十は高松宮本の影印本を用い、尾州大須宝生院蔵倭名抄残篇(国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536071)、大須本摸刻零本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00256/index.html)を参照しつつ、他の影印本や京本(国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2605646)、下総本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00399/index.html)と校合し、翻字にあたっては、狩谷棭齋・箋注倭名類聚抄(国会図書館デジタルコレクションhttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1126429)、林忠鵬『類聚抄の文献学的研究』(勉誠出版、平成14年)、国立国語研究所「二十巻本和名類聚抄〈古活字版〉」(日本語史研究用テキストデータ集https://www2.ninjal.ac.jp/textdb_dataset/kwrs/)を参考にしつつ、字体は底本になるべく沿うようにして太字で表し、割注部分は〈 〉に入れた。私訓においては適宜、新字体、通用字体、正字体を用いた。現存主要諸本と複製状況については、山田健三「『和名類聚抄 高山寺本』解題」『新天理図書館善本叢書 第七巻 和名類聚抄 高山寺本』(天理図書館出版部、2017年)を参照されたい。なお、序、目録は省いた。

更新履歴:2022年4月24日訂正公開。2024年3月13日最新訂正。goo blog「古事記・日本書紀・万葉集を読む」に既所載、検索の便宜のためまとめた。(加藤良平)

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